財務情報の開示

会計基準の整備・確立を願って
市場経済のインフラ



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はじめに


銀行の貸し渋り、および融資回収ラッシュが密かに進んでいる。銀行筋は、「債券市場がもっと発達していたら、影響は和らげたのに」(三和銀行)という声が起きている。

というのは、米国の低格付け債市場では、97年末現在4千5百60億ドル(1ドル130円換算で、約59兆2800億円)に達する債券市場があり、銀行借入以外に債券市場から資金調達する手段があるからである。
低格付け債とは、信用力の低い企業も社債を発行して資金を調達できるというものである。有力格付け会社から、投機的グレード(ダブルBクラス以下)と評価されたり、それと同等の信用力の無格付けの債券のことで、かつてはジャンク(くず)債と呼ばれたが、イメージに気を使う米国では、ハイ・イールド(高利回り)債と呼ばれる。


日本にもこんな市場があれば、貸し渋りに直面した企業は、代わりに社債を発行できる。

日本では、「格付けがシングルBやダブルBクラスの企業は、銀行にとっては有力な貸付先。銀行が低利融資を競って売り込んでいたのに、高い利率の社債を発行しようなどと思うはずがない」(東京三菱銀行)
生命保険会社などの機関投資家の大半も、ダブルB以下の社債には投資しないという社内基準を持っている。低格付け債への投資は「購入本数を増やし、リスク分散をするのが基本」(野村證券)であるが、日本には分散投資に耐えうるだけの銘柄数がない。
「日本では社債が債務不履行になった事例が少なく、企業倒産後の社債の価値に対する統計データが全くない」(大和證券)。証券会社が低格付け債を売買しようにも、売値や買値をどう提示してよいか分からない。

以上は、1998年8月26日付け日本経済新聞に掲載の「低格付け債市場育成を−まず企業が情報公開を−」(編集委員 前田昌孝)と題する記事である。企業の情報公開を信用できない、会計士と企業の十分な緊張関係はお寒い限りと悲観的。市場作りの出発点は、企業の情報公開にあると結んでいる。

企業の情報公開のうち、財務情報は「会計基準」の役割であるが、日本の「会計基準」は同様にお寒い限りである。 企業を格付けしようにも的確な財務情報が開示されなければ精度の高い格付けはできないのである。

欧米諸国は、株式や債券を購入する投資家や企業に融資する場合、上場会社であると否とを問わず、その企業の財政状態及び業績、キャッシュフローの状況を開示させる制度が整っている。
財務情報の開示は、明確な「会計基準」を基礎に作成され充実した注記を含んでいる。また、その財務情報の信頼性を付与したい場合は、独立監査人の監査を受けるというインフラが整っているということである。

独立監査人が財務情報に信頼性を付与するには、情報開示の基準である会計基準が充実している必要がある。企業は基準に従って公平に開示すればよいのであって、独立監査人が任意で企業に開示を求めるものではない。独立監査人は会計基準ではない。もし、独立監査人が企業に基準に明示していない事項を開示を求めたとするなら、企業は「オピニオン・ショッピング」を行い他の監査人に変更し、結果として「会計基準の欠陥」に原因を見出すことだろう。会計基準は、知識・経験豊富な市場関係者を含めた者により、誰もが納得できる理路整然とした権威あるものにすべきである。


日本の場合は、会計基準のインフラは一部分は整いつつあるが、全体としてのインフラは脆弱である。
つまり、上場会社等については十分とは言えないが、証券取引法があるが、証券取引法から離れると、商法規定に準拠した商法計算書類が財務情報に使われることになり、証券取引上の財務情報の内容と質は極端に脆弱となる。証券取引法は、連結財務諸表中心になろうとしてるしキャッシュフロー計算書を含むが、商法は単独財務諸表中心であることと、単年度で単独財務諸表の公表で、かつ、キャッシュフロー計算書は含まない。金融機関が企業評価をしたり、格付け会社が、企業の格付けに使えるほどの情報開示であるか、はなはだ疑問である。

