工事進行基準の会計

国際会計基準(IAS)11号「工事契約(Construction contracts)」を中心に
国際会計基準は、工事進行基準が原則的会計方法

はじめに
日本の「工事契約に関する会計基準」2007年12月27日
2009年4月1日以降開始する事業年度から適用
工事契約の国際会計基準の概要
工事進行基準の計算事例
注記による開示項目と開示事例
米国建設会社の開示サンプル
 入札ボンド制に関連して・・会計士のリビュー報告書添付
 会計士の報告書には、監査、リビュー、コンピレーションがある
米国大手建設会社およびソフト開発会社の場合
情報サービス産業協会(JISA)は、欧米の常識を述べているに過ぎない
「工事進行基準の一律適用は不適切」と意見書を公表
日本の法人税および消費税の取り扱い


はじめに

我が国の企業会計原則注解7には、次のように規定し工事進行基準又は工事完成基準のいずれを選択適用できる。

注7工事収益について(損益計算書原則三のBただし書)

長期の請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができる。

(1) 工事進行基準
 決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって工事収益の一部を当期の損益計算に計上する。

(2) 工事完成基準
 工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益を計上する。

一方、法人税法では、平成10年から長期・大規模(150億円以上→現在は、50億円以上の大型工事契約)の工事に工事進行基準を強制適用することが始まっていたから、わが国においても、収益認識基準として工事進行基準が主流となる時代かと思わせたのである。

国際的な視点では、2005年から国際会計基準の欧州連合が適用したことにより、日本でも国際会計基準への収斂が求められていることに気づき始め、企業会計基準委員会2006年10月12日、「我が国会計基準の開発に関するプロジェクト計画についてーEUによる同等性評価等を視野に入れたコンバージェンスへの取り組みー」を公表し、「工程表」該当する「プロジェクト計画表」「EUの指摘事項26項目の対応」をやっと公表した。それによると、2007年中に会計基準を設定することになっており、2009年3月期から適用のようである。既に、国際会計基準に収斂する基準になることは国際公約となっている。

しかし、企業会計基準委員会の会計基準は、リース会計でも見られるように国際会計基準とは微妙に相違しており、新たな相違表を必要としている。国際会計基準11号「工事契約(Construction Contracts)(全15ページ、2006年12月31日の改正まで反映)」の要点を事前に解説してみるのもあながち無駄ではないかも知れない。

なお、国際会計基準はWeb上では公開されてないが、ニュージーランドや、インドの会計基準7号「工事契約」が国際会計基準11号と全く同じ物となっておりWeb上で公開されているので参考となります。ニュージーランドは、会計基準番号およびパラグラフ(項)まで同じ。インドは添付の事例まで同じで、しかも国際会計基準11号のタイプの誤りを訂正している。

2007年1月26日、日本の企業会計基準委員会の工事契約専門委員会(石井泰次専門委員長)は、「工期1年以内の短期請負工事にも、工事進行基準を適用する方針を固めた」としているが、検討している内容は、国際会計基準に収斂するということではなく米国会計基準と比較し委員の理解度ないし好みで選択しているようだ。

2007年2月15日付け日刊建設通信新聞社の記事抜粋・・見直しの内容によっては、上場企業だけでなく50万社を超える全建設業者が対象になる可能性もある。また会計基準見直しは、中小企業にとって経営事項審査(経審)の経審点数への影響を指摘する声もあり、建設業界は「慎重かつ重大な関心を持って」(業界関係者)対応していく必要性がある。

日本の「工事契約に関する会計基準」

2007年8月8日、企業会計基準委員会は国際会計基準審議会と、日本は2011年6月30日までに国際財務報告基準(IFRS)に収斂する旨合意した(東京合意)。

企業会計基準委員会は、2007年8月30日(当初予定では24日であったが6日遅れて公表)、工事契約に関する会計基準草案を公表したが、国際財務報告基準の工事契約の会計基準(IAS11号)の規定を下記の点で無視しているといっていい。

