中小企業のIFRS(国際会計基準)

はじめに

中小企業のIFRSの一覧
中小企業のIFRSは、80か国が適用か適用を予定している

IASBは、零細企業‘micro-sized entities’のガイダンス作成予定(2012年7月)
SMEIG議長のポール・パクターの後任にダレル・スコット氏(南アフリカ)(2013年1月)
66か国中29か国が適用66か国調査票)(日本公認会計士協会が紹介
小会社の”中小企業のIFRS”適用のガイダンス2013年6月
英国が自国会計基準を廃止し、会社法でもIFRSを適用する改正あり
中小企業のIFRSのQ&A
中小企業のモデルIFRS財務諸表
国際会計基準(IFRS)の一覧
IFRSと中小企業のIFRSの比較」by PwC
「IFRS for SMEs」の日本での認知度は18.8%
中小企業の国際監査基準の利用ガイド」by国際会計士連盟中小企業実務委員会
日本の中小企業の会計は、ガラパゴス化の方向
・進化しない日本の会計の典型⇒中小企業の会計に関する基本要領

はじめに

2009年7月9日、国際会計基準審議会(IASB)は「中小企業(SME)のIFRS(231ページ)」を公表した。これは、上記完成したIFRSとは別途独立した基準で、中小企業に特化し簡略化した基準である。また、この「中小企業(SME)のIFRS」の①疑問に応え世界的導入を支援するため、及び、②各国の導入に必要な改善策の検討を行い必要な改善をIASBに助言するために「SME導入グループ」の立ち上げが承認された。(IFRSプレスリリース ファクトシート 基準をWebから入手するには登録してパスワードが必要・・例示によるガイダンスを含む。)

この会計基準での中小企業の定義は以下の通り。
Small and medium-sized entities are entities that:
(a) do not have public accountability, and
(b) publish general purpose financial statements for external users. Examples of external users include owners who are not involved in managing the business, existing and potential creditors, and credit rating agencies.

上記上場場会社のIFRSとの主な相違点は、中小企業の特性を反映して、以下の通りである。
1.企業年金、リースおよび金融商品などを含む多くの項目で開示の簡素化が行われている。
2.のれん及び耐用年数のある無形固定資産は、10年を超えない期間で償却する。
 (中小企業の場合、専門家やコストを必要とする減損会計より簡単ということで10年償却となった:BC109)
3.研究開発費はすべて費用化
 (中小企業には商品化できるものは僅かで、その証拠も僅かとの財務諸表作成者、監査人、銀行家の意見による:BC113)
4.簡素化した一時差異に関する法人所得税の会計。
5.減損会計の戻入は一定の条件に一致した場合許容される。
6.中間財務諸表はない。
7.一株あたり利益の表示はない。
8.キャッシュ・フロー計算書の間接法は純利益より表示。法人所得税の納付額は脚注表示。
9.中小企業の場合は、適用初年度などの財政状態計算書(旧・貸借対照表)の期首表示は求められていない。

中小企業のIFRS財務諸表の例示および表示・開示チェックリスト(2009年)・・資産・負債は流動性配列法で表示している。

ちなみに、米国公認会計士協会AICPA IFRS Resources )はこの会計基準の性格についてHPをもって啓蒙している。(International Financial Reporting Standard for Small- and Medium-Sized Entities 参照)

また、米国GAAPと中小企業のIFRSの相違点を公認会計士AICPAが皆で編集しようとするWikiが公開されている。米国会計基準とIFRSの相違を知るのに参考となる。⇒IFRS for SMEs ― U.S. GAAP Comparison Wiki

米国公認会計士協会(AICPA)は、ルール202及び203のアペンディックスAを改定して、IASBを会計基準設定の主体として認め、米国公認会計士にIFRSの仕事ができるようにした。法定目的(州ごとの会社法など)は、州ごとに適用されるので、会計士は自分の州がIFRSの適用ができるかチェックする必要がある。

米国以外の国が、法定目的で(statutory purposes)IFRSの適用を強制したり許容し続けることで海外子会社がIFRSを適用する経験が強く影響するし、加えて、中小企業のIFRSガイダンスの公表はグローバルにIFRS適用を促進するだろう、としている。(PwCの見解 参照)