銀行依存高いほど経済危機深刻に

2000年7月12日、グリーンスパン連邦準備理事会(FRB)議長は、ニューヨークで講演し「金融仲介機能が銀行に集中している経済ほど危機が起きると深刻になる」と述べた。銀行依存型の経済の例として日本を挙げ「19990年代の不動産危機が銀行を通じて日本の長い経済低迷につながっている」との認識を示した。

同議長は、企業などに資金を供給する金融機能が銀行に集中する場合と、銀行以外の資本市場にも分散している場合の違いに言及し、「銀行と資本市場で調達手段が代替できる方が危機は少なくて済む」と語った。

さらに、米国で90年代初頭に「クレジットクランチ(銀行の信用創造機能の収縮)」と呼ばれる現象が起きたことについて、「資本市場が金融機能を代替できなければ、91年の景気後退はずっと深刻になっていただろう」と言明。一方、景気低迷から抜け出せない日本を例に挙げ「金融機能がほとんど銀行に依存している典型」と指摘した(日本経済新聞2000年7月13日)

グリーンスパン議長の分析は全く其の通りである。昨日、日本興業が描いた「そごうデパート」の再建策で、預金保険機構がそごうに対する債権(約1千億円)放棄問題が、世論の批判により一転して民事再生法の適用で実質倒産(即日、上場廃止)となった。
メインバンクの興業銀行の債権計画に乗り、預金保険機構という行政府だけで債権放棄に対し、国民からの批判は強烈なものがあった。急遽、「民事再生法」適用という法律の枠で処理することになったことは、不明朗な銀行支配の構図と行政が超法規的に処理するという従来型の処理が崩壊したものと見て良いであろう。しかしながら、「失われた10年」は、日本の銀行支配の構図から生じているが、銀行も行政も一向に改革の姿は見えてこないのはなぜなのであろうか。

日本では、資本市場が銀行に代わって金融機能を発揮できるよう一層の改革が求められているのだが・・。

日本で財務情報が重要視されなかった現実


企業の株式を取得する場合、または社債を取得しようとする者は、通常、その発行企業の財政状態、経営成績ないし業績及びキャッシュフロー(資金繰り)状況を知って、株ないし債券の価値が減少しないようにする。
また、金融機関は企業に融資する際に、同様な企業の財務内容について吟味して、予審管理(Credit Line)を行う。
これらは、誰もが当然のことと思うのであるが、従来の日本では当然ではなかった。

現実は、土地本位制度と担保制度が、企業情報の開示を骨抜きにしてしまった。

戦後、産業界へ資金供給の役割を担ったのは、間接金融が中心で、金融機関が企業に融資することでその役割を果たしました。間接金融は、1980年代まで「有担保主義」により「土地・建物」を担保として行われたのです。事業の成長力を担保とした融資は行われなかったし、銀行監督当局が行政指導のもとでは実質禁止されていました。つまり、融資には土地・建物の登記書類が有力な担保の書類となっていたのです。日本の金融機関は「不動産屋」と揶揄されるのも的を得ています。

企業の情報開示は二の次になっていたのです。現在の不良債権処理の問題も、担保がクローズアップされ、土地・建物等の担保価値相当分は不良債権ではないとしていますが、この議論からはまたも「有担保主義」が亡霊のように復活するのではないかと危惧されるところです。

金融機関は、産業の血液である資金を必要な所(事業)に流す役割を担っています。そのために、事業の成長性を見る目を持った専門家をバンカー(銀行家)と言います。有名な話ですが、大型コンピューターの製造販売で有名なIBMが事業を起こしたときに、多くの人が事業化できるかどうか分からない時代に、シテイ・バンクが融資したことは有名な話となっています。事業に融資するかどうかを判定し、自己の責任で融資の決断をする。土地や建物を担保とするのではなく事業に融資するのがバンカーの役目であるのです。「不動産屋」ではなく、「事業を見る目をもった専門家集団」が本来のバンカーなのです。日本には、銀行監督局の監督(行政指導)の元、「有担保主義」のみが認められていた時代が長く、そうしたバンカーが育つ仕組みに無かったことは不幸なことです。

