連結決算は企業経営にどのような変化を与えるか

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はじめに

従来の、個別決算中心主義の企業経営では、有価証券報告書に添付され公表される財務諸表(損益計算書などの財務情報)が親単独であることから、親会社の経営者は親会社単独の利益の計上を中心として考えられ、利益が出ないときには、決算直前に子会社への販売を増やし利益計上したり、含み益のある保有土地を子会社に譲渡して利益を捻出したり、含み損を飛ばしという方法で親会社が損失を計上せずに子会社に土地や有価証券を譲渡することが平然として行われてきたのが現実です。

バブル崩壊以前から、企業は事業の多角化を進め新事業は新設子会社で行うことが多くなりました。その多くが、新規事業であるがため、多くが利益を計上できなく赤字経営の苦しい状況が続いていました。親会社単独決算中心主義では、こうした子会社の状況は、親会社の単独決算に反映しがたいものでした。

単独決算では利益を計上しているが、バブル崩壊後は、子会社が親会社の留保利益を帳消しにするほどの欠損を出している企業であっても、親会社は配当を行っている状況でした。配当限度額計算の問題は、商法上の問題で、連結決算では解消できませんが、少なくともこうした場合には配当を控えるようになるものと予想されます。

こうした、状況が続いた背景には、個々の経営者の問題も勿論ありますが、根幹は、日本の制度上の問題があったからに他なりません。商法が連結財務諸表を考慮していないこと、同様に、証券取引法の有価証券報告書が単独決算中心主義であったことによります。

2000年3月期からは、連結中心主義に変更されることにより、有価証券報告書に含まれる企業財務情報が連結中心主義になり、上場会社・店頭登録会社等の証券取引法適用会社は明かに連結決算による影響が出ます。しかしながら、商法が連結財務諸表が考慮されていない現状維持である限りは、証券取引法適用会社以外は、何の変化ももたらさないことでしょう。

会計ビッグバンの背景

1996年11月の橋本首相によって日本版ビッグバンがスタートしました。

@フリー(市場原理が働く自由な市場に)、Aフェアー(透明で信頼できる市場に)、Bグローバル(国際的で時代を先取りする市場に)を大きな柱として金融面での大幅な規制緩和・自由化を推進し、低迷している東京市場をニューヨークやロンドン市場に匹敵する国際市場に育成することが大きなねらいです。

証券取引法関係では,ディスクロージャー制度の整備・充実を揚げ、連結ベースのディスクロージャーをはじめとして下記にあるような新たな会計基準を国際会計基準を基礎として導入したのです。

会計基準の変革とその背景

日本 国際情勢
時期 基本方針 大蔵省企業会計審議会意見書 会計基準に関する国際情勢 その他
1976年6月 国際会計基準委員会設立
(IASC)
1988年 証券監督者国際機構設立
(IOSCO)
1993年 IOSCOはIASCに対し、
40項目のコア・スタンダード
完成することで合意
1996年11月 橋本首相による日本版ビッグバン宣言
1997年6月 連結中心主義へ方針転換宣言
以後、下記の会計基準のように国際会計基準の一部導入をし始める。
・連結財務諸表見直しに関する意見書公表
1998年3月 ・連結キャッシュ・フロー計算書の会計基準公表
・試験研究費の会計基準公表
・中間連結財務諸表の会計基準公表
1998年4月 外為法抜本改正施行
1998年6月 退職給付の会計基準公表
1998年7月 金融システム改革法施行
1998年10月 税効果会計の会計基準公表
連結および持分法の範囲の見直し公表
1998年11月 欧州証券取引所が統一することで合意
1998年12月 IAS第39号「金融商品の時価会計」
の成立により40項目のコア・スタンダードを国際会計基準に具体化し完成
1999年1月 金融商品の時価会計の会計基準公表 ユーロ導入により欧州通貨統合

ロンドン・ドイツ証券取引所が統一で始動
国際会計基準の世界標準化を加速か!
1999年2月 経済戦略会議(樋口広太郎議長)が小渕首相に最終報告
グローバル・スタンダードへの制度設計が必要と提言
1999年 商法(時価会計)予定 IOSCOが国際会計基準の承認の検討に入る予定
2000年 欧州統一証券取引所誕生
(国際会計基準承認か?)

