レポート ザ・ケーススタディ


【マウススティック】

「レポート ザ・ケーススタディー」

■生活スタイルその2 乗車編(2)「第三段階」

「Ⅶ.マウススティック1」車椅子にて

はじめに

第1段階では、排泄管理とECS。第2段階においては、特種仕様の電動車椅子と、これにトランスファーするための機器と必要なセット・アップをレポートしてみた。

しかし、電動車椅子の機動力は、目的があってはじめて威力を発揮するようだ。折角、任意、タイムリーな電動車椅子に乗っても、ECSの随意性が高いため、何もしないとECSのポジションから離れにくくなる事実。常に、電話を持っていたりした事もあった。

そこで、電動車椅子に乗って、何かを「やる」必要があった。その何かを、マウス・ステイック・アクティブに見いだした。

この目的は、予想以上の効果を示し、新たに「第3段階」と位置づけする事となった。



序章

最初のマウス・ステイック・アクティブは、「ぺーじめくり」だった。リハビリ病棟に入った数ヵ月後の春のこと。

元々、週刊の少年漫画誌が好きで、障害後も、介助者に、よく読ませて貰ったりしたが、本の「閉じ方」などに問題があって、ページを押さえて貰う必要があった。しかし、何時までも、そんなやり方は通じない・・・。


丁度、その頃、兄貴が「雑誌でも読んだら?」と言う。病院では時が止まっているから、「世間に、疎くならない様に!」と言うのだ。

そこで、当時はやりの週刊誌を読むことにした。


こんなもん?」

「うん。そんなもんだね。」


ベッドは、ギャッジ・アップ。オーバー・テーブルを手前に引いて、フォーカスを開く。見やすいように、コミック本を数冊かませて、角度を付けているのである。


左右のページ、全部を読むには、1,2度、加減し直さなければならないが、「以外と、目が届くもの」というのが、実感だった。

漫画などを読ませて貰うと、どうしても捲るタイミングが合わない事があったが、自分のスピードで読み、「せかされない」と言うのもイイ。久しぶりに、活字を堪能した思いだった。


「次、捲って。」

「ほいよ。」


最初は、こんなものであった。しかし、そのうち、「ページめくり」と「ページめくり」の間に、何かを始める。


「もっしー。」洗濯などして、部屋にいない。

「ピンポーン。」と声を出す。おちゃらけるのも、限界。


隣の、やはり頚損に付き添っている奥さんが、気を使ってページを捲ってくれたりする。こうなると、本意ではない。

紙面は、目の前30cmくらい。ホンとに「届きそう」な距離、じれったさを感じる。


「フーッ。」何とか捲れないかと、息を吹きかけたりする。

「フーッ。」情けなさが、腹立ちに変わってくる。

この腹立ちが、眠っていた「何かを起こす」事となったのかも、しれない。


最初のマウス・スティック。それは、担当のOTが作ってくれた。「自分でめくりたい」と思う前に、既に、作られていたのか。それとも、後だったのか、覚えていないが、ともかく、使ってダメだった。サイズが合わないのである。加えて、口に噛んだ具合も悪い。


全長40㎝。材質は、ステン。アーチェリーの矢である。噛む部分には、熱を加えると、形を形成できるプラスチックみたいな物を使って、歯形を取っている。キチンとした物を作る時には、歯医者でマウス・ピースを作って貰うのだという。


しかし、第一に、40㎝という長さは、耐えられないものだった。いざ、使うだんになって、口にくわえると、「紙面」と「目」との間に、つっかえ棒を入れたような感覚なのである。

ベッドを倒したり、オーバー・テーブルを下げたりして、調整しようとしたが、どうもうまくいかない。長すぎて、コントロールも利かない。


「ダメダこりゃ。」


口にくわえたまま、文句を言うと、これまた、重すぎて歯にかなりの負担。唾液がこぼれそうになって、ススろうにもうまく対処できない。基本的にダメなのである。


「ダメダ、長すぎる・・・。」


〈口なんかで・・・。〉と思っていたそれまでの常識を、何とか自分に言い聞かせて、試みたのに、最初からつまずいた。この落胆は、大きい。

兄貴も、手が出せない状態だ。


2人で、「うーん」とか言ってると、隣の奥さんだか、頚損のご主人が声をかけてくれて、ご主人のマウス・スティックならどうかと言う。

このマウス・スティック、とてもシンプルな物で、割り箸の先にセラ・バンド(OT訓練で使用する輸入物の平ゴム)を捲いただけのものだった。

「軽い。」と言うのが実感で、加えて、「紙面」と「目」の間に有っても、邪魔にならない。丁度、いい、長さなのである。


「どう?」

「いい。すごくいい。これ、借りていいですか?」

「いいわよ。」

「僕は、歯が悪くて使えないから、幸久君、使えるなら使って下さい。」とご主人が割って入る。


確かに、長く使っていると、歯というよりはアゴに負担がかかってくるようだが、この材質を見逃すことはない。割り箸は、元々、口に入れる物だと言う事も、どこか納得のいく部分だった。


