株式を活用した経営戦略の色々

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はじめに

わが国は、議員立法により商法が改正され、1997年6月1日から「ストック・オプション制度」が可能となり、1999年10月1日改正の商法により「株式交換・移転制度」が可能となった。ストック・オプション制度は、役員・従業員などに自社の株式の引受権を付与して株価が引受価格より上昇した場合にはキャピタル・ゲインを得られるというインセンティブ制度である。株式交換は、金銭の代わりに株式を企業買収に使用できたり、企業再編に使用できるというものである。双方ともに日本企業の競争力強化に使用できるものである。

政府は、次に、会社分割(スピン・オフ)を導入が5月24日の参議院で成立し、平成13年4月施行とされた。また、政府・自民党は、事業部門別の株式(トラッキング・ストック)の解禁を検討しており同じく平成12年秋に法律改正を目指していると伝えられている(2000年3月21日日経)。

遅々として進まない日本の制度改革は、米国の株式文化のダイナミズムに照らすと、商法という厚い壁が日本企業の構造改革に障害となって覆い被さっている。

例えば、株式分割の制限として;
(1)商法で額面株式一株5万円という規定があり、株式分割(stock split)に限界が生じて、一株当たり額面が高額なため株式市場で一般投資家には手が出せなく株式の流動性が阻まれていたり、(例えば、マイクロソフト社の普通株式の額面は$0.0000125/一株であるが、株価は$100前後。時価が$100を超えると株式分割する場合が多い。時価発行しているため、額面は何も意味していないのである。また、一株当たり純資産は99年6月決算時点で$7.3である。)、株主数が増えずナスダック・ジャパンに見るように上場維持基準が厳しいものとなったり、

(2)また、株式分割は株主への利益還元効果があり(株式分割により取得した新株を市場で売却することで株主はキャピタルゲインを得ることができる・・マイクロソフト社は普通株式の配当はしていないが株式分割で株主に還元している)、普通株式の配当金の代替として活用している。

ストックオプションの制限として、
ストックオプション制度を導入しても、子会社の役員及び従業員、加えて、起業支援しているコンサルタント等への付与について認めていない。

このホームページに紹介する米国には、株式の最低額面の規定は無いし(米国会社の普通株の額面を参照)、日本の商法のような最低資本金の制度もなく起業しやすい。つまり、額面は自由、資本金も自由である。したがって、株式分割(stock split)も臨機応変に行えるのである(日本の商法では額面株式について一株当たり5万円の壁がある)。

加えて、下記に紹介した実例の中で、ゼネラルモーター(GM)は、2000年6月に自社のトラッキングストック普通株を約70億ドルを拠出して従業員の企業年金資産を増加させ、確定拠出年金の退職給付債務を解消した。つまり自社株を企業年金に発行して年金債務を解消した。

また、従業員持ち株制度(ESOP)では、自社株をESOPに拠出することで従業員の退職給付の原資に使用できる。企業は、資金の拠出ナシに、自社株のESOPへの発行で従業員退職給付の原資となるというものである。
自社株を拠出できる退職給付の基金となるものに米国の確定拠出年金である401kもある。

株式を使って、役員従業員等にストック・オプションを付与する、会社組織を再構築するためスピン・オフして会社を分割する、株式交換により会社を買収するなど、エクイティ・カルチャーが健全に発達してはじめて機能するシステムである。旧来であれば、銀行金融に依存していた取引が株式で行え、迅速・機敏に行えるようになるのである。

また、米国のエクイティ・カルチャー(株式文化)は企業の財務に豊富な選択肢を与え、自社に最適の財務を構築するため、こうしたエクイティ・カルチャーの専門的知識を具えた財務担当最高責任者(Chief Financial Officer、CFO)を生み出すことになる。日本のように間接金融中心では、財務担当は銀行との関係だけで済み、日本のCFOは形だけのものとなる。

遅れている日本のエクイティ・カルチャーのインフラ整備は今始まったばかりである。エクイティ・カルチャーが機能するには、会社法、証券取引法、会計基準(財務情報の開示基準)、資本市場が健全に機能していること、税制など総合的にインフラ整備されていなければならない。活力ある経済への回復の為に、早急なインフラ整備が求められている。

資本市場の基礎は、企業の情報開示である。株式文化(エクイティ・カルチャー)を健全に機能させるためには投資家の判断できるだけの情報開示を必要としているのである。ヨーロッパは、エクイティ・カルチャーを選択して、ベンチャー向け証券市場を活性化させベンチャーの育成にシフトしている。ヨーロッパの状況は「国際会計基準」参照。

会社分割 (スピン・オフ、spin-off, split-off ,split-up, carveout)

会社分割(スピン・オフ)とは、上場会社である親会社が子会社の株式を親会社の株主に無償交付することで、親子会社関係を解消しグループからの分離・分割することで、一方、親会社株主にとっては、従来の親会社株式と旧子会社の株式を所有する方法である。

欧米では、グループ全体の連結財務諸表を基礎にしており、子会社の事業も、連結上は一事業部門である(連結上は、親会社の投資と子会社の資本金は内部取引として消去されてしまうため)。加えて、分離する事業部門は、親会社の事業部門として法人格を持たなくても、事業部門の資産・負債を分離して既存株主に株式を発行しても同様の会社分割(スピン・オフ)ができる。

通常、会社分割を行う場合は、成長分野の事業を行っている子会社を会社分割する場合が多い。

スピン・オフ前 スピンオフ後
株主
A社株主
A上場会社
B連結子会社
株主
A社及びB社株主となる
A上場会社 B上場会社
スピン・オフによってA社とB社は資本関係(親子関係)が無くなる。

スピン・オフの会計処理:
A上場会社の単独財務諸表は、借方)利益剰余金(B社分割)/貸方)B社株式となり、
連結財務諸表上も、借方)利益剰余金(B社分割)/貸方)B社純資産(資産・負債))

会社分割後は、B社は子会社ではなくなるためA社の連結財務諸表には連結できない。

つまり、スピン・オフとは、B連結子会社(連結上はB事業部門)の株式を、A社の株主に株式を交付する。B社はA社とは資本関係がなくなる。A社の株主は、A社の株式はそのままで、B社の株式を入手することができる。この方法は、スリー・エム社(3M)が、イメーション(MOなどの製造・販売会社)を分割した際に行われた。また、GMが連結子会社であった軍事防衛事業部門をスピン・オフした。

通常のスピン・オフについて、米国の具体的な例を以下に紹介してみる。

コラーゲン社(Collagen Corporation ナスダック上場企業)は、1998年7月31日、100%子会社であるコヘージョン・テクノロジー社(Cohesion Technologies,Inc。略称をCT社とする)の全株式をコラーゲン社の株主に渡すスピン・オフに関し、米国歳入庁(IRS米国国税局)より、コラーゲン社のCT社をスピン・オフ(会社分割)に対し及びコラーゲン社の株主が受け取るCT社の株式、つまりコラーゲン社とコラーゲン社の株主双方についていかなる損益も生じないという無税認定書(Tax-Tree Ruling)を受け取ったと公表した。

コラーゲン社の株主に渡すCT社の株式を配当(法人税控除後の利益から配当するため法人税は無税)という条件で無税とした。このIRSの無税承認後、スピンオフに関してコラーゲン社の臨時株主総会で承認を得て、1998年8月中旬に、スピンオフを実施(基準日を1998年6月30日現在の自己株式を除く発行済み株式に対して実施)。CT社の株式はナスダック・ナショナル・マーケットでシンボルマークCSONで取引する。 なお、コラーゲン社は、社名をコラーゲン・イーセティックス社(Collargen Aesthetics,Incorporated,"CAI")に変更した(ナスダックのシンボルマークはCGENで変更無し)。

つまり、CT社のスピンオフに際し税務上の取扱いが重要なことが分かる。コラーゲン社は、CT社の株式をコラーゲン社の株主に渡すことによって、その対価はない。したがって、損失か利益処分よる配当ということになる。税務当局は、配当とすることで法人税を無税とする(税引後の利益処分とする)。

一方、コラーゲン社の株主は、CT社の株式を受け取るが、コラーゲン社の旧株式はCT社を含んでいたためCT社の株式をスピンオフすることで、理論的には(株価は別にして)、株式が、CT社を除いたコラーゲン社の株式とCT社の株式に分割されたに過ぎない。そこで、コラーゲン社の株主が、CT社の株式を受け取っても所得税は無税扱いとしている。但し、上記のようにIRSの事前承認を必要としている。

