レポート ザ・ケーススタディ


【セットアップ】

「レポート ザ・ケーススタディー」

■生活スタイルその2 乗車編(1)「第二段階」

「Ⅴ.セットアップ」車椅子にて

序章 トランスファー

集尿器を付け、着衣をすませたら、電動ホイスト(ⅳ「電動ホイスト」参照。)を使ってトランスファーする。

生活のスタイルを「ベッド上」から「電動車椅子」へ移行する。この、すべての動作をトランスファーとすれば、着衣から、リフターを使ってリクライニングした電動車椅子に乗る事も、体位を保持するためにベルトを絞める事も、電動車椅子に乗った状態でも、ECSの呼気スイッチを使えるようにするなどのセッティングする事も、トランスファーと考えることができる。

しかし、本編では、介助者が吊り具を手に持った時から、その吊り具を所定の場所に戻した時をトランスファーとし、以後の乗車させるための介助テクニックや呼気スイッチのセッティングなど、電動車椅子用の環境を設定するための介助をセットアップとする。



第一章 乗車介助テクニック/起動、アップ・ライトのために・・・

トランスファーは、終わった。リフターで電動車椅子に降ろす時、特に腰の位置に注意したが、今また、全身が左右バランス良く乗っているかどうかをチェックする。


【①バランス・チェック】

介助者は、電動車椅子のステップ側に回る。

ポイントとなる部位は、カカト、膝、腰、頭である。カカトと腰と頭が中心にあり、両膝は左右対称に広がっていればいい。


もし右膝が左よりも開いていたら、腰は真ん中にあっても、腰全体は、右の方向を向いているのである。

逆もまた、然り。


必要以上に、バランスに固執しているようだが、6~7時間1人で過ごすには、必要なことだ。

実際に電動車椅子に乗り、何度もリクライニングを繰り返す。

バランスが悪いと、起きた時に上半身が傾いたり、腰がズッたり、足がステップから落ちたりする。

「バランス」と「体位保持ベルト」の絞め方が良ければ、夜ベッドにトランスファーする時まで「手間」かけることはない。絶対ではないが、・・・。


 バランスよく身体が乗れたことを確認できたら、体位保持のベルトを二本絞める。安全ベルトでもあり、腹圧帯でもある。


【②姿勢保持ベルトと複圧帯】

ベルトは、2本。1本は、幅7~8cmの塩化ビニール製。電動車椅子の購入時のオプションである。これが姿勢保持用の、言わば「安全ベルト」である。

もう1本は、「複圧帯」幅15cm程度。デニムの生地を買って、近所の「なおし屋」さんで作って貰った。

やはり、姿勢保持のベルトには違いないが、下腹の圧迫の仕方次第で、呼吸が楽になる。その日の活力が、違うのである。


下腹に複圧帯、胸に安全ベルトを広げてのせる。介助者は、バッグ・レストの下にもぐり込み、ベルトを絞める。「止め」は、マジックである。お腹に「圧」をかけるため、キツク絞める。


「グッ」と力がかかると、鼻から息が漏れる。

圧をかけることで、横隔膜が上がり、出きらなかった息が全部吐けるのである。息が完全に吐ければ、より深く息を吸うことができる。より深い呼吸は、起立性の低血圧をも防止する。

この効果は、リクライニング・アップした時によくわかる。

この下腹に絞めるベルトは、同時に腰が前方にズッコケルことを防ぐ。


もう1本のベルトは、脇の下を通して胸を絞める。この時点では、あまり強さにはこだわらない。リクライニング・アップした時に、上半身が安定していればいい。


【③リクライニング・アップ】

一応、ベルトが締まった。自分でも何となく分かる。お袋も「起きて」と言う。頭部平枕の入力装置(エァー・ブロー)を、右側頭部で押してマイコン・セレクターを作動させる。


