レポート ザ・ケーススタディ


【入浴/介助】

「レポート ザ・ケーススタディー」

■生活スタイルその2 乗車編(2)「第三段階」

第3編 介助編「Ⅷ.入浴/介助」

はじめに

ここまで、高位頸椎損傷者の「生活スタイル」やその「環境の様」を、本人を主体に、ベッド編や電動車椅子編として、その日常生活動作(ADL)をレポートしてきた。

しかし、ベッド上においても、家族などのよる日々の介助(デイ・ケア)は必要不可欠なものであり、また電動車椅子への移乗(トランスファー)には種々雑多の介助(詳しくは、TVセット・アップ」参照。)も合わせて必要になる。

トランスファー・システムには、有力な「介助機器」として、天井走行式のリフター(詳しくは、「Ⅳの電動ホイスト」参照。)を使用しているが、このリフターは、入浴の介助にも転用される。

入院期においては、それからの生活スタイルをイメージできない事が多かったが、「入浴」についても、それは同様だった。


本編では、「介助編」として、第1章にその「入浴介助」を。合わせて、便宜的ではあるが、第2章に「ナイト・ケア」を中心にレポートする。



第1章 入浴介助

〔居室と浴室〕

リフターのレールは、ベッド上で90度カーブ(Rレール)し、そのままストレート(Sレール)に浴室まで設備されている。

居室と浴室の仕切りは、アコーディオン・カーテン。両側から閉じる形式なのだが、浴室は蜜室になっている訳ではない。

夏場は、除湿に気を使い、入浴後に窓を全開にしたり、あるいは集中的にクーラーをかけたりする。


レール設置では、介助者の使い勝手を優先して、第一にトランスファー時の介助者と乗車ポイントとの位置関係を配慮したが、その他に「居室と浴室」や「浴槽とレール」との位置関係や、できれば湿度などの「住環境」をも、同時に考慮すべきだったと思う。


入浴の頻度は、現在のところ、5日に1度くらいである。介助者との兼ね合いもあり、それぐらいとなっている。

時間的には、夜、寝る前。12時過ぎに、母親がエレベーターで降りてくる。


【①下準備】

「お風呂、入る元気ある?」

「うん、・・・。ベッド、作ってて。」

よくある事である。マウス・スティックを口にくわえ、ワープロを打ちながら答える。

日によって異なるが、時には、ベッド横で、リクライニングしてテレビを見ていたり、書見台で本を見ている事もある。


「・・・。」

ワープロを打ち続ける。その背中越しに、介助者が入浴向けのベッド・メイキングをしている。


ⅰ.ベッド・メイキング(以前)


ベッドの状態は、背もたれがギャヂ・アップのまま。

ECSの呼気スイッチも、朝、セット・アップしたままの状態。

シーツは、頭の部分が、色がかわっている。唯一、汗をかく部分である。


ⅱ.ベッド・メイキング(前/ナイト・ケア兼)


介助者は、背もたれの後ろに回り、ベッド・フレームに乗り、シーツをはがす。

ベッド作りは、シーツ交換の前に、まず呼気スイッチを反対側の「壁寄り」に

セットし直す。こんな時、電話がかかってくるとアタフタしてしまう。

 シーツ交換は、そのまま背もたれの上から。マットとエァー・マットの間に

挟み込み、残りはベッドを下げてから・・・。


介助者はベッドの横に回り、ギャッジ・ダウン。

「ウイーン。」

「ツタッ。」一杯。

シーツの足元側も、マットとエァー・マットの間に、敷き込む。


ⅲ.ベッド・メイキング(後/入浴専)


