不良債権

−日本の会計基準と米国の会計基準との比較−

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はじめに


1995年1月25日の日経新聞に「実態を示さぬ日本の開示」と題し、不良債権問題の克服への道を探っている記事がある。住専の不良債権問題が表面化し「住専の整理を決断し財政資金導入を」と言いはじめたのは、その年の7月である。8月には、国際通貨基金(IMF)は「国際資本市場に関する年次報告書」で、日本の銀行行政が銀行システムの弱体化に対し適切な対応をとってこなかった」と批判している。続けて、「待ちの姿勢では損失は回復できず逆に雪ダルマ式に膨らむ」と指摘し、問題銀行を速やかに処理するよう求めた。また、@経営内容の情報開示(デイスクロジャー)が不十分で、預金者や投資家が銀行を選別する市場原理が働かない、A公的資金を含めて問題銀行の処理費用を分担する明確なルールを作るべきだとしている。

3年たった1998年7月、新たに組織変更した金融監督庁は、主要19行に不良債権を確定すべく一斉検査に入り、同時に日銀も考査に入ったことを報じた。一瞬、耳を疑った。不良債権の実態を監督官庁が把握していない状況をまざまざと見せ付けたのである。不良債権が問題化して3年以上経過しているにもかかわらず、監督官庁が不良債権を把握してないことに驚かされたのである。

このホームページを開いて以後、日本長期信用銀行の実質債務超過が2兆7800億円(99年3月期)と判明し、金融再生法を新たに成立して債務超過銀行の国有化後、営業譲渡する道をつくった。99年9月28日、金融再生委員会は、米国リップルウッド・ホールディングス(投資会社)に譲渡することを決定し公表した。公的資金は、不良債権の二次損失を含めて総額4兆円超を投入するとしている。巨額な金額が追加されている。日本債券信用銀行も同様なことになるのは目に見えている。

金融監督庁の主要19行の検査結果を受けて、かつ、金融再生法成立後すぐさま、98年9月の中間決算を終えた日本債券信用銀行が、98年12月13日に、突如、金融監督庁から実質債務超過であるとして国有化される羽目となった。双方とも、98年3月末年度決算では、自己資本比率は、それぞれ10%および8%強として公表されていた銀行である。

日本債券銀行の債務超過額の比較
98年3月決算の修正内容

98年12月14日の新聞報道によれば、金融監督庁が検査結果を公表し日本債券信用銀行の98年3月決算時点で債務超過額944億円の債務超過で、有価証券の含み損を入れた実質債務超過額は2747億円ということである。98年3月決算の公表値では自己資本比率8%と公表していた銀行がである。内訳は下記の通りとしている。

98年3月決算の修正内容
自己資本額⇒決算公表数値 4671億円
不良債権償却・引当不足額 5615億円
債務超過額 944億円
有価証券の含み損 1803億円
実質債務超過額 2747億円
98年12月時点

99年6月13日、特別公的管理(一時国有化)中の日本債券銀行の98年12月時点(特別公的管理となった時点)で、おおむね3兆円の債務超過に陥っていることが判明した、と報じた(日本経済新聞99年6月13日)。

3兆円の債務超過額は、98年3月期の約3千億円の実に10倍である。

日債銀及び長銀の両行合計7兆円を超す公的資金投入で決着

2000年3月7日、日本経済新聞がまとめたところによると、次のようになっている。
経営破綻して特別公的管理(一時国有化)されていた日本長期信用銀行と日本債券信用銀行の譲渡が最終段階に入った。長銀は米国リップルウッド・ホールディングスを中心とする投資組合に譲渡。日債銀はソフトバンクを中心とする国内連合への譲渡が決まった。破綻処理は長い時間と多額の国民負担(公的資金)が必要であった。公的資金は最終的に計7兆円を超える見通しだとして、下記のようにまとめている。
長銀 日債銀
公的資金の投入 返済見込み額 公的資金の投入 返済見込み額
債務超過の穴埋め 約3兆6000億円 0円 約3兆2000億円 0円
譲渡後の資本増強のための注入(優先株) 2400億円 計5000億円 2400億円 計3300億円から
3400億円
98年3月に注入した公的資金 1300億円 600億円
譲渡後貸出先に大幅な損失が発生した
場合の負担
未定 0円 未定 0円
合計 約3兆9700億円 5000億円 約3兆5000億円 計3300億円から
3400億円

巨額な公的資金の投入から何かを学んだのであろうか?(「粉飾決算・トレッド委員会報告」参照)

日債銀粉飾決算事件、元会長らに有罪判決(2004年5月28日)
 旧日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の粉飾決算事件で、証券取引法違反(有価証券報告の虚偽記載)の罪に問われた元国税庁長官で元会長の窪田弘被告(72)ら3人の判決公判が2004年5月28日午前、東京地裁で始まった。服部悟裁判長は同被告に懲役1年4月、執行猶予3年(求刑懲役2年)の有罪判決を言い渡した。
 元頭取、東郷重興(60)と元副頭取、岩城忠男(66)の両被告は懲役1年、執行猶予3年(同懲役1年6月)とした。
 服部裁判長は「窪田被告らが旧大蔵省の通達に従わずに査定した日債銀の有価証券報告書が虚偽であることは明らか」と断じた。
 公判では日債銀の不良債権の自己査定の違法性が争われた。服部裁判長は「1997年に旧大蔵省が出した資産査定に関する通達が、金融機関が従うべき唯一の会計基準」と指摘。「経営裁量の範囲内」とする3被告の無罪主張を退けた。判決によると、窪田被告らは日債銀の1998年3月期決算で、不良債権を少なく見せかけ、貸し倒れ引当金約1592億円を過少計上した虚偽の有価証券報告書を提出した。 (13:04) (日本経済新聞社)

日債銀判決を批判する
「無視された不良資産処理の金融実務」(週刊エコノミスト2004年8月10・16日)
 参照

この判決の直前、5月24日には、2004年3月期決算に関し、金融庁の特別検査を受けて金融庁および監査法人から不良債権に対する引当不足を指摘されていたUFJホールディングスが、4月28日公表の当初計画の業績780億円の黒字決算から修正を行い、不良債権処理損1兆3千億円超となり最終赤字4028億円となったとの報道があった。昨年、2003年3月期には「りそな」、2003年9月中間期には「足利銀行」、2004年3月期は「UFJ」と不良債権処理はなおも続いている。今後は、地方銀行、信用金庫などに波及しよう。

日債銀逆転無罪 旧経営陣と行政の責任は残る(2011年8月31日付・読売社説)

破綻した旧日本債券信用銀行の粉飾決算事件の差し戻し控訴審判決で、東京高裁が、旧証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)に問われた元会長ら3人に逆転無罪を言い渡した。

 問題となったのは、破綻直前の1998年3月期決算だ。当時は日本が未曽有の金融危機に見舞われた時期で、不良債権を厳格に処理する新たな会計基準が導入されたばかりだった。

 差し戻し前の1、2審判決は、「新基準を逸脱して不良債権処理を先送りし、損失額を約1592億円も少なく査定した」と認定し、3人を有罪とした。

 しかし、最高裁は「会計基準が確立していない過渡期だった」として、審理を差し戻した。東京高裁は「旧基準に照らせば違法とは言えない」と結論づけた。

 同時期の決算が粉飾に問われた旧日本長期信用銀行の事件では元頭取らの無罪が確定している。それに続く旧日債銀の無罪判決は検察側には大きな痛手だろう。

 旧日債銀の破綻を巡っては約5兆円の公的資金が投入され、東京地検特捜部などが「国策捜査」の形で責任追及の役割を担った。

 ただ、バブル期に過剰融資を実行した経営者は時効の壁から立件できず、破綻直前の経営者だけを摘発せざるを得なかった。

 しかも、「銀行はつぶさない」という護送船団行政の下で、不良債権処理の先送りを事実上容認してきた旧大蔵省や、こうした決算にお墨付きを与え続けた監査法人の責任は不問に付された。

 特捜部の事件の組み立て方そのものに無理があった、と言われても仕方あるまい。

 違法性は問えずとも、旧日債銀の決算が情報開示の点で、実態と乖離(かいり)した不適切なものだったことは忘れてはならない。

 旧日債銀は不良資産を受け皿会社に移すことで決算を良好に見せかけていた。こうした先送り工作が最終的に損失を拡大させ、破綻の原因となったことを旧経営陣は重く受け止める必要がある。

 経営状況を検査などで把握しながら、抜本的な手を打たなかった旧大蔵省の責任も重い。

 金融庁が独立し、現在、検査体制は当時より強化されている。金融機関の情報開示を徹底し、金融システムの安定を図ることが、事件の教訓を生かす道である。


旧長銀配当、違法と認めず(2006年11月29日)

日本長期信用銀行(現新生銀行)の旧経営陣が違法な配当をし銀行に損害を与えたとして、債権を譲り受けた整理回収機構が大野木克信元頭取(70)=商法違反などの罪で1、2審有罪、上告=ら当時の役員7人に計10億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は29日、請求を棄却した1審東京地裁判決を支持、整理回収機構側の控訴を棄却した。問題となったのは1997年9月期中間配当と98年3月期決算配当の計約142億円。

藤村啓裁判長は、争点となった関連ノンバンクの不良債権査定手法について「当時は大蔵省通達による新基準を定着させるための試行・移行期間で、従来の基準で決算処理し、配当したことは違法とはいえない」と判決理由を述べ、旧経営陣の賠償責任を否定した。

2007年4月13日、大阪地裁裁判長は「当時の大蔵省の方針に沿って会計処理しており、粉飾決算とは言えない」と述べ、請求を棄却した。(長銀・裁判・不良債権 検索結果参照) 
現場からの声:
成長力を回復するにはバブルの戦後処理が必要だ」by池田信夫Blog(2007年2月) 「この国が間違え始めたのは1993年」by貞子ちゃんBlog(2007年2月)
元頭取ら逆転無罪・・最高裁(2008年7月18日)

一九九八年に経営破たんした旧日本長期信用銀行(現新生銀行)の粉飾決算事件で、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と商法違反(違法配当)の罪に問われた大野木克信元頭取(72)ら三被告の上告審判決で、最高裁第二小法廷は十八日、執行猶予付き有罪とした一、二審判決を破棄、三人に逆転無罪を言い渡した。無罪が確定する。

 不良債権査定のため旧大蔵省が示した新基準を使わずに会計処理したことが違法といえるかどうかが争点で、中川了滋裁判長は「新基準は大枠の指針を示したもので、適用するには明確性に乏しかった。ほかの大手銀行十八行のうち十四行も長銀と同じ処理をしていた」として、違法性を否定した。

 一時国有化された長銀には巨額の公的資金が投入されたが、破たんに至るまでの刑事責任を誰も負わない結果となった。

同じ構図で争われ、一、二審で旧経営陣三人が有罪とされた旧日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の裁判にも大きな影響を与えそうだ。

 また第二小法廷の津野修裁判長は十八日、違法配当をめぐり、大野木元頭取ら旧経営陣七人に整理回収機構が賠償を求めた訴訟でも、新基準の不明確さを理由に機構側の上告棄却を決定。民事上の責任もないとした一、二審判決が確定した。(中国新聞 参照)

旧大蔵省の甘い会計基準では元頭取の責任を問うことは出来ないのは当然である。最高裁の判決は妥当。それにしても、この判決に10年の歳月が必要であったのだろうか?旧大蔵省から引継いだ金融庁も、未だ、会計基準に対する認識は何ら変わっていはいない。

旧大蔵官僚の責任不問に・・フジサンケイ」「最高裁判決ニュース 参照」

新生銀行、あおぞら銀行にみる銀行再生は・・
2002年4月現在、金融再生の一環として新生銀行が民営化されて2年が経つ。あおぞら銀行も同様である。両行には約10兆円の公的資金が投入された。
再生銀行 財務情報 再上場
04年2月
株主構成
新生銀行
旧日本長期信用銀行
財務情報 株価 リップルウッド・グループが出資
新生銀行は、2004年1月16日、2月19日に東京証券取引所に再上場すると発表。

2004年2月19日、新生銀行は東京証券取引所に再上場を果たした。19日初日株価は827円で時価総額1,123,511百万円は、日本の銀行では、住友信託銀行を抜いて、5位のりそな(昨年2兆円の資本注入している)についで6位であった。

リップルウッドは、営業譲渡時に預金保険機構から長銀株を10億円で購入、資本増強で第三者割当増資で1,200億円を実施し、合計1,210億円を払い込んでいる
一方、公的資金は合計7.8兆円(=金銭贈与3.6兆円+債権0.8兆円+株式2.3兆円+瑕疵担保条項行使0.8兆円(03年3月末まで)+優先株式で資本注入0.13兆円(98年)+0.24兆円(2000年))を投入している。(2004年1月17日日本経済新聞より)
再生銀行 財務情報 再上場
06年11月14日
株主構成
あおぞら銀行
旧日本債券信用銀行
IR情報 株価 @サーベラス(61.84%)、オリックス、東京海上(ともに14.99%)
瑕疵担保条項とは、両行が取得した貸出債権の価値が20%以上低下した場合、譲渡契約を解除して国に買取り請求できる「瑕疵担保条項に基づく解除権」をいいます。新生銀行の場合は2003年3月末まで、あおぞら銀行の場合は、2003年9月末まで。

