債権管理の方法と保全

与信管理

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はじめに

売上至上主義であっては売上高を最大限に挙げようとします。企業として当然ですが、あるとき巨額な不良債権となり大打撃を受けることも珍しくありません。これでは、利益の最大化を志向する企業にあっては、利益の最大化はおろか企業の倒産にまで行きかねないこともあります。売上高を最大化すると同時に、貸倒れリスクを最小限にとどめることも重要な要素です。顧客に対する与信管理です。与信は銀行の貸付ばかりにあるわけではなく、一般事業会社においても、顧客に対する与信管理を行うことで、貸倒れリスクを最小限にとどめるのです。

ここでは、通常行われる債権管理の方法と保全の仕方を具体的に例示して述べています。各企業が、自社に応用できるようにしています。参考になればと思います。

金融機関の貸付金利が信用度で決まる時代へ

2002年4月7日、ある金融機関が、企業向け貸出金利に信用力(5段階評価)などを反映する新しい貸出制度を導入し-他銀行も追随へ、と報道した(2002年4月7日日本経済新聞)。企業に貸し出す金利が企業の信用力を反映してこなかったことを証明する報道である。

金融機関は企業に融資することによって産業の血液である資金を適時適切に産業に供給する役割を担っている。融資を受けた企業は事業資金を事業活動に有効に活用し、事業から得た収入からの借入金の元本と利息を金融機関に支払う。

金融機関が、融資の返済の源泉となる事業内容を評価して貸出金利を決定するのは金融機関として当然のことであるが、日本は日本独特の金融行政の護送船団のもとに、土地担保主義であったことから土地担保の登記が優先され(金融機関は不動産屋と揶揄されることもあった)、事業を評価する与信管理は二の次になり与信限度額を超えた無謀な貸出を行い巨額な不良債権を抱えることとなった。日本のような不良債権問題は、バブルの清算という色彩が強く、相変わらず担保価値と債権残高の処理に終始することになる。

金融機関の原点である事業を評価する「与信管理」が取引開始時から継続して適切に行われていれば、バブルは避けられなかったとしても無謀な貸出は少なからず抑止されたであろう。

大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに貸付けた金融機関は「プロジェクト・ファイナンス」といわれ事業評価により資金供給された。つまり、土地は自社用地ではなく借入れているため土地担保が設定できず、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの事業を評価して貸出枠(Credit limit)と貸出金利水準の設定を行ったものである。何も「プロジェクト・ファイナンス」といわずとも金融機関の原点である「与信管理」を行ったに過ぎない。しかし、事業評価をする与信管理が日本に芽生えたことは評価すべきであろう。

欧米の金融監督当局の検査や会計人の監査は、「与信管理簿(Credit File)」の整備状況は重要なポイントである。企業に対する与信、企業の財務内容、経営者としての資質、従業員の資質、企業の製品開発力などを文書化し、結論として何故幾ら貸出枠(Credit limit)や貸出金利を設定したのか証拠立てた書類が「与信管理簿(Credit File)」である。ハイリスク・ハイリターン、つまり、リスクの高い企業には高い金利が、ロウリスク・ロウリターン、リスクの低い企業には低い金利を、金融機関自らの責任で設定する。「与信管理」は金融機関の基本である。

優良企業は、株式・社債を証券市場に上場して市場から資金を調達すると金融機関の間接金融の役割は比較的減少する。1980年代、欧米金融機関は、大企業貸出(Wholesale Bank)から脱皮してRetail Bankと称して個人向け金融機関(代表的な例はシティバンクとされる)に変貌したり、「与信管理」で企業を見る目を養った与信専門家のノウハウを基礎に上場支援する投資銀行(Investment Bank・・ナスダック上場には投資銀行もチームの一員して支援する・・デリバティブ取引ばかりではない)へと業界再編成された。

欧米では、信用を評価する与信管理は、金融機関に限らず一般事業会社でも営業債権の貸倒損失を最小限にするために下記のように取引開始時点から継続して管理が行われている。与信管理者を求人する企業公告にも”与信管理者(Credit manager)募集”のように掲載されており、与信管理は一般事業会社にとっても不可欠の存在となっている。

取引開始時における信用調査

取引開始に当たり、取引先となる会社の支払能力を測定する必要があります。業績を焦るあまり、初めての取引先の注文に与信もせず出荷したため、代金回収できず貸倒れとなり、ひどい目にあうケースが時にして見うけられます。

これは、当然のことですが、与信をしてないために起こる貸倒れリスクです。与信をしたからといって、完璧に貸倒れがなくなることはありませんが、損失の額は最小限にとどめることは可能です。

では、どのようにしたらよいのでしょうか。わが国には、欧米のような、法人に決算書の商業登記制度がないため取引先となる企業等の財政状況を調べる術が公の仕組みの中にはありません。したがって、実務上は、通常次のような方法がとられています。

