レポート ザ・ケーススタディ


【排尿管理】

「レポート ザ・ケーススタディー」

■生活スタイルその1 ベッド編「第一段階」

「Ⅱ.排尿管理」ベッド上において

序 章

第一段落は、排泄の管理、対応。ECSの導入、加えてエアー・マットによる 床ずれ防止。これらが組み合わさって、始めて、自立として意味をなす。

排泄の問題を整理、対応することによってECS(後パートでレポートする。) が本来の機能を発揮する。

前のパートでは、排便管理をレポートした。今回は、排尿管理をレポートし、 ビデオでは触れなかった排泄の問題をまとめてみる。


ポイントになるのは、尿袋と導尿と集尿器。特に集尿器は、少なくとも6時間、 症例は一人いるので、一度装着したら6時間から半日は手を掛けなくて済むものがいる。しかし現在のところこれといった市販の集尿器はなく、オリジナルの考案が必至である。



朝食前の部

第一幕 尿袋

AM8:00。三日に一度の下剤を飲む時間。お袋が二階から下りてくる。手には、 番茶を持っている。指定の場所から下剤を取り出すと、枕元に近づいてくる。照明代わりにナイト・カーテンをちょっと開ける。

掛け布団をめくると、二つ折りの小さめのバスタオルが、下の部分を覆い隠すようにかかっている。こうしておくと、ある程度の失禁があっても掛け布団にまで被害が及ばない。

 失禁防止用のタオルをとっぱらうと尿袋に自尿が出ているのがわかる。


【尿管理 ①尿袋の始末】

尿袋は関東労災のPT室で売っているもので、入院中からつかっている。

まず、その尿袋を縛っている尿帯を外す。カタ結びだが、伸縮包帯だからバカみたいにカタク結ばなければ、取れる。

尿袋を外すして、直ぐ横の風呂場のトイレに流す。

汚れた袋はトイレには流さず、洗面台下の汚物処理用のバケツに捨て、手を洗う。

新しい尿袋をストックから取り出し、泌尿器に尿袋をかぶせる。

22~23cm程の尿帯を、その上からあてて尿袋を装着する。かなり、手際良い。

尿袋に再度、尿をしぼりだすのである。


【尿管理 ②尿袋の装着】

尿袋のサイズは、40㎝×10㎝。材質は、ビニール。交換や装着には、慣れがいる。

まず、尿袋に息を吹き込んで、一度、中を広げる。ついでに、やぶれていないかチェックする。

今度は、空気を抜く。右手で尿袋の底を握ったまま、左手で底を引くと中に入っていたものが抜ける。折り返しに、袋口から「指の長さ分」を残して引くのがポイント。

折り返し。引き残した「指の長さ分」の部分をそのまま右手の指でつまみ、左手で折り返して右手の指ごとかぶせて作る。これを泌尿器にかぶせると介護者は、手を汚さないで済む。


尿帯には、伸縮包帯を使う。これで尿袋を縛る。結構、加減が難しい。強いと 血行不良で腫れ、ゆるいと尿が漏れて意味をなさない。

捲き方は、二捲。泌尿器に当てて、反対側で「行き違い」して、当てたところへ返してカタ結びをする。

蝶結びは、結びめが大きくなるので避ける。泌尿器の裏側に、結びめがくるの も避ける。

尿帯の長短がポイント。短いとキツクなるし、長いとあまってしまう。コツと しては、ケースに合う尿帯の長さがわかればいい。寸法を変えていろいろとやっ てみる。

始めは、失禁と腫れの繰り返しだろうが、そのうち経験の中から探るように、 基準となる長さが見つかる。

基準値がわかってから、失禁や腫れはあきらかに減った。尿帯は、洗濯して何度でも使える。


〔補 足〕

テキパキやるのが寛容。モタモタすると陰茎が充血をする。男だから当たり前。時間がたつと、充血が引いてせっかく結んだ尿帯がゆるく抜ける危険がある。女性介護者は要注意。


尿袋  1000枚 ¥1,500  分配所   関東労災病院 PT技術室

概寸  「10㎝×40㎝」   〒211 川崎市中原区木月住吉町2035

容量  およそ「700cc」ぐらいまで  TEL:044-411-3131(代)


