高位頸損者が、在宅での生活を可能にするには、リハビリや排泄管理の訓練の他、在宅面での整備つまり改築や増築、ひいては新築などが必要になる。
症例においても、家庭復帰に向けて、環境制御装置の導入を決意したり、リフターを導入したりするために、新築までおこなった。
東京都においては、住宅相談(東京都心身障害者センター)もあるが、当ケースにおいては、建坪が少ないために、そこまでは必要に至らなかった。
結果として、狭いゆえ、シンプルな構造にもなったが、問題点も後から発覚したりしたが、良き点もあわせて述べる事とする。
居室は、6畳程の床板。この西側に、エレベータと浴室が並んでいる。ベッドは北側。作業台は、南側の出窓を利用して設置。この空間が電動車椅子で移動できるスペースである。
外への出入りは、東側の自動扉にて行われている。
居室は、狭いが、必要があれば2階へ、介助者と共にエレベータで行くこともできる。
浴室へは、ベッドからストレート・レールで行く事ができる。リフターは、カーブ・レール1つと、その両側はストレート・レールなので、鉄骨の張りはシンプルである。
但し、入浴に際しては、浴槽とレールのポイントがズレているのは残念である。
また、自動扉は、玄関そのものであり、家族や、自分自身も家の出入りに使っている。部屋は1ルームなので、自動扉が開くと、こちらをさらけ出すような気がするが、宅配便などの対応にはスムーズである。
居室は、2つの空間に分けることができる。ケア・カーテンよりベッド側、壁際には、環境制御装置(ECS)や福祉電話「ふれあい」などを配備している。
ベッド日には、この空間だけで生活することになるので、日常生活動作(ADL)は、ECSによる最大15の動作となる。
しかし、乗車日には電動車椅子で、居室の残りの空間を移動する事ができる。この時、ECSの呼気センサーを、電動車椅子に乗っても使える様に、セット・アップされるので、そのADLはマウス・スティック・アクティブの他、ECSによる動作も可能となる。
つまり、生活するための機能的空間が拡大することになる。
マウス・スティックの活用により、電動車椅子の使用目的、すなわち移動の目的が明確になった。目的の伴う欲求は、「人に」それほど働きかけるのである。
しかし、その一方で、出不精のため戸外に余り出たがらない自分が、やはり気になる。戸外に出る必然性や目的がないのである。
ならば、自分の居住空間を、できるだけ改善してやろうという気にもなっていた。
こうして、冷暖房器のリモコンを、特大マウス・スティックで操作可能なポイントに設置しなおしたり、書見台上の蛍光灯などのスイッチ動作を可能にするスイッチ・ボックスを特大マウス・スティックで操作できるポイントに設置したりした。
また、生活の幅を広げるために、ビデオ・デッキやミニ・コンポ、モデムなどを用途や予算から、その最適な機種を選択したり、また、設置するための空間を準備することで、居住空間を整備してきた。
この様にして、居室において、気のつく点を、整備改善をするうちに、外に出る機会が少し増え、1つのことに気が付いた。
自動車で出張るような時はカギをかけてもらえばいいが、「ちょっと、出る。」には、自動扉に「不備」があったのである。
自動扉を玄関として、十分に利用するための施策を、工学的なアプローチだけでなく、行政の手続きや段取り、業者を交えた工事の実際を述べる。
自動扉の不備とは、起動スイッチの仕様である。頸髄損傷者が電動車椅子で出入りするのに、何の配慮もなされていなかった。この不備を改善することとした。
それまでの起動スイッチは、室内外共に熱線スイッチであった。これは、人の体温などを感知して開くシステムなのであるが、電動車椅子でそのまま戸外へ出かけて部屋を留守にした場合、第三者であっても、熱線スイッチは反応して自動扉はあいてしまう。つまり、防犯上、よろしくないのである。
出不精の理由がここにもあったのである。この言い訳をなくすため、この不備を改善することにした。
熱線スイッチは、ベッド時において、ECSにより、あるタイミングで自動扉の電源を[切・入]すると、誤作動を起こすので、任意に、自動扉を開ける事ができる。
つまり、ECSの自動扉へのチューニング割当数は、電源の[入・切]用に割り当てた1チャンネルだけでも、起動スイッチ的に転用する事ができるのである。
従って、起動スイッチの仕様変更後も、熱線スイッチには電源を供給して、しかし、センサーは利かない様に、目隠しをするか、逆さまに設置して、体温を感知しない様にする必要がある。
但し、最近の本体エンジン機種は、セーフティ装置として、電源を[入]にすると、一旦、開いてから、閉まり、自動扉の状態は通常となるので、当ケースを真似るのに、熱線スイッチを仕様に組み込む必要はない。