@ソフトバンクはブロードバンド事業に力を入れており、保有するあおぞら銀行株式の48.87%全部の売却を検討していた。
2003年4月11日、米国投資ファンド、サーベラスに1000億円で売却することを発表した。ソフトバンクは、2年足らずで500億円の売却益を得る模様。サーベラスは、現在12.02%を所有し株主第4位が、ソフトバンクから取得すると50%以上となる。9月5日ソフトバンク株式会社は全株をサーベラスに売却し株主ではなくなった

金融監督庁と日本債券信用銀行との間で、99年3月期決算予想で、税効果会計の適用の相違を指摘してますが、不良債権の引当金や償却が将来の税金が減少する効果が認められない以上、金融監督庁の「適用はできない」との結論は正しい。「税効果会計」を参照ください。

不良債権処理先送り長期不況の主因

1998年12月27日、経済企画庁は「98年版経済の解雇と課題」を公表した。現在の深刻な不況の主因は官民が金融機関の不良債権処理を先延ばしにし、バブル崩壊後の後遺症を悪化させたことだと強調した。不良債権処理の遅れの原因として、@株価や地価がいずれ上昇するのではという甘い期待があった、A銀行の横並び体質が個別行の独自の判断に基づく処理を抑制した、B金融機関の情報開示が不充分だった、としている。

この経済企画庁の公表に先立つ、25日には、金融監督庁は大手銀行の一斉検査の結果を公表している。今年7月から9月まで大手銀行19行(長銀、日債銀を含む)の検査結果は、大手銀行の不良債権の自己査定の甘さを指摘しており、長銀、日債銀を除く大手銀行17行で、98年3月末で5兆4千億円の貸倒引当金不足であったとのことである。

つまり、経済企画庁が不良債権処理の遅れの原因として上記三つを挙げているが、真の原因は偏にB情報開示の遅れに起因するのである。適切な情報開示がされさえいれば、@の甘い期待やAの横並び体質も吹き飛んでいたということである。そもそも、経済企画庁がこうしたリポートが書けたのは、金融監督庁が検査結果をまとめ、やっと適切な情報を提供したからに他ならない。真の原因は、日本には不良債権を適切に開示できる会計基準が整備されていないためなのである。

では、不良債権に関する日本の会計基準はどのようになっているのか示してみようと思う。下記に示す会計基準は、銀行に特定されず事業会社すべてに適用される会計基準を示すことにする。すると、金融監督庁(旧大蔵省)と日本銀行か不良債権を把握して来なかった原因が分かるのではないか(?)と思われるからである。

大手銀行が法人税納付再開

2012年5月12日、大手銀行が相次いで法人税の納付を再開する見通しとなった。過去に巨額の赤字を出したため長年、納税を免除されてきたが二〇一三年三月期にも三井住友銀行は十五年ぶりりそなホールディングス(HD)は十八年ぶり税金を納める。みずほフィナンシャルグループも傘下の銀行が納税する見込みだ、と報道した。

大手銀行
三菱東京UFJ銀行 2012年3月期にも、税務上の繰越欠損金を3メガバンクとして初めて解消し、10年ぶりに法人税の納付を再開する
住友信託銀行 2007年3月期に13年ぶりに法人税の納付を再開納税の再開は同行が初めて」と大々的に報道された。
三井住友銀行 さくら銀行と住友銀行が1998年3月期に納付して以来15年ぶりに2013年3月期に法人税の納付予定
りそなホールディングス 前身のあさひ銀行と大和銀行が95年3月期に納付して以来18年ぶりに2013年3月期に法人税の納付予定
みずほフィナンシャルグループ 2013年3月期に、傘下の銀行が納税する見込みだ。 1995年3月期から15年連続、法人税を払ってない

問題企業向け150兆円(2001年4月金融庁集計)

2001年4月18日、日本経済新聞は、金融庁の集計として問題貸出先に総額約150兆円を融資していることを報道した。金融庁が銀行が返済の確実性が低いと認定している問題債権を81兆円として既に公表しているが、そのほかに優良な担保や保証が付く69兆円の問題貸出先融資があることが判明した、と報道。内容は下記の通りである。

預金取扱金融機関の貸出別融資状況
2000年3月現在(単位:兆円)
金融庁の
集計とされるもの
正常債権以外の
債権
従来公表の
数値
正常先 522
要注意先 117 117 64
破綻懸念先 21 21 11
破綻・実質破綻先 13 13 6
債権合計 673 151 81

金融庁の集計の対象となった金融機関は、銀行のほか信用金庫、信用組合などとなっている。
国民住宅金融公庫、政策銀行、農林中央金庫などは含まれていない模様。

また、上記数値は1年前の2000年3月期です。2001年3月末ではどうなるのでしょうか?

2001年9月負債総額1兆7400億円を抱え民事再生法を申請し実質経営破綻したマイカルは要注意先に区分され貸倒引当金の繰入率は貸付金額の3%―5%に止まっていたとされる(日本経済新聞9月15日)。この引当率は過去の貸倒れ実績に基づいているとのことだが、@過去に経験のない巨額な不良債権になぜ過去の実績が使えるのか?、A取立不能見込み額は将来の回収不能見込み額の見積であって過去の経験率との因果関係はなく個別に回収額を検討して引当すべきものであるにかかわらず、今なお、金融庁は下記の企業会計原則の考え方に拘泥している。

自己査定というなら、要注意先は護送船団方式で一律に引当率を当てはめるのではなく、個別企業ごとに吟味して必要額を引当てるべきなのである。さもなくば、金融監督当局が監督責任で十分な引当をするよう具体的・明確な指示を出して金融に対する信頼を早く確保するかしかない。自己査定であろうと監督当局の指揮(指示)・監督であろうと、経済は生き物、予測し得ないリスクはつきもので、十分な引当が必要なのである。要注意先にはマスコミなどで取り上げられているゼネコン・流通等の大手30社が含まれているようだが、明かに3−5%の引当率は少なすぎる。

不良債権の引当金の問題は、関係者(金融庁、金融機関、監査人)のすべてが企業会計原則に支配され一向に進展しない。IMFの金融審査をしぶしぶ受け入れたようだが、金融庁および他の関係者に対するガバナンスが少しでも効いて欲しいものである。

金融庁の不良債権の認識(2001年9月)

柳沢伯夫金融担当相が英米訪問(IMFの金融審査受入表明)から帰国した9月10日前後から、市場関係者や海外当局者から日本の不良債権処理の着実な進展を疑問視する声が向けられ、小泉首相は改革の目玉として不良債権問題の抜本的進展を目指そうと柳沢金融相と頻繁に協議した。
これに対し、「金融庁は従来の金融行政や会計原則などに反する対策は打ち出せない」と難色を示し首相サイドのいら立ちは増した。(日本経済新聞9月22日朝刊) 金融庁の不良債権処理の認識を語っている。

9月15日、マイカルの実質が倒産後の不良債権の不信感が頂点に達した頃の話である。金融庁(旧大蔵省)は、会計原則を作成していた企業会計審議会の事務局でもある。加えて銀行監督局でもある。会計原則に不備があれば自らが改善する立場にもある。不思議な発言である。金融庁は会計制度の企画・立案も行うことになっている。金融庁だけの問題ではなく、日本が会計基準の重要性を認識していないことに最大の問題がある。

これでは、いつまでたっても不良債権問題は解決されないばかりか、証券取引法で作成された財務諸表を基礎に作成した英文財務諸表にレジェンド(警告文)が付されるという問題も解消されないであろう。
追伸:株の含み益などの「償却原資」―引当にまわせる総額が決まって、次に引当金がその範囲内に収まるように勘案しながら、不良債権を査定するという逆算がまかり通っている。したがって償却原資を超える不良債権処理は実施されない。そもそも「償却原資」という言葉自体、「償却原資がなければ償却しない」というスタンスを明確に自白している。その証拠に、不良債権残高が増えているのに引当の総額が減る、という奇怪な現象が発生している。文芸春秋10月号に木村剛氏(金融コンサルタント)が寄稿している文章である。氏は加えて、不良債権処理を先延ばしていると批判している。

償却原資の範囲内で償却して処理を先延ばししているとしているが、企業会計原則、会計慣行、商法、証券取引法(日本の場合規則がやたら多い割に機能しない)では認められようが、善良なる国民の感覚からすれば粉飾であろう。

米国会計基準であれば債権残高の引当金控除後は正味実現可能価額 (Net realizable value) で示さなければならず粉飾に該当する。

銀行、監督官庁、監査人の関係者は、小手先の対応は止めて信頼回復のために本気になって、それぞれが独立して「信頼を得られる会計とは何か」を基本から考え直す必要があろう。
会計とは情報開示であり読者が存在し読者の信頼を得なければならない。独り善がりになった時に信頼は崩壊する。経済は信頼を基礎にしている。得に資本市場には信頼できる仕組みが必要となる。

このホームページを掲載したのは不良債権問題が騒がれ始めた6年前である。今なお問題は解決しない。2002年3月期には大手銀行は不良債権の追加引当と金融商品の時価会計の含み損処理で赤字決算に転落し配当しない方針と伝えている。

金融庁特別検査結果(2002年4月)

2002年4月12日、金融庁は主要13行の「特別検査」の結果を公表した。「特別検査の結果公表に合わせて主要行が4月12日に公表した14年3月期の財務内容を見ると、自己資本比率は国際基準行については8%、国内基準行については4%を大きく上回る水準となる見通しであり、特別検査の結果を踏まえても銀行の健全性に問題はない。」としています。詳細は「主要行に対する特別検査の結果について」および「主要13行による平成14年3月期の財務内容の公表概要について」を参照してください。

平成14年3月期の財務内容の概要(主要13行)・・・2002年4月12日公表
(億円・%:計数は単体)
その他
有価証券
実質業務純益 評価差額 自己資本比率
(※1) 不良債権処分損 当期利益 (※3) (※4)
(みずほ) 第一勧業 3,500 ▲10,500 ▲ 4,100 ▲ 2,400 10%台半ば
富士 3,800 ▲5,200 ▲ 1,300 ▲ 3,100 10%台半ば
興銀 2,100 ▲6,600 ▲ 3,900 ▲ 3,200 11%台前半
安田信託 670 ▲1,800 ▲ 1,800 ▲ 400 * 10%台半ば
(MTFG) 東京三菱 4,700 ▲5,000 ▲ 2,400 500 10%台前半
三菱信託 1,550 ▲1,850 10 ▲ 250 10%台後半
(UFJ) UFJ銀行 4,900 ▲10,650 ▲ 2,850 2,000 10%台半ば
UFJ信託 1,200 ▲2,050 ▲ 1,250 ▲ 1,100 * 9%台半ば
三井住友 11,800 ▲15,500 ▲ 3,200 ▲ 4,900 11%台半ば
(大和銀HD) あさひ 1,900 ▲5,300 ▲ 5,700 ▲ 200 * 8%台半ば
大和 1,140 ▲4,000 ▲ 4,300 ▲ 480 * 8%台前半
中央三井信託 1,550 ▲1,700 ▲ 2,900 0 * 10%程度
住友信託 1,500 ▲1,100 ▲ 400 ▲ 900 11%前後
13行計 40,310 ▲71,250 ▲ 34,090 ▲ 14,430 10%台半ば
▲ 78,100 (※2)
(注1)「実質業務純益」は、「業務純益+一般貸倒引当金繰入額」の計数。(大和銀行及び信託銀行は、「信託勘定不良債権処分損」を含む。)
(注2)合併時に消滅した東海銀行分を含めた場合の計数。
(注3)その他有価証券評価差額は減損処理後の計数。
(注4)「自己資本比率」の「*」は国内基準行。
(注5)大和銀行は、大和銀信託銀行を含めると自己資本比率は8%台半ば。中央三井信託銀行は、三井アセット信託銀行を含めると自己資本比率は10%台半ば。
出展:金融庁: 平成14年3月期の財務内容の概要(主要13行)より

銀行の巨額な繰延税金資産は実現可能か?(02年3月)参照。

大手銀行05年3月決算結果(2005年5月公表)

2005年5月25日、大手銀行グループの05年3月期の決算を発表した。大手銀行・金融7グループは2005年3月期決算で不良債権処理が峠を越えたことで、各行とも「攻めの経営」に転じる構えだ。いずれもリテール(個人向け取引)分野が主戦場とみており、住宅ローンや消費者ローン、中小企業向け融資での競争は一段と激化しそうだ。

金融庁検査の結果、不良債権処理を大幅に積み増したUFJホールディングスが5545億円の最終(当期)赤字になった。赤字決算は4期連続。ただし、ダイエー、大京、ミサワホーム向け不良債権の処理に踏み切ったことから、不良債権比率が04年9月の9.4%から、半減目標(6.4%)以下の4.1%に低下。三井住友フィナンシャルグループも不良債権処理上積みで2342億円の最終赤字になった。

 一方、他の5グループは不良債権処理費用の軽減などで最終黒字になった。7グループ全体の業務純益は3兆9000億円、不良債権処理損失は1兆9000億円。2期連続で本業のもうけを示す業務純益が、不良債権処理のコストを上回り、日本の金融界のくびきとなっていた不良債権問題に区切りをつけた。

 資本増強のため7グループに総額10兆円超投入された公的資金については、みずほフィナンシャルグループが06年度中に完済する方針を示すなど、返済に向けた動きが本格化。「国民負担なき完済」をいかに早く実現できるかも問われることになる。毎日新聞2005年5月25日【塚田健太】