この後、マウス・スティックを使って、キーボード・アクセスも、する事になった。

そして、噛む部分に関しては、何度となく、退院してからも工夫を凝らす事になり、今、十分でないが、一応の結論を得ている。

そこで、マウス・スティック・アクティブの「操作イメージ」と、必要な「環境の整備」と「条件作り」をレポートする上で、種々具体的な「工夫」や「細工」などの「工作」や、「マウス・スティック作り/タイプ1~3」に関しても、述べることとする。


それにしても、40㎝。この長さに、必然性は感じない。アメリカの文献や画像を見ると、一般に長い。どこに有るのだろう?



第一章 書見台と「ページめくり」

電動車椅子にトランスファー。そして、セット・アップ。

「いい?」

「うん。」ストローの位置を確認したりする。


「あっ、書見台に、ミニ・コンポ上の文庫本、下のやつをセットして。」

「これ?」

「そう。」

「開く?」

「イャ、そのまま左側に置いてくれればいい。」

「いいネ。」

「うん。」

お袋は、水タンクを持って、2階へ上がる。仕事に出る準備である。


「ポッ、ポッ、・・・。」マイコン・セレクター作動。書見台にアプローチ。

書見台は、作業台の真ん中やや右に位置している。


【①1本を読むポジション】

「ウィーン。」

「ツタッ。」

「ファッ。」

「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ッ、ピッ。」


ちょっと右斜めにアプローチして、「本を読むポジション」で停車。マウス・スティックをくわえる。

電動車椅子の電源は、ON。マイコン・セレクターは、7つ目のBACKランプが単独で点灯。HIGHを入れれば、いつでもバックできる状態である。


【②書見台の構成】

本を寄り立たす傾斜板の寸法、縦28cm×横40cm、角度70度。

本を乗せる「台」部の底上げ5cm、奥域5cm。

ページ押さえに、ペン・ホルダー4つ。文房具屋で売っている物。

スティック・スタンドには、カゴメ野菜ジュースの空き缶。

これを半固定するには、ワン・カップ大関のビニール製のフタを採用している。


「キュッ、キュッ。」とマウス・スティックで、左右両組の内側のページ押さえを「内寄り」に傾ける。


【③ページ押さえ】

ページ押さえは、左右の組と、それぞれ内外の側に分かれる。

左外側は、「台」部の左から5cmぐらいの箇所。

左内側は、更に2cmほど間隔をあけた箇所。

右内側と外側は、これと、それぞれ対照的な位置の、計4つ。


ペン・ホルダーを「台」部に固定するには、まずペン・ホルダーの付いている「台座」をハンマーで砕いて、固定されていたネジ部を、顕わにする。

「台」部には、キリで穴をあけ、木工用の非速乾性接着剤を流し込む。

これに、ネジ部を差し込み、乾けばOKである。


ペン・ホルダーは、一部、制限のあるものもあるが、360度フリーの物がいい。


【④ページめくり動作】

まず、表紙。

マウス・スティックで、

左右内側のページ押さえを「内寄り」に傾けたら、

次に、文庫本を「真ん中」から「右」へずらし、

左内側のページ押さえが、正面から見て「かからない」ようにして、

表紙を、「少し」めくる。


表紙と1ページ目の間に、「浮き」ができて、やや開いた状態になる。

この「隙間」に、左内側のページ押さえを「すべり込ます」様に、

やはりマウス・スティックで、

今度は、文庫本を「左」へずらす。


左内側のページ押さえが、表紙と1ぺージ目の隙間に「入った」ら、

左内側のページ押さえを、「奥」へ押し付ける。

文庫本が、傾斜板とページ押さえに、「挟まれた」状態である。


そして、表紙をめくる。

本自体は、動かない。

ページ押さえの固定力は、中々である。


めくった表紙を、そのまま、

右内側のページ押さえの「後ろに」、表紙を滑り込ませる。

表紙は、手前に「たわんで」いる。

元に戻らない様に、

文庫本の左右のトジの中心を、「トン」とマウス・スティックで押すと、

表紙が「キシンで」、本が開いた状態になる。


最後に、マウス・スティックで、

文庫本の位置を手直ししたり、

両内側にあるページ押さえの「傾き」や「押さえ」を加減する。


「シュッ、」左のページを1枚、ページ押さえから外す。

「クルッ。」とマウス・スティックの先端を下から、時計回りの反対に回して、