※ 技術室には他に、ペニック(集尿器)の材料もストックしてあり、行けば誰でも分けてもらうことができる。

ゴム管      ¥300/1m

ビニール・パイプ ¥300/1m

製造取扱:今井加工所  岡田 雄二

〒132-0015 江戸川区西瑞江3-18-6

TEL:03-3679-6882


【尿管理 ③叩き出し】

強制的に自尿をしぼる時は、下っ腹の最下部を叩いて刺激を与える。トリッガ ー・ポイントにうまく刺激がはいると、膀胱は収縮する。

収縮が始まると、心臓がドキドキ。動悸が激しくなる。体温が一気に上がって、 軽い汗をかく。頭に血が昇り、鼻の通りがよくなる。

膀胱の緊張が、更に高まる。尿道括約筋の緊張度より膀胱の収縮する力の方が強くなると尿道括約筋が緩んで、自尿が出る。


〔補 足〕

排尿全般にわたることだが、腸にガスが溜まっている痙性のために自尿の出が悪いことがある。これは、尿道の括約筋が肛門の括約筋と「8」の字形につながっているため。尿道括約筋の弛緩にともなって肛門括約筋も緩んでガスが出ると、自尿の出が良くなることもある。


再度出した尿を、前のものと同じように処分し、市販の「おしぼりウェッティ ー」で泌尿器を清潔に拭く。

使い捨ての「おしぼりウェッティー」を処分したら、掛け布団と失禁防止用の専用タオルを掛け直し、下剤を飲む。

お袋は手を洗っている。


【服 薬】

オブラートを口に放り込む。飲む前に破りたくないから、モゴモゴして舌の奥 までもってきて一気に飲む。


「あっ! まじぃ~っ。」大失敗。飲みきれなくてオブラートが破れた。噛むと、苦さがいつまでも残る。

下剤は、アローゼンとプルセ。顆粒を飲むのは何とも思わないが、アローゼン があまりにも不味いのでオブラートに包むようになった。

下剤を飲むときの水分量は、約300cc。飲む量が多いので、下剤を飲んだ後は自尿の出に気をつけないと失禁してしまう。

前の晩にもビールを飲んでいるし、だから服薬する前にも自尿を叩きだしたのである。


下剤を飲んだのが8:00。10:00の朝食までには、まだ少し眠れる。2時間ぐら い空けてから食事を取らないと、下剤が利かない。


また、うつらうつら始まる。ちらほらと近所の子供達の声が聞こえ始める。我家は通学路に面している。覚えのある登校の風景が目に浮かぶ。我家を出て右、すなわち南へいけば、蓮沼小学校。左、すなわち北に行けば、蓮沼中学校である。 どちらも昔、通った学校だ。


「カーン、カーン」と外の階段を降りる音が聞こえる。お義姉さん出勤の時間だ。

惰眠をむさぼる頭に、外階段を降りてくる情景が浮かんでくる。3階から急ぎ 足で、2階に寄って、姑に朝の挨拶をする。

「行って参ります。」

「行って、らっしゃい。」

これが毎日だから、たいしたものだ。



第二幕 導尿

AM10:00。エンジン始動。導尿をして朝食を取る。ベッドの日も電動車椅子の日も変わりない。


お袋が、再びエレベーターで降りてくる。

「ガッ、ゴーンッ」と威勢の良い機械音。

「ガッコン」と停止音。

内側に続いて外側の扉の開く音。

アコーディオン・カーテンが開く。お袋の再登場。威勢よくカーテンを開けられ、朝日が差し込んでくる。

症例は、ECSでTVと照明をつける。


ストローを4回吹いて1回吸う。

「ツ、ツ、ツ、ツ ピッ。」TVの電源(CH4)がはいる。画面は砂嵐。TVのチャンネルは固定されている。

「ツ、ピッ。」ビデオに電源(CH5)がはいる。ビデオのTVチューナーのチャ ンネル数が表示される。例えば、「4」チャンネル。

「ツ、ピッ。」TV/VTRの切り替え(CH6)が、働く。ビデオ・チューナーを通して、TVの画面に「4」チャンネルが映し出される。

「ツ、ピッ、ピッ。」ビデオのTVチュナーのチャンネル数の表示が「4」から 「5」。「5」から「6」とチャンネル順送り(CH7)される。

ドラマを観ながら、導尿をしたり食事を取るのが日課である。


掛け布団をはずし、下掛け専用のタオルも取る。

尿袋に自尿が出ていれば始末して、出ていなければ下腹を叩いて出してから始末 する。さて、それから導尿である。

お袋は、ベッドと風呂場の合間にある洗面台で手を洗っている。


【尿管理 ④導尿 (1)方法】


〔補 足〕

セルフ・カテーテルの使用には医師の指導が必要。

残尿10cc以内なら導尿は必要ないと言う話もあったが、取扱説明書によれば、残尿が 50以下なら導尿は日に2回。100cc~200ccあれば、導尿は日に3回以上ということになる。