大手銀行の不良債権処理状況と最終損益(2005年3月期) 単位:億円
2006年3月期
最終損益
2005年3月期
最終損益
不良債権処理
終了年度
2004年3月期
最終損益
2003年3月期
最終損益
2002年3月期
最終損益
今日の
株価
会社
概要
連結
決算
IR
情報
みずほフィナンシャル・グループ 
(2003年3月12日より東証上場)
6,499 6,273 4,480 ▲23,771 株価 会社 決算 IR
みずほホールディングス ▲11,620 株価 会社 決算 IR
第一勧業 ▲4,233
富士 ▲1,122
日本興業 ▲4,474
みずほアセット信託 ▲1,791
三井住友フィナンシャル・グループ  (2002年12月上場) 6,868 ▲2,342
不良債権処理
3,011 ▲4,653 株価 会社 決算 IR
三井住友銀行 ▲4,638 株価 会社 決算 IR
三菱UFJフィナンシャル・グループ
2005年10月UFJと経営統合
11,817 3,384 4,825 ▲1,614 ▲1,523 株価 会社 決算 IR
東京三菱 439
三菱信託 ▲876
UFJホールディングス
2005年10月三菱と経営統合
▲5,545
不良債権処理
に後れ経営統合
▲3,756 ▲6,089 ▲11,464 株価 会社 決算 IR
UFJ銀行 ▲4,088 ▲10,147
UFJ信託 332 ▲1,317
りそなホールディングス 3,832 3,655 ▲14,158 ▲8,376 ▲10,406 株価 会社 決算 IR
あさひ ▲5,922
大和 ▲3,366
三井トラスト・ホールディングス 1,196 940 797 ▲967 ▲2,849 株価 会社 決算 IR
住友信託銀行 1,000 968 739 ▲729 ▲424 株価 会社 決算 IR
合計 31,212 7,335 ▲4,061 ▲46,199 ▲42,924
2005年3月期決算数値は読売新聞報道による。2006年3月期6大銀行好決算 参照
UFJの大口不良債権は「ダイエー」、2005年9月30日再建策として全国55店舗閉鎖を公表(「ダイエー」ニュース 参照)
出展:2004年3月は金融庁がまとめた「主要行の平成16年3月期決算状況<速報ベース>」 (出典)決算短信(平成16年5月24日公表)
主要行の平成17年3月期決算状況<速報ベース>
・・不良債権処理最終年度
りそな公的資金注入(2003年5月17日土曜日)
2003年5月17日土曜日朝刊で、新聞各社は、「りそなHD一兆円規模の公的資金注入を要請」と報じた。前日16日金曜日の終値は58円であった。
2002年9月中間決算で約8300億円計上していた繰延税金資産の計上能力について、2003年3月期決算に際し、会計監査人から疑義の意見があり、計上を見送ると、国内業務に求められている自己資本比率4%を割り込む恐れが生じたと報じている。公的資金の申請額は定かではない。17日、政府は、預金保険法102条第1項第1号(下記参照)に基づいて「金融危機対応会議」を召集し公的資金注入などを決める。
17日の夕刊では公的資金注入額は2兆円になる模様としている。「りそな」に関するGoogle検索 参照
金融庁役人の「りそな銀行に対する「経営監視チーム」の設置」が行われ取締役会のオブザバーなど経営監視される。

週が明けて19日月曜日、注目された証券市場は最安値47円、終値48円となった。時価総額2713億円。

預金保険法102条:
第七章 金融危機への対応
(金融危機に対応するための措置の必要性の認定)
第百二条  内閣総理大臣は、次の各号に掲げる金融機関について当該各号に定める措置が講ぜられなければ、我が国又は当該金融機関が業務を行つている地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認めるときは、金融危機対応会議(以下この章において「会議」という。)の議を経て、当該措置を講ずる必要がある旨の認定(以下この章において「認定」という。)を行うことができる。
一  金融機関(次号に掲げる金融機関を除く。) 当該金融機関の自己資本の充実のために行う機構による株式等の引受け等(以下この章において「第一号措置」という。)
二  破綻金融機関又はその財産をもつて債務を完済することができない金融機関 当該金融機関の保険事故につき保険金の支払を行うときに要すると見込まれる費用の額を超えると見込まれる額の資金援助(以下この章において「第二号措置」という。)
三  破綻金融機関に該当する銀行等であつて、その財産をもつて債務を完済することができないもの 第百十一条から第百十九条までの規定に定める措置(以下この章において「第三号措置」という。)
2  内閣総理大臣は、労働金庫又は労働金庫連合会に対して認定を行おうとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の意見を聴かなければならない。
3  第三号措置に係る認定は、第二号措置によつては第一項の支障を回避することができないと認める場合でなければ、行うことができない。
4  内閣総理大臣は、第一号措置に係る認定を行うときは、当該認定に係る金融機関が第百五条第一項の申込みを行うことができる期限を定めなければならない。
5  内閣総理大臣は、認定を行つたときは、その旨及び当該認定が第一号措置に係るものであるときは前項の規定により定めた期限を当該認定に係る金融機関及び機構に通知するとともに、官報により、これを公告しなければならない。
6  内閣総理大臣は、認定を行つたときは、当該認定の内容を国会に報告しなければならない。


平成15年6月2日(月)
、高木金融庁長官記者会見で、りそなからの申請額1兆9600億円の理由や、りそなの繰延税金資産が、ある監査法人がゼロ査定だったとか、金融庁の幹部が監査法人に圧力をかけたとの報道があるがとの記者の質問に、金融庁の見解を明らかにしている。釈然としないものが残るが、いずれ回答が出よう。高木金融庁長官記者会見の概要  参照
平成15年6月10日(火)竹中金融・経済財政担当大臣記者会見要旨のなかで「りそな銀行に対する資本増強の決定等について」述べている。
株式会社りそな銀行に対する資本増強の決定等について・・ 金 融 庁
「経営の健全化のための計画」の概要・・りそなホールディングス りそな銀行
経営の健全化のための計画・・りそなホールディングス りそな銀行

経営の健全化のための計画の67ページに記載された(図1-2)収益動向(連結ベース)りそなホールディングの平成15年3月期末の繰延税金資産は5229億円に対し、資本勘定は3108億円である。平成15年3月期に会計上の欠損金(税引前損失)5241億円に繰延税金資産の償却額3007億円に若干の税金と少数株主持分を加減算して当期損失8376億円となっている。
一方、16年3月期から19年3月期までの4年間の収益見込みで税引前利益は、16年3月期からそれぞれ662億円、1652億円、1472億円、1264億円と利益を計上する見込みとしているが、法人税等欄は申告税額および税効果の調整額はなく税引後当期利益が同額計上され全額配当可能利益としている(経営の健全化のための計画の(図表1-1)収益動向及び計画「りそなホールディングス」61ページ参照)。

平成15年3月期の会計上の欠損金5241億円が将来の利益と損益通算し、加えて、5229億円の繰延税金資産が将来の利益と相殺でき実現すると仮定している。つまり、繰延税金資産5229億円/実効税率約40%=13072億円税引前の金額+会計上の欠損金5241億円=合計18313億円が将来3年間の課税所得と相殺できると想定した決算と説明されているが、
@3年間の税効果を資産計上した合理性はあるのだろうか
A3年間に合理性があるとしても実現可能として計上した繰延税金資産5229億円の金額そのものが適正であるのか
公表された資料から見ると、(将来3年間の利益662億円+1652億円+1472億円=3786億円マイナス(-)会計上の欠損金5241億円の将来の利益との相殺=課税所得ナシのため税効果ナシ)、となる。

上記のように将来3年間の収益見込みを見る限り5229億円の繰延税金資産を計上しておくことは説得力に欠ける。平成15年3月期には予想できなかった巨額な損失を計上し、加えて、3期連続して損失となり、将来の見積収益の不確定性および見積の信頼性欠如が立証されているにかかわらず、将来3年間の見込み収益を基礎に繰延税金資産を計上することは常識的には考えられない。例え、将来3年間の税引前利益合計3786億円を基礎にしても(3786億円X実効税率40%=)1514億円の繰越し欠損金に関する繰延税金資産しか計上できない。

このような状況で繰延税金資産が計上されるのは不思議である。この批判をかわすために、国内業務に求められている自己資本割合4%(国際業の場合は8%が求められる)の約3倍にもなる12%の自己資本割合となる巨額な公的資金の投入が行われると思われてもやむをえない決算内容である。巨額な公的資金投入によって比較的重要性が薄れた(←金融庁の狙いであろう)約5000億円の繰延税金資産はかつての不良債権同様塩漬けになろう。来年からの処理を注目しておく必要がある。かつての破綻銀行のように上場廃止とはならないので、上場会社として財務情報は継続して開示される。

平成15年6月13日に、平成15年5月17日(土)18:30〜19:00開催の第1回金融危機対応会議議事録が公表された。その会議に提出された資料4「平成15年3月末時点の自己資本等の状況」には、りそな銀行の連結貸借対照表、損益計算書、第1期の単独貸借対照表、損益計算書が含まれているが繰延税金資産を除くと債務超過である状況は誰の目にも明らかである。

平成15年6月27日金融庁は事業再構築計画の認定」を行った。
「株式会社りそなホールディングス、株式会社りそな銀行から、平成15年6月23日付で提出された「事業再構築計画」について、産業活力再生特別措置法第3条第1項の規定に基づき審査した結果、同法第2条第2項第1号に規定する事業構造変更及び同項第2号に規定する事業革新を行う者として同法に定める認定要件を満たすと認められるため、6月27日付で事業再構築計画の認定を行った。」としている。

りそな、赤字1兆円規模 不良債権処理で中間決算(2003年9月)
誤謬の訂正correction of errors)の事例
(2005年5月23日、ニチイ学館が「保有土地の含み益を計算し忘れたミスがあった」とし東証へ訂正した事例発生)
(2006年2月14日、株式会社 宮 不正経理による改善報告書ジャスダックへ提出)
(2006年3月22日、米国基準のNECも「子会社の架空取引」で遡及修正、2006年6月22日遡及修正版
(2006年12月18日、日興コーディアルグループSPCの連結除外から遡及修正)
(2008年12月25日、ビックカメラがSPCへ本社ビル譲渡で遡及修正
2003年9月24日、共同通信の記事として『公的資金の注入を受けたりそなホールディングス(HD)の今年9月中間連結決算の最終赤字が1兆円規模に達する見通しであることが24日明らかになった。  現在進めている資産の査定厳格化で、傘下銀行の不良債権処理額が大幅に増えて損失が膨らむため。負の遺産を早期に処理することで、グループの再出発を目指す。  りそなは監査法人トーマツに貸出債権の再査定を委託した。その結果、不良債権に分類される債権が大幅に増加、約1500億円と想定していた不良債権処理額が1兆円規模に増える。  りそな銀行が7000億円程度、近畿大阪銀行が2000億円を超える赤字となり、りそなHDの自己資本比率は現在の約12%から7%程度に低下する見通し。  りそなHDが今年6月に発表した業績見通しでは、9月中間期が220億円、来年3月期で635億円の最終利益を予想していた。グループ資産の再査定は10月初めにも終える方針で、10月にも業績を下方修正する。(共同通信) [2003年9月24日12時30分更新] 』と報じた。

びっくり仰天である。資産の査定厳格化で不良債権処理額が1兆円規模に増えるというのが事実とするなら、平成15年3月期末の資本勘定は3108億円であったので、2003年3月末で実質債務超過であったことになる。特別検査をしていた金融庁が、十分な説明もなく2兆円近い巨額な公的資金の投入は裁量行政を彷彿とさせ、適正とした監査意見には釈然としないものを残した。

2003年10月10日、日本経済新聞は、リそなグループの経営改革の全容が明らかになったとして「りそな最終赤字1.7兆円」の見出しで次のように報道した。(連結ベース)りそなホールディングの平成15年(2003年)3月期末の繰延税金資産は5,229億円に対し、資本勘定は3,108億円である。
2003年3月期 6月の公的資金
1兆96百億円
投入時点
2003年9月
中間決算
中間決算の最終赤字 1兆7千億円
自己資本比率の低下 3.78% 12% 6%
貸倒れ引当金の積み増し: 1兆2,600億円
  破綻懸念先債権 60% 90%
  要管理先債権 30% 50%
繰延税金資産の算入額を圧縮 3年分 1年分
不動産会社を中心に清算・売却
で損失計上
▲4千億円

上記の損失の内容では、4月以降の新経営陣が発生させた損失ではない(3月以前の損益計算書に計上されるべき損失)。つまり、国際基準で見れば、2003年3月末までに処理すべき損失を先延ばしした誤った会計処理を、新経営陣が適正な評価に直したものと解釈できる。つまり誤謬の訂正correction of errors)なのである。したがって、2003年3月末時点での適正な財政状態を再度表示(restate)しなおすべきであり、現経営陣が発生させていない損失を9月期の中間損益計算書に計上するのは不合理なのである。

国際基準で2003年3月末時点での適正な財政状態に再度表示しなおす(restate)と、@特別検査は何であったのか、他の銀行も同様の状況にあるのではないかという疑念が生まれ、A2兆円弱の公的資金の注入がどのような財政状況で行われたのかより明確となろう。2兆円の血税を注入した以上、適正な開示による説明責任くらいは果たして欲しいものである。しかし、現在、日本は再表示(restatement)を求める国際的な会計基準を採用していないのである。

ちなみに、お隣の国韓国の会計基準では第1号「会計処理の変更および誤謬の訂正」(SKAS No. 01 : Accounting Changes and Correction of Errors)としてほぼ国際基準に整合している。

中国の企業会計基準では、下記の通り、国際基準に準拠している。
企業会計基準チャプター9財務報告、61項には、前年同期比較の比較財務諸表の開示を求め、会計区分・内容に変更ある場合は、当年度基準で遡及して過年度財務諸表項目の修正を求めている。国際基準に準拠している。これは、日本に会計基準が存在しない
Accounting Standard for Business Enterprises
Chapter 9 Financial Reports

Article 61
Financial statements should include comparative financial information for the corresponding previous accounting period, When so required, if the classification and contents of statement items of the previous accounting period are different from that of the current period, such items should be adjusted in conformity with that of the current period.