一方、英国では、2009年8月11日、会計基準審議会(ASB)は、現在、Tier1といわれる上場会社はIFRSを適用し、Tier2といわれる中規模企業は中小企業のIFRS(IFRS for SMEs)を、Tier3といわれる小規模企業は英国の中小企業の会計基準(Financial Reporting Standard for Smaller Entities (FRSSE) ・・2008年4月最新版で186ページ)を適用するかIFRSの中小企業会計基準の選択適用を認める提案をしている。2010年2月1日までにコメントを募集している。2012年1月からの選択適用を提案しており、比較財務諸表のため2011年1月からの財務諸表が必要となることから時間的な余裕がないとしている。(「方針提案:英国GAAPの将来」 デロイトのコメント 参照)

日本の中小企業等の会計に関する議論

以下は、担当各省庁の思惑が交差し、中小企業の会計や単独財務諸表の議論が活発化しているように見えるが、縦割り行政で迷走する姿のように見える。

関係する機関 2010年 2011年~
企業会計基準委員会(ASBJ) 非上場会社の関係基準に関する懇談会
議論の期間:2010年3月4日~2010年7月30日
2010年8月30日付報告書
結論:
国際基準の影響を受けないものとする。

財務会計基準機構(FASF) 単体財務諸表に関する検討会議
議論の期間:2010年9月28日~2011年4月28日
2011年4月28日報告書
結論:報告書は各テーマについて最終的な結論
は示しておらず、委員(半数以上が経団連企業)
の意見を中心に紹介しているのみである
日本経団連 2010年7月29日
企業財務に関わる我が国財務制度の見直しについて
経済産業省企業財務委員会 企業財務委員会
議論の期間:2009年11月~2010年3月まで
2010年4月 企業財務委員会 中間報告書
結論:連・単分離の議論を求める
非上場企業の会計のあり方については、
会計基準の国際化とは切り離し
、実態に
即した結論が得られるよう、引き続き関係各所
において議論が進められることを求める。
中小企業庁 中小企業の会計に関する研究会
議論の期間:2010年2月15日~9月30日
2010年9月中間報告  概要
結論:国際会計基準の影響の遮断又は回避
中小企業の会計に関する検討会」・・研究会が検討会に!
議論の期間:2011年2月15日~6ヶ月間
非公開
事務局は中小企業庁財務課及び金融庁企業開示課が共同で行う
金融庁企業会計審議会 企業会計審議会
単体の会計基準のあり方(コンバージェンス)について
議論の期間:2010年6月8日8月3日

2010年8月3日「会長発言」・・未定稿のまま(金融庁は狡猾)
結論:会長が唐突に議論とは別に「会長発言」をしている
会長発言は、各委員の意見が反映されていない。
何のための議論であったのか分らないものとなっている。
中小企業の会計に関する検討会
議論の期間:2011年2月15日~6ヶ月間
非公開
事務局は中小企業庁財務課及び金融庁企業開示課が共同で行う
中小企業の会計に関する検討会ワーキンググループ
議論の期間:2011年2月21日
法務省法制審議会会社法部会 法制審議会・会社法部会
第一回議事録「会社法制の見直しについて
議論の期間:2010年4月28日

会社法と金融商品取引法・その現状と課題by上村達男教授

2010年1月22日企業会計基準委員会(ASBJ)・IFRS対応会議は、「非上場会社の会計基準に関する懇談会(仮称)」を設置したと公表した。「本懇談会は、今後、日本の会計基準の国際化を進めるにあたって、非上場会社への影響を回避又は最小限にとどめる必要があるなどの意見を踏まえ、非上場会社に適用される会計基準のあり方について幅広く検討することを予定しております」とのことで何も方向性を示していない。英国、ドイツ、米国は既に議論し方向性は見えている。ドイツ方式に近いものとなろう。⇒2月25日、この度、関係者のご協力により、「非上場会社の会計基準に関する懇談会(以下、本懇談会)」を設置することとなりましたので、メンバー及びオブザーバーのリストとともに公表いたします、とのこと。ASBJでの議論は、議事録が概要のみで詳細は省略されるわ概要も公表が遅く透明性は金融庁より非常に低い。(金融庁企業会計審議会我が国における国際会計基準の取り扱いに関する意見書(中間報告)」・・非上場企業の取り扱い含む)

非上場会社の会計基準に関する懇談会
回数 開催日 主要内容
第1回会合 平成22 年3月4 日 検討の対象とする会社の分類4分類か3分類か
第2回会合 平成22 年4月7 日 非上場について、IFRS の影響を遮断するというメッセージを出すべき
第3回会合 平成22 年5月24 日 24日の協議もまとまらなかった。 
今頃になって中小企業庁の議論と相談したいですと
・・ニュース No IFRS !
第4回会合 平成22 年6月24 日 纏まりのない議論が続く
平成22 年7月30 日 検討結果(概要)・・よく判らない内容である。 ・・「IFRSの影響を遮断」ニュース
平成22 年8月30 日 報告書・・日本はどうするのかについては全く言及していない
国際基準の影響を受けないものとする。
座長 安藤 英義 専修大学商学部教授
各国の状況を紹介しているにすぎない。