ベッドは、フラット。シーツもキレイに敷かれた状態。このまま、風呂上りの身体が横になると、ベッドはグショ、グショになってしまう。

シーツの防水には、アメジストを2枚。シーツを被せたベッドの上に、これを縦長に、真ん中を重ねて敷く。

そして更に、その上に、身体についた水分を吸い取るために、バス・タオルを2枚、同じ様に敷く。


これで、下準備はできあがり。


「できた?」背中越しに、やはりワープロを打ちながら確認する。

「いつ、終わるの?」

「ン?ジキ・・・。」


【②脱衣】

電動車椅子のポジションは、下車・停車ポイント(詳しくは、次章「ナイト・ケア」にて後述)。


「ツ、ツ、トッ、ピッ。ウイーン。」

「ツタッ。」とフル・リクライニング。

まず、脱衣の前。


介助者は、左右両手のベルクロを外し、両腕をフリーとする。

左手も、その後の改造で、スライド・パックを採用した。


「ダラリ。」左手が、電動車椅子のフレームから落ちている。肩が、ルーズ・レンジなのである。


右手は、対象的で、肩周囲の筋肉が比較的回復しているので、その力で、腕を振り回す事ができる。

硬くなりがちの肩関節が、時たま「パキッ。」となり、少し気持ち良かったりする。ROM(range of motion)エクササイズの真似事である。


 その間、介助者は、電動車椅子の右横にしゃがみ込み、バルン・カテーテルからハルン・ホースを外してカテーテルに栓をロック。


自動運動(エクササイズ)中、右腕のコントロールを失うことがある。

「痛い。」介助者の頭にあたる。

「あっ、失敬。」人の手は、結構、重い。


介助者は、立ち上がって、ジャージのハルン・チャックを開け、そこからバルン・カテーテルを戻して、腹の上から出す。

そして、脱衣。


最初に、ズボンと、レッグ・ウオーマー、T字帯。


介助者は、リクライニングした電動車椅子のフット側にまわり、両ステップを開く。足は、カカトが落ちた感じ。

介助者は、ジャージ(ズボン)の腰の部分に手をかけ、引きずり降ろすようにジャージを脱がす。


「ズリッ、ズリッ。」ジャージが脱げるごとに、身体も下がる。

こういう脱がせ方は、「あまり、好きではない。」と思いつつ、介助者が「楽ならいいか。」とも思う。


天井に、身体が下がった分、リフターのレールが真上に見える。


介助者は、脱いだ物を、テキパキと所定の場所にたたんでおく。

洗濯物は、エレベーターの中のポリ・バケツに放り込む。

T字帯だけは、ヒモをといて、お尻の下に残しておく。


次に、上着とTシャツ。

介助者は、上着を着せた時と同じ要領で、しかし、反対の行程で、これを脱がす。


洋服を脱ぐと、リラックス。同時に、ズリ落ちた状態でいる電動車椅子の居心地が悪い。足の重みが、身体を引っ張っているのである。


【③ハング・アップ/バス・ルームへ】

その、リラックス感と居心地の悪さを感じたまま、イヨイヨ吊り上げである。

介助者は、所定の場所から、風呂用のスペアの吊り具を取り出して準備する。

これは、2本とも普段の物と同じである。

使用後は、通常、乾いてから、エレベーター内の定位置にカケている。


i.吊り具のセット


通常のトランスファーと同じである。

介助者は、所定の位置からリモコンを取り出し、ハンガーを降ろす。