浮いた1枚のページの左側に引っ掛ける。

「ペラッ。」首を右に向けながら、ページをめくり、

「シュッ。」右内側のページ押さえに滑り込ませ、

1~2行読んだら、

「シュッ。」ページを整える。


文庫本は、200ページから300ページ程のもの。セットすれば、その本を最初から最後まで、自由に読むことができる。

片側A4の本まで読むことができるが、表紙の開きにくい本は、予めセットの時に、介助者に広げて貰うこともある。

本の厚みは、およそ4cmまで。本を乗せる「台」の部分が、奥域5cmだからである。

読んだまま、マウス・スティックを口にくわえている事も有るが、

読んだまま、マウス・スティックを口にくわえている事も有るが、

「コトッ。」

もちろん、スティック・スタンドに、休める事が多い。


【⑤スティック・スタンド】

スティック・スタンドの備え付け位置は、書見台の「台」部の左端、左外側のページ押さえの、左にピッタリしている。

スタンド自体は、カゴメ野菜ジュースの空き缶をリサイクルしている。缶切りで、缶の「上」と「底」を抜き、筒状にする。


固定は、半固定。ワン・カップ大関のプラスティックのフタを、書見台の「台」部に、3つのボルトで固定し、これに、空き缶を食い込ませる。

これは、書見台がキーボードを乗せる傾斜台に可変できたナゴリであるが、(現在では、書見台専用。)必要に迫られないので、完全固定は考えていない。


「ペラッ。」

「コトッ。」

「・・・。」


「ペラッ。」

「コトッ。」

「・・・。」

マウス・スティックの、噛んだ「元」の部分を、舌先で、ちょっと押し出して、スタンドに休める。


【⑥レギュラー・スティック】

書見台で、ページをめくりに使うマウス・スティックは、「割り箸」を工夫している。書見台と目の間隔は、およそ30cm。

割り箸は、程よい長さで、随意性も高い。元々、口に含む物であるから、材質は、歯に馴染みやすく、しかも軽い。スギである。


マウス・スティックの左右の「横移動」動作は、自ら首を横に振り、「上下」の動作は、下アゴを前後にスライドさせる。

滑り止めによるページのかかりも丁度よい。アゴにかかる負担は、少ない。


〔マウス・スティック作りタイプ1〕


レギュラー・スティックは、「噛む部分」を作り上げる必要がある。割り箸を、裸のまま噛み、歯形がつけていく。その段差が、下アゴを前後にスライドさせる事ができる様な「深さ」にするのである。


但し、そのまま使っていると、唾液を含み、平たくなり、最後はボロ、ボロになってしまう。そうならないうちに、「唾液を含めば、乾かし。含めば、乾かし」ながら使っていく。すると、噛む部分は、徐々に、歯に馴染むように削れてくる。時間をかけて、自然と形成するのである。


程よい深さに歯形が削れると、アゴに負担なく、楽に噛んでマウス・スティックを保持できる様になる。

しかし、そのままだと唾液を含み、折角フィットした歯型がドンドン削れていくことになる。そこで、唾液をよけにコーティングが必要になる。


ⅰ. コーティング/唾液よけ


コーティング材の条件は、水気をはじいて歯形を保ち、軽くして、しかも歯にやさしいこと。決定的ではないが、現状を述べる。


コーティングは、3重。最初に、木工用の非速乾性接着剤で歯型部分を固める。これにより、唾液の浸透を防ぎ、形くずれを起こさない。

次に、塗装用の目張りテープをまく。これにより、接着剤の硬さに弾力をもたせる。

最後に、スーパーなどのプラスチック系の買い物袋を噛む部分に捲き付け、ビニール・テープでとめる。

これを数本に作り、順に使っている。使い捨ての感覚よりは、長持ちする。


ⅱ. 滑り止め


先端部の「滑り止め」には、ガラス・ポイントのゴム製ツマミ部を利用する。そのまま被せると、先が破けるので、割り箸の先を紙やすりなどで、カドをおとしてから、被せる様にしている。

それでも、磨耗すればゴムは破ける。新しい素材として、建材用のアクリル・コークを試してみようと思う。


イラスト図有り。


【⑦翻訳/辞書台/スポンジの背谷】

5cm以上の英和辞典など、分厚い辞書に使える専門の「辞書台」を作成。

「高さ」や「角度」は、キーボード台と同等。横幅は、辞書を開いて使うのに、必要なだけ。


〔参考〕

「第二章 ワープロのフル活用」

「⑤ワープロ打ちポジション/キーボード専用台」

[キーボード専用台にて後述する。]