導尿。全面介助である。介助者は石鹸で手を洗う。薬用石鹸ミューズなどがよいと思われるが、普通の石鹸でもよいとされている。


消毒液のはいった透明なケース、この頭部にブルーのキャップついてる。

このキャップをゆるめて、小指と薬指の指股にはさんでキャップをはずす。

キャップの裏側には突起した芯があって、その芯にカテーテルの根がついてくる。

カテーテルを出すとき、カテーテルの先端、1/3ぐらいを余らせて、親指と 人差し指で摘み持つ。

ケースは液をこぼさないように引っ掛けてぶらさげる。フックがついているのでそれを使うとよい。


反対の手で泌尿器を腹部方向に倒し加減にして、尿道からゆっくりとセルフ・ カテーテルを素手で挿入する。

尿道は曲折しているので途中で詰まった感触を手首に感じるがここでもう一度 ゆっくり挿入を続ける。

尿道括約筋を押し分けて膀胱内にカテーテルが侵入すると、肛門括約筋もゆるんだ感じがしてカテーテルが膀胱内に達したことが感じられる。


カテーテルが十分にはいったら、尿袋を用意してキャップをはずす。キャップをはずすとすぐに尿が出ることがあるので、シーツに失禁しないように注意する。

キャップはベッドの上に置いてしまう。特に、気を使う必要はない。


「チョロチョロ」とカテーテルを通して、残尿が膀胱から出る。自然に出るのが止まったら、下腹を叩いたり押したりする。

「グシュッグシュッ」という音。

これでオシマイ。残尿の「量と色と不純物」に注意するのを忘れない。


カテーテルを抜いたら、尿を先に始末する。カテーテルは水洗いをしてケースにもどす。

導尿後なで、尿袋はつけない。失禁の恐れもないし、集尿器をつけている時間が 長いので、この時ぐらいフリーで良い。

食事を終えたころには、よく乾いているだろう。


「ツツツツツツツ、ツツツ、ピッ ウィーン」ECSでベッドをあげる。程よい 高さで止め、食事を取る。


【尿管理 ⑤導尿 (2)セルフ・カテーテル】

カテーテルは、富士システム㈱の「セルフ・カテーテル」で行う。

材質は、人体に影響のないといわれているシリコン樹脂製で、煮沸に耐える。

透明なケースには、黄色のリバノ-ル系の消毒液が満たされている。消毒液は常備薬と一緒に病院で処方してくれる。

セルフ・カテーテルを使うにあたっては一つの経緯があった。


入院中は、ネラトン系のゴム質のカテーテルを使用していたが、手間がかかって自宅向きではなかった。

ネラトン質のカテーテルは、潤滑剤にグリセリン液やキシロカイン・ゼリーを 使用したり、使うごとに煮沸や滅菌などの心配もしなければならない。

セルフ・カテーテルは、その手間を省くように考案されたものだ。


しかし簡単に利用できる反面、衛生上に問題があるとも言われおり、医師とも看護婦とも議論した。

「果たして本当に信用ができるのか。」

「衛生上、感染などの心配はないか。」

「自宅での導尿は、病院の方法では無理か」


カンファレンスの結果、一試してみることになった。セルフ・カテーテル を使用して何でもなければ、以後継続する。

もし人体に不都合が生じれば、すぐに止め。以前の導尿方法に戻す。入院中に ならば、対策を立てやすい。退院後に、不都合が生じるのは危険だ。

徹底的に話し合い、セルフ・カテーテルを使うことになった。以後、不都合が 生じたことはないので、退院後の現在もつかっている。

しかし、これで心配がなくなったわけではない。頚椎損傷は、膀胱や残尿にいつも気を配る必要がある。


〔補 足〕

セルフカテの製造元は富士システムズ。明星医療は小売もしてくれるので、送料を負担すれば、電話などで購入を希望することもできる。

関東労災まで足を伸ばせるなら、リハビリ診療科(本多部長)の外来で医師と相談の上、その場で求めることができる。

相談だけなら、泌尿器科(ウロ)でものってくれる。


    品 名 「セルフカテ」自己導尿セット 男子用フック付

    製造元 富士システムズ(株)       実用新案出願中

    医用シリコーン製品 サイズ外径4.0 カタログ No.0151406

    小売価格      2000円/1本  1987年10月現在

    富士システムズ(株)

     本   社  〒113 文京区湯島2-31-25

                TEL : 03-814-3161    FAX : 03-814-3167

     大阪営業所  〒540 大阪市東区釣鐘町1-17

                TEL : 06-943-8404


     明星医療(株)〒246 横浜市瀬谷区相沢7-39-4

                TEL : 045-302-6738


【尿管理 ⑥痙性膀胱】

頚髄損傷者は、自分の意思で尿を出したり、我慢することができない。しかし、訓練(膀胱訓練)をすると、一定量以上の尿が膀胱に溜まると反射で膀胱が収縮して、自尿を出すことができるようになったり、トリッガー・ポイントを見つけてそこを力一杯、押して刺激を与えると膀胱が収縮するようになる。