CT社の分割は、コラーゲン社の連結決算上、CT社の純資産相当額の減少が”CT社の会社分割(spin-off)”として利益剰余金計算書に区分表示される。

次に、米国会計基準(国際会計基準35号も同様)に関して、コラーゲン社の連結損益計算書に、CT社を「廃止事業 Discontinued Operation」として、継続事業(Continued Operation)と区分表示することが求められる。収益性を読者が判断しやすいようにするためである。財務情報の開示が重要な要素となっているが、日本にはこの会計基準はない。

日本の会社分割法制

2000年5月24日の参議院本会議で会社分割法案が可決成立し、2001年1月から施行

日本の会社分割制度は、上記米国の会社分割(スピン・オフ)とは異なっている。日本の商法の規定は、連結決算を基礎とせず、個別会社を基礎にして「事業部門の分離」として捉えており(子会社の分離とは考えていない)、そのことから「新設分割」に限定している。米国の子会社の分割および事業部門の分離いずれでもよいという連結ベースの考え方と異にしている。

会社分割「人的分割・新設分割」の場合
会社分割前 会社分割後
株主
A社株主
A上場会社
甲部門 乙部門
株主
A社株主

新設会社
株式を交付
A上場会社 B会社
甲部門
分離
乙部門
株主
A社及びB会社株主となる
A上場会社 B社
甲部門 乙部門
A社とB社は資本関係(親子関係)は
なくなる。
東京証券取引所は、分割会社の株式
公開(IPO)の基準を別途設定と発表。
乙部門の資産・負債を分離し新設会社B会社を設立し、B社の株式をA社株主に交付する。
この会社分割の効果は、分割登記の時とされており、新設会社が条件となる。
米国のように既存の子会社をスピン・オフ(会社分割)することは改正商法の規定ではできない。

A社の会計処理は、
借方)利益剰余金・・会社分割/貸方)純資産(B部門の資産・負債)または、
借方)資本金又は準備金/貸方)純資産(B部門の資産・負債)である。
資本金等の減少の仕訳は奇異であるが改正商法の規定に、「分割によって設立する会社が分割をする
会社の株主に対して発行する株式の割り当てをする場合において、分割する会社の資本又は準備金の
減少をするときは、減少すべき資本の額又は準備金に関する事項」を分割計画書に記載することになっ
ているためである。

会社分割「物的分割・新設分割」
従来の現物出資と同じ
会社分割前 会社分割後
株主
A社株主
A上場会社
甲部門 乙部門
株主
A社株主

A上場会社
株式交付
B会社
甲部門
資産・負債分離
乙部門
株主
A社株主
A上場会社
甲部門
B会社
乙部門
従来の現物出資と同じで、検査薬の検査が不要になったこと、債権者保護の規定で、
個別債権者の承諾を不必要となった。

A社の会計処理は、借方)B社株式/貸方)純資産(B社の資産・負債)である。
なお、連結決算をすればB社は、A社の一部門と同じである。


次に、吸収分割であるが、株式移転制度(持ち株会社設立)と共に制度化をしたのは、大手銀行(みずほグループ:日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行)の再編のため設けられた制度であることが分かる。
会社分割「吸収分割」について
持ち株会社の設立
(商法第364条)
持ち株会社
(完全親会社)
(完全子会社)
A銀行
(完全子会社)
B銀行
(完全子会社)
C銀行



























はじめに、グループ化するそれぞれの銀行の株主から株式と交換に新設の持ち株会社の株式を
交付し100%持ち株会社を設立する。
みずほグループの場合は、2000年9月29日に、持ち株会社として「みずほホールディングス」を
設立する。

持ち株会社の設立時の会計処理は、
借方)A銀行株、B銀行株、C銀行株/貸方)資本金、資本準備金

吸収分割を行い、重複部門を整理する。
吸収分割を行い、
重複部門を整理する。
持ち株会社
(完全親会社)
(完全子会社)
A銀行
(完全子会社)
B銀行
(完全子会社)
C銀行









A銀行に法人部門を吸収させる。B及びC銀行の法人部門の資産・負債をA銀行に吸収させる。
B銀行に個人部門を吸収させる。A及びC銀行の個人部門の資産・負債をB銀行に吸収させる。
C銀行に投資部門を吸収させる。A及びB銀行の投資部門の資産・負債をC銀行に吸収させる。
部門の資産・負債を吸収した銀行の株式を交付する相手が、相手銀行である場合は「物的分割」、
相手銀行の株主であれば「人的分割」としている。

みずほホールディングスの場合は、2002年4月に、持ち株会社の下で個人・中小企業取引、
大企業取引、信託、投資銀行・ホールセール証券の4つに分社化する(日経00年8月19日)。
しかし、みずほホールディングスの吸収分割は、連結グループ内の事業に何ら変更がないので、
持ち株会社が公表する連結財務諸表の視点では、会社分割とはならない。

商法改正の条文を見ると、会社分割を商法特有の「単独の会社」を基礎にしており、連結ベースでは規定していない。したがって、「会社分割」を事業部門の資産・負債を分離し、その分離した事業部門の株式を既存株主に割り当てるという構成になっている。そのため、非常に難解な手続きとなっている。分離した新設会社(事業部門)の資本金、資本準備金等の規定や、「分割によって設立する会社が分割をする会社の株主に対して発行する株式の割り当てをする場合において、分割する会社の資本又は準備金の減少をするときは、減少すべき資本の額又は準備金に関する事項」を分割協議書に記載することになっている。みずほグループなどの銀行再編成を対象として特殊な形態の「会社分割」制度ができており、一般事業会社が利用しやすい会社分割制度にはなっていない。こうした会社分割は、非常に特殊なケースであろう。

NECの事例(改正商法上は会社分割であるが、連結決算上は会社分割とはならない例)
2000年8月26日、NECは、系列の通信機メーカーである日通工(NECの持ち株比率34%の関連会社)にPOS(販売時点情報管理)端末事業と企業向け電話機事業を2001年4月に移管すると発表した。
NECは自社のPOS端末事業と電話機事業を日通工に移管し、日通工は移管された事業の価値に相当する株式37百万株(約200億円)をNECに割当てる。この結果NECの持ち株比率は34%から53%の連結子会社となる。

改正商法の吸収分割・物的分割に該当するが、会社分割といえるのはNEC単体としての視点である。連結決算では、34%所有の日通工が、NECの事業部門(資産・負債)を日通工へ移管したことにより、NECの53%所有の連結子会社となり、日通工の資産・負債・収益・費用はNECの連結財務諸表に合算される(連結上は会社分割とはならない)。NEC単独決算から考えると会社分割であるが、連結上は逆に合算されることになる。NECの経済実態は事業部門(資産・負債)の移管により日通工の議決権の過半数を取得する買収であるこれは連結決算で見る米国のスピン・オフ(Spin-Off、会社分割)には該当しない。国際的には、連結ベースが基本。わが国でも、証券取引法が連結中心主義に移行したが、商法が連結決算に対応していない。

一般事業会社の場合、分割したい事業部門は、当初より子会社にしているか、従来の現物出資(事業部門の資産・負債=純資産)で100%子会社を設立して、子会社の成長性を見込まれ(株価上昇が見込まれる)場合に、その100%子会社を親会社株主に無償交付して会社分割(Spin-off)を行う場合が多いであろうが、こうした場合の連結ベースでの会社分割は、改正商法の規定では明確には読み取れない。
そもそも、分離しようとする事業は、当初より業績等を明確に区分するため子会社の形で業務を行っている場合が多く、改正商法はそうした実状を踏まえていないようである。

「会社分割法制」ばかりでなく、下記に示す改正商法のストックオプション制度も、株価は連結決算の業績を反映し、事業に協力してくれた子会社の役員・従業員や、株式公開(IPO)まで支援してくれたコンサルタントに対してストックオプションを付与できない。欧米では当たり前になっていることが、なぜ日本ではだめなのかさえ判らない場合が多い。法制化する際に検討した法制審議会の委員が解説本を著しているが、その解説でもそうした疑問には触れていない。「拙速で決めたため、制度上の不備が目立つ」との指摘があるが、十分な検討がされているのか疑問である。

遅れ馳せながら日本の株式市場は、欧米同様に連結財務諸表中心主義の情報開示に転換され、企業経営も「連結経営」にシフトしつつある。間接金融から資本市場を通じた株式分化(エクイティカルチャー)への強化が望まれている中、改正商法は旧態依然として個別企業中心の法体系であることが露呈された。公共の利益に反しない限り、企業にとって活動しやすいインフラを整えるべきではなかったか。

