使用している電動車椅子は,今仙技術研究所(愛知県犬山市)のイマセン82PRである。前輪駆動で、1m40cmと車高が高く、まるでダンプカーのようだ。これをベースにいくつかの特種仕様をほどこしている。ここでは、特種仕様を中心にレポートしてみる。
車幅、W.650mm。 高さ、H.1400mm。
奥域、L.1050mm。 リクライニング時の全長、RL.1750mm。
通常、C4の頚損で全麻痺というと「バックレスト」を付けて、レバー操作は、アゴ。すなわち、「チン・コントロール」。各機能の入力は「呼気」仕様というのが当然であったが、症例は違った。
元々、利き手である右腕が、C5レベルの残存機能があったため、コントロール・レバーは「ハンド」を選び、各機能スイッチの操作はマイコン・セレクターを使用することになった。
マイコン・セレクターは、元々、C3以上のレスピレーター使用者で、呼気でもコントロールできないという自衛隊病院でのケースを真似たものである。
現在では、EMC-37BCという名で、マイコン・セレクター仕様の電動車椅子が量産化されて、呼気コントロール車の後継機種となっている。 この仕様変更により、頚損などの起立性低血圧の心配のある者が、慣れない呼気で貧血をおこすという矛盾が改善された。
お袋が仕事に行ってしまうと、ベッドの日と同様に一人である。午前中は、ワープロ通信で、IDを持っている「局」にアクセスするのが常である。
電源を入れ、マウス・スティックでフロッピーを押し込み、プログラムを起動させる。(詳しくは、「Ⅶマウススティック」にて後述する。)
だいたい、昼までに書き込みをチェックしたり、前日書き上げたものをUPしたりする。場合によっては、ボードを覗いた後、回線をつなげたまま書き込むこともある。他には、ワープロを打ったり、書見台で本を読んだりする。
「お昼休みだ。ウキ、ウキ、ウォッチング。」テレビが、お昼を告げる。いい加減にワープロを打つのをやめて、テレビを見るのが習慣である。くわえているマウス・スティックで、ファイルに『終了』をかける。電源は、落とさない。不精ったれなのである。
電動車椅子で移動するには、まずは「耳で」電源確認。電源ランプは、作業台に隠れて、見えないのである。
頭で、ヘッド・レスト右を「トン。」
「・・・。」オート・スキャンしない。メインの電源が、切れている・・・。
今度は、ヘッド・レスト左を「トン。」
「ファッ。」と電子音。電源「ON」。マイコン・セレクターの赤いランプ『READY』が点灯する。
改めて、ヘッド・レスト右を「トン。」
「ポッ、ポッ、ポッ、・・・。」オート・スキャンがスタートする。
電動車椅子の機能は、6つ。リクライニングUPとDOWN、ブレーキのON、OFF、スピードのHIGHとLOWである。
折角ハンドリングができても、各機能のスイッチ動作ができないのでは、意味がない。
左手は、肩が亜脱臼しているので、二頭筋の収縮はあるが、全く用をなさない。
また、右手は、ディバイスでコントロール・レバーに固定されているので、スイッチ動作は無理である。
そこで、「頭で」スイッチ動作をしようと言うのがマイコン・セレクターである。
マイコン・セレクターの構成は、頭部入力装置と表示板、8ビットの記憶素子からなる。入力方法は、1入力。つまり、ミニECSなのである。
「・・・ポッ、ポッ、。」リレーが5番目のスピード『HIGH』にきたら、間髪入れずに「ト、トン。」と、ヘッドレスト右にある頭部入力装置(エァー・フロー)を、頭で2回、叩く。
「ツ、ピッ。」『HIGH』のランプが黄緑からオレンジに変わる。この瞬間、テレビにノイズが走ることがある。干渉しているのである。
頭部入力装置は、エァー・ブロー。元は、カメラ・レンズのホコリを払う道具だ。このエァー・ブローからエァ・チューブを通して、表示板の圧感知センサーへと入力がなされる。
このチューブは、ブローの噴出突起穴から抜けないように、細工してある。「忘れた頃に抜けるから、かえって困る」とクレームをつけたところ、デカ・ホチキスのタマ、1ピンの片方を、ニッパで鋭角に落とし、エァ・チューブごと、突起穴を「くし刺し」にした。
余った両端は、そのまま押し曲げて、エァ・チューブにからませ、その上からビニール・テープを巻き付けてある。見た目にも、悪くない。こういう対応は、嬉しい。
エァー・チューブの問題は、つぶれると入力がなされないこと。ただの1度であるが、入院中のこと。食堂でリクライニング・ダウンしたら、後ろにテーブルがあった。
テーブルに気付いてダウンを停止させると、丁度テーブルの淵にエァー・チューブが挟まって、以後の入力を受付けなくなってしまった。
いくらブローを押してエァーを送っても、センサーが圧を感知できない。こういう時は、情けのないものだ。
『HIGH』の入力を耳で聞き取ったら、次は『BACK』を入力する。症例は、C4だが、右腕は、三角筋などの肩周囲の筋力があるので、コントロール・レバーを前方に押すことはできる。しかし、引くことはできない。
だから、前進を後進に切り替える回路がいるのである。これを、予備に用意されているマイコン・セレクターの7番目に組み込んでいる。
この『BACK』回路は、スピード『HIGH』か『LOW』と、ともに入力する。
エァー・ブローを、「トン。」と叩くと、表示板のランプが順々に点灯していく。
「プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、」7つ目で、
「ト、トッ。」と2つ入力すると、
「ツ、スチャッ」と、『BACK』が点灯する音がする。
試しに、チョイとコントロール・レバーを前に倒してみる。
「ウィーッ、・・・。」気持ち電動車椅子が下がる感じ。
入力は、できたようである。
やや左に、コントロール・レバーをキッて、前に押すと、電動車椅子は左後方に下がっていく。
テーブルのカゲから、表示板が見え始める。
表示板は、12cm×9cm×5cmのシャーシ。ほとんど手作り感覚で、文字もワープロで打ち、テープでとめてある。開発車であることが、うかがえる。
電動車椅子に乗った側から見て、向こう側には、元々あった電源スイッチを使えないようにした後があり、こちら側には、エァー・ブローを差し込むジョイントが飛び出ている。圧感知センサーが、内臓されているのである。