ECSへのチューニングは、やはり、1チャンネルでよい。
以前までの経過から、横浜リハビリテーション・センター/企画研究室の畠山卓朗氏に相談をすることにした。
畠山氏による改善方法は、起動スイッチの仕様を変更する事。その内容は、多種の起動スイッチの組み合わせにより、電動車椅子の使用にも、家族など任意の者の使用にも対応し、しかし第三者の出入りには制限を加えて防犯体制を取るというものだった。
起動スイッチ(多数のスイッチの組み合わせ)
無線スイッチ・・・・・・・室内外問わず 電動車椅子使用者(設置箇所が、問題になる。)
テンキー・スイッチ・・・・室外側 家族など任意の者 これより第三者を制限する。
押しボタン・スイッチ・・・室内側 誰でも、自由に。
これらの、メーカーの純正品や推奨品の起動スイッチの価格を、カタログに見ると、資金的な問題が発覚したので、利用できる福祉の制度が有るか無いか探す事になった。
東京都心身障害者センターの相談課に、電話を入れたところ、玄関を改善する費用を助成する福祉の制度として、住宅設備改善に「玄関」の項目があるとのこと。(詳しくは、他の項目と合わせて、第三章にて後述。)
在住の区役所の、障害福祉課/住宅設備改善の担当官によると、この制度を利用するにあたって、当ケースで問題となるのが、1点。
要綱によると、工事施工は、指定業者。これは、区が契約した建築組合に所属していなければならない。
自動扉のメーカー直属のサービス業者は、この組合に所属していないので、福祉の制度を利用することができない。
そこで、見積で来訪した折に、建築組合の建築業者に対して、工事施工については、こちらの希望する業者に、「下請け」を出す様にお願いした。
区役所に、建築業者の派遣を依頼する時に、「下請けを出してくれる業者を希望」したが、区役所からは「下請けを、指示する様な事はできない。」との返事だった。
そこで、建築業者の来訪時に直接交渉することになったが、逆に、「メーカーを、紹介して欲しい。」との事であった。
考えてみれば、「下請け」は、建設業界において、一般的な方法だったのである。
参考までに、見積業者のマージンは、15%であった。
下請けは、自動扉のサービス業者に直接ではなく、環境制御装置(ECS)の取り付けを行ったパシフィック・サプライに出して貰うことにした。
理由は、2点。
1)既に、自動扉の電源を〔入・切〕するのに、ECSで制御していること。
状況によれば、ECSとの関連を変更することも考えていた。
2)既に、リハ・エンジニアと通じているので、メーカー直属のサービス業者よりも、優位な立場に立って、工事のイニシアチブを取って欲しかった。
これは、結果として良かった。
自動扉のメーカーは、寺岡オート・ドア(TEL:753-6178)
本体機種は、60-LTD(現在、型落ち。)
接点信号は、モーメンタリー/無電圧(A接点)である。
例えば、熱線スイッチの配線を見ると、その接続は、4ピンのカプラーになっている。内訳は、灰色と黄色のコードが2本づつ。
灰色のコードは、100V。熱線スイッチに、電源を供給して、内部で、必要な24Vにトランスしている。
黄色のコードは、起動信号である。これをショートさせると自動扉が開く。
他の、動力を要する起動スイッチも、100Vを、内部で必要な電圧にトランスするようになっている。
つまり、起動スイッチは、本体のオプション的モジュール構造になっていて、カプラーで、オプション・スイッチを交換する事ができるのである。
改修工事は、寺岡オート・ドア販売/サービス部門による。
無線スイッチ(電動車椅子使用者用)
推奨品 アラジン(ラドラー5/駐車ゲート開閉用)
テンキー・スイッチ(室外用)
推奨品 テンキー・マコミィー
押しボタン・スイッチ(室内用)
非純正推奨品 市販のベル・ボタン
これらの制御装置は、無線スイッチの受信部・制御部と、テンキー・スイッチの制御部の3つがある。これらをキャビネットに収納して、室外の屋根の上に設置した。こうすると、メンテナンスが楽なのだそうだ。
室内用のスイッチには、寺岡純正のタッチ・スイッチも考えられたが、その用途や予算から、安価な押しボタンで十分と判断した。
無線スイッチは、環境によって信頼性が変わるかもしれなかったが、推奨品を選ぶことにした。
防犯上、電気錠が必要になるか考えたが、今回は一時的な工事として、電気錠の仕様は、敢えて、外した。予算的にも厳しかった。
テンキー・スイッチは、福祉の制度の枠を考え、推奨品を選べた。
発信機は、スイッチを改造して、随意性の高い電動車椅子の頭部平枕に増設する事にした。(詳しくは、「Ⅵ電動車椅子」を参照。)
