リオン Release 2.0
Chapter 3:HMX-13 Serio
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一ヶ月後。
来栖大学であてがわれていた独身者用のアパートを引き払い、来栖川エレクトロニクスのHM開発課に戻ってきたリオンは、以前となんら変わらないエンジニア達の様子に安堵のため息を吐いた。
久々に姿を見せた庶務社員の制服姿のリオンに、近しかったエンジニア達は「魔窟の整理、ご苦労さん」とか「大変だったろう」とねぎらいの言葉まで掛けてくれる。
「とりあえず、システム・チェックはしないとね」
リオンが来栖大学に行くまでシステムモニタを担当していた女性エンジニアがそう言った。彼女はエンジニアなので下半身は庶務社員と同じ制服のスカートだが上半身には静電気防止加工された作業服を着ている。
「セリオに比べるとメンテフリーに近いあなたでも、あそこに3ヶ月も居たんじゃ、どこかおかしくなってるかも知れないし」
複雑な表情を浮かべるリオンに、その女性エンジニア、神楽坂胡桃はそう言うと、クスクス笑った。
メンテナンス用の測定機器のある試作筐体の検査室に向かって歩きながら、リオンは胡桃に対して長瀬の研究室の整理の時で得た笑い話や、フィールやマルチと会ったことなどを雑談レベルでの報告をした。
胡桃は笑い話は一緒になって笑ったが、マルチとフィールと会った事を聞いた時は自分の事のように嬉しそうな顔で「よかったね」と感慨深そうに言った。
そうこうするうちに、検査室に着いたリオンは、そこに見覚えのあるメイドロボットの素体があることに気づいた。その素体は30度ほど起こされて斜めになっている検査用のセンサーベッドの上に横たわり、首は力なく倒れていた。そして、目はうつろな半開きで、口もわずかに開いた状態だった。
「胡桃さん、この子は?」
体格は自分より若干華奢に見えるが、金髪のロングヘアを首の後ろで括っていて、ポニーテールに見えなくもない。これは、今のマルチと同じ頭髪にする前の、リオンの最初の髪型にかなり近かった。
「ああ、リオンは初めて会うのね。あなたの義理の妹になる、HMX-17c、シルファよ。とは言っても、移植したシステムがうまく立ち上がらなくて、一端システムをパージしたので元の素体に戻ってるんだけどね」
胡桃は何気なくそう言ったが、リオンはぎょっとなった。
「パージ....、ですか...!?」
メイドロボの稼働筐体からシステムをパージして素体に戻すことは、人間で言うところの死亡とほぼ同じ意味になる。
「あ、言い方悪かったかも。一時的に元の素体状態に戻して、システムは元の筐体に戻したの。どういうわけか、言語制御系統がうまくリンクしなくて会話がマトモな言葉にならなくて。イルファは全然大丈夫だったし、ミルファもそこは問題なかったので、さすがにこの子みたいに元に戻したりはしなかったんだけどね」
だが胡桃が言い直した話をリオンは音声データとして聞いてはいたが言語としての意味の解釈していなかった。感情制御の別のタスクが一瞬早く優先処理されてしまったのだ。
「この顔、昔のわたしと、同じ....」
リオンは言いようの無い不快感に襲われた。その理由は彼女にもわからなかったが、とにかく、なにか、気持ち悪いのだ。
「シルファは末っ子なので、外見をイルファよりも2歳相当分くらい幼く設定しているから、体格の方は寧ろセリオに近いんだけど、そう言えば頭部は生まれたばかりの頃のリオンに似てるわね」
そう言いながら検査の準備を始めた胡桃の後ろで、リオンは口を押さえてうずくまってしまった。
「うぐっ」
リオンは嗚咽のようなうめき声を出すのが精一杯だった。胡桃はその声でリオンの異変に気づいて振り向き、すぐにうずくまるリオンに目線を会わせるためにしゃがみ込んだ。リオンはまるで吐き気を抑える人間のように真っ青な顔で口を押さえている。