シャーシを開けると、ボリュームが2つ。クリック音の音量調節とオート・スキャンの速度調節である。音量、速度、ともに初期設定のまま。
速度は、そろそろ速くしてもいいかなと思っている。音は、室内では十分であるが、外に出ると車などが通ると聞こえなくなることがある。
上面には、円状に、『READY』ランプと各表示ランプ7つが配置されている。
各機能表示ランプは 〔1.リクライニング・UP〕
〔2. DOWN〕
〔3. ブレーキ・HIGH〕
〔4. OFF〕
〔5. スピード・HIGH〕
〔6. LOW〕
〔7. BACK〕の順。
外に出ると、太陽光線が強く、日影でないとランプの点灯がわからない。
エァー・ブローを、頭で1発目を「トン。」と叩くと、各機能を表示するランプの点灯が自動的にリレーを始める。オート・スキャン(自動走査)である。
この自動操作中、希望する機能のランプが点灯している間に、間髪入れずに2回、エァー・ブローを押してやると、その機能が選択・実行される。
2発目が、機能の「選択」で、ランプのリレーが止る。3発目が、「実行」。ランプの色が、黄緑からオレンジに代る。
ランプは、3本足の発行ダイオードで、そのうち1本は共通のマイナスで、スイッチが入ると足が1本切り替わって、色が変わる。ランプの止る待機時間内に2回目を押さないか、1回しか押さないと、先の入力はキャンセルされて、ランプは『READY』に戻ってしまう。
「ウィーン」と電動車椅子が下がる。前輪駆動なので、ハンドルのキリ方は、自動車と同じである。普通免許を持っていて良かった。
電動車椅子が部屋の隅まで下がったら、今度は前。コントロール・レバーを戻すと、上半身が揺れる。
その揺り戻しを利用して、ヘッド・レストの左にある頭部電源スイッチを「ト、トン。」と2回叩く。
「ツトッ。」「ファッ。」
電動車椅子の電源が、切れて、入った。リセット効果。頭部電源スイッチには、こういう使い方もあるのだ。
更に、エァー・ブローを押して『HIGH』を入力し、右前方に出て、ゆっくりとベッドに横付けする。
「ウィーッ、・・・。」
頭部電源スイッチ、これをメイン・スイッチとして、増設した。元のメイン・スイッチは、マイコン・セレクターに設置されていたが、スイッチ動作ができないことから、頭でスイッチ動作のできる部位(ヘッド・レスト)に内蔵した。
マイコン・セレクターにメイン・スイッチが有った時には、人がチョット当たっただけで切れることが度々。電動車椅子が動いて何かの出っ張りに「トン。」と当たってスイッチが切れて、立ち往生ということもあった。
現在では、元のメイン・スイッチは利かないように、スイッチ・カバーを外してある。これは、相互操作ができないからで、元のメイン・スイッチをONにすると、頭部電源スイッチは利かなくなる。
また、この頭部電源スイッチによるリセット効果は、マイコン・セレクターが暴走した時に、特に有効である。
コンピューターの類は、一定の電圧内で正常に可動する。電動車椅子の動力はバッテリーであるから、電圧が落ちると、暴走することがあるのである。
コンピューターの暴走には、いくつかのタイプがある。以下の場合、特にリセッット効果が期待できる。
『BACK』とスピード『HIGH』あるいは『LOW』が入力されていて、『HIGH』あるいは『LOW』を解除すると、
1.全機能のランプが発行して、クリック音がハウリングする。この場合、次の入力を受け付けない。
この他、同じ条件のもとに、
2.『HIGH』あるいは『LOW』を解除すると、『BACK』も解除されることもある。この場合、次の入力を受け付けるが、『HIGH』あるいは『LOW』を再び入力すると、『BACK』も点灯することがある。
また、上の2例は、充電すれば、バッテリーの力を回復するが、どんなに充電してもバッテリーそのものが力を失うと、モータの磨耗とは別に、リクライニング『UP』しなくなることがある。
3.リクライニング『DOWN』を選択、実行すると、ブレーキ・ブザーが鳴って、フル・ダウンする。途中、リクライニングの解除も利かないし、次の入力も受け付けない。
こうなると、バッテリーを交換せざるをえない。予め、容量の大きなバッテリーを使用することが寛容だろう。
使用バッテリーは、EB35。ゴルフ・カートやリリーフ・カーに使用している容量の高いものである。パワーが落ちてくると、モーターの駆動時に警戒ブザーがなるようになる。
充電は、使用前夜。満充電になると、自動で切れる。バッテリー液がLOWレベルを下回ったら、強化液と補充液を入れるようにしている。
「...、ウイ―ン。」微妙にカジを取りながら、電動車椅子をベッドに横付けする。真ん中当たりまで来ると、ストローが口許に来る。呼気センサーに差し込んでいるストローである。
電動車椅子の横付けは、ECSを使うためだ。電動車椅子に乗っても、ECSは使いたい。ベッドの背もたれもを上げ、その左端に呼気スイッチをセッテイングしている。
ポジションを取ったら、また、「ト、トン。」とメイン・スイッチを2回押して、リセット。
このメイン・スイッチとエァー・ブローを備え付けているヘッド・レストは、平枕である。凹型ではない。
通常、バック・レストの枕は「凹型」であるが、メイン・スイッチを内蔵する時に「平枕」となった。
平枕の左がメイン・スイッチ、右がエァー・ブローである。メイン・スイッチは、アンチ・ロック・タイプのプッシュ・ボタンで、シャーシごと平枕に内蔵してある。
内蔵のシャーシは、9cm×5cm×4cm。ドリルで、上面と外側になる側面に穴。上がメイン・スイッチ、横からはケーブルが出る。
平枕のカバーには、「コ」の字型にカッターで切った後がある。スポンジの代わりにシャーシが入っているのである。
だから、ヘッド・レストは平枕なのである。切った後が、木綿糸で縫ってあるのが、涙ぐましい。
よく見ると、縫い目の間隔が最初キツイのだが、後で広がっているところが、苦労をうかがわせる。
最近では、オーダーが多いので、枕のカバーにチャックを付けて、頭部スイッチを付けやすくしているとのこと。
エァー・ブローは、平枕右にある専用ポケットに入っている。