改造は、電動車椅子メーカーの営業マンによる。これは、特別なお願いを要したが、営業マンの才量にもよる。
発信機と改造スイッチとの接続をカプラーにすると、脱着ができ、メンテナンスに便利である。
増設ポイントは、平枕の左側。既設スイッチの「外側斜め下」を選んだ。右側は、エァー・ブローが大きくて、駄目なのである。
頭部の可動域は、円弧状。既設スイッチも、改造スイッチも、可動域状にある。
2つのスイッチの「押し分け」には、指一本分程度、離れてればいい。
既設スイッチは、比較的、楽に押せる位置(内側)にあり、これに対して、改造スイッチは、やや押しづらい位置(外側)にある。更に、外部のスイッチの押し部は、「低く、平たい」タイプ、内側のスイッチの押し部は、「高く、細い」タイプにしているので、より、押し分けしやすい。
発信機は、煙草ケース程度の大きさである。元々、駐車ゲート用なので、自動車のウインドウに掛けられる様に、フックが付いている。このフックを、電動車椅子のフレームに掛け、平枕の左横に設置している。
注 以下は、東京都大田区(平成元年時)のケースである。
自動車扉の起動スイッチの変更の内容と、3業者の役割が決まった段階で、福祉制度「住宅設備改善/玄関」の申請をした。
・3業者
工事施工業者 自動扉メーカー直属サービス部門(会社)
見 積 業者 区役所指定の建築組合所属の工務店
調整指導業者 環境制御装置取付業者
電話にて、担当係り(SW)呼び出し、改善の内容や主旨の説明、合わせて手続きの方法や必要書類を問い合わせたところ。
ア)担当係りによる調査訪問あり。改善の必要の有無の確認。
イ)受給資格は、身体障害者手帳1・2級
ウ)確定申告控えと源泉徴収表コピー。家族の前年度の所得により、自己負担金あり。
エ)申請書の提出。要、印鑑。
所轄の福祉事務所の担当係りの来訪。改善の内容や主旨を、再度説明。
等級、確認。確定申告と源泉徴収表のコピーを添えて、その場で、申請書提出(担当係り代筆)
給付の決定権は福祉事務所長にあるが、要綱の作成や予算の認定は、区役所の障害福祉課にある。
実際の給付の決定は、両者の協議による。
区役所の担当係りに、建設業者の派遣依頼。
区役所と契約の建築組合所属の建築業者が来訪。
玄関の改善内容(自動扉起動スイッチ仕様変更)を、新たに説明。
建築業者に、下請け示唆。実際の工事施工をする下請け業者を指定。
建築業者は、下請け業者と連絡の後、下請けの見積に手数料を乗せて、役所に見積を提出する。
工事の施工は、メーカー直属の工務部のサービス・マンが二人。
立会には、見積業者から一人と、両者間を調整するパシフイック・サプライから一人。
工事が完成したら、建設業者が、福祉事務所宛てに工事の完成届けを提出する。
4者。受給者、建設業者、区役所(担当係りと判定係り)、福祉事務所(SW)にて、工事完成の検査。
その場で、受給者は、委任状を区役所に提出。代筆、区役所担当係り。
委任状の内容は、建築業者に対する支払いの一部(自己負担金を除く)を、区役所に委任するもの。
また、区役所は、建築業者に、自己負担金額を提示。
後日、建築業者が、残りの自己負担金額を集金。
下請けに対しては、契約通りに支払いがなされる。
以上の段取りで、自動扉の起動スイッチの仕様変更がなされたが、新たに改善すべき点が二つ生まれた。
ア)自動扉が、手でも開いてしまう事。
イ)家族などの任意の者でも、場合によっては、出入りを制限したい事。
ア)電気錠を採用する。但し、これには、テンキー・スイッチと連動させるサブ・コントロール装置の取り付けがいる。
〔サブ・コントロールの概要〕
1)起動信号の送出後、
2)電気錠のロック解除、
3)自動扉が開く、一定時間解放後、
4)自動扉が閉まり、
5)電気錠がロックされる。
イ)室内に、テンキー・スイッチの切り替えスイッチを増設する。
当ケースでは、スイッチ・ボックス(詳しくは、「Ⅶマウス・スティック」を参照。)に、組み込むのが適切と考える。
〔切り替えスイッチの概要〕
1)壁スイッチ。結線は、オルターネイト/有電圧(B接点)
2)スイッチ。[入]で、テンキー・スイッチは、起動スイッチとして作動する。
これにより、家族など任意の者は、出入りができる。
3)スイッチ[切]で、テンキー・スイッチは、制御回路から遮断される。
これにより、家族など任意の者の出入りを制限できる。
以上の様に、今後、機会があれば追加仕様しようと考えている。
福祉制度「住宅設備改善」には、玄関以外にも項目がある。以下、第四章にて、要綱などの開示事項をのせる。