情報源 備考
1 信用調査機関(帝国データバンク等)の調査会社に調査依頼する。 1社数万円で調査してくれるが、調査結果は保証しているものではないので、情報判断は依頼もとの責任で与信する。
2 信用調査会社が発行する企業情報により財政状況等を調べる。 上場会社、非上場会社、店頭登録会社、高額納税法人などの情報誌により、企業情報を入手し与信を行う。
3 取引先銀行に様子を聞いてみる。 銀行が情報を持っている場合は、補足的情報として有効となるケースがある。特に、注意すべき場合は有効である。ただし、銀行は業務上知り得た情報を漏洩することはできないので限界があるが、相談することも必要。
4 業界のうわさを聞いてみる。 業界筋の情報を入手して与信を図る。
5 相手先企業の近隣のうわさを聞く 相手先企業の近隣のうわさを聞いてみることも重要な情報源である。特に、取り付け詐欺のグループに対しては決定的な情報となりうる。
6 インターネットによる情報を提供している場合は、補足的情報として入手する。 あくまでも補足的情報として利用し、上記情報と複合して与信する。
2000年12月に、ある商社が中小企業調査会社と提携して中小会社の「与信リスク情報」をインターネットで提供する会社を立ち上げる。新規取引先名を入力すると信用情報が紹介できるとしている。
7 財務諸表ないし申告書を入手する。 日本には、欧米のように年次報告書を入手できるような制度がないため、特殊な場合(取引を求めてきたところに提出を要求することができる場合)にのみ可能であろう。

上記の情報源から集めた取引先の支払能力の評価・測定(与信)は、一つの情報源だけではなく複合して与信する。与信は、具体的に金額(下記の「年齢調べ」参照)で示すことになります。

財務情報の開示制度が脆弱な日本の法制度

商取引を開始するに当たって、企業財務の情報を入手し信用調査をする必要がある。

現行の商法では、定款に「会社が公告を為す方法」(商法第166条第一項第九号)を記載し、会社が決算を行い株主総会の承認を受けて、「貸借対照表又はその他の要旨を公告することを要する」(商法第283条第三項)として官報または日刊新聞に公告をすることになっている。決算後、貸借対照表などの要旨が日刊新聞に掲載しているのは商法の規定による。しかし、ある特定の企業の財務情報を探そうとしても到底無理な仕組みではないだろうか?

私が、1985年に赴任したカナダでは、企業は毎期決算書を商業登記所に登記し、我々利用者は電話で商業登記所に登記内容の送付を依頼(代金はクレジットカードで決済)すると間もなく、ある企業のマイクロフィッシュ(登記簿謄本に当たる)を郵送してきた経験がある。つまり、企業内容を調べるインフラが整っているということである。迅速に調べられることは、信用経済のインフラではないであろうか。

日本の公告制度は、インターネット時代の電子化時代には、そぐわない。利用者の立場に立った制度整備が望まれる。


与信限度額の設定

上記の情報源から集めた取引先の支払能力の評価・測定(与信)は、一つの情報源だけではなく複合して与信する。与信は、具体的に金額で示すことになります。

つまり、取引先ごとに、許容される貸倒損失額を見積もるのです。無論、貸倒れがあってはならないのですが、万が一貸倒れにあっても許容できる限度額を設定しておき、取引実績ができた段階で与信額を増減します。当然ですが、与信は定期的に見直す必要があります。

与信限度額の具体的適用例


A社は、はじめての取引相手先甲社を、与信した結果50万円と設定しました。 甲社の始めの注文は30万円あり、支払条件の翌月に甲社は支払ってきました。次の月に、50万円の注文がありましたが、支払条件の翌月に入金がなく追加注文の40万円がありました。A社は、50万円の入金がないため、40万円の注文につき出荷を止め、50万円の入金を督促しました。

与信限度額は、貸倒損失の額を最小限にとどめる作用を果たします。

債権管理-年齢調べ

売掛金の年齢調べ(Aging List)とは、売掛金の内容を、売掛発生日ごとに分析した一覧表です。支払条件が、納品後翌月末払いであれば、当月売上が売掛残高となっているのは正常に支払条件とおりに支払っている正常債権ということができます。2ヶ月前の売上が入金となっていなければ、何らかの事情で支払条件を超えているということになります。6ヶ月前の売上が回収されていないということはかなり深刻な状況にあるといえましょう。何らかの回収手段を早期に打たなければなりません。

