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・財務情報の開示の基準(会計基準)・
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「会計基準に従えば債務超過ではないが受け入れられず遺憾な結果となりました。」
1998年10月23日、日本長期信用銀行鈴木恒男頭取が特別公的管理を申請することを決定した取締役会終了後に、電子メールで全行員に配信した内容である。
有価証券の評価方法を低価法で評価すると債務超過であることが明らかになったが、原価法を適用することが認められているため債務超過ではないというものである。
日本長期信用銀行の頭取の上記の言葉は、一般の者からするとギャップを感じるが、現行の日本の会計制度の中では一つの選択肢を選んでおり間違ってはいないし、日本の会計制度を端的に表現している。
第一に、商法が有価証券の評価に、原則、原価法を適用し、例外的に低価法を選択適用できる(大蔵省企業会計審議会の企業会計原則も同一)、第二に、現行商法などの会計規定に即し、銀行監督当局が98年3月期から原価法の適用を認めたためである。
日本長期信用銀行は、有価証券に原価法を適用し含み損を計上しない方法を選択したため債務超過ではないとしているのである。こうした現行制度の枠では頭取の発言は間違いではない。
不良債権の貸倒引当金、有価証券の評価の問題、そもそも、債務超過かどうかは、資産の評価の問題で会計基準の問題である。
不良債権等の会計問題がこれだけ大きな問題となっているに拘わらず、政治やマスコミは「会計基準」の問題を議論せず決着しそうである。このままでは、同様な問題が今後も繰り返し起こることであろう。
ちなみに、現在、有価証券の評価を含む「金融商品の会計基準」は、大蔵省企業会計審議会や国際会計基準で公開草案が出されており双方とも98年中の決着を計画しており、時価法の導入を目指している。時価法の問題は、2000年4月1日以後開始する事業年度より「金融商品の時価会計」導入により、有価証券は時価で評価することが決定した。しかし、これだけでは対処療法でしかない。会計制度を根本から変革しない限り、類似の問題は繰り返されることだろう。
問題の所在:
(1)会計基準のあり方と政策を混同していること
「会計基準」は、財政状況や業績を適切に示すため、資産・負債の評価、測定、認識、費用・収益の認識などをルールとして設定する。
企業の実態を如何にして適切に示し、投資家等の利害関係人(潜在投資家を含む)の投資判断を誤りなく行えるだけの情報開示にある。
金融機関に対して、@ 最近まで貸倒引当金の積増しを要求しなかったこと、A
土地などの再評価額(含み益)の計上を98年3月期と99年3月期の2年間に関し認めたこと、B
有価証券の評価方法をわざわざ原価法とすることを認めることを明示して原価法を誘導したこと。
自己資本を増加させまたは減少させないという帳簿上の方法だけで、時間の浪費による事態の悪化を招いており、早急に望まれるのは実態を明らかにして政策の迅速な実行が望まれるのである。
会計基準(ルール)と政策の混同は、会計基準の設定機能が、政策当局である大蔵省に帰属してために顕著に出る傾向にある。
金融機関に関する行政のこうした対応は、民間事業会社ばかりでなく会計に携わる全ての経理に影響する。簡単に表現するなら会計に関するモラルの欠如につながっている。
同じ事を繰り返さないために、「会計基準」の問題と、「政策」の問題を明確に分け、それぞれ真剣に考えるときがきているのではないか。
(2)「会計基準」がいかなる法律からも独立していないこと
現行の日本の会計制度は、商法、証券取引法、税法のいわゆる「トライアングル体制」となっており同じ事を重複して規定している。有価証券の評価一つ取っても解るとおり、それぞれの法律に相互に調整して規定がある。変更する場合は、それぞれの規定を調整する必要がある。現に、有価証券の低価法の導入、税効果会計の導入のため商法と証券取引法の調整が行われている。調整のための時間はばかにならない。機動的に対応できない仕組みとなっていることばかりでなく、相互に同じ規定が重複するという不思議。
現在、会計基準は証券取引法のもとで大蔵省企業会計審議会が設定しており、会計基準の対象は、約3000社の上場企業等(証券取引法適用会社)に限定されている。元来、会計基準は証券取引法適用会社に限定されないが、現実は、証券取引法会社のみに限定されている。
受託者責任である説明責任(Accountability)は、企業ばかりではない。受託している組織・団体等のも及ぶ。最近では、米国の例のように連邦政府の会計基準にも見られるように国家の会計基準を作成し納税者に情報公開している。
会計基準は、財務情報公開のための作成基準としていかなる法律からも独立して設定するべき時期にきているのではないか。
元来、会計は、資金を必要とする企業、組織、団体等が、自らの活動を年次報告書(財務情報を含む)という形式で開示することで協力者を得て資金を調達する。資金提供者の賛同を得られれば資金が得られ活動できる。協力者の賛同が得られれなければ活動資金が集まらなけらば活動できなくなる。上場企業であれば資本市場での資金調達、金融機関からの融資、組織・団体の基金いずれも、情報開示により資金提供の賛同者を募るものである。財務情報の作成・表示の基準が会計基準である。会計基準は、経済活動の基礎に位置するインフラなのである。
@ 資本市場(直接金融)
A 金融機関等からの融資(間接金融)
B 非営利団体等の組織・団体の基金や寄付金の募集
国際会計基準を含め欧米の会計基準は、財務情報の作成者・利用者に視点を置き民間の会計基準設定主体で設定され、財務諸表作成者・利用者の視点で会計基準を設定している。したがって、財務諸表利用者が理解しやすいように努力し適時に会計基準を改善している。
翻って日本の会計制度は、会計基準自体が上場会社のみを対象とした証券取引法の下に企業会計審議会が設定し(A間接金融やA組織・団体の情報開示が抜けている)、投資家保護の名目で有価証券報告書を財務省・財務局に審査を受けて提出し公衆の一覧に供することになっている。果たして、どの程度の投資家が閲覧しているのであろうか。有価証券報告書は株主(投資家)の手許には届かない。有価証券報告書は、実質的には財務省・財務局の審査目的といって過言ではない。
株主の手許に届くのは株主総会召集通知書に含まれる商法の計算書類のうち簡単な貸借対照表及び損益計算書(単年度のみで連結財務諸表やキャッシュロー計算書は含まれない。)だけである。企業内容を知るにはいかにも情報不足である。
商法の計算規定は法律改正の手続きがあり迅速な改正ができないため硬直的で、財務諸表利用者の必要とする情報を制度的に満たすことはできない。
日本の会計制度は、企業会計原則が金融庁、有価証券報告書の審査・受理が財務省・財務局、商法が法務省、公益法人や独立行政法人の会計基準は主務官庁などで縦割り行政で行われ、財務報告もすべて主務官庁への提出で実質完結している。
そこには、元来、企業、組織、団体を支える投資家や資金提供者(財務諸表利用者)が決めるべき権限を主務官庁が代わって付与されているようなもの。元来は、財務諸表利用者が財務諸表作成者を直接評価すべきものである。 しかしながら日本では、財務情報が主務官庁に届き、投資家を含めて財務諸表利用者へ届かない仕組みとなっている。
制度的に、日本の会計は、主務官庁の視点でルールが作成され、財務諸表作成者・利用者の視点が実質的に欠けることになる。したがって、財務諸表の用語様式も役所に提出する他の書類と同様に役所の文書形式となっている。国際会計基準第1号「財務情報の表示」が求めている財務諸表の表示方法とは大分異質なものになっている。
加えて、資本市場では、適正な情報開示(会計基準=開示ルール)がなければ、下記のものは形式的なもので健全に機能しない。
@ 格付機関、証券アナリストは適正な情報を基礎に分析評価するが、情報が適切でなければ不適切な分析しかできない。
A インターネットによるオンライン株式取引は、インターネットで情報が入手できなければ健全に機能しない。
B コーポレート・ガバナンスは、情報開示がなければ機能せず形式で終わる。
資本市場では、投資家が投資判断するだけの情報開示がなければならない。それも、住専、山一證券、北海道拓殖銀行、長期信用銀行、日本債券信用銀行の例を待つまでもない。
会計基準の完成度が高く、適正な財務情報が提供されなければ、それを基礎とする格付機関及び証券アナリストの専門性は発揮できず、正確な評価分析は困難。
インターネットによる株式取引は、投資家がインターネットで企業の財務情報を入手できなければ投資判断できず参入が困難(99年11月29日付け日銀リポートによれば、80年代後半のバブル期末に20%を上回っていた株式と株式投資信託の保有比率は現在7%題までに低下している。その背景には投資に必要な情報が不足していることや、預貯金に比べ税制面でのメリットが薄いことがあるとしている)。日本では、大蔵省が金融審議会に報告したところによると、インターネットなどの電子媒体を使う方式(EDINET)にするのは2001年3月期に稼働するとのこと(99年11月22日)。