@情報開示が国際会計基準と異なり(国際会計基準11号のパラグラフ42の資産計上・負債計上の額やパラグラフ40の開示事項が明示されていない)、A工事損失引当金の言及に紙数を使いすぎ(国際基準はパラグラフ36と37の2項で記述するのみ)、B計算例が示されていない(国際基準は4ページにわたって事例を示している)、C不必要な結論の背景に紙数を使いすぎる(国際基準にはない)。

情報開示が国際会計基準と異なり(国際会計基準11号のパラグラフ42の資産計上・負債計上の額やパラグラフ40の開示事項が明示されていない)、工事契約の事業者の財務諸表は、XBRL化によって翻訳される英文と一致せず読者をミスリードさせることになります。

国際財務報告基準に収斂を約束したのであれば、会計基準を利用する関係者および国際的信義のためにも、国際財務報告基準(IFRS)から新たな相違を生むような基準を作成すべきではないはずです。

2007年12月27日企業会計基準委員会は、「工事契約に関する会計基準(17ページ)」および「同適用指針(19ページ)」を公表した。草案と大きく異なることは無いが、適用指針に計算例が示されている。

会計基準第9項によれば、工事収益総額、工事原価総額、決算日の工事進捗度が信頼性をもって見積もることができない場合には、工事完成基準に基づいて工事収益及び工事原価を計上する、として米国会計基準に類似した基準にしている。(「国際会計基準と米国会計基準の主要な相違点」参照)

因みに、中国の工事契約の会計基準(1999年適用)では、国際会計基準の規定に一致させており、合理的に総収入・総原価を見積もれない場合は、工事原価まで収入を認識し、工事原価は発生時の費用(いわゆる「原価回収法(cost recovery method)」という方法)として計上する、ことになっている。無論、総原価が収入総額を超える場合のいわゆるロス・コントラクトは、工事原価を即時に費用計上する。したがって、国際会計基準と同様に、工事完成基準が適用になることはない

基準第14号には、工事進行基準による、発生した工事原価のうち、未だ損益計算書に計上されていない部分は「未成工事支出金」等の適切な科目をもって貸借対照表に計上する。

基準第17号には、工事の進行途上において計上される未収入額については金銭債権として取り扱う、としており通常の金銭債権の残高確認を行うには調整が必要となる。この点、国際会計基準では、監査実務を考慮してあり、通常の金銭債権とは区分して計上することになっている。

日本の基準は、貸借対照表への工事原価および未収入金の表示は国際会計基準とは相違していることに注意を要する。 英文と対応しているXBRL化ではミス・リードさせる可能性がある。日本の基準は新たな国際会計基準との相違点が生れており、国際基準と日本基準の双方を理解しておくことが必要となろう。複雑怪奇!

この会計基準は、日本基準で新たに作成するより、国際会計基準を導入する方が、財務諸表作成者はコストは低減でき投資家は簡潔明瞭で理解し易いことを立証している。

日本が国際会計基準に収斂せず、なぜ米国会計基準に類似したものにしようとするのか不可解。私見では、収益認識が首尾一貫しているので、中国と同様、国際会計基準の方が優れていると思う。余談ですが、中国の会計基準のように簡潔明瞭に会計基準を作成できないものでしょうか。国際会計基準に収斂すると宣言(東京合意)をしましたが、かなり心もとないものです。

工事契約の国際会計基準の概要

国際会計基準11号「工事契約(Construction Contracts)(16ページ)」1993年)は、工事契約の見積結果が信頼できるならば、工事の完成度合いにしたがって収益及び原価を計上しなければならない、として「工事進行基準(percentage-of-completion method)」を適用することを求めている(22項)。工事契約の見積結果が信頼できない場合は、収入は原価の発生の範囲で計上し、原価は発生したときに計上しなければならない(32項)。工事原価が収入を超過するときは、即座に費用を認識しなければならない(36項)。