「ガーッ。」ハンガーが、滑り落ちるように下がる。

ドンドン、顔に近づいてくる。中々の重量感で、圧迫感さえある。


「ダッ。」程よい高さで、ハンガーを止める。

これをワイヤーごと、斜めに足元の方へ引っ張りながら、「カチン。カチン。」「カチン。カチン」と、左右それぞれのフックに、「平」、「アンコ付」の順に輪をかける。


ハンガーは、ワイヤーが足元の方へ、随分と斜めである。

その代わり、顔面への圧迫感ない。


ⅱ.ハング・アップ


介助者は、そのまま、リモコンを操作する。


「ガーッ、」徐々に、ヒザが持ち上がり、

「ガーッ、」身体が、電動車椅子に触れている面積が少なくなるに従い、

「ガーッ、」斜めのワイヤーが、徐々に、垂直に。

「ガーッ、」身体が、後ろにズレるように、上がっていく。

「ガーッ、」お尻が離れると、両肩に体重がかかり、

「ツタッ。」全部、上がり、上を向いて2、3度、深呼吸。


背筋のストレッチ。洋服を脱いだ時は、違うリラックスである。

目を落とすと、両太股が、お腹を圧迫しているのがよく分かる。


ⅲ.リフターの走行、ベッド上まで


介助者は、リモコンの走行ボタンを押し、リフターを走らせる。

「ゴロッ、ゴロッ…。」Rレールを、カーブした頃に、手を休めると、リフターの走行も止まる。


視線は、左斜め下。電動車椅子の、シートにT字体。これは、洗濯物入れへ。

真下には、ベッドの上に用意されたバス・タオルなどが見える。


ⅳ.リクライニング・アップ


介助者は、電動車椅子が、動き回るのに邪魔になる。


「ツ、トッ、ピッ。」頭部エアー・ブローを3回連続して押すと、

「ウイ―ン、」

「ツタッ。」バック・レストは、起き上がる。


機会は、誰にでも、素直に反応してくれる。


この様に、介助者もが操作する場合、マイコン・セレクターだけでなく、介助者用のダイレクト・スイッチがあると便利である。


ⅴ.電動車椅子の駐車


介助者は、下車ポイントにある電動車椅子を正面から、真っ直ぐに押し下げる。そこが、駐車ポイント(詳しくは、次章にて。)である。


「ツトッ。」介助者は、電動車椅子の電源を落とす事も忘れない。


ⅵ.リフターの再走行、浴室まで


「ゴロッ、ゴロッ。」

「ゴロッ…。」ところが、リフターが途中で止まり、電源も落ちる。レール内の銅線に、緑青が吹き出て、絶縁状態を起こしているのである。

この場合、レールを紙やすり付棒で磨いてやれば良いのだが、面倒なので、介助者は、「エイ。」と力づくで、浴室まで引っ張り込んでしまう。これも、一つの生活の知恵だろうか。


【ケア・カーテンと浴室】

浴室に入り、ベッドの方を向くと、浴槽は背部になる。

窓は、2つ。左側には、汚物処理用に設けた様式便器がある。


そして、前方の視界にはベッド。その右横には、居室の残りの空間と、その奥には玄関用の自動扉(詳しくは、「X住宅設備改善」にて後術。)が見える。

入浴介助に際して、居室と浴室を、アコーデイオン・カーテンで仕切ることはしない。閉めれば、介助にはならない。


誰かが来ると、チト失礼である。


そこで、ベットと居室の残りの空間を遮る[ケア・カーテン]を用意した。これを閉めると、部屋は、浴室とベットの空間と、残る居室の空間とに分れる。これならば、突然の来訪者に対しても失礼にはならない。