コーポレート・ガバナンスは、日本では外部監査役制度、ソニーなどの先進企業は外部取締役を選任、米国では独立取締役(Independent Director)を選任するが、代表取締役等の業務執行の監視役とされる。日本では、「閑散役」と揶揄されるくらいに機能しない。ナスダックのコーポレート・ガバナンスの要請規定にもあるように、まずは、財務情報の開示ありきで、次に独立取締役の選任規定がある。これは、情報開示があって初めて独立取締役がYES・NOの意思表示ができるためである。情報開示ナシに、自らが情報入手に奔走しなければならないのであれば機能しないのは当然。
信用経済が健全に機能するためには、「はじめに完成度の高い会計基準ありきで」、適正な財務情報の開示がなければならない。
そごうデパートが倒産し、社会的な話題を呼んだ。 NHKの「クローズアップ現代」で取り上げられ、そごうデパートの倒産までの経緯を克明に報道した。当時のメインバンクの担当者が出演し証言したところによると、メインバンクはそごうでパートに対して与信限度額を7千億円と設定した。そのため、そごうに対する貸付金を独自に調査した結果、倍の1兆4千億円の貸付金が存在したのに驚いたと証言している。つまり、そごうデパートは各地域のそごう店が独立法人であり資本関係があれば連結決算書が作成されるが、社長個人が所有する店舗は資本関係がないため連結決算は行われない。つまり、そごうグループには資本関係が相互にある店舗と社長個人の会社とがあるわけだから、そごうグループへの貸付金の与信限度額は社長個人所有の店舗に対する貸付金も合算しなければ実態がわからないのである。
韓国では、経済危機を迎えIMFからの支援を仰ぎ経済構造改革を為し遂げつつある。IMFは、韓国経済の中枢にある財閥の実態を明らかにするために、米国会計基準の結合計算書(Combined
Statements)を韓国財閥グループごとに作成することを要求した。
韓国経済の回復への処方箋を描くには韓国財閥の実態を明らかにする必要があったのである。(韓国会計基準審議会(KASB)会計基準第1章一般規定第6連結財務諸表および結合計算書、結合計算書の会計手続き(2001年4月改訂) 参照)
結合計算書(Combined Statements)というのは、米国会計基準である会計調査公報第51号(Accounting Research
Bullietin, ARB 51)に規定があり、資本関係がなく連結決算(Consolidated
Financial Statements)できない場合でもグループを構成している場合に結合計算書を作成するというもので、典型的な例は、社長が所有する企業がグループとして密接な関係を持っている場合に合算し内部取引及び内部債権・債務等を消去して作成するというものである。
日本公認会計士協会は、親会社がグループの株式(子会社株式)を退職給付信託に拠出した際に、その会社が連結対象から外れる事例が発生していることを「好ましくない行為」とみなし、公認会計士に注意を喚起する方針だ(日本経済新聞01年3月16日)。
私の実務体験では、ある米国企業が日本企業の買収を打診したケースがある。企業買収先は地方証券取引所に上場している製造業であった。その製造業社は、すべての製品を社長個人が100%所有する販売会社を通して販売していた。そこで、会計連続通牒第51号の規定に従って、製造会社と販売会社を合算し内部取引等を消去して結合計算書を作成した。無論、結合計算書を作成した理由及び内容を注記した。
何を言いたいかというと、会計基準が整備されていれば、適正な財務諸表(この場合は結合計算書)が作成できるというものである。結合計算書の作成頻度は多くはない。しかし、実務は想定していないことが多くある。そして、実務に直面して会計基準の未整備に気がつくのである。米国は、そうした実務の積み重ねを会計基準として整備され、ほとんどのケースで適用できる会計基準があり適正な財務諸表が作成可能である。
結合計算書に関する会計基準は、日本には無論存在しない。わが国は、会計基準が金融庁(旧大蔵省)の企業会計審議会で設定される。官製である。官製では、実務に疎くその重要性が分からず会計基準の整備は不可能なのである。
退職給付信託に組み入れた子会社株式であっても、結合計算書の会計基準が整備されていれば結合計算書は作成でき、企業グループの実態は示すことはできる。
実例を示した東急グループ(2003年2月28日日本経済新聞) | ||||||||||||
2003年2月28日、日本経済新聞は、「ザ・ディスクロージャー 真のグループ力@」という記事で、「企業の真のグループ力が試されている」として東急グループのケースを紹介している。 東急は、東京急行電鉄を頂点とする東急グループを形成しているがグループ各社は資本関係が希薄と成っているため「連結財務諸表」が必ずしも東急グループ全体の事業実態を表わさない。グループ企業の中には、資本関係は希薄で子会社でもなく関連会社でもないが、人的交流および取引関係が密接な関係にある会社がある。こうした会社の財務諸表を連結財務諸表に合算し@内部取引の消去、A内部債権・債務の消去、B内部取引に関する未実現利益の消去、C投資と資本の消去などを行い、上記に示したように結合計算書(Combined Statements)という方法によりグループ全体の実態を示す方法がある。 日本経済新聞の記事によれば、東急の場合、連結決算では東急グループ全体の6割しかカバーしないため、上場している系列企業の損益や財務内容を合算したデータを作成している。そこには、通常の連結決算とはまるで違った姿が映し出される。 2001年度末の有利子負債残高は全体で2兆7千億円、連結決算では半分強の1兆5千億円に過ぎない。
2001年の最終利益は3億円弱。東急の連結純利益118億円と比べると相当見劣りする。しかし、開示前に200円台まで下げた株価は、一時、800円台近くまで持ちなおした、としている。
「グループの全体像の開示は結局、信頼確保につながる」(木下部長)、として東急グループの担当者は情報開示の基本姿勢を述べている。 企業側の姿勢は情報開示の基本に忠実で正しい。しかし、日本には「結合計算書(Combined Statements)の会計基準」は整備されていない。 |
1993年、日本の大蔵省、米国のSECなどの証券監督局がメンバーとなっている証券監督者国際機構(IOSCO、International
Organization of Securities Commissions)は、「国際会計基準を包括的な基準として承認し証券を公募ないし証券市場に上場する際の企業の会計基準は、会計基準として必要な構成をもち完成したものであることを要する。」として、国際会計基準委員会(IASC、International
Accounting Standards Committee))に対し40項目にのぼる個別会計基準(コア・スタンダードー{核となる会計基準})を要求した。
コア・スタンダードの完成予定を当初1998年3月としていたが、金融商品の会計基準が合意に達せず遅れていたが1998年12月「金融商品:認識と測定」をまとめたことで完成した。
金融商品についての会計基準は、我が国の大蔵省企業会計審議会が「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」を公表し、2000年4月1日以後開始する事業年度から適用されることになっている。
百家争鳴の中にあり、いつ国際会計基準が世界基準(World’s
Standards)になるか不明であるが、国際会計基準委員会のホームページからその動向を見ると、現に国際会計基準で年次報告書(Annual
Report)を作成している企業は71カ国828社(2000年3月現在)にのぼる。日本企業は、富士通、第一勧業銀行、さくら銀行、三和銀行、キリンビール、佐世保、東レほか合計10社である。
この3年間で、IAS適用会社数に急激な変化が見られる。経済成長が顕著な中国が、3年前の7社から113社に、ユーロ統一で8カ国の証券取引所が統合することで合意しているヨーロッパでは、イニシアチブを得ようとするドイツが10社から105社と急増している。日本は、この3年間で3社が増えたに過ぎない。旧共産圏、新興国などは、新たな制度としてIASを受け入れつつある。(詳細は「国際会計基準」参照)
つまり、現在では、中国が国際会計基準適用で世界トップ、次いで、ヨーロッパでイニシアチブと取ろうとしているドイツである。
証券監督者国際機構(IOSCO)は、2000年秋にはIASを承認すると見られている。これを受けて、メンバーである米国SECは、外国企業の財務諸表にIAS適用を承認するであろう(現在既に実務上認めている)。
ヨーロッパでは、ナスダックに対抗して、ベンチャー企業向け株式市場であるノイア・マルクト(ドイツ)、ヌーボーマルシェ(フランス)、ユーロNM(アムステルダム、ベルギー)、欧州版EASDAQなどの上場基準には、国際会計基準または米国会計基準での情報開示を求めている。
欧州(特にドイツ)の適用状況、中国の適用状況、米国の対応状況から見ると、旧共産圏及び新興国の適用状況を見るに、国際会計基準に収斂しつつある。
簿記と会計は違うと言えば驚くかもしれません。なにも奇を狙っているわけではありません。
