レポート ザ・ケーススタディ


【序  章】

「レポート ザ・ケーススタディー」

まえがき

ビデオ ザ・ケーススタディーでは、C4のADLイメージを、視覚的に映像に訴えるために、ECS、電動車椅子、リフター、BFO-MAS、マウス・スティックの各動作を中心に紹介した。

その解説の中でも、これらを三つの段階に分けて自立を考えることに触れてみたが、ここでは、レポートで各論を補足しつつ、ビデオでは紹介できなかった部分をも交えて、C4のADLを、一つのケースを通して紹介してみる。


はじめに

C4は、在宅介護が困難であると考えられているが、本レポートでは、症例の家族は日中定職を持ち、ハンディ・キャプトが一人でも留守を守っているケース(実例)の報告である。


家族が定職を持ち、ハンディ・キャプトが単独で留守を守るとなると、少なくとも、6~8時間は一人でいられる条件を設定しなければならない。

排泄、ごく当たり前のADLケア、床ずれなどの問題。

電動車椅子は、機能の操作が全てできて介護がなくとも心配ないもの。また、一人でも好きなだけ本を読み、ワープロが打てなければ、せっかくの装置も威力が半減する。

これら、一つ一つの問題を解決するために、条件を設定する事が、大切なのだと考える。


まず、第一段階。在宅での生活の最低条件として、ベッド上でのスタイルを描く。このベッド編では、ビデオでは全く触れなかった排便と排尿の管理と、ECSによるADLセルフ・ケア、そして床ずれ防止用にエアー・マットを説明する。

次に、第二段階は、乗車編(1)として、電動車椅子に乗ったスタイル。その全機能を操り、自由意志に基づくタイムリーで依存性のない機動力(行動能力)とその範囲を確保する事。加えて、ベッド上ではできないBFO-MASの半介助の食事、これを第二段階とする。

更に、第三段階では、乗車編(2)として、ECSでは操作しきれないが、電動車椅子に乗っていれば可能であるマウス・スティック・アクティブ。このマウス・スティックを活用した生活のバリエーションの広げ方を紹介する。


また、リフターは、重要な福祉機器であるから、それ自体を一つの編としたいところだが、その利用はトランスファーと入浴に分れ、またベッドと電動車椅子間のトランスファーにしても、その区切りは非常に難しいので、乗車編の序章として位置づける事とする。


更に、その後は、段階層から離れ、第三編「介助編」と第四編「住宅編」を述べる。

以上を項目別にまとめてみる。


■ベッド編「第一段階」

「Ⅰ.排便管理」と「Ⅱ.排尿管理」まず、ビデオでは全く触れなかった排便と排尿の実際と実践法を紹介する。

「Ⅲ.環境制御装置」次に、ECSを中心に制御対象機器群も含めて述べる。 そして、エアー・マットについても触れてみる。


■乗車編(1)「第二段階」

「Ⅳ.電動ホイスト」着衣と、リフターによるトランスファーの状況。

「Ⅴ.セット・アップ」相当な時間、一人でいるための介助。

「Ⅵ.電動車椅子」全機能の操作法と実際(外界やエレベータへのアプローチ)を 報告、紹介する。


■乗車編(2)「第三段階」

「Ⅶ.マウス・スティック」マウス・スティックの活用を紹介し、その効果を提示し、普及を提言する。

まず、書見台におけるページめくり(辞書専用台も含む)、キーボード・アク セス。更には、ワープロのフロッピーの交換やビデオ機器、ミニコンポの操作などである。


介助編は、「Ⅷ.入浴介助」を中心に。そして、住宅編では、「Ⅸ.玄関自動扉仕様」を中心に述べる。



■スタイルその1 ベッド編「第一段階」

「Ⅰ.排便管理」ベッド上において

序章 生活リズムは排便周期

まず、脊髄損傷者が直面する問題として、最初に挙げられ、かつ最後まで残るのが、排泄(排便、排尿)。特に、排便だろう。

自立した生活を営むためには、リズムの有る生活を習慣づけなければならない。その基本となるリズムがすなわち「排便の周期」であり、まずこれを確立することが第一歩となる。