2010年8月3日の記事
ASBJ、来月(2010年9月)にも検討組織-平易な中小会計指針策定・・ASBJと中小企業庁の研究会の方向性が一致し、「同研究会のメンバーを交え、新たに委員会的なものを立ち上げ、検討を続けたい」(同懇談会関係者)とした。ただ、中小企業庁などの研究会が「新指針を含めた会計基準の選択は中小企業の任意」としているのに対し、懇談会は「現行の指針と新指針のどちらを利用するか、一定の区分を設ける」考えで、最終的に新指針を完成させるまでには、まだまだ時間を要しそうだ、と伝える。

一方、金融庁・企業会計審議会は、8月3日の会合で「会長発言by会長安藤 英義 専修大学商学部教授」により、「単体の会計基準は最終的にASBJが判断」するものとして、単体の会計基準についての結論はASBJへ戻している。ASBJは、日本唯一の会計基準設定主体として、単体の議論を含め会計基準の全てについて結論を出すように期待されている。正しい結論を得られるなら、よい傾向である。カオスの状況に陥らないことを祈るものである。

2010年8月5日ASBJは、207回企業会計基準委員会で、金融庁古澤知之企業開示課長より、企業会計審議会での検討状況について、「会長発言」に関する報告が行われた。会長発言は、文章を見ると官僚の手によるもののようで原稿を書いた本人ではないかと思われる。三井秀範課長の後任とのこと。

2010年9月28日公益財団法人 財務会計基準機構は「単体財務諸表に関する検討会議」を設置し「個々の会計基準毎に、関係者の意見を聴取検討の上、対応の方向性についての考え方を集約致します。企業会計基準委員会は、本検討会議の意見を十分斟酌し最終判断を行うこととなります」とのこと。西川企業会計基準委員会(ASBJ)委員長オブザーバー、議論の結論にASBJは従えとでも言うのでしょうか。ASBJの独立性はどうなっているのか。金融庁の意向に沿ったものになるのは明らか。

2011年2月3日財務会計基準機構(FASF)は、第12回「基準諮問会議」を開催。諮問会議で最も議論になったのは、連結財務諸表と単体(個別)財務諸表の関係だ。特に単体財務諸表の取り扱いについて、委員から「単体財務諸表の取り扱いを早い段階に明確にすべきだ」や「単体財務諸表の会計基準の検討状況はどのようになっているのか」といった意見や疑問が出た。このほか単体財務諸表の扱いについて委員は、「単体の財務諸表は、会社法や税制と密接に結びついている。IFRSの議論を進める過程では、会社法や税法の監督官庁である経済産業省や法務省と密接に意見交換すべきではないか」との趣旨の意見を述べた。(ItProより) 相変わらず進展なし

2011年4月28日公益財団法人 財務会計基準機構(FASF)は「単体財務諸表に関する検討会議」の報告書を公表した。報告書は各テーマについて最終的な結論は示しておらず、委員(半数以上が経団連企業)の意見を中心に紹介しているのみである。包括利益は2011年3月期の年度決算から連結財務諸表に適用されている。単体財務諸表に適用するかどうかはASBJが6月末までに判断するとしているが、このFASFの検討会議はASBJの結論を誘導する報告書ではないか。ASBJが独立性を保持しているかは6月に判明することになる。独立性を保持しなければASBJの存立する意味がなくなる。(IFRSフォーラム 参照)

2010年2月15日経済産業省中小企業庁は、第一回中小企業の会計に関する研究会」を開催した。研究会は、中小企業の実態に即した会計のあり方を議論する,としている。(毎日新聞) 平成14年(2002年)3月11日にも同じ研究会が同じメンバーで議論し、最終的に「中小企業の会計指針」の公表となった。今回は、金融庁がIFRS導入の方針を明らかにしつつあり、IFRSについての議論となるようだ。中小企業庁の役割と思っているようだ。縦割り行政そのもの。ただし、ASBJよりましな意見が出ればあながち無駄な議論といえないが、前回と同じメンバーで、かつ、29名がまともに議論でき、意見をまとめることができるのでしょうか。
資料:我が国の中小企業の実態」「会社法会計、金商法会計、税務会計について」「会計基準の国際化を巡る現状について」「中小企業の会計に関する研究会について」「平成17年3月23日、中小企業の会計」の統合に向けた検討委員会委員