重度身体障害者(児)住宅設備改善給付事業は、在宅の重度身体障害者(児)に対し、その者の居住する家屋の浴場等の住宅設備の改善に要する費用以下「設備改善費」という。)を給付し、もって日常生活の利便を図ることを目的とする。
1.設備改善費の種目は、別表「種目」欄に掲げるものとする。
2.設備改善の給付は、新築工事に併せて実施する場合は、給付対象としない。ただし、屋内移動設備に限り、新築工事と併せて実施する場合も、給付対象とする。
1.給付対象者は、同表「対象者」欄に掲げる者で区内に居住する身体障害者(児)とする。ただし、次に掲げる者はその対象者としない。
(1)現に身体障害者更生援護施設、児童福祉施設、精神薄弱者援護施設、救護施設または老人ホーム等に入所中の者及び、入院中の者。ただし、設備改善費の給付により退所(退院)が可能となる者又は、短期間の入院中の者はこの限りでない。
(2)重複障害者で、その障害部位が別表「対象者」欄に定める障害程度に該当しないもの。
(3)同一世帯で2人以上の身体障害者(児)が同表「種目」欄に掲げるものを共有する場合においては、そのうちの1名以外の者。
(4)自己の所有に係わる家屋以外に居住する者であってその家屋の所有者または管理者から設備改善につき、承諾を得られないもの。
(5)別表「種目」欄に掲げる設備改善工事を実施済の者。
2.前(5)の規定にかかわらず、設備改善後において、当該設備が老朽又は、給付対象者の身体及び障害程度の変化によって、使用に耐えられないと認められたときは、当該種目につき、改めて給付対象者とすることができる。
設備改善の給付は、給付対象者の申請に基づき行うものとする。
助成額は、設備改善に要する費用から第6に掲げる本人負担額を控除した額とする。ただし、別表「基準額」に掲げる額をもって限度とする。
1.給付対象者又はその扶養義務者は、住宅改善に要する費用のうち、別表基準額をこえるもののほか、次の各号に掲げる額を負担しなければならない。
(1)給付対象者が18歳以上の者にあっては、「大田区身体障害者福祉施行規則」(昭和40年4月1日規則第50号)第12号条2項 別表第2の補装具の例により算定した額。
(2)給付対象者が18歳未満の者にあたっては、「児童福祉施行規則」(昭和41年東京都規則第169号)第33条別表の補装具の例により算定した額。
(3)給付対象者が同一月内に大田区重度身体障害者(児)日常生活用具給付要綱に基づく日常生活用具の給付を受けた場合は、前各号により算定した額から日常生活用具の給付に係わる費用の支払い額を控除した額。
2.給付対象者の負担する費用については、給付対象者が直接施行業者に支払うものとする。
設備改善費の給付を受けた身体障害者及びその扶養義務者は、当該設備を、給付の目的に反して使用してはならない。なお、これに違反したときは、当該給付に要した費用の全部又は、一部を返還させることができる。
住宅設備改善費給付事業実施要領に定める。
この要綱は、昭和62年4月1日から適用する。
この要綱は、平成元年6月1日から施行し、平成元年より適用する。
種目 | 対象者 | 基準額 |
---|---|---|
浴場 | 6歳以上で下肢又は体幹、及び視覚に係る障害の程度が2級以上の者 | 186,000円 |
便所 | 6歳以上で下肢又は体幹に係る障害の程度が2級以上の者 | 93,000円 |
玄関 | 6歳以上で下肢又は体幹に係る障害の程度が2級以上の者 | 268,000円 |
台所 | 18歳以上で下肢または体幹に係る障害の程度が2級以上の者(家事に従事する者を対象 とする。) | 155,000円 |
居室 | 6歳以上で下肢または体幹、及び視覚に係る障害が2級以上の者(*居室には、上記4種目から、その居室への移動に必要な改善を含む。) | 300,000円 |
屋内移動設備 | 18歳以上で、歩行が不能で、上肢又は体幹に重度の障害を有し、かつ障害の程度が1級の者 | 機器本体及び付属機器 979,000円 設置費 309,000円 |
大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善給付事業実施要領
1)目的
この要領は、重度身体障害者(児)住宅設備改善給付事業実施要綱(以下「要綱」という。)に基づいて、住宅設備の改善費(以下「設備改善費」という。)の給付事務の円滑な運営を図るために必要な実施細目を定めるものとする。
2)給付の申請
設備改善費の給付を希望する者は、「住宅設備改善費給付申請書」(様式第1号)に次に掲げる書類を添付して、居住地を管轄する福祉事務所長に提出しなければならない。
(1)工事計画書(様式第7号)
(2)工事見積書
(3)家屋所有者の承諾書