「リオン、大丈夫? どうしたの?」
胡桃は反射的に人間にするように背中をさすった。アンドロイドであるリオンには意味のない行為だが、リオンには胡桃の心遣いがありがたかった。
「神楽坂さん、わたしはメイドロボだから背中をさするのは意味無いです。でも、もう大丈夫です。落ち着いてきましたから」
リオンは蝋人形のような顔色でそう言いながら、崩れた下半身のバランスを整えると、ゆっくりと立ち上がった。その頃には遅れて処理された胡桃の言葉の意味が解釈され、シルファが元の筐体に戻り消滅したわけでは無いことを理解していた。
「いったい、どうしたの? リオン」
「わたしにもわかりません。こんなの初めてです。あの子を見て、パージという言葉を聞いたとたん、急に平衡感覚がおかしくなって。胡桃さんの対処から推測すると、多分、人間の吐き気に似た状態じゃないかと」
そう言いながらリオンはシルファの方に視線を向けた。
「とりあえず、今は無理ね。シルファのボディは移動してもらうから、それからにしましょう」
と言う胡桃にリオンは「いえ、もう大丈夫です」と返事を返したが、胡桃は首を振った。
「ダメ。多分、まともなデータが取れないわ」
リオンは胡桃の意見を認めるしかなく、返事が出来なかった。
胡桃はリオン自身がいま言ったとおり、シルファの「素体」と「パージ」という言葉になんらかの過剰反応を示したのだと判断した。
「こんなことが、あるのかしら....」
胡桃は言うとはなしに呟いたが、リオンにははっきり聞こえていた。
「神楽坂さん、すみません」
「なに言ってるの、リオンは何も悪くはないわ。寧ろ、私たちの方が…」
胡桃もその先を言いよどんだ。
「とにかく、課長に報告しないと。リオンはとりあえず、一端部屋に戻って、今日は休んで」
リオンは仕方なく頷くと、重い足取りで検査室から退出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それって、どういう事なん?」
長瀬にリオンの異変を報告に来た胡桃の話を一緒に聞いた姫百合珊瑚は信じられない、という表情でそう言った。彼女はここしばらくミルファとシルファの再起動のために、学校を退けるとそのままHM開発課に直行する生活をしていて、きょうもいつもと同じように“出勤”してきたところで、まだ淡いピンクのセーラー服のままだった。
「さあ、わたしには『拒絶反応を示した』としか思えない挙動でした。わたし自身もちょっとびっくりしてしまって」
長瀬と珊瑚は長瀬のデスクで胡桃の報告を聞いていた。珊瑚は部下が報告する時に使う椅子に座っているが、胡桃は立ったままだ。
「神楽坂君、シルファ用の筐体は君に言われたとおり、開発ラボの方に移したから、とりあえずリオンのチェックを再開してくれないか」
「いえ、課長、今日はやめた方が良いと思います。あの子はしばらくはここに居るわけですから、明日にでも」
リオンの検査のメモを取るために持って行ったクリップボードを持ったままの胡桃はそう返答した。
長瀬は一瞬思案顔になったが、「いや、今のデータも取っておいた方が良い」と言って、胡桃を促した。
「課長!」
長瀬の予想外の指示に胡桃は詰め寄り掛けた。
「その場に居合わせた君の気持ちもわからないではないが、リオンは人間じゃない。彼女の為には今のデータも必要じゃないかな?」
憤慨しかけていた胡桃は、そう言われてはっとなったように表情を変えた。
「そうでした。確かに、課長のおっしゃるとおりです。まださほど時間も経ってませんから、さっきの状態のデータもまだスプールバッファに多分残ってます。急がないと」
胡桃はリオンを呼び出すために所内通話用の携帯電話を取り出した。
「リオンは今回のテストの事を知らされていなかったので、自分の開発資源がイルファ達の移植作業に回されたときも、かなり混乱していたな。まぁ、その時はそれがテストの重要な目的でもあったんだが。だが、今回はそれとも違う。リオンは彼女なりに今の状況は理解していた筈なんだが」
