第五章 分詞句の解放に向かって
第2節 「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」

(5−1)
The joint venture is aimed at supporting the early launch of third generation mobile services, based on wide-band codedivision multiple access (W-CDMA) technology.
〈この合弁会社は第三世代移動体通信事業(W-CDMA技術がその基盤である)の早期立ち上げの支援を目的としている。〉
(注)フランスの大手通信機器製造会社アルカテルと富士通が第三世代の移動体通信網を開発する合弁会社を作るという記事。
(Alcatel, Fujitsu in 3G venture By Fiona Harvey, FT.com, May 2, 2000, 07:01GMT | Last Updated: May 2 2000 11:40GMT)

   半ば慣用的に副詞要素として用いられることも多い"based on …"[5−3]は、ここでは"third generation mobile services"を非制限的に修飾している。ここでの名詞句と分詞句の結びつきが、"third generation mobile services, which are based on ......"の場合の名詞句と関係詞節の結びつきとほぼ等価であること考えれば、第一章第5節末で、名詞句を非制限的に修飾する要素について、以下のように述べておいたことがここでもそのまま当てはまるはずだ。

カンマを伴う名詞修飾要素は、話者にとって「脈絡内照応性」が既に実現されている名詞句(即ち話者にとって既知である名詞句)の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらの一端の展開である……。
   話者にとって「脈絡内照応性」が既に実現されている名詞句の指示内容について語り得る(と話者に判断されている)ことがらは、そのような名詞句の指示内容の属性であるとも言える。「名詞句の指示内容の属性」について補足しておくと、名詞句の指示内容の属性は通時的・恒常的属性である場合も、一時的属性である場合も、属性であると話者に判断されていることがら、いわば、話者独自の見解([1−44]参照)である場合もある(第一章第3節末参照)。

   名詞句"third generation mobile services"との間にカンマが介在することによって、"based on …"以下は、この名詞句の指示内容の属性(即ちこの名詞句の指示内容について語り得ることがら)の一端であると話者は判断しているということが受け手には伝わる。「第三世代移動体通信事業」ついては「W-CDMAの技術に基づいている」と語り得るという話者の判断が、カンマによって表示されている。この名詞句"third generation mobile services"は、その指示内容について何ごとかを語り得るほどの「特定」(即ち「脈絡内照応性」)が既に実現されていると話者に判断されており、この名詞句を修飾する、即ちこの名詞句の指示内容について更に何ごとかを名詞修飾要素という形で展開する場合、「非制限的名詞修飾要素」が添えられることになる。かくして、ここでは分詞句による非制限的修飾が成立する。

   「脈絡内照応性」の実現にとって、言語的脈絡([1−6]参照)が必要不可欠ではないように感じられる名詞句もある。発話(の流れ)という言語的脈絡よりむしろその名詞句に関わる非言語的脈絡によって「脈絡内照応性」が実現されているように感じられる場合である。このような場合、その名詞句に関わる非言語的脈絡の全てではないにしてもその一部は話者と受け手に共有されている。そのような名詞句は固有名詞であることもある。

(5−2)
Clark left Netscape to found another company called Healthscape, later changed to Healtheon.
〈(Jim) Clarkはネットスケープ社を去り、Healthscape社(後にHealtheonと社名変更)という別の企業を設立した。[5−4]
(The Missing Chapter from "The New New Thing" by NATHANIEL WICE, Timedigital, Thu., Jan. 27, 2000)

   -ed分詞句の暗黙の主辞である"Healthscape"は特定の企業の名称、即ちその指示内容には語り得ることが溢れているような固有名詞[5−5]であることが話者によって示唆されている。このような名詞を修飾する場合、話者は非制限的修飾要素を添えることを求められる。この辺りの事情は、関係詞節を用いて先行詞を修飾する場合を考えれば容易に頷けるはずである。固有名詞と非制限的修飾要素の結びつきに関する記述は学習用文法書にも容易に見出すことができる[5−6]。カンマを伴う関係詞節は先行詞を「非制限的に修飾する形容詞節」である。カンマを伴う-ed分詞句"later changed to Healtheon"は固有名詞"Healthscape"を「非制限的に修飾する名詞修飾句」である。

   ただし一つ確認しておくとすれば、"Healthscape"の指示内容は、この記事を目にした時点の私にとっては空虚であった。この名詞句は(一定の集団によって)固有名詞と見なされているのであろうと推測しつつも、この名詞に関わる非言語的脈絡を私は話者と全く共有していなかった。従って、(5−2)の場合、"Healthscape"と分詞句の間にはカンマが介在すべきであるという話者の判断を共有し得たわけではなく、そこにはカンマが介在すべきであると話者は判断していると判断し得たに過ぎない(こうした点については第一章第5節及び[1−53]参照。固有名詞と非制限的関係詞節の関係については[1−18]中の文例@及び関連する記述を参照)

   既に第四章第3節末で次のように述べておいた。

カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という視覚的形態で現れる-ed分詞句の過半は非制限的名詞修飾要素である。
   「脈絡内照応性」が既に実現されている(と話者に判断されている)名詞句(即ち、話者にとって既知である名詞句)が修飾される際、非制限的関係詞節の代わりに-ed分詞句が用いられて修飾が実現されることが少なくないという事実を私は体験してきた。当然のことながら、このような-ed分詞句の中には、文末ではない位置にあって、直前の名詞句を非制限的に修飾する-ed分詞句[5−7]も含まれることになる。第四章から引いた記述はこうした体験を述べたものに過ぎない。

   次節で、もう一つの「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」を取り上げる。そこでの記述を通して、カンマ+-ed分詞句+ピリオド」という視覚的形態で現れる-ed分詞句の過半は非制限的名詞修飾要素である、という記述の明証性は(そして実践的利便性も)更に増すはずである。

  

(第5章 第2節 了)


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© Nojima Akira