国際会計基準では、工事完成基準(completed contract method)は適用しない。

注記による開示事項は、

39項では;
(a)当期計上した工事収入
(b)当年度収益を認識した会計方法
(c)工事進行の割合を使用した方法

40項では;
(a)当期計上した原価と損失控除後の利益の合計額
(b)前受金の額
(c)分割請求しても未払のリテンションの金額

41項では;
(a)工事契約に係る資産計上した顧客に対する債権
(b)工事契約に係る債務に計上した顧客に対する債務

工事進行基準廃止の収益認識の会計基準案

2010年6月24日、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、本日、顧客との契約から生じる収益及びそれに関連するコストの財務報告を改善し、揃えるための基準案を、一般のコメントを募集するために公表した。コメント募集期限:2010 年10月22日(ASBJの翻訳
本基準案は、IAS第18号「収益」、IAS第11号「工事契約」及びこれらに関連する解釈指針を置き換える(廃止する)ものとなる。工事進行基準は廃止。

工事進行基準廃止の収益認識の会計基準案

工事進行基準の計算事例

定まった工事契約は、工事進行の割合で、工事収益と原価を計上する。

 

事例は、9,000の契約額で、橋を建設する契約である。

当初契約では、収入は9,000であった。一方、工事原価の見積額は、当初、8,000であった。工事期間は3年間である。1年目の終わりに、建設業者の原価見積は8,050に増えた。

2年目に、顧客は、200の増加誤差を認め、原価の増加見積は150であった。2年目の終わりに、発生した原価には、3年目に使用する材料100を保管していた。

工事進行基準

 

1年目

 

2年目

 

3年目

 

 

 

 

 

 

 


当初顧客と合意された契約金額
Initial amount of revenue agreed in contract

 

9,000

 

9,000

 

9,000


誤差
Variation

 

 

 

200

 

200


合計契約金額
Total contract amount

 

9,000

 

9,200

 

9,200

 

 

 

 

 

 

 


発生した原価の累計額

Contract costs incurred to date

 

2,093

 

6,168

 

8,200


未発生原価

Contract costs to complete

 

5,957

 

2,032

 

 


見積原価合計
Total estimated contract costs

 

8,050

 

8,200

 

8,200

 

 

 

 

 

 

 


見積利益

Total estimated contract profit

 

950

 

1,000

 

1,000


工事進捗度
Stage of completion

 

26%

 

74%

 

100%

 

 

 

 

 

 

 

2年目の進捗度は、100の保管材料を上記原価から控除して計算している。


 

 

 

 

 

 

当年度

 

 

利益累計

 

過年度利益

 

計上する利益

1年目

 

 

 

 

 

 

収入(9,000X26%)

 

2,340

 

 

 

2,340

原価(8,050X26%)

 

2,093

 

 

 

2,093

粗利益

 

247

 

 

 

247

 

 

 

 

 

 

 

2年目

 

 

 

 

 

 

収入(9,200X74%)

 

6,808

 

2,340

 

4,468

原価(8,200X74%)

 

6,068

 

2,093

 

3,975

粗利益

 

740

 

247

 

493

 

 

 

 

 

 

 

3年目

 

 

 

 

 

 

収入(9,200X100%)

 

9,200

 

6,808

 

2,392

原価

 

8,200

 

6,068

 

2,132

粗利益

 

1,000

 

740

 

260



注記による開示項目と開示事例

建設会社が1年目の会計年度を終了した。すべての工事契約の原価は現金で支払い、顧客への分割請求や前受金も現金で行われている。工事契約B,CおよびEの工事原価には、期末までに使用していない仕入材料原価が含まれている。工事契約B,CおよびEは、工事が完了していないが前受金を受領している。

 

 

合計

22項の工事進行基準による収入を計上
Contract revenue recognised in accordance with paragraph 22

 

145

520

380

200

55

1,300


22項の工事進行基準による原価を計上
Contract costs recognised in accordance with paragraph 22

 