土地や建物などが単独で利益を生むのは、オフィスビルやマンションなどの賃貸物件などだけです。インフレ利益がある場合を除いて、工場などは、土地建物は単独では利益を生みません。現在外資系の企業が購入し、証券化している物件は、テナントがいて賃貸収入を上げられ利益が得られる物件で安い物件に限られます。また、土地から利益を生むとは考えません。交通のアクセスや立地は重要な要素ですが、最も重要な要素は、建物の構造にあります。更地で、これから開発しテナントを募集するような、利益を生むかどうか不透明な投資リスクのある物件は敬遠されます。


資料


米国企業の資金調達の内訳は残高ベースで、社債が50%銀行借入は20%にすぎない。日本では、社債が増えている(97年度8兆8千億円の起債・前年度比56%増、98年度は10兆円を超えるといわれている)とはいえ、わずか10%で、銀行借入が70%に達している。また、問題は個人金融資産1200兆円を保有している個人が、個人投資家に育っていないことにある。ちなみに、97年度の社債8兆8千億円の内個人が直接購入したのはわずか3086億円と全体に占める割合は3.5%にすぎない。97.5%の残りはすべては機関投資家が引受けているのである。(出展:日本経済新聞9月25日「大磯小磯・・心もとない直接金融への流れ・・」より)


事業評価をして融資する制度の確立が望まれる

事業が資金を必要とし、事業から借金の元本返済と金利の返済を行うのであるから、事業計画に対して評価判定し融資を行う仕組みを構築する必要があります。事業内容の情報開示と事業を評価する目が必要となります。
事業内容は財務情報の開示が基礎となります。事業を評価する目は情報開示があって初めてできることです。

事業は成功するとは限りません。不成功に終わり倒産してしまうこともあります。つまり、事業を評価する場合、失敗することもあるということです。正常な状況というのはある一定程度の失敗は存在することを認めなければなりません。土地担保主義は、机上の論理では、担保の確保により貸倒れによる損失は発生しないという前提です。しかし現実は、地価の下落により損失も生じていますが、一つの担保に複数の債務に付されていることから実質的に損失となっています。

事業に貸付けるということは、ある一定の貸倒損失を見込むということでもあります。現に、この不況の中、最高の利益を享受している消費者金融業が行っているように「ある一定の貸倒れ損失」を見込むことも必要となります。欧米の金融機関のように「ある一定の貸倒れ損失」を見込むという当たり前の論理が日本の金融行政に無いように思います。金融のプロが金融行監督局側にいるのか疑問になります。

不動産を担保第一主義では、不動産の担保のみがすべてで、企業の財務情報は二の次となり、事業そのものを評価する目は養われません。従って、信頼できる企業評価や格付けもできません。

企業の情報開示の第一歩は、企業の財務情報の開示です。企業の財務情報は、投資家の判断できる情報を提供するものでなければならないが、無制限ではなく、一定のルール、つまり、「会計基準」が必要となります。


事業は、上場会社に特定されることはなく、非上場の中小零細にいたるまで、また、事業立上げの初期の段階でも必要となります。したがって、「会計基準」は、証券取引法(証券を発行している一定規模の企業適用)、商法など重複した会計規則をもっているが、重複しない分かりやすい「会計基準」を設定する必要があるのです。そのためには、会計基準はいかなる法律からも独立して設定する必要があります。