日本でも、2000年5月24日の参議院本会議で会社分割法案が可決成立し、2001年1月から施行だが、税法(法人・個人)、会計基準、証券取引法の財務情報の開示などは未定。米国では、上記の通り、会社分割の臨時株主総会の決議に、会社分割による株主及び会社の無税認定が重要な要素となっている。会社分割制度が有効に機能するためには、税制の整備が緊急に求められよう。当然、財務情報の開示についても分かり易く明瞭にすることが求められよう。
 平成29年度税制改正スピンオフ税制について
 平成29年度税制改正により、従来は非適格組織再編と取り扱われてきたスピンオフに関して、平成29年4月1日以後の一定の要件を満たすものについては適格組織再編として取り扱われることとなった。

新設分割型分割によるスピンオフについて

1 改正内容

適格分割の範囲に、分割法人が行っていた事業の一部を、その分割型分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割として一定の要件に該当するものが加えられた


下記ストラクチャー図にあるような新設分割型分割については、従来は非適格分割として取り扱われていたが、平成29年4月1日以後の適格要件を充足する新設分割型分割に関しては適格分割として取り扱われ、移転資産・負債に対する譲渡損益の課税が繰り延べられ、かつ、株主へのみなし配当課税も生じないこととなった。
新設分割型分割によるスピンオフ
会社分割前 会社分割後
株主
A社株主
A上場会社
甲部門 乙部門
株主
A社株主

新設会社
株式を交付
A上場会社 B会社
甲部門
分離
乙部門
株主
A社及びB会社株主となる
A上場会社 B社
甲部門 乙部門
A社とB社は資本関係(親子関係)は
なくなる。

2 税制適格要件について

新設分割型分割のうち、適格分割の範囲に追加される分割は、具体的には以下の要件の全てに該当するものとされている(法法2十二の十一ニ、法令4の3H)

 

税制適格要件

@

分割型分割に該当する分割で単独新設分割であること(法法62の6@に規定する分割は除く)

A

分割に伴って分割法人の株主の持株数に応じて分割承継法人の株式のみが交付されること

B

分割法人が分割直前に他の者による支配関係がないものであり、分割承継法人が分割後に他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと(※1)

C

分割法人の分割前の役員又は重要な使用人(当該分割法人の分割事業に係る業務に従事している者に限る)(※2)が分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること

D

分割法人の分割事業の主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していること

E

分割法人の分割直前の分割事業の従業者のおおむね80%以上が分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること

F

分割法人の分割事業が分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること

(※1)他の者による支配関係
移転資産が分割前後を通じて他の者によって支配されることがないこと、すなわち独立して事業を行うことを担保するための要件となっている。

株式分配によるスピンオフについて

1 改正内容

現物分配法人により発行済株式等の全部を保有されていた法人(以下「完全子法人」)の株式の全部の分配について、事業か一資産としての子会社株式かの違いはあるものの、資産を株主に交付するという経済的実体は上記1の新設分割型分割と同様であることから、株式分配として組織再編成の一類型として位置づけた上、適格要件に該当するものについては現物分配法人における完全子法人株式の譲渡損益について課税しないこととするとともに、株主へのみなし配当課税も生じないこととした。

(※2)重要な使用人
重要な使用人の定義は明記されていないが、財務省による「平成29年度 税制改正の解説」では以下のように解説されている。
「重要な使用人とは、会社法においてその選解任につき取締役会の決定事項とされている重要な使用人(会社法362C三)と同様のものであり、具体的には、個別に総合的に判断することになるが、通常、支店長、本店部長、執行役員といった者が該当するものと考えられる。」


株式分配によるスピンオフ
会社分割前 会社分割後
株主
A社株主

A上場会社
株式交付
100%子会社
B会社
甲部門
資産・負債分離
乙部門
株主
A社株主がB社株式を取得する
B会社
乙部門
B社株式をA社株主に分配する。


2 株式分配

株式分配とは、現物分配(剰余金の配当又は利益の配当に限る)のうち、その現物分配の直前において完全子法人の当該発行済株式等の全部が移転するものをいう(法法2十二の十五の二)。

3 税制適格要件について

適格株式分配とは、完全子法人の株式のみが移転する株式分配のうち、完全子法人と現物分配法人とが独立して事業を行うための株式分配をいい(法法2十二の十五の三)、以下の要件の全てに該当するものとされている(法令4の3O)。

 

税制適格要件

@

現物分配により現物分配法人の株主の持株数に応じて完全子法人株式のみが交付されること

A

現物分配法人が現物分配直前に他の者による支配関係がないものであり、完全子法人が現物分配後に他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと

B

完全子法人の株式分配前の特定役員の全てがその現物分配に伴って退任をするものでないこと

C

完全子法人の株式分配直前の従業者のおおむね80%以上が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること

D

完全子法人の主要な事業が引き続き行われることが見込まれていること

 平成30年度税制改正がM&A・組織再編の実務に与える影響

カーブ・アウト
カーブ・アウト(Carveout)とは、部分的なスピン・オフとして知られている。親会社は、B社株の20%以下の持分を公募し、後日現在の株主にスピン・オフする方法である。公募により市場価格が形成されるメリットがある。20%の公募部分は、第三者の新たな株主からの払込がある。

スプリット・オフ
スプリット・オフ(Split−Off)とは、A親会社がB子会社の株式を、既存の株主と親会社株式であるA社株式と交換する。すべての株主が参加するかどうかで、交付する株式が比例方式になるか又は比例方式とならない。

スプリット・アップ
スプリット・アップ(Split-Up)とは、親会社が、複数の子会社の株式を、既存の株主と親会社株式であるA社株を交換する方法。親会社は清算する。無論、親会社の資産等は、子会社へ移管する。

トラッキング・ストック(Tracking Stock)

トラッキング・ストックとは、親子会社関係を維持しながら、ある特定の子会社の事業の成果を基礎にして配当する普通株式である。トラック(Track、・・の跡を追う、わだちを踏む)。発祥は、GM社(General Motors Corp.)がロス・ペロー氏からEDS(Electoronic Data Systems)社とういコンピュータ・サービス会社を買収し、1984年10月にEDSの業績にトラックした”GME”株式を発行したことによる。

分かり易くするために、自動車製造・販売会社のGM(General Motors Corporation)の実例で紹介してみる。なお、米国ではグループ全体を示す連結決算ベースで事業部門を捉えており、子会社が行っている事業を「事業部門」としていることをお断りしておく。

GMが100%所有し連結子会社であるヒューズ・イレクトロニックス・コーポレーション(Hughes Electoronics Corp.)は、ディレクトTV(DRECTV)事業、通信衛星20個を保有・運営している子会社などを持ち通信・放送・衛星運用事業を行っている。GMが発行している普通株は、$1 2/3額面普通株と、クラスHと呼ばれるヒューズ事業を表象する普通株の2種類である。クラスH(Class H)普通株式がトラッキング・ストックといわれる普通株式である。ヒューズ社の事業成果を反映した配当を支払う株式である。クラスHは普通株式としてGMの株主総会の議決権(一株に対して0.6の割合)とGMの残余財産分配権(一株に対して0.6の割合)を持っているが、直接ヒューズ社の残余財産分配権は持っていない。クラスH株に対する配当額の計算式が開示されているが最終的にはGMの取締役会が決定することになっている。

クラスH株に対する配当の決定は取締役会にあるが、定款には、GM取締役会に「資本株式委員会(Capital Stock Committee)」を設置し異なる二つの普通株式の利益不一致が生ずる可能性のある事柄について監督することや、外部的に責任を負うGM取締役会の方針が「GM取締役会方針書(GM Board Policy Statement)」として明らかにしている。

GM取締役会方針書(GM Board Policy Statement)には、次のような記載がある。
(A)一般方針(1)GMの取締役会は、二つの異なる普通株主の利益の不一致の重要な事項は、最善の方法で適正な考慮によって解決するものとする。(2)GMとヒューズ社との間で行われる重要な取引は、適正な取引とするための手続書を作成する。
(B)四半期報告書(a)ヒューズ社の取締役会は、株主(GMが100%株主)に対して、最低年度で、四半期配当を考慮しなければならない。(b)GMの方針として、クラスH株式に関する四半期配当に関して、GMが受取ったヒューズ社の配当と一致していなければならない。(c)GMのクラスH株式に対する四半期配当金は、ヒューズ社から受取ったときに速やかにしなければならない。
ヒューズ社の利益は四半期で計算され、$1 2/3額面普通株式とクラスH普通株へ配分される利益計算をすること、他に発行している優先株式(シリーズH→クラスH普通株に転換可能な優先株)等の優先配当に関する事項、デラウエア州の会社法による配当可能利益の計算による制限などについて記載されている。つまり、取締役会に決定権限があるとしても、計算方法の明示や手続き等について明らかにしている。