但し、辞書などの分厚い本は、「最初」と「最後」のページが開きにくいので、これを解決する為に、若干の工夫が必要である。


[工夫 凹型台/スポンジ背谷]


電動車椅子の「凹型」マクラを再利用して、辞書などでもマウス・スティックで操作しやすい「背谷台」を作る。


まず、スポンジは枕のときのままでは厚いので、カッターで両端の「山」の部分が離れない程度の厚みを残して、「谷」よりも下の部分を切り取る。

切ったスポンジ背谷は、これを辞書台に載せ、その上に英和辞典を開く。


辞書などの分厚い本は、一般に最初と最後のページが開きにくいが、このスポンジ背谷に乗せると、トジの部分が必要に応じて左右に自由に振れる事ができる。

例えば、本を右から捲れば閉じの部分は左に触れ、逆に左から捲れば右に振れる。


これにより、必要に応じて、英単語の意味などを調べることができる。例えば、書見台にセットした文献を読みながら、意味の分からない英単語を字引で調べ、翻訳した文書をワープロに打ち込むという一連の動作が可能となる。


〔注意〕

但し、ワープロ打ちポジションと辞書台ポジションは異なっている。そのため、必要に応じてポジションを変ことは可能であるはあるが、作業効率がおちる。ゆえに、調べた単語を「辞書メモ」として、そのつど、ワープロの文章ファイルにまとめているが、けっこうこれにも難儀する。


現在使っているワープロの通信プログラムには、ログ文書、送信文書、受信文書。このうち二文書を同時に一画面に表示することかできるので、ワープロの検索機能を利用して、辞書機能の代わりをしている。

この際、どの文書に翻訳文、辞書メモを、使っても構わない。


ワープロ、またはパソコンにおいては、アルファベットも、辞書(外字)登録できると、翻訳に便利だろう。


【⑧書見台まとめデーター】

傾 斜 角 70度

傾斜板寸法 縦28cm×40cm(A4の本を開けるスペース)

「台」部 奥域幅5cm    (厚さ4~5cmまで、セット可能。)


ページ押さえ/4つ       (360度フリー・ペン・ホルダー)


[対応できる本の種類]

200~300ページの文庫本からA4サイズまで。

厚みは、辞書クラスまで。

スティック・スタンドには、台部の端に設置。空き缶を再利用。


[その他]

マウス・スティック(レギュラ・サイズ)

サイズは、20cm程度。材質は、割り箸。

「滑り止め」と「噛む部分」の仕上げ。

詳しくは、上記「マウス・スティック作り1」を参照。

高さなどの設置環境は、「第四章 マウス・スティックの環境整備と条件作り」にて、後述する。


以下のように、書見台を構成し、マウス・スティックを操作するイメージを

具体化すると、読みたい本を1度セットすれば、最初から最後まで、介助者の

手を借りず読むことができる。

このマウス・スティック(レギュラ・サイズ)は、ワープロのキーボード・アクセスにも、遺憾なく、その能力を発揮する。



第二章 ワープロのフル活用

レギュラー・スティックは、ワープロのキーボード・アクセスにも使っている。

ワープロは、高位頚損にとって、筆記用具であり、メモ用紙であり、重要な文房具といえる。

しかし、シフト・キーなどの同時押し下げやフロッピー・ディスク(以下、フロッピーと略す。)の交換、印刷用紙やリボンなど、多々、問題がある。

これらに対処するために、使用機種を決定し、様々な工夫や細工を必要とする。


【① 条件】

1.電源とドライブ・デッキが本機正面にあること。デッキは、縦であること。

2.シフトなどの問題で、シフト・ロッカーがつけられるか、片手操作(コンビネーション・ストローク)ができること。

3.キーボードの文字配列は、できれば50音配列であること。

4.印刷は、リボンと感熱記録紙が使えること。

5.オプションで、イメージ・スキャナーと、通信機能をもっていること。


【② 機能決定】

使用機種は、EPSONのWord BanK-G。以前、友人に頼んだパンフレットを見て、営業所に電話をかけて新機種のパンフレットを取り寄せる。

パンフレット入手後、やはり電話で操作などの問い合わせをして、決定した。


本機使用は、


1.本機正面に、電源と縦型のドライブ・デッキがある。

  更に、デッキ左横に、フロッピーのポケットもある。

2.入力モードの設定により、両手操作か片手操作を、選択することができる。

3.同じく、JIS配列か50音配列を選択。

  その他、変換方式も、「かな」「ローマ字」かあるいは、「一括」か「逐一」かを選択できる。

4.印刷は、リボン、感熱記録紙、ともに使える。

5.イメージ・スキャナー、通信機能、ともに有り、その他、オプションで、住所録と表計算システムがある。


先に上げた条件と本機使用を照らし合わせると、マウス・ステイックで、電源を【入・切】ができ、フロツピーとマウス・ステイックに「何らかの工夫」を凝らすことで、フロッピーの交換ができそうである。