2010年(平成22年)6月17日:中小企業庁中小企業の会計に関する研究会(第5回)-議事要旨・・中小指針は大企業の会計基準を簡略化したものであり、その視点は大企業指向的。中小会計の設定主体については、中小企業の実態を熟知している中小企業庁を中心に中小企業の声を十分に反映する形で作るべき。設定主体については、中小企業、金融機関、学者など多くの中小企業関係者と会計専門家が集まって作るべきであり、普及やこれまでの中小企業への関わり方を考え、中小企業庁が中心になることが最適とする。 資料  中小企業会計 新指針策定へ 負担軽減・経営者側視点に」のニュース
2010年7月30日、
中小企業庁は「既存の指針が会計のプロ向けだったのに対し、ユーザーサイドに立った指針になる」と期待する。第六回配布資料 資料3中小企業の会計に関する研究会 中間報告書案・・会社法431条の「一般に認められた企業会計の慣行」は上場会社と中小企業とは異なる会計基準を適用するようにするには、会社法に中小企業の定義が必要となるのではないか、中間報告はそれに言及していない。この研究会の座長は江頭 憲治郎早大教授は商法学者。中小企業庁は、会社法の枠で中小企業の会計を制度化するつもりだ。

2010年4月19日経済産業省の企業財務委員会 企業会計検討ワーキンググループ(座長:加賀谷哲之・一橋大学大学院准教授)は、日本のIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)適用について提言する中間報告書を公表した。金融庁を中心に行われてきたIFRSを巡る議論を補う内容といえるが、これまでの議論に疑問を投げかける指摘もある。 中間報告の骨子は3つだ。
1.「連単分離」(議論を切り分け)。そのうえで「単体」について関係者が一体となった検討
2.開示制度全体の再設計
3.非上場企業のための会計
注意日本経団連など経済3団体とソニーやトヨタ自動車など国際的に活動する企業の財務部門トップらでつくる研究会「企業財務委員会

2010年9月17日中小企業庁第7回中小企業の会計に関する研究会」(座長、江頭憲治郎早大大学院法務研究科教授)は、中間報告書案を公表した。これによると、現在の中小指針は中小企業にとっては、経営者が理解できる水準を超えている、高度で使いづらい、自発的な利用を促すものとは必ずしもなっていない等とする意見が大勢を占めた、国際会計基準の影響の遮断又は回避、等とし、新たに会計処理のあり方を示すものは、中小指針と同様に、中小企業が準拠するかどうかは任意となるため、中小企業の自発的な利活用が促されるものとすることが必要不可欠である。このため、その取りまとめにあたっては、中小企業関係者の総意として行われるという手続きを可能な限り担保することが必要である。今後、本報告書を十分に踏まえ、新たな検討の場において、広く中小企業をはじめ、学識経験者、金融機関、中小企業会計の専門家等の中小企業関係者等が一体となり、新たな中小企業の会計処理のあり方を示すものが具体的に取りまとめられることを期待したい。大山鳴動して国際的流れの逆行して・・・期待できるのでしょうか?少なくとも、IASBの中小企業のIFRSは全く無視され検討課題に上らなかった。資料:諸外国における会計制度の概要

9月30日中小企業庁、「中小企業の会計に関する研究会中間報告書が公表された。「今後、本報告書を十分に踏まえ、新たな検討の場において、具体的に取りまとめられることを期待したい。」と締めくくっている。検討資料のようなもののようだ。

2011年2月15日中小企業庁は、「中小企業の会計に関する検討会」を開始した。勉強会から検討会へ用語を変えているだけ。初歩的な議論が繰り返されている。金融庁でも同日に同名の「中小企業の会計に関する検討会」が開始された。非公開のおかしな検討会である

2011年11月8日、中小企業庁と金融庁を共同事務局として、.「中小企業の会計に関する検討会」が纏め”「中小企業の会計に関する基本要領(案)」について”と題して「中小企業の会計に関する基本要領(案」(30頁)を公表しコメントを12月7日まで求めている。⇒2012年2月1日中小企業庁金融庁企業会計基準委員会日本商工会議所は「中小企業の会計に関する基本要領」(26頁)をほぼ原案通り公表した。円高で、中小企業も海外進出したり海外取引が無縁ではいられない時代に国際基準に背を向け、昭和24年成立の「企業会計原則」に戻れと言っているような不思議な国である。