クラスH普通株へ配分される利益計算の配分割合(Fraction):
なお、ヒューズ社の利益は、トラッキングストック(クラスH普通株)と$1 2/3額面普通株の双方に配分されるように配分割合(Fraction)を決めている。つまり、ヒューズ社の利益は二つの異なる普通株に配分されるのである。この考えは、ヒューズ社の前身であるヒューズ・エアークラフト社を1985年に買収したときに、初めてクラスH普通株を発行し、売却相手の株主との交渉(negotiation)で決まったと記載されている。
クラスH普通株への配分割合は、分子にクラスH普通株の期中発行済み加重平均株数、分母にGMの普通株式すべてがクラスH普通株を発行したと仮定した株式数、ということになっている。

ヒューズ社の業績(連結財務諸表)は、ヒューズ社の連結財務諸表及びGMの連結財務諸表で、四半期報告書、年次報告書の形で株主等へ提出されている。因みに、年次報告書等には、まだヒューズ社に配当するほど成果は出ていないことから(リスク・ファクターなども明示している)、過去に配当していないことと、近い将来に配当する計画が無いことが明示されている。

GMの連結決算である1999年の年次報告書(Form10k)を見ると、クラスHには配当が無いが、第4四半期にはクラスHの株価が$1-2/3額面株式より高騰している(下記参照)。

1999 Quarters
1999年四半期
Cash dividends per share of common stocks 普通株一株当たり配当 1st 2nd 3rd 4th
$1-2/3 par value 1 2/3額面株 $0.50 $0.50 $0.50 $0.50
Class H クラスH株 $- $- $- $-
Price range of common stocks 普通株の時価の最高・最低株価
$1-2/3 par value (1): High 1 2/3額面株   高値 $93.88 $94.88 $72.44 $79.06
              Low            低値 $69.19 $61.06 $59.75 $60.69
Class H (1): High クラスH株     高値 $53.00 $63.88 $62.44 $97.63
        Low            低値 $38.50 $48.94 $48.75 $55.94
(1)主要証券取引所は、ニューヨーク証券取引所である。

ヒューズ社の業績を反映するクラスH普通株式の時価が、1999年第4四半期には、GMの普通株式の高値79.06ドルを超えて高値は97.63ドルとなった。

つまり、クラスH株は、ヒューズ・イレクトロニックス社の事業を表彰する普通株式であるが、会社が清算してもヒューズ社の財産分与の権利を有しない。通常のGM株式としての権利を有している。また、下記に示してるクラスH株の一株当たり利益にも見られるように配当する利益は現在のところないため配当はしていないと同時に、配当政策にも、近い将来には配当する予定はないと明記している。つまり、株価上昇によりキャピタル・ゲインで株主の利益を確保している。

GMの連結決算による連結利益と一株当たりの利益は、次の通りとなっている。

12月31日終了する事業年度
(単位百万ドル、一株当たり利益を除く)
Years Ended December 31
(Dollars in Millions Except Per Share Amounts)
1999 1998 1997 1996 1995
Total net sales and revenues 純売上高及び収入合計 $176,558 $155,445 $172,580 $158,281 $154,954
Income from continuing operations
before cumulative effect of accounting changes
会計方針の変更による累積影響額前の継続事業からの利益 $5,576 $3,049 $6,483 $4,100 $4,726
Income (loss) from discontinued operations 廃止事業からの利益(損失) 426 (93) 215 863 2,207
Cumulative effect of accounting changes 会計方針の変更による累積影響額 (52)(1)
Net income 純利益 $6,002 $2,956 $6,698 $4,963 $6,881
===== ===== ===== ===== =====
$1-2/3 par value common stock $1-2/3額面普通株式
Basic earnings per share (EPS) from continuing operations 継続事業からの
基本的一株当たり利益
$8.70 $4.40 $8.52 $5.08 $5.57
Basic earnings (loss) per share from discontinued operations 廃止事業からの
基本的一株当たり利益
$0.66 $(0.14) $0.18 $0.98 $1.71
Diluted EPS from continuing operations 継続事業からの
希薄化した一株当たり利益
$8.53 $4.32 $8.45 $5.04 $5.52
Diluted earnings (loss) per share from discontinued operations 廃止事業の
希薄化した一株当たり利益
$0.65 $(0.14) $0.17 $0.98 $1.69
Cash dividends declared per share 一株当たり配当額 $2.00 $2.00 $2.00 $1.60 $1.10
Class H common stock (3) クラスH普通株式(3)
Basic EPS from continuing operations 継続事業からの
基本的一株当たり利益
$ - $ - $2.30 $1.83 $1.39
Basic EPS from discontinued operations 廃止事業からの
基本的一株当たり利益
$ - $ - $0.87 $1.05 $1.38
Diluted EPS from continuing operations 継続事業からの
希薄化した一株当たり利益
$ - $ - $2.30 $1.83 $1.39
Diluted EPS from discontinued operations 廃止事業からの
希薄化した一株当たり利益
$ - $ - $0.87 $1.05 $1.38
Cash dividends declared per share 一株当たり配当額 $ - $ - $1.00 $0.96 $0.92
Class H common stock (4) クラスH普通株式(4)
Basic (loss) earnings per share from continuing operations 継続事業からの
基本的一株当たり利益(損失)
$(0.77) $0.68 $0.02 $ - $ -
Diluted (loss) earnings per share from continuing operations 継続事業からの
希薄化した一株当たり利益
$(0.77) $0.68 $0.02 $ - $ -
Cash dividends declared per share 一株当たり配当額 $ - $ - $ - $ - $ -
Class E common stock クラスE普通株
Basic EPS from discontinued operations 継続事業からの
基本的一株当たり利益
$ - $ - $ - $0.04 $1.96
Diluted EPS from discontinued operations 廃止事業からの
希薄化した一株当たり利益
$ - $ - $ - $0.04 $1.96
Cash dividends declared per share 一株当たり配当額 $ - $ - $ - $0.30 $0.52
Total assets 総資産 $274,730 $246,688 $221,767 $216,965 $209,520
Long-term debt (2) 長期借入債務(2) $7,415 $7,118 $5,669 $5,352 $4,100
GM-obligated mandatorily redeemable preferred securities of subsidiary trusts GMが強制的に償還する優先証券 $218 $220 $222 $ - $ -
Stockholders' equity 株主持分 $20,644 $15,052 $17,584 $23,413 $23,310
(1) GM adopted the provisions of the EITF(Emerging Issues Task Force) consensus on Issue No. 95-1, effective January 1, 1995, which resulted in an unfavorable cumulative effect of $52 million after-tax or $0.07 diluted loss per share of $1-2/3 par value common stock.
GMは、1995年1月適用の課題番号95-1のEITF合意規定を適用して、税引後52百万ドルの累積損失、又は、$1-2/3ドル額面普通株の希薄化した一株当たり損失$0.07となった。
(2) Calculated from Automotive, Communications Services, and Other Operations only.
自動車、通信サービス、及びその他の事業のみから計算した。
(3) Prior to its recapitalization on December 17, 1997.
1997年12月17日の資本の再構築後
ホームページ作成者の注記:
1997年12月17日、防衛産業の子会社であるヒューズ・ディフェンス社(Hughs Defense)を切り離すため、会社分割(spin-off)したことによる「資本の再構築」です。
(4) Subsequent to its recapitalization on December 17, 1997.
1997年12月17日の資本の再構築前

上記に廃止事業(discontinued operations)とあるのは、自動システム及び機器の供給事業を行っているデルファイ(Delphi)を、1999年2月5日に株式公開(IPO)した。1999年4月12日のGMの取締役会でスピン・オフ(spin-off)の形でGMから完全に会社分割することが承認された。GMとしてはデルファイの業績を廃止事業として継続事業とは区分して表示しているもの。廃止事業の開示は、米国会計基準と国際会計基準(IAS35号)と同様である。

政府及び自民党は、このトラッキング・ストックを日本にも導入することを検討し、早ければ2000年秋に商法改正を行いたいとしている。日本でも、適用可能な企業が出てきている。

トラッキング・ストックを発行するに際して重要な点は、投資家が判断できる情報開示が重要な要素となる。投資家の信頼を得るだけの情報開示が必要である。つまり、会計基準が完備していることである。適正な損益計算や一株当たりの利益の計算などの会計基準の完成度が高くなくては機能しない。ちなみに、ヒューズ社の連結財務諸表(四半期報告書であるForm10Qと年次報告書Form10K)及びGMの連結財務諸表(クラスH普通株式に係る財務情報が詳細に記述されている)がSECに登録されておりエドガー・データベース(EDGAR DatabaseSECの財務情報サービス)からインターネットで何時でも誰でもが無料で見ることができるようになっている。