簿記(Bookkeeping)とは、取引の仕訳をして補助元帳や総勘定元帳に記録し、試算表、貸借対照表及び損益計算書を作成することです。簿記とは、記録、分類、集計、作表することです。
会計(Accounting)とは、会計基準に準拠して適切に財務情報の開示を行うことです。
簿記と会計の違いは、簿記が記録・集計の技術に対して、会計は財務情報を会計基準に従って適切に開示することにあります。
例えば、在庫を例にすると、商品を購入しすべてが販売されるなら問題はないが、在庫が残ってしまう場合、良品、不良品、過剰在庫、新製品の発売開始のため旧品となったものなどが混在している場合がある。購入時に取得原価で帳簿記録(簿記=Bookkeeping)しただけでは、在庫の状況は適切に表現したことにはならない。IAS2号「たな卸資産」によれば、たな卸資産は正味実現可能価額以下で貸借対照表に表示することになっているため、取得原価が正味実現可能価額を超過している損失は在庫の評価額から除外する必要がある。したがって、不良品、過剰在庫、旧品となった在庫の評価額を検討し評価損が生じているものは評価減を必要とする。しかし、評価減せず原価で示したとすると単なる帳簿記録である。会計であれば、企業実態を適正に表示するために評価減をする。
また、機械などの設備は、その設備で生産している製品が当初予想に反して販売不振となり生産中止に陥るケース、または、生産設備の生産能力が過大で一部機械が休止又は遊休設備となるケースがある。こうした場合、IAS36号「資産の減損」は、資産の回収可能価額まで評価減することを求めている。つまり、会計は企業の実態に即した状況を適切に示(適正表示=説明)すものである。取得時に原価で記録するのは簿記である。日本の原価主義は簿記に限りなく近く、適正表示を求める会計の目的から乖離している。原価で記録表示すればそれは単に帳簿記録を表示しているに過ぎない。会計であれば、企業実態を適正に表示するために評価減をする。
山一證券の飛ばし問題、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の不良債権問題は、取得原価主義を基礎とし、評価損の適時・的確な処理の遅れである。原価主義は、投資家に適正表示を提供してこなかったことにより損失を与えたのはもとより、経営者自身が自社の実態を知り得なかった可能性がある。なぜならば、明確な会計基準がなく含み損失が幾らあるか求められていないことや、含み損が分かっていても先送りできるできるからである。会計基準の不備は、投資家はもとより、自社の実態が分からず経営者にとっても大きな損失なのである。経営者が自社の実態を的確に把握できなければ、監督官庁は当然実態が把握できるはずはない。すべてが不完全な会計基準から起きていること。
会計は、財務情報の開示(=説明)にあります。会計基準は、適切な情報開示を目的として設定されます。会計基準に従って財務情報を適切に開示する行為を会計と言います。財務報告(Financial
Reporting)を行うのが会計です。account forは「説明する」という意味ですし、ウエブスターの辞書で、accountable(釈明する義務・責任がある)の意味を引くとexplainable(説明のつく)と出てきます。また、アカウンタビリティ(Accountability)を「説明責任」と訳しています。会計は説明(開示=報告)することにあります。
具体的な例を示すと,後述するマイクロソフト社の損益計算書(「キャッシュフロー計算書の読み方」に提示しています)の中で営業費用の中に、1998年に「仕掛技術の購入費(Acquired
in-process technology)」と言う用語を用いて2億9千6百万ドル計上した旨を記載しています。これは、勘定科目とは言わず、説明なのです。開発途中の技術を購入し費用計上したことが分かります。キャッシュフロー計算書には「仕掛技術の償却」として同一金額が表示されています。読者にわかりやすく表現して、情報開示しているのです。
財務諸表の注記事項も同様です。例えば,「税効果会計」では、会計処理の基準もありますが合せて注記による開示事項(説明)があります。税効果会計により税法と会計上の費用や収益の認識時点の相違を会計処理するものですが、税効果会計の結果、会計上法人税等の負担割合(税引前利益に対する税効果会計後の税金負担割合)と法定税率とに重要な相違がある場合に調整項目の開示が求められます。これは、注記による情報開示なのです。
この情報開示は簿記ではなく会計ないしは財務報告なのです。
同様にキャッシュフロー計算書も情報開示です。キャッシュフロー計算書を作成するために、新たな帳簿が必要となるのではありません。記録している総勘定元帳や補助元帳に何らの変更をせず、ワークシート上でキャッシュフロー計算書を作成して財務情報として開示するのです。
従来の日本の会計は簿記に限りなく近かったのでその区分が明らかとなっていませんでした。それは、簿記で記録、分類、集計、作表したものを単純に開示していたに過ぎなかったからです。
1997年6月、大蔵省企業会計審議会が連結決算中心に方向転換しましたが、その趣旨はディスクロージャーの充実を謳っています。ディスクロージャーの充実の為に、キャッシュフロー計算書、中間連結財務諸表、税効果会計、試験研究費の会計、退職給付(企業年金)の会計、金融商品の時価会計を導入したのです。情報開示のためにそれぞれ簿記を超えた注記による開示が含まれることになったのです。これは、日本では非常に希薄であった情報開示の概念です。
帳簿付けをする人を帳簿記録人(ブックキーパー、Bookkeeper)といい、会計基準に準拠して財務報告まで行える人を会計士(アカウンタント、Accountant)といいます。米国会計基準は、適切な財務情報の開示を行うために120を超える個別会計基準があります。財務情報に関する情報開示の重要性がそうした高度な会計(キャッシュフロー計算書、税効果会計、企業年金の会計、金融商品の時価会計、研究開発費の会計など)を生み出しているのです。それを支える公認会計士は約33万人を超える人々を輩出しています。ちなみに日本の公認会計士は約1万2千人です。
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基準設定機関名 | 官民区分 | 対象とする会計基準 | |
日本 | 企業会計審議会 金融庁(旧大蔵省) |
国家機関 | 上場会社等の証券取引法適用会社の会計基準を設定 |
企業会計基準委員会 (Accounting Standards Board, ASB) |
民間機関 | 2001年8月に国際会計基準審議会(IASB)のメンバーになるべく創設された。 企業会計審議会との関係が不透明のままでスタート、名称を変えただけか?。 会計基準の開発・設定を行う機関(National Standard Setter)と解していましたが会計基準の設定という文字は見られません。 委員長のメッセージをご覧ください。 |
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国際 | 国際会計基準審議会 (IASB) |
民間機関 | 企業は無論のこと、企業に限定していない。例えば,企業年金基金の会計基準の設定,近い将来、保険会計など業界別の会計基準を設定予定 |
米国 | 財務会計基準委員会 (FASB) |
民間機関 | 企業は無論のこと、企業に限定していない。例えば,企業年金基金の会計基準の設定,業界別の会計基準、非営利団体、地方自治体の会計基準(GASBで設定、FASBと区分しているが同様の機関)等の会計基準を設定している。 |
ドイツ | 会計基準委員会 (DRSC) |
民間機関 | 1998年5月、独立したプライベートセクターの会計基準設定機関として「ドイツ会計基準委員会(Deutsches Rechnungslegungs Standads Committee,英語名は、German Accounting Standards Committee)を社団法人として設立した。これにより、国際会計基準委員会の理事会メンバーとして参加できる体制を整えた。 |
日本のみが,上場会社等を規制している証券取引法の枠の中で会計基準を設定しており,機関の名称に「企業」とあるように「企業」のみを対象とする会計基準を設定している。
公共法人(特殊法人を含む)、公益法人(認可法人を含む)、協同組合などは無論のこと、地方自治体の会計などは、企業会計審議会の会計基準の守備範囲を超えている。
ちなみに、国際会計基準適用会社等には、企業ばかりでなく、米国公認会計士協会(AICPA)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)、証券監督者国際機構(IOSCO)、国際オリンピック委員会(IOC)、国際会計士連盟(IFAC)、国際会計基準委員会(IASC)、国際証券取引所連盟(FIBV)など、いわゆる企業ではない機構も含まれている。国際会計基準は、企業に限定されないし、上場会社に限定しているものでもない。
会計基準 | 国際会計基準(IAS) = 国際財務報告基準(IFRS) | 政府部門の会計基準 | ||
国際会計士連盟のPublic Sector Committee(PSC)が設定中 |