収縮が始まると、心臓の動悸が激しくなりドキドキする。体温が一気に上がって、軽い汗をかく。頭に血が昇り、鼻の通りがよくなる。

更に、膀胱の緊張が高まる。尿道括約筋の緊張度より膀胱の収縮する力の方が強くなると尿道括約筋が緩んで、自尿が出る。

この訓練によって、尿を出せるようになった膀胱を「ケイセイ膀胱」と呼ぶが、この膀胱の排尿は完全ではない。残った尿を残尿と呼ぶ。


【尿管理 ⑦残尿】

頚髄損傷者の排尿は必ずと言っていい程、尿が残ってしまう。これを残尿というが、この残尿が不都合のもとになる。

脊髄損傷者は特有の菌を持っていて、膀胱の中に残尿があると、膀胱がダムとなって尿の上ずみだけが排泄される。ダムの底が菌の格好の住みかとなっているのだ。

この状態は、尿を白濁させ、発熱、睾丸炎などの原因となる。しかし、膀胱が空っぽになれば何も問題はない。だから残尿はできるだけ減らさねばならないし、導尿も必要になる。


尿濁も体調の良いときは差し迫っての問題はない。睡眠不足や疲労。栄養のバ ランスや生活のリズムが崩れたりするとその菌が活動を開始する。発熱したらま ず睾丸炎を疑う。


【尿管理 ⑧尿と体調】

残尿の量や色で体調を知ることもできるが、尿全般にも言える。


1.量

一日の尿量は1500cc~2000ccである。体調が安定していれば、飲んだ分が尿として排泄されるので、尿量の出具合によって胃腸の調子を知り、「便」の硬さを予測することができる。


腹具合が悪くて便がゆるく(軟便)なれば、尿量は減る。逆に下痢止めなどを飲み過ぎて便が硬くなり過ぎると、尿量は多くなる傾向がある。だから、飲んだ量にたいして尿量が多ければ、便が堅くなれば排便のタイミングが遅くなることが予測でき、逆に尿量が少なければ、便がゆるくなれば排便のタイミングが早くなるだろうことが予測できる。


2.色

色の加減で水分摂取量の多い少ないが解る。適量ならば、俗に言うションベン色、薄い黄色、レモン色である。飲み過ぎると、色が薄くなって透明色になる。飲み方が足らないとオレンジ色、ワイン・レッドになる。

用を足すということは、身体にある「いらないもの悪いもの」を身体の外に出すということで、普通に食べて普通に生活をしていれば必ず必要なことである。

日々同じ生活をしていれば、一日に出る「いらないもの悪いもの」の量は、そんなに変わることはない。だから飲み方が少なければ、色は濃い。多ければ、色は薄い。


カゼなどで発熱した場合は、身体が水分を欲しがるので「水」を多めにとる。但し、残尿の為に発熱した場合は、1回、1回の導尿をしっかりやることを確認するのが肝要。


3.不純物

導尿でとった尿袋を見ると、浮遊物が浮くことがある。ベッドに寝ても車椅子に乗っても、身体の向きはたいして変わらない。  膀胱の、不純物が溜まる「ダムの底」の部分はいつも同じところだ。残尿のなかにある比重の重 いものは底に沈んで沈殿し、やがては堆積する。最悪の場合は、膀胱結石になる恐れもある。

故に導尿も必要で、悪いものが溜まったら出さなきゃいけないが、悪いものは溜めないのがモア・ベターである。


手段としては、車椅子に乗っている日には、「なるべく」動き回り、導尿時の浮遊物がひどくなったら、「とにかく」動き回ることしかない。この「動く」という動作がかなり膀胱にはいい。

少しでも、「動く」と「動かない」では明らかに遠い。尿獨の面でも敏感に反応する。

「ボトルに水を入れ、手でフタをして、上下にゆすってボトルの中を洗う」みたいなことをイメージすればいい。

ベッドの日は、動きようがないからどうしようもない。その分、動ける日に動けばいい。



朝食後の部

第三幕 集尿器の準備

朝食が終わったら、「集尿器」の装着である。食事を取っている間に、泌尿器がよく乾いた。「シワシワ」。準備OK。

夜の導尿まで集尿器を付けっぱなし。場所が場所だから付ける前には、乾燥している方がいい。


【尿管理 ⑨頚損用オリジナル集尿器の装着】

集尿気は、手製のものを使っている。サック(かぶせ)の部分は、ウロー・テック。コンドーム・タイプで、くる。クルと捲かれている。これを丁寧に泌尿器のもとまで伸ばす。

この時、あんまりピッタリつけない。尿道口とウロー・テックの流出口が近いと、尿の流れに余裕がない。逆流をおこして尿漏れとならないように「遊び」をとる。


尿帯は、尿袋の時に使用したものと同じ。伸縮包帯を使う。先っぽだと抜けてしまう可能性があるので、なるべく根深い部位まで結わく。また、ユルすぎても抜けるし、きついと腫れてしまうので加減を覚えるまでが大変だが、これは慣れるしかない。