この平枕、中々に感じが良い。症例にとって、「凹型」のヘッド・レストの両脇は、逆に制限となる。平枕になってからだと、リクライニング・ダウンした時も頭の動きがフリーで首も楽である。
寝グセは変わりないが、横髪がウットウシクなくなったのは、何よりである。
リセットしたら、リクライニング・ダウン。
エァー・ブローを「トン」と叩いて、マイコン・セレクターを作動させる。「ポッ、ポッ、」とランプが2つ目の『DOWN』にきたら、「ツ、ピッ。」と間髪入れずに、2つ。叩き込む。
「ウイ―ン。」と機械音を立てて、バック・レストが徐々に倒れていく。
上目使いで天井を見、目でもダウンを確認すると、視線を右へと移す。ほとんど、無意識の習慣であるが、ベッドとの角度差を目視して、リクライニングの角度を随時確認しているようだ。
この時、頭は浮いている。リクライニングを途中で止めたかったら、エァー・ブローを「トン。」と押せばいいのだが、休んでテレビを見るのに中途半端なリクライニングはない。エァー・ブローを押さないようにする。メイン・スイッチを押しても、電源が落ちてしまう。
リクライニング・ダウンに伴い、制御ボックスが後ろへズレていく。これは、スライド・パックになっているのである。
コントロール・レバーの操作は、かろうじて、右手で行っている。握力が無くレバーを握ることも、またフックを付けてこれに引っ掛けてレバー操作をすることもできない。
そこで、手にデイバイスを装着して、レバーに手を固定しているのだが、リクライニング時にこれがネックになる。手が固定されているので、フル・リクライニングができなくなるのである。
そこで、リクライニングに伴い制御ボックスがスライドする機構が必要になった。
スライド・パックには、ボール・ペアリングが採用され、これをフレームに付 けたレールの上を滑る。ペアリング・パックは、滑りが悪くなったら、グリスをUPできるように、口が付いている。
左手は、アーム・レストに付けたポケットに入れているが、外れて落ちることが度々ある。(その後、左のアーム・レストにも簡易なスライド・パックを採用した。)
制御ボックスは、このベアリング・パック付アーム・レストの、右外側の前方にあり、やや内側に傾斜している。
少し外側の方が、筋力の弱い肩の力でも前方への操作がしやすく、左右のハンドリングは左よりも右へ倒す力が弱いので、右側に倒しやすいように傾斜させている。
また、コントロール・レバーの向こうには、あまりあてにならないバッテリー・ゲージと、その左に赤いランプがある。
赤いランプの点灯は、制御ボックスの通電を意味する。『HIGH』や『LOW』の入力の他に、ブレーキをかけたり、解除する時でも、点灯する。
ランプ点灯中、コントロール・レバーを倒すと、走行モーターが動くのである。
これに関連して、スライド・パックには、「ロック」されないという難点がある。
例えば、スピード『HIGH』あるいは『LOW』、またはブレーキの動作中に、スライド・パックを押されると、コントロール・レバーが前に倒れることになって、電動車椅子が動き出してしまう。
特に、『HIGH』などが入力されている状態で、電動車椅子の前に誰かいたとして、誤って、スライド・パックを押してしまうと、電動車椅子は前にいる人に向かって動くことになる。
手を離せば何のことないのだが、電動車椅子は前に出るので、スライド・パックを押した人は、更にコントロール・レバーを前に倒したことになる。どんどん、前に出てしまうのである。これは、中々回避できない。
こんな時にも、頭部のメイン・スイッチが有効である。「トン。」と平枕の左側を向けば、立ち所に電動車椅子は止るのである。
しかし、これはスマートではない。スロープの登りでも困るし、やはり今後スライド・パックをロックさせる機能か、あるいは制御ボックスのスライド・システムをリクライニングの機構に機械的に組み込むなどの対処が望まれる。
「ツタッ。」とバック・レストが止る。フル・リクライニングである。休んでテレビを見る時には、この姿勢が常である。
2つのスイッチが付いているが、枕は平タイプなので、凹タイプと違って頭の動きに制限を感じない。
夏は涼しげで、髪の毛の乱れも凹タイプ程ではなく、ウットウシクなくいい。冬場は、隙間が寒いのでオリジナルのカバーを被せている。
カバーは、ヒザ掛け約90cm×約60cm。
これを縦半分に織り、バック・レストの上端に合わせて、平枕を前と後ろに 挟むように回す。
そして、ヒザ掛けの上と「開き」の部分を縫えば、オリジナル・カバーの出来上がりである。
材質は、ポリエステル。これが、中々暖かい。
「タッ。」待機時間が終わり、ランプの点灯が「READY」に戻る。
「トン。」メイン・スイッチを切る。
フル・リクライニング時、電源が入っていた場合、何かの拍子にエアー・ブローに触り、『HIGH』や『LOW』に入っても困る。
右手は、ディバイスでコントロール・レバーに固定されている。
フル・リクライニング時には、レバーは後ろに引っ張られている。
ブレーキの『ON』、『OFF』がかかっても、走行モーターが動くことになる。
これは、危険である。
お昼のテレビを見た後は、電話をかけたり、本を読んだり、その時々である。
何をするにも、電動椅子を起こさなければ話にならない。
「トン。」とヘッド・レスト左のメイン・スイッチを押すと、 「ファッ。」と電源が入る。
「ツ、トッ、ピッ。」エアー・ブローを3回続けて押す。
表示板は、位置的に目では、確認できない。しかし、リクライニング『UP』は、 1番目にチューニングされているので、目や耳に頼ることなく、ただ3回、入力 動作をすればいいのである。
「ウイーン。」とリクライニング・アップである。気がせいている時には、頭を 浮かすが、ダレてる時には枕にめり込んだ感じでバック・レストは起きていく。
シートは、後ろに引き気味で、下がっていく。
リクライニング機構は、シートが上がり下がりするというよりは、実はシートの 裏側に付いているカムをモーターでまわすことで、シートを前後にスライドさせている。その前後の動きを利用して、「折りたたみ」的にフット・レストを下げ、 バック・レストを上げるのである。