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民間のあらゆる企業・組織・団体を対象 | 行政部門のすべてを対象 | |||
適用対象 | 上場会社、非上場会社ほか | 非営利組織 | 政府部門 | |
銀行、証券、保険、一般事業会社 | 国際オリンピック委員会(IOC) | 国及び地方自治体 | ||
会計単位では企業年金基金の報告 | 世界銀行など | エージェンシーなど |
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日本の会計制度は、証券取引法、商法、税法の三者が結びつき会計実務を行っているところから「会計のトライアングル体制」と言われます。しかしながら、上図をご覧の通り、トライアングル体制で行っている範囲は、上場会社を中心とした証券取引法適用会社のみで、上場していない会社は商法と税法のみですし,商法を適用しない協同組合等及び公益法人のうち収益事業は法人税法や設立した根拠法令に規定をおいている。法人税法は課税所得及び税金の計算のみで、財務報告(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等)としての機能は持っていない。地方自治体、公共法人(特殊法人を含む)等は全くの会計基準に関する空白地帯となっている。
1997年6月、大蔵省企業会計審議会が「連結中心」に方向転換し、同時に、国際会計基準から新たな会計基準を導入したことは、グローバル・スタンダードへの道を歩み始めたものである。他の主要国のように,会計基準設定主体も独立し、中立的な機関に移せざるを得ないであろう。そうした場合は,会計基準の適用範囲は上場会社に止まらないことになる。
日本以外の主要国の会計基準は,財務報告(情報開示)を必要とする会計単位全般について取り扱っている(興味のある方は別途「会計基準」のホームページをご覧ください)。
1 | 株主(投資家)の手許に届かない有価証券報告書(企業内容開示) 「株主に対する情報開示」参照 |
投資家(株主)保護の為に企業は有価証券報告書を作成し企業内容開示をしていますが、財務省財務局の審査を受けて財務局に提出しますが、株主の手許には届きません。財務局や証券取引所の閲覧室で閲覧するか、財務省印刷局で縮刷版を購入するしかありません。2001年6月から電子開示であるEDINETが試行されますが、株主に直接開示する仕組みはありません。自己責任で投資リスクを負う株主に直接企業内容開示しない不思議なシステムである。 有価証券報告書が株主の手許に届かないということは、金融制度改革の一環として会計ビッグバンで騒がれた「連結財務諸表」「キャッシュフロー計算書」「中間連結財務諸表」などは、大方の株主(保護されるべき投資家)の目に触れるのとはないということである。 情報開示は第一義的には、株主に年次報告書として開示し、基本的に同じものを米国証券取引委員会(SEC)に登録する(EDGAR Database)SEC方式を採用すべきであろう。 日本の主務官庁の審査は、企業の関心を財務局の審査さえ通ればよく、国際会計基準のように企業実態を適正に表示することは二の次にしてしまう。結果として、下記のような弊害が生じている。 |
2 | 分量の問題 | 上場会社などの有価証券報告書の分量は、最低70ページから100ページを超える(NTTドコモのケースで130ページ)。分量の多い最大の理由は、連結財務諸表中心主義といいながら、@単独財務諸表が含まれていること、A附属明細書が含まれていること。 米国の場合、財務諸表(貸借対照表2ページ、損益計算書、株主持分計算書、キャッシュフロー計算書各1ページの基本財務諸表合計5ページに、注記で約10ページから20ページ位である)に、非会計情報が20ページから30ページ位である。SECエドガーデータベースを参照してください。 上場企業等が、SECのエドガーデータベースに直接登録したものは、投資家に限らず無料でインターネットから閲覧できる。インターネットでの閲覧には、詳細過ぎず、簡潔過ぎ分かり難いものではなく、読み物として適度にまとめられた財務諸表が求められよう。財務諸表が簡潔にまとめられるためには、完成度の高い「会計基準」が不可欠。 |
3 | 有価証券報告書の名称の問題 | 証券市場の主役は、企業と投資家である。企業は、投資家に適切な情報開示を提供することで投資判断の基礎となる。したがって、欧米では、年次報告書(Annual
Report)なる用語を使用している。 わが国は、「有価証券報告書」なる用語の語源は分からない、明らかに企業が監督官庁に報告する用語となっており、投資家に対する情報開示の用語ではない。多分、株式等の有価証券発行している企業が証券発行の内容を、監督官庁に報告するという報告書なのであろう。名称ばかりでなく、企業は有価証券報告書を大蔵省に提出する時に「審査」を受けている。これでは、監督官庁に対する報告書で、投資家保護(投資家に情報開示すること)が具現されていない。これでは、住専、山一證券、長期信用銀行、日本債券信用銀行等の有価証券報告書の審査責任が問題となろう。 投資家への情報開示を表現するなら、年次報告書、半期報告書、四半期報告書などの名称にすべきであろう。また、投資家保護とするなら、米国のように、株主等の投資家の手許に届く仕組みが必要となろう。 |
4 | 情報開示の問題点 | 1999年10月1日から、証券手数料の自由化に伴って、株式のインターネット上での取引が本格化したが、米国ではSEC EDGAR Databaseで企業の年次報告書及び四半期報告書が無料で誰でも何時でも見ることができるが、日本ではEDINET開発中ということで見ることはできない。つまり、インターネット取引をしている投資家は、タイムリーな企業情報なしに取引していることになる。企業の財務情報の開示のインフラが整っていないのが現状である。健全な証券市場が形成できるのであろうか。 |
市場の主役は企業であり投資家(間接金融を含む)である。投資家は事業資金を供給し、企業が活性化して雇用を増加させる。投資家が事業資金を供給するためには、企業の内容が不明であれば投資家は投資判断できず投資できない。企業の財務情報の開示は、投資家に対してばかりではない。取引開始に当たり自社を紹介する場合にも使用される。取引先が継続して取引をするかどうかの判断資料にも使われる。欧米では、投資家及び取引先等に対して公開するものとして年次報告書(Annual Report)を作成する。上場会社の場合は、SECのEDGAR Database(米国証券取引委員会(SEC))に登録する年次報告書と同一のものである。非上場会社の場合は、年次報告書は、投資家や金融機関及び取引先等に対して使用される。
米国の財務情報の開示の仕組みは次のようになっている。つまり、米国会計基準は、財務会計審議会(FASB)が公表する会計基準であると明確になっており、米国会計基準に準拠した年次報告書(財務諸表)が、上場以外の中小企業でも作成でき、投資家だけでなく取引先等に提供できる仕組みがあるということである。
日本企業でも、米国に子会社を持っている企業は数千社あるが米国子会社のほとんどが現地で会計監査を行っており、当然に、米国会計基準に準拠した財務諸表を入手している。米国以外の国々に進出した場合、その国の会計基準で財務諸表を作成している。重要なポイントは、市場の主役は投資家(金融機関を含む)と企業である。投資家(金融機関を含む)が財務情報の開示を求めた場合に適用できる「完成度の高い会計基準」が存在していることである。日本以外は、企業が必要とした場合には、会計基準に準拠した財務諸表が作成できる会計制度が存在する。
監査済み財務諸表 | ⇒ | 投資家、潜在的投資家、 金融機関、債権者、 仕入先、得意先ほか 税務当局、監督局 |
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「一般に認められた会計基準(GAAP)」 Generally Accepted Accounting Principles |
財務諸表作成 | ⇒ | ↑ プロの分析情報提供: |
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⇒ ⇒ ⇒ ⇒ |
格付機関 証券アナリスト コンサルタント マスコミ等 |
翻って日本では、一般に認められた会計基準(GAAP)が不明のため、日本の会計基準に準拠した財務諸表を作成できない。日本で作成できるのは、商法に従った商法計算書、証券取引法に従った有価証券報告書のみである。これは何を意味するかといえば、日本の基準では、米国企業のように年次報告書や、四半期報告書が作成できないということである。日本の商法及び証券取引法は、財務諸表の利用者を限定的に捕らえているために、限定された情報の開示となっている。本来の欧米の会計とは異質なものとなっているのである。異質なものとなった根幹は、土地本位制度のように金融機関は土地担保主義で登記簿謄本を見て融資し財務情報の重要性を二の次としてきたことにある。表裏一体ではあるが、会計制度の改善を怠ってきたことが日本の会計制度を遅らせたことにある。
同様なことが、ドイツでもあったが、1983年より行われている行政改革や、ダイムラーベンツのニューヨーク証券取引所への上場、欧州通貨統合、欧州証券取引所の統一の合意などによりドイツでは改善されている。