年齢調べを、管理者が見える形にしたものでなければなりません。毎月、下記のような年齢調べを作成し債権管理を行います。

年齢調べ
Aging List

売掛金
Accounts receivable

2001年6月30日現在
As of June 30, 2001
顧客名 与信限度額 売掛合計 当月
売上分
1ヶ月以上
3ヶ月前
売上分
3ヶ月超
6ヶ月前
売上分
6ヶ月超
1年内
売上分
1年超
売上分
Over 1month Over 3 months Over 6 months
Customer Credit
Line
Total
Balance
Current month Within 3 months Within 6 months Within 1 year Over 1 year
Apple Co.Ltd. 1,500,000 1,234,567 1,234,567
Bable Co.Ltd. 600,000 532,645 532,645
Peach Co.Ltd. 500,000 325,687 325,687
AAA Corp. 10,000,000 7,898,654 7,898,654
BBB 500,000 234,567 234,567
CCC 700,000 654,367 654,367
DDD 100,000 12,345 12,345
EEE 3,000,000 2,564,879 2,564,879
FFF 500,000 326,456 326,456
GGG 500,000 364,987 364,987
HHH 500,000 23,456 23,456
XXX 500,000 123,456 123,456
 合計 Total 14,296,066 12,708,266 1,187,012 12,345 364,987 23,456
Note: Please explain collectibiliy of the over due receibvables shown above.
上記に示した停滞債権の回収可能性について説明ください。

総勘定元帳の残高と一致

上記の年齢調べ表は、毎月作成し債権管理責任者が目を通し、停滞債権の発生と対処を速やかに行うことで貸倒損失リスクを最小限にとどめるのです。

毎月行う債権管理の注意点は下記のようになります。

売掛債権の合計額 売掛債権の合計額が、総勘定元帳の合計額と一致しているか確かめる。網羅して表示されているか確かめる。
停滞債権の新規発生 前月分と比較し、停滞債権の新規発生について、迅速な対処が行われているか確かめる。行われていない場合は、督促など迅速な対処をする。
停滞債権の回収可能性を吟味する 停滞債権の回収可能性について、顧客ごとに吟味する。対応策を検討する。
与信限度額 与信限度額以上の出荷(売上)が行われていないかどうか。また、与信限度額の見直しが必要であれば見直す。


貸倒引当金の設定法方法-個別引当の方法

決算における貸倒引当金の繰入方針は通常下記(例示--個別企業の状況に合わせる)のように行われます。

いわゆる貸倒引当金の計上方針となります。年齢調べ表を使用して、停滞債権の合計額に下記の引当割合を適用して貸倒引当金を設定します。個々の企業によって繰入割合は異なってきます。つまり、与信管理の甘い会社にとっては貸倒れ率は上昇しますし、厳しい会社では貸倒れ率は低下します。毎期、見直し実態に合わせることが必要です。

停滞債権区分 貸倒引当金繰入割合
1ヶ月超3ヶ月以内停滞債権の 1%
3ヶ月超6ヶ月以内停滞債権の 10%
6ヶ月超1年以内停滞債権の 50%
1年以上停滞債権の 100%

当然のことですが、貸し倒れ引当金の税法上の繰入限度額は税法が定めた一律の繰入率であって企業ごとの繰入率とは異なります。したがって、上記の繰入額とは異なります。税法の限度額を超える部分は、別表四の課税所得の計算で加算します。超過額は、税効果会計を適用できれば繰延税金資産となります。

また、貸倒引当金は期末現在の回収可能性を評価測定しており、過去の経験値は参考とならないケースもあります。期末現在で、将来の回収可能性を、評価測定するものです。とくに、不況期にはバブル期を含んだ経験値は参考とならない場合が多いと思います。


1999年1月22日、大蔵省企業会計審議会は「金融商品に係る会計基準」を公表した。金融機関の不良債権に対する貸倒引当金が不充分であるとの批判に応えたなのか、「貸倒見積高の算定」を規定した。債権を「一般債権、貸倒懸念債権、破産更正債権」に区分し,見積り高を算定するというものです。会計基準として、どれほどの実効性があるのか疑問である。


債権の保全方法


欧米では売掛金の貸倒損失に対する損害保険が普及していたが、わが国でも1994年に認可され、回収不能となった売掛債権額に保険をかけることができるようになりました。また、1998年10月施行の「債権譲渡の対抗要件に関する民法特例法」が施行され、顧客の承諾を得れば、顧客の売掛債権を担保のように登記できる仕組みができました。

保険(取引信用保険)に加入する方法 貸倒損失リスクに保険をかける方法で、保険料と貸倒リスクとのコスト/ベネフィットで加入の可否が決まろう。また、一般には、一定限度額以下は付保できないようになっています。
(最近、当会計事務所に取引信用保険専門の保険会社から接触があるようになりました。)
顧客の売掛債権を登記する方法 1998年10月施行の「債権譲渡の対抗要件に関する民法特例法」が施行され、顧客の承諾を得れば、顧客の売掛債権を担保のように登記できる仕組みができました。

商社やリース会社が適用し始めていますが、顧客の債権を、顧客の了承を得て、法務局に取引先が持つ売掛債権の債務社名を法務局に登記しておくことによって、顧客が債務不履行に陥った場合、その売掛債権を譲り受けることができるというものです。


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横山会計事務所
公認会計士 横山明

E-mail:yokoyama-a@hi-ho.ne.jp
TEL:047-346-5214 FAX 047-346-9636

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