情報開示(会計基準)のインフラが整っていて機能する。無論、商法による株主の権利(議決権や配当分配権)を規定しておくこともインフラの一つである。証券取引法では、トラッキング・ストックの対象となっている会社の財務情報の開示規定が必要となろう。GMのケースであれば、ヒューズ社の年次報告書From10Kや四半期報告書Form10QなどGMと同様に開示することが求められている。

GMでは、クラスH株を発行し$1 2/3額面普通株と交換する届出書をSECに3月提出している。届出書によると、この株式交換後に、確定給付型年金基金にクラスH株を約70億ドル(約7千億円)を拠出(contributions)することで企業年金の掛け金を節約できるとしている(確定給付型企業年金については「退職給付の会計」参照)。この届出により、2000年6月、自社株式を年金資産に拠出し退職給付債務を減少させ(時価相当で資本金が増加させた)た。 このほか、クラスH株へ転換可能な優先株の発行・クラスH普通株への転換を約90億ドルを行っており計画的にかなり高度な株式戦略を駆使している。

また、重厚長大企業又は成熟産業にとっては株式時価が低迷し、従業員等に対するストック・オプションを付与し難いが、成長事業を持っていて成長部門の成果を反映したトラッキングストックが発行できるならばストック・オプションを付与して従業員の士気を高めることができる。

これらは、完成度の高い会計基準により適切な情報開示のインフラがあり、会社法による株式発行の自由度・機動性があり、証券監督局(SEC)の適切な情報開示の規定が機能していてはじめて企業が活用できることを証明している。

豪メディア王ルパート・マードックのニューズ社がヒューズ社の株式を取得
2003年4月10日、オーストラリアのメディア王ルパート・マードック(Rupart Murdoch)のニューズ社は、GMの子会社ヒューズ社(DirecTVを所有している)の株式19.9%をGM社から取得することを公表した。この取得以前に、ニューズ社は14%の株式を市場から入手しており、この取得により合計33.9%を保有することになり経営権を握ることになり、マードック氏は、ヒューズ社の参加にあるディレクトTV社の会長になる予定。ニューズ社は、FOXテレビジョン、20世紀FOX映画を傘下におさめている巨大なメディア会社。(スマートマネーCOM  GMの株価 ヒューズ社の株価(NYSE) 参照)

GM社は、ニューズ社から受取る株式譲渡代金は38億ドル。GMの確定給付年金の財源不足に補填する予定。(CNNマネー 参照)


ソニーが日本初のトラッキングストック発行
日本経済新聞は、2000年11月20日、ソニーが事業部門株(トラッキングストック)」の発行することを決めたことを報じた。

2001年1月25日に臨時株主総会を開催して、商法上の種類株として実質的にトラッキングストック(TS)を発行できるよう定款を変更する見通し。ソニーのTSの内容は、1月9日、株主に郵送の臨時株主総会の召集通知に概要が記載していた。インターネット接続サービス「So-net」を運営する子会社、ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)を対象としたTSになる。このTS発行による調達額は、700百億から1千億円調達と見られている。

これによると、現行商法ではTSの明文規定はないが、商法の規定する「種類株」の一種との解釈によって発行に踏み切る。法務省も発行の登記を認める、と報じている。同株の流通を担う東京証券取引所も制度を設ける模様とのこと。

商法が優先株と劣後株以外の種類株を否定しているわけではないとの解釈よってTSを発行する道が開けたとしているが、会社分割及びストック・オプション制度に見るように商法は個別企業のみを対象としており連結ベースでは規定していない。
経済界の要望を受けて政府・自民党が法整備に着手しているもののソニーは商法改正まで待てないと判断。擬似的なTSとして発行できないかを検討していた、としている。
TSに限らないが、商法は競争の激しい市場経済の変化に迅速に対応できていない。

また、新聞では触れていないがTSの対象となった事業部門または子会社の有価証券報告書の登録について、投資家保護のための情報開示として、米国SEC同様に開示を求めることが必要となろう。つまり、証券取引法を整備する必要が生じているが不明。

ソニーの子会社連動株式における情報開示
SONY Corp 株主総会召集通知書 有価証券報告書等
子会社連動株式(トラッキング・ストック)に対する配当、一株当り利益の計算などに関する情報開示が参考となる。
ただし、ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)が利益を出していないため2004年3月期現在配当なし。

株式分割(Stock Split)

株式分割とは、既存の株主に、株式を無償交付するもの。高騰しているナスダック株式の中には、(1)株式分割して株価を下げて、(2)即座に公募増資して資金を調達して、(3)その資金で関連するハイテク企業を買収して事業を拡大し株価を上げるという企業は多い。ハイテクの企業の場合、自社開発していては、スピードに乗れず競争に打ち勝つことはできない。そこで、(開発)時間を買う、つまり、関連する技術を持った企業を買収することになる。この場合、株式分割は有効な手段なのである。

株式分割は、(1)株価を下げる、(2)株式分割しただけ株価は下がらないため既存株主は時価総額が膨らみ利益を得られる、(3)公募増資のためには株価が下がり購入しやすくなるなどのメリットがある。

株式分割は多くの場合、株価が上昇しているときに行われる。理論的には株式分割しただけ株価が下落するはずであるが、その企業の将来性に期待して株価がそれほど下がらないため、株主にとっては時価総額(=株式分割後の株数X時価)が膨らむのが普通である。従って、配当のような効果がある。課税上は譲渡まで課税されない。(但し、日本の場合は利益準備金を原資とする株式分割は課税される。)

日本の場合は、商法218条により取締役会決議で株式分割ができるが、一株当たり5万円額面及び一株当たり5万円の純資産の制限規定(商法218条)があり臨機応変に行うことができない。特に、ベンチャー企業で株式時価が高く流動性を高めたく株式分割をしようにも商法の壁に突き当たりできなかった。
2001年10月1日施行の改正商法により額面株式の撤廃と、商法218条の株式分割後の1株当たりの純資産額が5万円を下ることはできないという規制は撤廃され株式分割ができることとなった。

自己株式の取得(金庫株 Treasury Stock)

米国では役員・従業員・コンサルタント等にストックオプションを付与するため、事前に自社株式を株式市場から買戻しておき、役員等がストックオプションを行使(行使価額で払込がある)する場合に、買戻しておいた金庫株(Treasury Stock)を交付する。

詳細は、「ストック・オプション制度」、「マイクロ・スフト社のストック・オプション制度」「インターネットでストックオプション制度を学ぶ」を参照してください。

金庫株の検討急ぐ(2001年1月)

株価が低迷し、銀行経営に深刻な保有株式の含み益が枯渇する恐れが出てきた。これにより、金融システムへの懸念から、経済産業省は経団連が要求している自社株の取得・保有の自由化(いわゆる金庫株の解禁)について検討を急ぐ考えだ(日本経済新聞00年1月13日報道)。
企業の選択肢が広がることは歓迎すべきであるが、果たして、株価対策になるかは疑問である。つまり、株価は市場が決めることであり小手先の手法で株価が改善することはないからである。株価総額が下がっているときに、自社株を市場から購入すると、発行株式数は減少するが同時に購入資金も社外流出し、その実態は資本の払戻し。

国際会計基準解釈指針(SIC)16号「自社株式(金庫株)の買戻し(Share Capital-Reaquired Own Equity Instruments(Treasury Shares)」に規定があり、金庫株=自社株式の買戻しは株主持分からの控除として会計処理し、金庫株=自己株式の譲渡、発行又は解約から損益を損益計算書に認識してはならない、としているが記米国の会計処理と一致している。つまり、資本の払戻しとしての会計処理を求めているのである。

日本の商法は株式の消却を除いて自己株式の取得は資産として計上し譲渡等で損益を認識している。証券取引法の連結財務諸表になると自己株式は資本の控除項目としており、商法及び証券取引法とで会計処理が整合していない。商法が国際的な会計処理となっていないのである。商法を国際的なものに一致させようとすれば課税所得も変わり税制の問題も出てくる。

最良の株価対策は、企業活動を妨げている各種規制の撤廃であろう。金庫株もその一つかも知れない(しかし、過大な期待はしないほうが良い)。会社分割制度、ストックオプション制度も連結の視点で見直すべきであろう。株式分割制度も5万円の制限を撤廃して速やかに改善すべき点である。株式交換制度も、企業再編を促すには、完全親会社となる場合に限定しない方法に改めるべきであろう。