最低限のプライバシーである。


【④シート・タッチ/洗髪】

いよいよ、入浴介助である。初めは、シャンプーから。


ⅰ.シート・タッチ


「ガーッ。」洗い場に敷いたフロ・マットにお尻が近づく。

「ストップ。」お尻が、マットに着いたと思う瞬間に声をかける。

「ズタッ。」やや、お尻に体重がかかっている。ちょっと、下げ過ぎである。

「ちょい、上げ。」

「ズタッ。」お尻は、マットには接触しているが、体重は感じず、代わりに、両肩に程よい「くい込み」を感じる。これでいい・・・。

「いい?」

「うん。」


この姿勢は、両太股が、お腹を圧迫している。頭から、熱めのシャワーを浴びても、起立性低血圧は起こりにくい。


シャンプーは、この吊ったままの状態で行う。


〔参考

シャワー椅子などは、洗い場が狭い上に、体幹保持用に安全ベルトなどを必要とするので、敢えて使用してはいない。

身体を洗う時には、座位バランスを取る為、後ろの浴槽にフロ・マットを立て掛けて、これに寄りかかる事にしている。


ⅱ.シャワー


「シャー。」介助者は、自分の手首で温度をみる。熱くなったり、ぬるくなったり。実際にかけるのは、温度が一定してからである。

これは、リハビリ病棟で教わった。


 右の手の平を見ると、血管が網の目のように見える。軽い欝血。早くも、吊り具の影響が出ている。しかし、肩への負担は、それほど感じない。


「シャー。」頭から、シャワーがかかり、伸びた髪に浸透していく。

「ボタ、ボタ。」マットに落ちる音がうるさい。

テレビも聞こえない。

こんな時の電話は困る。


「シャー。」

「もうちょい。」シャワーの温かみが、脂っぽさを溶かしていく。

顔に伝わるのも、気持ちがいい。

冬場、頭の芯が冷えていると、これほど気持ちの良いものはない。

真冬、夜中に走って、凍えた身体に缶コーヒーが暖かった事を思い出す。


「いい?」

「うん。」


頭から、お湯をかぶる。これは、入院期のハーバード入浴ではできないことだ。

髪は、オール・バック。当たり前の様に、寝癖がとれるのが不思議にも思える。

気のせいか、頭皮も毛根もスッキリして、頭も「軽い。」感じである。


ⅲ.シャンプー


「チュパッ、チュパッ。」シャンプー・ボトルのプッシュ・コックからシャンプー液を手に取る。


「シャカ、シャカ。」指の腹で、頭の地肌を擦るように、頭を、その髪の毛を洗う。その指の動きは、前後ではなく、左右の方が心地よい。


「ブラシ。」

「マダだ。」

「ブラシ。」


一通り洗髪がすむと、ブラシを通す。これが、又、地肌に気持ちいい…。ハズなのだけど、ブラシの毛足が、地肌まで届かない。髪の毛が伸びてきたのである。


「そろそろ、長くて洗いにくいなぁ。」髪を切れと催促する。

「ボチボチだけど、もう少しだな。そしたら、また、カット頼むから。」無精ったれなのである。


再度、シャワーをかける。先ほどより、地肌へのシャワーの染み込みがキツクなる。


「フーッ、フーッ。」シャワーが終わって、2、3回、大きな息をつく。シャワーで上がった体温を、無意識に息を吐いて下げているのだろうか。

深い深呼吸のおかげで、妙に気合も入る。


ⅳ.顔ぬぐい


顔は、濡れている。これを、タオルで拭う。オデコと、顔の両脇と、もう1度、額の両脇を。


ⅴ.リンス


続け様に、「チュパッ、チュパッ。」今度は、リンスをボトルから手に取る。手で揉み込み。やはり、オール・バック。

流すのは、身体を洗った後である。


【⑤シート・ダウン/身体洗い】

ⅵ.シート・ダウン


次は、身体洗い。お尻を、洗い場に落として洗いやすくなる。


「ズウーッ。」介助者が、手で、リフターを押し込む。

背面の浴槽には、フロ・マットが立て掛けてある。


「ガーッ、」ヒザを押し込みながら、お尻を、フロ・マットに降ろす。

「ガーッ、」肩の負担が減り、お尻が十分に着く。

「ガーッ、」ヒザが左右どちらかに傾く。その前に。

「ガーッ、」両足首を持って、

「ガーッ。」両脚を伸ばす。それと同時に、背中も浴槽に寄りかかっていく。


ⅶ.アカすり


「ジャバァ。」湯船から、お湯をくむ。

「シャコ、シャコ。」介助者は、しゃがみ、石鹸でアカすりを泡立てる。


ⅷ.身体洗い


まず、首筋。耳の裏側など。

胸。お腹。下腹。

そして、マエ。ここは、素手。

次に、両脚。ここまでは、介助者の踏ん張りは、それほどでもない。


そして、一度、石鹸を付け直す。

洗面器に、浮くアカ。

