税効果会計

企業会計審議会の「税効果会計に係る会計基準」および
日本公認会計士協会の実務指針を反映しました
国際会計基準第12号「法人所得税(Income Taxes)」に準拠して
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はじめに

日本版ビッグバンの一環として金融制度改革が行われ、ディスクロージャーの整備・充実が要求された。ディスクロージャーの整備・充実の具体化として、連結財務諸表中心主義への方向転換、中間連結財務諸表の作成、キャッシュ・フロー計算書の導入、税効果会計、研究開発費の会計、退職給付(企業年金含む)の会計金融商品の時価会計と矢継ぎ早に導入した。これら一連の会計基準の導入は国際会計基準の一部導入と言って良いほど類似したものとなっている(「国際会計基準と日本の会計の相違点」参照)。

1998年5月12日、公認会計士協会会計制度委員会は報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(中間報告)」を取りまとめた。キャッシュ・フロー計算書のように企業会計審議会が税効果会計に関する会計基準を設定するものと思っていたが、「税効果会計」については、1997年9月6日に企業会計審議会の公表した改訂版連結財務諸表原則の七税効果会計に3項目(@一時差異の税金配分A一時差異の説明B繰延税金資産・負債を計上しなければならないこと)、注解で2項目(@一時差異の例示、A繰延税金を毎期見直すことと重要性の無い一時差異は計上しなくてよいこと)のみの記述だけである。

実務指針で明記していない主な項目は次の通りである。

税効果会計には、資産負債法(Asset and Liability Approach)と繰延法(Deferred Approach)のどちらを選択するかは(国際会計基準及び米・英国は資産負債法を適用)、改定連結財務諸表原則で明記してない為、双方を解説しているのみである。
資産負債法及び繰延法の解説
「税効果会計に係る会計基準注解」(注6)に、「税率の変更があった場合の取扱い」として次のように記述している。
「法人税等について税率の変更があった場合には、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債を新たな税率に基づき再計算するものとする。」 つまり、繰延税金資産及び繰延税金負債を常に新たな税率で計算された資産・負債に洗替えて計上するというものです。これを資産負債法と呼んでいます。米国・英国、国際会計基準及び日本が採用している方法です。

一方、繰延法は、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債を新たな税率に基づき再計算しない方法です。税率変更の影響を、その都度、損益計算書に反映させないことから損益計算書(一株当たり利益)重視と見られています。かつて米国が採用していた方法です。
同様に、改定連結財務諸表原則で明記していない為、繰延税金資産・負債を流動・非流動の区分表示を明記していない。なお、国際会計基準第12号「法人所得税(1996年10月改定)」のパラグラフ70では、「流動・非流動の区分をする企業は繰延税金資産・負債を流動資産・負債に分類してはならない。」という妙な基準となっている。
改定連結財務諸表原則で明記していない為、脚注による注記事項は求められていない
因みに、国際会計基準第12号パラグラフ81では、会計上の利益と税金費用との関係についての説明などいくつかの重要な開示を求めている(下記の「脚注開示例」参照)。
改定連結財務諸表原則で明記していない為、適用初年度の前期までの税効果の影響額の会計処理の方法と開示の仕方は明記していない。


1998年10月30日、企業会計審議会は最終報告として「税効果会計に係る会計基準」を公表しました。それによると、上記日本公認会計士協会の実務指針のうち不明な部分が下記のように明記された。

税効果会計は、資産負債法によることが明記された。国際会計基準と同様である。
繰延税金資産・負債を流動・非流動に区分しそれぞれの資産負債を相殺しなければならないことを明らかにした。米国方式としている。
注記による開示を求めている。開示内容はほぼ国際会計基準と同様である。
適用初年度の取扱いを初めて明らかにした。損益に関わる部分は期首剰余金の調整項目とし、資本の部に直接計上された評価差額に関る税効果は当該評価差額から控除することとしている。企業会計審議会の意見書で適用初年度の規定をしたのは初めてのことである。
適用年度は、2000年3月期より適用されることが明示された。(草案より1年短縮されました)
また、「早期適用を認めるよう措置することが適当である」としています。

商法上の取扱い

1998年6月16日付で、大蔵省と法務省の「商法と企業会計の調整に関する研究会報告書」(この文書は過去データから見ることができます)が公表されたが、それによると税効果会計の商法上の適用は、条文改正は必要ないとして下記の解釈を示している。

原則的解釈 税効果会計は、企業会計において連結財務諸表のみならず個別財務諸表も含め会計基準が整備されるならば、商法上も公正な会計慣行を斟酌する立場から認められるものと解される。
税効果会計を適用する会社の範囲 公開会社については商法上も税効果会計の適用が強制されると解することが適当と考えられる。

税効果会計について、「会計基準が整備されるなら、商法上も公正な会計慣行を斟酌する立場から認められると解される。」という結論であれば、商法から重複した会計規定のすべてを削除して「会計基準」を整備すればよいことになる。

また、上記の研究会報告によれば、公開会社は、連結財務諸表中心主義に変更されたのだから、連結子会社を含めて商法上も税効果会計が強制されることになる。

1998年10月21日、法務省令第53号「株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則の一部を改正する省令」、いわゆる「計算書類規則」が下記(一部抜粋)のような改正があった。
(繰延税金資産)
第13条の2 流動資産に属する資産又は流動負債に属する負債に関連する繰延税金資産は、流動資産の部に記載しなければならない。特定の資産又は負債に関連しない繰延税金資産で決算期後1年内に取り崩されると認められるものについても、同様とする。
(長期税金資産)
第19条の2 第13条の2の規定により流動資産の部に記載された繰延税金資産以外の繰延税金資産は、投資等の部に記載しなければならない。
(繰延税金負債)
第29条の2 流動資産に属する資産又は流動負債に属する負債に関連する繰延税金負債は、流動負債の部に記載しなければならない。特定の資産又は負債に関連しない繰延税金負債で決算期後1年内に取り崩されると認められるものについても、同様とする。
以下、このホームページの内容に重複するため省略する。原文を参照してください。


税理士さんからのE−mail
○○で税理士をしています○○といいます。 私の関係している中小企業では税効果会計は関係しないものと 思っていましたが、あにはからん、今期の決算から導入するとのこと あせって文献を調べておりましたところ先生のHPを拝見、渡に舟 でメールをさせてもらった次第です。(税理士より)
2000年3月期より当社も含め○○グループ子会社は、単独決算においても導入が確定しました。今後有効に活用させて戴きます。(グループ子会社経理より)

商法決算で税効果会計を導入する会社のために、また、連結で税効果会計を行う会社のために、実務対応の「税効果会計の仕方」Excel97版を用意しました。内容は,税効果会計を行う手順、課税所得の計算、税効果の計算、注記事項作成のワークシート、その結果財務諸表への表示、脚注注記事項を、実際の数値を使って計算したものです。税効果会計の実務を理解するだけでなく,自社の数値に置き換えて計算することも可能です。ご希望の方は,「税効果会計の仕方」Excel97版頒布をご参照ください。

連結財務諸表を作成するための税効果会計は、下記のような二つの方法があります。

理論的方法 連結子会社等を含めて税効果会計を適用して個別財務諸表を作成したものを合算し、連結修正仕訳を反映して、連結財務諸表を作成する方法。
実務的方法 連結子会社等を含めて従来どおりの単独財務諸表を合算して、連結修正仕訳で税効果会計を適用した修正仕訳を反映して連結財務諸表を作成する方法。

理想的には、理論的方法が望ましいのでしょうが、連結子会社等に税効果会計を知悉した経理担当者がいるとは考えられない状況にあっては、連結作業時間を配慮して実務的方法をとらざるを得ないと考えられます。

ちなみに、米国基準でSECへ提出している日本企業は数百社の子会社を連結していますが、実務的方法を適用しています。理由は、「税効果会計」が定着していなかったためですが、連結子会社等に「税効果会計」の適用の誤りがあった場合、連結作業中訂正する時間的余裕がなくなるため、連結時にまとめて正しい処理をする方が正確で効率的であるからです。税効果会計が、わが国で定着するまでは時間がかかるものと思われます。

