『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第五章 分詞句の解放に向かって

第3節 もう一つの「カンマ+-ed分詞句+ピリオド」


〔注5−12〕

   例えば、以下の文例中の「形容詞節」(本稿の用語では「形容詞句〔形容詞を主要語とする句〕」。こうした用語については[1−5]参照)の暗黙の主辞は《一応》文の主辞"the man"である。以下、CGELより。

   Rather nervous, the man opened the letter. [6]
   The man, rather nervous, opened the letter. [6a]
   The man opened the letter, rather nervous. [6b]
補足的形容詞節が[6a]の場合のように主辞の後に続く場合、幾つかの点で非制限的形容詞節に似ている。
   The man, who was nervous, opened the letter.
しかし、形容詞節が示唆するのは、その男の不安は文の内容と結びついているということであるが、関係詞節は必ずしもそうした暗示的意味合いを伝えない。もう一つの相違点は、形容詞節は主辞と結びついているだけではなく、述辞とも結びついているということである。その上、関係詞節とは異なり、形容詞節には可動性があり、(以下で吟味されているものは例外として)形容詞節の暗黙の主辞は文の主辞である
(CGEL, 7.27)
(下線は引用者。以下で吟味されているもの)の一例は、"She glanced with disgust at the cat, quiet now in her daughter's lap."(ibid) この形容詞句は"the cat"を非制限的に修飾する。[5−1]参照)
   二箇所の記述、「形容詞節が示唆するのは、その男の不安は文の内容と結びついている」と「形容詞節は主辞と結びついているだけではなく、述辞とも結びついている」は同じことを言葉遣いを変えて反復したものに過ぎない。当該の形容詞句は母節全体と結びついている、と言えば済むところである。注意すべきは、CGELの主張にはその根拠が示されていないということだ。まさに、形容詞句は母節全体と結びついていることが《ひそかに》感じられているのである。もし敢えて根拠を挙げるとすれば、"rather nervous"は「容易に前置可能である」(と判断されている)が故に、「副詞的身分が確認される」(CGEL, 10.16) (と判断される)からであろう([2−20]参照)。

   類似の言い回しを別のところでも目することができる。

主辞のない補足節、即ち、(補足的絶対節(15.58参照)とは異なり)それ自身の明白な主辞を持たない補足節は、もう一つの点で非制限的関係詞節に似ている。つまり、補足節において含意されている主辞は、関係代名詞が後置修飾関係詞節において(母型節との)つながりを与えているのと同じように、母型節とのつながりを与えるのである。補足節の形態上の不明確さは、我々がそれを用いて伝えたいと思っているようなことの中に相当の融通性を許容する。我々がそこに込めたいと思っている意味は、文の脈絡[context]に応じて、時問的、条件的、因果的、譲歩的あるいは状況的関係であったりするであろう。要するに、補足節は母型節において述べられている場面に付随する状況[accompanying circumstance]を含意している。読み手あるいは聞き手にとっては、その付随する状況の実際の特徴は文の脈絡から推測される必要がある。次に示したのは状況的副詞的要素の具体例である
(CGEL, 15.60) (下線は引用者)(《独立分詞構文》[1−9]は補足的絶対節[supplementive absolute clauses]に含まれる)
   次のような具体例が挙げられている。つまり、ここでは《分詞構文》についても語られていたのである(《分詞構文》についてのみ語られているわけではない)
Using a sharp axe, Gilbert fought his way into the building. ['By using a sharp axe, ….'] (CGEL, 15.60)(下線は引用者)
   CGELの記述に見える「ぶれ」を一点指摘しておく。「形容詞節」の場合、「(関係詞節との)もう一つの相違点は、形容詞節は主辞と結びついているだけではなく、述辞とも結びついているということである」と記述されながら、「補足節」の場合、「補足節において含意されている主辞は、関係代名詞が後置修飾関係詞節において(母型節との)つながりを与えているのと同じように、母型節とのつながりを与えるのである」と記述される。関係詞節と母型節とのつながりについての記述には微妙な「ぶれ」を窺い取れる。"The man, who was nervous, opened the letter."(CGEL, 7.27)に見える非制限的関係詞節については、CGELの「形容詞節」についての記述内容よりむしろ「補足節」についての記述内容に則した方が、つまり、非制限的関係詞節は「述辞とも結びついている」、即ち、母型節とのつながりがあると感じ取れる、といった記述の方が妥当であろう(副詞要素的機能を読み取れるように感じられる非制限的関係詞節については[2−12]参照)。

   この形容詞句"rather nervous"は日本の学校英文法の世界では、"being"の省略がそこに指摘され、《分詞構文》と判断されることになるであろうから、この形容詞句が主辞とも述辞とも結びつき、結果的に母節全体と関わることに何の不思議もないということになろう。例えば、

解釈上をbeing補える例 文法的には、元のままでも完全な文として成立する。
Numb(= Being numb) from the cold, his hands could not find the key.
(寒さで手が感覚を失っていたために、キーを手探りで探せなかった)
(江川泰一郎『改訂三版 英文法解説』231)
   この"being"については言わでものことが語られている。
分詞構文に用いられる分詞は、過去分詞より現在分詞の方が多い。過去分詞を用いるときは、その前にbeingを補うと主節に対して原因・理由などの時間的・論理的関係を明瞭に表現することができる。beingを補わず過去分詞のままであると、主節の特定の名詞句[特に主語]を叙述的・付随的に修飾する解釈が得られやすい。同じことはいわゆる無動詞節(verbless clause)にも当てはまり、beingを補えば分詞構文になり、したがって分詞構文の一種と考えることができるが、beingの有無によって上で述べたような微妙な意味の違いが生じてくる

(Being) Worn out from all the work, John decided to relax for a while.
(仕事に疲れ果ててジョンはしばらくくつろぐことにした)/
(Being) A man of few words, Uncle George declined to express an opinion.
(ジョージおじさんはことば少ない人だったので意見を述べるのを断った)
(Being) A careful host, he went into the dining-room to see that the table was properly laid.
(用心深いホストである彼は食卓の用意がちゃんとできているか食堂に見に行った)。
(荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』participial construction[分詞構文]の項)
(下線は引用者。CGELの上記例文中の形容詞句"rather nervous"は無動詞節に含まれる)

   こうした"being"に異和感を抱いても不思議ではない。次のような指摘もある。
ある句が理論的に助動詞beingで始まるべき場合はつねに、この分詞は省略される。(CGEL, 3.56)
   beingで始まる《分詞構文》については更に[1−14], [6−40], [7−10], [7−61]参照。

(〔注5−12〕 了)

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