リオンを呼び出そうと電話帳をスクロールさせていた胡桃が操作を中断して長瀬に応える。
「あくまでもわたしの推測なのですが、深層心理の階層カーネルになにか異変が起きて居るんじゃないでしょうか? とにかく、あの拒絶反応は尋常ではありません。まるで人間と同じで…。それでわたしも反射的に背中をさすってしまいましたし、課長に言われるまで、リオンがアンドロイドだという事がどこかに吹っ飛んでました」
と胡桃。次の瞬間、彼女はリオンの番号を選択して発信していた。
「そうかもしれないな。とにかく、チェックを急いでくれ」
「はい、課長」
胡桃はそう言い、携帯電話を耳に当てると、長瀬のデスクから離れた。
「せやけど、いったいなんで」
二人のやりとりを黙って聞いていた珊瑚だったが、胡桃の姿が見えなくなると、そう言った。いつもほわっとした感じではなく、まるで興奮している時の瑠璃のような表情だ。
「おっちゃん、とりあえず上っ張り着てくるわ。ちゃんと説明してな」
そう言うと、珊瑚は騒動を聞いて寄らずにすっとばして来た更衣室に向かった。そして、戻ってきた珊瑚に、長瀬はこれまでのいきさつをできるだけ詳しく説明した。
「おっちゃん、なんちゅーえげつないテストやったん? しかも、いっちゃんたちを利用してまで。それじゃりっちゃんが可哀想やん」
淡いピンク色がかったセーラー服の上に、カーボンメッシュが織り込まれた帯電防止白衣を羽織った珊瑚がそう言った。
「まぁ、確かにその通りだし、君が非難するんのももっともな話だが、実社会でそういう事態に陥ることは必ずあり得るからね。逆に言うと非常にラッキーな機会を得たと思っていたんだ。リオンには悪いがこれは予想以上に貴重なユースケースのデータが得られるかも知れない」
「おっちゃんの言うこともわからんではない、確かにそういう事態に陥ったときの耐性は必要やと思うけど、そやけど、もっとやり方が....。それに義理の姉妹になるいっちゃんたちとりっちゃんの中が悪うなったら」
長瀬を非難するような口ぶりだった珊瑚だったが、さすがに長瀬の言うことがわかる年齢だ。実際、イルファも似たような状況に追い込まれて、苦悩していたのを目の当たりにしているだけに、それ以上の追求をしようとはしなかった。
「珊瑚ちゃん、現実はわたしたちが予め想定している範囲に収まるとは限らないんだ。それは、わかるよね。それに、人間の姉妹だって仲違いすることはあるだろう?」
「う…」
珊瑚はぐうの音も出なかった。つい最近、彼女自身がそういう状況を経験したばかりだったのだ。
「リオンにはそれを乗り越えて貰わないといけないんだ。きっと、リオンの妹たちはより高いレベルに成長出来る。そのための試作筐体だし、リオンが克服しなければならない試練なんだから」
そういう長瀬の表情はやさしい父親のような雰囲気だった。
長瀬はそう言ったが、珊瑚の不安が的中し、あんな事態を引き起こすとは思いもしなかった。それはその次の日、リオンが帰還した翌日の事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
来栖大学の独身者アパートに比べるとかなり狭い部屋だが、起動以来慣れ親しんだ研究所内のコンパートメントのベッドで再起動....目を覚ましたリオンは、自分自身の体になんとも言えない違和感を感じていた。
前日の検査では、情緒系の数値にかなり大きな変動が認められたが、それは設計許容範囲に収まっていたし、それ以外には表面上は特に異常は認められなかった。だが、細かい部分はもっと詳細な解析をしないとわからないため、結果は半分保留状態だった。