コツとしては、色々な長さの尿帯を試してみて、うまく加減のできた尿帯の長さを目安として、以後はそれにならう。


ウロテックの装着ができたら、ガラス管のジョイントでつながっている「ホース」をタンクに差し込む。タンクは一日の尿量を畜尿できるだけの容量(2ℓ)がある。

ワンポイントとしては、尿をタンクまで流す「ホース」の重さが泌尿器にかからないように、ホースをベッドごと紙テープでとめる。


集尿器のセットが終わったら、下掛タオルや掛け布団を掛け直して、スタンバイ・オーケー。お袋は、二階へもどる。今度は、自分の仕事の身支度である。


オリジナル集尿器

1.材料

「(1)ウロテック」

「(2)膀胱洗浄のつなぎ用ガラス管」

「(3)ゴム管」

「(4)ビニール・パイプ」

「(5)点滴用のエアー針」

「(6)2ℓポリタンク」 の6点。


2.加工

 ポリタンクにホースに差し込む「穴」を開けるだけ、後はパーツを組み合わせるだけで作ることができる。


3.パーツ構成

   装着部    「(1)ウロテック URO-TEC」 内径7.0mm

          「(2)ガラス管」        6mmゴム管ようつなぎ

   ホース部   「(3)ゴム・チューブ」     外径9.0mm 内径6.0mm

          「(4)ビニール・パイプ」    外径8.0mm 内径6.0mm

          「(5)エァー針」        点滴用のエァー抜き針(タンク部)

          「(6)2ℓポリタンク」      直径8.0mmの穴を加工



第四幕 集尿器による排尿

集尿器のセッテイングハは完了。これで、夜までそのまま。

「ガッ、ゴーンッ」三度、エレベータの降りる音。お袋が、仕事に出かけるのだ。ユニフォームを着ている。

「いいね?いくよ。」とお袋。もう、することはないかと聞いているわけ。

「集尿器は、ちゃんとやった?」と尋ねる。やはり、一番気になる。

「オッケーよ。」何故かカタカナ」の答え。

「ンッ。」返事が不精。


一度、仕事に出ると夕方6時くらいまで帰って来ない。不規則である。

お義姉さんは5時半ぐらいまで。兄貴は、JR東日本で車掌をしているので仕事は不規則。オヤジは大工だから夜までには、帰ってくる。それまでは、一人。

弟もいるが、川越市にある会社の単身者寮に入っていて、2週に一度ぐらい山のような洗濯物と供に帰ってくる。


多少の心配はあるが、退院して一人の時間が持てるようになって良かった。

排便は、夕方以降にでるようにタイミングを計って下剤を飲んでいる。これに加えて、排尿は日中から夜まで、放って置いても大丈夫なようにセットしたわけだ。


後の細かいケァーはECSにまかせる。テレビのチャンネル操作、ビデオ操作、ベッド操作、インターホン応答、ドアの開閉、電話番、室温調整などはできる。

ベッドの日は、ワープロも打ち込めないし本も読めないから比較的ヒマ。電動車椅子に乗っている時の疲れを取る為に、一日中寝ていたり、ビデオに撮っておいたものを見たりする。電話連絡も、なるべくこの日にしている。


お昼、「笑って いいとも」を見る。ウキウキ・ウォッチング。日代わりメニューのゲスト・コーナー。テレホン・ショッキングがいい。トーキング・バラエティーは、いろいろな人の話が聞けて面白い。

12:50 1番にチャンネルを変える。NHKの朝ドラの再放送を見る。

13:00 1時のニュース。定時ニュースはいつも生真面目。最近は、黒田さんがいい。宮崎緑は婚約した。

13:15 徹子の部屋。ゲストによって見る・・・・。


ベッドの日は、1時から2時くらいにかけて、始めの自尿が出る。これにより早ければ、便は硬いので、便の出は遅いだろう。遅ければ、便は軟らかいので、便の出は早いだろう。