財務情報の重要性
格付け会社は、山一證券の倒産で一躍脚光を浴びた。信用失墜により大企業を倒産させるほど影響力のあることに驚かされた人が多いようである。
格付け会社は、米国で1929年から始まった大恐慌で脚光を浴びその地位を確立した民間企業である。社債を発行する企業を支払能力により格付けし、投資家の判断の基礎とする格付け情報を提供すると同時に、企業にとっては高い格付けにより低コストの資金調達をしようとするものである。格付けは社債券の償還(返済)能力を格付けしたもので、優良企業ほど償還能力が優れているものといえる。償還能力は当然のこととして、企業の財務状況を基礎とし、返済能力に優れているかどうかは財務情報が有力な資料となる。
適切に示された財務情報が有力な資料である。つまり、財務諸表を作成する基準である会計基準が「財務状況、業績、キャッシュフロー状況を適切に示す」ほど完成度が高ければその基準を基礎として作成された財務諸表は信頼に足る財務情報となりえるのである。
信頼できる会計基準は、信頼できる財務情報の提供の基礎条件であり、それに信頼性を付与するのが会計監査である。格付け会社の格付けの基礎資料となり、基礎資料の信頼性の如何によっては、格付けの結果を左右することになる。
つまり、社債券市場を支えるのは、投資家に企業の財務情報を提供するため信頼できる「会計基準」が不可欠なのである。信頼できる会計基準ができなければ、社債券市場は芽を吹かない。
ちなみに、97年度の日本の起債額は8兆8千億円(前年比56%増)、98年度は10兆円を超えると予想されている。米国では、社債が50%を占め銀行借入の割合は20%に過ぎない。一方、日本では社債は僅か10%、銀行借入が70%を占め間接金融に偏重している。また、発行会社も大企業に限られているばかりでなく、97年度の社債発行額のうち、個人投資家が直接購入した額は3086億円(97年度)とわずか3.5%に過ぎない。
銀行の貸し渋り、資金回収ラッシュに「債券市場がもっと発達していたら、影響が和らげたのに」(三和銀行)という声が起きている。
発行残高が97年末で4千5百6十億ドル(1ドル130円換算で約59兆円)にも達する米国低格付け債市場の規模である。信用力の低い企業でも社債を発行して資金を調達できるというものである。S&P社やムーデイーズ社などからダブルB以下の格付けされた社債である。かつては、ジャンク(くず)債と呼ばれイメージを悪くしたが、最近はハイ・イールド(好利回り)債と呼ばれている。
いわゆる、ハイリスク・ハイリターン、ロウリスク・ロウリターンの世界である。
大事なのは、日本にもこうした市場があれば貸し渋りに直面した企業は、代わりに社債を発行でき資金調達できるというものである。日本にも必要論は膨らむが存在しない、と8月26日の日本経済新聞は伝えている。
社債市場が発展するためには企業の社債発行の動機、証券を販売する証券会社、投資家などそれぞれの動機が必要なことは勿論であるが、インフラとしての財務情報の提供に関する基準、つまり会計基準が必要である。
投資家に発行企業の財務内容を適切に開示する基準が必要なのである。証券取引法の目論見書(証券発行に関する企業内容開示書類)が相応しいか。大企業には相応しいが中小の企業には質・量ともに相応しいものではない。
また、同様なことが言えるのは未公開企業が株式を発行する場合にも、当然投資家に財務内容の開示が求められよう。
投資家の保護の為には、適切な財務情報を提供することにある。投資家の自己責任を負えるまでの開示は必要である。規制を強化し、投資家に投資のチャンスを失わせ、また、企業に資金調達の機会を失わせるべきではない。
企業買収にも、会計基準は重要な役割を演じる。住友信託が日本長期信用銀行を合併ないし営業の譲受け関し、外資系会計事務所に日本長期信用銀行の財産(債権、証券など)の監査を依頼したと報じている。依頼された会計事務所が外資系(米国系)であることがポイントである。会計基準が明白な米国基準での評価を依頼したものである。当然の成り行きである。日本の会計基準では、受け入れる住友信託はややもすれば株主代表訴訟の餌食になりかねない。見方によれば、会計基準のインフラ整備がされていないため、日本の会計士は監査を引受けるチャンスを失ったものである。
米国では、買収や合併は日常茶飯事である。それぞれ、会計事務所に合併や買収の監査を依頼する。監査の基礎は会計基準である。
つまり、債券市場にしても、格付け会社にしても、合併や買収にしても、投資家に対する財務情報が信頼できる会計基準を基礎として、または、インフラとして成長発展しているのである。
話は古くなるが、米国の映画製作会社コロンビア等を買収したソニー、MCAを買収し後に手放した松下電器が、買収に際し巨額な営業権(Goodwill)を計上した。ソニーは、1990年3月期の連結財務諸表に6294億円の営業権を計上している。松下は92年3月期に7961億円の営業権を計上している。共に米国基準の40年の償却をしている。当時日本の会計基準では、連結財務諸表原則には明記されていなかったが商法の営業権償却の5年という慣習(?)が存在した。私には慣習というよりも会計基準の不備と言ったが事実であるし分かりやすい。なによりも、ソニーも松下もSEC登録企業で米国基準で公表したことが幸いしていた。後に、松下はMCAを手放し、ソニーは早期償却を余儀なくされ、成功不成功は時の運であり、その時々にチャンスを自己責任でチャレンジできる選択肢があったことは確かである。当時、日本の基準では選択肢はなかったのである。ちなみに、いわゆるインフラが整備されていなかったのである。大蔵省企業会計審議会が規定した連結財務諸表原則(2000年3月期より本格適用)は、連結調整勘定の償却は米国の40年に対し2分の1の20年の償却としている。
企業の情報開示は、上場会社(証券取引法)や大会社(商法特例法)に限らない。金融機関からの借入に伴う与信審査や競争入札業者の選定など多岐に渡る。しかし、日本の情報開示では特殊な土壌が醸成され上場会社および大会社に限られた特殊の世界となっている。
会計と表裏一体の監査の世界も、日本では大企業に限られている。欧米には、費用負担能力に欠けた中小企業に対応した保証制度がある。監査ほど費用が掛からないが保証の程度も低い、調製(コンピレーションCompilation)やリビュー(Review)である。日本では、@一般に認められた会計基準が整備されていない、A調整およびリビューの基準が存在しないため、欧米で行われているそうしたサービスの提供はできない。
監査(オーディットAudit)とは、「経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、すべての重要な点において、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュフローの状況を適正に表示しているかどうかについて、監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することにある。」
監査は,監査証拠の入手及び意見形成に多大な時間を要し、監査費用が嵩む。
一方、規模等が小さいため多くの経費を掛けられない場合がある。監査ほど信頼性の程度が高くなくても、会計専門家が会計・監査の専門知識で財務諸表を見てもらいたい。そうした要望に応えて、調製(コンピレーションCompilation)とリビュー(Review)と言うサービスがある。
調製(コンピレーションCompilation)とは、会計基準の知識が不充分なため適正な財務諸表が作成できないような場合、会計士が会計事実等を担当者に質問しながら財務諸表を作成(調製)する。この場合は、会計士は監査やリビューを行っていないので意見を形成できない旨記載した報告書を添付する。
リビュー(Review)とは、会社が財務諸表を作成し、会計士は一般に認められた会計基準に準拠して表示されているかについてのみリビュー(査閲)する。分析・質問はするが、実査、立合、確認等の監査手続きは行わないので積極的な監査意見は述べられず消極的意見を述べた報告書を添付する。
企業の規模、契約額の規模などにより、監査費用をかけるまでもない規模に対応した、コンピレーションやリビューのサービスが提供できるようになっている。米国では、規制業種について規模の小さい企業にコンピレーションやリビューが広く利用されている。日本企業が米国に規模の小さい子会社を設立した場合、コンピレーションやリビューのサービスを受けているケースも見られる。規制業種では、入札ボンドに参加する中小建設業社の財務諸表に例がある。
「コンピレーション、リビュー、監査の理解」 参照
Compilation, Review & Auditが欧米で定着しているかは、ホームページを見れば歴然としている。 Yahoo!の検索結果 参照
調製(コンピレーションCompilation)とリビュー(Review)は、監査に比べ使用する時間が少ないため費用が少なくて済む。米国では、公共工事などの入札ボンドで利用されている。コンピレーション、リビュー、監査のいずれを要求するかは、契約金額の大きさによるが、ボンド会社が決めている。(入札ボンド・・平成14年7月19日国土交通省総合政策局建設業課公表の「新たな保証制度に関する実務研究会報告」 「やさしい建設業教室」 渡辺喜美議員の主張「口利き防ぐ入札」 参照)