内容を見ると、初歩的な会計の解説書程度の内容で現在の「中小企業の会計に関する指針」よりも極端に後退している。特に、国際会計基準については「6. 国際会計基準との関係本要領は、安定的に継続利用可能なものとする観点から、国際会計基準の影響を受けないものとする」としており、この文章を入れたいために作成したように見える。既に税法基準で記帳している会社と全く同じで、実務上、全く役に立たないと言っていい。

適用範囲について、本要領は、「中小企業の会計に関する指針」1(以下「中小指針」という。)によることを求めることが必ずしも適当ではない中小企業を対象とし、金融商品取引法の規制の適用対象会社と会社法上の会計監査人設置会社を除く株式会社が想定される、として実質現状と全く変わらない。 何のための検討会かわからない。

2010年6月8日金融庁企業会計審議会は、経済産業省の企業財務委員会の中間報告を受けて、「単体の会計基準のあり方(コンバージェンス)について」検討に入った。

2010年3月26日の企業会計審議会監査部会において、金融庁の三井企業開示課長は次のように発言している。つまり、単体は別途議論することを示唆している。
三井企業開示課長 一昨年から昨年にかけまして、いわゆる連結先行という、連結の財務諸表に係る会計基準と単体の財務諸表に係る会計基準について、従来は全く同一であるということを大前提としていたことについて、いわゆる連結先行ということで、若干時間的なずれを容認するということをここの場でご議論頂きました。この考え方の資料には少しダイナミック・アプローチという言葉をつけてございます。(資料1西川ASBJ委員長「上場会社の個別財務諸表の取扱い(連結先行の考え方)に関する検討会」 我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」参照)

企業会計基準委員会(ASBJ)6月8日、会計コンバージェンスに基づく会計基準の策定について連結財務諸表だけを対象にし、単体の財務諸表については判断を一時的に留保する考えを示した。ASBJはこれまで基本的に連結と単体の両方を対象に会計基準の策定を行ってきたが、単体基準のコンバージェンスについて疑問の声があり、金融庁の企業会計審議会での結論が出るまで連結基準のみを議論することにした。(IFRSフォーラム)

企業会計審議会の6月8日の議事録を見ると、IFRSに関する欧州調査報告を行った三菱電機の佐藤氏の発言があり次のように上場会社の開示は連結財務諸表のみ開示するようにしてほしい旨の発言をしている。
○佐藤参考人(三菱電機 佐藤行弘):・・・~1点目は、金商法上の上場企業の開示につきましては、国際的な要請及び基準の相違から、連結のみ開示するという、そういう方向で検討をお願いしたいということでございます。
○山﨑参考人(JFEホールディングス監査役):世界の投資家がIFRSに基づく財務諸表を必要としているのであれば、株式を公開して投資対象となっている上場会社は、そのニーズに応えざるを得ません。投資家が対象としているのは連結財務諸表でありますし、IFRSそれ自体当然に連結を対象とした規定であります。従って、上場会社の連結財務諸表は原則としてIFRSに従った開示をするということになるべきだと思います。
○安藤会長:私の理解する限りでは、今日、最初にASBJのご報告がありましたが、あれが出発点になって、この審議会がこの会を開いているということだと思います。要するに、ASBJで今、いろいろコンバージェンスに向けてやっているんだが、はっきり言えばデッドロックに乗り上げてしまった
○西村委員(西村義明東海ゴム工業㈱ 代表取締役社長):一般の投資家に対して本当に単体が必要なのかというのは、ぜひこれは議論してもらいたいというふうに思っています。IRなどで国内は勿論いろいろ海外にも行っても、単体のことを聞く人なんかまずいません。単体の業績がどうですかなんて質問されたことは、ここもう10年ぐらいないと思いますね。ですから、やっぱりそういう面からも、本当に単体の公表が必要なのかということは、ぜひよく考えていただきたいというふうに思っております。逆に言えば、必要ないじゃないかと思います
最後の方の発言で、○引頭委員(引頭麻実㈱大和総研 執行役員)は、「すみません、最後になってしまいました。・・~最後に一言ですが、単体については、本日ご意見をおっしゃったほとんどの方々が要らないということでした。」としている。

これでも単体を開示し続けるのであれば、金融庁はこの会議の議論を無視していると言わざるを得ない。金融庁は、外国企業には個別財務諸表の開示を求めてはいない。(「外国企業の有価証券報告書」参照)

