有価証券報告書等の開示検査について
東芝の不正会計に学ぶ
投資家は保護され市場から信頼を得られるのか

(1) はじめに

検察と証券監視委が対立、東芝元社長ら刑事責任追及で。
会計基準の重要性を理解しない当局、会計基準の所管は金融庁、自ら招いた対立

細野裕二氏著「粉飾決算VS会計基準」が東芝の不適切会計の核心を明らかにした。

不適切会計、不正会計、粉飾は、すべて会計基準に準拠してない投資家を欺く違反行為。
(2) 金融庁設置令では、投資家保護とは、企業情報の適時適切な開示にある。(金融庁設置法第3条
(3) はじめから最重要の「のれん」の減損2600億円を除いた検査方針が、的外れの検査方針を生んだ原因だ
米国会計基準への準拠性を検査していない、意識的にか言及してさえいない。
(4) 開示検査に「会計基準(開示基準)への準拠性」が見られない、実施した痕跡が見えない
まるで、開示検査というより税務調査の粉飾経理の調査。注記を含めた開示検査になっていない。

Buy- Sell取引で625億円の粉飾は、製造業一般に行われている有償支給取引.

(5) エンロン事件から学んだ米国は、会計基準の準拠性を3年に1度は、すべての上場企業に開示検査を実施
会計基準の進化・高度化が、開示の複雑・多様化し、監督官庁もチェックすることになった。
(6) 金融庁の検査で、日本の大手監査法人のすべての上場企業を検査できるのは100年近くになる計算となる。

大手監査法人は1000社を超える上場会社の監査を行い、検査は10社から15社では全ての会社の検査は何年になる?

佐々木清隆証券取引等監視委員会事務局長、公認会計士・監査審査会事務局長兼検査局審議官の講演は、検査の現況を忌憚なく話しており貴重な資料だ。発言は透明性の面では評価できるものだ。
沈黙の中から姿を現した当局の検査内容は、開示検査の具体性が見えてこない。ある偏見も垣間見えている。

忖度(そんたく)・財務部門出身で社内取締役の久保誠氏は東芝の粉飾当事者で、金融庁の企業会計審議会の委員をしていた。証券取引等監視委員会は開示検査に忖度して開示検査をしてなかったのではないか。裁量で検査していてはどうにでもなる。公務員の裁量を排除するには法制化するほかない。
(7) 会計基準が高度化して開示すべき項目内容ともに充実しているが監査報告書は一つの意見で集約する方法は開示の限界

内部統制もコーポレート・ガバナンスも高度化した会計基準の知見と経験がない者が行っても有効に機能しない。

米国では、証券取引員会(SEC)が会計基準への準拠性について3年に1度検査している。(SOX法408条
SECはコメントレターという形で公表されて透明性が高い。
大手会計事務所は、SECコメントをまとめて顧客企業の参考に供している
(8) エンロン事件以前は、会計士が会計基準に準拠した開示についてサポートしていたが、

エンロン事件後、会計士が開示等のサポートができなくなった、一方、SECの開示検査が法制化した。(SOX408条
米国会計士37万人のうち47%(17万人)が会計事務所、34%(12万人)が企業に従事している
会計士の専門家インフラが充実している米国でも、監督官庁(SEC)の開示検査が法制化している。

日本は、28千人の公認会計士のうち9千人が税理士登録しており、差引、19千人の会計士が、
上場企業の財務諸表の開示に手を出すと「自己監査」ということで、開示に関与することはできないとされてきた。
そうした中で、2500ページを超える国際会計基準の会計処理基準及び注記による開示基準が導入されつつある
企業が会計基準の消化不良で開示が不十分であっても、監査人は、適正意見を出す可能性が高くなっている。

国際会計基準を超える米国会計基準を適用していた東芝は、そうした中で起きてきた事件なのである。
のれんの開示のお粗末さは東京証券取引所の指摘で開示されることなったことでも明らかであろう。
(9) 第三者委員会は、名ばかりで、東芝経営陣の意向を受けて調査されたものであるという批判がありながら
金融庁の企業監査法人の処分は、核心から逸れた第三者委員会の報告の上に立って出された処分であった。
これでは、再発防止の的確な対策は打てるはずがない。
(10) 金融庁では、英国で行われている「監査法人のガバンス・コード」(コーポレート・ガバナンス・コードの監査法人版)を導入しようと出来レースが始動している。今回も的外れだ。