なぜなら、上場非上場に関わらず企業情報を開示することで、潜在的な市場が生まれるからです。例として、上記のように「低格付け債」の市場のように企業情報が提供されるなら、格付け会社による格付けの基礎が生まれます。企業情報の充実によって、市場が新たな市場を生み出すことができるのです。インフラを整える必要があるのです。

証券取引法や商法などの特定の法律による財務情報では、機動的に市場の要求を満たせないのです。


有価証券報告書は情報価値として日本だけのローカル情報


我が日本の「有価証券報告書」は、証券取引法に基づき投資家保護のもとで、上場企業等が半年ごとに半期報告書および年度に、大蔵省への提出目的で作成されていますが、投資家へは送付されません。日本の情報開示制度は、閲覧したければ「大蔵省閲覧室」ないし「証券取引所閲覧室」で記名の上閲覧を許すというものです。または、大蔵省印刷局が縮刷版を印刷しており、有償で販売するというものです。時間と費用を必要とします。

米国SECの有価証券報告書(年次報告書、四半期報告書、半期報告書)のように、年次報告書等は株主へ送付されるものと、同一のものをエドガー・データベースに電子登録するというものです。株主は、無償で財務情報を入手できるというものです。また、投資しようとする潜在株主にとっては、SECのエドガー・データベースへインターネットでアクセスすれば、財務情報は無償で入手できるというものです。いつでも、どこからでも、無料で簡単に財務情報が入手できるという仕組みを持っています。

また、大切なことは、財務情報の作成基準(開示基準も含む)である「会計基準」が、財務会計基準委員会(FASB)というプライベート・セクターが設定しており、いかなる法律からも独立して、理路整然とした完結型であり内容は高度なものもありますが、理解しやすい仕組みとなっています。


米国企業は、米国SEC提出の年次報告書を一つ作成してれば、国内の取引先や海外の取引先などに送付する(情報開示)ことで、取引をスムースに行うことができますし、特に、旧共産圏の国営企業との取引開始に当たり企業説明に年次報告書は不可欠な資料となっています。金融市場や取引開始または継続取引での企業情報の提供に大きな役割を演じているのです。

日本企業の中にも約20社がSEC登録企業として、「米国会計基準」で年次報告書を作成し、海外取引や世界のマーケットで利用しています。
また、SEC登録企業以外の企業(約7社)も、「国際会計基準」で作成された年次報告書を作成して海外取引に利用しています。


日本の有価証券報告書を英訳した財務諸表を認めている証券取引所は、ロンドン、シンガポールなどがありますが、その財務諸表を年次報告書(Annual Report)として海外取引に利用している企業はどの程度あるのか明かではありません、私の知る限りではありません。なお、ロンドン証券取引所やシンガポール証券取引所などに提出している有価証券報告書は、英文で直訳方式と米国方式(利益を変えず米国方式の表示に組み替えたりキャッシュフロー計算書を含めたりします{但し、英文は米語ではなく英語にします})とがあり、米国方式にしている会社も多く見受けます。日本企業の英文財務諸表は、証券取引所の閲覧室に置いてありますので興味のある方はご覧ください。


つまり、日本の有価証券報告書は英文にしても分かり難いという理由で、米国方式に修正しているのです。無論、理屈からいえば、英文への直訳でも上記証券取引所は受理しますが、企業イメージを考えると分かりやすい財務情報の開示を選択しており、財務諸表の体裁を米国方式整える方を選択しているようです。


なお、米国では、上場会社および非上場会社の適用する会計基準は同一の会計基準を適用し、財務会計基準委員会(FASB)の設定した会計基準です。従って、米国企業では、会計士の適正監査意見付きの財務諸表は、上場・非上場の区別なく同一の会計基準で作成され、適正に企業の財政状態、経営成果、キャッシュフローの状況を注記を含めて開示されたものとなります。上場会社の場合は、会計基準以外のSECの若干の開示情報の要求(レギュレーション、規則)を満たすことが必要となります。