例示として掲載したマイクロソフト社の注記には、実効税率35%で連結決算をしています。法定税率の異なる海外子会社を多数擁するマイクロソフト社が連結する際に、個々の子会社が税効果会計を実施していれば、米国の法定実効税率35%となることはありません。日本を含む全世界に子会社を擁するマイクロソフト社の実効税率が米国の実効税率と一致するのは、米国本国の法定実効税率を適用して税効果会計を行っている証拠となります。

わが国が基礎とした国際会計基準(IAS)第12号「所得税(Income Taxes)」は、米国の財務会計基準(SFAS)第109号「所得税の会計(Accounting for Income Taxes)」に基礎があります。米国では、長い歴史をもっており、会計基準意見書(APB Opinon)第10号「税効果会計」が繰延法を採用し1966年12月31日以後開始する事業年度から適用され、1992年2月、資産・負債法に変更してFAS第109号となり、国際会計基準第12号の基礎となっています。米国には長い歴史があることが第一点。第二点に、実務経験豊富な会計人が多くいるとうことです。ちなみに、米国の会計士は、現在33万人、内約半数を超える会計士(最低数十社の監査実務経験あり)が企業に従事しており、会計知識・経験をもった人材が企業内にいて精度の高い財務諸表を作成できる体制があるということです。

こうした、長い歴史と、人的資源を基礎にすれば、子会社を含めて正確な税効果会計は可能であるが、わが国では、知識・経験、人的資源の不足している現状では、子会社に税効果会計をしてもらったとしても、正確性を確保するために十分な検証が必要となります。どちらの方法を適用したとしても、税務情報を含む「連結資料」を入手することになります。なぜならば,連結後の税効果会計に関する注記事項を作成するために必要となります。

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税法と会計は原則と目的が異なる

税法は租税原則を基礎に法定される。租税原則として有名なのは、アダム・スミスの租税原則で、1776年「国富論」(In Chapter II of Book V)のなかで、次の原則を打ち立てました。
@ 公平の原則(各人民は各自の能力にできるだけ比例して納税すべきである)
A 明確の原則(租税は、その支払時期、金額、方法が明確でなければならない)
B 便宜の原則(納税の方法や時期は、納税者にとって便利でなければならない)
C 最小徴税費の原則(徴税費はなるべく小額でなければならない)
という4つの租税原則です(田中二郎著「租税法」有斐閣)。200年を超えて現在でも有効な原則です。

その後、資本主義の発展に伴い租税を利用した租税政策(投資促進税制、パソコン減税など)が加わりました。 課税の公平及び明確の原則により、通常、税法は現代会計が適正表示をするための見積り計算を即時には認めず、より客観的な証拠を入手した時点で証拠を基礎に損金算入を認める。会計と税法との費用・損金等(または収益・益金等)の認識時点の相違を調整する会計として「税効果会計」が行われます。

会計上の利益と課税所得

企業会計審議会の意見書によれば、「税効果会計とは、企業会計上の利益又は費用と課税所得計算上の益金又は損金の認識時点の相違等により、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金の額を適切に期間配分するすることを目的とする手続きである。」としている。

会計上の利益と税法の規定にしたがって計算する課税所得とは通常一致しない。会計上の利益は会計基準に従い発生主義で計上され適正な利益を算出するものである。一方、課税所得は租税政策等を含んだ税法を基礎に計算される。両者を調整する項目は、「一時差異」と「一時差異に該当しない差異」がある。

一時差異

貸倒引当金を例にすると、会計上は不良債権の取立不能見込額を合理的に見積り引当てる必要があるが、税法上は、課税の公平性・客観性を重視(誰が計算しても同一金額となること)することから、例外を除いて、厳格な条件で一律の計算式で計算した繰入限度額の規定を置いており、通常、企業会計の見積計上額より少なくなる。しかし、税法上も貸倒れが確定した場合は損金算入を認めることから、会計期間を無視して通期すると企業会計も税法も同一の損失となり一致する。

こうした、企業会計の費用と税法の損金の計上時期が一時的に異なる差異を、「一時差異」と呼んでいる。 一時差異には、損金不算入の未確定費用や各種限度額超過額があり、確定申告書別表四で加算減算する項目のうち留保として計算する項目で、確定申告書別表五(一)「利益積立金額の計算に関する明細書」に記載される項目が該当する。(ただし、唯一例外がある。現在、土地の負債利子の損金不算入を社外流出で損金不算入し、5年目から損金算入をするので一時差異に該当する。)

それ以外に、5年間の欠損金の繰延、連結財務諸表作成に際して消去される棚卸資産の未実現利益、損益に影響する未達調整取引がある。加えて、子会社の欠損金繰延べや、子会社留保利益のうち日本の親会社に配当した場合で日本で課税される部分があればその部分などがある。

ただし、上記一時差異が将来の課税所得(特に日本の場合は5年間の繰越欠損の繰延べ期間内の課税所得)で税金が減少または課税される場合に限り税効果があり、一時差異として繰延税金資産となるが、将来の税金が減少または支払いの効果がない場合は、一時差異としてはならないことが重要なポイントになる。

税効果会計は、この一時差異の税効果がある場合に限り、繰延税金の資産または負債(圧縮記帳の利益の繰延べなど)を計上して、企業会計上の税引前利益に対応する税額を期間対応させ期間のずれを補正しようとするもの。従って、税引後の純利益が適正に計上される結果となることを目的としている。

繰返しになるが、一時差異項目であっても、将来の税金を減少する効果がなければ、一時差異とは認められず繰延税金資産として計上することはできない。

一時差異に該当しない差異

一時差異に該当しない差異とは、会計上の費用又は収益が税法上の損金又は益金ではなく永久に相違しているものをいう。

例えば、交際費は企業会計上販売費として計上されるが、中小企業を除いて、税法上は損金算入を認めていない。これは、費用の計上時期のずれではなく永久に税法と企業会計上の差異となる。 同様の項目としては、限度超過の寄付金の損金不算入額、受取配当金の益金不算入額などがある。確定申告書別表四「所得の金額の計算に関する明細書」の社外流出の欄に記載される項目が該当する。また、連結財務諸表では、連結調整勘定償却、持分法による投資損益(税引後の純利益のため)などが該当する。

税効果会計では、一時差異に該当しない差異に対して将来の税金を加算又は減算の税効果はないので、繰延税金資産・負債の計上はできない。

「会計上の利益」の意味


税効果会計の会計処理を、一時差異である未払事業税を例にして下記に具体的に示した。他に一時的差異がある場合は、全く同様(一時差異の項目を追加すれば良い)に会計処理すればよい。 しかしながら、日本の会計では注意する点がある。

日本企業の多くは、税務申告で申告調整が無いに決算をする慣行がある。いわゆる税務会計による決算である。

「会計上の利益」は、適切な財務情報の開示を目的とした会計基準に準拠して算出される利益であり、したがって、すべての勘定が「一般に認められた会計基準」に準拠して適切な会計処理がされていることを前提としている。つまり、会計上の利益とは税務会計上の利益ではないということである。中小企業で内容が単純な場合は、双方が一致することもあろうが理論的には相違する。

たとえば、企業会計では不良債権について合理的に見積もられた取立不能見込額を計上することになっている。税法の貸倒れ経験率を使用する方法は合理的な見積りとは言えない。期末現在における将来の取立不能見込額を見積るのに、例外を除いて、債権総額にドンブリで過去の貸倒れ経験率を使用する方法は合理的な基礎のとはならない。企業は、適切な会計上の利益を算出するためには、原則、得意先の支払い能力を個別に検討して将来の取立不能見込額を合理的に見積って計上する必要がある。

税効果会計を適用する前提は、「一般に認められた会計基準」に準拠した決算により算出された「会計上の利益」を基礎として計算して、「税効果会計」を適用することで、初めて正しい「税引後の純利益」が算出されるということを銘記すべきである。 つまり、すべての勘定が「一般に認められた会計基準」に準拠して計算された会計上の利益と税務上の課税所得との差異のうち一時差異に関して繰延税金資産・負債を計上することである。

税効果会計の導入は、いわゆる会計と税務が全く分離されたということである。税効果会計を行う上で最も重要なポイントなのである。


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適用する実効税率の計算

税    目 法人税率X住民税率 1998年4月より 1999年4月より 2004年4月より
外形標準課税
適用の場合(注2)
法人税率 34.5% 30.0% 30.0%
住民税率(注1):
  1998年4月から 34.5%x20.7%= 7.14%
  1999年4月から 30.0%x20.7%= 6.2% 6.2%
事業税率 11.6% 9.6%
2004年4月から
事業税の外形標準課税の場合(注2)
7.2%
単純合計税率
(未払税金を計上する税率)
53.24% 45.8% 43.4%