症例の排便日は三日に一度である。結果として、二日間は電動車椅子に乗って読書やタイピング、その他をしている。そして三日目の排便日に、身体の休養のためといわゆる「尻休み」の意味も含めて、終日ベッドに横になって居るのがスタイルである。

この三日に一度のペースが生活の基本になっている。



午前の部

第一幕 服薬

AM.8:00。朝である。東側の窓から朝日。カーテンから少し洩れている。

完ぺきに目が覚めるわけではない。『「夢」か「うつつ」か「夢」か』半分、寝ぼけている。

あえて云えば、『無理して、朝に起きる必要が無くなった。』のは、頚損になったからだ。惰眠をむさぼる半面、それがつまらなくも感じる。


エレベータが上から降りてくる機械音が聞こえる。夢からうつつへと戻る時である。

『ガー』という騒々しい作動音から『カッコン』という停止音にかわる。

内カゴの扉が最初に開けられ、続いて外かごの扉が開けられる。

アコーディオン・カーテンが開くとメインの介護・介助者であるお袋の顔が現れる。

下剤を飲ませに来たのである。


手に持っているのは、番茶。300cc弱ぐらいだろうか。下剤は壁にぶら下がっている緑のカゴの中に入っている。

カゴの位置は、寝ている症例から見て、ベッドの後足の右側。エレベータを降りた位置からは、直角に左に曲がって直ぐだ。4歩、5歩くと正面に洗面台があり、その右横には症例のベッド、左横には風呂場がある。

風呂場とベッドの間のスペースは、人間が一人余裕を持って歩けるぐらいの幅しかない。洗面台の上に鏡があり、薬はその鏡の右斜め上、緑色のかごに入っている。


【排便管理 ①下剤の種類】

下剤は、アローゼン一包とプルセニ錠。アローゼンは、漢方系で果粒状。まるで金魚の餌のような薬で、プルセはピンクの小粒である。それとビール(300cc)を排便日の前日の睡眠前に飲む。よく冷えているものを、一気に[ぐっ]と飲むのが、症例にはあっているようだ。

ビールを飲んで便が下がっていると、翌日の下剤の効きが違うようだ。膀胱のためにも良いという。但し、飲みすぎると必要に水が欲しくなるので注意する。


お袋は、薬を用意すると枕元に近づいてくる。部屋の電気をつける代りにややカーテンを開ける。

だいたいは半ぼけ、「まぶしい。」ぐらいで済む。たまに熟睡しているとビックリする。平然を装う自分がおかしい。


カーテンを開けると、サッシの窓枠の手前に、コップを乗せるぐらいの奥行きのスペースがある。そこに番茶と下剤をひとまず置いて、出ているハズの尿を始末する。


掛け布団をめくる。あつければ上から、寒ければ下から捲ってもらうよう指示する。温度を感じる顔や肩の部分で、温度を調整をしたいからである。

掛け布団と失禁防止用の専用のタオルをまくるとたいがいは、尿袋に自尿が出ている。まず、これを風呂場のトイレに流す。そして尿袋を再度、泌尿器につけて、今度は膀胱から尿を叩き出す。まだ、膀胱に尿が溜まっていることもあるし、これから下剤を飲むのに、少量とは言えない水分量を摂取するからである。(この辺の尿管理については、次回にゆづる。)


こうして再度出した尿を前と同じように処分し、市販の「おしぼりウェッティー」で泌尿器を清潔に拭く。使い捨ての「おしぼりウェッティー」を処分したら、掛け布団と失禁防止用の専用タオルを掛け直す。

こうした手順をふんで、下剤を飲む。お袋は、洗面台の流しで手を洗っている。


【排便管理 ②下剤服用】

下剤を飲むには水で十分だが、アローゼンがかなり苦い。苦味をごまかすために番茶で飲んでいたが、それでも苦味が目立ってきた。友人の薦めもあって、オブラートに包んで飲むことにした。