シルファの素体を見たときに感じた言いようの無い人間の吐き気と思われる不快感。シルファの素体と「システム・パージ」という言葉が引き金になったのは確かだが、リオン自身にも異常状態になった本当の原因はわからないままだった。それでも、行動に支障があるわけでなく、来栖大学に派遣される前の日常が戻ってくるはずだった。
「おはようございます」
研究所の所員達が出勤してくるのに合わせて、HM開発課のオフィスに顔を出した庶務社員の制服姿のリオンは茶坊主当番の所員と一緒にコーヒーの準備をしようと給湯室に入った。
「お、リオンじゃないか。久しぶりだな」
茶坊主当番は若手社員の持ち回りで、男も女も関係ない。今日の当番は胡桃といっしょにリオンのデータ解析を担当している本多宏一(ほんだひろかず)だった。白いカッターシャツにネクタイ姿の本多はHM開発課の若手研究員では割と古参の方で、大学では今は亡き藍原瑞穂と同期だった。昨日は出張で不在だった宏一は、フレームレスのメガネの向こうで目を細めて笑顔をなった。
「おはようございます。本多さん。昨日戻ってきまして、今日から“職場”復帰です♪」
リオンも笑顔でそう言った。
「わたしが居ない間、大変だったんじゃないですか?」
リオンは自然とその言葉を口にして、一瞬自分で自分に驚いた。
−なんだろう、本多さんを見たとたん、急に心が軽くなった気がする。なんだか、嬉しい。
リオンは自分の心の変化にも驚いていた。
「なに言ってるんだよ。リオンが手伝ってくれるようになるまでは、オレ達だけでやってたんだぜ。元に戻っただけだよ。それに....」
宏一がちょっと言い淀んだので、リオンは小首を傾げた。頭の上にクエスチョン・マークが見えそうな雰囲気だ。その動作はリオンの癖で、現場の研究者達にも可愛さ爆発で人気のあるポーズだった。
「やっぱリオンの方が可愛いわ。君の居ない間、姫百合珊瑚の持ち込んだサッカーロボを移植したイルファとミルファが手伝ってはくれたんだけどね....。あの二人、ちょっと妙でね」
「と、言いますと?」
「なんていうか、ちょっと違うんだよね。まぁ、思考ロジックが人間と一緒というのもあるんだろうけど。優秀だとは思うんだが」
「はぁ」
「たとえば、コーヒーの用意だって、君はみんなより早く来て一緒に手伝ってくれるんだけど、あの子達は、何かというと珊瑚にべったりでね、彼女が居ないと自発的に作業をしなかったんだよ。彼女の為なら何でもするし、要領も良いんだが、それ以外は無関心というか。それが髪の色こそ違うけどリオンと同じ顔だろ、タチが悪いよ。まぁ、長姉ということもあるし、スクリーニングがある程度進んだおかげか、イルファはリオンと遜色のないマトモな優等生になったんだけどね」
リオンはどう返事をして良いかわからず、苦笑するだけだった。
「リオンは髪がマルチといっしょだろ。体格はセリオよりも大人な雰囲気だけど、あのドジっ娘が帰ってきたような錯覚もあるしね。やっぱり藍原が遺したアーキテクチャを継承しているからか、俺にとっても娘のような愛着、あるしな」
そのうち、湯沸かしポットの沸騰音が止まった。リオンは戸棚からコーヒーの袋を取り出すと、素早くコーヒーメーカに仕掛けた。オフィスのコーヒーメーカは大型のペーパードリップ式で、2、3時間は保温も効くタイプのものだった。
業務用のわけのわからないブレンド・コーヒーだが、それなりにかぐわしいコーヒー独特の香りが給湯室に広がる。
ドリップが終わりきると、リオンはフィルターの後始末などをテキパキとこなし、コーヒーメーカーの取っ手を持ってぶら下げると、「先に行きますね」と言って、給湯室を後にした。
リオンは宏一の話になんとなく嫌悪感を感じていた。それに伴い自分の表情も悪くなっていることに気づいていた。その嫌悪感の対象は宏一ではなく、自分と同じ顔をした明らかに自分とは異質な義妹達の行動の話に対しての物だった。
リオンはその表情を本多にあまり長く見られたくなかった。