信用経済の基礎は財務情報の公開にある


資本市場ばかりでなく、国内取引の開始、継続取引、海外取引開始ないし継続取引には、信用を基礎にして取引が開始されたり中止されたりする。信用が増すほどに経済は活性化する。信用は、情報開示から始まる。企業の格付会社の成立も企業の情報開示を基礎にしているし、上記の低格付け債の格付けも当然情報開示が行われてこそ成立する。

格付け会社が「民間」であるとあたかも信用の無い響きで、「たかが民間の格付け会社の格付けが低くされたからといって大企業が倒産にまで追い込まれるのはおかしい。」といった日本の政治家がいましたが、その政治家は、「民間」だからこそ信用されていることを分かっていないのです。「信用」を無くしていたら、市場は反応しなかったのです。「民間」が生き残れる条件は「信用」しかありません。「信用」を築くのに日夜切磋琢磨し、それを商売の糧としているのです。官僚には信用を無くしても、例えば「お役所仕事」という言葉があるように、政治が官僚を監視・管理・改善しなければ生き残れるのです。現に、日本の状況はそうした状況が公団などの特殊法人を含めいたるところに見られます。

信用は、まず、情報開示から生まれます。あらゆる取引は「信用」を基礎に成り立ちます。取引は民間が生み出します。情報開示の内容は、取引を行い「信用」を知悉した民間で基準を作る必要があります。市場の取引を知悉してない「官」が作成することは不可能といってよい。日本の会計基準が「官」によって作成しているため、民間の感覚や国際的感覚とまったくずれた情報開示がなされ続けているのです。不幸なことは、情報インフラ(会計基準)が整っていないため「低格付け債市場」は芽を出しさえしないのです。

情報開示からは、企業買収や合併もあろうし、低格付け債市場もあろうし、貸し渋りの緩和もありうる。また、不動産の証券化も債権の証券化も情報開示がキーになる。


情報開示は無制限ではない。ルールなき情報開示であってはならない。市場の優位性を維持している企業機密までも開示させるものではない。一定のルールのもとに処理基準および開示基準を設定し、過大でもなく過少でもない情報開示を求めるものでなければならない。


格付け会社の格付けは財務情報を基礎にしている

会社(会社に限らず国家も格付けされる)が発行する社債は格付け会社の格付けにより、償還能力の格付けを基礎に社債市場は成り立つ。格付け会社が脚光を浴びたのは、北海道拓殖銀行や山一證券の格付けが下がったことによる倒産であった。格付け会社は日本に7社存在するが、格付けの動向に一喜一憂するのは米国の格付け会社であるスタンダード・アンド・プアー社(S&P社)とムーデイ社である。米国の格付け会社の格付けにより市場での評価は一挙に低下したのである。格付け会社の格付け信用力によるものである。

企業の格付けは、社債の償還(返済)能力を格付けしたものでる。 格付けの低いBB以下はジャンク債といい、ハイリスク・ハイリターンとなり金利水準は高いが、倒産によるリスクが高く単なる紙に帰す場合がある低格付け債である。一方、償還能力の優れている企業の債券は、最高でAAA格(トリプルA)債、AA格(ダブルA)債などのといいロウ・リスク・ロウリターンの低利率の債券で元本保証債のような安全性の高い債券である。発行企業にとっては低利率の社債を発行して低コストの資金調達を実現したい、一方、投資家は高い運用益(利率が高いか、割引率が高い)を得たいがリスクを伴う、元利保証であれば低利率に甘んじなくてはならないというものである。


企業の格付けは、会社の支払能力を的確に限りなく正しく判断する必要がある。格付けの評価は財務情報や、商品の差別化、経営者の能力、商品開発力などあらゆる視点から評価される。

しかし、重要な資料は企業の財務諸表である。企業の財務諸表が支払能力を判定できないような有価証券報告書であったならば、企業評価は誤った格付けを強いられることになる。