なお、国際会計基準では、会計方針の変更(Change in accounting policy)の場合も、誤謬の訂正correction of errors)と同様、期間比較を可能にするため、新たな会計基準を適用して過去の財務諸表を再表示しなおし(restatement)ます。
米国でも類似していたが、2005年6月1日米国財務会計基準審議会(FASB)は、従来のAPB意見書20号とSFAS3号をまとめて、SFAS154号「会計上の変更と誤謬の訂正(Accounting Changes and Error Corrections)」を公表し、国際会計基準と一致させた。

2004年1月13日、米国ヒューロン・コンサルティング・グループは、米国証券取引委員会(SEC)に登録された上場企業の年次報告書および四半期報告書の2003年度「誤謬の訂正」の分析結果を公表した。それによると2003年度は323件の会計上の誤謬による訂正(financial restatements)をSECに提出し、2002年度の330件より若干減少している。2003年度における「誤謬の訂正」のトップは、貸倒引当金やたな卸資産の陳腐化引当金などの偶発事象に関する引当見積の誤りに関するもので、2番目に収益認識に係る誤謬の訂正である。2002年度では収益の認識に関する誤謬の訂正がトップであった。(プレス・リリース 調査結果サマリー 参照)

2005年1月20日、同社は、2004年度の「誤謬の訂正」の分析結果を公表。2004年度は414件で、前年の323件を上回り28%の増加となり最高となった。内容別では、収益認識の誤り(16%)、ストックオプションを含む株主持分の誤計上(16%)、偶発債務の見積り誤計上(14%)、不適切な資産計上(8%)、たな卸資産の誤計上(4%)となっている。
2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
SECに登録した「誤謬の訂正」件数
Restatements by Year, Filed with SEC
233件 270件 330件 323件 414件

2006年7月、米国会計検査院(GAO)は、「2002年の遡及修正」の更新版として「2006年の遡及修正の研究」を公表した。
日本電気(NEC)の米国基準の遡及修正
【NECは、2006年9月28日、米証券取引委員会(SEC)に対し、2006年3月期の年次報告書を、期限の10月2日までに提出することが困難となり、その事実をSECに通知したと発表した。同社は米ナスダック市場にADR(米預託証券)を上場】と報道(ロイター SEC向け年次報告書提出遅延について 参照)。SEC登録書類 参照

2006年3月22日、米国基準のNECも「子会社の架空取引」で遡及修正、2006年6月22日遡及修正版

なお、日本電気の有価証券報告書の連結財務諸表には、前年度である平成16年度の数値を遡及修正したとして、次のように注記3に開示しているEDINET 参照

なお、SECに対してNECは10月になってもファイルが遅延している。(EDGAR Database  日本のニュース 英語ニュース 参照)2002年には、PwCからE&Yに監査人を変更している。

(2007年1月17日、ナスダックからSECに2006年3月期の決算に関するForm20−Fを2月28日までにSECへ登録すれば上場維持できるという通知を受けたと公表した。(ナスダックニュース ナスダックの上場維持に関する問題会社リスト))

(2007年7月30日、2006年3月期の決算書のSECへ登録の延期をしていたNECに対し、Nasdaqは2007年9月25日まで延期する旨通知した。ナスダックニュース 日本語ニュース ナスダックの上場維持に関する問題会社リスト
    ↓
NECは、2007年9月25日までに訂正財務諸表(2006年3月期を含む2000年3月期までの遡及修正)をSECに提出できずナスダック上場廃止。これは異例中の異例。(「日本語ニュース」「英文ニュース」(「監査人のE&Yが主張するSOP97−2」、「SOP97−2」、CPAジャーナル「複合契約に係るソフトウエア契約の収益認識」「SOP97−2におけるソフトウエア収益の認識」参照)

3 公表済み財務情報の修正再表示

当社は、(1) 架空取引の影響に係る訂正および(2) 米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠した一定の会計実務と会計方針を反映するための訂正を認識するために、平成16年度の連結財務諸表を修正再表示しています。また、平成17年度の連結財務諸表の作成に関して、非継続事業の開示を行うために平成16年度の連結財務諸表も訂正しています。非継続事業の詳細に関しては、注記2を参照して下さい。 

連結財務諸表の訂正

平成16年度における連結損益計算書の当期純利益への種々の訂正の影響は、次の表のとおりです。下表に記載された分類は、開示目的で関連する修正を集計しています。各分類の主な修正は、下表に続く開示の中でより詳細に記載しています。さらに、連結貸借対照表、連結損益計算書、利益剰余金およびその他の包括損益累計額および連結キャッシュ・フロー計算書に対する修正の影響も記載しています。

平成16年度
当期純利益(報告済数値)
67,864
百万円
修正(税効果調整前)
 NECエンジニアリング
△3,456
 未払費用
△439
 子会社の連結
△6,017
 関連会社への持分法適用
1,060
 研究開発費
39,950
 収益の認識
△855
 社債発行費用
 年金その他
58
  修正計(税効果調整前)
30,301
 修正に係る税効果
△16,775
 法人税等の修正
△4,175
  税金に係る修正計
△20,950
   当期純利益に係る修正計
9,351
当期純利益(修正再表示後)
77,215
包括損益
 その他の包括損益(税効果調整後)(報告済数値)
25,401
 修正(税効果調整後)
  外貨換算調整額
△962
  最小年金負債調整額
△596
 その他の包括損益(修正再表示後)
23,843
包括損益(修正再表示後)
101,058
包括損益(報告済数値)
93,265
利益剰余金
 期末残高(報告済数値)
128,204
  前連結会計年度に係る累積修正
△63,198
  当連結会計年度に係る修正
9,351
 期末残高(修正再表示後)
74,357

NECエンジニアリング梶i以下「NECE」という。)の架空取引

 平成17年12月に、連結子会社であるNECEの経営者は、NECEの一従業員によって行われたファクトリーオートメーション事業に関連する架空仕入および架空売上を発見し、日本電気鰍フ経営者に架空取引発見の報告をしました。日本電気鰍ヘ、その取引に関連する内容を明らかにするとともに影響を評価するために、社内で調査するとともに、独立した弁護士および会計士へ調査を依頼しました。この架空取引は、NECE、特定の仕入先および販売先の3者間で取引を循環させることにより偽造した製品や役務の売買に関連するものです。最初の架空取引は平成14年3月に計上されました。したがって、この架空取引は、当社の平成14年3月31日以降の報告済み財務諸表に影響がありました。平成17年12月に発見される前までに、架空売上高13,341百万円が平成17年度に計上されていました。

利益剰余金、連結損益計算書および連結貸借対照表に与えるこの架空取引の影響を修正するための訂正は、以下の利益剰余金およびその他の包括損益累計額に係る修正の影響、連結損益計算書に係る修正の影響および連結貸借対照表に係る修正の影響で開示しています。

公表済み財務情報に対するその他の訂正

当社は、過去の連結財務諸表におけるその他の会計実務や会計方針について訂正が必要であると判断し、適切な修正を行ないました。重要な修正は次のとおりです。 

未払費用

当社は、従業員が翌事業年度に繰り越す資格を得た累積有給休暇に係る負債を適切に反映する修正を行ないました。以前、当社は、これらの費用は比較的毎期一定である(したがって、利益に重要な影響は与えない)こと、これらの債務に対する現金による支払いはないこと、および従業員の退職時に債務は消滅することから、費用の見積計上は要求されないと結論付けていました。

発生したが計上されていなかった製品保証費用に関する見積り計上は行なわれていませんでした。以前は、そのような費用は適切な対応がなされた時に費用として認識し、各期に与える影響から、利益に重要な影響は与えないと判断していました。当社は、製品保証債務に係る最善の見積額に基づいて修正を行ないました。なお、製品保証債務の見積りには、当社の過去の実績を含む多くの要素を考慮に入れています。 

連結と持分法の適用

一部の子会社は、過年度の連結財務諸表において連結の範囲から除かれているか、あるいは当社が支配を獲得した以降の連結会計年度に連結されていました。議決権の20%以上を保有することで重要な影響力を保有する一部の関連会社についても、持分法を適用していませんでした。当社は、適切な連結会計年度に、当該子会社を連結するため、および関連会社に持分法を適用するための修正を行なっています。 

研究開発費

当社は、平成16年3月31日以前に発生した一部の生産開始前の設計および開発費用を資産計上していました。当社は、発生時にこれらを費用化するため、平成16年3月31日現在の利益剰余金を修正しました。また、資産計上されていた費用に関して、その他の費用に以前計上していた償却費の戻入修正が平成16年度の連結損益計算書に対して行われています。これらの修正の影響により、平成16年度の税引前利益が、15,539百万円増加し、平成16年3月31日現在の利益剰余金は、税効果調整後で10,536百万円減少しました。

また、製品に含まれるハードウェアとソフトウェアの開発費に係る一部の費用が、資産計上されていました。当社は、技術的実現可能性が確立していなかったため、資産に計上した金額を修正し、発生時にこれらの費用を費用化するための修正を行いました。この修正には、以前に資産化した費用に関連する償却費(売上原価に計上)の戻入も含みます。次の表は、平成16年度の連結損益計算書に係る修正の税効果調整前の影響を反映しています。

平成16年度
償却費の戻入額
83,070
百万円
研究開発費の認識額
△55,780
修正計
27,290

修正によって、平成16年3月31日現在の利益剰余金が、税効果調整後で36,042百万円減少しています。 

収益の認識

当社は、一部のパス・スルー取引や当社が主たる売主として行動していなかった取引について、以前は総額で売上高を認識していました。そのような売上を当社の手数料のみを反映させた純額で表示するための修正を行ないました。この修正の影響は、表示された各連結会計年度の売上高の1%未満です。

当社の子会社は、ファイナンス目的のセール・リースバック取引に係る契約を締結し、入金に対して収益を計上していました。当社は、これらの取引に関連する売上高と売上原価を訂正するための修正を行ないました。 

社債発行費用

当社は、転換社債の発行費用を以前は償還時または転換時に費用化していました。

当社は、転換社債の償還期間にわたって発行費用を償却するための修正を行ないました。 

年金その他

平成12年2月に、当社は、ある子会社を清算し、その子会社の退職者に係る退職給付債務を戻入していたため、この退職給付債務を元に戻すための修正を行ないました。この修正による、平成16年度の当期純利益に対する影響は重要ではありませんでした。修正により、平成16年3月31日現在の利益剰余金は、税効果調整後で3,545百万円減少しています。

当社は、会計実務と会計方針の再評価に際して、必要と考えられるその他の修正を行ないました。その金額は個別には重要でないため、一つの項目にまとめています。 

法人税等

子会社および関連会社投資に関して、当社の税務上の投資簿価と財務会計上の投資簿価の差異について、当社は、繰延税金資産を認識してきました。財務会計上と税務上との認識基準の違いのために生じる一時的差異を分析している過程で、一部の繰延税金資産に計上不足があることが発見されました。この修正は、主として、財務会計上の投資簿価と税務上の投資簿価との差異を決定する際に、財務会計上の簿価として異なった投資簿価を使用したことに起因しています。財務会計上の投資簿価を決定する際に、当社は、以前は日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して決定した投資簿価を使用していましたが、米国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して決定した財務会計上の投資簿価を使用するように修正しています。この修正により、子会社あるいは関連会社の機能通貨が当社の機能通貨と異なる場合には、その他の包括損益累計額が影響を受けます。

当初、NECグループで保有しているたな卸資産の未実現利益に係る税金費用に関して、法人税等が支払われていない場合には、連結手続において消去していない額がありました。当社は、適切な会計期間に、未実現利益消去に係る税金費用を消去するための修正を行ないました。 

組替え再表示

公表済み連結財務情報では、非経常的あるいは当連結会計年度の経営成果とは関連がない一部の営業費用を、連結損益計算書の「その他の費用(純額)」に含めていました。当社は、この費用を売上原価、販売費および一般管理費、あるいは別項目として、適切に開示するために組替え再表示しました。

 以下省略



会社法では、過年度財務諸表の遡及修正を可能としている(2006年5月以降)

2006年5月施行の、会社法施行規則120条3項では、公開会社の事業報告書では、「会計方針の変更その他の正当な理由により当該事業年度の前の事業年度に係る定時株主総会において承認または報告をしたものと異なっているときは、修正後の過年度事項を反映した事項とすることを妨げない」としており、過年度財務諸表の遡及修正を可能としている。