新たな会計基準の採用

大蔵省企業会計審議会は、下記の新たな会計基準を設定し、新連結決算中心主義に変更することになりました。

新たな会計基準 実施時期
新連結財務諸表(年度) 平成10年4月以後開始する事業年度から偶発債務の注記,表示科目の統合等について実施し、平成11年4月以後開始する事業年度から本格的に実施(2000年3月期から本格的に実施)
中間連結財務諸表 平成12年4月1日以後開始する中間会計期間から実施(2001年3月期から実施)
連結財務諸表制度における子会社及び関連会社の範囲の見直しに係る具体的な取扱い(平成10年10月30日) 平成11年4月1日以後開始する事業年度から適用。(2000年3月期から実施)
ただし、早期適用も認める、としています。
原文は、大蔵省(http://www.mof.go.jp/singikai/kaikei/top.htm)より入手できます。
研究開発費等の会計 平成11年4月1日以後開始する事業年度から実施(2000年3月期から実施)
キャッシュ・フロー計算書 平成11年4月1日以後開始する事業年度から実施(2000年3月期から実施)
中間キャッシュフロー計算書は、平成12年4月1日以後開始する中間会計期間から実施
(2001年3月期から実施)
退職給付(企業年金)の会計 平成12年4月1日以後開始する事業年度から実施(2001年3月期から実施)
税効果会計 平成11年4月1日以後開始する事業年度から実施(2000年3月期から実施)
ただし、早期適用を認める。
金融商品の時価会計 平成12年4月1日以後開始する事業年度から実施(2001年3月期から実施)
外貨建取引等換算基準(草案)
(国際会計基準21号に沿った内容に変更)
平成12年4月1日以後開始する事業年度から実施(2001年3月期から実施)
新たな会計基準 実   施   時   期
1999年4月開始する事業年度
(2000年3月期)から
2000年4月開始する事業年度
(2001年3月期)から
新連結財務諸表(年度) ⇒本格的導入⇒      
中間連結財務諸表 ⇒本格的導入⇒
連結子会社及び持分法適用の関連会社の範囲 ⇒本格的導入⇒
研究開発費等の会計 ⇒本格的導入⇒
キャッシュ・フロー計算書 ⇒本格的導入⇒ ⇒中間連結決算本格導入⇒
退職給付(企業年金を含む)の会計 ⇒本格的導入⇒
税効果会計 ⇒本格的導入⇒
金融商品の時価会計 ⇒本格的導入⇒
外貨建取引等換算基準(草案) ⇒本格的導入⇒

キーワードは情報開示

市場経済は信用を基礎としています。投資家は企業から情報を提供されて投資判断できる状況となります。

従来の日本は,銀行を中心とした間接金融に重点が置かれ、株式や社債等の直接金融が育ってきませんでした。不幸なことに、銀行による間接金融も規制当局の指導で長年の間「土地担保」を中心として企業に貸し付けており、企業の財務情報は二の次でした。いわゆる、日本の銀行は「不動産屋」といわれ、企業の財務情報より「土地登記書類」に融資の基礎をおいていました。

はからずも、世界の体制(会計基準の国際化)が押し寄せてきています。国際会計基準は、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの新興国、旧共産圏など市場経済中心主義にシフトしてきました。1998年末には、国際会計基準は暫定的に完成しました。

1999年1月から、ヨーロッパでは統一通貨ユーロの導入に併せて証券取引所の統合に動き出しました。1999年6月、欧州証券取引所協会は、年次総会で、2000年に統合することで合意した。 2億9千万人の人口を抱える米国に次ぐ巨大な市場が出現します。国際会計基準の承認は加速しそうです。

当然のこととして,国際会計基準を承認することで、どこの国の企業も国際会計基準で作成した財務情報で、世界のどの国でも資金調達が可能となるメリットが生ずることが予想されています。財務情報を見る投資家も、まちまちの会計基準で作成された財務諸表より分かりやすくなります(例えば,日本基準では、理由がわかりませんが特定目的会社は連結範囲から除外する、一方、国際会計基準は支配関係があれば連結対象となるというように分かりやすくなります)。