金融庁企業会計審議会7月8日、会合を開き「単体財務諸表の会計基準のあり方(コンバージェンス)について」議論した。会議の資料を見ると、ドイツ、フランス、英国に偏っている。ドイツの方法に限りなく近いものとなろう。
議事録・・奇妙な意見を述べている委員がいる。纏まりそうにない。
資料:IFRSのコンバージェンスについて ドイツとフランスの取引所について 英・仏・独の開示制度について
 欧州各国の開示例

金融庁・企業会計審議会は、8月3日(資料)、会合を開き「会長発言」を公表した。「単体の会計基準は、個々の基準毎に、連と単を一致することに伴う諸々のコスト・ベネフィット、連と単を分離することに伴う諸々のコスト・ベネフィットを考慮した上で、最終的にASBJが判断(個々の基準で、会計処理の選択適用を許容することもあり得る)。連結と単体のズレの期間、幅は、経営や内外の会計を巡る諸状況(税、会社法を含む)により大きく異なる、、○ 金商法における単体情報については、その投資情報としての有用性の観点に加え、会社法で単体の計算書類が作成され株主に届けられ、その情報は、投資家にも開示すべき、との観点から、引き続き開示すべき。単体の見直し(簡素化等)は行う。」としている。この会長分っているのかしら。上記のように、議論は「単体は要らない」との意見であったのに、「会長発言」で逆の発言をしている。審議会として機能していない。だから報告書ではなく”会長発言”?

(議事録・・三井総務課長の連・単の理解がすべてで、会長は連・単の問題は難しいのでASBJで関係者と検討して結論を出して欲しいというもの・・さてASBJはこの難問をどうやって解決するつもりか?金融庁が理解していないのが一番の難問である。会社法が公開会社のみ単体を省略できれば金融商品取引法も単体を省略する道が開けるかも⇒商法学者が単体を重視しているから日本ではこれは不可能。さて、ASBJはどうする・・・)

6月8日の議事録では、○引頭委員(引頭麻実㈱大和総研 執行役員)は、「すみません、最後になってしまいました。・・~最後に一言ですが、単体については、本日ご意見をおっしゃったほとんどの方々が要らないということでした」としている。委員の総意は単体省略ということだったが、単体省略という結論を委員会の創意総意として報告書が出せないので、金融庁は金融庁の代弁として”会長発言”という異例な方法で纏めたように思われる。金融庁が単体に固執する理由が不明。8月から金融庁古澤知之企業開示課長が三井課長の後任として就任した。
米国会計基準の使用は、国際会計基準の任意適用の開始に伴い、連結財務諸表規則を改正し、米国基準の使用は2016年3月期までに限定した。(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則・附則平成14年3月26日内閣府令第一一号 3))   2016年3月期までの米国基準使用期限は撤廃案、2011年8月3日(自見金融担当相

なお、2010年7月29日、経団連は、「財務報告に関わるわが国開示制度の見直しについて」を公表し、1.決算短信の簡素化,2.連結財務諸表の開示のみにし、単体は廃止,3.内部統制監査の簡素化を提言したが、個別財務諸表の廃止は無視された。連結財務諸表と個別財務諸表の二つをIFRSで作成するのは企業に相当な負荷がかかる。金融庁は、個別・連結財務諸表の二つをIFRSで作成することが実施可能と考えているようだが、IFRSの財務諸表作成実務を知らないとは恐ろしいものだ。

①単体財務諸表では、IAS24号の「関連当事者間取引・債権債務」の注記や、IAS27号の個別財務諸表に関する子会社等の投資についての注記など、連結財務諸表の注記に加えた情報開示が必要となり、企業の作成負荷は尋常ではない。②連結先行で単体はタイミングをずらして適用とするなら、IFRS1号の”IFRS初度適用”はそれぞれ行うことになり尋常でない作業負荷がかかり、株主総会招集通知書に財務諸表を添付しなければならなく時間的制約に厳しいものがある。
③IFRSの連結・単体を株主総会を控えて時間的制約のなかで作成するのは完成度の高いIFRSは複雑で誤謬の可能性が高くなる。
④四半期報告書での連結・単独の作成は、決算短信を含め倍以上の時間がかかる、
⑤そもそも、連結財務諸表とは異なる数値が表示される個別財務諸表(IAS第27号「連結及び個別財務諸表」パラグラフ38参照)には有用性に疑問があり、投資家のミスリードを誘う。必ず、経団連(作成者側)から単体廃止の声が大きくなろう。金融庁や企業会計審議会に、企業の作業負荷状況やIFRSの実務を理解できるお役人や学者がいないのが悩み。