1300兆円の個人金融資産が安心して資本市場に参加できる透明性の高いディスクロージャーの制度も整備すべきであろう。国ができる株価対策は、公共の利益に反しない限り自由な企業活動ができるインフラ整備と、資本市場の各種制度上のインフラ整備である。これらのインフラ整備は、日米構造協議のあった10年前に整備されているべきではなかったのか。

商法計算書類規則の改正
自己株式(金庫株)解禁(2001年6月22日下記参照)にともない、自己株式を資産の部に計上することを定めた商法計算書類規則第12条1項及び22条の2を削除し、商法計算書類規則第34条4項に「自己株式は、資本の部に別に自己株式の部を設けて控除する形式で記載しなければならない」の条文を加えた。

自己株式の譲渡時の会計処理について何ら規定されていないので不明。「改正商法の自己株式規制撤廃にともなう会計処理の課題」参照
自己株式(金庫株)解禁2001年6月22日参議院本会議可決成立

商法等の一部を改正する等の法律の概要 (2001年10月1日施行 )


T 自己株式の取得及び保有制限の見直し

1 自己株式の取得 (改正商法第210条)
(1)取得の範囲
会社は、定時総会の決議をもって、配当可能利益及び法定準備金の範囲内で、次の定時総会の終結の時までに取得できる自己株式の種類、総数及び取得価額の総額を定め、これに基づいて自己株式を取得することができる。

[注] 法定準備金については、株式総会の決議及び債権者保護手続きを経て、その減少手続きをした上でなければ、これをもっ て自己株式を取得することはできない。

(2)取得の方法
市場価格のある株式は、原則として、市場取引又は公開買付によるが、売主につき株主総会の特別決議を経、他の株主にも売主になる機会を与えれば、市場価格のない株式と同様に、相対取引によることもできる。

(3)取締役の責任
取締役は、営業年度の終わりにおいて資本の欠損が生じるおそれがあるときは、自己株式の買受けをすることができない。
営業年度の終わりに欠損が生じた時は、自己株式を買受けた取締役等は、その欠損額等を上限として賠償責任を負う。ただし、取締役等が注意義務を怠らなかったことを証明すれば、その責任を負わない。

2 自己株式の保有
会社は、取得した自己株式を、期間、数量等の制限なく保有することができる。

3 自己株式の処分等
(1)自己株式の消却 (改正商法第212条)
保有する自己株式については、取締役会の決議により消却することができる。

(2)自己株式の処分 (改正商法第211条)
ア 保有する自己株式については、代用自己株(合併等の際に発効する新株に代わるもの)として利用することができる。
取締役会決議により自己株式を処分することができる。この場合には、新株発行の規定を準用する(この規定による自己株式 の処分は、平成14年4月1日から行うことができる)。

[注] 市場売却を認めるかどうかについては、インサイダー取引及び相場操縦に関する実効性のある規制の可否等と併せてなお 検討する。

U 株式の単位の見直し

1 会社設立時の制限の撤廃(商法第168条の3を削除)
会社の設立に際して発行する株式の発行価額が5万円を下ることができないとの規制を撤廃する。

2 株式分割時の制限の撤廃(商法第218条2項改正)
株式の分割に際して、額面総額が資本額を超えることができないとの制限及び分割後の1株当たりの純資産額が5万円を下るこ とができないとの制限を撤廃する。

3 額面株式の制度の廃止 (商法第199条及び202条は削除)
額面株式の制度を廃止し、無額面株式に統一する。

4 単位株制度の廃止
株式の大きさを引き上げるための暫定的かつ過渡的な制度として導入された単位株制度を廃止する。

5 単元株制度の創設 (改正商法第221条)
会社では、定款で一定の数の株式をもって1単元の株式とする旨を定めることができることとし、この場合には、1単元の株式につ き、1個の議決権を有する。

6 端株制度の整備
端株券の廃止等端株制度を整備する。

注意:自己株式の譲渡については2002年4月1日の解禁が予定されています。

株式併合(Reverse Stock Split)

株式併合とは、発行済み株式数(流通株式数)をまとめること。例えば、発行済みの株式5株を1株にまとめるというようにである。株価が低迷している場合、流通株式数を減少することで株価を上昇させることができる。但し、株式併合により一株当たり時価は上昇するが、理論的には株式を併合しても時価総額(併合後の株式数X併合後の時価)は併合前と同じである。

ナスダックの株式公開維持基準には、一株当たり最低時価がありこれを下回るとナスダックから維持基準をクリアーしていない旨の連絡があり、会社は、株式併合することでクリアーする場合がある。この場合、ナスダックでの取引のシンボルマークも変更される。

日本の場合は、商法214条により定款変更の特別決議(商法343条)で、一株当たり純資産が5万円となった場合、5万円以上とするために株式併合することができるとしている。

株式交換・株式移転制度

2000年10月1日から商法改正により、株式の交換・移転制度ができるようになった。

株式交換制度(商法第352条第1項及び第356条)

完全子会社(100%所有の子会社となる・・例えばB社とする)となる会社の株主の保有するB社株式を、完全親会社となる会社(例えば、A社とする)に移転し、完全子会社となる会社の株主は完全親会社となる会社が株式交換に際して発行する新株の割り当てを受けその会社の株主となることにより、完全親子会社関係を創設する制度である(商法第352条第1項)。

また、完全親会社となる会社は株式交換に際して新株の発行に代えて、その会社の有する自己株式を完全子会社となる会社の株主に移転することができる(商法第356条)

株式交換前 株式交換 株式交換後
A社 A社 A社は新株式を発行
又は自己株式を交換
B社株主 A社
(完全親会社)
株式交換により
B社株主は
A社株主となる
B社株式と交換
100%子会社化
B社 B社株主 B社 (完全子会社)
B社

すでに、有名になったソニーのケースがある。上場子会社2社の株主からそれぞれの株式と、ソニーの株式を等価交換して、ソニーの100%子会社するというものである。ソニーのケースのように、上場子会社の株式の全株を親会社の株式と交換する場合にだけ適用される株式交換制度である。

改正商法では、買収相手の株式の一部(100%以下の株式)を取得して連結子会社とするための株式交換については、買収しようとしている会社の自社株式の発行(増資手続き)に関して規定がない。例えば、下記のような株式交換の規定は存在しない。
ただし、平成13年6月に成立した改正商法・自己株式(金庫株)解禁により、自己株式を交換することは可能となった(改正商法211条)。

フィアット・GMが株式交換方式により資本提携
2000年3月13日、世界最大の自動車メーカーである米ゼネラル・モーターズ(GM)とイタリア最大手のフィアットは、資本提携することになり、GMがフィアット株の20%を取得し、フィアットもGM株5%を持つ。金額にするとそれぞれ約24億ドル(約2500億円)相当になり、現金の授受を必要としない株式交換方式をとる、と公表した。

GMは西欧のシェアが10%と低く、グループ企業の独オペルなどの業績が芳しくない。一方フィアットは最近業績が好転したが、北米市場への足掛かりがなかった。両社は、提携によりエンジンや部品の設計・生産の合弁会社を設立する(朝日新聞00年3月14日)。
GMがフィアットの20%所有するとGMの関連会社となり、持分法適用会社として、フィアットの利益の20%がGMの連結決算に含まれる。無論GM社の一株当たり利益に含まれることになる。

日本の改正商法は、完全親会社及び完全子会社となる場合のみを対象として株式交換制度を規定しており、上記のようなケースは規定していない。国際的で急激な業界再編の中で日本企業はハンデを負わされていないだろうか?