バブル崩壊後の日本経済の再生には、銀行による間接金融に頼っていたことにより貸し渋りは日本経済に大きな影響を与えています。貸し渋りを補完する直接金融(株式、社債等)の活性化が必要とされています。直接金融は信用を基礎とします。信用は、情報公開を基礎とします。投資家が投資判断できるだけの情報公開が必要なのです。企業財務情報は、作成及び開示基準である「会計基準」が基礎となります。欧米では、早くから整備されていました。

日本は,1997年6月から、「連結財務諸表中心主義」「中間連結財務諸表の作成」「キャッシュ・フロー計算書」「税効果会計」「退職給付(企業年金を含む)会計」「金融商品の時価会計」と矢継ぎ早に国際会計基準の一部導入を図っています。遅れ馳せながら,フリー・フェアー・グローバルを掲げ、日本経済の再生に向けて情報開示に一歩踏み出したものです。

国際会計基準の一部導入は,すべて情報公開の充実に他なりません。情報公開を拡充することは、その情報の読み方や利用の仕方を解説する専門家を生み出します。投資家に投資判断を手助けする専門家を生み出すのです。そうすることで,投資家の判断をしやすくし市場の活性化を促します。

同時に、企業の経営者は、情報開示の拡充により、市場の反応、つまり株価等の反応に敏感になります。例えば,最近ベストセラーとなっている「キャッシュ・フロー経営」は、導入されるキャッシュフロー計算書とは何か、どう評価すればよいのかを解説しています。よい企業はどのようなものかを解説しています。投資家はこうした解説書に敏感です。株価に少なからず影響することが予想されます。経営者はこうした投資行動に無関心ではいられなくなります。経営者が無関心ではいられなくなると、企業は健全経営に努めるようになると期待されます。情報公開は,企業統治(コーポレート・ガバナンス)の重要な一部を構成します。ナスダックの「コーポレート・ガバナンスの要請」規定には、第一番目に企業財務の情報公開が規定しています。

新連結制度は、こうした意味で画期的な情報公開の変更なのです。内容は,従来日本に存在しなかった画期的な会計基準です。日本的経営を根底から変えうる可能性を持っています。


個別決算中心主義から連結決算中心主義に変更することにより影響する内容

新たな会計基準の導入による 影響
新連結財務諸表(年度) 下記参照
中間連結財務諸表 年度1回であった連結決算がタイムリーディスクロージャの目的で中間決算を要求されたことで、連結経営は迅速な意思決定を迫られる。
連結財務諸表制度における子会社及び関連会社の範囲の見直しに係る具体的な取扱い(平成10年10月30日) 連結及び持分法適用会社の範囲を拡大されることにより、子会社および関連会社を利用した利益操作、決算操作ができなくなる。
研究開発費等の会計 試験研究費は発生時の費用として計上することと、試験研究費の注記による開示が求められることにより、より厳しい管理が要求されよう。
キャッシュ・フロー計算書 キャッシュの流入・流出が開示されることにより、資金の有効活用が求められる。
退職給付(企業年金)の会計 従来の会計では見えざる退職給付債務が明らかになり、人件費の根本的な見直しが行われよう。
税効果会計 日本の税制が、前払税制であることが明らかとなり、繰延税金資産の計上は巨額となろう。欧米では、産業育成=雇用確保から後払い税制で、未計上の税金債務を計上するために適用された英国とは逆である。
利益率の低い日本企業で、繰延税金資産が将来の税金を減少させる効果があることに保証がなく計上し続けることは不良債権と同じことになるので注意を要する。
金融商品の時価会計 時価会計により、株価が低迷している時期には業績及び評価損となり、株価が上昇しているときは評価益が計上されるようになる。
企業の支払い能力を測定する場合には最適。
金融商品を保有していると、自己資本に直接時価が影響することになる。つまり、ROEのEquity(自己資本=分母)が影響し、含み益がある場合はREOを引き下げてしまう。株式持合いが見直されよう。