水分量は300cc弱。飲む量が多いので、下剤を飲んだ後は自尿の出に気をつけないと失禁してしまう。前の晩にもビールを飲んでいるし、だから下剤を飲む前にも自尿を叩きだしたのである。

下剤を飲んだのが8:00。10:00の朝食までには、まだ少し眠れる。2時間くらい空けてから食事を取らないと、下剤の効きめが弱い。



第二幕 下準備

この後、10:00頃に導尿をすませて朝食を取る。集尿器のサックは、まだ付け ない。一日を考えると、サックを外しておけるのは、一日二回の導尿後と風呂の 時ぐらいである。今は、その貴重な時間である。

テレビを見ながらの食事が終わると、サックをつけて導尿器をスタンバイさせる。

お尻に紙おむつをひくことも忘れてはいけない。


【排便管理 ③紙おむつ】

紙おむつを敷く時に、わざわざ汗をかいて腰を持ち上げる必要はない。片足づ つ、膝を立たせて、下半身を捻転させるように左膝を右側に、右膝を左に押す。 膝が自然にシーツにあたるぐらい押すと、けつペタが半分づつ浮くので、これを交互にやって紙おむつを敷き込む。身体の位置もほとんどズレないし、シーツも 乱れない。言葉にすると面倒だが、この方が無駄がなく効率がよい。大いに楽を するべきである。

この時、紙おむつの上に「落とし紙」を敷いておくのがポイント。硬い便ならば、「落とし紙」ごとトイレに流せるので便利である。


無駄な力を使わないのも介護のテクニックである。このテクニックと合わせて 後で述べる摘便時の「ポーズ」は「衣類の着脱」にも応用できる。参考されたい。

ちなみに、膝を押して下半身を捻転させると背中が「ポキ ポキ」と鳴るように なる。もとがスポーツマンだけに快感である。結果的には、背筋のストレッチに も良いようである。


これだけやって、お袋は仕事に出る。日によって違うが、時刻は11:00ちょい というところか。勤めは、某都心エネルギー供給会社の婦人検針員である。年収 も悪くないらしい。定年まで頑張ると言っている。ちなみに親父は大工である。 もう、とっくに仕事にいっているだろう。朝に顔を合わす事は、まずない。



午後の部

第三幕 日中の待機

家族はみな働きにでた。すべての準備は済んでいる。夕方6時までは、一人で 居ることが多い。それまでは、留守番である。「多い」と云うのは、兄貴の仕事が 不規則だからで、6時を待たずとも帰って来ることがある。お義姉さんは看護婦で、外来勤務だから当直がはいることもあるし、日中まるまる在宅のこともある。


〔補 足〕

後述になったが、兄貴夫婦は三階に居る。台所と出入り口が別に設けてあるのでお互いの生活は守れる。

当然、家計も別だがインターホンで連絡も取れるし、一・二階の親子電話とは別に、二・三階に親子電話を配置しているので三階に人が居なくとも二階に誰か居れば電話の対応はできるので同居でないとも言い切れない。


とにかくいつ排便が行われても、大丈夫なように準備はしてある。が、やはり あまり早く出られては困る。何事も狂わなければ、夕方以降から深夜までに排便は済む。このタイミングは、昨晩のビールと今朝の下剤の「掛け合わせ」による。 多少の時間のズレはビールの冷え加減や服用時の水分量で微調整できる。


これでうまく行くなら問題はないが、そうではない。腹具合が悪いと、すべて ひっくり返る。下痢ならば、早い時間にズレ込む。

下痢や軟便は、出てしまえばなす術もない。ひたすら家族の帰りを待つのみ。 どう表現しても眉間にシワがよる。

しかし不幸中の幸いか、早く出ても兄貴の帰宅が早い時にぶつかることが多い。ラッキーである。このパターンに何度も救われている。兄貴いわく、「幸久のお尻は、人見知りしている」のだそうだ。