シフトの問題は、「片手操作」の選択により、キーボードの操作はすべてできる。また、50音配列が選択できるから、JIS配列を覚える必要がない。


印刷は、FAX用の感熱ロール紙を壁から吊って、カット紙を供給する手間を省いている。

但し、必要があれば外したり、リボンをセットして貰ったりする。また、ハガキなどに印刷する場合、手間がかかり、あまり機能的ではない。

その他、イメージ・スキャナーの使用は、介助を要するので有効ではない。

通信機能は、コミニケーションの手段として、特に有効であることが後にわかった。


このワープロを、書見台の左横、作業台の左端に備え付けている。


【③本機形態と設置環境】

キーボードは、専用の傾斜台(30度)に乗せ、アクセスしやすい角度にしてある。この角度は、入院中に、既に、経験的に、割り出している。当時は、brotherのpicowordであった。

ワープロ本体は、10㎝角材の上に乗せ、9インチのCRT画面がほぼ「目の高さ」に来るようにしている。


この画面の右横に、左から、フロッピーを3枚収めることができる「ポケット」と、右上の角にフロッピーの取り出しスイッチの付いている「ドライブ・デッキ」。

更に、右横の上には、画面の明るさの濃淡を縦に調節させる「ツマミ」と、その下には「電源」がある。


「ウイ―ン。」電源の[入・切]やフロッピーを交換するポジションへ、アプローチする。ワープロを打つポジションより、電動車椅子の半分ほど右である。


【④ハンドリング・デイヴァイス ⅰ.電源[入・切]】

キーボード専用台と書見台の傾斜板の間から、1本風変わりなマウス・ステイックが飛び出ている。やはり、割り箸でできているのだが、2本使ってダブル・サイズである。

これを、口にくわえ、このマウス・ステイックの「左先端」(先端は、両端ある。)を電源のスイッチの「入」側に合わせて、首を前に突き出す。


「パチッ。」電源が入り、ビズイ-・ランプが赤く点灯する。


全長は、約34cm。キーボード越しに電源を[入・切]したり、フロッピーを交換するにはこれぐらいの長さがいる。


画面が段々と明るくなり、〈システム・フロッピーをセットして下さい〉というメッセージが出る。

その下に、ワープロ本体と、それにフロッピーを持っている右手が点滅をしている。


フロッピー・ポケットには、システム・フロッピー1枚、文書フロッピー1枚、通信プログラムが1枚。適当に、入っている。


【④ハンドリング・デイヴァイス  ⅱ.FD交換マウス・ステイック】

このワープロは、ドライブ・デッキが1つ。利用者が、システム・フロッピーで作成した文書を登録する時など、文書フロッピーに「差し替える」必要がある。

その他、オプションを見ると、住所録管理やワープロ通信のシステム・フロッピーがあり、用途別にフロッピーを交換して使う。


つまり、フロッピーの「出し入れ」ができないと、このワープロの威力は半減する。そこで、介助を受けなくてもフロッピーの交換ができるようなハンドリング・デイヴァイスを考案するに至った。

これにより、自由に一人で、任意、タイムリーな「フロッピーの交換」ができるようになる。機能的である。


システム・フロッピーのセット及び交換は、電源を入れたマウス・ステイックで行う。

マウス・ステイックの先には、直交に「クギ」が付いていて、フロッピーに細工した「ストロー」に、下から通す。

フロッピーを引っ張り出し、ドライブ・デッキにセット。

このハンドリング・デイヴァイスは、オスとメスの「1対」なのである。


【④ハンドリング・デイヴァイス  ⅲ.メス側フロッピー】

メスとなるストローは、フロッピーの左面に接着したプラスチック板の左側手前にテープで巻き付ける。


[工作 1]


ストローは200ccパック・ジュースのストローを1/3にカットしたもの。


プラスチック板は、プラモデル屋で入手。厚さ0.1mmのプラ板を縦2.5cm×横2.8cmにカット。色付きの物は接着させやすいが、温度変化に弱く、夏場に変形して、接着が壊れた事があるので避ける。