【尿管理 ⑩排尿プロセス】

膀胱に尿が溜まってきた。何やらモジモジしているような気がする。一定量以上、尿が溜まると膀胱が収縮を始めるが、腸内にガスが溜まっていると収縮しにくいようだ。


「ビリビリッ、ビリビリッ。」左足の土踏まず辺りが痺れる。その痺れが、土踏まずからフクラハギ、太ももの裏側へと伝わる。

腸にガスがなければ、膀胱が収縮して直ぐにでも自尿がでるハズだが・・・。


「ドッキ ドッキ。」心臓の動悸が激しくなる。

体温が一気に上がって、軽い汗をかく。頭に血が昇り、鼻の通りがよくなる。

更に膀胱の緊張が高まるが、中々出ない。痙性が強い。


「やっぱりガスが溜まっている。」 尿道の括約筋は、肛門の括約筋と「8」の字型につながっているから痙性で肛門が閉まると尿も出にくい。


汗がダラダラと出る。これは、辛い。尿閉だったら、やばい。


「スーッ ハーッ」「スーッ ハーッ」深呼吸してみる。


まだ、出ない。暑くてたまらない。

「ツツツツツツツ、ツツツツツツツ、ピッ。」暖房をけす。


「スーッ ハーッ」「スーッ ハーッ」

90秒後に、「ピッ!」と電子音。待機時間が経過した。ランプが準備位置に戻る。


「スーッ ハーッ」「スーッ ハーッ」


「ツ、ツ、ツ、ツ、ピッ。」「ツ、ピッ」テレビを消し、ビデオを消し、ビデオもパワーを落とす。音声入力がカットされ、ツーウェイのスピーカーも音がしなくなる。


静寂。時折、表を自動車が通り抜ける。廃棄音とエンジン音でわかる。


眼をつぶり、呼吸を整える。「スーッ、ハーッ」 「スーッ、ハーッ」

リラックスして、大きく。「スーッ」      ゆっくり。「ハーッ」

            「スーッ」           「ハーッ」

            「スーッ」           「ハーッ」

「気」を集中させる。おなかに溜まっているものを全部吐き出す感じで、「スーッ、ハーッ」「スーッ、ハーッ」。


呼吸を使い分ける。頚損には、難しい。耳の神経は、自尿の出る音を持っている。

    「スーッ」  「ハーッ」

    「スーッ」  「ハーッ」

「ブスッ、ブスッ」徐々にガスが抜けていく。

ガスが抜ける度、「グッ、グッ」と膀胱が収縮する。何となく・・・。


「ン!かな?」膀胱の収縮する力が尿道の括約筋の絞まりより強くなると、尿道括約筋を押し分けて、自尿が出る。と思っているのだが・・・。


「ズズーッ、ズズーッ」刺したエァー針から空気が抜ける音。


やっと、尿が出始めた。一安心。一発目が肝心。でも、今日はあまり勢いがない。

勢いの良い時は、最初と最後に針が鳴く。最初に「クォーッ」と鳴り切れ目なく出続ける。順調に放尿しているとそれ以上、「音」はしないで、最後に「ズズーッ、ズズーッ」と鳴る。