親子会社間取引による利益の捻出または含み損の飛ばしが無意味となります。連結決算は親子会社間取引による売上及び未実現損益を消去してしまうため、こうした操作は無意味なものとなります。具体的には次のような取引が該当します。

単独決算の操作 連結決算の対応
1 含み利益がある土地の子会社への売却により、親会社が利益を捻出する。 連結決算では、計上した売却益は消去され、計上した利益に対応する法人税等の納税額が不利益となり、無意味となります。
2 決算直前に子会社へ販売し売上高及び利益を計上する。 連結決算では、親子会社間取引(売上・仕入)は消去され、且つ、第3社に販売できなかった在庫について未実現利益が消去され、計上した利益に対応する法人税等の納税額だけ不利益となり、無意味となります。
3 含み損を抱えた土地または有価証券を、子会社に含み損を抱えたまま譲渡し、親会社の損失を子会社へ移動する。 連結決算では、子会社が保有する土地及び有価証券の含み損を再評価して含み損を計上する。ただし、土地については、欧米のように公正価格(Fair Value)で評価する会計基準が整備・確立しておらず評価損を計上するかどうかは難しい。
4 リスクの高い取引を子会社に引き受けさせ、親会社の財務諸表から排除する。例えば、系列ノンバンクに引き受けさせる等。 たとえ、子会社にリスクの高い取引をさせても、連結決算では、親会社または子会社で引き受けようと結果は同じに表示される。
5 その他、子会社を利用した取引 連結決算では、グループ間取引は消去する。


連結財務諸表のメリット

国際市場をマーケットとする企業にとっては、単独財務諸表では、連結財務諸表のみを公表している外国企業との比較分析はできません。したがって、国際競争力をもとうとするグローバル企業にとっては、連結財務諸表は欠かせません。それも、米国SECに登録している日本企業約24社のようなグローバル企業にとっては死活問題なのです。


つまり連結経営にあっては、次のようなメリットを生み出すことになります。

連結のメリット 解説
1 連結グループ外の取引を拡大するしか利益を生まない。 連結グループ間取引に血道を上げていた単独決算中心主義は、グループ間取引からは利益を生まないことを認識し、経営資源をグループ外の取引拡大に集中することにあります。
つまり、経営資源を集中し、効率経営を促す。
2 グループ間資金の融通により、資金の有効活用を図る。 グループ間で、余剰資金があり、一方で、資金のショートにより金融機関から借り入れているケースを見ることがありますが、グループ間で資金の調整を図り、余剰資金を借入金の返済に当て利息負担を軽減する。
3 グループ間の外国為替決済を集約して行い、為替決済手数料の軽減につなげる。 グループ間内で外貨建て債権債務を集約して、相殺及び決済を一本化することで、為替決済手数料を軽減する。
4 欧米の企業間比較が可能となり、国際競争力を測定できるようになる。 国際競争力を持とうとする企業(上場会社に限らない)は、海外企業の財務情報を入手して自社との比較分析(収益性、業績、財務安全性など)が可能となる。
5 海外取引を開始するに当たり連結財務諸表を含む年次報告書は、取引先と取引開始する際に、自社の紹介に使える。 連結財務諸表を含む年次報告書は、取引先と取引を開始する際に、財政状態及び経営成績、事業の内容等を示しており、自社の簡潔な紹介文書として使える。
6 海外の証券取引所で上場に使えることもある。 国際会計基準などで作成された連結財務諸表は、近い将来各国の証券取引所で受け入れられる可能性が高く、資金調達が可能、またはその国での知名度を高めることができる。

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日米双方の連結実務の豊富な経験を基礎にキーポントを上記に記しました。本格的な連結決算制度の体制確立に参考となれば幸いです。なお、企業に合わせ正確かつ効果的・効率的な連結決算体制の確立について支援しています。興味がありましたら、下記宛てご連絡ください。

横山会計事務所
公認会計士 横山 明

Tel 047-346-5214 Fax 047-346-9636
E-mail: yokoyama-a@hi-ho.ne.jp


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