接着剤は、非速乾性の接着剤。瞬間ものだと、つきが硬く、以外とモロイ。フロッピーの左面に、上から1cm下げて、手前は0.8cmセリ出させて、接着する。


テープは、塗装などに使う目張り用のテープが、しっかりしていて良い。カットしたストローをこのセリ出しの左側手前で、カドカドをキチキチに捲く。特に、ストローの上側を意識して固定するのが良い。


首を前に突き出し、1枚だけ、出せるように、「コトッ、コトッ。」クギを通しやすいように、システム・フロッピーの位置をずらす。

音もなく、時には簡単に、時には面倒に、ストローの穴にクギが通る。

ストローの下を、斜めにカットすると目標が定まりやすい。


姿勢を戻しながら、「スーッ」。

フロッピーを引っ張り出すと、少しもたげた感じになる。

首を右に振ると、「カタ、カタッ。」

マウス・ステイック先端に付けた「両脇のストッパー」が、利いている。オス側のマウス・ステイックにも、工夫があるのである。


【④ハンドリング・デヴァイス  ⅳ.オス側マウス・ステイック】

オスとなるクギは、割り箸に挟んで、輪ゴムで縛る。更に、マウス・ステイックは、フロッピーをブラ下げた時に、回転しないように「両脇にストッパー」をつける。これが先端でもある。


マウス・ステイックは、割り箸を2本使用。1本は、モトとなり、もう1本は3つのパーツに分かれる。


[工作 2] ~マウス・ステイック作りタイプ2~


クギは、1寸クギ。モトとなる割り箸の「先割れ」から0.5cmに、直角に挟む。固定は、輪ゴムで。縛り付けるだけなので、クギはある程度フリーである。

メス側のストローの上のテープが邪魔だったら、クギはストローより短く切断する。


ストッパー。パーツとなる割り箸を、先割れ5cmで折り、モトとなる割り箸尖端部の両脇に接着すると、左右の先端になる。ストッパー間のマタ幅は、0.7cm。

左先端は、モトとなるマウス・ステイックの先から1.2cm。右は、0.7cm程飛び出させる。左右差を、0.5cm程にすると、フロッピーを装着する時に都合が良い。


残ったパーツは、モトとなる割り箸の他方に継ぎ足し、噛む部分となる。固定は、ビニール・テープなどで十分。


デッキに、フロッピーを差し込み、途中で、クギを外す。

マタの部分で、押し込み、左先端で、更に押し込むと、フロッピーは、右にスライドしながら、「カシュ。」と、デッキに装填され、ドライブする。

画面では、手に持ったシステム・フロッピーがデッキに飛び込み、メッセージが、〈プログラムを読み込んでいます〉に変わる。

「コッ、コッ...。」という音とともに、〈10.9.8.7.6.5...〉と、カウント・ダウン。

フロッピー交換マウス・ステイックを「受け」に休める。


【④ハンドリング・デイヴァイス  ⅴ.マウス・ステイック受け】

マウス・ステイックの噛む部分から、およそ10㎝の部分に、「洗濯バサミ」を挟む。この洗濯バサミを、「受け」にかけると、スタンドの代りになる。

受けは、書見台の傾斜板左、上からおよそ20cmの高さに挟んだ「デカ洗濯バサミ」である。


〈...5.4.3.2.1.0〉プログラムの読み込みが終わると、画面中央に、フロッピーが出現。

反転して、画面上に文書名が飛び出し、画面右に、用紙数枚が出現し、前回開いていたページが、下から抜かれて、画面左に、拡大されて、前回開いていた枠が反転。

文書名以下、画面が変わって、枠が開く。

文書枠は、前回打ち込んだ「文字」が、上から、順に敷きつめられる。

画面下と右に、メニューが現れる。

これで、キーボードから文書を打ち込める状態である。


「ウイ―ン。」電動車椅子のポジションを移す。

「ツタッ、ファッ。」

「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、トッ、ピッ。」

「ウイ―ン。」


少し、右斜めにアプローチするのが習慣。こうすると、正面よりも、すべてのキーにマウス・ステイックが届きやすい。


「ツタッ、ファッ。」電動車椅子は、電源ON。

「ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、トッ、ピッ。」

マイコン・セレクターは、BACKのみ点灯。

HIGHを入れれば、いつでもバックできる状態。本を読むポジションと同じである。


【⑤ワープロ打ちポジション/キーボード専用台】

キーボードの大きさは、縦18cm×横38.5cm。全部で、50キーで、6段に分れる。そのまま平のテーブルに置くと、マウス・ステイックの先が遠くの段に届かなかったり、「スミッこ」に届かなかったりする。