会計士業務の国際基準を作成している国際監査及び保証基準審議会(Inetrnational Auditing and Assurance Standards Board, IAASB)は、2002年11月、「国際基準の序文(草案)」を公表した。監査の国際基準- International Standards on Auditing (ISAs)- ISAs200〜799項までに監査(Audit)、ISAs800〜899項にはリビュー(Review)を規定し、関連業務の国際基準- International Standards on Related Services (ISRSs)- ISRS3101にコンピレーション(Compilation)の規定を置くとしている。2003年2月28日までにコメントを求めている。(プレスリリース 参照)
IAASBは、2003年1月1日より、国際監査基準書など会計士業務に関する基準書(行政部門の公会計基準を含む)を無料ダウンロードしている。氏名、パスワードを登録しておくだけで無料ダウンロードできます。ちなみに、現行では、リビューはISA910に、コンピレーションはISA930となっています。 「国際会計基準書無料ダウンロード」 参照
日本の会計は、商法、証券取引法、法人税法の三者が密接に関連して財務諸表を作成する。紙面を賑わす不良債権の有税償却は、まさに法人税法が損金算入を認めない償却を指し法人税法が企業決算に深く影響していることを如実に現している。商法第281条以下第295条までを「第四節・会社の計算」の規定を置く。不良債権に関しては、商法第285条の四第二項は「金銭債権に付き取立て不能の虞れある時は取り立てること能はざる見込み額を控除することを要す」とだけ規定しているのみである。大蔵省企業会計審議会の公表している企業会計原則には、注解18に「引当金について」の規定があり、「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」とあり、例示として、貸倒引当金、債務保証引当金、損害賠償引当金等を列挙しているのみである。
世を揺るがす不良債権の会計基準は、上記の日本の制度会計の結果である。バブル崩壊による異状事態であることは確かであるが、企業の実態を示していないことも確かであろう。
日本の著名な会計学者は、商法・証券取引法・税法の関係を「トライアングル体制」として欧米諸国に日本の会計を紹介しているが、米の国際会計に関する著書によれば、配当可能利益を算出する商法はキャッシュフロー(資金の流入・流出)の考えが、発生主義の証券取引法の会計と矛盾し、その双方の利益が一致するのは不思議であると解いている。
戦後の会計について詳しい故・太田哲三氏著「近代会計側面誌」(中央経済社)によれば、終戦後、占領軍は財閥解体のため、旧財閥や軍需会社に財務諸表を求めた。英文財務諸表でなければならなかったため、停年で一橋大学を退官した村瀬玄氏を嘱託として作らせた。氏は、ペンシルバニア大学で勉強された方であり英語には堪能である。かつ、米国には多数の友人を持っていて・・云々とある。その結果提出した英文財務諸表は司令部の理解を得られず、司令部は昭和22年の暮れにインストラクションを発表した。これは財務諸表の様式を定めたもので、今後はこの様式を以って司令部に届け出ることが要請されたとある。インストラクションの前文には、「日本の会計実務は惨めなほど不整備である。」と言う意味のことが書いてある。これが、昭和24年7月9日大蔵省企業会計審議会の前身である経済安定本部企業会計制度対策調査会が公表した企業会計原則の前文に書かれることになった。
前文に、「我が国の企業会計制度は、欧米のそれに比較して改善の余地が多く、且、甚だしく不統一であるため、企業の財政状態並びに経営成績を正確に把握することが困難な実情にある。我が国企業の健全な進歩発達のためにも、社会全体の利益のためにも、その弊害は速やかに改めなければならない。」とある。日本長期信用銀行の議論をこの終戦直後の文章は、初心に返れと教えているように思う。
上記前文を記した「企業会計原則」は、作成の中心的人物で著名な故・黒沢清氏著「近代会計学」(春秋社)に詳しい。それによると、終戦後の混乱の中、当時の日本では最新の米国の会計学文献である「SHM会計原則」を入手し、重要な資料としたことが記されている。サンダース、ハットフィールド、モーアの3人の会計学者(頭文字のS.H.M.を取っている)が米国公認会計士協会の依頼により作成されたものである。これを中心として諸外国と日本の状況を加味して「企業会計原則」は作成されたとしている。これにより基本的な骨組みが作成され数次の改正を経て現在に到っているが、基本的な体系は変わっていない。
なお、米国では、「SHM会計原則」は研究論文で実務上の会計原則となったことはない。また、故・沼田嘉穂氏著「企業会計原則を裁く」(同文館)には、司令部のインストラクションから「企業会計原則」の設定までの経緯及び内容について詳しく記している。
戦後の占領政策の延長線上で、当然商法の改正も検討された。商法学者田中誠二氏著「会社法」(千倉書房)によれば、昭和23年アメリカ主義に変える根本的改正が検討されたが、上記の企業会計原則および財務諸表準則(現在の規則)そのものが確定的なものとは言い難く、実際界方面のにおいても相当な反対があり、これに基づく改正は時期尚早という説が強かった、とある。米国の会社法のように会計規定を盛り込まず、会計基準に準拠しようとしたところ、会計基準が整備されていないと判断して、計算規定を残したとある。したがって、証券取引法の財務情報の開示という目的と、配当可能利益を算定する商法の計算規定が存在することになったとある。
米国における証券取引委員会(SEC)は、会計基準を設定する権限は放棄しているわけではないが現在まで設定してはいない。SECは、会計連続通牒(Accounting
Series Releases、通称ASR)150号で会計基準の設定は財務会計基準委員会(Financial
Accounting Standards Board,通称FASB)にあると明記して自らは設定していない。重要なことは、SECとFASB双方ともに巨大な組織であるが専門家集団であるだけでなく、議会からのチェックを常に受けていることも欠かせない事実である。
一方、我が国は、証券取引法のもと会計基準および会計規則は大蔵省にあり、会計基準から財務諸表規則、規則要領まで広範囲にわたる。つまり、米国のFASBの機能とSECの機能が合体し万能の機能を備えている。従って、日本特有の上記に記した政策的配慮が会計基準に反映する。リース会計基準も国際会計基準のリース会計基準に似せているが、その実態は似ても似つかないものとなっているのはその典型といえよう。聞く所によると、リース業界の要請を受けたものになったとのことである。官僚の業界調整役の機能を発揮した結果のように見える。
日本は政策に会計基準が利用される。 最近の例では、金融機関に対する次のような例がある。
金融機関に関し不良債権に対する貸倒引当金の積増しを以前要求しなかった(自己資本減少の猶予)、有価証券の原価法と低価法の選択適用を認める(含み損計上の猶予)、土地の時価法による再評価額計上を認める(自己資本増加のため、98年3月期と99年3月の2年間だけの限定)、金融機関の有税償却に関する税効果会計早期適用を認める(新聞報道のみで未確認・自己資本の増加のため)、すべて銀行の自己資本を増加あるいは含み損を計上しない方法である。このような会計に関する考え方は、民間事業会社の決算にも少なからず影響を与え、モラルを低下させている。
会計基準を政策目的で利用しようとするのは日本特有の考え方である。 ルール(会計基準)と政策は別問題である。企業の実態を示そうとする会計基準(会計基準の設定)と、実態を知って政策を実行(政治または行政)することを明確に区分しない限り日本の会計基準はグローバルにはならない。
別稿「国際会計基準・ホームページに見る動向・」を参照してください。
ちなみに、自己資本を減少させる下記の会計基準は無視されている。つまり、都合の良い基準を適用するつまみ食い状況にある。
項目 | 費用(自己資本減少)繰延べの内容 | |
1 | 不良債権の引当金、債務保証損失引当金、製品保証引当金等偶発損失の引当 | 現行、不良債権の評価基準は十分ではない。現行の会計基準(企業会計原則注解18に規定)では、十分な引当がされるようになっていない。同様に、債務保証損失など債務保証に関して生ずる損失についての引当も十分とは言えない。 一般に、こうした引当を偶発損失といい引当の計上を規定しているが、バブル崩壊後こうした引当金が十分に引当てられてこなかったことが、決算後倒産した企業の財務諸表が債務超過であることの原因であることが判明している。 |
2 |