家族のいない時間帯にタマタマ早く出てた時、友人がいると気まずい思いをするだろうが、居たこともない。

でもそれは、出会わなかっただけで基本的な対応にはなっていない。「便意もなく、我慢もできない。」他の問題と同じように、現在では根本的な解決は無理だ。

しかし、「気まずい」状況を作らないよう、胃腸の健康に気を配ることはできる。食べる量変わらず、胃腸の状態が良好であれば、そう早く出ることはない。


【排便管理 ④胃腸のコンディションと予測】

胃腸の調子を知るには、いくつかの術がある。食後の喫煙でお腹に「キリキリ」 したら、お腹にガスが溜まっているかお腹をこわした時である。

妙にお腹すく時は、胃腸が悪くなる兆しで、翌日には調子を落として食欲が減る。

尿の量で、便の硬さを把握することもできる。当日の尿量が少なければ、比較 的、便は軟らかいので早めに出ることが予測できる。反対に多い時は、便が硬いので便の下がり方は遅いだろうと予測できる。


何れにしても、これらの手段は予測にすぎない。だから、問題点として一番最初に挙げられながら最後まで残ってしまう。

最近では、排泄の問題と近頃のハイテクを結びつけられるかどうか検討している動きもあるが、これはあらゆる分野から考えてゆく必要がある。

以下は、タイミング良好で予定通りのパターンの時を例示する。



第四幕 兆候と排便

午後10:00。民放のニュース、バラエティー番組を見ていることが多い。8:00の夕食が8:30頃に済み、一服ついた頃である。

時間的には、いま出てくれれば安心だが、12:00頃までに出始めてくれれば、お袋の就寝にはひびかない。

「ゾワゾワ、ゾワゾワ。」背スジから頭のテッペンまでに「悪寒」が走る。

「うん?これかな」と思う。ガスだけのこともある。

更に、悪寒が走る。

「ゾワゾワ、ゾワゾワ。」悪寒は、両方のモミアゲの後ろ側を通って首すじにまで伝わる。

「来た!」排便の信号である。「悪寒」なのだが、期待通りに出るときは妙に喜ばしい。

「グッ!」下腹に力が加わる。まるで誰かに押されたみたいだ。腸が良く動いているときはこうなる。

初めは、コロ、コロと小さく硬いものがでる。硬いものほど、黒っぽい。

普通に力むことはできないが、腹圧をかけることはできる。

ゆっくりと大きく深呼吸をして自然に腹圧をかけたり、息をきれいに吐いて腹圧だけをかけたりする。

「メキ、メキ。」便は、断続的にでる。その度に、悪寒が走る。いっぺんに済まないところが、かわいくない。

「・・・。」


そのままの状態で、とりあえず便が出るのを待つ。ほとんど出ることもあるし、そうでないことも多い。

一通り出るとガスが出て終わりを告げる。

「ブッスッ、プスプス、プブッ。」ほとんどの便が出ると最後は軟便である。ゲル状の軟便とガスが一緒に出るとこうなる。

こういう時は、摘便もチョットで済み、始末も簡単である。いつもここまで出てくれれば申し分ないのだが、途中で出なくなることの方が多い。

そういう時は、数十分待って、もう出なくなってしまったことを確認してから、摘便に依存する。


「ツ、ピッ」ECSを操作してインターホンで二階を呼び出す。

「Been Veen」室内子機から二階の親機へ、コールが一回だけ鳴る。

「何だぁ。」親父の声。無愛想で職人らしい。

「お袋に、お尻、出たって、言って!」・・・。説明になっていない。これで分かるから流石だ。

「カチャ カチャ」「ゴト ゴト」インターホン特有の音。数秒してから受話器を渡す気配。

「出たの?」とお袋の声。

「出た!」

「お皿、洗い終わってから行くから待ってて!」

「(げっ!)・・・。へぇ~い。」良くあることである・・・。


【排便管理 ⑤信号「悪寒」】

「排便管理」といっても便意もないし、我慢することもできない。しかし、わずかな兆候は感じる。その兆候が「信号」だ。

この信号が具体的なものなら有難いが、「何となく」感じるもので、人によって異なり、またそれがわかるまで一定の時間がかかる。それでも絶対的なものならばまだいいが、そうとも断言できない。