(2006年5月施行の、会社法施行規則120条1項6号で、公開会社の事業報告書で「直前三事業年度の財産及び損益の状況」の開示することが求められた措置。)

会社法施行規則で突然「直前三事業年度の財産及び損益の状況」の開示を求めているが、証券取引法が2期開示で会社法の方が1期多い、まして、日本には「比較情報開示の会計基準」および「会計方針の変更、誤謬の訂正などの会計基準」が存在しないし、企業会計基準委員会の検討の対象にもなっていない
会社法、証券取引法の整合性が図られておらず、会社法が先行したかたちで、縦割り行政のままばらばらで規定している。

足利銀行公的資金1兆円超注入(2003年11月28日金曜日夕刊報道)

2003年11月28日金曜日夕刊で、「新聞各紙は、足利銀行に公的資金1兆円超」「一時国有化へ」「前期末は債務超過・金融庁通知」と報じた。記事によると、「金融庁は9月に検査に着手し3月末時点の資産状況を調べ貸倒引当金の不足を指摘。繰延税金資産の過大計上を指摘した。その結果をすべて決算に反映させれば2003年3月期の自己資本比率は1%近いマイナスに下がる。金融庁は若干の債務超過と判定した。」と報じている。 

報道によれば、「足利銀行の一時国有化を決定 」と題して『 政府は29日(土曜日)夜、足利銀行が9月末で1023億円の債務超過(自己資本比率マイナス3・72%)に陥ったとして、預金保険法102条に基づいて、金融危機対応会議(議長・小泉首相)を首相官邸で開き、一時国有化(特別危機管理)することを決めた。

 銀行の一時国有化は、金融再生法に基づく日本長期信用銀行などの例があるが、地方銀行では初めて。破たん処理に伴う公的資金の注入額は、最終的に1兆円超に膨らむ見通しだ。足銀の預金は全額保護され、足銀は週明け以降も通常通り営業を続ける。

 政府は週明けの12月1日に、足銀の一時国有化を官報に公告する。同時に、預金保険機構は、持ち株会社のあしぎんフィナンシャルグループが保有する足銀の全株式をゼロ円で強制取得し、国の管理下に組み込む。金融庁は足銀に対する20人の経営監視チームを設置し、足銀の経営権を実質的に握る。あしぎんFGの日向野(ひがの)善明(よしあき)社長(足銀頭取)ら現経営陣は近く引責辞任し、首相が足銀の新経営陣を外部から指名する。金融庁が派遣する経営監視チームは、同時に、受け皿金融機関を探す。国が足銀を受け皿金融機関に譲渡したり、合併させたりする際、公的資金が注入される段取りになる。

 危機対応会議に先立ち、足銀と持ち株会社のあしぎんFGは同日午後、臨時の取締役会を開き、金融庁に対して、1023億円の債務超過となる9月中間決算を報告、「財産で債務を完済することができず、預金などの払い戻しを停止する恐れがある」と申し出た。金融庁は、足銀が債務超過となり、自己資本比率も3月末の4・54%から大幅に低下し、9月末はマイナス3・72%になったため、破たんを認定した。

 足銀は、金融庁検査で大幅な不良債権の引き当て不足を指摘された上、監査法人に、不良債権処理で納めた税金が将来戻ってくるとみなして計上を見込んでいた繰り延べ税金資産1208億円の全額取り崩しを求められた結果、9月末で債務超過に陥った。(読売新聞)』 Yahooニュース 参照

(株)あしぎんフィナンシャルグループ(3月設立)の11月28日(金曜日の最終株価は、81円(前日比25円安 (-23.58%)、時価総額は71,769百万円であった。   29日(土曜)国有化決定により監理ポストへ。「りそな」と異なり株は実質無価値へ。
しかし、12月25日、横浜銀行出身の池田氏が新頭取となり、同日、あしぎんFGが東京地裁に会社更正手続き開始をしたことにより、東京証券取引所は2004年1月26日に「あしぎんFG」の上場廃止をすると発表した。12月26日から1月25日まで整理ポストで取引を続けるそうです。

2003年3月末の連結決算情報は次の通り。 連結財務情報  足利銀行 財務情報 参照

自己資本 77,788 百万円 欠損金△ 67,263控除後(うち当期純損失△66,641)
繰延税金資産 141,622 百万円 自己資本の1.82倍計上していた。03年9月中間決算ですべて取崩した。

一般的に考えて、異常な繰延税金資産の計上であった。監査法人の適正意見の根拠が注目されよう。

2003年(平成15年)11月29日、総理、金融担当大臣、金融庁長官等が主席した第2回金融危機対応会議議事要旨が12月25日に公表された。それによると、金融庁は次のように足利銀行は15年3月末時点で債務超過状態であった旨述べている。

「(金融庁)説明申し上げる。 15年3月期決算においては、足利銀行の自己資本比率は単体で4.54%となっている。金融庁は、去る9月2日から11月11日まで、15年3月末を基準日とする立入検査を実施し、その資産内容等について実態把握を行い、11月27日に、同行に対し検査結果の通知を行った。当該検査結果を踏まえた追加償却・引当額等を前提とすれば、15年3月末時点において同行は▲233億円の債務超過となっていたと見込まれる。この結果、自己資本比率は▲0.7%と見込まれる。 」

<足利銀>最終赤字7800億円計上へ 2004年3月期決算で
  2003年11月に経営破たんして一時国有化された足利銀行が、04年3月期決算で約7800億円の最終赤字を計上する方向で最終調整していることが9日、分かった。週内にも発表する。03年9月中間期は1862億円の最終赤字だったが、新経営陣による不良債権処理の厳格化で追加損失が膨らんだ。これに伴い、債務超過も9月中間期の1023億円から7000億円程度に膨らむ見通し。
 国は預金保険機構を通じて同行の全株式を0円で強制取得し「特別危機管理銀行」とした。不良資産を整理回収機構(RCC)に切り分けた後、受け皿になる金融機関などを探し、合併や営業譲渡などの方法で引き継ぐ際、公的資金を投入し、債務超過を解消する。大幅な赤字決算により、公的資金の投入規模や最終的な国民負担が当初の見込みより膨らむ恐れが出てきた。【吉原宏樹】(毎日新聞) [2004年6月9日20時8分更新]

Google検索==⇒「足利銀行破たん処理

11ヶ月経過後の、2004年10月8日金融庁は、特別危機管理開始決定の公告時における足利銀行の資産及び負債の状況について」として、足利銀行について、特別危機管理開始決定の公告時(平成15年12月1日)における資産及び負債の状況(貸借対照表)を官報に掲載しました。
資本の部は次の通りである。(単位百万円) 繰延税金資産の全額償却と、不良債権の追加償却が含まれている模様。
資本金 147,429
利益剰余金 △ 247,692
期中損益 △ 178,712
株式等評価差額金 5,529
資本の部合計
△ 94,733
負債及び資本の部合計 4,926,343


自己資本比率と税効果資本の割合(2003年3月決算)
自己資本比率 繰延税金資産の割合
2003年3月 2002年3月 2003年3月 2002年3月
みずほ 9.5% 10.56% 56% 50%
三井住友 10.10% 10.45% 59% 50%
三菱東京 10.74% 10.30% 42% 31%
UFJ 9.96% 11.04% 59% 49%
りそな 3.78% 8.73% 99% 67%
三井トラスト 7.50% 10.59% 100% 71%
住友信託 10.48% 10.86% 40% 31%
(注)税効果資本の割合は資本金など中核自己資本に対する比率
出展:日本経済新聞2003年5月27日朝刊

上場企業(銀行含む)財務省・財務局に提出した有価証券報告書が、やっと金融庁EDINETとして電子開示されました。ただし、@平成16年6月1日以後、原則、EDINETで電子開示することになっているため、現在は、一部のみの銀行が開示しているのみです(銀行はEDINETコード500から599に含まれ、2002年10月現在、上記の大手行のうちEDINETで開示されているのは三菱東京フィナンシャルと三井トラストの2行のみです)、AEDINETの有価証券報告書は項目ごとに見る仕組みになっており、米国SECのように全文が一度に見られるようにはなっていませんので読み難く閲覧に時間を要します、BEDINETの財務情報は外部から直接リンクすることはできないためEDINET自体の使い勝手が悪いし利便性が低い(米国のEDGAR Databaseでは外部のサイトから直接企業情報にアクセスできるようにして利便性を確保している)。日本のEDINETは、米国のEDGARと比べ、利用者の利便性を考えて設計されているのか甚だ疑問である。現在のところ、日本のEDINETは満足に機能していませんので、大手行のIR情報にリンクしています。ペイオフの議論がされているなか、預金者保護のための情報開示の議論がされないのか不思議である。

「日本はこれまで情報非公開、株価維持、公的資金の一斉注入などで恐慌を回避してきた。しかしその結果は金融行政の不信を広げ不良債権を温存し、信用不安を強め、景気停滞を長引かせた」(日本経済研究センター会長 香西泰 氏筆日本経済新聞02年10月21日「やさしい経済学ー巨匠に学ぶ シュンペーター より)   今日の「日経平均株価」 参照

11年間の不良債権処理額88兆2千億円(金融庁2003年8月公表)

2002年(平成14年)8月2日、金融庁は「不良債権の状況等について」という不良債権の調査結果を公表した。その中の、「(表5)不良債権処分損の推移(全国銀行)」(下記参照)によると、1992年度(平成4年度)から2001年度(平成13年度)までの10年間で不良債権の処分累計額は、81兆5千398億円(下記表の「4年度以降の累計」の欄参照)としている。これは、預金者の預金金利を低く押さえ預金者の犠牲において処理されたものである。また、この不良債権の処理における税効果会計における繰延税金資産を実現させるには、5年間の銀行の課税所得が生ずるために、当分の間預金者の利息は低く押さえざるを得ない状況にあることを示している。

上記の表には、数値の変動の説明は説得力がなくよく判らない部分があり、その信頼性は今後の対応を見守る必要がある。

例えば、リスク管理債権残高と貸倒引当金の関係では、平成7年度ではリスク管理債権が16兆円増加しているのに対し貸倒引当金は7.7兆円(対リスク債権増加額に対する割合48%)増加しているが、平成13年度ではリスク債権残高は9.5兆円増加しているのに対し貸倒引当金は1.8兆円(対リスク債権増加額に対する割合19%)増加しているに過ぎない。「これは、個別貸倒引当金対象債権の中でもより高率の引当が必要な破産更正等債権(破綻先債権)が減少し、相対的に要引当率が低い危険債権(延滞債権)が増加したこと等によるものと考えられる。」と金融庁は説明している。不思議なのは銀行の特別検査をした当事者である金融庁が他人事のような説明の仕方をしていることにある。平成13年度に、BIS基準を10%台にするため、意図的に貸倒引当金を低く抑えたように見えるのは邪推であろうか?

また、リスク管理債権に対する貸倒引当金の割合は平成9年度が60%、平成10年度50%、平成11年度40%、平成12年度35%、平成13年度31.7%と一貫して割合が減少しているが果たして処理が進んでいるからとばかりいえるのであろうか?

いずれにしても、2002年10月早々内閣改造に伴い、金融担当大臣は柳沢氏から竹中経済財政担当大臣兼務となり、本格的な「不良債権の処理加速」となるとのことである。注視しておく必要があろう。
内閣改造発表の翌日2002年10月3日の日経平均株価は9千円を割り込んだ。株価下落は、不良債権処理に伴う企業倒産を懸念したものとされる。 保有株の含み損失も懸念される。 今日の「日経平均株価」参照

金融担当大臣を兼務した竹中経済財政担当大臣は、2002年10月3日、「金融分野緊急対応戦略プロジェクトチーム」を結成し、10月中に金融庁としての方策をまとめる予定としている。

2003年(平成15年)8月1日、金融庁は「15年3月期における不良債権の状況等(ポイント)」という不良債権の調査結果を公表した。その中の、「(表4)不良債権処分損の推移(全国銀行)」によると、1992年度(平成4年度)から2002年度(平成14年度)までの11年間で不良債権の処分累計額は、88兆1千982億円としている。

リスク管理債権に対する貸倒引当金の割合は平成9年度が60%、平成10年度50%、平成11年度40%、平成12年度35%、平成13年度31.7%と一貫して割合が減少しているが、平成14年度では36%に急に上昇する。金融庁の特別検査を反映して上昇しているものと考えられる。特に、都銀、長信銀、信託のみでは38%と3%高くなる。

主要行における自己査定と検査結果との格差(金融庁2002年11月公表)

2002年11月8日、金融庁は、「主要行における自己査定と検査結果との格差について」を公表した。新たに就任した竹中平蔵経済財政・金融担当相の「査定が甘い」とにらんでいた意向が反映し公表された模様。検査の大きな開きは実態把握という原点で官民ともに未熟であった点を浮き彫りにしているといえよう。