退職給付の会計 | 現行、退職給与引当金は税法基準の40%で引当ることも認めている。40%の根拠は、バブル崩壊以前の割引率による現在価値という説を盲信している結果で、現在のように割引率が低いと現在価値の負債は膨らむが、沈黙を守り議論されていない。なお、平成10年の税制改正で、平成10年4月以後、累積繰入限度額が毎年段階的に減少し、平成15年4月1日以降開始する事業年度から20%となる。 98年6月16日、大蔵省企業会計審議会は、「退職給付の会計」に関する意見書を公表した。退職給付について企業年金を含めて現在価値で測定した退職給付債務を計上することを提言している。適用時期は2001年3月期からで、適用初年度の債務について一括計上を求めず、経過措置として15年以内の一定の年数で按分して経費処理できるように措置することを提言している。ちなみに、国際会計基準は5年内としている。 |
3 | 金融商品の時価会計 | 現行、株価低迷により含み益がないばかりか、含み損が明らかになると原価法の適用を認める(実質は行政指導的に作用している)。 98年6月16日、企業会計審議会は「金融商品の会計基準(98年6月16日の草案)」を公表した。意見書によれば、時価会計を2001年3月期より導入することとなっている。不利な会計基準は早期適用を遅らせるということである。 |
個々の会計基準は正しいとしても、つまみ食いで会計基準を適用すれば、企業全体として適切な財政状況および業績を示すことにはならない。企業全体として財政状況および業績を適切に開示しようとすれば、国際会計基準のように40項目にのぼるコア・スタンダード(核となる会計基準)が必要となるのです。
企業の財務状況を全体として適切に示さないのであれば、住専、山一、ヤオハンなどの投資家は不測の損害を被ることになる。また、不良債権に悩む金融機関に関していえば、金融機関の状況が判明していない98年3月に巨額な公的資金(税金)を投入したが、効果的な投入できないという事態になる。
日本には法制度が欧米と違うという論がある。適切な情報開示が、法制度が違うということで無理というなら、法制度の改革を行い、投資家や政策当局が適切な判断ができるようにするのが筋ではないだろうか。
2003年2月13日、国際的な6大会計事務所が共同で、主要国を含む59カ国の会計基準を調査した結果を「GAAP Convergence 2002(一般に認められた会計基準 収斂 2002年)」に纏め公表した。日本は、「現在、国際財務報告基準(IFRS)に収斂しようとしない国、アイスランド、日本、サウジアラビアの3カ国」として報告されている。
この報告書は、会計普及国際フォーラム(IFAD、International Forum on Accountancy Development、メンバー及びオブザーバー)および国際的な事務所で紹介されている(各事務所のニュース 参照)。このような状況で日本の国際的な発言力を期待できるものか自明の理であろう。国際的な基準を使用しないためコーポレート・ガバナンスの面からも日本は評価が低い(「コーポレート・ガバナンス・・ヨーロッパの文脈(チャールズ・フェア氏筆)」の主要5カ国の国際比較 参照)。
主要国の国際会計基準適用状況は「国別上場会社の、国際会計基準の適用状況」に纏めてあります。ご参照ください。
2002年10月、日本経済新聞の記者磯山友幸氏が「国際会計基準戦争」と題する著書を出版しました。現場を取材した視点から日本の会計がなぜ遅れたのかを探っています。最近の日本の会計制度を決めている現場を実名で活写しており貴重な資料となっています。真渕勝京都大教授の書評 大阪市立大学教授石川純治氏の書評 参照
デイスクロージャーの重要性は誰も異論はない。しかしながら、日本では、デイスクロージャーの内容については具体的な議論がない。デイスクロージャーは何でも開示しなければならないか。市場の競争力を維持している企業機密までも開示の対象になるのであろうか。否である。具体的には、開示のルールが必要なのである。財務情報については「会計基準」であり、上場企業について多くの株主等に対する投資家保護の目的で非会計情報や追加情報を求めるのは証券監督局の規則ということになる。
英米の企業が株式や債権などの証券を発行する場合、証券会社は証券の購入者に十分な説明を行うため目論見書(証券の内容や企業の財務情報や非会計情報を開示したもの)を作成する。
目論見書作成は、証券会社側の弁護士、企業側の弁護士、財務諸表を監査する会計士、証券会社、発行企業が一堂に会し合同会議が行われる。証券会社側は投資家に投資リスクを十分に説明するため開示範囲を広く求める。一方、企業側は、企業機密までは開示したくないため必要最小限にとどめたい意向がある。合同会議では、第一回の目論見書の草案をたたき台に、合同会議の中で骨子をかためる。証券会社から口火をきり会社側が不都合と考える事項は会議の中でつめることになる。合同会議の草案は、発行企業、双方の弁護士、会計士に回され、証券会社が完成させる。会計士は財務情報についての事項、弁護士は財務情報を含む企業内容開示及び証券の事項など法律関係について詰めていく。草案の内容チェックは3回程度行われ、証券発行日の直前まで行われる。
つまり、財務情報については会計基準を基礎に開示が行われ、財務情報以外の企業内容開示は証券会社側の弁護士、企業側の弁護士を通して作成されるので、一方的な開示要求になってはいないのである。企業機密に該当するようなものが要求された場合は協議の中で解決している。
日本の場合は、他社の例を参考に大蔵省令の要件をみたしほぼ機械的に作成される。欧米のように弁護士の関与はない。また、日本の証券取引法における有価証券報告書は大蔵省令による開示であるが、附属明細書に上位から数社の得意先や仕入先名金額などを一律に記載させているが、これは、市場競争の中で努力して開拓した仕入先や販売ルートを競争相手に晒しているようなもので、場合によっては企業機密に属する場合があり過剰開示になる虞がある。そもそも、欧米の財務諸表には附属明細書を公表はしていない。
会計基準で、資産・負債の認識の方法、測定、費用・収益の認識などに関する基準と開示の内容を明らかにすることで、過剰な情報又は過小な情報を整理すべきである。弁護士の関与も必要であろう。
英米の会計基準は詳細に規定し会計基準の部数が多いが、作成される財務諸表はコンパクトに纏められ読み物として適当な分量となっている。SECの規則は、原則、会計基準に関わる規定はFASBに依拠しており、証券取引法ないし証券法で投資家保護に関する会計情報以外の情報開示に限定している。
一方、日本は会計基準は大蔵省企業会計審議会、日本公認会計士協会の実務指針、大蔵省令、加えて、商法、税法と重複規定が多い割に規定の内容は少なく、作成される有価証券報告書のページ数は多い割に内容は乏しく財政状況及び業績内容は分かり難い。
財務情報が分かり易くするためには、会計基準も解り易くすべきである。経営者、作成者、監査人、投資家、証券アナリストなど関係者一同が解り易いことが必要である。複雑な会計基準は、適用の誤りを起こし易く、また利用者にとっても理解不能なものになる。
企業会計では、資金の調達、買収、合併、企業の紹介など企業の財務諸表を開示して、投資家、取引先、金融機関などの利用に十分に耐えられものでなければならない。
資本市場では、米国の債券市場のように低格付け会社が債権を発行して巨大な市場を形成している。格付け会社も信頼できる会計基準の元に格付けが行われる。日本でも国策として格付け会社ができているが、日本長期信用銀行に限らず日本の企業の会計情報の信頼性に疑問符がついている中では、苦戦を強いられることになる。ジャパンプレミアムも会計情報の不備が一因であることは疑いない。
未公開株市場も、米国の繁栄の陰に「会計基準」が企業と投資家の架け橋として、インフラとして機能していることも疑いない事実である。
英米の会計基準は、上場会社等証券取引法の枠に囚われてはいない。我が日本は、上記に記したように、会計基準は証券取引法のもとに置かれている。事実、証券取引法適用会社以外は商法の計算規則により財務諸表が作成されている。商法は、連結財務諸表を考慮されていない。子会社が親会社以上の赤字を出しても、親会社単独で利益が出ている以上配当しても適法となる。単独財務諸表では、企業の実態は把握できる範囲は限定される。また、情報開示の点からすると、単年度の貸借対照表、損益計算書の開示となり、企業業績や財政状態の趨勢は専門家であっても判断しかねる情報である。
国際会計基準導入と喧伝してみても、日本の現実は、現在の会計基準設定の仕組みでは、証券取引法適用会社のみに、それも国際会計基準の一部適用にすぎない。
会計基準は、関連当事者に財務情報の提供というインフラを整備するためには、いかなる法律からも独立して設定すべきものである。
企業会計の止まらず、特殊法人、エージェンシー、非営利組織(NPO)、地方自治体、公益法人、国家の財政など、説明責任(Accountability)を負っている組織、団体の財務情報の開示は、情報開示のインフラとしてその重要性を理解することからはじめなければならない。
具体的な例は、米国にある。FASBは企業会計から非営利団体の会計基準、地方自治体の会計基準(GASB)を設定している。相互に理論的整合性を持たせ理解し易くなっている。
日本のように、商法では計算規定を持っているが株式会社、有限会社、合名・合資会社のみに適用する。証券取引法では、大蔵省企業会計審議会が設定する会計基準に、日本公認会計士協会が作成する実務指針、それを受けて大蔵省の作成する大蔵省令いわゆる財務諸表規則・同取扱要領、連結財務諸表規則・同取扱要領、中間財務諸表規則・同取扱要領などを適用する。