金融庁、企業会計基準委員会は、同じ委員で長い間議論を繰り返しており、①2004年、日本独自の会計基準に固執して相互承認を主張していたところ、②2005年、欧州委員会から、国際基準との同等性の評価を受け結果として国際会計基準へのコンバージェンスへ方向転換を迫られたところ、③2008年、米国SECが国際会計基準の導入のロードマップを公表するに及んで、④2009年、日本も米国に右倣えして国際会計基準の導入に道筋を辿ろうとしているが、⑤2010年、SECがIFRS適用を2015年からと1年適用延期した米国の出方を注視しながら日本の最終結論を出そうとしているが、いまだ、米国の出方を注視する姿勢から脱却できず日本としての理念が見えないで議論は遅々として進展がない。

我が国の最大の欠陥は、縦割り行政で官庁からの視点しかなく、作成者、監査人、読者・利用者の視点に欠けていることで、基準を作成して放置したままになることである。日本には、導入支援や、欠陥があるかないかのモニタリングすることや適時の改善策の検討及び改善の実行がないことにある。いわゆるIFRSの「SME導入グループ」のような仕組みが構築できないことにある。役所ないし準役所(ASBJのような)にはそうした視点が初めから欠けているのである。(「Terms of Reference and Operating Procedures for the SME Implementation Group」)

ちなみに、中小企業のIFRSのディレクターを務めていたポール・パクター氏がIASBの理事に任命し、IASBを代表して中小企業のIFRS導入グループの議長として2010年7月から2012年6月までの2年の任期で就任すると発表された。(IASBプレス・リリース

参考:日本の最新版中小企業の会計に関する指針」の検索結果⇒msn  Google  Yahoo!  23年版 22年版(新旧対照表) ←単年度表示でIFRSとは異なる

2011年2月15日金融庁は「中小企業の会計に関する検討会」を、21日に、、「中小企業の会計士関する検討会ワーキンググループ」を立ち上げ検討を開始した。本検討会は、懇談会及び研究会の報告書の内容を踏まえ、新たに中小企業の会計処理のあり方を示すもの、その普及方法、中小企業におけるその活用策等の具体的な内容について検討を行うため、設置するものである。本年夏の取り纏めを目指す、としている。資料ASBJ「非上場会社の会計基準に関する懇談会 報告書」、中小企業庁「中小企業の会計に関する研究会中間報告書」なお、第二回3月4日の資料2 議事の公開について(PDF:58K)よると「会議は非公開とする」となっている。不思議なことに金融庁の審議会・研究会等」にこの検討会は掲載されていない。中小企業庁と共同で、「中小企業の会計に関する検討会」を開始したもの。初歩的な議論が繰り返されている。


法務省・法制審議会・会社法制部会(部会長岩原紳作東京大学法学部教授)が2010年4月から開始され会社法の見直しが行われるようだ。第一回には、金融庁の三井幹事が金融審議会・金融分科会の昨年6月報告の「 我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ報告」を説明しているのが注目されるが拍子抜けするくらい簡単な説明に終わっている。民主党の「公開会社法(仮称)制定に向けて」が資料として提出されている。なお、中小企業の会計に議論が及ぶのか不明。

第二回平成22年5月26日)では、公開会社法の提唱者で知られる上村委員は、「公開会社法というものが,民主党と連合が主張している労働者の監査役会参加のことであるというようなイメージを持たれたことによって,むしろ非常に迷惑しているというのが正直なところであります。それから,もちろん私は民主党のこの案作りには一切タッチしておりません」と発言している。公開会社法ができるのか不明。

第八回平成22年12月22日開催)で、「会社法制の見直しについて」と題して金融商品取引法との関連が議論されているが方向性が見えてこない。上村達男早大教授が参考資料18として提出した「会社法と金融商品取引法-その現状と課題-」が参考に値する位で、具体的方向性は判らない。

民主党の菅政権2010年6月18日の閣議決定した「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」にも「中堅・中小企業に係る会計基準」など、所要の改革を2010 年中に行う」としている。⇒現実には2010年度中には何もしていない。(「法務省・法制審議会・会社法制部会」参照)