「トンッ。」頭でエァー・ブローを叩き込む。


「・・・。」反応がない。


「?、!」


直ぐ様、左側頭部で赤いボタンを押す。

「ファッ。」電源が入る。

トランスファーの途中で、スイッチに触れ、電源が切れていたのである。よくある事である。


改めて、エァー・ブローを叩き込む。リクライニング・アップの時は、ただ3回押せばいい。

「ポッ、ツッ、ピッ。」、マイコン・セレクターの1チャンネル目の「UP」が点灯する。

「ウィーン。」バック・レストが上がり、ステップが下がる。

電動車椅子は、フル・リクライニングから徐々に車椅子らしく変形していく。

「ツタッ。」

完全に、リクライニング・アップして視界が広がる。アップ・ライトである。


【④チェック】

起きたら、2、3回深呼吸をする。

腹に力を入れて、息を吸うと「グッ。」と複圧がかかる。腹の力を抜くと、「ふんっ。」と鼻から息が抜ける。複圧帯は、イイようだ。


頭を左右に振って、上半身を揺さぶってみる。

「・・・。」

バランスはいいが、少しルーズ。安全ベルトがゆるいようだ。

「上、絞め直して、・・・。」

「バリ、バリ。」マジックのはがれる音。

介助者は、両足を踏ん張り、ベルトに体重をかけて引っ張り、絞め直す。


「ンッ、それぐらい。」強すぎると、逆に窮屈になるので加減を云う。


ベルトはいいが、もう少し上半身が起きた方がいい。今仙の古いタイプの電動車椅子は、バック・レストの角度は107度と、少々広い。

後ろにのけ反った感じで、首の座りが悪い。そう思うだけでも、どうも息が吐きにくい。

背中とバッグ・レストとの間にパッドを差し込むと、後ろから肩甲骨を押された感じになる。わりといい。


今仙では、利用者の声を繁栄して、ニュー・タイプは5段階の調整ができるようになってきてはいるが、まだまだスタンダードまま乗れると思わない方がいい。


ちなみに、足がフット・レストから外れてしまうなら、ベルトを使って足首をフット・レストに固定すればいい。


【⑤ディバイス装着】

電動車椅子のコントロール・ボックスは、右側。

左手は、アーム・レストの内側にポケットを作って、これに入れる。肘がアーム・レストにのって、手首だけがポケットに入る感じ。(後に、左手もスライド・パックを採用。)

レバーのコントロールには、ディバイス(補装具)を装着する。C4故、握力はないからである。


ディバイスは、手首が落ちないように、コック・アップ・スプリットのタイプである。

その形状。手の平部は、平たく、親指と人差し指の指股に「でっぱり」があり、手のひらが前に出ないようになっている。

手首部は手首を包むように湾曲していて、裏面外側から固定用のベルクロ(マジック)のメスが垂れ下がり、オスは裏面内側手首部にビスで止っている。


装着の目安は、「でっぱり」。これが、手のひらがディバイスからづれないためのストッパーとなる。

でっぱりの手前に、親指と人差し指の「指股」が来るように、手の平をディバイスに乗せる。

そして、手首が浮かないように押さえて、ベルクロのメスを、向こうから手前に引っ張り、ディバイスの裏側にビスで止っているオスに回して止める。


そして、手の平部からはパイプが出ていて、これをコントロール・レバーに差し込む。

これでディバイスの装着は良い。後は、集尿器のセットである。


【⑥付集尿器】

どんなに、電動車椅子に利用価値があっても、排尿の管理が出来なければ、話にならない。


風呂場で一晩、消毒液に漬けて置いた畜尿器をすすぐ。2.5ℓのポリタンクで、1日分をカバーできる。運動洋品屋などで、手にはいるものだ。


バック・レスト下部のフレーム・バーには、畜尿袋がブラ下がっている。これのチャックを開け、これにタンクを入れてまた閉める。


ズボンのチャックからは、ウローぺックの先に付けたガラス管が出ている。

これにゴム・チューブをつなぎ、反対の先をタンクの穴に差し込む。スタンバイOKである。


穴は、キャップにドリルであけたもので、チューブは、尿流をよくするために、エアー針が刺してある。尿流が悪くて、泌尿器がウローペックに吸引され、腫れる事があるからである。


チューブは、中間で切断され、その間に5cm弱のパイプをつないである。

エアー針は、ゴム・チューブから刺し込めれていて、針先はパイプの中に潜って、外側に針先が突き抜けないようにしてある。


人工膀胱路または留置カテーテル(バルン)を使用している者は、ゴム・チューブに直接つなげばいい。

ちなみに尿は、リクライニング・ダウンすると畜尿器に流れやすい。


集尿器は、市販のものだとぺニックなどがしられているが、このタイプの集尿器は頚椎損傷者には向かない。

ぺニックは、手の自由の利く脊椎損傷者が考案したのもで、「溜めておいて、後で自分で捨てる」ことのできる者でないと実用価値はない。また、電動車椅子をリクライニング・ダウンすると逆流、失禁の恐れもある。

頚椎損傷者が電動車椅子に乗った上で、身体的条件に合う集尿器は現在のところ市販されていないので、自分に合う物を自作した方がよい。多くの人のノウハウが結集されることを望む。


頸髄損傷者は、手の自由が利かないので、介助者の負担にならないように、材料も手にはいりやすく、作成も簡単で、装着方法も簡単な物を考案する必要がある。

加えて、畜尿器の容量が日中分ほど必要で、更に電動リクライニングでdownさせても失禁の恐れがない事が必要である。


以上の条件を考慮すると、おおよその形状と仕組みはおのずと決まってくる。


【オリジナル集尿器】

=必要材料=

ウローペック  コンドームに似ているが、材質が少し硬い。

        装着した先端「ねじれ」による爆漏の心配がない。

ガラス管    膀胱洗浄に使用する「ぼうせん」の管をつなぐジョイント

エアー抜き針  点滴の瓶やタンクに刺して、エアーを抜いてやるための針。

プラスチック・バイブ

ゴム・チューブ  直径1cm弱。パイプはチューブよりやや太め。


*以上は、病院に出入りしている医療品販売業者から入手できると思われる。


ポリ・タンク  運動用品屋などで売っているハイキング用ポリ・タンク


[特 徴]