(1)福祉事務所長は、当該申請者の障害状況、家屋の状況及び居住状況等を実施に調査し、「住宅設備改善費給付申請者調書」(様式2号)を作成し、設備改善費の給付の可否を決定しなければならない。また障害福祉課長は、福祉事務所長の依頼に基づき大田区長が指定した住宅設備改善工事施工業者(以下「施工業者」という。)に当該工事の見積を依頼し、見積書を福祉事務所長へ提出させるものとする。
(2)福祉事務所長は、設備改善費の給付の決定をする場合は、あらかじめ障害の程度、見積額を障害福祉課長に報告しなければならない。
(3)福祉事務所長は、設備改善の給付決定にあたり、工場見積書の審査について特に専門的な知識又は、技能を必要とする場合は、建築部営繕第一議長の意見を求めることができる。
(4)福祉事務所長は、18歳未満の者に対する設備改善費の給付の決定に際しては、必要に応じて児童相談所長の意見を聞かなければならない。
(5)福祉事務所長は、設備改善費の給付の決定をしたときは、「住宅設備改善費給付決定通知書」(様式第3号)を当該申請者に交付する。また、申請の却下を決定したときは、「住宅設備改善費給付却下通知書」(様式第4号)を当該申請者に交付する。
(6)福祉事務所長は、設備改善費の給付の決定をしたときには、給付対象者又はその扶養義務者(以下「給付対象者等」という)に対して本制度の趣旨給付の条件等を十分に説明し、設備の適正な使用及び管理が図れるよう指導に努めなければならない。
(7)給付対象者は、区助成金については、その受領の権限を施工業者に委任するものとする。
(8)給付対象者等は、設備改善を実施した場合には、工事完了後速やかに「住宅設備改善工事完了届」(様式第5号)を施工業者を通じて障害福祉課長へ提出しなければならない。
(9)障害福祉課長は、前(8)の「住宅設備改善工事完了届」の提出があったときは、速やかに実地調査を行い、工事計画に基づく施工の適否について判定し、必要な措置をとるものとする。
浴場又は便所に係る設備改善費の給付を受けるもので、浴場、湯沸器、便所、及び特種便器を接地する場合は、原則として大田区重度身体障害者(児)日常生活用具給付事業により当該用具の給付を受けるものとする。ただし、当該用具の給付業者は、住宅設備改善を実施した業者とする。
施工業者は、区助成金を請求する場合には、給付対象者等から施工業者に、その受領の権限を委任する<委任状>を添付して大田区長に請求する。
業者の選定にあたっては、低簾な価格で良質かつ適切な供給が確保できるよう経営規模、地理的条件、アフターサービスの可能性等を十分勘案のうえ決定するものとする。
なお、業者の選定に関し必要な事項は、大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善工事施工取扱基準を定める。
(1)設備改善費の給付を受けた者は、当該設備の維持管理にあたっては、最善の注意をもってあたらなければならない。
(2)福祉事務所長は、身体障害者及びその扶養義務者が、前(1)による注意を怠って設備を損壊した場合には再給付を留保することがでる。
福祉事務所長は、給付の状況を明確にするため「住宅設備改善給付台帳」(様式第6号)を整備しておかなければならない。
障害福祉部長は、当該年度における、給付状況をとりまとめて、当該年度の補助金実践報告の際に福祉局長に提出する。その際、必要に応じて福祉事務所長に、関係資料の提出を求めることができる。
付則
この要領は、昭和62年4月1日から適用する。
付則
1.この要領は、平成元年6月22日から施行し、平成元年4月1日から適用する。
2.この要領施工の際、現に設備改善給付申請書を提出した者については、この要領により申請を提出した者とみなす。
3.(工事施工取扱基準)大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善工事施工取扱基準
第1.目的
この基準は、大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善給付事業の実施にあたり事業の円滑な遂行を図るため必要な事項を定めることを目的とする。
第2.施工業者の選定
区長は、次の各号のいずれかに該当する業者から設備改善工事受注の申出があったときは、大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善工事施工業者(以下「施工業者」という。)として指定するものとする。
(1)大田区民家防音工事施工工業者として指定した業者
(2)大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善工事施工業者として経験と実績を有する業者