中小企業のIFRSの一覧

下記の一覧は、2009年7月に公表の初版版である。トレーニング・モジュールは、教育用の解説版(ただしIASBが承認しているのもではないとしている)。下記原文へのリンクは、利用者の便益のため米国公認会計士協会(AICPA)の会員が作成しているwikiにリンクしました。(「IFRS Foundation appoints members of the SME Implementation Group」・・アジアでは中国がメンバーとなっている。「英語版以外」・・中国版、フランス語版、2011年12月16日より日本語版(207ページ)も可能となりました。 加えて、日本公認会計士協会が翻訳(2011年12月20日)したものがIFRS財団で公表されました。IFRSへの登録は無料です。パスワードを入手して無料ダウンロードしてください。) (概要by日本公認士協会)

Section 内容 Training
modules
中小企業
SMALL AND MEDIUM-SIZED ENTITIES
概念と原則
CONCEPTS AND PERVASIVE PRINCIPLES
財務諸表の表示
FINANCIAL STATEMENT PRESENTATION
財政状態計算書
STATEMENT OF FINANCIAL POSITION
包括利益計算書及び利益計算書
STATEMENT OF COMPREHENSIVE INCOME AND INCOME STATEMENT
持分変動計算書及び利益と剰余金計算書
STATEMENT OF CHANGES IN EQUITY AND STATEMENT OF INCOME
AND RETAINED EARNINGS
キャッシュ・フロー計算書
STATEMENT OF CASH FLOWS
財務諸表の注記
NOTES TO THE FINANCIAL STATEMENTS
連結財務諸表及び個別財務諸表
CONSOLIDATED AND SEPARATE FINANCIAL STATEMENTS
10 会計方針、見積もり及び誤謬
ACCOUNTING POLICIES, ESTIMATES AND ERRORS
11 基本的金融商品
BASIC FINANCIAL INSTRUMENTS
12 その他の金融商品
OTHER FINANCIAL INSTRUMENTS ISSUES
13 棚卸資産
INVENTORIES
14 関係会社への投資
INVESTMENTS IN ASSOCIATES
15 ジョイントベンチャーへの投資
INVESTMENTS IN JOINT VENTURES
16 投資不動産
INVESTMENT PROPERTY
17 有形固定資産
PROPERTY, PLANT AND EQUIPMENT
18 のれん以外の無形固定資産
INTANGIBLE ASSETS OTHER THAN GOODWILL
19 事業結合とのれん
BUSINESS COMBINATIONS AND GOODWILL
20 リース
LEASES
21 引当金及び偶発事象
PROVISIONS AND CONTINGENCIES
Appendix—Guidance on recognising and measuring provisions
22 負債及び持分
LIABILITIES AND EQUITY
Appendix—Example of the issuer’s accounting for convertible debt
23 収入
REVENUE
Appendix—Examples of revenue recognition under the principles in
Section 23
24 政府補助金
GOVERNMENT GRANTS
25 借入コスト
BORROWING COSTS
26 株式報酬
SHARE-BASED PAYMENT
27 資産の減損
IMPAIRMENT OF ASSETS
28 従業員給付
EMPLOYEE BENEFITS
29 法人所得税
INCOME TAX
30 外貨換算
FOREIGN CURRENCY TRANSLATION
31 ハイパーインフレーション
HYPERINFLATION
32 後発事象
EVENTS AFTER THE END OF THE REPORTING PERIOD
33 関連会社の情報開示
RELATED PARTY DISCLOSURES
34 専門的な活動
SPECIALISED ACTIVITIES
35 中小企業のIFRS適用の経過措置
TRANSITION TO THE IFRS FOR SMES
語彙集
GLOSSARY


中小企業のIFRSのQ&A

2011年9月28日、中小企業のIFRSグループは、下記4本のQ&Aの草案を公表し、11月30日までにコメントを求めている。すべてのQ&A

Q&A

IFRS for SMEs General,
Issue 1

中小企業のIFRS公表以前の期の中小企業のIFRS適用
Application of the IFRS for SMEs for financial periods ending before the IFRS for SMEs was issued

IFRS for SMEs General,
Issue 2

過度なコストまたは努力および非実務性
Interpretation of ‘undue cost or effort’ and ‘impracticable’
IFRS for SMEs Section 3,
Issue 1
司法が全IFRSを次善策として求める
Jurisdiction requires fallback to full IFRSs
IFRS for SMEs Section 3,
Issue 2
中小企業のIFRSの原則からの背反
Departure from a principle in the IFRS for SMEs
IFRS for SMEs Section 3,
Issue 3
各国の法規による財務諸表の様式の規定
Prescription of the format of financial statements by local regulation





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公認会計士・税理士 横山明
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