金融庁総務課企画局企業開示課課長田原泰雅氏「ディスクロージャー・企業会計等をめぐる動向」・・担当課長の検討報告
金融庁監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(案)の公表について(平成28年12月15日)
(11) 金融庁は、強権を発動して処分庁と揶揄されている。処分する前に企業が自主的に開示を充実させる施策がある。

企業の情報開示に関して、当局は、まず不正・誤謬を発見・摘発・処分し不幸な人を出す姿勢は間違っている。まず不正・誤謬を未然に防止し不幸な人を出さない努力をすべきだ。内部統制やガバナンスの機能を発揮させると同じように、当局が適時的確に企業の適正開示をリビューし投資家保護を優先すべきだ。

現状では、当局の内部告発の奨励→不正発見→摘発→処分は、不幸を生む”悪魔のサイクル”といえる。
当局が市場の不信を増幅しているようなものだ。企業も会計士も委縮してしまうし、優秀な人材は会計士になることを敬遠する。
当局の開示検査がpublic watchdogとして有効に機能すれば(現在は具体的な検査内容が伏せられており不透明のため分からず)、不正・誤謬の未然の防止に効果的で投資家保護になる。

日本公認会計士協会の会長に金融庁・企業会計審議会の委員であった者がなり金融庁からの独立性が疑問視されるようになった。健全な市場は望めない。会計士の数米国の10分の1以下である。
持続可能な市場は健全な市場であることが基本だ。闊達で健全な企業活動が国を支える基本なのだ。

公認会計士の現場では、金融庁の影に委縮し、自らの団体を自主規制団体と称するは委縮の極にある。
企業の開示書類は、紋切り型の一律の開示が見られる。企業及び公認会計士の現場に委縮現象がみられる。

公認会計士の受験生の数は減少し続けている。会計士が自立し信頼を得る必要があるが制度を設計する金融庁の
理解が不可欠である。

2004年の西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件2005年のカネボウ事件2011年のオリンパス事件2015年の東芝事件(米国会計)、核心からそれている問題意識は、会計士の受験生を減少させ続け、優秀な会計士の誕生を阻害している。

2001年のエンロン事件のときの米国公認会計士は33万人、2016年の現在は37万人と15年で4万人増加している。
米国では、エンロン事件後も会計士は増加している。

日本の会計士は2005年に1万6千人、2015年には2万8千人と10年で1万2千人増加したに過ぎない。
公認会計士の受験生は減少し1万人足らずになってしまった。(会計士試験の推移 参照)

これは、金融庁にも公認会計士協会にもビジョンが描けていないからだ。監査実務を行ったことのない人が意思決定し
企業側にも会計士側にも投資家側にも説得力のない施策が行われているからといえよう。

2016年10月6日、証券取引等監視委員会委員長に元広島高検検事長の長谷川充弘氏(63歳)を起用
 ・美濃加茂市長逮捕・起訴を扱う、村木厚子氏証拠改ざん事件の主任検察官
 ・あれだけ不祥事があっても検察はまったく変わっていなかった郷原信郎元検事・弁護士
 ・控訴審逆転有罪判決の引き金となった"判決書差入れ事件"・・続報
 
(12) 企業が作成する財務諸表は、会社法と金融商品取引法に従って二重三重に重複したものを作成させられている。

決算短信、計算書類、有価証券報告書と重複した開示は、作成者、投資者の加重な負担になっている。
縦割り行政の犠牲はいまだ解消されず。優秀な役人が本気を出せば簡単なはずなのに・・・


(1)はじめに

金融庁の東芝に対する戦略が透けて見える記事が掲載された。東芝の役員を刑事罰に問いたいとする金融庁と、立件が困難とする検察庁の攻防である。結論から言えば、金融庁の的外れである。

東京 2016年8月8日 ロイター] - 東芝(6502.T)の不正会計をめぐり、東京地検特捜部が証券取引等監視委員会に対して「事件化は難しい」との判断を伝えていたことが明らかになった。関係者が8日、ロイターの取材に答えた。

監視委は、西田厚聡元社長、佐々木則夫元社長、田中久雄元社長の刑事告発を視野に調査を進めてきたが、告発が見送られる公算が大きくなった。

監視委は、パソコン事業で行われていた、組み立て業者に部品を売って完成品を買い戻す「バイセル取引」を特に問題視。関係者から事情を聞くなどして実態解明を進めてきた。

しかし、特捜部は実際に部品のやり取りが行われ、架空取引ではなかったこと、他のメーカーでも同様の取引がみられることなどから、個人の刑事責任を問うのは難しいと判断したもようだ。