(注1)住民税率20.7%は東京都特別区の場合ですが,実際の道府県民税と市町村民税の合算税率で計算します。
(注2)資本金が1億円超の場合、事業税に外形標準課税が2004年4月以降開始する事業年度から導入され、所得割7.2%(4百万円以下3.8%、4百万超8百万以下5.5%)、付加価値割0.48%、資本割0.2%が課税されます。所得税に関する税効果会計では、所得割のみが対象となり、付加価値割および資本割は一般管理費・租税公課へ計上となります。(日本公認会計士協会「法人事業税における外形標準課税制度の導入に伴う税効果会計適用上の取扱い」 参照)

実効税率(税効果会計で使用する税率)の計算:

期間 計算式 実効税率
1998年3月まで 57.86%x1/(1+12.6%)= 約51%
1998年4月から 53.24%x1/(1+11.6%)= 約48%
1999年4月以後開始する事業年度から 45.8%x1/(1+9.6%)= 約42%
2004年4月から
事業税の外形標準課税の場合(注2)
43.4%X1/(1+7.2%)= 約40%

事業税は発生主義で未払事業税を計上しても、税務上は支払ったときに損金算入される為、実効税率は上記計算によります。

平成24年(2012年)4月1日以降開始する事業年度の実効税率の計算

財務省税制改正の概要によれば、平成22年12月16日、「平成23年度税制改正大綱」「法人課税」にれば、現在30%である法人税率を25.5%に引き下げます。成立日:平成23年11月30日の「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法案要綱」5 復興特別法人税(第5章関係)として、復興特別法人税の額は、各課税事業年度の課税標準法人税額に100分の10の税率を乗じて計算した金額とすることとし、指定期間(平成24年4月1日から平成27年3月31日までの期間をいう)内に最初に開始する事業年度開始の日から同日以後3年を経過する日までの期間内とする。(第45条および第48条関係)とされた。

2012年1月20日企業会計基準委員会は、実務対応報告第28号「改正法人税法及び復興財源確保法に伴う税率変更等に係る四半期財務諸表における税金費用の実務上の取扱い」を公表した。平成24年(2012年)3月31日に終了する事業年度の繰延税金資産・負債の見直しが必要となるための措置である。(日本公認会計士協会税効果会計に関するQ&A」の改正について)

平成24年3月31日まで 平成24年4月1日以降開始する事業年度より 平成26年4月1日以降開始する事業年度より(注1) 平成27年4月1日以降開始する事業年度より(注2) 平成28年4月1日以降開始する事業年度より(注2)
法定税率
の集計
法定税率
の集計
法定税率
の集計
法定税率
の集計
法定税率
の集計
法定税率 法定税率 法定税率 法定税率 法定税率
法人税 30% 30% a 法人税 25.50% 25.50% a 法人税 25.50% 25.50% a 法人税 23.9% 23.9% g 法人税 23.4% 23.4%
復興特別法人税 10% x25.5%= 2.55% a' 創設 地方法人税 4.4% x23.9%= 1.05% h 地方法人税 4.4% x23.4%= 1.03%
住民税 20.70% x30%= 6.2100% b 住民税 20.70% x25.5%= 5.2785% b 住民税 20.70% x25.5%= 5.2785% b 住民税 16.3% x23.9%= 3.89% i 住民税 16.3% x23.4%= 3.81%
事業税 3.26% 3.26% c 事業税 3.26% 3.26% c 事業税 3.26% 3.26% c 事業税 3.46% 3.46% 事業税 2.26% 2.26% j
地方法人特別税 2.90% x148%= 4.292% d 地方法人特別税 2.90% x148%= 4.292% d 地方法人特別税 2.90% x148%= 4.292% d 地方法人特別税 3.1% x93.5% 2.8985% 地方法人特別税 1.90% x152.6%= 2.8994% k
----- ----- ----- ----- -----
 単純合計税率 43.762%  単純合計税率 40.881%  単純合計税率 38.331% 単純合計税率 35.21% 単純合計税率 33.40%
1+事業税+地方法人特別税= 107.552% e 1+事業税+地方法人特別税= 107.552% e 1+事業税+地方法人特別税= 107.552% e 1+事業税+地方法人特別税率x事業税率 106.36% 1+事業税+地方法人特別税率x事業税率 105.16%
実効税率 40.689% /e=f 実効税率 38.010% /e=f 実効税率 35.639% /e=f 実効税率 33.101% /s=m 実効税率 31761%
四捨五入 40.69% 四捨五入 38.01% 四捨五入 35.64% 四捨五入 33.10% 四捨五入 31.76%

注1:2014年(平成26年)3月20日平成26年度税制改正法案が可決・成立したことにより3月31日公布され、復興特別法人税が1年前倒しで廃止され平成26年4月1日以後開始する事業年度から実効税率は35.64%に引き下げられます。
a':復興特別法人税は普通法人税額の10%を付加する付加税(Surtax)で地方税には影響しない。(復興特別法人税は平成26年3月31日までとされた。)
b:住民税は普通法人税額に対する税率
d:地方法人特別税は平成20年10月1日以降開始する事業年度から適用され外形標準課税法人の場合148%となります。
  但し、外形標準不適用法人は標準税率の81%です。
Σ=a+b+c+d=課税所得に対する地方税を含む国税・地方税の合算法人所得税率です。課税所得XΣ=地方税を含む法人所得税の計上額となります。
f:実効税率で一時差異を計算し繰延税金資産並びに繰延税金負債を計上することになります。

注22015年(平成27年)2月17日に国会に提出した平成27年度税制改正法案で、平成27年3月31日までに公布される場合に適用されます。
g:法人税率は平成27年4月1日以後に開始する事業年度は23.9%になります。平成28年4月1日以降開始する事業年度は23.4%になります。平成30年4月1日以降開始する事業年度は23.2%が決まっています。
h:平成26年10月1日以後開始する事業年度から国税として「地方法人税4.4%」が創設されました。
i:平成26年10月1日以後に開始する事業年度から都民税法人税割の「超過税率」16.3%(従前は20.7%))となります。
j:外形標準課税法人の「超過税率」による事業税率については、平成27年4月1日以後は3.46%(3.1%+0.36%)、平成28年4月1日以後は2.26%(1.9%+0.36%)となります。
k:標準税率による事業税率は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度は3.1%地方法人特別税の税率は93.5%、平成28年4月1日以後開始する事業年度は1.9%地方法人特別税の税率は152.65%です。


簡単な設例#1

損益計算書(税引前利益、税金、当期純利益のみ)


税効果会計を反映した損益計算書のうち、税引前利益、税金および当期純利益を示している。

1998年 1999年
損益計算書
税金等調整前当期純利益 2,000 2,300
法人税、住民税及び事業税 1,173 1,296
法人税等調整額 -128 -146
税金合計 1,045 1,150
当期純利益 955 1,150



課税所得及び当期申告税額の計算

1998年 1999年
課税所得の計算
会計上の税引前利益 2,000 2,300
調整項目:
貸倒引当金超過額

100

200
未払事業税 150 120
交際費 50 80
課税所得 2,300 2,700
適用税率(注意参照 51.00% 48.00%
当期申告税額 1,173 1,296
:申告に関する適用税率は実際の税率になります。ここでは、未払事業税の税効果計上を入れると複雑になるため、実効税率を使用してます。なお、未払事業税の税効果は下記に別途説明しましたのでご覧ください。

当期の申告税額を計算し未払法人税等を計上する。

1998年度分の申告税額の計上

借方 金額 貸方 金額
法人税、住民税及び事業税 1,173 未払法人税等 1,173


1999年度分の申告税額計上

借方 金額 貸方 金額
法人税、住民税及び事業税 1,296 未払法人税等 1,296



税効果会計


課税所得の計算で、申告調整項目のうち一時差異をまとめて実効税率を掛けた税額を税効果として、会計処理する。

税率が変更された場合、税率低減による繰延税金費用は、負債法により前期末の繰延税金資産または負債を洗い替えて新たな税率に変更するもの。

税効果会計 1998年 1999年
期中増減 期末残高 期中増減 期末残高
貸倒引当金超過額 100 100 200 300
未払費用超過額 150 150 120 270
合計 250 250 320 570
実効税率 51% 51% 48% 48%
繰延税金資産:流動 128 154
   貸倒引当金超過額 51 144
   未払費用超過額 77 130
   合計 128 274
税率低減による繰延税金費用
250 x(51%−48%)= -8
税効果合計 128 146