途中、「ウィッ、ウイーン。」と頭打ちをする。モーターの寿命だろうか。勢いが悪い。音もスピードも弱々しい感じである。
そろそろ、換え時だろうか。以前もこんな感じで、しばらくしたら、動かなく なったことがある。
耐久年数を尋ねたら、「福祉の給付では、電動車椅子は5年に1台だが、 モーターもそれぐらいもつ」との話だった。
しかし、使用過多なのか、私は、せいぜい2年がいいとこのようだ。 他の人がフルに活用していないのか、耐久年数などデーターは個人ごとに取る必要がありそうだ。
この数日、ダウンしたきり上がらなくなった。たまたま、夜ベッドに上がる時 だったから良かったが、これが日中一人の時だったら手も足もでない。
「ウイー、ツタッ。」アップ・ライトである。
「?!。」この感覚は、...。スライド・パックが戻っていない。たまにだが、下腹に絞めたベルトに少し引っ掛かることがある。やはり、リクライニング機構と連動した方がいい。
「フンッ。」と肩の力を入れて、コントロール・レバーごと、押し出すと、 「ズリッ、ズリッ。」とスライド・パックが出て、「コッ。」とストッパーに あたる。
正面には、鏡。ほとんど、寝ぐせである。左を見ると、出窓から陽がさしている。 天気は、良いようである。
冬場は、ほとんど外に出ることはないが、春から秋にかけてはなるべく太陽に あたるように心がけている。
エアー・プローを「トン。」と叩いて、「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、」
5番目で、「ツ、ピッ。」
スピード『HIGH』の入力である。
鏡に写る自動扉を見ながら、ECSで扉を開けて、全部開いたところで電源を 切る。全開放である。
コントロール・レバーをチョイと前に倒して、電動車椅子を前に出す。
鏡を見て、ストローを余り引っ掛けないように加減する。
ストローとバッグ・レストの間に余裕を持たせ、左に大きくレバーを倒すと、「ウイッ。」タイヤが両方とも左を向く。パワー・ステアリングなのである。
前輪駆動のメリットは、外向きであること。力強く、段差ならタイヤの半径分をクリヤーし、線路にはまっても、単独で脱出できるという。
モーターは、2種類。左右の走行モーターとカジを取るステアリング・モーターである。
カーブする場合は、レバーを左右に倒すと、タイヤもそれに合わせて左右を向く。
そのまま、レバーを前に倒すと、走行モーターが動いて電動車椅子が動きだす。
前輪のクラッチを抜くと、走行モーターはカラ回りをする。片方だけ抜けていても平地走行はするが、スロープになるとパワー不足で登れなくなる。
乗ってしまうと、目で確認できないのがくやしい。
電動車椅子のままの移動介助は、直接、コントロール・レバーの操作となる。
クラッチを抜けば、ニュートラルになるが、左右のカジ取りはパワー・ステアリングのため、後ろから介助者が押しても、ステアリング操作は障害者本人になる。
もしくは、力づくで...。
最大の難は、車高の高さと回転半径の大きいこと。室内外においても、入れる テーブルは皆無に近く、また狭い室内での利用のため、切り返しが多い。室内での利用は、後輪駆動と後輪操舵というのが一般的だが、外に出ることを考えて、前輪駆動にした。
前輪をいっぱいにきると、「トン。」とぶっかったような感じ、レバーにもリアクションが返ってくる。
よく見ると、左のタイヤは真横を向いているが、回転半径が違うためか、右の タイヤは真横ではない。
レバーを左に傾けたまま、前に押すと、
「ウイッ、」走行モーターが働き、電動車椅子が動きだす。
「ウイ―ン」と電動車椅子は、大きく、左回転。
ワークス・テーブルの手前で、止め。
「トン。」エアー・ブローを押して、7つ目の『BACK』回路を入れて、今度はレバーを右に倒して、右いっぱいにタイヤを向ける。
そして、レバーを前に、...。切り返しである。
「ウイ―ン。」ステップが、前方に抜けられるぐらい間が空いたら、
「ト、トン。」とメイン・スイッチを2回押す。リセット効果である。
続けて、電動車椅子の止まった反動を利用して、枕の左から右のエアー・ブロを
「トン。」と押す。
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、」 6つ目。スピードは『LOW』を入れる。
室内では、ほとんど『HIGH』であるが、自動扉から自宅前の道路に出る時は、『LOW』で出ることが多い。慣れていないのである。
「ツ、ピッ。」『LOW』の入力を目と耳で確認したら、外へアプローチ。
これには、テクニックを要する。
自動扉は、正面から。そのまま、通り抜けたいところだが、右側を、階段の 縁石がその邪魔をしている。
更に、スロープ。短い距離だが、ゆるい傾斜になっていて、レバーを前に倒さなくても、電動車椅子は、「ズリ、ズリ。」と動いてしまう。
もし、左後輪が縁石に引っ掛かったら、『BACK』を入れて、戻らねばならない。
もう少し、設計を考えて貰いたかったところである。
それでも、慣れてくるとクリアーできる。レバーは、決して、前に倒さず、 ゆっくりと電動車椅子が降りて来るのを待ち、レバーをやや右に操作して、右側をギリギリにかすめる。次はレバーを左に、そして正面を向いたら、レバーを真ん中に戻す。
こうすると左後輪が縁石にひっかかることなく抜けられる。
「ズッ、タン。」と、電動車椅子が降り、身体にもその感触が伝わる。スロープから抜けたのである。
スグ前を、自動車が通り抜ける。あまり余裕はないが、ぶつかることはない。
「トン」とエアー・ブローを押して、
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、」
「ツ、ピッ。」5つ目の『HIGH』を入れる。
『LOW』から『HIGH』、あるいは『HIGH』から『LOW』への切り替えは、解除動作をすることなく、直接入力できる。
自動車が数台、通り過ぎる。近辺は、一方通行が多いのだが、ここは両面通行が。台数は、そんなに多くもないが、通学時間帯以外は自動車が通る。
右見て、左見て、また右を見る。これが、基本である。