主要行における自己査定と検査結果との格差について
平成14年11月8日 金   融   庁
金融庁(金融監督庁)は、平成12年以降、金融検査マニュアルに基づく検査を実施してきており、主要行に対して、現在、2巡目の検査を行っているところである。貸出金分類額及び償却・引当額(集計ベース)について、1巡目検査と2巡目検査の結果を示せば、以下のとおり。 
1.貸出金分類額の増加率(単位:億円、%)
自己査定(a) 当局検査(b) 乖離額(c)=(b)-(a) 増加率(c)/(a)
1巡目検査 346,111 470,197 124,086 35.9
2巡目検査 119,795 137,219 17,424 14.5
2.償却・引当額の増加率(単位:億円、%)
自己査定(a) 当局検査(b) 乖離額(c)=(b)-(a) 増加率(c)/(a)
1巡目検査 103,947 152,870 48,923 47.1
2巡目検査 34,011 42,074 8,063 23.7
(注)1.1巡目検査における増加率の分布は、貸出金分類額について、50%以上 5行、25〜50% 7行、25%未満 3行、償却・引当額について、50%以上 5行、25〜50% 6行、25%未満4行となっている。 
2.1巡目検査は、主要行15行を対象とし、対象決算(中間決算)期は平成12年3月期から13年9月期までの4期にまたがる。2巡目検査は、主要行12行中5行につき終了しており、対象決算(中間決算)期は平成13年9月期から14年3月期までの2期にまたがる。
3.貸出金分類額とは、U分類(回収に通常の度合いを超える危険を含む部分)、V分類(回収に重大な懸念のある部分)及びW分類(回収が不可能と判断される部分)の合計額を示す。償却・引当額は、総与信額ベースであり、対象決算期における直接償却額と貸倒引当金の合計額である。

    

日本銀行「不良債権問題の基本的な考え方」を公表(2002年10月11日)

2002年10月11日、日本銀行は「不良債権問題の基本的な考え方」を公表した。これによると、上記金融庁の公表した不良債権処理額81兆5千億円は、破綻銀行を含んでいないが、破綻先銀行を加えると不良債権処理額は約90兆円を超えるとのことである。なお、日本銀行の「不良債権問題の基本的な考え方」の要約は次の通りである。

不良債権問題の基本的な考え方 (要約) 2002年10月11日 日本銀行

1.  わが国の不良債権問題は、「バブルの負の遺産の処理」だけでなく、「産業構造や企業経営の転換・調整圧力を背景に新規に発生する不良債権への対処」という性格も加わりつつある。その意味で、金融と産業双方にわたる日本経済の構造調整と密接不可分の問題として捉える必要がある。

2.  金融機関は過去約10年にわたり、90兆円にのぼる巨額の不良債権処理を実施してきており、問題克服に向けて相応の進捗をみている。しかし、(a)経済の構造調整に伴い、なお不良債権の新規発生が高い水準で続くとみられる一方で、(b)金融機関の貸出利鞘がきわめて薄い状況が続いていること、(c)経営のバッファーとして機能していた含み益がなくなったこと、などを踏まえると、わが国の不良債権問題は、金融機関の経営体力や収益力との対比では、むしろこれまで以上に厳しい状況に直面していると考えられる。

3.  不良債権問題の克服のためには、不良債権の経済価値の適切な把握、それに基づく早期処理の促進、企業・金融機関双方の収益力の改善などを軸とした、総合的な対応が不可欠である。併せて、金融危機を未然に防ぐとともに、金融機関が不良債権問題の解決に着実に取り組めるような環境や仕組みを整備することが必要である。

(1)不良債権の経済価値の適切な把握と早期処理
 不良債権を早期に処理するためには、経済価値の減価を適切に反映した不良債権の把握とこれに基づく適切な引当を行うことが不可欠である。最近の経済構造の急激な変化や信用リスク管理手法の高度化の流れなどを踏まえ、現在の金融機関の引当手法にさらに改善の余地はないか、検討を深める必要がある。日本銀行としても、そうした検討を踏まえ、考査・モニタリングを通じて、とりわけ大手行に対しては、より適切な引当に向けた金融機関の自主的な努力を促していく方針である。また、整理回収機構(RCC)の活用などを通じて貸出債権流動化市場の拡充を図り、不良債権の市場価格のより適切な形成とオフ・バランス化を促すことも重要な課題である。

(2)金融機関と企業の収益力強化
 金融機関の収益力強化や健全化に向けた経営努力を促すという観点から、金融制度、金融機関の業務規制、税制等のあり方を常に見直していくことが適当である。  また、不良債権問題克服のためには、産業政策や地域政策の観点も含め、企業の収益力強化や企業再生に向けた総合的な取り組みが不可欠である。この間、円滑な企業金融を確保するために、証券化技術を応用した新たな市場の育成や、その際の公的信用補完などの工夫が有用である。

(3)金融システムの安定性確保
 金融危機のおそれがある場合には、預金保険法第102条の発動による政府の措置と併せて日本銀行による「最後の貸し手」機能の発揮により、適切かつ機動的に対応する必要がある。  また、そうした金融システムの危機を未然に防ぐとともに、金融機関が不良債権問題の克服に着実に取り組める環境や仕組みを整備することが必要である。そのためには、(a)金融機関保有株式の削減を促進するほか、(b)不良債権を早期に処理する過程で資本が不十分となる金融機関に対しては、その自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すかたちでの公的資本の注入が、ひとつの選択肢として検討されるべきであろう。 以  上

不良債権処理前の年度の業務純益は約5兆円と言われる中で、年度の不良債権処理損約9兆円(90兆円/10年=年間平均処理損)を計上すれば課税所得は生じない。果たして計上した銀行の巨額な繰延税金資産は、将来の税金を減少させる効果があるのであろうか?そもそも、将来5年間に課税所得を生むのか甚だ疑問が持たれるところである。無論個別銀行ごとに詳細に検討すべきものであるが・・・・

銀行の巨額な繰延税金資産は実現可能か?(02年3月)参照。

平成14年度金融庁委託調査(2003年7月9日公表)

金融庁は、平成15年(2003年)7月9日、「平成14年度金融庁委託調査」を公表した。

平成14年度金融庁委託調査」の内容は、次の2点である。驚きは、主管官庁である金融庁が金融機関の基本事項である内容を今更調査していることである。

海外諸国の金融機関における償却・引当制度及び実務上の対応・調査報告書」  (委託先:中央青山監査法人)
米、英、独、仏の4カ国を対象とし、各国金融機関における以下の項目を調査した。
@ 一般貸出金の償却、引当に関するルール及び実務上の対応
A 償却・引当実績に関する公表データの収集

諸外国における不良債権のディスクロージャーの状況」  (委託先:財団法人国際金融情報センター)
米、英、独、仏、韓の5カ国を対象とし、以下の項目を調査した。  
@ 不良債権開示基準とその内容について、日本と比較できるよう調査  
A 不良債権額・比率・引当・保全の状況とその最近の推移

政府系金融の引当不足1兆6236億円・会計検査院まとめ(2006年10月報道)

民間大手銀行の不良債権処理が2005年3月期決算でようやく峠を越えて、2006年3月期は大手行の業績が回復し、三菱UFJ、みずほ、三井住友の大手行が公的資金を完済した報道がなされる中、政府系金融機関について不良債権の引当不足を会計検査院が公表した。民間と同時並行的に政府系金融機関も不良債権を処理しているものと思っていたがどうやらこれから法定貸借対照表で処理するようだ。

政府系金融の引当不足1兆6236億円・会計検査院まとめ(2005年3月期で)
 民営化などの改革を進めている9つの政府系金融機関が積み立てている貸倒引当金は、民間基準に換算すると2004年度決算で1兆6236億円不足していたことが分かった。会計検査院が2006年10月18日、公表した。検査院は国の31の特別会計の検査についても公表し、04年度決算で使途が定まっていない剰余金が2兆4000億円あることが判明した。

 今回の検査院検査は任意または国会の要請を受けたものなので、指摘された側に是正義務などは課されない。ただ、民営化を控え、政府系金融機関は貸倒引当金の積み増しによる財務体質健全化を求める声が強まるのは確実。また財政再建へ向けて、特別会計の統廃合や剰余金の有効活用が課題となりそうだ。 (00:08) NIKKEI
会計検査院の報告概要・・<個別発表事項>国会及び内閣への随時報告案件
従来の基準をそのまま適用している政策金融法人8法人における貸倒引当金計上額の総額は法定貸借対照表では5360億円であるのに対し、民間企業仮定貸借対照表では2兆1597億円となっていて、法定貸借対照表の金額を1兆6236億円上回る額となっている

政府系金融 不良債権なお6・5兆円(2007年3月期)

単位:億円 2007年3月期 2006年3月期
政府系の9つの金融機関 損益 不良債権額 不良債権額 再編
公営企業金融公庫地方公共団体金融機構 3,435 - - 2008年10月に地方自治体が出資する法人に衣替え。
国際協力銀行(株)日本政策金融公庫 2,739 5,489 14,409 一部が、*1と2008年10月に統合。
日本政策投資銀行 751 1,452 3,986 2015年までに完全民営化。
商工組合中央金庫(株)商工中金 142 3,837 7,078 2015年までに完全民営化。
農林漁業金融公庫(株)日本政策金融公庫 74 1,733 1,893 *1は、2008年10月に統合。
沖縄振興開発金融公庫 42 1,014 1,497 2012年以降に*1に合流する。
国民生活金融公庫(株)日本政策金融公庫 39 8,153 8,536 *1は、2008年10月に統合。
住宅金融公庫(現・独立行政法人住宅金融支援機構) 425 33,872 34,855 2007年4月に独立行政法人に衣替えした。
中小企業金融公庫(株)日本政策金融公庫 1,090 9,729 10,512 *1は、2008年10月に統合。
合計 5,629 65,279 82,766

国民公庫は2期ぶりに最終赤字に転落し、7期連続の債務超過(1109億円)。住宅公庫も3期連続で債務超過(4036億円)となった。 住宅公庫は4月に独立行政法人の住宅機構に衣替えしたため、政府系としては最後の決算となった。他の機関も民営化や統合に向け、不良債権の圧縮を図るなど財務体質の改善を急いでいる。 (フジサンケイ 参照)

政策金融改革と政府系金融機関の再編by 国立国会図書館財政金融課小池拓自氏

企業会計原則が処理の遅れを容認

昭和24年(1949年)7月、経済安定本部企業会計制度対策調査会(現金融庁・企業会計審議会)中間報告として制定された「企業会計原則」の前文に、「企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業がその会計を処理するに当たって従わなければならない基準である。」と記している。

この企業会計原則は、今もって現役である。その証拠に、最近作成されている「独立行政法人の会計基準」や、その他公益法人特殊法人などの会計基準は、この企業会計原則を基礎に作成されたり作成しようとしている。

日本の企業会計の実務では、実務の中に慣習として会計処理しているものを尊重することになっている。横並び意識の強いもので、護送船団方式的思考が会計原則にも色濃く残っている。戦後一貫して右肩上がりの経済ではその欠陥は露呈しなかったが、バブル崩壊というかつて経験したことがない未曾有の不良債権については引当計上が甘くなる。日本はそうした会計制度の中にあることを認識すべきだ。

貸倒引当金の見積は、知識と経験の深さによる。かつてない未曾有の不良債権であるから経験不足は否めないにしても、知識は会計基準を開発・整備することで、財務諸表作成者、監査人および監督当局の意識を高めることができる。

現行、会計原則を基礎にした会計慣行のみに依拠しているならば、財務諸表作成者、監査人、監督当局は、結果として、次のことが繰り返されることになる。日本では、企業会計原則が支配しており会計慣行で会計処理している限り監査人は適正意見を出さざるを得ない制度である。不良債権額の確定が先延ばしになる根底には企業会計原則の考え方にあるのである。

甘い貸倒引当金の計上 公的資金の投入
(甘い貸倒引当金見積額に基づく)
不良債権の見積不足露呈 不良債権の増加

会計ビッグバンで、「適正表示」を目的とする国際会計基準から「金融商品の時価会計」、「退職給付の会計」、「税効果会計」、「キャッシュフロー計算書」、「連結財務諸表」などの会計基準が導入されたのである。これらの新たな会計基準の導入は、会計実務の中から慣習として発達したものではない。

会計基準は
、国際的には、適正表示のために考え出された研究・開発の成果であり、かつ、一般に認められた(generally accepted)ものである。国際的には、会計基準とは、実務の中で慣習として発達したものではなく、実務の慣習が適切でない場合に、適正開示を行うための方法を開発し会計基準で設定して実務に導入しようとするものなのである。欧米の会計基準設定機関は、経済の変化に適切に対応できるように常設機関で調査・研究・検討を行っているのである。

50年以上前に制定された企業会計原則の考え方は、国際的なものとは180度異なっており、今や時代にそぐわないものとなっているのである。

1997年12月に金融危機の見舞われた韓国では、1998年12月会計基準の抜本的見直しを行っている。見直しを行った中に金融機関の不良債権の貸倒引当金繰入(Loan loss)の会計基準を改訂し、過去の貸倒率を基礎に引当計上するのではなく、「貸倒引当金繰入損は、資産区分に応じた将来の回収可能額を基礎として計上すべきである。(Loan-loss provisions are to be set using forward-looking criteria of asset classification.)」と変更している。⇒韓国会計基準審議会Korea Accounting Standards Board (KASB)の「金融危機が韓国会計制度に与えた影響」3.1会計基準の改正を参照。

金融再生プログラム (竹中金融担当大臣提出資料)
2002年10月30日経済財政諮問会議(平成14年第31回)で、提出された「金融再生プログラム −主要行の不良債権問題解決を通じた経済再生−(竹中金融担当大臣提出資料)」では、不良債権については次のように記している。