コンバーチブル・タイプである。長いゴム・チューブに差し替えるとベットでも使える。


【⑦セッティング ECSの呼気スイッチ、その他】

ベルトを絞め、集尿器がセットされると、お袋は、ベット・コントローラーを手にする。今少し、[やること]がある。


コントローラーの「▲」ボタンを押すと、「ウィーン」と軽い音を出してベッドの「背もたれ」が上がっていく。


その様を見ながら、右腕に力を入れと肘を突っ張ったり、手首を左右に介して、ディバイスの具合を感じ取ってみたり、集尿器のホースが必要以上にたるんでいないか、自分の目で確認してみる。


何れも「大丈夫」だ。


「ウィーン。」「スタッ、スタッ。」

背もたれが全部上がりきると、お袋はムキ出しになったフレームに乗り、ECSの呼気スイッチを「壁際」から「こちら」側に移す。


電動車椅子に乗っていても、ECSは使いたい。ベッドの日でも、常時こちら側(左)にセットしておけばイイように思うが、そうはできない。

ベッド日でECSを使う場合、呼気センサーが左にあると、右(壁)側にあるECSの表示板や福祉電話「ふれあい」のスキャンを目で追うことができない。

やはり、その度に、呼気スイッチの位置を変える必要がある。


コントロール・レバーを操作して、電動車椅子をベッドの左に横付けする。


[呼気センサーの位置]


ストロー。」と呼気スイッチのセッティングを催促する。フレキシブル・アームを目一杯にこちらに突き出し、先端のストローが口許に来るようにする。


「ちょい上」などと細かい指示をし、「んっ」とか言って、良い感じななったことを知らせる。


[特大マウス・スティックの位置]


「もっと、右。」「テレビと直角になるくらい・・・。」「もう少しこっちに開いて、・・・。」


特大マウス・スティック(詳しくは、「Ⅶ.マウス・スティック」にて後述。)の所定の位置は、テレビの下、一番右より、10㎝ぐらい突っ込んで、60cmぐらい手前にせり出すようにする。こちらに、かなりセリ出している感じである。


特大マウス・スティックのポジションも程よく決まると、最後は水タンク。これは、2階で水を容れるのが習慣だ。

お袋が手に水タンクを持ち、急ぎ足でエレベーターに乗り込み、ほとんど同時に2枚のトビラを閉める。


「キーッ、キーッ。」

2階へのボタンを押すと、「ン、ガーツ」と機械音が響き、勢い良くエレベーターは上がっていく。


その音を耳にしながら、電動車椅子で作業台に近づく。

「ズタッ」

「キーッ。 キーッ。」

2階では、エレベーターが止り、扉を開ける音がする。


ワープロ、作業台の左端に据え置いてある。(他、真ん中に書見台、右端には辞書台が備えられているが、詳しくは「Ⅶマウス・スティック」にて。)

正面右の「電源」に対して真正面から電動車椅子でアプローチをかける。


専用のマウス・スティックをくわえて、電源を入れ、通信システムのフロッピーをデッキに差し込む。

「コッ、コッ、・・・。とデッキがドライブして、プログラムを読み込む音がする。


しばらくして、

「キーッ、 キーッ。」っと扉の閉まる音。

「ン、ガーッ」タンクに水を容れ、再びエレベーターで降りて来る。


「ズタッ」

「キーッ、 キーッ。」とエレベーターが下がり、扉が開く。

ユニホォーム姿、水タンクを持っている。満タンだ。


[水タンクの位置]


横目で、水タンクの位置が所定の場所かどうか確認する。作業台の一番手前にあればいい。そうすれば飲み口に口が届く。


ワープロ通信の操作を続けたいところだが、

「行くよ。」と言うので、

電動車椅子で下がりながら、

「待った」をかける。


書見台にその日に読む物、読みたい物。文庫本やコミックあるいは目を通す資料などを入れ替える。


「書見台、左に手前、2つ、外して・・・」

「どこやるの?」

「ベッドでいい・・・」

ベッドの上に置くのを目にしながら「んっ。」とか勝手に言い、


「それから、辞書台の後ろにある赤い表紙の本、入れといて・・・」

「これ?」

「ん、それ。」とか言う。これで、セッティングが終わった。


書見台に関して言うと、本来なら、出掛け前のこの手のケアは、避けるべきだ。

昨晩のうちに準備しておくのが寛容だろう。


すべてのセッティングが終わると、「じゃ、行くよ。」と再度確認してくれる。

周りを見回し、見落としの無いことを確認して「ん、行ってらっしゃい。」と言って、横目で見送る。これで夕方に帰ってくるまで、「ケア無し」である。


朝、9時30分に起きて朝食を30分で取り、30分で着衣やトランスファーその他のセッティングを済ます。この間、約1時間。

だいたい1時間でこの手の「ケア」が済めば、計算が立つ。介助者も動きやすいし、介助を受ける側も予測しやすい。1時間とは、いい単位だと思う。

ともかく、この後、夕方まで一人である。


再び、ワークス・テーブルにアプローチをかけ、ワープロ通信を続行する。

ワープロの画面には、プログラムの読み込みが終わって、ホスト局のメニュー一覧が開いている。このうち、IDを持ってる局にアクセスする。(詳しくは、「Ⅶ.マウス・スティック」にて後述する。)


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