あい間をぬって、一気に電動車椅子を走らせる。トイ面が駐車場になっている。左側手前のスカイライン・チェアーカーは、うちのものだ。その横でリクライニングして、ひなたボコするのが習慣である。
「ウィーン。」と軽快に道路を横断すると、
「ザリ、ザリッ。」ジャリ道である。
「ボコ、ボコ。」ジャリで、電動車椅子が左右に揺れる。
車高が高いので、ユレが大きく、慣れない時は怖かったが、膀胱には良いようである。
自動車の正面を右横30cmぐらいを空けて、平行に近づき、リアにかかった辺りで、右肘を張って右にUターン。少し、自動車から離れるので、幅寄せして停車。前輪駆動は、中々に、パワフルである。
ここで、リクライニング・ダウン。
「ト、トン。」とメイン・スイッチを2回押すと、電源が切れて、入る。リセット効果。
「トン。」とエアー・ブローを押して、1回目の入力動作。
「ポッ、ポッ、」2つ目のリクライニング『DOWN』で、
「ツ、」選択、2回目の入力動作。
「ピッ。」実行。3回目で、入力動作完了。
「ウィーン。」と、リクライニング・ダウン。
「ツタッ。」と、フル・リクライニングである。
「フーッ。」と深呼吸。
「タッ。」待機時間が過ぎて、ランプの点灯が『READY』に戻る。
「ひょい。」と頭を持ち上げて、「トン。」メイン・スイッチを切る。
大空。直射日光は、優しい。身体がリラックスし、太陽から何か別のエネルギーを貰うような気がする。空気の味も違う。
20~30分ほど、ひなたボコしたら、もう、飽きてしまう。せいぜい、そんなものだ。テレビや本とか、電話やワープロとかの方が面白い。
「フンッ。」と胸一杯に吸い込んだ息を鼻から出して、頭を持ち上げる。
「トン。」とメイン・スイッチを押すと、「フアッ。」とかすかな電子音。外はちょっと聞きづらい。
更に、「ポッ、ツ、ピッ。」と3回続けてエァー・ブローを押す。
「ウィーッ、ウイ、ウイ、ウィーン。」とリクライニング・アップ。
やはり、リクライニング・モーターがおかしい・・・。
「ツタッ。」直座である。
正面には、自宅。何やら植木がたくさんある。季節の花が咲いている。我家は状態がよいと草木がきれいだ。多分、私の入院中はひどいものだったと思うが、今は手入れがされている。お袋に余裕ができてきたのだ。
「タッ。」程なく、待機時間が過ぎて、ランプの点灯が『READY』に戻る。
「トン。」と、エァー・ブローを押して、
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ。」 5つ目で、「ト、ピッ。」『HIGH』を入力。
太陽の下では、ランプの点灯は視認できない。外では、「音」が頼りだ。
チョット、レバーを前に倒してみて、
「ウイッ。」と反応が返ってくる。スピードが入力されたようだ。
続けてレバーを前に倒す。
直ぐに、ジャリを過ぎて「スル、スル。」と走行。
日影に入って、ようやくランプの点灯を目で確かめることができる。しくじって、『LOW』ということもある。
「ウィーン、」
角から曲がってくる自動車に注意して道路を渡る。今度は、外から自動扉にアプローチ。
私があまり外に出ないコダワリはいくつかあるが、その最大の原因は、この自動扉にある。
自動扉は、全開放のまま。外にでるのにこれはおかしい。家が目に入る範囲しか移動できない。確かに、電源を入れて、普通に使えば扉はしまるが、それでは誰か来れば扉は開いてしまう。
最近では、住宅改造や新築の設計にも、呼び声が高く、設備技師の資格を取るにも、地域によっては、公共性の高い「店」には、車椅子などの利用を考慮することが、役所から要求されると聞いたことがある。
しかし、フリー・バリア・デザインは、何も段差や狭い空間ばかりが障害物ではない。この自動扉の利用状況も一種のバリアとなる。この自動扉に関しては、多段階的なバリアを感じる。
1.心理的なもの。
2.スロープに置いた自転車がバリアとなっていたこと。
3.自動扉の開放時間がみじかかったこと。
4.電源を入れて外出しても、誰か来れば開いてしまうこと。
1つ目の問題は、内面的なものだが、後の問題は環境的なもので、改善できる。
2つ目の自転車の問題は、既に解決済み。以前は、一々、声をかけてどけて貰うか、自転車の置いていない時しか出れなかった。
しかし、物置を置くことによって、自転車が置けなくなり、バリアはなくなった。物置なら、通り抜けられるのである。
3つ目は、外から戻る時の問題で、スロープを登りながら階段の縁石をよけている間に、扉の開放時間が過ぎて、閉まってしまうことがあった。
これは、サービス業者に連絡して、開放時間を長くすることで解決。
しかし、最大の難は4つ目である。これが解決しなければ、私は家の見える範囲でしか移動できない。これがコダワリであり、1つ目の心理的問題である。
4つ目の対応策は、現在思考中。
例えば、障害者本人は、電動車椅子からリモコンで自動扉の開閉を制御。マイコン・セレクター、またはステッピング・リレーでの制御よりも、平枕に頭部ダイレクト・スイッチの方がより合理的に思う。ベッドの日は、ECSで信号を送って、扉を開ける。
家族は、室内側にタッチ・スイッチ。外側には、テン・キーを使用。
「ウィーッ。」スロープ正面。ここで、『HUGH』から『LOW』。
「ウイッ、ウィーッ、」左右の前輪がよくかみ、段々に登っていく。クラッチは抜けていない。
右側の縁石にそって走行。
「シャッ。」途中、スライド・バックが後ろにずれる。
必要以上にレバーを押したことになるが、あわてず。
抜けたら、レバーを右。自動扉の幅を「ギリ、ギリ。」にかすめて、今度はレバーを左。正面を向いたら、レバーを戻す。
「スル、スル。」クリア!!。
そのまま、ストロー(ECSの呼気スイッチ)に近づき、自動扉を閉め、イマセンに電話をかける。(メンテナンスに関しては、第5章にて後述する。)
電話の後、書見台を使ってセットされた本を読んだり、ワープロを使って文章を書き留めたり、手紙をかいたり、通信をしたり、・・・。
ナンダ、カンダで、時間は過ぎていく。
夕方、6時を過ぎると、家族が帰ってくる。
「カタッ。」ポストを、開ける音がするのでよくわかる。
「ただいま。」お袋である。
「おかえり。」マウス・スティックをくわえたまま、答える。
「YOUNG KING 買ってきたよ。」