監視委は、歴代3社長の刑事告発の可否について今後も地検と協議を続け、結論を出す方針。

同社の不正会計をめぐっては、昨年12月、金融庁が金融商品取引法違反(有価証券報告書等の虚偽記載)で73億7350万円の課徴金を納付するよう命令した。


元検事の郷原信郎氏の見解→「東芝粉飾決算刑事告発、検察の消極論の誤謬」2016年08月20日
長銀・日債銀の役員を告発したケースは「告発事件の概要一覧表」で事件#24の長銀は無罪確定、事件#25の日債銀は最高裁で原判決を破棄、東京高裁に差し戻し。
財務情報の不実開示と法的責任」by和田宗久氏著(早稲田商学第438 号2 0 1 3 年12 月)・・長銀、日債銀の判決要約
検察と証券監視委が対立 東芝元社長ら刑事責任追及で」by村山治氏(2016/7/19)

2016年10月20日のニュースでは、東芝・佐々木則夫元社長:「(Q.不正会計の事実は?)我々にも分からない」「(Q.指示があったかどうか?)係争中なので(話すことが)できないですね」
 この問題を巡っては7月に東京地検が「立件は困難」との見解を示していますが、監視委員会は刑事告発を慎重に検討しています。

証券取引等監視委員会の委員長は、佐渡 賢一氏。(佐渡委員長インタビュー記事参照)言わずと知れた元福岡高等検察庁検事長。意地でも刑事事件として取り扱いたいのだろう。金融庁からの期待もあり・・・
しかし、今は、金融庁設置法の中の証券取引等監視委員会なのである。投資家保護の立場で考えるべきだ。株価操縦などの自己の利益を得るために行うなど犯意が明らかであれば刑事罰は分るが、有価証券報告書の虚偽記載は単純に刑事罰につながるとは限らない。会計基準が明示されていなかったために刑事罰を問えなかった長銀事件などがある。日本の製造業には有償支給(Buy-Sell取引)はつきものだ。有償支給の会計基準は当然設定はしていない。東芝の場合は米国会計基準を適用していたのだから追求できるはずだが証券取引等監視委員会自体が米国会計基準への準拠性に言及していないのだから追求できるはずがない。

会計リテラシーの低い日本の状況を東芝の不正会計事件は露呈した。日本を代表する経営者が会計に関する倫理観を持たず経営をしていたことだ。原子力発電所建設でリードしようとしていた日本を代表する企業の経営者がである。東電福島の原子力発電所の事故がなければ、日本の国策に沿った企業であったはずなのだ。

東電福島原子力発電所の事故は、東芝を悪夢の奈落に貶めた。そこには、稼ぎ頭と思われたPC事業、半導体事業などに皺寄せが及び利益の水増しの不適正会計が行われていたという。利益水増しの必要性は、どう見てもウエスチングハウス社の買収に係る巨額の「のれん」の減損問題が背景にある。

2016年7月21日報告された第三者委員会の調査報告書の15ページに「平成27年5月17日に、東芝から本委員会に委嘱された事項は、工事進行基準案件に係る会計処理の適正性、その他本委員会に移植する事項の調査を行うとともに・・」とあり、ウエスチングハウス社の買収に係る「のれん」の減損については委嘱されていないと読める。つまり東芝は意図的に「のれん」の減損については委嘱していない。

一方、東芝の有価証券報告書の虚偽記載を調査・監視する証券取引等監視委員会の「開示検査」は、そのホームページに「検査に当たっては、上場企業等が虚偽記載等を行った場合に設置される第三者委員会の担う役割も踏まえつつ、当該企業が自律的かつ迅速に正しい財務情報を市場に提供できるよう、企業自身の適切な取組みを促すこととしています」とあり、文章そのものはよいとしても、今回の虚偽記載に関する処分でも、証券取引等監視委員会の独自の調査対象を設定せず、つまり「のれん」の減損を検査対象にせず東芝の依頼事項の枠の中の第三者委員会の報告書に基づいて処分しているのだ。

尤も、東芝役員は、「のれん」の減損が問題とされた場合、金融機関からの財務制限条項の発動から、社債の前倒しの繰上げ償還を迫られ倒産の憂き目にあう。第三者委員会も危惧したのだろう。証券取引等監視委員会も同様だ。そこで、第三者委員会の報告に基づき、別件逮捕のように「Buy-Sell取引」の粉飾で監査法人及び東芝を処分したのだろうが、真正面から取り扱えない関係者の無力がこの事件を一層複雑にしてしまったのは否定できない。核心を大きく逸れた処分は、いずれ同じような事件に遭遇するはずだ。歪んでいる。