証券取引法の会計基準を理解するためには、商法と税法に加えて証券取引法の中で3つの機関(企業会計審議会、日本公認会計士協会、大蔵省)が公表する基準・実務指針・規則を読まなければ有価証券報告書は作成できない。理解するためには、相互に重複し類似の文章が続く中、根気のいる作業になる。
加えて、1兆3千億円の不良債権を抱えるとされる石油公団(通産省管轄)や道路公団(建設省管轄)など特殊法人は、公団12法人、事業団17法人、公庫9法人、特殊銀行等3法人、営団1法人、その他の法人31法人があるが、各省庁の経理規則を基礎にしており、会計処理及び開示に統一性がない。
建物、機械、有価証券、営業債権の認識・測定、開示は、商法であっても特殊法人であっても、つまり、いかなる法律のもとでも同じであるなら重複を避け、資源の無駄を避けるべきであろうし、会計基準を設定することで重複を避け関連当事者である財務諸表の作成者、投資家や融資機関など、会計監査人、市民・国民のすべてが理解しやすい会計基準が望まれる。
完成度の高い「会計基準」の設定は、インフラとして確立すべきである。格付けは企業に止まらず、地方自治体や国家にまで及ぶ。会計基準は企業会計とは共有できない場合もあるが、共通の部分も生じる。財務情報の開示は、説明責任を負った組織・団体に共通して求められ、これから益々重要になる。独立した機関が、理論的整合性を高め、分かりやすい信頼性の高い会計基準が求められている。
2000年3月27日、日本公認会計士協会と経団連は、会計基準設定主体となる民間機関を設立することを明らかにした。大蔵省も大筋で了承。企業会計審議会から、独立色の強い機関に権限を移し、基準つくりの透明性を高めるとして、5月中旬をメドに組織の概要を固め、早ければ2000年度中にも発足させる、としている(日経3月28日)。日本特有の形式的な独立であってはならないことは無論のこと、今後は、設定した会計基準の内容の質が問われることになろう。
ようやく日本にも民間の会計基準設定主体が創設される(2001年2月28日) |
2001年2月28日、経団連、日本公認会計士協会、全国証券取引所協議会、日本証券業協会、全国銀行協会、生命保険協会、日本損害保険協会、日本商工会議所、日本証券アナリスト協会、企業財務制度研究会など10団体が出資して「財務会計基準機構」(仮称)を7月に設立し、下部組織の「会計基準委員会(ASB)」が会計基準の設定について全権をもつとし、米国FASB型の会計基準設定主体を模したものになる。設立準備委員会の設置を公表(ロイター、日本経済新聞、毎日新聞が報道)。政府出資を見送ったことが注目に値する。それだけに責任が重くなろう。当初4月設立が予定されていたが大幅に遅れた。 |
なお、ホームページ「会計・税金・財務情報」(http://www.hi-ho.ne.jp/yokoyama-a/)では、国際会計基準、米国会計基準、米国地方自治体の会計基準、米国非営利団体の会計基準、米国連邦政府の会計基準、日米証券監督局、日米会計検査院にリンクして研究し易くしています。ご参照下さい。
「明日までに、提携先を予定している企業の経営内容を調べてくれ」
上司から突然こんな指示を出されたら、ほとんどの人は「そんな無茶な!」と思うことだろう。調べる企業が有名な企業ならともかくとして・・・・
既に現実の話なのである。上場企業については、米国では証券取引委員会(SEC)に登録している企業は、SECのデーター・ベースにアクセスすることで、「財務情報」は、いつでも、どこからでも、無料で入手できることは知られている。
広く世間に知られていない企業であっても、自社のホームページを開設して広報に努めている会社が多くあり、上記のような上司の指示は「無茶な」ことではなくなっている。インターネット上のホームページの開設により、企業にとっては広報によりビジネスチャンスを広げようとし、提携先や取引先などにとっても、情報収集のコストや時間を節約できるメリットが生まれている。
現実に、米国のサイトにアクセスすると、企業のサイトには自社の年次報告書(財務情報)が掲載されており企業の経営内容を知る上で非常に役立っている。上場企業に限らず、非上場企業も数百万単位のホームページが検索される。年次報告書は、当然米国会計基準で作成されている。
年次報告書は、証券取引法の枠内で使用されるものでなく、非上場企業にあっても、提携や取引開始ないし継続取引にとって重要な情報なのである。
インターネットの出現は、日本の会計基準が、証券取引法のもとで大蔵省企業会計審議会が設定機関であり続けることに無理があることを示している。
1999年10月1日、株式売買手数料自由化に伴い、日本でも米国同様にインターネットで株式売買が本格化した。
米国では、証券取引委員会(SEC)のEDGAR Databaseで企業の年次報告書、四半期報告書など企業財務情報はインターネットで、何時でも、どこからでも、誰でも、無料で入手することができる。投資判断が可能なのである。
翻って、日本は株式の電子売買の仕組みはできても、財務情報のインターネット上での入手はない(EDINETは2000年3月期より稼働という計画はある)。財務情報だけで投資判断をするわけではないが、投資の基礎資料なしでは、健全な証券市場は形成できないであろう。株価罫線にのみ頼る投機株主に偏重する可能性がある。つまり、株式売買取引が、原油やとうもろこしのように商品取引と何ら変わらない取引となっているのである。
現在、財政赤字の財源を国債に依存し国及び地方を含めた長期借入債務は608兆円程度(平成11年度2次補正後、この内国は451兆円程度)でGDP比で122.5%と大蔵省の「予算・決算」のホームページで示している。
地方自治体が自主的に貸借対照表作成を試みている。一方、大蔵省が2000年3月期に初めて貸借対照表を作成すると伝えられている。
予算・決算を行っている、地方自治体・国家に財務情報が希薄な状況で政策(予算)が決定できたのは、財政収入が安定して右肩挙がりの状況であったためであろう。米国でも、1980年代に財政赤字と貿易赤字の双子の赤字に悩まされたレーガン、ブッシュ時代の反省と財政再建に向けて、クリントン政権は「連邦政府の会計基準」を設定し、国家の財務情報を納税者、議会、政策担当責任者に対して行うことを確立した。
日本では、3割自治と言われるように中央と地方とは密接な関係ある。米国のように地方自治が自立していない。したがって、行政府の会計基準を設定し、地方及び中央政府もこれに準拠した財務情報を、国民、政策決定する議会、政策実行責任者に開示する必要があろう。
現在、日本は、縦割り行政で次のようになっている。
2000年2月、総務庁は、総務庁に設置された独立行政法人会計基準研究会がまとめた「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」を公表した。日本初の公会計と評価されるが、(1)企業会計原則と重複した規定が多いこと、(2) 総務庁という縦割り行政で設定していて、企業会計の変更があった場合整合性を維持するため迅速に対応できる体制にあるのか、(3) そもそも「真実な報告」とは何を指すのか明記されていない、など幾多の疑問点が挙げられる。そもそも、独立行政法人は形態はともかく国家の行政の一部であり、国家財政の一つの会計単位なのである。
2000年3月29日、日本経済新聞によれば、自治省は地方自治体向けに貸借対照表を作成する際の指針をまとめた、と報じた。当面は参考資料とし、将来は自治体に作成を義務つける方針。地方の債務残高が過去最悪の約163兆円(1998年度決算)に達するなど財政状況の悪化が一段と進むなか、地方財政の情報開示を促すのが狙い、としている。
不思議な点は、対象が資産や負債、特に債務残高を誇張する貸借対照表(ストック部分)だけなのか、行政サービスの内容開示(フローの部分で、企業にあっては損益計算書に該当)に触れていない。また、日本の場合は、中央、地方というように、国民側(情報利用者)から見れば、地方と中央と統一した会計基準を基礎に、地方、中央政府の連結決算を知りたいところである。特に、最近は地方分権と称して、地方自治体への行政の重要性が高まっているからである。日本の場合は、3割自治といわれるように、中央政府、地方自治体の統一した会計基準が作成しやすい土壌にあるが、縦割り行政の単位で情報開示する部分的な対処療法に止まらせている。政治が公会計基準設定機関を設立しない限りこの問題は放置されたままとなろう。
政府の会計基準は、「米国連邦政府の会計基準」や、国際会計基準委員会(IASC)の母体である会計士国際連盟(IFAC)は、公機関委員会(Public Sector Committee)において、国家、自治体、政府の特殊法人に関する国際会計基準及び国際監査基準の設定を試みようとしています。こうした例を待つまでもなく、縦割り行政でばらばらなものを設定するのではなく、統一した「政府の会計基準」を設定し、分かり易く透明度の高い財務情報の開示により、無駄の無い、経済的で、効率の良い行政を志向して貰いたいものである。
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公認会計士 横山明
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