(3)屋内移動設備施工業者として経験と実績を有する業者
(4)大田区重度身体障害者(児)住宅設備改善費給付事業実施要領5の条件を満たす業者
ただし、当該年度の施工業者が指定されるまでの間は、前年度の施工業者を引き続き指定するものとする。
第3.遵守事項
1.施工業者は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。
(1)浴槽は、実用水量150リットル以上のものであれば、和、洋を問わないが、重度身体障害者の使用に便利であるものを選定すること。
(2)湯湧器は、水温を25℃上昇させたとき、毎分10リットル以上給湯できるものを選定すること。
(3)便器は、腰掛式のものを選定すること。
(4)特種便器は、足踏ペダルで温水温風を出し得るものを選定すること。
(5)住宅設備改善工事は、浴場、便所、玄関、台所、居室及び屋内移動設備の設置とし、給付対象者又は扶養義務者(以下「給付対象者等」という。)の依頼により重度身体障害者の使用に便利であるように設計すること。
第4.施工時期
施工時期は、随時とする。
第5.工事着手及び完了
施工業者は、給付対象者等と契約を締結後、速やかに工事を完了しなければならない。
第6.検査
障害福祉課長は、施工業者から工事完了届の提出があったときは、速やかに実地調査を行い、工事計画に基づく工事の施工の適否について判定し、「住宅設備改善工事検査証」を作成する。
第7.費用の請求
施工業者が、区助成金を請求する場合には、給付対象者等から施工業者に、その受領の権限を委任する委任状を添付して区長に請求する。
また、給付対象者等が支払うべき金額については、直接給付対象者に請求するものとする。
第8.細則
設備改善工事の実施に際し、必要な事項は、大田区民家防音工事施工業者指定要綱及び要領を準用する。
〔付則〕
この取扱基準は昭和62年4月1日から適用する。
〔付則〕
この取扱基準は平成元年6月22日から施工し、平成元年4月1日から適用する。
ベッドへ戻るトランスファーや、寝る前に必要なケアを述べる。
これは、入浴後のケアと重なる面がある。
いよいよ就寝。電動車椅子からベッドへトランスファー。そして、ナイト・ケアを受けて、一日の終りとなる。
ベッドから電動車椅子へのトランスファーへの過程は、既に述べた「Ⅳ 電動ホイスト」を参考の事。工程としては、「逆」になる。
そして、介助者は、リフターを所定の場所に止め、吊り具とリモコンは所定の場所に片付ける。
また、脱衣も同様だが、上はTシャツのみ着。下は、下掛け用にバス・タオルをかける。これを2つに折たたみ、折り曲げた側に左手を入れると、ルーズ・レンジで動きの悪い手の落ちる防止になる。
その他、ECSの呼気スイッチのセット位置直し。そしてカテーテルの栓を外し、尿袋を付けたりする。尿の状態を、目で確認するためである。
ここでは、トランスファー自体ではなく、それに伴う電動車椅子の下車ポイントと、駐車ポイントと乗車ポイントとの位置関係を中心に述べる事とする。
電動車椅子から、ベッドに戻る時、または入浴する時、リフターを使って下車するのに最適なポジションがある。
「終りィ。」介助者に、ワープロなど、作業の終了した事を告げる。
そして、ファイルを閉じたり、フロッピーを抜いたり、後片付けをする。
「パチン。」ワープロの電源を落とす。
「ウィーン、ウィーン。」電動車椅子を、上車ポイントと同じポジションに停車させて、「ツトッ。」電源を落とす。
ここで注意すべきは、この時、電動車椅子の前輪(ステアリング)が、どちらかに、やや、傾いてしまう事。
これは、コントロール・ボックスそのものが内傾斜に、固定されているためである。
手の重みが、レバーを押し、必然的に前輪がステアリングをきる。
そのまま電源を落とすので、前輪が傾いてしまうのである。
電源を落とさずに、ディバイスを外させるのは、レバーを前後に傾ける危険性があるので避けている。
電源を入れたまま、レバーを意識的に真っ直ぐにしようとしても、麻痺した腕はその加減がわからない。
目視でも、死角のため、タイヤの「曲がり」を確認することはできない。
入浴するにしろ、ベッドに戻るにしろ、電動車椅子はこのポイントから、押し下げて、駐車して貰う必要がある。それには、前輪を「真っ直ぐ」にする必要がある。
安全に、これを行う「手順」は以下の通り。
ⅰ.電源を落とした後、ディバイスから、外し、
ⅱ.それから、電源を入れて、
ⅲ.その手で、コントロール・レバーを横に倒すと、
ⅳ.ステアリングが、キレて、戻る。
ⅴ.そして、電源を落とす。
以下、その「様」である。