そこで、キーボードを専用の傾斜台に乗せると、遠くの段にもマウス・ステイックが届くようになる。

更に、キーボードの左右、上の各スミを見比べると、左のキーが右より遠くにある。そこで、電動車椅子でアプローチする時、少し斜めに、ポジションを取ると、キーの距離的なバランスが取れる。


[キーボード専用台]


キーボードの専用台。台部の底上げは、5cm。傾斜板は、縦21cm×横45cm。傾斜角は、30度。ステイック・スタンドは、専用台の手前側、キーボードの右横に設置している。


首を右に振り、マウス・ステイックをくわえて、最も遠い左上の[選択]キーを押す。比較的、楽である。


本来なら、ポジショニングは、この位置で電源をONにしたり、フロッピーの交換もできれば良いのだが、「受け」の位置の関係もあって、そうはいかない。

ワープロを打つポジションでは、ステイック・スタンドに立てたマウス・ステイックを「くわえたり」、「戻したり」できて、キーボードのすべてのキーが押せればいい。

目安は、この左上のキーである。


【⑥マウス・ステイック・アクテイブ/片手操作】

マウス・スティックで、[選択]キーを押す。すると、画面右下の入力モードを表示する「小窓」から、画面中央に〔入力モード設定〕のウインドウが飛び出す。


 【入力モード設定】

⇒    J I S/[50音]

    両手操作/[片手操作]

   [か な] /ローマ字

[逐次変換] /一括変換

  このウインドウの意味は、
← キーの配列が、50音順で。
← シフトは、同時押し下げではない。
← ひらがなの入力で。
← 変換方式は、逐次。

である。


高位頚損にとって、シフト・キーなどの問題は、物理的に押し下げる「シフト・ロッカー」でも十分だが、敢えて、『片手操作』のできる機種を選んだ。

それゆえ、このモードで入力をするのが習慣だが、必要に応じてシステム・フロッピーをコピーすると、新しく作成されたシステム・フロッピーは、モード設定前になっている。


このシステム・フロッピーで、文章枠を開くと、入力モードは、


 【入力モード設定】

⇒ [J I S]/50音

 [両手操作]/片手操作

   [か な]/ローマ字

[逐次変換]/一括変換


と、なっている。


これを、自分向けに初期設定するのである。


まず、「→」のカーソールで、「JIS」の反転を「50音」に移す。

次に、「↓」のカーソールで、「⇒」マークを2段目に下げ、「→」のカーソールで、「両手操作」の反転を「片手操作」に移して、選択。

[実行]キーを押すと、ウィンドウが小窓に飛び込み、自分向けに設定した入

力モードが小窓に表示される。


こうして、指1本に代わるマウス・スティックで入力できるよう、片手操作を選択したり、必要に応じてフロッピーを交換できる。ワープロは、本来の利用価値を取り戻すのである。


ワープロの各機能は、[1]から[10]のファンクション・キーを押して、メニューの選択を行う。

メニューは、階層になっていて、[6]から[10]のメイン・メニューを選択すると、各メイン・メニューごとに、[1]から[5]のサブ・メニューが展開し、これを選択・実行するのである。


慣れないキーボード・アクセスも、今では、文章を頭に思い浮かべるだけで、そのキーの上に、マウス・スティックの先端が来る。

JIS配列を覚える気はなかったが、50音配列でなくとも、良かったなと思える程である。

キーボードも良く見ると、左上のキーが数個、所々、50音配列用に張ったキートップ・シールがハゲているのがわかる。


思えば、首の筋肉も随分とついたものだ。複圧帯の関係もあって、肺活量も増え、起立性の低血圧もあまり起きないようになった。

また、少しまとまった時間、ワープロを打つようになって、思考力も回復した。


後は、印刷の問題だけである。


文章を打ち終えたら、メイン・メニューの『終了』を選択・実行して、ファイルを閉じる。ファンクション・キーは、[10]である。


「フィーン。」


ビズィー・ランプの点灯とともに、デッキがドライブし、画面には、<データをフロッピーに格納しています。少々、お待ち下さい。>

とメッセージが出る。


「フィーン。」


もう1度、ドライブして、画面は、左半分に用紙のイメージになり、メニューも切り替わる。文章枠を開く時に、通り越した画面である。


打ち込んだ文章を印刷するには、メイン・メニュー『現在文章』を選択、ファンクション・キーは、[7]。サブ・メニューが切り替わって、ファンクション・キー[4]の『印刷』を選択。ウィンドウが開いて、カーソールで印刷の種類を選択・実行。


