『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第六章 開かれた世界へ

第3節 ある教科書が自ら身を置いた窮境


〔注6−18〕

   同教科書は、(1−1)(A big Martin Marina rescue plane, containing a crew of 13 men, quickly took off.)中の-ing分詞句に伴うカンマを、分詞句による名詞修飾の在り方が非制限的であることの指標であると見なしたのとは異なり、(6−13)(He tried to remember the telephone number, repeating it over and over again.)中の分詞句に伴うカンマについては、この分詞句を母節から切り離すものであって「外縁的副詞要素」の身分の証であると見なしたのであろうという推測も可能である。CGELによれば、副詞要素の「外縁性」はカンマによって表示されることがある。

分接詞[disjunct]と合接詞[conjunct]に特徴的なのは、口頭表現においては[in speech]抑揚による境界によって、あるいは、文字表現においては[in writing]カンマによって、節の他の部分と切り離されるといった外縁性の標識[markers of peripherarity]である。
(CGEL, 2.15)
(「抑揚やカンマによる切り離し」については[1−17][1−18][1−19]参照)
   同教科書は、既に第二章第5節などで紹介した「分詞句の可動性[mobility]」(CGEL)にその判断〔(1−1)、(6−11)、(6−12)中の分詞句と、(6−13)中の分詞句は互いにその機能を異にする分詞句である〕の根拠を求めることはできない。なぜなら、(6−13)の-ing分詞句は文頭に移すことが可能であるから副詞要素であると判断するのだとしたら、名詞修飾要素であるとされている(6−11)(Some even think that the lost island of Atlantis, thought to be in this area, is exercising its strange powers on these missing planes and ships.)と(6−12)(Many ships and planes have mysteriously disappeared in this area, known as the Bermuda Triangle.)の分詞句の内、(6−12)の-ed分詞句に「可動性」は備わっていない(「可動性」のない分詞句の例は[2−10][4−4][4−5][5−1]参照)が、(6−11)の-ed分詞句[thought to be in this area]は文頭(この文では「文頭」と言うより、「母節[1−10]の直前」と言うほうが適切)へとその位置を移動させることも可能なのだから、これもまた副詞要素と判断せざるを得なくなるのである。文例(1−1)についても同じことが言える。

   同教科書の示す了解は第二章第5節(更に[2−19][2−22])で紹介したKruisinga & Eradesの立場にほぼ通じる。Kruisinga & Eradesでは、暗黙の主辞と分詞句の距離の隔たりに応じて分詞句は「自由付加詞」([1−1][1−4][1−8][2−19]参照)であったり、「名詞修飾的付加詞」([1−8]参照)であったりする。以下の文に見るような、その位置が暗黙の主辞の直後ではない分詞句は「自由付加詞」である。

Beryl was alone in the living-room, when Stanley appeared, wearing a blue serge suit, a stiff collar and a spotted tie. (II.1).
〈ベリルが居間に一人でいるとき、スタンリーが姿を見せたが、青いサージのスーツ、堅いカラー、斑点模様のネクタイという出立いでたちだった。〉
(KRUISINGA & ERADES, An English Grammar, 34-1)(下線は引用者)

(〔注6−18〕 了)

目次頁に戻る
 
© Nojima Akira.
All Rights Reserved.