「手、取って。」右腕を、ディバイスから外して貰う。
「ベリッ。」マジックをはがすと、もう右腕はフリーである。
ベルクロを絞めていた跡が、やや、へっこんでいる。
「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ...。」もう一度、電動車椅子のスピードを入れる。
「パショッ。」入力。「LOW」でも「HIGH」でも良い。
右肩に、力を入れ、腕を持ち上げる。
意識的に、腕を曲げ、手刀の部分で、ディバイスごと、レバーを「クィッ。」と内側に傾ける。
真横ならば、パワー・ステアリングだけが利き、電動車椅子は動きださない。
介助者に、危険はない。
「チャッ、ウイッ。」すると、前輪(ステアリング)は、左に向いてから、正面に戻る。これで、真っ直ぐに、電動車椅子は下がる。
介助者は、下車ポイントにある電動車椅子を正面から、真っ直ぐに押し下げる。そこが、駐車ポイントである。
翌日、あるいは翌々日に、また、この電動車椅子に乗る時、この駐車ポイントから引っ張り出す。
つまり、そこが、また駐車ポイントとなる。
「上げて。」言われるままに、ベッドを上げる。
ECSの呼気スイッチが口許になければ催促をする。
「ウィーン、ツタッ。」介助者の、腰の高さより低めで止める。
介助者は、ベッドの足の側の洗面台で、歯ブラシと、水の入ったコップと空コップを用意する。
洗面は、入院期で既に慣れている。
ⅰ.歯ミガキ
ほぼ、問題ないが、今一つフィットしない事もある。慣れ過ぎなのである。これを、自らが動いて合わせようとすると、介助者が誤解して、歯ブラシが「逃げて行く」傾向がある。
その場で、すぐに意思を伝える事ができればよいのだが、それはできない。うがいの後にも言おうかと思うが、終われば気も済んでしまう。
ⅱ.うがい
これは、ベッドの低い位置の、横からでもできる。
介助者は、ストローを人差し指と中指に挟み、コップの水を含ませる。ストローが固定されていないと、口からストローを外すのが、きわめて難しくなる。
含んだ水を、口の中だけで動かすこともあるが、時には鼻から息を吸い込み、上を向いて、「ガラガラ。」ということもある。
吐き出すのには、気持ち的に慣れがいる。
空コップに、別のストローを用意して、吐き出すこともしたが、「ペッ。」とやるのがやはり一番いい。
これにはコップの位置が決め手となる。アップ・ライトに近いほど、ベッドを高く上げていれば、コップは正面、くちびる真下にフチをつけて吐き出す。
ベッドの位置が低ければ、くちびるすぐ横のほっぺたに、歯に当たらないように押し付けると、スムーズに吐き出すことができる。
これを、何度か繰り返す。
終われば、コップなどは、浴室の洗い場に置いておき、後で尿タンクなどと一緒に洗う。
ⅲ.顔拭き
メガネは外す。呼気スイッチは一時のける。
洗顔タオルは、お湯で。洗い場で用意する。
よく拭いて貰いたいのは、目と眉毛。眉頭と眉尻を、片方ずつ集中して拭く。
拭いたタオルを見ると、眉毛が抜けたりする。
そして、髪の毛とおでこの生え際。更におでことほお骨は、「の」の字を描くように拭く。
拭き難いのは、耳のラッパ。拭き残す傾向にあるのは、耳の裏の下側。
これらを2回に分けて拭く。顔は、アブラっぽいそうだ。
洗面タオルは、洗い場ですすぎ、所定の場所で乾かす。必要があれば、洗濯物いきである。
メガネは、ティッシュで、レンズを磨いてかける。そのまま寝るのが習慣である。
ⅳ.綿棒
左右の耳の穴と、耳のラッパ部の凹んだスジを掃除する。
汗をかくと、綿棒は黄色い。
天気予報ができる。
綿が、乾燥していてガサガサしていれば、翌日は晴れ。痛いほどの時もある。
綿が、シットリしている程ではないが、バリの様なものを感じない時は、不安定な天気になる。もっとも、クーラーの加減でも違うかもしれない。
ⅴ.ヘア・ブラシ
電動車椅子の、頭部スイッチ操作のために乱れた頭髪にブラシを通す。特に、右後頭部と右側頭部あたりが絡むので念入りに。
しかし、ヘア・スタイルがよくなる訳ではない。
ⅵ.かがみ
毎晩、至近距離でかがみを見る。自分がどんな「ツラ構え」をしているか知る事は大切な事だと思っている。
「呼気スイッチ」セットし直し。
「下げて。」今度は、ギャッジ・ダウンである。
呼気スイッチが、口許になければ催促する。
介助者は、ノウ盆を用意し、尿袋を外して、カテーテルをこれに垂らす。
「見せて。」ビニール袋に溜まった尿を見て、その状態を知る。
色は、濃度は、透明度は、不純物はどうか?朝晩の日課である。
そして、予め、蒸留水で洗い流した50ccプラスチック・ディスポを使って、導尿に代わる残尿測定(導尿)的なことをする。
残尿量と、その色、濁り具合は?