「うん? あっ、そか。今日か。ありがと。」マウス・スティックを休め、ワープロを打つポジションから控えのポジションへ電動車椅子を下げる。
「どうするの?」
「書見台に入れといて。それから、久が原のAさんから電話があったョ。」
「何だって?電話、欲しいって?」
「仕事から戻ってますかって。後からかけ直すって言ってたけど、かければ?」
「うん。わかった。」
「カタッ。」また、ポストを開ける音。今度は、オヤジだろう。
「おかえりなさい。」
「おかあさんは?」お決まりの文句である。 「ンッ、帰ってるョ。今、2階」
夕食は、7時半くらい。1日2食である。
「ガッ、ゴーン」とエレベーターの降りる音。
機械音を耳にしながら、マイコン・セレクターを作動させ、『HIGH』と『BACK』を入れる。
左後方に下がった頃に、扉が開いて、お袋。
「飯?」と聞きながら、もう一度エァー・ブローを押し、
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、」オート・スキャンを始める。
7つ目で、エァー・ブローを2回押すと、
「ト、ピッ。」と、『BACK』が解除され、
『HIGH』だけが、点灯。
入力方法としては、こちらが順当だが、リセットする方が既にセオリーになっている。
電動車椅子を右前方に出し、ベッドに横付けして、ストローが口許に来るポジションに止める。
電動車椅子での食事位置は、ECSも使えるポジションなのである。
お袋は、ベッドの上。
「ちょっと、待って。」
エァー・ブローを押して、「ポッ、ポッ、ポッ、」
3つ目で、「ツ、ピッ。」
「チッ、チィーッ。」ブレーキ『ON』である。
もう1度、エァー・ブローを押し、「ポッ、ポッ、」
2つ目、「ツ、ピッ。」
「ウィーン。」リクライニング・ダウン。
「膝、押して。」
日中、何度もリクライニングを繰り返し、お尻が段々と前にずれてきたのである。リクライニング・ダウンすると、元々ガニ股の両膝が大きく開く。
横に開いた膝を上に向け、「グッ、グッ。」と膝を上から押さえ付けると、上半身ごと、下がったお尻が上にいく。足が、ステップでロックされているからである。
身体が上がったら、電動車椅子の左横に回って、上にずれた下腹のベルトを下にずり下ろす。
そして、ステップ側に戻って、もう1度、膝を押す。
「ツ、トッ、ピッ。」リクライニング・アップ。
「ウィーン、」膝は、押したまま。もし、ブレーキかけなければ、電動車椅子が後ろへ下がっていくことになる。
「ウィーン、ツタッ。」アップ・ライト。
「フーッ。」鼻から息が抜ける。よく下腹が抑えられているのである。
食事が終わると、薬。
そして、リクライニング・ダウンして、一服。マイルド・セブンである。スイッチボックスの白いスイッチを入れると、換気扇が回る。煙草の煙がこもるのである。
一服が終わると、「行くよ。」
換気扇を止めてもらって」、横になったまま少し休んだりする。
少し、眠った後、再びワープロに向かう。
『HIGH』と『BACK』を入力し、右いっぱいにステアリングを切り、ステップを左に向ける。
「ゴリ、ゴリ、ゴリ。」ブレーキがかかったままある。
「いけね。」と思いつつ、ブレーキを解除する。
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ツ、ピッ。」
「チッ、チイーッ。」ブレーキ『OFF』である。
入浴は、5日に1度のペース。時間帯は、12時と遅い。
「入る?」
「入る。準備して。」ワープロを打ちながら答える。
お袋は、ハンド・コントローラーで、ベッドを下ろし、アメジストやら、バスタオルやらを敷いている。(詳しくは、「Ⅷ入浴介助」にて後述。)
きりのいいところで、ワープロのファイルを閉じて電源を落とす。
エアー・ブローを「トン。」と押して、オート・スキャン。
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ツ、ピッ。」『BACK』。
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ツ、ピッ。」『HIGH』入力。
左後方に下がってから、朝、電動車椅子に乗った乗車ポジションに向かう。すなわち、下車ポジションなのである。
「手、外して。」
ディバイスのベルクロを、「ベリ、ベリ。」とはがす。
改めて、『HIGH』を入力。
「コン。」とレバーを横に叩く。
「ィッ。ウィ。」とステアリングが戻る。レバーを真っ直ぐに止めたつもりでもステアリングがどちらかに傾いていることが多い。
入浴するのでも、ベッドに戻るのでも、電動車椅子を駐車ポジションに押し下げるので、左右のタイヤは真っ直ぐを向いている。曲がっていれば、真っ直ぐに下がらない。
ポジショニングは、他に、ページめくり位置とフロッピー・ディスク交換専用マウス・スティックを使用する位置、特大マウススティックを使用する位置などがある。
バルンの先からホースを外し、代わりにコネクターをさし、尿をロックする。
リクライニング・ダウン。電動車椅子に乗ったまま、衣服を脱ぐ。やはり、電動車椅子の上では無理があるのか、裸になると身体がかなりズリ落ちている。
リフターにぶら下がると、上から電動車椅子が見える。
「ポッ、ツ、ピッ。」お袋がリクライニング『UP』させる。
「ウィーン。」ただ、3回続けて押せばいいから、間違えることはない。
「ツタッ。」80㎏もある。車体をお袋が押し下げる。
バック・レストのスポンジには、背中のあとが見える。
イマセンの電動車椅子は、ちょっと背中の角度が広い。体重がモロにお尻にかかっているのではなく、何割かは背中に掛かっていることが分かる。
フット・レストのレザーも破れているようなので、そろそろ換えようかなと思いつつ、リフターにぶら下がったまま、浴室へと行く。
電動車椅子は、「足」である。何か問題が起きたら、早々に対処。機器をよく知り、自分で管理するのがよいと考える。
しかし、ユーザーごと利用の状況は様々であり、更にデータが取れる程、普及もしていなければ、十二分に利用されているわけでもなさそうである。
従って、各個人の経験が、そのまま管理ノウハウとなる段階と考える。
RRRRRR! RRRRR!