98年3月の時点ではBIS基準で約10%であったとされる日本長期信用銀行は、その後8月の時点では、公的資金を6千億近くの導入予定を入れて4%をキープできると発表している。政府は、野党から「債務超過ではないか」と質問され明確な情報開示ができない。そのような財務情報では、どんなに優秀な格付け会社であっても正しい格付けはできない。

正しい格付けの条件は、企業の財政状態および経営成績が適切に示されなければ、格付け会社は名ばかりで機能しないし、また、社債市場は活性化しない。その意味で、財務情報の適切な開示は、市場経済のインフラである。インフラが整備・確立されない限り、中小企業の社債市場は活性化せず、企業は社債発行による資金調達を閉ざされ、経済の活性化は遅々として進まない。財務情報の開示は「会計基準」の整備・確立にある。


日本が模範としてきたドイツやフランスの動向


JICPAジャーナル1998年9月号(「The Accountannt」7月号抄訳した記事)によれば、ドイツでも米国財務会計基準委員会(FASB)にならって企業会計基準の設定機関が設けられ、5月にその委員も発令された、としている。同機関は、企業会計基準について連邦司法省に対して勧告を行い、また国際会計基準に関してドイツを代表する機関となる。但し、この機関の権限は連結財務諸表に関するものに限定され、課税所得算定の基礎となる単独財務諸表に関しては権限が無いとしている。

日本が模範としてきたドイツは会計基準の設定や内容について大きく変わろうとしている。

上記の雑誌には、フランスの動向も記している。
フランスでは、15年来改正されていない会計基準が改正されることになろうとしている。1998年1月に「会計法」が可決成立した。これは、フランスの会社経理の質を向上させ透明性を高めようとするもので経理規定委員会(CRC)に会計基準設定機関を統合し、上場会社については1966年会社法の規定に関わらず、国際会計基準による連結財務諸表を選択することを認めるというものである。

1998年11月27日、欧州9カ国証券取引所は、単一通貨ユーロの導入に合せて、2002年をメドに統合を完了する予定で合意。ニューヨーク証券取引所に迫る巨大市場が誕生する。欧州連合15カ国のうち、当座は、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、ベルギー、オランダ、スイス、スエーデンの9カ国でスタートを合意した。現在100社以上の日本企業の株式がロンドン市場で取引されており、統合された場合は欧州各国で資金調達の道が開けることになる。

同時に、ヨーロッパの証券取引所が統合すれば当然そこで上場する会社の財務情報は国際会計基準で作成された財務諸表を容認することが予想される。

日本の法制度に少なからず影響を与えている両国の会計制度は、グローバリゼーションに向けて変わろうとしている。


おわりに


経済の活性化には、事業意欲をもった人が活躍できるインフラを整える必要があります。その一つに、財務情報(会計基準)の整備・充実があります。


上記「はじめに」の中に記載しましたように、低格付け債券市場の必要性も、企業の財務情報の開示を基礎としています。債券発行する中小企業に、資金調達の道を広げることができます。現在の金融機関にのみ依存する体質から抜け出せます。事業資金が必要な所に回れば、経済の活性化し、関連する仕事が増えます。

財務情報のインフラが整えば、格付け機関の設立と競争により格付けの信頼性を高めることができます。また、財務情報の充実のために信頼性を付与させる「会計監査」の広がりが必要となります。ちなみに、米国では会計士約33万人、英国14万人の約半数が「会計監査等」に従事しています。日本の会計士1万2千人では寂しい限りです。

次世代(Next generation)には、経済が活性化し、価値観は多様化し、職業選択の幅が拡大し、誰もが何時でも自分の好きな仕事を選択できる社会になることが望まれる。それには、官僚統制による仕組みではなく、情報公開を基礎とした(信用を基礎とした)民主社会の構築が必要となる。


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公認会計士 横山明
E-mail: yokoyama-a@hi-ho.ne.jp
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