バルン・カテーテルを留置してから、膀胱洗浄は、週に2度は必要とされたが、介助者との兼ね合いで、それは難しいのである。
但し、この方法は、滅菌対策上問題が大きすぎる。特に医師の指導を受けてやっている訳ではない。人に薦める事はできない。
現在のところ、これに関して問題の起きた事はないが、今後、大きなトラブルを起こす可能性もある。
ここでは、膀胱洗浄やバルン・カテーテルなど、新しい尿管理については、経験的データが少ないので述べない事とする。
そして、介助者はカテーテルをベッド・サイドの尿タンクのホースにつなぐ。
そして、服薬。翌日が、排便日の場合はビール(300cc一缶)を飲み干す。
酔うほどではないが、一服がうまい。アルコールが身体を巡り始める。
掛け物を調節。季節によって加減が難しい。
直接のケアは、これで終りである。
最後はケアの後始末。
洗面に使ったタオルやコップなど。ノウ盆やプラスチック・ディスポ、そして電動車椅子にセットした尿タンク(容量2500cc)を外して、水洗いする。
尿タンクは、底に汚れが目立ち始めたら漂白剤を入れておくとよい。
そして、消灯。
介助者は、浴室と洗面台、書見台上の蛍光灯を消して回り、窓(東側)のカーテンを閉める。
「窓はどうするの?」
「それぐらい開けといてイイや。」
「幸久、終りね。」
「ン、いいよ。アッ充電は?」
「したョ。」
翌日、電動車椅子に乗るときは充電をしておく。
「ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ。ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ、ツ。ピッ。」
「トッ。」ECSで室内照明を消す。
明かりはテレビとエレベーターからこぼれるだけ。
「ガッ、ゴーン。」介助者は2階へ。
部屋は、徐々に暗くなる。
しばし、テレビを見たりする。
「ツ、ツ、ツ、ツ、ピッ。」テレビを消す。
スモール・ランプはない。部屋は静か。
しばらくすると、目が慣れてくる。様々なLEDランプがついている。
左を向くと、ミニ・コンポのCDランプと電子ボリュームが、赤く光っている。
その下には、モデム。3つの緑のランプがトビトビに。
作業台の向こうを見ると、ビデオ・デッキのパワーが入っているのが分かる。
音声トラッキングが、不規則に横に伸びる。
右を向くと、複数の赤と、1つの緑のランプが光っている。
壁には、インターホンの赤いランプ。
ECSの表示板は、12番目と13番目が赤く点灯している。これは、自動扉と室内照明である。13番目は、ONで室内照明が切れるようにセットしてある。赤のランプは、真夜中に、照明をつけるのに良い目印となる。
緑のランプは、「ピッ。」指定時間を過ぎると、READYに戻る。
そして、電話。スピーカーホンUの赤い電源ランプは点灯。「ふれあい」の左上には、赤のランプが点滅をしている。
睡眠。ECSの呼気スイッチは口許にある。
「ボコ、ボコ。」電動車椅子の充電の音がする。
自分の寝息も聞こえ出す・・・。
〔おわりに〕
頸髄損傷(C4)により四肢麻痺者となったのは、ショッキングな出来事だった。しかし、本当にショックだったのは、それでも生きることを考えた時に、今まで生きてきた手段では、生活が成り立たないと分かった事。電話ひとつ掛けることもできないのである。
しかし、幸いだったのは、担当のOTが福祉機器の情報を持っていたことだ。退院に向けて、家を新築し、これに合わせて福祉機器を導入した。
そして、退院。多くの不安はあったが、福祉機器にも慣れ、必要があれば工夫し、または改善を繰り返し、それをノウハウとして蓄積していった。
このレポートは、後発の、在宅を目指す障害者とその家族の不安を取り除くために。または、OTやPTなどすべての医療関係者には、福祉機器の存在とその構成の仕方を知ってもらうために。さらに、リハ工学エンジニアには、その使用報告をフィードバックさせるために書かれたものである。