株式移転制度(商法第364条第1項):

完全子会社となる会社(例えば、B社とする)が、その株主の有するその会社の株式を設立される完全親会社となる会社に移転させ、完全親会社となる会社(例えば、A社とする)が設立に際して発行する株式を完全子会社となる会社の株主に割り当てることにより完全親会社を創設する制度である(商法第364条第1項)。

株式移転前 株式移転 株式移転後
A社
設立
A社は新株式を発行
B社株主 A社
(持ち株会社)
(完全親会社)j
株式移転により
B社株主は
A社株主となる
B社株式と交換
100%子会社化
B社 B社株主 B社 (完全子会社)
B社

また、興銀、第一勧銀、富士銀行統合の「みずほグループ」は、持ち株会社「みずほホールディングス」を2000年9月29日に設立して、リテール、ホールセールス、投資銀行業務などの子会社を傘下に持つと伝えられているが、持ち株会社を設立する際に、持ち株会社「みずほホールディングス」の株式と、興銀、第一勧銀、富士銀行の株主から、それぞれの銀行の株式と交換することができるようになった。

東京証券取引所は、「みずほホールディングス」の東証一部上場を承認し、同時に9月22日に、「みずほホールディングス」が保有する興銀、第一勧銀、富士銀行の株式は上場廃止となる。「みずほホールディングス」は現商法で設立のため額面株式の額面は五万円。

9月28日、みずほホールディングスは東京証券取引所に上場した。一株当たり基準値は81万7千円。三行の最終株価、興銀835円、第一勧銀810円、富士銀819円を発行済み株式で加重平均したものとしている。現行商法が一株額面五万円としているため約1千倍の株価となる。また、ストックオプションを付与したいとしているが、三行は子会社となっているため現行商法では付与できない。

資金を必要とせずに、自社の株式と交換に企業買収も可能となった。しかし、次のような場合もある。

長距離・国際通信のNTTコミュニケーション(NTTコム)は、2000年5月8日、海外進出の足掛かりの為に、米国データ通信企業のベリオ社を6000億円で買収すると発表した。買収資金は全額銀行からの借入金で賄う、としている。これに対して、米国では、「ネット企業の株価が調整局面にある今の時期、現金で買収するNTTの決定は信じられない」という見方があると伝えている。米国では、企業価値の定まらない新興企業の買収は株式交換で実施するのが一般的。しかも高騰していたネット関連株が不安定な動きを見せているときだけに「今回の買収のニュースを聞いて驚いた」(米西海岸在住のコンサルタント)との声も出ている。(日経5月10日報道)

NTTコムが株式交換によりベリオ社を買収できなかったのは、NTT法で外国人持ち株比率を20%未満に制限しており、すでに現状約14%を外国人が所有していたからとしている。(日経5月11日報道) 外人持ち株比率20%の制限は、日本の基幹通信企業に関する国防上ないし安全保証の問題であろうが、株式の交換による買収(資金不要)は、意外なところから足枷となった模様。

ストック・オプション(Stock Option)

ストック・オプションとは、自社株式を予め決められたオプション行使価格で購入できる制度である。詳細は、「ストック・オプション制度」、「マイクロ・ソフト社のストック・オプション制度」「インターネットでストックオプション制度を学ぶ」を参照してください。

商法改正・ストックオプション制限撤廃(2001年11月成立)
2001年11月21日、参議院本会議でストックオプション(新株予約権)の制限撤廃を含む商法改正案が可決成立した。施行は2002年4月の予定とされている。従来、ストックオプションの付与対象者が自社の役員・従業員に限定されていたが、付与対象者は限定されないこととなった。

「新株予約権」という用語が使用され、新株引受権やストックオプション、自己株式の移転義務を総称して「新株予約権」として規定を設けている。したがって、新株予約権は、新株引受権付社債や転換社債を含んでいる。
新株予約権
従来のストックオプション 新株予約権によるストックオプション
権利の付与対象者 自社の取締役と従業員 制限なし
権利の付与条件 発行済み株式の10% 制限なし
権利の行使期間 10年間 制限なし
定款の定め 必要 不要
付与対象者の指名明示 必要 不要
株主総会決議 特別決議(自社株方式は普通決議) 特別決議

付与条件等は、定款で株主総会が決する旨を定めている以外は、取締役会が決定し(改正商法第280条の20関係)、有利発行をする場合は株主総会の特別決議を要する(改正商法第280条の20第2項関係)。

新株予約権の行使による新株の発行価額は、@各新株予約権の発行価額及びA各新株予約権の行使に際して払込みをすべき金額との合計額の一株当たりの額をその新株一株の発行価額とみなす(改正商法第280条の20第4項関係)。

偶発転換社債(Contingent Convertible Bonds,通称 CoCo)

偶発転換社債(Contingent Convertible Bonds,通称 CoCo)とは、株式に転換できるという限り、普通転換社債と類似しているが、普通株式に転換するには、ある一定の偶発条件を満たしたときにのみ株式に転換できるというもので、この限りにおいて、普通の転換社債と異なる。一定の偶発条件とは、例えば、過去30日間のうち20日間の株価が転換価額の110%以上で取引されていることを株式転換の条件とするものや、一定の期間内に30%急上昇した場合など、というもの。株式への転換が偶発条件となっていることから、現行、米国会計基準FASB128号が、一株当り利益(EPS)の計算のうちCoCoの転換株数を希薄化計算に含めないので、一株当り利益が水増しされていると懸念されていた。

2000年後半にタイコ(Tyco International Ltd. (TYC))が投資銀行のメリルリンチ(Merrill Lynch & Co. ( MER) )を通じて初めてCoCosを発行してから、金利が安いこともあって(ゼロクーポン債など)、MGなど大企業も含め300社以上が発行し、現在では約900億ドルの残高(FASBの見積り)となっている。

現行規定では一株当り計算に問題があることから、FASBは緊急問題タスクフォース(Emerging Issues Task Force)検討に入り、一株当り利益の計算に転換株数を含めて希薄化する(遡及修正を求める)とする改正案を公表した。2004年12月15日以後終了する事業年度より適用すべく9月3までにコメントを求めている。(2004年7月19日ニュース 参照)。

CoCo for the Morning: Contingent Convertibles(2004年4月) FASB Takes a Look at Contingent Convertibles(2004年9月)
'CoCo' Rule Change Could Threaten Profits(2004年7月)

CoCo Contingent Convertible Bonds」のGoogle検索結果

2003年7月に日本でもニプロが140億円のCoCoを発行した。「転換価格よりも1割以上高くならなければ、投資家は株式に転換できない制限条項が付いているのがポイント。会計基準の変更でこうした転換社債は潜在株式に含めなくていいルールに変わった。発行額が株式時価総額の約12%に達したが、計算上の1株利益は希薄化しないで済んだ。」とのこと。( 円貨建転換制限(Contingent Conversion)条項付転換社債型新株予約権付社債発行に関する取締役会決議公告 (03/07/03) 参照)

有価証券報告書への一株当り利益の計算に関する注記は下記の通りです。直接EDINETから確かめてみてください。EDINETのどこに記載があるか分かる人は相当知識のある人です。

ニプロの有価証券報告書の注記

前連結会計年度
(自 平成14年4月1日
至 平成15年3月31日)

当連結会計年度
(自 平成15年4月1日
至 平成16年3月31日)

1株当たり当期純利益 84円25銭 1株当たり当期純利益 64円90銭

潜在株式調整後

1株当たり当期純利益

78円48銭

なお、潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、希薄化効果を有している潜在株式が存在しないため記載しておりません。

―――

当連結会計年度から「企業会計基準第2号 1株当たり当期純利益に関する会計基準」(平成14年9月25日 企業会計基準委員会)及び「企業会計基準適用指針第4号 1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」(平成14年9月25日 企業会計基準委員会)を適用しております。

なお、当連結会計年度において、従来と同様の方法によった場合の1株当たり情報については、以下のとおりであります。

1株当たり純資産額

1,312円46銭

1株当たり当期純利益

86円14銭

潜在株式調整後

1株当たり当期純利益

80円22銭

(注) 1株当たり当期純利益及び潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定上の基礎

項目

前連結会計年度
(自 平成14年4月1日
至 平成15年3月31日)

当連結会計年度
(自 平成15年4月1日
至 平成16年3月31日)

連結損益計算書上の当期純利益(百万円)

5,077

4,216

普通株式に係る当期純利益(百万円)

4,966

4,129

普通株主に帰属しない金額の内訳(百万円)
 利益処分による役員賞与金

 

 111

 

 86

普通株式の期中平均株式数(千株)

58,949

63,631

潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定に用いられた当期純利益調整額の内訳(百万円)
 支払利息(税額相当額控除後)

 

 43

 

 

潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定に用いられた普通株式増加数の内訳(千株)
 転換社債

 

 4,890

 

 

希薄化効果を有しないため、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定に含まれなかった潜在株式の概要

潜在株式の種類

(新株予約権)

潜在株式の数(個)

2,800

これらの詳細については、第4提出会社の状況 1株式等の状況(2)新株予約権等の状況に記載のとおりであります。

プット・ワラント(Put Warrant)

会社が発行する株式をあらかじめ決めた価格で売却することができる権利をプット・ワラント((Put warrant)という。
機関投資家等とプット・ワラント契約を行い、あらかじめ決めた価格で会社に株式を売却(put)することを約する。株式の市場価格があらかじめ決められた価格より下落した場合、機関投資家等が保有する株式を株式市場で売却するより、会社にあらかじめ決められた価格で買取って貰う(会社は自己株式となる)事で機関投資家等はキャピタル・ゲインを確保することができる。逆に、あらかじめ決められた価格より市場価格が高ければ、プットワラントの権利行使はなく、会社側はプット・ワラントの収入について得することになる。実例としては、マイクロソフト社の例がある(「プット・ワラントについて」参照)。