3.新しい金融行政の枠組み
構造改革を加速するための金融行政の新しい枠組みを構築することを目的に、以下の措置を講ずる。

(1)資産査定の厳格化
金融機関の資産査定については、これまでにも増して厳格化を図るため、以下の施策を講ずる。

(ア)資産査定に関する基準の見直し
資産査定の基準については、市場評価との整合性を図るため、以下の措置を講ずる。

@ 引当に関するDCF的手法の採用
主要行において要管理先の大口債務者については、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式を基礎とした個別的引当を原則とし、早急に具体的手法を検討する。
A 引当金算定における期間の見直し
主要行において、暫定的に定められている1年基準及び3年基準について、米国等の扱い等を踏まえ検討を行う。
B 大口債務者に対する銀行間の債務者区分の統一
主要行について正常先でない大口債務者の債務者区分に関しては、適正な資産査定を実施している先にレベルを揃えるための具体的な仕組みを導入する。
C デット・エクィティ・スワップの時価評価
株式を上場しているなど合理的に株価を算定することが可能な大口貸出先向けのデット・エクィティ・スワップに関しては、取引の時期を問わず、時価評価を適用することを検討する。
D 再建計画の厳格な検証
再建計画の進捗状況や妥当性を継続的に検証することを目的とした専門家を含む検証チームを設置する。
E 担保評価の厳正な検証
鑑定評価を担保評価に用いている場合には、原則として独立した不動産鑑定士による法定鑑定を用いる方向で検討する。

(イ)特別検査の再実施
平成15年3月期について、リアルタイムの債務者区分の厳格な検証を継続する形で、特別検査の実質的な再実施を行う。

(ウ)自己査定と金融庁検査の格差公表
これまで実施された金融庁検査を基に、主要行の自己査定と検査結果の格差について集計ベースで公表する。自己査定と検査結果の格差については、今後定期的に公表する扱いとし、各行に格差是正を求める。

(エ)自己査定の是正不備に対する行政処分の強化
正当な理由がないにもかかわらず自己査定と検査結果の格差が是正されない場合には、当該行に対し、業務改善命令を発出する方針を明確化する。

(オ)財務諸表の正確性に関する経営者による宣言
資産査定を含む財務諸表が正確であることに関し、代表取締役に署名を求めることを検討する。

(3)ガバナンスの強化
金融機関経営におけるガバナンスを強化するため、以下の施策を講ずる。
(ア)外部監査人の機能
資産査定や引当・償却の正確性、さらに継続企業の前提に関する評価については、外部監査人が重大な責任をもって、厳正に監査を行う。
割引現在価値(Discouted Cash Flow, DCF)方式
2002年10月30日、金融庁の公表した「金融再生プログラム (竹中金融担当大臣提出資料)」には、「主要行において要管理先の大口債務者については、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式を基礎とした個別的引当を原則とし、早急に具体的手法を検討する。」としてDCF方式を採用することが明記された。従来は、過去の貸倒率が採用されていたものである。

割引現在価値(Discouted Cash Flow, DCF)方式とは、将来の回収可能額を割引率で割引いた貸借対照表日(決算日)現在の価値を、貸借対照表に計上する資産額とすることである。DCF方式は、@将来の回収額、A回収時期(時間の要素)、B割引率(金利)の数値を必要とする。更正債権のように、@とAが明確であれば簡単に計算できるが、それを予測することは通常の回収可能額を予測する以上に困難と手間がかかりすぎるであろう。
貸付金 ¥XX,XXX
貸倒引当金 △XXX 下記のDCFで計算した額にするために引当金計上する。
差引:純債権額 ¥XX,XXX 割引現在価値(Discouted Cash Flow, DCF)で計算した額で表示する。

現在は、デフレ経済下で超低金利水準で推移しており、将来の回収額に超低い金利(割引率)で割引いても影響は少ないであろう。重要なのは、要管理先の大口債務者について、過去の貸倒率でどんぶり勘定で引当額を決めるのではなく、個別に将来の回収可能性を見る方法に変更したことにある。

ちなみに、従来は、以下の様に引当てていたとしている。(日本経済新聞02年10月2日)
引当率



破綻先債権 100%
破綻懸念先債権 59.3%〜75.9%
要管理債権 19.1%〜27.0%
要注意先債権 5.0%
正常債権 0.2%

古典的な銀行の主たる収益事業は貸付事業にある。企業融資は、まず、企業の支払能力を吟味する与信管理(Credit management)から始まる。企業は生き物であるから、継続して与信管理を行う。当然、個々の企業ごとに行う。回収可能性(貸倒引当金)の吟味は個々の企業の与信管理を基礎にして行われる。

しかしながら、日本の金融庁の検査マニュアルや銀行の引当実務が過去の貸倒率でドンブリで決める方法は、日本独特のもので与信管理が満足に行われてこなかったことを露呈したものである。その原因は、土地担保主義、土地本位制または「日本の銀行は不動産屋と揶揄された」ように、事業を見る与信管理よりも、土地の担保(土地登記簿)のみに終始してきたためである。企業が事業資金として借りた借金は、事業で儲けた資金から返済及び金利を支払うのであるから、まずは、事業内容を継続して審査する与信は欠かせないが、日本の銀行は土地担保のみに終始してきたのである(最後の手段として土地担保は必要であるが、まず、与信管理が先にあるべきであるということ)。
日本公認会計士協会がDCF法のガイドラインを公表(2003年2月24日公表)

2003年2月24日、日本公認会計士協会は金融庁の公表した「金融再生プログラム (竹中金融担当大臣2002年10月提出資料)」に「主要行において要管理先の大口債務者については、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式を基礎とした個別的引当を原則とし、早急に具体的手法を検討する。」としてDCF方式を採用することが明記されたことを受けて、「銀行等金融機関において貸倒引当金の計上方法として キャッシュ・フロー見積法(DCF法)が採用されている場合の 監査上の留意事項」の公表について」なるガイドラインを公表した。

竹中大臣「金融再生プログラム(作業工程表)」公表(02年11月29日)

竹中金融担当大臣は、「金融再生プログラム」作業工程表を、 平成14年11月29日公表した。公表にあたっての竹中大臣の談話は次のとおりである。 (金融庁のホームページ 参照)

1.10月30日に公表した「金融再生プログラム」について、今般、その着実な実現に向けて実施のスケジュールを作業工程表として取りまとめました。
2.今後、この作業工程表に従い、金融再生プログラムを着実に実施し、平成16年度に不良債権問題を終結させることを目指します。これにより、日本の金融システムと金融行政に対する信頼を回復し、構造改革を支えるより強固な金融システムを構築してまいります。
3.また、作業工程表に従い、具体的な検討等を進めるにあたっては、幅広く関係方面のご意見を聴きながら、進めてまいります。
4.さらに、政府としては、同プログラムの実施にあわせ、先般公表した「改革加速のための総合対応策」を着実に実施し、安心して国民が暮らし、企業が事業に専念できるよう、あらゆる手段を尽くして対応してまいります。
「金融再生プログラム」作業工程表

内容は、証券市場などの直接金融の制度整備については一切記載されておらず、正しくは「主要銀行(間接金融)再生プログラム」である。間接金融ばかりでなく、産業資金の一方の重要な供給パイプとなる直接金融の改革が同時に行われる必要があろう(直接金融に関する日本および各国の各種データは「取引所の株式会社化と情報開示」 参照)。特に、株式投資で運用益が出ないで予定利率を下げようとしている生命保険会社や投資家などは株式市場の活性化を望んでいよう。金融行政の失敗は早く取り戻して欲しいものだ。拘るべき面子は既にずたずたで全く無いはず。速やかに金融改革の実効を挙げて欲しい(金融庁の役割 参照)。経済はスピードが命なのである。

金融機関の適切な与信管理が産業再生のキーワード

産業再生および産業活性化に共通するものは、企業に、適時適切に資金の供給が行われることにある。企業再生可能な企業に貸し剥がしが起こる。いま事業資金があれば事業が立ちあがるにもかかわらず貸し付けない。無論、再生不可能であれば損失を少なくするために早急な整理を促す。など今の金融機関の貸出は与信の専門家がいるのか頭を傾げたくなる。つまり、貸倒れリスクを最小限にとどめ、事業計画を的確に評価してタイミングをずらすことなく適時・適切に資金を供給できることである。それには、金融機関の与信管理は重要な役割がある。企業を見る目を持った与信の専門家が望まれるのである。与信が正しく行われていれば貸し渋り、貸しはがしはない。

与信をするためには、過去の業績・財政状態及びキャッシュフローの状況、将来の事業計画、経営者の資質、経営資源(製品開発力、従業員の資質)、販売力などを見極めて決定する。この与信管理は欧米の金融機関および金融監督局は非常に重要視し、貸付先ごとに継続して与信管理する与信管理簿(Credit file)は金融機関にとって最も重要な書類となっている。日本では、この肝心な与信管理簿が形式的(Form)で実態(Substanse)が希薄である。それは、企業の情報開示の制度(会計制度)に如実に表れている。例えば、与信管理に有用なキャッシュフロー計算書や連結財務諸表は商法の計算書類には要求されない。商法、証券取引法及び税法が互いに影響し合う会計のトライアングル体制で複雑である。適時適切な情報開示には、会計制度は分かりやすい簡潔な制度が望まれるのである。

不良債権の引当に関し、金融庁の検査マニュアルや銀行の引当実務が過去の貸倒率でドンブリで決める方法は、日本独特のもので与信管理が満足に行われてこなかったことを露呈したものである。

その原因は、土地担保主義、土地本位制または「日本の銀行は不動産屋と揶揄された」ように、事業を見る与信管理よりも、土地の担保(土地登記簿)のみに終始してきたためである。企業が事業資金として借りた借金は、事業で儲けた資金から返済及び金利を支払うのであるから、まずは、事業内容を継続して審査する与信は欠かせないが、日本の銀行は土地担保のみに終始してきたのである(最後の手段として土地担保は必要であるが、まず、与信管理が先にあるべきであるということ)。

日本の不良債権に関する会計基準


証券取引法(有価証券報告書の財務情報作成基準):

大蔵省企業会計審議会の「企業会計原則(最終改定1982年4月20日)」によれば、注解18 「引当金について」と題し、「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることが出来る場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。
例示として、貸倒引当金を含む11項目を明示している。」 たったこれだけの会計基準である。


商法の規定

新商法施行規則(平成14年3月29日法務省令第22号)第30条第二項「金融債権につき取立不能のおそれあるときは、取り立てることができない見込額を控除しなければならない。」とあり、旧商法第285条の四第二項に、「金銭債権につき取立て不能の恐れあるときは、取り立つること能はざる見込み額を控除することを要す。」と内容に変更は無く、詳細な規定はない。

証券取引法の企業会計原則および商法にも上記のように不良債権の処理基準は規定しているが、注記による開示を求めてはいない。

税法の規定

1998年(平成10年)4月1日より、貸倒引当金の損金算入限度額の計算が根本的に変更されるまでは、貸倒引当金の会計実務では法人税法の規定が実質的に機能していた。

法人税法では、貸倒引当金の繰入れ限度額は、大きく分けて@業種別に一律率で繰入れる方法、A過去の貸倒れ率を実績率として基礎に繰り入れる方法、B 債務者が手形交換取引を停止されたり、会社更正法、破産法の適用があったり会社整理の申し立てがあったりした場合債権の50%を一律債権償却特別勘定として計上する場合、およびC 債務者の支払能力がなく債務超過の状況が相当期間継続している場合など、所轄税務署長の承認を受けた額を繰り入れる場合に認められた額を損金経理することで計上している。

我が国では、戦後50年間、税法と企業会計は一致しなければならないと思い込んで規定していた所がある。また、戦後できた青色申告制度による優遇税制は、企業に帳簿を適正に記録させようとしたものであるため、大企業も中小企業も税法が会計基準のような役割を担ってきたところがある。また、税法が、具体的で詳細な規定となっているため、実務的に税法の規定どおり処理していればよいという慣習が生まれていた。会計基準が詳細な規定を欠いていたため、税法に頼っていたところもあると思われる。

平成10年の税制改正で、平成14年までに段階的に、貸倒引当金の一律の一定率を引当てる法定繰入れ率の規定が廃止されたことによって、初めて企業会計と税務とは違うことが明示された。もともと、税法と企業会計は別物で、税法は種々の政策目的により国会が決定する事項であり、企業会計は企業の財政状態および業績を示すもので本来は税法の規定とは別物である。

上記の税法の規定が示すとおり、税法の規定は決算日の債権の評価基準にはなり得ない計算方法である。
企業会計の貸倒引当金は、決算時点で貸倒引当金を見積るものであり、貸倒引当金を控除した債権は「回収可能額」を示さなければならないが、税法はそれを計算根拠にしていないのである。

「有税償却」という誤報

新聞報道で、「有税償却」という文字を見かけることがある。不良債権を例に取ろう。税法上の繰入れ限度額が100億円あり100億円引当て、500億円の税引き利益がでたとして事業税を含む税率51%として255億円の法人税等の確定申告額が生じているとする。不良債権に対する貸倒引当金を200億円追加計上して、いわゆる「有税償却」したとする。税引き利益は200億円減少することになるが、法人税等の申告税額は不変の255億円となります。つまり、追加に引当てた200億円は課税所得の計算上加算しますから課税所得は不変で、当然申告税額は不変の255億円なのです。はたしてこれを有税償却といってよいものでしょうか。追加で計上しようがしまいが税額は不変なのです。
「有税償却」の用語は、企業経営者にとって追加税金を払っているかのごとく誤解し、追加計上をしない慣習を醸成してきたことは確かなようです。