1998年の税効果(上記の内容は前払効果です)を計上する。上記の例では2つの項目は流動資産でまとめるものとする。

借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産:流動 128 法人税等調整額 128


1999年の税効果(上記の内容は前払効果です)を計上する。上記の例では2つの項目は流動資産でまとめるものとする。

借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産:流動 154 法人税等調整額 154


1999年に税率が変更されたため、期首残高に税率差を掛けて、新たな税率に洗い替えする。

借方 金額 貸方 金額
法人税等調整額 8 繰延税金資産:流動 8

上記の結果は、当期申告税額、繰延税金費用などに区分して下記のとおりとなる。

損益計算書の税金計上内容 1998年 1999年
当期申告税額 1,173 1,296
一時差異の繰延税金費用の貸方記入額 -128 -154
税率変更(低減)による繰延税金資産の修正 8
税金費用合計 1,045 1,150

脚注開示例

注記すべき事項1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳


繰延税金資産及び繰延税金負債の内訳は次ぎの通りです。(ここでは単純化のため、繰延税金資産のみとしているが、繰延税金負債があれば開示する。)

繰延税金資産: 1998年 1999年
   貸倒引当金超過額 51 144
   未払費用超過額 77 130
合計繰延税金資産 128 274
繰延税金負債:
差引繰延税金資産 128 274


注記すべき事項2 税引前当期純利益又は税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目の内訳
注記すべき事項3 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額

税金等調整前当期純利益に対する法人税等の比率と法定実効税率の調整は次の通りです。

1998年 1999年
法定実効税率 51.00% 48.00%
法人税等の比率増減内容:
交際費等永久に損金に算入されない項目 1.25% 1.65%
税率変更(低減)による繰延税金費用 0.35%
税引前当期純利益に対する法人税等の比率 52.25% 50.00%

なお、1999年の税率の変更により、繰延税金資産は、8取り崩しました。

上記の開示に必要な計算は下記のように計算し、これを基礎に上記のように開示します。

1998年 1999年
金額 金額
会計上の税引前利益 2,000 2,300
計算税額及び法定実効税率 1,020 51.00% 1,104 48.00%
調整:
一時差異に該当しない差異・交際費 25 1.25% 38 1.65%
税率変更(低減)による繰延税金費用 8 0.35%
税金費用合計及び比率 1,045 52.25% 1,150 50.00%

開示部分

開示部分

なお、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間に重要な差異があるときの、差異の原因となった主要な項目別の内訳の注記例は、日本公認会計士協会の実務指針設例8によれば具体的且つ詳細に開示するようになっています。
いつものことですが、日本に欧米型の会計基準が導入されると欧米より開示が詳細になります。日本公認会計士協会の実務指針がそれを証明することとなりました。
下記に示しましたソニーの注記例は、米国会計基準の典型的開示例ですが、日本公認会計士協会の実務指針によればもっと詳細なものを要求しているようです。

簡単な設例#2

未払事業税の税効果の計上はなぜするのか

課税所得のある日本企業で必ず生ずる一時差異は未払事業税です。事業税は、支払ったときの課税所得の計算から控除されます。したがって、期末で未払計上した事業税は、翌期に納税したときに課税所得から減算される税効果がある一時差異です。未払事業税に関して一時差異として税効果を計上(繰延税金資産・流動の計上)する理由を、下記に実際の計算を通じて検証してみます。

なお、実務上、未払事業税以外の一時差異項目があれば追加すればよいので、ここでの税効果会計を理解することで、実務にそののまま応用できます。

適用税率は以下の通りと仮定します。(1999年4月以後開始事業年度の普通税率を適用)

法人税 30.0%
住民税(東京を仮定) 法人税X住民税率
30.0%X20.7%=
6.2%
事業税 10.0%
単純合計税率 A 46.2%

実効税率の計算⇒ 単純合計税率X1/(1+事業税率)=実効税率 46.2%X1/(1+10.0%)=42%・・B とする。

まず、2000年から5年間の会計上の税引前利益(事業税は含まない)を10、000・・@ と仮定する。

課税所得の計算および税金の計算:

課税所得の計算 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
税引前利益(会計上の利益) @ 10、000 10、000 10、000 10、000 10、000
調整:事業税の支払い額 C 0 -1,000 -900 -910 -909
課税所得 10、000 9、000 9、100 9、090 9、091
申告税金の計算: 税率A
法人税 30.0% 3、000 2、700 2、730 2、727 2、727
住民税 6.2% 620 558 564 564 564
事業税 10.0% 1,000 900 910 909 909
     合計      46.2% D 4、620 4、158 4、204 4、200 4、200

事業税の影響は3年目ぐらいから一定となります。
申告税額を決算でまず計上します。計上する仕訳は下記の通りです。なお、符号なしの数値は借方を示し、()は貸方を示します。

勘定科目 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
法人税等(事業税を含む申告税額) D 4,620 4,158 4,204 4,200 4,200
未払法人税等(事業税を含む) (4,620) (4,158) (4,204) (4,200) (4,200)

次ぎに、未払事業税の期中増減と税効果の計算をします。

未払事業税の期中増減: 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
期首残高 0 1,000 900 910 909
納税額(課税所得の計算で控除する額) C 0 (1,000) (900) (910) (909)
繰入計上額 1,000 900 910 909 909
期末残高 1,000 900 910 909 909
実効税率 B 42.0% 42.0% 42.0% 42.0% 42.0%
未払事業税の繰延税額期末残高 420 378 382 382 382
繰延税額の期中増減額 E 420 (42) 4 0 0

未払事業税に対する繰延税金の仕訳を下記のとおり計上する。符号の無い数値は借方を示し、( )は貸方を示します。

勘定科目 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
繰延税金資産:流動 420 (42) 4 0 0
法人税等調整額(繰延税金計上額) E (420) 42 (4) 0 0

上記の申告税額と未払事業税の繰延税金の計上をした結果は、税効果会計により税金費用の適切な期間配分により、下記の通り実効税率の割合で計上されることになります。

損益計算書一部分表示: 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
税引前利益 @ 10、000 10、000 10、000 10、000 10、000
税金:
法人税等(事業税を含む申告税額) D 4,620 4、158 4、204 4、200 4、200
法人税等調整額(繰延税金計上額) E (420) 42 (4) 0 0
税金合計 4、200 4、200 4、200 4、200 4、200
実際の実効税率 (注1参照) 42.0% 42.0% 42.0% 42.0% 42.0%
当期純利益 5、800 5,800 5、800 5、800 5、800
(注1:)  実際の実効税率(=税金合計/税引前利益)は、課税所得に交際費等の永久差異を含まなければ
法定の実効税率 42.0%・・B と一致する。
課税所得に永久差異等が含まれている場合は、その税効果相当の税率差異が生じ開示が求められている。

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税効果(繰延税金資産)の回収可能性

「一時差異には,当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を減額する効果を持つもの(将来減算一時差異)と、当該一時差異が解消するときにその期の課税所得を増額する効果をもつもの(将来加算一時差異)とがある。」(税効果会計に係る会計基準第二一3) つまり、将来減算一時差異は、繰延税金資産、将来加算一時差異は、繰延税金負債ですが、日本の税制は繰延税金資産が圧倒的に多く、繰延税金負債(税の後払い効果)は「圧縮記帳による繰延利益」等があり非常に少ないのです。

そこで、「一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収又は支払いが見こまれない税金の額を除き、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上しなければならない。繰延税金資産については、将来の回収見込みについて毎期見直しをしなければならない。」(税効果会計に係る会計基準第二ニ1)とあります。

繰延税金資産を計上できる要件は、将来の利益が十分にあり、将来の税金を減額する効果がある場合にのみ計上できることになります。こうした条件は、利益が少ない場合は,毎期、下記のように将来の利益の見積りを必要とすることを意味します。ただし、潤沢な利益を計上している場合で、将来の課税所得の減算効果があると認められる場合は必要ありません。