身体は、不自由なのに、アカが普通に出るのは、どこか不思議にも思える。


背中。


「ヨイショ。」肩のシッカリしている右腕を引っ張って、背中を起こして洗う。

不安定な感じはあるが、リフターで吊っているので、不安はない。

見えないが、おそらく、介助者は、踏ん張っていることだろう。

洗ったら、「トン。」背中をマットに寄り掛け、座位を戻す。


次は、右腕。


介助者は、踏ん張り、手を引っ張りながら洗う。


すると、「ズリッ、ズリッ。」背中が浮いて、バランスが右に傾く。

傾いた上半身のまま、右腕を見ると、腕毛と石鹸が模様を作っている。


かなり、バランスが崩れる。

「アレレッ。」と言っておくと、介助者自ら一度は戻す。


「ズリッ。」しかし、また傾く。

シーテイング・ポイントが、ずれてしまっているのである。

後は、そのまま、である。


そして、左腕。


「手、前に、引っ張って。」上半身を左寄りにして、バランスを取る。

左肩は、亜脱臼なので、介助者は強く引っ張ることはできない。故に、介助者は、一歩、より深く踏み込むことになる。


ⅸ.洗い流し


最後に、石鹸を洗い流す。洗面器で、湯船から湯を汲み上げて、身体にかける。そして、シャワーも。


【⑥シート・アップ/臀部洗い】

ⅹ.シート・アップ


残り。お尻は、リフターを上げて洗う。


「ガーッ。」

「タッ。」宙吊り。

「クルッ。」介助者は、肩を押して、向きをひっくり返す。


お尻には、アカすりを使う。

但し、お尻が疲れて、傷などがある時には、素手で行う。


これぐらい経過すると、肩のくい込みが結構キツクなる。


終わって、また、前に向け直す。


ⅺ. リンス流し


再度、シャワー。


「ガーッ。」高さを戻して、先ほどのリンスを洗い流す。

やはり、気持ちよい。


「うん。」ついでに、口を開けて、ウガイをしたりする。

口にシャワーのお湯を含み、鼻から息を抜き、上を向いて、勢いよく。

「ガラッ、ガラッ。」これを、2、3度、繰り返したりする。


ⅻ.顔拭い


タオルを広げて。後ろから。頭を包み込むように、拭く。


子どもの頃は、風呂上がりに、大きなバス・タオルで頭を拭いて貰うと、息苦しかった事を思い出す。何故だろう。


そして、顔、オデコ、顔の両横、額の両横も拭く。


ⅹⅲ.ロック解除


尿。湯船につかる前に、カテーテルのロックを外して、便器に流す。


「コポッ、コポッ。」落差があるので、音がする。

不思議と、派手な音を聞くと、妙に安心したりする。

この時、キレが悪いと、カテーテルが詰まりかけていると判断できる。


その後、キチッとシャワーをかける。


【⑦バス・イン】

ⅹⅳ.バス・イン


「ガーッ。」リモコンで、ハンガーを吊り上げる。

「タッ。」一番、上。

「ズッウッ。」リフターを、力で押し込む。距離は、それ程ない。


レールは、一杯。下を見ると、湯船の上。


対角線に。


介助者は、身体を斜めに保持。足は遠く、背中は近く。


「ダッ、ガーッ。」浴槽に対して、斜め、対角線上に入るのである。

「ガーッ。」徐々に下がる。

「後ろ、押して。」蛇口に、ぶつかる前に声をかける。

「ガーッ。」背中を押して、腹を前に出す。


ポイントが、ずれているのである。リフター設置に際して、今一つ、配慮が欠けていた。


「ガーッ。」身体が、潜る。ズリ、ズリ、ズリッ。

「ガーッ。」足は、コーナー。浴槽のフチから下、内壁に踏ん張っている。

「ガーッ。」身体だけ、下がる。


アンバランスである。

「ストップ、足。」十分に下がる前に、声をかける。


「ダッ。」残った足を、

「クイッ、クイッ。」介助者が両足首を押し込む。


「ハイ。」上体とのバランスは取れた。

「もう少し下げる?」

「チョイ下げ。」


「ダッ。」

「ストップ。」やや、湯船から肩が出た感じ。更に下げれば、のぞける事になる。


ヒジ張り。


湯船につかる姿勢は、浴槽に対して、対角線上。ヒジは、両方に張っている。吊り具は、適当に、たわみ。お尻は多分、浮いている。


このイメージになる様、身体と浴槽とのアタリを加減する。


「右、タオルかまして。」張った腕に、クサリのつなぎボッチが当たっている。

「左手、前出して。」左肩を一旦浮かせ、下がった左腕を浮かせてから、浴槽とのアタリを直す。ほぼ、いつものパターンである。


湯船にてリラックス。


「フーッウッ。カガミ。」これも、習慣。風呂場に置いてあるカガミを石鹸で洗い、シャワーで流す。湯垢がついていると、クモって見えないのである。