今日みたいに、チンタラ出る時は最初から最後まで「ズズーッ、 ズズーッ」と 鳴る。明らかに違う。


放尿に合わせて、深呼吸する。

ゆっくり、大きく。「スーッ、ハーッ」「スッ、ハァーッ」

吐ききって、呼吸を止める。意識的に膀胱を収縮させようとする。

苦しくなったら、またゆっくりと吸う。「スーッ、ハーッ」。

自尿が、出終わるまでこれを繰り返す。

放尿感はないが、最初に「何となく」感じる。具体的には、エァー針の音が教えてくれる仕組み。


【尿管理 ⑪尿流システム】

尿は、一度ウロー・テック内に溜まってから、徐々に流出口から出る。

ホースの「穴」はあまり太くないから、一定の流出量以上に尿が出ると、逆流や尿漏れを起こす危険がある。

これを防ぐために、ウロー・テックをピッタリ付けないで、余裕を持たせるのがポイント。ウロー・テック自体が「遊び」のよゆうな「仮の畜尿部」になる。

尿は、ホースを伝わり、ベッド・サイドに据え置いたタンクに畜尿される。


自尿が出きると、「音」も鳴らなくなる。心臓の動悸もおさまり、汗も引く。

落ち着いたところで、ストローに息を吹き込む。ECSでテレビとビデオをつけ暖房を入れる。

日中、こうして何度か出る。


【尿管理 ⑫エァー針】

エァー針には、放尿の「合図」のほかに、もうひとつ効用がある。

エァー針を刺して空気を抜いてやると、尿流がよくなる。尿が流れないと、「尿の重み」はそのままウロテックが泌尿器に「吸い付く力」になる。引っ張られる感じ。

泌尿器はデリケートで、長いあいだ「吸い付く」と、圧力差により充血して腫れたり、ひどくなると血がにじむこともある。

しかし、適度の「吸い付き」も必要で、程よい「引っ張り」がジワジワとした「尿漏れ」を防ぐ。

バランスの良いポイントを見つけ、「吸い付き」が強すぎず、弱すぎないように刺すのがコツ。



第五幕 集尿器のメンテナンス

夕方の6時を過ぎると、みな帰宅を始める。

最初に義姉さん。続いて、親父かお袋。兄貴は不定期だ。

みな帰ってきても、集尿器には目もくれない。万全であることがわかっているからだ。症例自身が、不都合を感じて声に出せば、チェックする。


集尿器を外すのは、深夜。就寝前の洗面どきである。外した後は、二回目の導尿もやる。


メンテの基本は水洗い。風呂場で、ウローテックに水を入れ、水風船のように膨らんだら、口をつぼめて持ち上げる。これを数回、繰り返す。

水洗いが終わったら、ガーゼを丸めてウローテックに差し込む。所定の位置にかけ、一晩こうやって乾かす。

翌朝、乾いたらガーゼを抜いて、クルクルと捲き戻す。


ウローテックとチューブはゴム製なので、弾力性がなくなると破けたり、ボロボロになる。

オリジナルは、パーツの組み合わせなので、消耗品の交換は簡単で、ホースを変えるだけで電動車椅子での使用にも耐える。


4.既製品 考察

脊髄損傷者用の集尿器ならば、ぺニックなど、何種類か市場に紹介されているが、頸髄損傷者の集尿器というと数もなく、万全をきしたものは皆無に等しい。

一応、メジャーぽいものには、ユニボン、スカット・クリーンなどが有名だが、介護向きでいずれも頚損向きではない。


ユニボンは、腰を上げて固定用のベルトをまわしたり、装着に手間がかかるので介助向きではない。但し、子供ならば介助も楽だろうし、畜尿容量も子供に対応できるように作られている。


スカット・クリーンは、老人用介護機器、あるいは、手の利く脊損者用の採尿器と考えたほうがよい。

いつも、付けておくのでなく、必要なときに付けて用を足すもので、一概には云えないが、排尿の感覚がない脊損、頚損には、あまり向かない。寝たきりのお年寄りに適しているものと考えられる。


ぺニック これは、脊損者がタレ流しをカバーする為に発明したもので、頚損には機能的ではない。元々、手の利く者が「溜まったら、まとめて捨てる」ように作ったもので、満タンの度に処理する必要がある。