当年度 一時差異
残高
2年目 一時差異
残高
3年目 一時差異
残高
4年目 一時差異
残高
5年目 一時差異
残高
税引前利益 300 500 600 750 350
将来減算一時差異 1000 1000 -300 700 -300 400 -300 100 -100 0
課税所得 1300 200 300 450 250

このように、将来減算一時差異が、将来の課税所得を減額する場合は、1000に対する税効果について適用税率を掛けて「繰延税金資産」を計上することができます。


当年度 一時差異
残高
2年目 一時差異
残高
3年目 一時差異
残高
4年目 一時差異
残高
5年目 一時差異
残高
税引前利益 300 200 400 750 350
将来減算一時差異 1000 1000 -300 700 -300 400 -300 100 -100 0
繰越欠損金の繰延の使用 100 -100
課税所得 1300 -100 0 450 250

この場合、第2年目に一時減算差異の減算300により税務上欠損金となっていますが、この欠損金は5年間繰越可能ですが第3年目に課税所得から控除できますので、欠損金自体が一時減算差異となっていることになります。しかし、当年度末残高の1000の一部が減算差異の効果があるのですから、1000の将来の税金の減算効果があるものとして、適用税率を掛けて「繰延税金資産」を計上することができます。

当年度 一時
差異
残高
2年目 一時
差異
残高
3年目 一時
差異
残高
4年目 一時
差異
残高
5年目 一時
差異
残高
6年目 7年目 8年目 9年目
税引前利益 300 100 100 100 100 100 100 100 100
将来減算一時差異 1000 1000 -300 700 -300 400 -300 100 -100 0 0 0 0 0
繰越欠損金の繰延
の使用
-100 -100 -100 -100
課税所得 1300 -200 -200 -200 0 0 0 0 0

2年目の100、と欠損金200が5年間の繰延期間中の6年目に100と7年目に100使用されて、結果300の減算税効果がある。
3年目の100、と欠損金200のうち5年間の繰延期間中の8年目に100のみ使用され、結果200の減算効果がある。
4年目の100、と欠損金200のうち5年間の繰延期間中の9年目に100のみ使用され、結果200の減算効果がある。
5年目の100が減算効果がある。
従って,当年度に計上できる税効果は、2年目の300、3年目の200、4年目の200、5年目の100、の合計800の減算効果があり、適用税率を掛けて「繰延税金資産」の計上することができます。

反面、回収できない側面から見ると、3年目の欠損金200のうち、欠損金の繰延べが5年で切り捨てられる100と、4年目の欠損金200のうち同じ理由で100が切り捨てられ、合計200が回収可能性が無いため(将来減算一時差異とはならないため)税効果を計上できないのです。したがって、当年度の1000−回収できない200=800が、将来減算一時差異として適用税率を掛けて「繰延税金資産」を計上できます。

現実には、非常に複雑になります。回収可能性については慎重に吟味することが必要となります。

GMが390億ドル(4兆5千億円)の繰延税金資産の費用化(2007年11月6日)

(11/6)米GM、4兆5000億円費用計上・サブプライムで収益見通し悪化

 米ゼネラル・モーターズ(GM)は6日、税効果会計の適用で計上してきた繰り延べ税金資産を取り崩すため、7―9月期決算で390億ドル(約4兆5000億円)を費用計上すると発表した。自動車事業の低迷が長引き、信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題で関連金融会社も不振で、同資産の計上に十分な利益見通しが立てにくくなったため。サブプライム問題の余波が一部企業の業績に及んできたとみられる。(日本語ニュース 英語ニュース フィナンシャル・タイムズ 参照)

米国会計基準SFAS109号「法人所得税の会計Accounting for Income Taxes」では、将来の納税額と相殺できる可能性がある(more likely than not=50%以上ありうる)場合以外の繰延税金資産は計上してはならない、となっている。GMの場合、米国、ドイツ、カナダの計上している繰延税金資産について、将来の利益が相殺するに十分でないと見做され、この計上基準を満たしていないことから2007年の第三四半期に390億ドルを費用化すると発表したもの。
不動産関連の子会社ResCap.については、サブプライム・モーゲジ・ローンの評価損を抱え込んで将来の利益確保ができないと見られた模様。

米国会計基準SFAS109号「法人所得税の会計Accounting for Income Taxes」により、税効果会計の注記では、繰延税金資産の内容を開示し、将来の実現性のない部分は”Less: Valuation allowance 差引:評価引当”とし資産計上しないでかつ計上しない理由を説明することになっている。下記ソニーの開示例に示している通りです。日本の報道の中には、引当金を計上して費用計上するような記事がありますが誤解です。

Yahoo Finance! SEC届出
GENERAL MOTORS CORP 株価チャート等 登録書類 競争相手

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連結財務諸表における税効果会計

連結修正仕訳に係る税効果


親会社及び子会社の単独財務諸表の合算に、連結財務諸表作成に必要な、投資と資本との消去、少数株主持分への組替え、連結会社間取引及び債権・債務の消去、連結会社間の未達取引の計上、連結会社間取引による未実現利益の消去、連結会社間債権・債務の消去に連動して貸倒引当金の戻入、持分法損益の計上などの修正に加えて税効果会計の仕訳を行い連結財務諸表が作成されます。

連結修正仕訳には損益にかかわる事項があります。例として、未実現利益の消去、貸倒引当金の戻入、連結会社間未達取引の計上などです。 連結会社間取引の消去は、一般には、税引前利益に関係ありませんので税効果は発生しません。持分法損益の計上は、重要な場合は、関連会社の財務諸表を税効果会計を行った利益を基礎に計上します。

たな卸資産の未実現利益の消去の場合を例に税効果会計を行うと次のようになります。

未実現利益(ダウン・ストリームの取引と仮定します)が100とします。その場合、未実現利益の消去仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
売上原価 100 たな卸資産 100

実効税率を前述の1999年4月以後42%と仮定しますと、100X42%=42の税効果資産が生じることになります。したがって、税効果会計の仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産 42 法人税等調整額 42

連結修正仕訳のうち損益に係る修正仕訳に連動して、一時差異について税効果の修正仕訳を対応して計上するか、修正仕訳をまとめて税効果を一括計上することも可能です。

ただし、注意を要するのは機械的に計上するのではなく、会計基準の注5に「繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならない。」とありますので十分吟味して計上しなければなりません。

単独財務諸表の税効果会計に、上記の連結修正仕訳に係る税効果会計を総合して連結財務諸表の税効果会計の注記は行われます。子会社の単独財務諸表の税効果は、「連結資料」に会計上の利益と課税所得の調整表を組み込み入手しておくことで、タイムリーで効果的な税効果会計が行えます。

連結作業は、通常、次のような手順で行いますが、「連結資料」が正確で十分な情報を提供していて初めて効率的な連結作業となります。

@ 連結資料の入手⇒ A 連結資料のチェック B 連結資料の集計・仕訳作成(試算表集計、投資と資本の消去資料の集計・仕訳作成、少数株主持分の集計・仕訳作成、連結会社間取引の消去の集計・仕訳作成、連結会社間債権債務の消去・仕訳作成、連結会社間取引の未実現利益の集計・仕訳作成、連結会社間債権消去に伴う貸倒引当金の戻入仕訳作成、持分法の集計・仕訳作成、税効果会計の集計・仕訳作成、その他連結修正すべき事項の集計・仕訳作成、キャッシュフロー計算書作成資料の集計、税効果会計・退職給付の会計・債務保証等の偶発事象・セグメント情報等の注記事項の集計等) C 連結精算表の完成 D 連結キャッシュフロー計算書の作成⇒ E 連結財務諸表の注記事項の作成 F 連結財務諸表・キャッシュフロー計算書・注記事項の期間比較等により分析し正確性を確かめる G 役員への報告

なお、連結決算の手順は「連結財務諸表作成の基礎」に詳しく記載しましたので参照してください。

海外連結子会社等の留保利益に係る税効果

海外子会社から受取配当金を受けると、法人税等前利益に対して日本の法人税等の納付すべき税金を計算し、外国で支払った法人税等を控除(外国税額控除という・・直接控除額と間接控除額の双方)して日本で支払うべき法人税等額を算出します。
この場合,外国の法人税率が日本より低い場合は支払う税額が算出されます。日本の法人税率が低ければ、日本で支払うべき税額はでませんし、日本で還付されることもありません。