「ガチャッ。」
「イマセン技術研究所です。」
「営業の山内さんは、い・ま・せ・ん・よ・ね。」
「はい。出張です。」営業マンは、4~5日の予定を組んで、担当地区を巡回している。
「今度、出社はいつです。」
「担当と代ります。」
「もしもし、山内は出張でいないんですが。どういったご用件でしょうか。」
「えっとですね。リクライニング・モーターがおかしくなったんで、山内さんがスペアを持っていたら、帰りがけにでも寄って貰おうかなと思ったんですけども。」
「多分、無理だと思うんですが...。」
「出張先は、確かリストになってますよね。今日中に連絡を欲しいんですけど...。」
RRRRR! RRRRR!
ワープロ打ちの最中、電話のコール。
マウス・スティックをスティック・スタンドに戻し、素早くマイコン・セレク スターを作動。
RRRRR! RRRRR!
『HIGH』と『BACK』に入れ、左後方に下がり、
メイン・スイッチを2回押して、リセット。
RRRRR! RRRRR!
ユレ戻しを利用して、エアー・ブローを押し、
「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、」
5つ目で、「ト、ピッ。」『HIGH』を入力。
RRRRR! RRRRR!
すかさず、やや右に前進してストローにたどり着く。大体、8コールかかる。
「はい、内山です。」
「もしもし、イマセン技術研究所の山内ですが。」
「あっ、どうも。実は、リクライニング・モータがそろそろ寿命みたいで、いつ止まってもおかしくないみたいなんだけど。」
「弱々しい音? 駄目になってくると勢いも悪く、音も変わってくるんだわ。」
「うん。そんな感じ。前と同じなんだ。」
「どれくらいたつ?」
「1年半から2年くらいかな。」
「ちょっと、早くない?」
「そうでもないよ。確か5年もつって言ってたけど、前だって、2年きゃもたなかったもの。」
「そうか・・・。来週、予定組んでいくからそれまで待てない? 今週は、も う予定が一杯でいけそうにないし、部品のスペアも持ってないだわ。」
「じゃぁ、技研に電話して宅配便で送って貰っても、山内さんはアテにできな いね。」
「・・・。」
「ねぇ。リクライニング・モーターの交換って、誰でもできるようなものなの?」
「シートを外して、3ヶ所でとまってるダケ。」
「じゃぁ。まぁ、今壊れてて困ってるわけじゃないから、今度の出張できて。もし、間に合わなかったら、技研に電話してパーツを送って貰うから。」
数日後のトラブル発生から翌日。
RRRRR!
「あっ、内山さん?」
「やっぱり、動かなくなったって?」
「夕べ、ベットに乗る時ダウンして、それっきり。」
「やっぱり行けないんだけど、誰か交換できる? お母さん、できないかな。」
「兄貴もいるし、今晩、弟も川越から帰ってくるから、部品さえ送ってくれれば 何とかなるでしょう。あっ、でも簡単でいいから図の説明が欲しいな。」
「ピンポーン。」
「はい。」
「宅急便です。」
「ちょっと、待って下さい。」
ソバにいた弟が荷物を受け取る。
「今、何時?」
「もう、昼だ。」
「腹減ったな。飯まだかな。」
「もう、できてんじゃねェ。」
「くってくる。」
「んじゃ、ちょっと待ってて。」
3階の兄貴に電話する。
「もしもし、幸久だけど、飯くった?モーターが届いてるから、後1時間位してから、交換頼める?」
「ン、いいよ。」
「ほいじゃ、よろしく。」
「ダ、ダ、ダ、ダ、」階段を走り降りる音。兄貴だ。
「お早う。あれ、清徳は?」
「2階。」
「まだ、飯くってんの?」
「イヤ、飯はもうくってんじゃねェかな。」
とか、言ってるうちに、
「ガッ、ゴーン。」とエレベーターの降りる音。
久々に、兄弟3人が集まる。
「えっとね。まず、中を開けて、モーターを出して。」
「ンッ...。小さいな。これでいいの?」
「外せば、わかるけど、確か前もそんなもんだったよ。」
「カムで押してんだろう。そんなもんだよ。」
「それっきゃ、入ってない?」
「うん、これだけ。」
「あれっ?...。」
「もしもし、内山ですが、リクライニング・モーター届きました。どうも。それれですね。これ、シートを外して、ドライバーか何かで、ネジ外せばいいんですか?」
「ドライバーではなくて、レンチです。」
「レンチ?」
「納品した時、ついていたと思うですが。」
「?、わかりました。探して、やってみます。他に、注意するようなことは?」
「モーターを外しますと、シートが下がってきますので、1人で交換する場合は、なにかをかませてください。」
「.....。後は?」
「とにかく、やってみて下さい。」
「レンチか...。」
「六角のやつだョ。」兄貴が言う。
「うん。そんなもんあったっけな?シート、外してみて。」
まず、クッション。
「重いな、これ。」
「あぁ、フローテーション・パットに似たやつで、お尻にかかる体圧を均等に分散するんだって。」
「でも、結構あるよ。」
「持ち上げることはねェから、問題はないだろ。」
「そりゃ、そうだ。」
「でも、それ使ってる脊損で、自動車にトランスファーする人は、キツイらしいョ。」
「だろうな。」
シート・ボードを外して、
「これか?」
「あった?」
「でも、これ、デカいぞ。」
「六角レンチねェ。無いと、パーツと人手があったって、話しになんねェもんな。」
「無いの?」
「う~ん。カバンの横の袋取って。」
「これ?小さいぞ。」
「やっぱ、使えねェか...。」BFO-MASのレンチ。耳かきほどのものだ。
「!、テレビの横のカンカン取って。」
「これ?」
「そう。その中、開けて。」
「変なビニールきゃ、ないぞ。」
「無ェ?...。」
「これか?あった。あった。でも、これ。太ェな。」
「サイズ、合うだろう?」
「うん?あぁ、合うよ。」
「じゃ、レンチで、全部、ボルトを外して。」
「順番は、」
「1コ、外して、対角だろう?」
「3ヶ所しかないから、関係ないよ。」
「ボト。」1コ外したら、ナットが落ちる。