監査法人、第三者委員会、証券取引等監視委員会が機能していない。高い費用をかけて主要プレーヤーが機能していない。ことが大きくならないうちに企業自らが自主的に改革を進めることが重要だ。現在のシステムであれば、企業の役員は問題を先延ばしにしようとする。ことが大きくならない限り、表面化しない。表面化したときは、すでに手の打ちようがなくなる。

現実的な方法は、早期に不適切な開示について指摘できることだ。米国会計基準や国際会計基準の情報開示システムはかなり完成度が高くなり、企業開示情報を基準と照合する方法でチェックすることは可能になっている。企業情報を開示している有価証券報告書の財務諸表が会計基準の規定通りに開示されているかどうかを監督当局がリビューすることを義務付けることだ。現在行われてる受理時のチェックは時間的制限があり不十分だ。有価証券報告書自体公表されており、会計基準も公表されているものだ。リビューの結果、会計基準が要求する開示がなかったり、不十分な開示に対し、企業に問い合わせ回答得て、企業の担当者の知識不足によるものか確かめる方法がある。告発権限を持った監督官庁の問い合わせは、役員をも動かすことができるものだ。

東芝のケースは、有価証券報告書での開示はどう見てもお粗末の極みである。業界では、ウエスチングハウス社の買収で高値買いしていることは注目をされており、次に、東電福島原子炉の事故、シェールガス革命で天然ガスの価格低下による火力発電への建設計画が変更などの客観的事実から、どう見ても「のれん」の時価は低下しており、「のれん」の減損が生じていることは周知のことであった。有価証券報告書の財務諸表での開示の不十分性について指摘すべき重要な事項であった。米国会計基準は、監査法人だけに財務諸表の開示について責任を負わせるほど単純ではなくなっている。監督当局も、投資家保護の観点から開示内容をリビューして企業にコメントレターを出して公表している。監督当局の開示検査内容が公表され、何をどうすることで開示が適正になるか明らかにしている。しかも、最低3年に一度リビューすることが法制化されている。米国会計基準や国際会計基準が適用される時代には必要なリビューである。再発防止に役立つだけでなく、会計監査人の監査も精度が高くなる効果が期待される。金融庁設置法では、金融制度の制度設計には監督当局がキーを握るのだ。

(2)金融庁設置令では、投資家保護とは、企業情報の適時適切な開示にある。(金融庁設置法第3条

我が国では、金融庁設置法で金融庁の使命として、その第3条に「第三条  金融庁は、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることを任務とする」とある。


金融庁の使命は、投資家の保護を通じて金融の円滑を図ることを使命としているのであって、資本市場が委縮して円滑な金融を妨げることが使命ではないはずである。

2005年のカネボウ事件では担当パートナーのローテーションと中央青山監査法人の解体、2015年にはオリンパス事件で金融庁は強引に「不正リスク対応基準」を設定し、今回の東芝事件が起きている。証券取引等監視委員会の検査は、自らの責任と独自の判断で、東芝の検査に「不正リスク対応基準」を適用して「のれん」の減損について「職業的懐疑心」を発揮して検査をすべきであったのだ。

 金融庁の検査では事務局長の談話があり中小監査法人に対する誹謗があり、大手監査法人が検査対象で無風状態の状況を語っている。偏見が予断を許したのではないか。大手監査法人は1000社を超す上場会社の監査を行いるが10社から15社を抽出して検査をしていると語っている。それも審査会によって2年に1度検査していると言っています。これでは、大手監査法人は100年たっても検査されない上場企業の監査があることになる。東芝の事件を受けて監査法人の検査を強化するといっているが毎年行っても全部終えるのに100年を超える非効率な検査を指定rということになる。

投資家を保護するという使命であれば、投資家に適時適正に情報開示をしている有価証券報告書が会計基準を含む規則に準拠して適正に開示していることを検査するほうが投資家にとっては望まれることであろう。米国では、エンロン事件を受けて、証券取引委員会(SEC)が、上場会社の情報開示について3年に1回の割合でリビューすることが義務付けられている。財務情報の開示について、会計監査人にのみ依拠しているのではない。