例えば,米国に100%所有する子会社を持っている場合、米国の実効税率が35%(参考に マイクロソフト社の財務諸表参照)とします。日本の実効税率は42%とします。日本の42%-米国の35%=7%が配当金の受領があったときに、配当額に相当する日本で納付すべき法人税等です。したがって、連結決算では、子会社が配当していない留保利益の税引き前利益に対して7%相当額が未払の税効果があるということになります。これが、海外子会社の留保利益に対する税効果です。この税効果債務を計上するかどうかは、会社の配当政策によります。例えば,海外子会社が獲得した利益の配当政策が、親会社にほとんど配当せず現地に再投資している場合は、日本で税率差を支払うことはないので繰延税金負債を計上しないでも良いでしょう。しかし、毎期、利益のほとんどを配当し、日本で7%に相当する追加税金を支払っていれば、子会社の留保利益に対して日本の追加税金に相当する部分に繰延税金負債を計上する必要が生じます。

なお、海外子会社の留保利益に税効果を計上していない場合は、金額に重要性があれば、繰延税金負債の未計上として、適用税率と実効税率との差異調整の注記内容となります。


持分法を適用する関連会社の財務諸表に税効果会計が必要

関連会社(原則、20%以上50%所有、ただし20%以下の所有でも実質的に関連会社であれば持分法が必要となった)に持分法を適用する場合の財務諸表が税効果会計を適用していない場合は、税効果会計を適用した財務諸表に修正し、税効果会計適用後の財務諸表を使用して持分法による投資損益を計算することになります。

なお、連結決算の手順は「連結財務諸表作成の基礎」に詳しく記載しましたので参照してください。


企業会計審議会の「税効果に係る会計基準」の開示項目

税効果に係る会計基準の要求している注記事項は次のとおりです。

項目 注記内容
1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳(注8)
2 税引前当期純利益又は税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目の内訳
3 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
4 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響
(注8) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記について
繰延税金資産の発生原因別の内訳を注記するに当たっては、繰延税金資産から控除された額(注5に係るもの)を併せて記載するものとする)
(注5) 繰延税金資産の計上について
繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならない。

(注5)の表現は分かりにくいが、一時差異が将来の課税所得を減額しない場合は、一時差異とはならず、したがって、繰延税金資産として計上することはできないということです。

なお、注記の内容はほぼ米国基準に類似しており、日本企業で米国SECへ登録している企業の英文財務諸表には既に注記してあります。参考となることでしょう。

連結財務諸表で上記注記事項を子会社を含めて注記するには、子会社から入手する「連結資料」に工夫することで容易となります。

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ソニーの税金に係る注記事項の抜粋

ソニーは米国会計基準によりSEC(証券取引委員会)へ連結財務諸表の年次報告書(Form20F、フォーム20Fは外国会社の場合の様式で、日本の有価証券報告書に該当します)及び四半期報告書を提出しています。ソニーは外国会社には強制されていませんが自主的に米国SECへ直接電子登録しており、SEC EDGAR Database より直接財務情報を入手し「税金に係る注記事項」を事例としました。

日本の税効果会計が求めている注記事項と類似してますので、税効果会計に関する注記を抜粋して例示とし、参考に供したいと思います。

ソニーの財務諸表に添付の「重要な会計方針」の中の法人所得税の注記は以下のように開示しています。

Income taxes - The provision for income taxes is computed based on the pretax income included in the consolidated statements of income. The asset and liability approach is used to recognize deferred tax assets and liabilities for the expected future tax consequences of temporary differences between the carrying amounts and the tax bases of assets and liabilities. 法人所得税--法人所得税の繰入額は連結損益計算書の税引前利益を基礎として計上しています。資産・負債法は、税法の資産・負債と会計上の繰り越される資産・負債との間に生じた一時的差異に関連して生ずる将来の税金の結果を認識するものです。

なお、「連結財務諸表原則」(1997年6月)には、「重要な会計方針」の注記事項の記載はなく、第七に「連結財務諸表の注記事項」として、「連結の範囲等、決算日の差異、会計処理の原則及び手続等(重要な資産の評価基準及び減価償却の方法等並びにこれらについて変更があるときは、その旨、その理由及びその影響、子会社の採用する会計処理の原則及び手続きで親会社及びその他の子会社との間で特に異なるものがあるときは、その概要、子会社の資産および負債の評価方法、利益処分、その他の重要な事項(企業集団の財政状態及び経営成績を判断するために重要なその他の事項(注24)、として注24には重要な後発事象の注記を要求している)」などとしてどこにも「重要な会計方針」としての注記を明示していない。不思議な会計原則である。

項目 日本の税効果会計の基準が要求している注記内容
2 税引前当期純利益又は税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目の内訳
4 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響

ソニーの連結財務諸表の注記番号13「税金」として、次ぎのように開示しています。なお、日本の開示項目に限定して抜粋していることをお断りしておきます。

The company is subject to a number of different income taxes which, in the aggregate, indicate a statutory rate in Japan of approximately 51%. Due to a change in Japanese income tax regulations, effective April 1, 1998, the statutory rate was reduced to approximately 48% and such amount has been used in calculating the future expected tax effects of temporary differences. The effect of the enacted change in the tax rate was insignificant. 会社は、多くの異なった法人所得税が課せられるが,総計して、約51%の日本の法定税率で示しています。日本の税法の変更により、1998年4月1日から、法定税率は約48%に低減し、一時差異の将来の税効果を計算する場合に使用しています。税率の変更の影響は重要ではありませんでした。
Reconciliation of the differences between the statutory tax rate and the effective income tax rate is as follows:
法定税率と実効税率の差異調整は、次の通りです。
Year ended March 31
3月31日終了する年度
1996 1997 1998
Statutory tax rate 法定税率 51.0% 51.0% 51.0%
Increase (reduction) in taxes resulting from: 下記の理由による税金の増加(減少):
Income tax credit 税額控除 (2.8) (2.8) (2.4)
Current operating losses of subsidiaries 子会社の当年度の欠損金 7.9 5.2 1.9
Other その他 (0.2) (1.0) (3.1)
------- ------- -------
Effective income tax rate 実効税率 55.9% 52.4% 47.4%
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実効税率の解説
損益計算書抜粋 単位:百万円 実効税率の計算 Year ended March 31
3月31日終了する年度
1996 1997 1998
Income before income taxes 税引前利益 (a) 138,159 312,429 453,749
Income taxes 法人所得税
Current 当年度申告税額(法人税等) 72,088 169,060 210,113
Deferred 税効果額(税金調整額) 5,070 (5,490) 4,755
合計税額 (b) 77,158 163,570 214,868
実効税率 (b)/(a)X100%= 55.9% 52.4% 47.4%
実効税率は上記の計算によります。法定税率は税効果会計で適用した税率です。

なお、開示の順番ですが,会社が適用している法定税率の一般的な説明を行い、つぎに、実効税率との差異内容の開示をしたのち、繰延税金資産及び負債の内容開示をするのが一般的です。


項目 日本の税効果会計の基準が要求している注記
1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳(注8)
(注8) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記について
繰延税金資産の発生原因別の内訳を注記するに当たっては、繰延税金資産から控除された額(注5に係るもの)を併せて記載するものとする)
(注5) 繰延税金資産の計上について
繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければならない。
3 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額