1999年1月22日、大蔵省企業会計審議会は「金融商品に係る会計基準」を公表した。その中に,「貸倒見積高の算定の方法」を規定している。内容は,債権を「一般債権、貸倒懸念債権」「破産更正債権」に区分して、計上法を規定してるが、更正債権にだけ回収可能額を厳格に適用しているが、その他の不良債権について回収可能額の適用は玉虫色となっており理論的な規定とはなっていない。金融機関を想定しており,最も問題の多い更正債権となる前の不良債権の引当て方が曖昧のままで根本的な解決策にはなっていない,実効性は疑問。「回収可能額」の適用をもっと厳格にするとか、「正味実現可能価額」の規定を採用するとか,「偶発損失」の会計基準をもっと整備するとかすべきであろう。

引当金に関する考え方

1948年10月、米国公認会計士協会(AIA)は、会計調査公報(ARB)34号を公表し、引当金(Reserveという用語は利益留保の印象が強いため、誤解を避けるため使用しないように要請し、現在では資本の部の積立金で使用するくらいです。例えば、日本の利益準備金を利益留保の法定準備金としてLegal reserveと訳しているようにです。また、国際会計基準1号「財務諸表の表示」では、資本の部に該当するタイトルは「資本および剰余金 Capital and reserves」で使用しています。

貸倒引当金は、1940年代までは、Reserve for bad debts 等とする場合がありましたが、現在は、Allowance for bad debts またはAllowance for doubtful receivablesとなり「Allowance」を使用しています。現在では、負債性引当金・評価性引当金の双方について、米国では、引当金(Reserveの用語は死語となっています。なお、損益計算書の貸倒引当金繰入額はProvision for bad debtsというように貸倒引当金計上の相手勘定(contra account)として「provision」を使用するケースが多い。(「What is the difference between reserve and allowance?」「Newer and More Limited Use of the Term "Reserve.」参照)

詳しくは、「引当金の認識と評価に関する一考察
の31ページ以降に添付の「[補論] 米国における引当金の用語法とその推移(1946年以降ついて)」にその経緯が書かれています。(2003年7月、徳賀 芳弘 京都大学大学院経済学研究科教授 (tokuga@econ.kyoto-u.ac.jp)が、日本銀行金融研究所 IMES DISCUSSION PAPER SERIESにDiscussion Paper No.200 2003-J-17として著しています。日本の引当金の考え方を知るのに参考となります。)

なお、国際会計基準IAS37号「引当金と偶発債務及び偶発資産」"Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets"があるが、この国際会計基準が取り扱っている「引当金」とは、”時期又は金額が不確実な負債を言う。リストラクチャリング引当金に適用される。”として非常に限定的なもの。

国際会計基準の適用事例では、「資産除去債務」について日本電波工業の国際会計基準で作成したアニュアル・リポートが「Provision for asset retirement obligation(資産除去義務引当金)」として負債に計上している例がある。日本でも資産除去債務の会計基準が公表されたがこちらは引当金の名称を使用してはいない。注記でも説明しており、米国のように単にAsset retirement obligationでも内容が分かる。

国際会計基準の引当金は、日本が考えているような引当金ではない。
例えば、日本では「有給休暇引当金と言っているが、国際会計基準ではIAS19号の「従業員給付」の規定で計上を求めているのは「有給休暇債務liability for compensated absences)」または「未払費用(accrued liability)」である。国際会計基準は、米国基準SFAS43号「有給休暇の会計処理」(1980年設定)を導入したものである。

ポイント引当金」も同様、日本では引当金だが、国際会計基準の解釈指針IFRIC13号顧客ロイヤリティー・プログラム」では、ポイントの授与時に「繰延収益(deferred revenue)」としてポイントを使用し値引き又は無償で商品を提供する義務(obligation)として負債(liability)に計上し、ポイントを使用したときに収益化する。偶発債務であるが曖昧な表現の引当金(借方に繰入額を費用計上するもの)ではない。

国際会計基準の表示例は欧州企業がよいようで、例えば、テレコム・オーストリア・グループの年次報告書注記18引当と発生債務(Provisions and Accrued Liabilities)では有給休暇債務顧客へのリベート債務資産除去債務その他の未払費用等多くの債務の内容と期中増減を示し説明している。その他の未払費用には未払いの監査費用も含まれている。発生債務(accrued liabilities)だけでも意味は通じるが、国際会計基準37号のタイトルと合せてProvisionsを入れているようである。

2009年(平成21年)9月8日企業会計基準委員会は「引当金に関する論点整理」を公表し、国際会計基準(IAS)第37号「引当金、偶発債務及び偶発資産」と日本の会計基準である「企業会計原則」注解18引当金との比較を行っている。単に比較して論点を整理しているのみでその後の進展があったという話は聞かない。聞かない証拠として、下記の日本公認会計士協会が、進展のないまま4年弱経過して、2013年6月25日に会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料を公表しました

2013年6月25日、日本公認会計士協会は、会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料を公表しました。我が国では、引当金について、企業会計原則注解【注18】(以下「注解18」という。)にその計上基準が示されており、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)及び当協会から、個別の会計事象等について、会計基準や監査上の取扱い等が公表されているが、引当金に関する包括的な会計基準は設定されていない。ここに、会員が引当金の計上基準を検討する上での一助となるような資料を提供することとした、としている。

米国の不良債権に関する会計基準

新聞等でよくSEC基準と書かれいますが、SECの規定には会計基準を規定していません。SEC自体ASR(Accounting Series Rerelease)150で、会計基準の設定はFASB(Financial Accounting Standards Board 財務会計基準委員会−政府機関ではなくプライベートセクターです)にあることを明言しています。日本の新聞はその点で、不正確です。

不良債権の会計処理および脚注による開示事項は、FASB 基準書 第5号「偶発事象」で規定しています。第5号は50のパラグラフからなり詳細は省略しますが、不良債権についての貸倒引当金に関しては、@引当てるべき金額はいくらなのかを決定する会計処理基準と(債務超過になるかどうかの重要な問題で、基準では見積りに上限と下限がある場合は、下限を引当て計上し上限までの金額を脚注による開示を求めています)、A計上しなかった上限までの部分で、可能性ある損失限度額を脚注開示することを求めており、会計処理と開示の基準の二つの内容からなっています。

ただし米国は、もともと会計調査通牒(Accounting Research Bullitin,ARB--米国で一番古い会計基準でまだ一部生きている)ARB43号チャプタ−3Aで貸倒引当金を控除した後の債権金額は正味実現可能価額(Net realizable value)で示さなければならないことを規定しています。

債権 XXXX 総債権額
貸倒引当金 ーXX 偶発損失・・FASB第5号適用
差引:債権 XXXX 正味実現可能価額・・ARB適用


また、最近のFASB 基準書114号および118号は将来のキャッシュフロー(将来回収されるキャッシュ)を現在価値に引き直すというものですが、不良債権で返済計画が確定したときに、返済計画を基礎に現在価値に直します。不良債権の見積りは偶発事象の会計基準が基礎となります。)

簡単にまとめますと、(1)資産の評価、つまり、貸借対照表に計上される債権は正味実現可能価額(Net realizable value)で計上されなければならないことをARBで規定し、(2)不良債権として取立て不能見込み額を偶発事象の会計基準FASB第5号で規定し、(3)長期にわたる回収を要する債権については現在価値に引きなおした債権を計上することをFASB第114号及び118号で規定しているのです。

米国の会計基準は、(1)の正味実現可能価額(Net realizable value)以下で表示すべきこと、換言すれば現金化できる金額以下で表示すべきことは、すべての資産(たな卸資産、金融商品、不稼動資産等)に共通している会計基準で、日本にはない基準です。これは、負債の支払い資金を計上された資産から支払うことになるため、経営分析に使用される貸借対照表の基本理念となっています。

たとえば、正味実現可能価額より高い原価で資産が貸借対照表に表示されたとすると、短期支払能力を見る流動比率(流動資産/流動負債X100%)は高く示され歪んだ比率となって流動比率が機能しないですし、同様に、自己資本比率(自己資本/総資産X100%)は見せかけの高い数値を示し読者をミスリードする(誤解を与える)ものと考えています。各種経営分析の数値はゆがめられてしまいます。そこで、正味実現可能価額という概念が米国では定着しているのです。

つまり、貸倒引当金に関する会計基準を「偶発事象の会計基準」を設定し、貸倒引当金を控除した純債権額を「正味実現可能価額」以下で評価する会計基準をARBで規定しているのです。

理論的には、総債権に貸倒引当金を控除すれば正味実現可能価額と一致するのでしょうが、念の為、大原則としての資産の評価額を「正味実現可能価額以下の会計基準」と、取立て不能見込み額に関する「偶発事象の会計基準」を別途設定してます。米国基準では、双方の基準を満たした財務諸表しか認められません。

ちなみに、日本の会計基準には資産評価の明文による基準として「正味実現可能価額以下で評価する会計基準」は存在しません。

なお、一般事業会社の米国会計基準による会計実務は、「債権管理の方法と保全」に別途掲載し参考に供しています。

東京三菱銀行が詳細な日米比較を簡潔にまとめ公表しています
銀行における不良債権問題の会計は、金融監督庁の検査を踏まえて日本長期信用銀行及び日本債券銀行の問題で急速に進展しましたが、未だ根本問題は未解決のままである。

銀行業は、大蔵省の指導監督を受け、情報開示を行ってきた規制業種です。 不良債権の貸倒引当金の積立て方、財務情報の開示は、すべて、監督官庁の指導監督の結果であります。

なお、日本の銀行中にあって、東京三菱銀行は米国SECに登録している唯一の銀行である。東京三菱銀行は、下記URLで、同行のSEC提出の米国基準で作成の連結財務諸表を日本文でも公表し、かつ、日米の比較を会計基準ばかりでなく不良債権の評価までも簡潔にまとめて公表しています。

東京三菱銀行の財務情報URL(http://www.btm.co.jp/manage_j/index.htm)

是非、一読願いたい資料です。銀行業、証券業、保険業など大蔵省の指導監督されてきた企業には珍しく、米国SECへ登録することで、規制業種の企業の日米比較が実務レベルで開示さた画期的なことと言えましょう。

国際会計基準による不良債権に関する会計基準

国際会計基準では、上記の米国の会計基準に類似したものとなっており、IAS第10号「偶発事象及び後発事象」で規定しています。約36のパラグラフで構成されています。また、国際会計基準39号「金融商品:認識と測定」が成立したことで、不良債権の引当方法が明記されました。この39号を日本も導入し「金融商品の時価会計」として2001年3月期より適用することとされています。

おわりに


不良債権は銀行に限らず、ノンバンク、ゼネコン、一般事業会社に普遍的に生じる偶発事象です。当然、貸倒引当金を設定する基準があります。貸倒損失の見積りには下限・上限の幅があるときがあります。偶発事象の会計基準は当然必要となると思いますが、日本には上記に示した会計基準しかありません。

貸倒引当金を計上すべき額は非常に重要となります。直前決算で、利益を算出して配当までして半年を経過せず倒産し、公表された修正貸借対照表は巨額な債務超過ということが起きています。これは、欧米の会計基準では明らかにありえないことと思います。一般に認められた会計基準に準拠して財務諸表が適切に作成されていることを、会計監査人が意見表明するからです。会計監査人は、会計基準に準拠しているかどうかについて意見を表明するのですから、会計基準が明瞭な会計処理の基準と開示の基準を示してなくては意見表明は不透明になります。欧米で会計監査人が機能しているのは、一つには、明瞭な会計基準があるからです。

財務諸表の作成者である企業にとっても同様です。一定の会計基準というルールにより財務諸表を作成するのですから、規定が明瞭となっていなければ同様に不明瞭なものにならざるをえないのです。

デイスクロージャーは、何でも開示させようとするものではありません。そこには明確なルールが存在して、財務情報作成者に等しく平等にそのルール以下でもなく以上でもない開示を求めるものでなければなりません。
企業の競争に必要な差別化戦略や内容にかんする企業機密までも開示を求めるものであってはなりません。
ややもすると、有価証券報告書には、企業機密ではないかと思われる取引先企業名までも記載させています。欧米の年次報告書にはそうした記載はありません。財政状態、経営成績を知る上で過剰な開示までもすべきではなく、企業の活性化のため開示の限界を明確にすべきではないのでしょうか。

日本には、企業会計原則は会計の入門のための学生向きですが、財務諸表作成者、会計監査人および投資家に役立つ会計基準となっていないといえば言い過ぎでしょうか?

不良債権の実態を把握する問題は、会計基準の問題でもあると思います。これを機に、会計基準が整備確立され、世界の信頼を取り戻すことを期待したいものです。

日本銀行金融研究所 IMES DISCUSSION PAPER SERIES 「引当金の認識と評価に関する一考察」 Discussion Paper No.200 2003-J-17 とくが よしひろ 徳賀 芳弘 Discussion Paper No.200 2003-J-17 京都大学大学院経済学研究科教授 (tokuga@econ.kyoto-u.ac.jp) http://www.imes.boj.or.jp/japanese/jdps/2003/03-J-17.pdf


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