110

450

350

250

55

1,215


36項による損失計上額
Expected losses recognised in accordance with paragraph 36

 

 

 

 

40

30

70


原価及び損失控除後の計上された収益

Recognised profits less recognised losses

 

35

70

30

(90)

(30)

15

 

 

 

 

 

 

 

 


当期発生原価
Contract costs incurred in the period

 

110

510

450

250

100

1,420


22項の工事進行基準による原価の計上額

Contract costs incurred recognised as contract expenses in the period in accordance with paragraph 22

 

110

450

350

250

55

1,215


27項の将来使用する材料で資産計上額
Contract costs that relate to future activity recognised as an asset in accordance with paragraph 27

 

0

60

100

0

45

205

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


契約収入(上記参照)
Contract revenue

 

145

520

380

200

55

1,300


41項の分割請求

Progress billings (paragraph 41)

 

100

520

380

180

55

1,235


未請求

Unbilled contract revenue

 

45

 

 

20

 

65


41項の前受金
Advances (paragraph 41)

 

0

80

20

0

25

125


:

注記による開示項目は次の通りです。
The amount to be disclosed in accordance with the Standard are as follows

当期に認識した工事契約の収入(39(a)項)
Contract revenue recognised as revenue in the period (paragraph 39(a))
1,300

工事契約の計上した原価と利益の合計額(40(a)項)
Contract cost incurred and recognised profits (less recognised losses) to date (paragraph 40(a))
1,435

前受金(40(b)項)
Advances received (paragraph 40(b)
125

42(a)項の工事契約に係る資産計上した顧客に対する総債権
Gross amount due from customers for contract work-presented as an asset in accordance with paragraph 42(a)
220

42(b)項の工事契約に係る債務に計上した顧客に対する総債務
Gross amount due to customers for contract work-presented as a liability in accordance with paragraph 42(b)
(20)


上記数値の計算内容は次の通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合計


工事契約の発生原価

Contract costs incurred

 

110

510

450

250

100

1,420


損失控除後の認識した利益
Recognised profits less recognised losses

 

35

70

30

(90)

(30)

15

 

 

145

580

480

160

70

1,435


分割請求額

Progress billing

 

100

520

380

180

55

1,235


顧客に対する債権
Due from customers

 

45

60

100

 

15

220


顧客に対する債務
Due to customers

 

 

 

 

(20)

 

(20)

米国建設会社の開示サンプル

中小の建設会社の場合:
国際会計基準の事例ではないが、米国会計基準での工事契約(国際会計基準と同様工事進行基準適用)を適用した中小の建設会社の財務諸表がサンプルとしてホームページに掲載されています。会計処理および注記が参考となります。中小の建設会社とは、入札ボンド制で中小の建設会社が入札に際して、監査報告書ではなくコストの安い「会計士のリビュー報告書」を添付して提出することを想定して作成されたサンプルと思料されるからです。大手の建設会社であればコストの掛かる監査報告書が添付される。(「米国基準での中小の建設会社の財務諸表のサンプル・・会計士のリビュー報告書が添付されている」「Construction contract bond・・会計士の無限定意見が必要」、米国CPAジャーナル「建設業の履行ボンド(performance bonds)」参照 入札ボンド制については、国土交通省入札ボンド制の導入について米国の入札ボンド制」、「土工協」「米国ボンド制度の調査研究」「米国の瑕疵担保保証制度」 参照)

入札ボンド制で要求される財務諸表
(米国CPAジャーナル「建設業の履行ボンド(performance bonds)」より)

 Bonding companies generally require, at least quarterly, schedules of aged accounts receivable, contracts completed, work in process, and new contracts obtained since the last reporting period. While internally prepared financial statements are acceptable quarterly, the surety may routinely request for a semi-annual review and year end audit, or in the case of the smaller contractors an annual review by a CPA.