The significant components of deferred tax assets and liabilities are as follows:
繰延税金資産及び繰延税金負債の重要な内容は下記の通りです:
Yen in millions
単位:百万円
March 31
1997 1998
Deferred tax assets: 繰延税金資産:
Operating loss carryforwards for tax purposes 税務上の欠損金の繰延 75,536 79,761
Accrued pension and severance costs 未払年金及び退職費用 45,418 54,487
Warranty reserve and accrued expenses 保証引当金及び未払費用 46,187 52,445
Inventory -- intercompany profits and write-down たな卸資産-未実現利益及び評価損 44,416 38,915
Future insurance policy benefits 将来の保険金効果 34,580 38,686
Accrued enterprise taxes 未払事業税 12,952 18,276
Other accrued employees' compensation その他の従業員未払手当 14,465 12,336
Other その他 74,173 77,232
--------- ---------
Gross deferred tax assets 総繰延税金資産 347,727 372,138
Less: Valuation allowance 差引:評価引当 (122,258) (125,908)
--------- ---------
Total deferred tax assets 繰延税金資産合計 225,469 246,230
--------- ---------
Deferred tax liabilities: 繰延税金負債:
Undistributed earnings of foreign subsidiaries 海外子会社の未分配の剰余金 (68,928) (77,833)
Insurance acquisition costs 保険取得原価 (67,004) (67,858)
Unrealized gain on securities 有価証券の未実現利益 (72,741) (41,185)
Depreciation 減価償却費 (17,041) (13,264)
Other その他 (39,133) (45,773)
--------- ---------
Gross deferred tax liabilities 総繰延税金負債 (264,847) (245,913)
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Net deferred tax assets (liabilities) 純繰延税金資産(負債) (39,378) 317
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The valuation allowance mainly relates to deferred tax assets of consolidated subsidiaries with operating loss carryforwards for tax purposes that are not expected to be realized. The net changes in the total valuation allowance for the years ended March 31, 1996, 1997 and 1998 were increases of 28,174 million yen, 3,902 million yen and 3,650 million yen, respectively. 評価引当は、主に連結子会社の欠損金の繰延に関してであり、将来実現しないものと想定してます。評価引当の1996年、1997年及び1998年3月31日に終了する年度に、それぞれ28、174百万円、3、902百万円、3,650百万円増加しました。
Net deferred tax assets (liabilities) are included in the consolidated balance sheets as follows:
純繰延税金資産(負債)は、下記の通り、連結貸借対照表に含まれています。
Yen in millions
単位:百万円
March 31
1997 1998
Current assets-- Deferred income taxes 流動資産--繰延税金 111,756 121,189
Other assets -- Other その他の資産--その他 27,158 30,523
Current liabilities -- Other 流動負債--その他 (4,341) (4,279)
Long-term liabilities -- Deferred income taxes 長期負債--繰延税金 (173,951) (147,116)
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Net deferred tax assets (liabilities) 純繰延税金資産(負債) (39,378) 317
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At March 31, 1998, no deferred income taxes have been provided on undistributed earnings of foreign subsidiaries not expected to be remitted in the foreseeable future totaling 295,778 million yen, and on the gain on a subsidiary's sale of stock of 61,544 million yen arising from the issuance of common stock of Sony Music Entertainment (Japan) Inc. in a public offering to third parties in November 1991, as the company does not anticipate any significant tax consequences on possible future disposition of its remaining investment based on its tax planning strategies. The unrecognized deferred tax liabilities as of March 31, 1998 for such temporary differences amounted to 109,827 million yen.

Operating loss carryforwards for tax purposes of consolidated subsidiaries at March 31, 1998 amounted to approximately 235,319 million yen and are available as an offset against future taxable income of such subsidiaries. These carryforwards expire at various dates primarily up to 15 years. Realization is dependent on such subsidiaries generating sufficient taxable income prior to expiration of the loss carryforwards. Although realization is not assured, management believes it is more likely than not that all of the deferred tax assets, less valuation allowance, will be realized. The amount of such net deferred tax assets considered realizable, however, could be reduced in the near term if estimates of future taxable income during the carryforward period are reduced.
1998年3月31日現在、合計295,778百万円のぼる海外子会社の未分配の剰余金は、近い将来送金することを予定してなく、税効果は計上していません。また、1991年11月に、ソニー・ミュージック・エンターテイメント(日本)(株)の第三者に対する公募増資から生じた合計61,544百万円の譲渡益について、会社の税務戦略上残りの投資について譲渡に関連する重要な税務関係が生ずることはないので、税効果を計上していません。1998年3月31日現在、これらの一時差異に関する未計上の繰延税金負債は109,827百万円です。



1998年3月31日現在、連結子会社の税務上の欠損金の繰延は約235,319百万円で、子会社の将来の課税所得と相殺することが可能です。これらの欠損金の繰延べは15年間を最長として種々となっています。実現は,子会社が欠損金の繰延べ期限前に十分な課税所得を生みだすことによります。実現は保証されませんが,経営者は、評価引当を除いた繰延税金資産のすべてが実現するものと確信しています。しかしながら、実現すると考えられる純繰延税金資産の金額は,欠損金の繰延期間の課税所得の見積りが減少すれば、減少します。

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マイクロソフト社の税金に係る注記事項

米国SECエドガーデータベースから、マイクロソフト社の財務諸表(米国基準及び国際会計基準の連結財務諸表)をダウンロードし税金に関する注記事項を参考に供します。マイクロソフト社の法定実効税率は35%と、日本の約50%と比較して驚かされる。

マイクロソフト社の財務諸表は「キャッシュフロー計算書の読み方」に掲載してあり、参照できます。

損益計算書の税金部分抜粋 ----------------------------- ------- ------- -------
Year Ended June 30 6月30日終了の事業年度 1996 1997 1998
------------------------------------ ----------------------------- ------- ------- -------
Operating income 営業利益 3,059 4,871 6,414
Interest income 受取利息 320 443 703
------------------------------------ ----------------------------- ------- ------- -------
Income before income taxes 税引前利益 3,379 5,314 7,117
Provision for income taxes 法人所得税繰入額 1,184 1,860 2,627
------------------------------------ ----------------------------- ------- ------- -------
Net income 純利益 2,195 3,454 4,490
Preferred stock dividends 優先株配当金 -- 15 28


財務諸表の注記部分抜粋
INCOME TAXES (法人)所得税
The provision for income taxes consisted of: 法人所得税の繰入額の構成内容:
Year Ended June 30 6月30日終了する事業年度 1996 1997 1998
Current taxes: 当年度の税金(申告税額):
 U.S. and state  米国及び州 $1,139 $1,710 $2,518
 International  国際 285 412 526
------------------------------------ ------------------------------------ ------- ------- -------
Current taxes 1,424 2,122 3,044
Deferred taxes 繰延税金 (240) (262) (417)
------------------------------------ ------------------------------------ ------- ------- -------
Provision for income taxes 法人所得税繰入額 $1,184 $1,860 $2,627
------------------------------------ ------------------------------------ ------- ------- -------
U.S. and international components of income
before income taxes were:
税引前利益の米国および国際の構成内容:
Year Ended June 30 6月30日終了の事業年度 1996 1997 1998
U.S. 米国 $2,356 $3,775 $5,072
International 国際 1,023 1,539 2,045
------------------------------------ ------------------------------------ ------- ------- -------
Income before income taxes 税引前利益 $3,379 $5,314 $7,117
------------------------------------ ------------------------------------ ------- ------- -------
The effective income tax rate was 35.0% in 1996 and 1997. The effective tax rate increased to 36.9% in 1998 due to the nondeductible write-off of WebTV in- process technologies.
実効税率は、1996年と1997年においては35.0%であった。実効税率が1998年に36.9%に上昇したのは、WebTV社の仕掛り技術の一括償却が税務上減算できないためである。
訳者注釈
ここで実効税率としているのは、法人所得税合計/税引前利益X100%=実効税率です。実効税率の変動要因を簡潔に説明しています。
最近、米国ウオール街(証券市場)で、ハイテク産業の買収で「営業権」を計上せず、一括償却していることが問題とされ議論中ですが、上記WebTV社の買収にともなう仕掛り技術の一括償却が該当します。これは、営業権を「仕掛り中の研究開発費」と解釈して一括費用計上するという考えです。ちなみに、米国税法では、「営業権償却」は損金算入できません。
Income taxes payable were: 法人所得税債務の内訳
June 30 6月30日現在 1997 1998
Deferred income tax assets: 繰延税金資産:
 Revenue items  収益項目 $ 474 $ 713
  Expense items  費用項目 505 613
------------------------------------ ------------------------------------ ------- -------
Deferred income tax assets 繰延税金資産 979 1,326
------------------------------------ ------------------------------------ ------- -------
Deferred income tax liabilities: 繰延税金負債:
 Unrealized gain on investments  投資の未実現利益 (479)
 International earnings  国際利益(外国子会社の留保利益) (465) (373)
 Other  その他 (4) (26)
------------------------------------ ------------------------------------ ------- -------
Deferred income tax liabilities 繰延税金負債 (469) (878)
------------------------------------ ------------------------------------ ------- -------
Current income tax liabilities 未払法人所得税 (976) (1,363)
------------------------------------ ------------------------------------ ------- -------
Income taxes payable 法人所得税債務 $(466) $ (915)
------------------------------------ ------------------------------------ ------- -------
Income taxes have been settled with the Internal Revenue Service (IRS) for all years through 1989. The IRS has assessed taxes for 1990 and 1991 which the Company is contesting in Tax Court. The IRS is examining the Company's U.S. income tax returns for 1992 through 1994. Management believes any related adjustments that might be required will not be material to the financial statements. Income taxes paid were $758 million in 1996, $1.1 billion in 1997, and $1.1 billion in 1998.
法人所得税は、内国歳入庁(IRS)の税務調査は1989年までのすべての年度について解決している。IRSは1990年と1991年はIRSは更正したが、会社は租税裁判所で異議を申し立てている。IRSは、1992年から1994年までの会社の米国法人所得税申告書の税務調査を行っている。経営者は、財務諸表を修正することを要求されるほどの重要なものはないと信じています。法人所得税の支払額は、1996年に758百万ドル、1997年に11億ドル、1998年に11億ドルであった。
訳者注釈
法人所得税の支払額の開示は、「キャッシュフロー計算書」の会計基準で要求されているのでこの税金に係る注記で開示しているもの。米国会計基準及び国際会計基準では、読者をミスリード(誤解)させない限り分かり易く開示すれば良いことになっている。
米国会計基準では、税務調査の結果及び経過は注記事項である。また、税務上の欠損金がある場合、欠損金の額と有効期限を開示する。