すると、

「ウィン、ウィン。」

「ガー、カタッ。」

「ガー、カタッ。」

「ガー、........」

と、印刷が始まる。


【⑦印刷/感熱ロール紙と吊り具】

印刷は、熱転写とリボンが使える。しかし、ハガキを自動給紙するオプションもなく、印刷に関しては高機能ではない機種と言えるだろう。

用紙は、高位頚損の障害状況と介助の手間、そしてコストを考え、FAX用A4の感熱ロール紙を使うことにした。


その理由を述べる。

第1に、大量に印刷する場合、カット紙はセットに手間がかかる。

第2に、リボンはコストがかかる。

問題は、本機には、ロール紙を巻き取るオプションのないこと。

そこで、感熱ロール紙をぶら下げる「吊り具」を考案するに至った。


【吊り具】


前提条件は、本機を壁際に備えて置くこと。ロール紙を吊り下げて、無理のない給紙ができるためにである。

吊り具の部品構造は、「丸棒」と「ヒモ」と「リング」。

実際には、ロール紙の芯に空いている穴に、直径8mmの丸棒を通す。

丸棒の左端は、直接ヒモで結ぶ。右端はミゾを彫って、先に、ヒモを直径4cmのリングに結んで、これをミゾにかけている。

ロール紙の交換は、「ただ、リングを外せばいい。」のである。

ちなみに、100mロールの芯の内径は2cm。25mロールは、1cmである。

これで、カット紙の随時供給の心配はない。


残る問題は、印刷された紙である。カット・アウトは、介助を頼むとして、打ち出された紙は、ワープロの手前にナダレ込んでくる。これを、手前に来ないように、タブル・サイズのマウス・スティックで、ワープの右横に流しているのだが、これに難儀しているのが現実である。今後、対処を考えたい。

この問題に関しては、問題のない機種もあることだろう。


【④ハンドリング・ディバイス  ⅵ.ポケット】

サイド・ポケットは、市販の3~5枚組フロッピーのハード・ケースを再利用している。

[3枚ポケット] 何ら加工することなく、外ケースに内ケースを重ね合わせただけである。

これをカーペット(両面)で、ワープロ右側面、デッキと同じ高さに位置を決め、更に上から布タイプのガム・テープで固定している。

[8枚ポケット] 更に、2組あると、外ケースどうしを合わせて、8枚ポケットができる。

但し、固定時、ポケットの下側の手前部分が、外ケースの形状上「カット」になっているので、ガム・テープを張って、これをカバーする。

また、フロッピー自体が重いので、ポケットの固定が崩れない様に、何らかの支えを必要としている。


【④ハンドリング・ディバイス・セット  ⅶ.寸法など】

「メス側」 フロッピー・ディスク

プラ板 縦2.5cm、横2.8cm、セリ出し0.8cm。

接着部 縦2.5cm、横2.8cm。

接着剤 非速乾性。

テープ 塗装用目張りテープ。


「オス側」 専用マウス・スティック

全 長   33.7cm(両先端を除く)

ストッパー 左右5cmづつ、左先端 1.2cm、右先端 0.7cm。

下アゴ   0.5cm、マタ幅0.7cm。

1寸釘   輪ゴム、接着剤、テープ。


[スティック・スタンド]

受け  デカ洗濯バサミ、書見台の傾斜板上から20cmの高さ。

カケ  洗濯バサミ、マウス・スティックの噛む部分から10cm。


[サイド・ポケット]

市販の3~5枚組フロッピーのハード・ケース

3枚ポケット  内ケースとケースの重ね合わせ。

固定方法    カーペット・テープ、布ガム・テープ


8枚ポケット  外ケース2つの組み合わせ。

固定方法    カーペット・テープ、布ガム・テープ、台(支え)。


固定位置    ワープロ本機のフロッピー・ポケットの高さ。


【⑧ワープロ活用のまとめデータ】

キーボードの分離。キーボード専用台の傾斜角30度。

本機条件 正面に、電源。デッキは、正面かつ縦(注)。片手操作可能。

印刷は、吊り具(丸棒・ヒモ・リング)にて、感熱ロール紙を使用。


注)フロッピー交換用ハンドリング・ディバイスの「データのまとめ」は上記【④ ハンドリング・ディバイス・セット ⅶ.寸法など】にて。

高さなど、より詳しい設置環境は、「第四章 マウス・スティックの環境整備と条件作り」にて、後述する。


以上のように、ワープロを選び、フロッピーなどの残る問題を解決するとそのワープロの用いるすべての機能をフルに活用することができる。

これにより、ワープロは、ただの書字のための文房具だけでなく、メモを取ったり、文章を作成・校正することで、思考能力を高め、あるいは住所録管理も可能になり、強いては、ワープロ通信という新しいメディアによる外部とのコミニケーションも、はかれることになる。


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