症例の場合は、「悪寒」が走るのが信号である。最初は、わずかな信号だったが、次第にハッキリとその信号を認識するようになる。要は、そのとっかかりが難しいのだが、その感覚をつかむのに一年はかかった。



第五幕 摘便と後始末

しばらくして、二階から「キーィッ」「キーィッ」という音。エレベータの扉を二枚閉めているのが分かる。間髪いれず、エレベータの作動音。結構、うるさい。内カゴが上から下へとやってくる。お袋が便の始末にやってきた。


掛け布団とバスタオルをひっぺがす。バスタオルは、もし尿失禁がおこっても 掛け布団まで被害が及ばないように、二つ折りにしておくのが習慣だ。形のある便だと、うまく「紙おむつ」の上の「落とし紙」に乗っている。紙おむつ を敷く時の要領で、方膝を立て、下半身を捻転させるように左膝を右側に押し、膝がシーツにあたるぐらい押す。けつペタが半分浮いたところで、予め出た便を取る。バカ力は入らない。取った便は、すぐさま風呂場のトイレに流す。さて、本格的な摘便である。


【排便管理 ⑥体位交換】

摘便は、横向きでやる。関東労災に入院中は、横向きのことを側臥位、横になることを体交(多分、体位交換の略)と呼んでいた。

摘便の時は、左になるのが習慣。左側臥位と言うのかな。体交には、2つの枕を使う。ソバがらの背枕とハネの膝枕。体交枕と言う。


横向きになる前に、ベッドから落ちないように、腰の位置を右にずらす。

「ケツずらし」にもコツがあって、電動車椅子や自動車にトランスファーする時も同じだから、基本テクニックとして留意しておくとよい。

介護者は、症例の骨盤の辺りを両方をしっかりと持つ。腰を持ち上げ、ポイントをずらして「トン」と置く。

腰の位置さえ決まれば、上半身は頭の後ろを支点に首を使って移動できる。後頭部でベッドを押して、肩と背中を浮かばせながらチョコチョコと動く。自分の姿を想像するとやや不気味。髪の毛がからまって痛いのがたまにキズで、やり過ぎると切れてしまう。あまり人には薦められない。

腰と同じに、両手で肩を持ってもらい、持ち上げ気味でスライドしてもらうのがよいだろう。


腰と上半身のポイントが決まったところで、体交枕を取り出す。背枕は、右腕の横に置いておく。膝枕は、膝を両方揃えて立てて左に倒し、膝の間に挟んでおく。

集尿器のタンクとホースを、定位置の右ベッド・サイドから左へ、一時的に移す。

介護者は、左ベッド・サイドから両手を伸ばす。左手は、症例の右膝が右側に開かないように押さえる。右手は、右肩を持って症例をローリングさせるような 感じで横に向ける。この時、介護者はベッドに片膝をつくと力を入れやすい。

ローリングさせたところで、介護者は両足でしっかりと立つ。介護者のボディ- 自体が柵代わりになって、ベッドから落ちる心配はない。 背中が浮いたところで、背枕をかます。つっかえ棒の代わりだが、ロールが浅いと背枕がズレ、ロールが過ぎると、下側になった左肩が痛い。その時は介護者から見て、手前に引いてもらう。引き過ぎると、背枕がズレるので注意する。加減が難しい。膝枕は、膝と膝が直接、重ならなければいい。


【排便管理 ⑦摘便】

便器は、あまり使わない。紙おむつや落とし紙を、そのまま便器代わりに使う。とても簡易で後始末を考えると楽だ。もし、使うなら横便器。ノウボンの大きなもので、関東労災のリハビリ病棟で教育を受けた。


摘便は介護者が右利きなので、必然的にベッドの右側から行う。症例から見れば、背部からということになる。

介護者はベッドに両膝をついて、左手は症例の腹部を腸の走行に沿ってマッサージする。

右手は、医療用のゴム手袋か使い捨て用の薄いプラスチック手袋を使用し、人差し指をストレートに、挿入して摘便する。

潤滑剤には、キシロカインゼリーを使う。本来、知覚が麻痺しているので、麻酔効果のあるキシロは必要ない。潤滑剤としては、グリセリンで十分。しかし、キシロはチューブ・タイプなので手軽に使える。