工事進行基準の工事進行を工事原価の発生の程度とする国際基準の会計処理方法は概略以下のとおりである。

@工事に着手し、原価発生時に、損益計算書の工事原価(cost of earned revenue)に計上する。

借方 貸方
P/L 工事原価 Cost of earned revenue XXX
B/S   工事未払金   Accounts payable XXX

A工事進行程度に応じて出来高払いで顧客に請求書を発行する。

借方 貸方
B/S 工事未収金 Contracts receivable XXX
P/L   工事収入   Earned revenue XXX

工事代金の前受金を受領した場合は以下の通り。

借方 貸方
B/S 現・預金 Cash XXX
 B/S    前受金   Advances received XXX

ただし、前受金は、出来高に対応して工事収入に振替える。

借方 貸方
B/S 前受金 Advances received XXX
P/L   工事収入   Earned revenue XXX

B決算修正・・工事進行基準による工事収益の修正

決算に際して、実際の工事利益を計算し、出来高払いの請求書に含まれる予定利益率で計上されている工事利益を修正する。この修正のために、未成工事ごとの実際原価に予定追加原価を加え総原価を算出し工事契約額との差額=予定利益を計算し、これに工事進捗率を掛けて進行基準の工事利益を算出する。この進行基準の工事利益と出来高払いで請求し計上した工事利益との差異を決算修正として計上する。

すでに計上した出来高払いの請求に含まれる工事利益が少ない場合は、収益の過小計上を修正するため下記の修正をする。

借方 貸方
B/S
流動資産
未成工事の出来高請求を超えた
原価及び見積利益(注1
Costs and estimated earnings in excess of
billings on uncompleted contracts
(注1
XXX
P/L   工事収入   Earned revenue XXX

すでに計上した出来高払いの請求に含まれる工事収益が過大であった場合は、収益の過大計上額を修正するため以下の決算修正をする。

借方 貸方
P/L 工事収入 Earned revenue XXX
B/S
流動負債
  未成工事の原価及び見積利益を超えた
  出来高請求額(注1
  Billings in excess of costs and estimated
  earnings on uncompleted contracts
(注1
XXX

注1:米国の建設業界で工事進行基準を適用している場合に使用されているユニークな貸借対照表の勘定科目。
 Certain balance sheet accounts are unique to the construction industry-- costs in excess of billings on uncompleted contracts (an asset) or billings in excess of costs (a liability). Using the percentage of completion method, costs in excess of billings result when the billings on uncompleted contracts are less than the income earned to date. These underbillings result in increased assets. Conversely, where billings are greater than the income earned on uncompleted contracts, a liability, billings in excess of costs, results.  (米国CPAジャーナル「建設業の履行ボンド(performance bonds)」より 「PERCENTAGE OF COMPLETION CONTRACT ACCOUNTING の簿記」参照

国際会計基準11号「工事契約」には、42項には次のように規定している。
42項 企業は下記のように表示しなければならない。
(a)工事契約に係る顧客に対する債権総額を資産として、および
(b)工事契約に係る顧客に対する債務総額を負債として表示。

43項では、工事契約に係る顧客に対する債権総額の資産の内容を、44項では工事契約に係る顧客に対する債務総額の負債を定義している。

43項 工事契約に係る顧客に対する債権総額とは下記の純額である。
(a)工事原価+認識した利益;から(b)認識した工事損失+出来高請求額を控除した純額で
工事原価+認識した利益(認識した工事損失を控除)は出来高請求額を超過しているすべての仕掛中の工事契約。

44項 工事契約に係る顧客に対する債務総額とは下記の純額である。
(a)工事原価+認識した利益;から(b)認識した工事損失+出来高請求額を控除した純額で
出来高請求額が、工事原価+認識した利益(認識した工事損失を控除)を超過しているすべての仕掛中の工事契約。

国際会計基準では、資産計上は契約業務に係る顧客に対する総債権額(Gross amount due from customers for contract work、負債計上は契約業務に係る顧客に対する総債務額(Gross amount due to customers for contract workとし、上記に示した米国のように、より具体的な表現はしていないが会計処理内容は同じ。