したがって手の利かない頚損者向きではなく、更に畜尿袋はズボンの中に収めておく構成になっているので、細かい処理をしないと失禁の心配もある。


ユリサーバー・セット ベッドサイド用の集尿器としては優れている。とてもシンプルな構成で、サックがコンドーム・タイプなので装着に手間がかからないのがよい。

病院仕様がモデルで、畜尿部がビニール・バッグ(採尿袋)になっている。バッ グは、真空で、自尿をすべて採集してくれる。尿漏れは、起こらない。


〔補 足〕

〔病院仕様〕全身麻酔の後は尿がでなくなるので、留置カテーテル・バルーンを尿道口から直接膀胱まで入れて、尿をベッド・サイドのビニール畜尿バッグに誘導する。

ユリサーバーは、この病院仕様を改良した構成で、バルーンの代わりにコンドームに似たサック、ユリサーバーを採用している。

真空バッグは、「ベッドサイド」または「布団横に備え置き」には有効だが、尿バッグの形から言って、電動車椅子には「ブラブラ」して向かないだろう。


ユリサーバー・セット  総合セット¥2980

製造販売 相模ゴム工業(株) 〒157 世田谷区成城2-34-13 TEL : 03-417-0811


5.頚損用集尿器の条件

既製品に頼ると、どうしても万全な物は期待できないので、オリジナルを考え、自作して使用している。


頸髄損傷者用の集尿器に必要な条件としては、装着が簡単で、一度付けたら半日以上の間は手間をかける必要がないこと。

その為に、一日分の畜尿の用量を持たせることと、失禁の心配がないことが前提となる。

更にベッド・サイドだけでなく、電動車椅子にも備え付けられるように多用途タイプを考え、誰でも簡単に作れなければならない。


6.頚損用オリジナル集尿器の効用

以上を条件にオリジナルを作ってみた。装着部、ホース部、タンク部の分解、組立ができ、ベッド・サイドにも電動車椅子にも使用できるタイプである。

装着部のウロテックは、ジョイントのガラス管に差し込むだけで、交換がしやすい。ウロテックは消耗品だが、水洗いなどをして数回の使用に耐えうる。

ウロテック+ジョイントという装着部に尿袋をつけた使用方法もある。


ホース部は、ベッド用と電動車椅子用の長さの違うものを2本用意して、用途に合わせてホースを選ぶ。コンバーチブル。


タンク部は、ポリタンクにすることでベッド・サイドに置くこともできるし、タンクをブラ下げる専用の袋を作って、電動車椅子に備え付けることもできる。

専用袋に関することは、第二段階 生活スタイルその2電動車椅子に後述する。


7.オリジナル作成

「装着部」は、ウロテックとホース部のジョイントにガラス管を差し込む。


「ホース部」は、ゴム管にビニパイをねじ込んで作る。

およその寸法は、ゴム管15cm、ビニパイ5cm、ゴム管1m数10cm、ビニパイはタンクの深さぐらい。

長いほうのゴム管はベッドの高さによって違うだろうから、実際に作りながらちょうど良い長さを見つけることになる。

ねじ込む部分は2cmもあれば十分で、きつかったらグリセリンや石鹸水をつか うと入りやすい。

できたホースは、尿流を助ける為に「エァー針」を刺す。これがオリジナルの「みそ」!尿漏れと腫れを防止する。

指す箇所は、短いゴム管のビニパイよりで、ゴム管から指して針の先がビニパイに潜るように刺す。ビニパイに潜さないと、ゴム管を突き抜けてケガをする心配がある。


「タンク部」は、ホース部に差し込む「穴」をちょっと加工する。

キャップの真ん中にドリルで穴が開けられれば、モア・ベターなのだが、硬質プラスチックはかなり硬いので、ポリ本体の最上部に穴を開けても差しつかえはない。熱でも溶けるし、刃物もたつ。


8.材料の入手

関東労災に医療器具を卸している明星医療(株)から取り寄せることができる。

薬以外は何でも取り扱うので、他の医療用品が欲しい時でも相談してみると良い。電話でも注文を取ってくれるが、送料は買い手の負担。


病院卸業者  明星医療(株) 〒246 横浜市瀬谷区相沢7-39-4 TEL : 045-302-6738

(1)ウロテックURO-TEC  50ヶ ¥7,500

製造元 佐奈医科機械工業  〒113 文京区湯島2-17-13  TEL : 03-811-0232

(2)ガラス管(6mmゴム管用) 1ヶ ¥60

医療企画に合わせて、ガラス工場に発注。

(3)ゴム管          ¥200/1M

(4)ビニール・パイプ       ¥50/1M

(5)エァー針(点滴セット又は1セット100本)*価格は変わることもあるので注意。

(6)手付きポリタンク(2ℓ)    ¥*** 市販 運動用品店ハイキング用手付きポリタン


〔参 考〕

ゴム管、ビニール・パイプは関東労災のPT技師室でも手に入れることはできる。ゴム管、ビニール・パイプともに\300/1M

分配所 関東労災病院 PT技師室

     〒211 川崎市中原区木月住吉町2035 Tel 044-411-3131



第六幕 尿閉塞

集尿器もオリジナルを考え、ベッドでも電動車椅子でもともに利用できるよう にしたが、肝心の体調を崩してしまった。尿閉塞である。


病院に行くと、バルン・カテーテルを留置。2週間たったら、抜けという。

尿閉塞は、頭が割れんばかりの痛さ。たまたま、家族のいるときで助かったが、これが日中、誰もいなかったらと思うと「こわくて」たまらない。

尿は、カテーテルで出しても、自尿で出ても何らかのリスクはある。そのリス クを承知の上でバルン・カテーテルを留置することにした。


【尿管理 ⑬バルン・カテーテル】

バルンカテーテルは、シリコンの18号を使用。交換は、自宅で、月に1度。滅菌対策は、明星医科機器から滅菌手袋を取り寄せ、使用している。

初めは、準看護婦の資格を持つお義姉さんに頼んでいたが、お袋も導尿でセル フ・カテーテルを扱っていたので、バルン・カテーテルの交換もできるようになった。


バルン・カテーテルは、一見すると、取り扱いがとても楽に思えるが、細菌感 染や膀胱洗浄をする必要があるなど、管理が難しい面もある。

膀胱洗浄は、自宅でできるように、100CC耐熱ガラス浣腸器を使用してい る。滅菌対策は、水から5~10分程、煮沸する。洗浄液も水道水を煮立てたも のをつかっている。


自尿からバルン・カテーテルにかわると、水分の取り方も変わる。自尿の時は、 夜間の尿失禁をさけるため、水分を控え、日中に比較的多く飲むようにしていた が、バルン・カテーテルだと失禁の心配なく飲める。

しかし、冬場、暖房にあたってばかりいると、身体の水分が取られて、尿が濃くなって、濁りだし、詰まることもあった。

これは、バルン・カテーテルを留置しているのにも係わらず、膀胱洗浄を怠っ ていたからである。

膀胱洗浄の頻度は、「濁ったら、やる。」とのことで、人により2日に1度だっ たり、3日に1度だったりする。「砂みたいなもの」が出たら、毎日やらなけれ ばならないとのこと。大変である。


そこで、導尿的効果を期待して、50ccプラスチック・注射器を用いて、朝、晩と膀胱に残っている尿を抜くことにした。残尿量や色を検討する。

これは、一般的な医療ではないので人には、すすめられない。


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