挿入した人差し指で、触手してみる。指先にあたれば、簡単に出る。指を「まあるく回す」ようにマッサージするのがコツ。

指先になかったら、左手でおなかを腸の走行に沿って、マッサージして刺激する。それでも「出」が悪ければ、少し時間をおいたり、座薬を仕掛けたりする。

座薬はレシカルボン。体温で解けてガスを発生する。ガスのふくらみが刺激になる。退院してからは、あまり使わない。浣腸は全くやらなくなった。


摘便の時にも、悪寒は感じる。呼吸法も二通りやる。所用時間に関しては、言及できない。5分から10分で「済む」こともあれば、1時間かかっても「終わらない」こともある。


便は、最初に硬く後で軟らかい。ゲル状のものが出て、ガスが抜ければ、終り。括約筋も絞まり、おなかもペシャンコになる。


手でおなかをさわって、ゴロゴロしたらまだ「ある」と思えばいい。ガスだけのこともあるが、ガスだけならば自尿の出る時に抜ける。

便が残ってガスが抜けない時は、自尿が出にくくて辛い。脂汗タラタラ。時間をおいてやり直し。難儀だ。


【排便管理 ⑧後始末】

便は、落とし紙ごとトイレに流す。紙おむつは、流せない。ビニール袋に入れて口を結び、生ごみと一緒に出す。

おしりの方は、清拭専用のお下タオルできれいに拭き取る。この後、お風呂に入れれば申し分ない。

仰臥位に戻る。体交枕をはずすと身体が「く」の字になっている。腰の位置と上半身をさっきの要領でもとに戻し、足の形も整える。

お下に掛けておく専用タオルと掛布団を掛けたらオシマイ。



付 幕 アクシデント

頚損になって4年。一度だけだが、摘便に失敗して大変なめにあったことがある。摘便もキチンとやったつもりだった。おそらく前立腺あたりだと思うが、指一本分くらいの便が、わずかに残っていた。

排便日の翌日、電動車椅子に乗っていた。通常、昼前に乗って水を飲む。量にもよるが、2~3時には、自尿が出るのが習慣だ。

膀胱は、一定の尿が溜まると収縮がおこる。合わせて、心臓が活発に鼓動し、体温が上がる。血行がよくなって、鼻がよく通るのがわかる。自尿の気配、「信号」である。

膀胱の収縮力が、尿道の括約筋の絞まりにまさると、括約筋がゆるんで自尿が出る。

ところがその時に限っては、一向に出ない。気配は感じるし、出ないハズはないのに出ない。下っ腹が異常に張っているのが、見てわかる。ピンチである。

脂汗は、ダクダク。動悸はいっそう激しくなり、耳がキンキンいう。どうにかなりそうだ。

結局、夕方までなす術もなかった。2時間は苦しんだ。お袋の帰宅を待って「叩きだし」をした。出が悪かっただけに苦労した。量もなみではなかった。今度は、お袋が汗だくだった。

二度とごめんだ。こういう事もあるから、排泄の管理はキチンとする必要がある。


排便管理のまとめ

排  便:全面介助。摘便を要す。

排便周期:三日に一度、夕方から夜にかけて用が済むようにタイミングを計って下剤をかける。

服用下剤:前の晩にビール(一缶300cc程度)を飲んでおいて、翌朝8:00頃にアローゼン一包とブルセ2錠を服用する。

方  法:予め「おとし紙」をのせた紙おむつを腰の下に敷いておき、排泄を待って処理する。

     (1)硬い便の場合は、おとし紙だけで済むこともある。

     (2)短時間で終わらない場合は、体位交換マクラ(以下、体交マクラと略す。)を使って横(側臥位)を向き、

        横便器を用いて摘便をする。

後 始 末:落とし紙はトイレへ、紙おむつはビニール袋に入れ生ゴミに出す。


Copyright(C). Mt.PENGIN. All rights reserved.