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税効果会計の歴史概要

税効果会計の歴史は、米国に始まります。1953年、米国公認会計士協会は,ARB43号(Accounting Research Bulletin 、会計調査公報)を公表した。ARB43号は、1939年から1959年までの20年間で51のARBを公表しそれを修正削除して整理したものである。ARB第43章Bは、「課税所得に含まれるが損益計算書に含まれない重要な事項があり、また損益計算書に含まれるが課税所得に含まれない重要な事項があることを問題として、税金は費用であり、損益計算は収入、支出、発生その他の項目について配分を行うのであるから、税金いついても他の費用と同じように配分を行うべきである」とし、税効果会計を提唱した。

1965年10月、APB意見書第6号(Accounting Principle Board Opinion, 会計基準委員会意見書、APB Opinion)が公表され,繰延税金は、税金の期間配分を行うに当たっては発生期の税率を用いる繰延法(Deferred method)と、発生期後の税率を用いる負債法(Liability methodの双方を認めた。1966年12月,APB意見書第9号が公表され、当期業績主義から包括主義に復帰するにあたって、剰余金に直接追徴税または還付税金および欠損金の繰越控除を計上することを禁止。1966年12月APB意見書第10号は、長期の繰延税金について現在価値に割り引くべきかどうかという問題を取り上げたが、財務会計一般に共通することを理由に、より広範な検討が必要とし、問題を先送りした。

1967年12月、APB意見書第11号「利益に対する税金の会計(Accounting for income taxes)」を公表し,「a。企業は将来にわたって税金の対象となる経営活動を継続し、したがって、企業は税金を将来にわたって課せられるであろうこと、b。課税対象となる所得を稼得する企業にとって税金は費用であること、c。費用であるがゆえに測定と適切な期間帰属の識別が必要であり、他の費用と同様、期間費用の測定にあたって発生額、繰延額および見積額の計算をしなければならないこと,d。費用と収益の対応は利益決定の基本的仮定の一つであり、将来の収益または将来の期間に対応する費用は繰延べなければならず、反対に、将来の収益または将来の期間に対応しない費用は当期(又は前期以前)に負担させなければならない、とし、当期の課税所得にかかる税金と当期純利益を計算すべき期間費用としての税金(income tax expense)は異なるとして包括税効果会計を採用した。また、税金の期間配分の処理および欠損金の税効果をどう考えるかについても原則を打ち立てた。繰延法を採用して、長期にわたって適用された。

税効果会計は,英国に影響を与え、SSAP(Statements of Standards Accounting Practices、会計実務基準書)第15号として取り上げられ、負債法又は繰延法を明記していないが、文章から負債法と解され、実務は負債法が主流となっている。

米国は,しかし、複雑性、無意味な事項の要求など批判があり、1982年1月、再考慮のための検討に入った。公開草案、公聴会など長い検討の結果、1987年12月、SFAS(Statement of Financial Standards,財務会計基準書)第96号「利益に対する税金の会計(Accounting for income taxes)」が公表された。資産・負債法(Asset and liability approach)を採用した。用語も「期間差異(Timing differences)」から「一時差異(Temporary differences)」に変更されている。1992年2月、96号の複雑性を整理して、SFAS第109号「利益に対する税金の会計(Accounting for income taxes)」を公表して,1992年12月15日以後開始する事業年度より適用されている。

今回、日本が採用した「税効果会計」は、1996年12月改訂の国際会計基準第12号「法人所得税(Intcome Taxes)」に類似しており、また、国際会計基準第12号は,SFAS第109号に類似しています。「国際会計基準」および「国際会計基準と日本の会計の相違点」を用意しています。興味のある方はご参照ください。

なお、国際会計基準(IAS)1号「財務諸表の表示」のパラグラフ56には、「繰延税金資産・負債は流動資産・負債に区分してはならない」としており、固定資産・負債に表示する。貸借対照表の表示は日米の会計基準と異なっている。

税効果会計適用時の法人税確定申告書の書き方

税効果会計を適用した場合の確定申告書の書き方については、国税庁のタックスアンサーで詳細に応えていますので、「税効果会計の適用と税務上の取扱いに関する質疑応答」をご覧ください。

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おわりに


ここに示しました税効果会計は、理解を容易にする為に一時差異の項目も少なくし単純明快にしました。現実の実務は、特に連結財務諸表の場合は、通常、複雑になります。

単独財務諸表では、欠損金が生じた場合の繰延税金資産が将来課税所得がでて欠損金の繰越控除が認められるか慎重な判断が求められます。

連結財務諸表でも、同様に連結子会社の欠損金も同様に税効果があるどうか慎重に吟味する必要があります。
特に、我が国の税法は前払いの税効果となり、繰延税金資産が巨額な金額で計上されることが多いからです(後払いの繰延税金債務は、個別財務諸表では、圧縮記帳の税務上の繰延利益に対するものくらいです。連結では未実現利益消去に対する税効果がありますが・・)。
機械的に税効果を計上することがあってはなりません。利益率の低い日本企業に欠損金を計上したときの繰延税金資産の取扱いは慎重に行われることが必要となります。

1998年10月30日、大蔵省企業会計審議会が公表した「税効果会計に係る会計基準」によると、ほぼ国際会計基準に準拠しています。読者の理解のために参考になることを願っています。


1998年3月29日作成
1998年6月20日−日本公認会計士協会の実務指針を反映
1998年7月23日−企業会計審議会「税効果会計に係る会計基準(案)」を反映
1998年11月4日ー企業会計審議会「税効果会計に関する会計基準」を反映

法人税の計算構造を知りたい方は、「法人税」のホームページをご覧ください。

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「税効果会計の仕方」EXCEL版を4500円でE-mailにて頒布しています。内容は個別企業を対象とした商法決算で税効果会計を行うに必要な、(1)実効税率の計算、(2)課税所得(申告書別表四と別表五の関連を明記)の計算、(3)税効果会計(申告書別表五の一時差異)のワークシート及び仕訳、(4)実効税率と実際税率の差異調整(税効果会計の検証となります)、(5)注記による開示事項のワークシートを具体的な数値を入れて申告書と関連させて分かりやすく計算しています。実際に使用しているもので自社の数値に当てはめて計算できるようにしています。長年の実務経験を基礎にしたノウハウを提供してます。経理は理論が判るだけでは実務はできません。実務は理論を具体的な形にしなければなりません。しかも、誰にでも判る明解な形に具体化することです。

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日米双方の連結実務の豊富な経験を基礎にキーポントを上記に記しました。本格的な連結決算制度の体制確立に参考となれば幸いです。なお、企業に合わせ正確かつ効果的・効率的な連結決算体制の確立について支援しています。興味がありましたら、下記宛てご連絡ください。

公認会計士 横山明

E-mail: yokoyama-a@hi-ho.ne.jp
TEL:047-346-5214 FAX 047-346-9636


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