従業員持ち株制度(ESOP)

米国では、自社株を広く従業員に所有させている会社は15,000社に上る。内、11,000社以上がESOP (Employee Stock Ownership Plan 従業員持ち株制度)で、4,000社がストックオプション制度である。

ESOPを通じて自社株を所有している従業員は約9百万人で、自社株約2100億ドルを所有している。内、15%が上場企業等の大企業、85%が非上場の未公開企業である。

上場企業などの大企業が少ない理由は、すでに確定給付型企業年金確定拠出型企業年金である401kが自社株式を受け入れているからである。例えば、上記「トラッキング・ストック」で紹介しているとおりGMは、2000年6月に確定給付型年金基金に自社株の「トラッキング・ストック」クラスH株を約70億ドル(約7千億円)を拠出(contributions)している。

米国のESOPは、適用状況を見ると、中小企業のオーナー経営者(同属会社の経営者)の自社株式を相続などで散逸させず、ESOP信託に移すことで従業員が株主となり中小企業の従業員の勤労意欲を向上させることと、スムースな事業継承を行うための手法と考えることができる。

ESOPとは何か

@ ESOPとは、ERISA(従業員退職金保証法Employee Retirement Income Security Act)の元に1974年に法定された、従業員に自社の株式を所有させる従業員退職給付制度である。
A 加えて、中小企業のオーナー経営者が老齢化し、オーナー経営者が所有している株式をESOPに譲渡しても、株式譲渡代金で一定期間内に他の有価証券を取得した場合、株式譲渡益課税を繰延べることができることから、中小企業の経営者に事業継承のための福音とされ利用されている。
B 上記Aを行うため、ESOPが金融機関から株式等の取得資金を借入することができる。融資を受ける場合、会社のESOPへの掛け金を融資返済の担保とすることと、融資元金の返済及び利息の支払額が法人税の課税所得計算で減算することができ、かつ、ESOPが所有する株式に対する配当金が加えて課税所得の計算で減算できる。この法人税の優遇措置で浮いた節税額を、借入金の返済に充てようとするものである。

借入金のない場合のESOP  

会社 @自社株⇒
A現金 ⇒
ESOP
Trust
信託
B現金又は株式で支払
従業員

@ 毎年、会社は自社株をESOPに掛け金として拠出する。適格のESOPの掛け金は、法人税法上損金算入が認められる優遇税制がある。一般的には、対象となる従業員給与の15%までが損金算入が認めれる。
A 自社株を購入する資金を現金で拠出。従業員は負担しない。ESOPは従業員の為に自社株式を保有し、各従業員に保有している株数や金額を通知する。ESOPは従業員の個人別に帳簿管理する。
B 受給権のある従業員は、退職したときに自社株か又は現金を受取る。勤続年数や給与等を基礎にした規定に従って受取る。


レバレッジドESOP・・借入金がある場合                 

会社 @ 支払保証→ 銀行
@ 貸付 

C 年度返済
A 自社株拠出→
A 現金拠出→
C 年度拠出→
ESOP
Trust
信託
D 株式又は現金で支払→ 従業員

B 株式
B 株式購入代金
既存株主

@ 会社が返済の保証して、銀行がESOPに融資する。
A 自社株や現金拠出。適格のESOPの掛け金は、法人税法上損金算入が認められる優遇税制がある。一般的には、対象となる従業員給与の15%までが損金算入が認められる。
B ESOPが株主から株式を購入。オーナー経営者から株式を、持ち株比率30%以上をESOPが購入した場合で、オーナー経営者が、株式譲渡代金で1年内に他の有価証券を購入すると譲渡益課税が繰延べられる。 ESOPへ譲渡された適格の株式は、株式を譲渡した者の子供、兄弟、配偶者及び両親に配分することはできない(相続・贈与防止策)。
C 会社は法人税の課税所得計算で減算できる借入返済元本、利息及び配当金に対応する額を拠出。借入返済資金を捻出するため、会社に優遇税制がある。
D 受給権が生じた従業員が退職したときに自社株又は現金を受取る。勤続年数や給与等を基礎にした規定に従って受取る。

制度設立に必要な要素:
・ ESOPはTrust(信託)の形式をとる。ESOPは従業員個人別の管理台帳を必要とし、定期的に従業員に保有株数、金額を報告する必要がある。
・ 未公開会社の自社株の評価には、専門の評価鑑定人(Appraiser)の報告書が必要となる。未公開会社の従業員が退職したときに自社株式の適正な買取価額を算定する必要がある。
・税制(法人税・所得税等)の優遇制度が必要となる。

出展:The ESOP Association

参考:
ESOP会計(米国の場合・statement of position(SOP)93-6, Employers’ Accounting for Employee Stock Ownership Plans issued by AICPA・・個別財務諸表で記録する必要がある。
従業員持ち株制度の統計・・1980年代に多くの上場会社がESOPを導入したが、1992年の会計基準の変更で401Kに変更したり、廃止し始めている。一方、非上場会社(closely held companies)が増加している。ESOP適用会社のうち約3%の330社が上場会社で、その他は非上場会社が税務上の優遇税制を利用するため適用している。
The Private Company Financial Reporting Committee (“PCFRC”) offers the following recommendations and observations on the FASB Preliminary Views, Financial Instruments with Characteristics of Equity (“PV”).May 23, 2008

ESOP会計(英国の場合)・・HM Revenue & Customs (HMRC)英国歳入庁および税関のサイト・・ESOP Trustの会計処理⇒企業の支店会計のように記録する。個別財務諸表に計上する。


ESOP導入の日本でのメリット:
・ 中小企業のオーナー経営者が所有する株式が、ESOPに非課税で移転することで、事業継承がスムースに行え事業が安定する。オーナー経営者が保有する未公開株が相続税の納付で散逸することが防げる。
・ 相互持合株式をESOPに移転することで、相互持合株の解消の受け皿となり、かつ、従業員の確定給付給付制度を補完することができる。
・ 退職給付制度に、日本版401kに加えてESOPの選択肢が増える。

日本の「従業員持ち株会」制度
日本にも持ち株会を通じて自社株式を購入する制度があるが、従業員の給与から預り持ち株会に現金を拠出して自社株を購入する。つまり、従業員の負担で購入するという個人の積立金の色彩が強い。
つまり、退職給付制度とは関係無いこと、中小企業には適用しにくいこと、中小企業の事業継承問題には対応できないことなどが挙げられる。

サブプライムローンに端を発した金融危機により株価が低迷している、2008年11月17日経済産業省産業政策局産業組織課は、株式相場刺激策として日本版ESOPを導入すべく「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」を公表した。(ニュース 参照)
2008年12月現在、導入している企業は10社足らず。
日本にもESOPを設立している会社が出現(2006年)

2006年(平成18年)9月8日株 式 会 社 ネ ク シ ィ ー ズ(東証一部上場)は、平成18年9月8日開催の当社取締役会において、自己株式の処分を、従業員を通じたコーポレート・ガバナンスの向上等を目的とした「シンセティックESOP」導入に伴い自己株式の処分を行うものであります。

平成18年4月13日に発表いたしました『「シンセティックESOP」の導入に関するお知らせ』で、「ネクシィーズはシンセティックESOPの国内初の導入企業となる見込みです」としています。ESOPの調達資金は、三井住友銀行(SMBC)が行い、債務保証を(株)ネクシーズが行いその資金でネクシーズから自己株式を購入すると言うもの。

目的は、「従業員持株会に対し、毎月時価にて当月における会員からの拠出金合計額に相当する数の保有株式を譲渡します。なお、ネクシィーズが取得を予定している株式数は、従業員持株会が将来に亘って取得すると見込まれる株式の十数年分相当を予定しておりますが、取得株式数・取得時期等の詳細は、決定され次第改めてお知らせいたします。」としています。従業員持株会への安定的株式譲渡を目的としている。

日本に税制は無いので、米国のように、税制のメリットを受けることはない。ESOPを特定目的会社という位置づけで、保守的に連結対象とする宣言している。

日本版ESOP」参照

日本版ESOPは連結しているところと、しないところが混在している。

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連絡先: 横山会計事務所
公認会計士 横山明
Tel 047-346-5214 Fax 047-346-9636
Email: yokoyama-a@hi-ho.ne.jp
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