「はい。」正面にカガミ。目頭の下に、メガネのアト。障害前より、ヒゲが濃くなっているのが、気になる。

「いいよ。」カガミは、直ぐにクモってしまう。


「肩、シャワーかけて。」背筋の痙性が強いと、肩がこる。これを、触る程度でほぐして貰う。

「痛て、て。強い、強い。」


終われば、シャワーは湯船の中に。


「シャワー、熱いな。」介助者は、背と手を伸ばして、操作盤のメモリを加減する。


足を見ると、スネの毛に、ビッシリとアワがついている。水茂のようだ。


ⅹⅴ.手アカこすり


入浴で、やらねばならないこと。それは、「手の平」と「足の平」をこすること。入院期以来の、付き添い婦による習慣である


軽石でも十分なハズだが、母は「手の方が、感じが分かる。」と言って、自分のツメで私の手の平をこすり、アカを落とす。当然、アカは、湯船の中。

湯は、次の人のために落とす事になる。


まず、左手。介助者は、ヒザを浴槽にあてて踏ん張る。腰が辛くなると、腰をのばす。2、3度、これを繰り返す。

次は、右の手の平。

そして、左足の平。これも、辛い。

とどめは、右足の平。 「フーッ。トン、トン。」


「未だ、入ってる?」

「熱い。」つかりたければ、まだ湯船で温まることはできるが...。

「出る?」

「上げて。」余程、ぬるいお湯でないと、そんなに、つかってはいられない。


【⑧バス・アウト】

xvi.バス・アウト


「ガーッ、」身体が徐々に上がって行く。

「ガーッ、」ズリッ、ズリッと足も上がる。

「ガーッ、」介助者は、左腕を持ち、

「ガーッ、」お尻が出たら、引っ張る。

「ガーッ、」両肩に、負担がかかっていく。


「ストップ。」


「タッ。」

「ズゥウーッ。」吊り具を引っ張って、洗い場の上まで来させる。


xⅶ.上がり湯


 再度、シャワー。吊り具から、全身に至るまで。


xⅷ.お湯切り


脇の下の吊り具の、アンコの部分を「握る」様に絞って、含んだ水気を取る。

初めて入浴した時には、アンコの水気に気づかず、シーツを濡らした。

それ以来の習慣である。


xⅸ.バス・タオル


そして、バス・タオルで身体の水気を軽く拭き取る。


【⑨ハング・ダウン】

i.走行は、ベッド上まで


「ズゥウーッ。」軽く。介助者は、手で、リフターを引っ張る。

「ゴロッ、ゴロッ。」そして、リモコン。


ⅱ.走行停止


「ゴロッ。」Rカーブ手前で、止める。

Rカーブまで、走行させると、身体がベッドの中心からズレる事のなる。

理想のシート・ポイントより、下がってはいるのだが、

「ガッ、」そのまま、ダウン。


ⅲ.ハング・ダウン


「ガーッ。」介助者は、お尻をちょいと押して、シート・ポイントへ導く。

「ガーッ。」お尻がつく。


ⅳ.ダウン一時停止


「タッ。」

「・・・・。」中途半端の姿勢は、ちょっときつい。


ⅴ.少し走行


「コロッ。」そのまま、Rカーブに向けて。


上体は後ろにそれ、リフターのワイヤーも、斜めに上体を吊り、足もその分、伸びて身体が開く。


ⅵ.再ダウン


「ガーッ。」更に下げると、

「ガーッ。」更に身体が開く。


介助者は、身体がずれないように足を持ってバランスを取る。


「ガーッ。」身体が、ベッドに沈んでいく。


「ダッ。」フラット。

身体は、バスタオルの上。肩の一部分、ホホや頭でそれを感じる。


ⅶ.吊り具の片付け


介助者は、ハンガーのフックから吊り具を外す。

そして、エレベーターの中ではなく、通常使用の所定の場所にかける。

床板の上で、一晩乾かすのである。


ⅷ.リフター本体とリモコンの片付け


ハンガーを上げ、リフターを所定の位置に戻す。

リモコンも同様、所定の位置に。


【⑩入浴後のケア】


ⅰ.身体拭き


身体についている水気を、再度、ベッド上に敷き込んだバスタオルで拭う。

腕、胸、腹、足など。


ⅱ.下準備外し


水気がなくなったら、ベッド上に敷きこんだアメジストとバスタオルを外す。

アンコの水気を、予め除いているので被害は少ない。


下側は、ズボンはきのように、ひざを曲げて、もう片方の足にかぶせるように、下半身をよじって外す。

上側は、気を使わずとも簡単に外せるものである。


ⅲ.着衣、Tシャツ


ベッドではTシャツのみ着る。


以下、その他のケアは入浴日以外と重なるので、ナイトケアとして次章に譲る。


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