そして、その日の午後。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いまさら、西園寺女学院へフィールド・テストに行くんですか?」
庶務の女性社員を手伝って事務処理をしていたリオンは、長瀬のデスクの基に呼び出されて言われた言葉にあからさまに不服という表情でそう言った。
「わたし、つい2日前まで、来栖大学で准教授....じゃなくて、課長の秘書をしていたんですよ?」
「そう言うと思ったよ。だけど、これは命令だからね」
長瀬は苦笑しながらそう言った。リオンの反応はある程度予測されていたようだ。彼女はそれも気に入らなかった。
「確かに順番は逆になってしまったし、君は確かに高校生というよりは大人の女性と言っても差し支えないのは認める。だが、高校くらいの集団生活の経験も必要だからね。手続きはセリオが全部やってくれるから、彼女から説明を受けてくれ。
マルチやセリオは1年生のクラスに編入したんだが、君はその容姿相応に3年に編入される。それと、一応、セリオは寺女の先輩だからな。粗相の無いように」
「はぁ....」
ぶすっとした表情で俯いていたリオンには長瀬が最後に言った冗談が聞こえなかったようだ。
「わたしからの説明は以上です」
長瀬たちの詰めるオフィスの入り口から入ってすぐの場所にあるミーティング用のオープンスペースで、テーブルを挟んでリオンの前に座っていたセリオは西園寺女学院でのフィールドテストに関する資料を収めたバインダー・ファイルをぱたんと閉じるとそう言った。彼女もリオンと同じ来栖川エレクトロニクスの庶務社員の制服を着ている。
「どうしても行かないとダメ?」
「ダメです」
セリオはほとんど表情を変えずにそう言ったが、リオンには微笑んでいるレベルなのがわかった。
「はうう〜」
自分より年下に見える姉の言葉にリオンはがっくりと項垂れた。
「そんなところは、マルチ姉さんにそっくりですね」
セリオは項垂れるリオンに見つめながら、微笑みを見せた。感情表現の乏しい彼女にとってはこのレベルは人間なら膝を叩いて爆笑しているのに近い状態だ。
「不安があるのはわかりますし、一昨日まで大学に居たのですから抵抗があるのもわかります。でも、これはわたしたちの義務ですし、いつかは生まれてくる貴女の本当の妹たちの為でもあるんですよ」
アーキテクチャが古いせいか、少し堅い口調のセリオの言葉だったが、そこには長年活動してきた経験によって身につけた、どことない暖かさがあった。
「なにより、現在の最高レベルの技術の結晶なのですから、頑張ってもらわないと。設計段階で開発中止になったキアラやノミル、それにわたしやフィール姉さん、マルチ姉さんの全てを受け継いでいるんですから」
「そ、そんなぁ。プレッシャー掛けないでよ、姉さん」
リオンはぷうっと頬をふくらませると拗ねるような表情を見せた。
「本当に表情も豊ですし、口調も自然ですし、旧世代のわたしにとっては羨ましい限りです」
セリオはそんなリオンにやさしい微笑みを見せた。リオンにはそれがセリオが最大限の喜びを表していることがわかった。
そんな会話をしているうちに、オフィスの外の廊下から女性の声が聞こえてきた。かなり激しい口調でやり合いながら、次第に近づいてくる。片方は聞き覚えがあったが、もう片方は初めて聞くものだった。
「やれやれ、またやってる。仕方のない娘(こ)達です」
セリオは閉じたバインダー・ファイルをテーブルの上に置きながらそう言った。
「姉さん、誰? 片方はイルファ、よね?」
「ええ、イルファとミルファです。リオンはミルファとは会うのは初めてですね?」
「え?」
リオンはびっくりした表情で、声のする方に視線を向けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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