米国大手建設会社およびソフト開発会社の場合

米国大手建設会社の場合およびソフト開発会社の財務諸表の事例は以下の通りである。

会社名 財務諸表 コメント
建設会社
Fluor Daniel
フルア・ダニエル
年次報告書
Form 10-K
建設工事契約(プラント工事や一般建設)は、工事進行基準で計上している旨注記しており、
資産計上額は「仕掛品」に、負債計上額は前受金に計上した旨注記している
ソフト開発会社
IBM
IBM社
年次報告書
Form 10-K
収益認識基準に一致した継続的ライセンス・ソフトウエアからの収益はライセンス開始の日に収益認識する。
Revenue from perpetual (one-time charge) license software is recognized at the inception of the license term if all revenue recognition criteria have been met.
SAP
SAP社
年次報告書
Form 10-K
ソフトウエアの収益認識は、工事進行基準で計上し、進行基準の測定ができない場合は完成時に収益を計上している旨注記している。

注意:
米国の建設会社は、「建築系かエンジニアリング系に特化しており、日本のゼネコンのように土木・建築全てを満遍なくこなす会社というものは見うけられない。一番大きな理由は米国の発注システムにあると思う。米国の公共工事では設計契約と施工契約はその発注方式が厳然と分かれており(昨今増えてきたデザインビルドはまだ例外と考えて良い)、施工契約は例外なく一般競争入札にかけられる民間工事についても大部分は一般競争入札と考えて良いだろうさらにその一般競争入札もいわゆるランプサム(一括請負)方式よりもコストプラスフィー方式といった直接経費と間接経費をすべて鏡張りにした入札方式が多くとられる。このため各社とも大変激しいコスト競争を勝ち抜かなければならず、皆できる限り組織をスリム化しようとする。そのため自分の得意分野ではない部門は極力持たず技術開発なども大学や政府系の研究機関などに頼っているのが実情といえる。従って、高度な技術力を必要とするプラント建設にとても参入するような余裕は建築系企業にはなく、逆にエンジニアリング系企業は、プラント建設に比べてプロジェクトの規模が小さい一般建築に手を出してもとても自社の巨大組織をまかなえるような利益は出せないことからあえて無理に進出する必要はないと考えているのではないだろうか。」(「米国建設会社の事業内容」より)「米国の建設会社」「インタビュー , コラム : 私が米国の建設会社で働いている「長い」経緯by戸谷茂山氏」参照


ドイツ大手建設会社HOCHTIEFは国際会計基準を適用しており、2008年の年次報告書が参考となる。

フランスの大手建設会社VINCIは国際会計基準を適用しており、2008年の年次報告書が参考となる。

参考:2008年度修士論文「今後の大手建設会社のあり方」by高知工科大学大学院垣内俊彦氏

情報サービス産業協会(JISA)が 「工事進行基準の一律適用は不適切」と意見書を公表

情報サービス産業協会(JISA)は2009年2月12日、「中小企業の会計に関する指針」の改正に関する草案に反対する、意見書を提出した。

工事進行基準を適用するには、「精緻な見積もりの作成」や「進捗の把握」といった要件を満たす必要がある。「中小企業は、もともと社内に人材が少ないうえに、信頼性のある原価見積もりを作成するための体制を整備することは財政的にも難しい。適用することに意味があるのか」と田中主任調査役は話す。(Itpro 「中小企業の会計に関する指針」(経済産業省中小企業庁財務課)参照)

田中主任調査役は欧米会計基準の常識的な考えを述べている。欧米で会計基準が発達したのは、会計基準を必要とされたからで、必要のない企業に強制しなかったからである。

つまり、欧米では資金を貸与する金融機関が企業規模などに応じて監査費用など負担可能な企業に“監査済み財務諸表”の提出を求めたり(任意監査)、収益性基準などの上場基準を満たした株式や社債を取引所に上場する会社を証券法などで会計士による“監査済み財務諸表”の開示を求める(法定監査)。欧米では、会計士に依頼(任意監査・法定監査)がない限り、会計基準を中小企業までも含めて適用を求めることはない。