「オーッ、ちゃんと持ってねェと、駄目だよ。」
「ボト。」更に、何か落ちる。
「何だろう?」
「全部外すとさぁ。シートが、下がってくっから、気イつけて。」
「うん。大丈夫。しっかり押さえてる。」
「逐一、言って。」
「オッ。」シートが下がって、思わず声が出たようだ。3本とも、外れたようだ。
「外したよ。」
「ン。コネクター、無い?」
「ある。」
「抜いて。そしたら、ギヤから取り外せるハズ」
「ンッ。」
「取れたぞ。」
「フーッ、今度は取付けね。どういう風に付いていたか、把握してるよね。」
「1回、降ろすぞ。」清徳は、肩を「グル、グル」回している。
ボルト3本。ナット3コ。今度は、これでリクライニング・モーターに取りつける。
「もうちょっと、持ち上げて。」下からシートを持ち上げ、ギヤを合わせる。
更に、ボルトを通す穴にナットを合わせるのが大変である。
中々、合わない。手慣れた人ならば、シートが下がらないように何かをカマせ、1人でやった方が楽かもしれない。
1つ、2つ目は、手こずったが、3つ目は楽である。
「フーッ。できた。」
「どうも~っ。ところで、そこに落ちてるのは何?」
「これだろ。何だろうね?」
「部品が余るっての。おかしくねェ?」
「もしかして、この『筒』みたいのを、ボルトとナットの間に入れると、リクライニング・ギヤがうまくかみ合うんじゃないの?」
「俺もそんな気がする。」
「やってみりゃ、わかるよ。」
「コネクター、入れて。」
「ンッ。」
「ポッ、ツ、ピッ。」
「ギーン、」
「ストップ。」
「ピッ。」エアー・ブローを押すと、リクライニング途中で止まる。
「どう?」
「何か、やっぱ。合ってないね。」
「...。やり直し。」
後で聞いたら、この筒のようなパーツ。「カラー」と言って、やはりギヤを、うまくカミ合うようにする物のこと。
取付け作業は、少し要領を得たのか。カラーが増えたにも係わらず、時間的には早かった。
「サーンキュ。上げて。」
「ツ、トツ、ピ。」
「チュイーン。」勢いがいい。この音である。
「ツタッ。」
「OK! バッチリ。ご苦労様。」
故障してから、翌日の回復。明日も電動車椅子に乗れる。こんなに早い対応は、今までにない。
以下は、今までに起こった故障の例。
1.尿失禁などによるプリント基盤の損傷・・・・・・・・・・・・パーツ交換
2.リクライニング過多によるモーター摩擦・・・・・・・・・・・パーツ交換
3.バッテリーの電圧の低下によるマイコンの誤作動・・・・・バッテリー交換
4.バック回路からのコード引き抜き損傷・・・・・・・ハンダ付けによる再生
5.断線、リクライニング過多による金属疲労・・・・・・・・配線の取り直し
6.ヒューズ切れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒューズ交換
などである。
電動車椅子の公費の負担は、規準額約40万円。給付品には、補装具と日常生活用具があり、どちらも申請窓口は福祉事務所である。
日常生活用具は、都と区の要項に従い、身体障害者手帳の等級によって給付が決定される。
補装具の場合は、東京都の判定機関である「東京都心身障害者総合センター」(以下、都心障と略す。)の判定を受けなければ、助成を受けることはできない。
電動車椅子は、この補装具にあたる。
都民の場合、まず福祉事務所に電動車椅子をつくりたい旨を申しでる。これは電話でもよい。
始めて電動車椅子をつくる場合、都心障で「判定」を受けなければならない。
判定は、予約制で曜日制限があり、障害者である本人が直接行かなければならない。
予約の方法は、二通り。窓口である福祉事務所を通して都心障に書類を挙げて判定を申請する。または、都心障の「相談課」に直接電話をかけても受け付けてくれる。
東京都心身障害者センター 相談課 TEL:203-6141
「判定」は各補装具ごとに行われるので、手押しタイプの車椅子や他の補装具の給付を受けたい場合は、改めて都心障の「判定」をうける。
「判定」を受けた品目に関しては、以後の給付に「判定」はいらない。
電動車椅子の給付対象者に認定されると、「給付の許可」が都心障から福祉事務所に通達される。これで福祉事務所に対して始めて、申請の手続きができる。
必要な書類は、前年度の家族の所得証明(源泉徴収票または確定申告の控え)の写し。
ここで云う家族とは、生計を同じにしている者のこと。それに電動車椅子の業者による見積書と身体障害者手帳、ハンコを持って福祉事務所にいけば申請の手続きを済ませることができる。これは、代理人(家族)でもよい。
申請書が受理されると電動車椅子の給付の決定通知書が福祉事務所から本人宛に郵送されてくる。
* 助成には、規準額があり、所得により算出した自己負担金を差しにいた額が 限度額となる。(限度額=規準額-自己負担金)
正式な手順によれば、決定通知書の送付によって始めて電動車椅子の注文をすることができるのだが、見積もりの段階で受注するのが慣例になっているところもあると聞く。
通常、メインテナンスは販売代理店を通さなければならない。また、行政による修理の助成もあるが、給付に準ずる手続きを踏まなければならない。
まず、故障と思われる事由が発生したらその原因箇所を確認して、販売代理店を通して業者を呼ぶ。故障の原因が分かれば、業者を呼ばなくても直るかもしれないし、原因が分からなくとも状況を説明すればメインテナンスの対処はしやすい。
1年に1度、行政の助成による修理ができる。まず、福祉事務所に修理をしたい旨を申し出る。業者による修理見積書を取ったら、所得証明(源泉徴収書か確定申告)の写しと身体障害者手帳、ハンコを持って福祉事務所で手続きを済ませる。
但し、行政の助成によって取得した電動車椅子でなければならない。これは、普通の車椅子にもいえる。
また、地域によっては正当な手続きをしないで、先にメインテナンスをして後から助成の手続きをすることが慣例になっているところもあると聞く。