『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第二章 個々の読解の在り方を吟味する

第2節 【読解  その2】について


〔注2−4〕

   見つかるのはせいぜい次のような記述くらいである。。

She wrote him a friendly letter, thanking him for his help, and sending him her best wishes.(彼女は彼にねんごろな手紙を書き、援助を謝し、よろしくと言った)では、分詞構文は関係代名詞節(in which she thankedなど)でもいえる。その場合関係代名詞節はいわゆる非制限的用法である。
(清水護 編『英文法辞典』、Participial Construction(分詞構文)の項)(下線は引用者)
This book, written in simple English, is suitable for beginners.
(この本はやさしい英語で書いてあるから、初歩の人にむいている)で、斜体の部分はas it is written …とパラフレイズできる分詞構文とも、which is written... とパラフレイズできる形容詞的修飾句とも考えられる。ここの区別は分明ではない。
(ibid)(下線は引用者)([2−3]でも引用した箇所)
   あるいは、杉山忠一『英文法詳解』では、「きわどい」としか言いようのない文例、 "A boy, coming home from school, saw the accident." (p.419)を挙げて、次のように述べている。
このような場合の分詞構文は、連続用法の関係代名詞を用いた構文《A boy, who was coming 〜》に非常に近い。(p.419)
   「連続用法の関係代名詞を用いた構文に非常に近い」という判断の出自については、思うところを後述する。分詞句の関係詞節への書き換え例については、[2−3]参照。

   文例"A boy, coming home from school, saw the accident.."(A boy+カンマ+現在分詞句)については、不定冠詞を冠された名詞に続くカンマの説明に、一言どころか、三言四言費やしてもらう必要がある。"A boy, who was coming 〜"の「A boy+カンマ+非制限的関係詞節」の"A boy"について、あるいは、この文は"A boy who was coming 〜 ....."とはどのような相違があるのかについて、ある程度の言葉数を費やしてほしいと言っても同じだ。ただし、これをうまく説明するのは容易ではない。成功しているとは言い難い記述を挙げる。

(2)限定用法では関係詞節が先行詞の意味を限定し、継続用法は先行詞の意味を限定しないということから、全く同じ形の文でも、その両者によって意味に相違が生じる。
      I like a dog which is faithful.
      (私は忠実な犬が好きだ〔忠実でない犬はきらいだ〕)〔限定方法〕
      I like a dog, which (=because it) is faithful.
      (私は犬ならどれでも好きだ。犬は忠実だから〔すべての犬が好きだ〕)〔継続用法〕
(高梨健吉『総解英文法』、p.177)
   説明されるべき眼目は何であるのかが把握されていない。カンマを伴う関係詞節という形で提示される情報の内容は先行詞(の指示内容)による制限を受ける、という点が眼目である。 "a dog"の指示内容について何を語り得るのかを意識しなくてはならないのである。ここでは、"a dog"の指示内容は関係詞節を用いて提示し得る情報内容に一定の制限を加える、ということになる(「限定的修飾」と「非限定的修飾」の区別については[1−18], [1−22], [1−23]参照、「不定冠詞+名詞」の指示内容という点については第一章第4節及び[1−31]参照)。「話者の念頭には具体的な一匹の犬しかないとしたら」([1−18]参照)、その話者は、I like a dog, which is stupid and greedy.〈ぼくには気に入っている犬が一匹いて、馬鹿で食いしん坊なんだ。〉などと発話することも可能であろう。ただし、第一章第5節でも述べたように、話者の視点からということなら、話者はいかようにも語り得るということに過ぎない。

   拍子抜けするほど簡潔でありながら、見事、とでも言うしかない記述を林語堂『開明英文法』から紹介しておく。

I know the man who escaped from prison.(どの男かを限定している)
I know this man, who is a dirty rascal.(その男を記述している)(8.11、見出し番号)
   こうした判断を上記例文(高梨健吉『総解英文法』)に当てはめれば次のようになろう。
I like a dog which is faithful.(どんな犬であるかを記述している)
I like a dog, which is faithful.(ある特定の犬もしくは犬という生き物について記述している)
   ただ、これほど「きわどい」例を学習用参考書中に挙げるのは不適切であると言わねばならない。以下は、「きわどさ」が意識されている記述の一例である。
不定冠詞(INDEFINITE ARTICLE)が付いた名詞句は、特定的(SPECIFIC)に解釈される場合には、非制限的関係詞節の先行詞となることができるが、非特定的(NON-SPECIFIC)な場合には、なることができない。

[9] a . John didn't see a lorry, which came just around the corner.
        (ジョンは、トラックに気付かなかった。それはちょうど角を曲ってきたところだった)
        [a lorryは特定的]
      b . *A man, who comes to John's party, sneezes. [a man は非特定的]

ただし、不定名詞句を先行詞とする非制限的関係詞節の文法性(GRAMMATICALNESS)の判断には個人的な揺れがあり、[9a]の例文に関しても、文法性が低いとする人がいる
(荒木一雄・安井稔編『現代英文法辞典』、non-restrictive relative (clause)(非制限的関係詞(節))の項)(下線は引用者)

   類似の記述。
特定的な不定名詞句は、非特定的な不定名詞句とは違って、非制限的関係詞節の先行詞となることがある。

〔8〕I met a logician, who is teaching at Chicago.[a logicianは特定的]

しかし、このような文の文法性の判断には個人差的な揺れがある

(安井稔編『コンサイス英文法辞典』, specific (特定的)の項)(下線は引用者。更に、[1−38], [1−48]参照)

   こうした「きわどさ」については、また「不定冠詞+名詞」と「カンマを伴う名詞修飾要素」との関係についても第一章第5節で詳述した。非制限的修飾に伴うカンマの役割については第一章第3節参照。

(〔注2−4〕 了)

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