“監査済み財務諸表“には、監査の結果”一般に認められた会計基準に準拠して適性に表示されている“かどうかの会計士の意見書が添付される。会計基準への準拠性を第三者が保証する意見書があって会計基準の存在意義がある。

欧米では、中小企業が求められるのは法人所得税の規定による確定申告・納税である。中小企業は、原則、従わなければならないのは、いわゆる税法規定による確定申告のみである。

日本は、商法(会社法)によって中小企業を含む企業に回答可能利益の計算のためと称して計算規定を設けてしまい、会計基準=計算規定となってしまったため、未だに会計基準の発展が妨げられているのである。私の知る限りではこうした会計制度は日本だけである。

監査を想定していない会計規定(法令)は監査を不要とする企業に過度な負担を強いることになる。会計制度を構築する立場の国家機関、参加する学者、実務家、業界はこうした意見に真摯に耳を傾けるべきであった。

2009年4月20日経済産業省は、新しい会計基準「工事進行基準」適用で、中小ソフトベンダーが受ける影響などについての報告書をまとめる。基準適用が進む大手企業に対し、非上場の中小ベンダーについては「適用を必須化するものではない」と確認するほか、取引関係のあり方も大きく変わらないとの見方を示す、というニュースが飛び込んできた。

調べてみると、経済産業省商務情報政策局 情報処理振興課が「受注制作ソフトウェアにおける工事進行基準適用に関する勉強会」を立ち上げ、その文書の中で述べていることであった。中小企業庁が「中小企業の会計に関する指針」を音頭とってできたのは何なのか。そもそも、中小企業に会計の指針は必要ないし、創るのであればその位置づけを明確にすべきであった。例えば、中小企業であっても任意監査を受ける場合に適用される会計基準としての位置づけなどである。経済産業省は、会計基準とは何かを分かっているとは思えない。中小企業庁と経済産業省の本省で意見を調整しておくべきだ。つぎに、会社法の計算規定と意見調整をして欲しいものだ。会計基準は日本に一つで結構。世界の会計基準は国際会計基準(IFRS)で一つになろうとしているのだ。


日本の法人税および消費税の取り扱い

法人税法
その着手の日から当該工事に係る契約において定められている目的物の引渡しの期日までの期間が二年以上である長期大規模工事は、政令で定める工事進行基準の方法により計算した金額を、益金の額及び損金の額に算入する(法人税法第64条第1項)。 長期大規模工事とは、その請負の対価の額が五十億円以上の工事とする(法人税法施行令第129条第1項)。

工事の請負の範囲等:2−4−12 法第64条《工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》に規定する工事(製造を含む。以下この款において同じ。)の請負には、設計・監理又はソフトウェアの製作等の役務の提供のみの請負は含まれないのであるが、工事の請負と一体として請け負ったと認められるこれらの役務の提供の請負については、当該工事の請負に含まれることに留意する。(平10年課法2−7「三」により追加、平12年課法2−7「五」、平14年課法2−1「十」により改正)(法人税法基本通達

消費税法
消費税の納税義務の成立の時期は、資産の譲渡等の時とされていますが、法人税の申告に当たって、工事進行基準により経理処理が行われ収入計上されている場合は、消費税でもこれらの基準によって申告を行うことができます。法人税の申告に当たって、これらの基準による経理処理が行われ収入計上されている場合でも、消費税については原則どおり資産の譲渡等の時を基準として申告することも認められます。

現行、工事進行基準により経理しなければならない長期大規模工事の場合であっても、消費税については実際の資産の譲渡等の時を基準として申告することが認められます。(消費税法16、17、消費税基本通達9−3−1、9−4−1、法人税法63、64)
延払基準、工事進行基準を用いているとき工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例」by 国税庁


基礎データ:各国の上場会社の数 主要国の会計士の数 各国の国際会計基準適用状況

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