米国では、会計基準が詳細にわたって規定しており会計士が財務諸表の開示について深くサポートしていた中で、2001年暮れに、エンロン事件が発生した。米国公認会計士の数は多くて(米国会計士37万人のうち47%(17万人)が会計事務所、34%(12万人)が企業に従事している)も、開示内容や会計処理が複雑になり、会計士に開示を頼るようになっていた。エンロン以後、会計士の独立性が強化され、会社の財務諸表に監査意見を述べる担当会計士が作成することはできなくなった。エンロン事件を契機としてサーバンス・オクスレー法408条で「定期的な企業の開示のリビューの強化(Sec. 408. Enhanced review of periodic disclosures by issuers.)」を法定した。これにより、証券取引委員会(SEC)は、企業がSECに登録した日本でいうところの有価証券報告書等の開示書類を最低3年に1回の割合でリビューしている。会社との意見交換の結果は、リビューの結果として「コメント・レター」が公開される。公開されたコメントレターは、大手会計事務所は、上場会社の利便に供するために、SECコメントをまとめて顧客企業の参考に供している

米国監査実務を行った経験のあるものであれば、完成度が高く複雑となった会計基準と財務諸表の注記による開示が多くなると、適正意見を述べるためには、会計基準が求めている事項を監査の過程でチェックするのは当然であるが、会計処理や開示項目の注記を監査意見で適正意見を述べられるように自分で作成したほうが早く効率的と考えてしまうことがある。会社に任せていたら、会計担当者の知識不足や経験不足が「会計基準の適用の誤り」が生じてしまうことになる。一方、開示項目が多くある中で、監査意見は財務諸表全体が適正か不適正か纏めなければならない。小さな会計基準の適用の誤りは、僅少ということで全体に影響が薄く投資者の判断を誤らせないということで適正意見を述べることになる。不適正意見では上場廃止のリスクが生ずることになる。


こうした会計基準の複雑化、注記による開示項目の広がりは監査人の監査意見に大きな影を落としている。監査の過程で、会計基準に準拠すれば、開示すべき内容が欠けている場合、不適正にするか意見を差し控えるか常に考えているが、企業規模が大きくなるほど多くなる。

東芝のケースであれば、ウエスチングハウスの買収に絡む「のれん」の会計処理は関心の高い事項であった。注記を見るとお粗末なほどであった。これが、米国会計基準での開示といえるのか非常に疑問であった。と同時に、「財務制限条項」の開示をどうなっているのか見てみると、具体的な記述がなく、投資家も判断できかねるものと思われた。いずれにしても、米国会計基準に準拠しているは当局がチェックしていればコメントだ出てくるくらい東芝にとって重要なものだった。

ちなみに、会計士は、下記のチェックリストを使って国際会計基準の開示内容をチェックすることになっている。各事務所ともに200ページを超えるチェックリストになっている。いかに多いかを知ってもらいたい。東芝が適用していた米国会計基準の開示チェックリストは国際会計基準(IFRS)のチェックリストよりもっと詳細で量も多い。開示項目が増えれば監査手続きが増えることでもある。会計士が企業の開示に深く支援できている時代は対応は簡単であったが、エンロン後は監査人の独立性から直接開示作業に手を出せなくなった。つまり、監査リスクは増えたのだ。会社担当者の会計リテラシーに依存する度合いが急激に増えたからだ。東芝に米国会計基準に熟知していた人がどの程度いたか分らないが有価証券報告書の開示を見るとかなりお粗末であった。

 プライスウオータークーパー2015年度版  デロイト・トウシュ・トーマツ2015年版   KPMG2014年版  アーンスト・ヤング2015年版 

国際会計基準の適用会社(適用予定企業含む)は、118社(時価総額約111兆円で全上場企業時価総額の21.49%(金融庁調べ)、(東証調べ)・・2016年調べ

 日本の会計の変遷の概要

 日本の会計が昭和24年(1949年)の企業会計原則から始まり、1996年11月の橋本首相によって日本版ビッグバンスタートし、キャッシュフロー計算書の会計基準、退職給付に係る会計基準税効果会計の基準、金融商品の会計基準などが国際会計基準に一致させるべく導入され、2000年3月期から個別財務諸表中心主義から連結財務諸表が中心と変更になり国による会計基準の設定には限界があることから2001年7月から会計基準の設定を大蔵省企業会計基準委員会へ移管することになった。

旧大蔵省で議論された、2000年6月29日の「企業会計設定主体のあり方にについて(論点整理)」にあるように、会計基準を設定するには、独立性、人事の透明性、公正性及びバランスの確保、会計基準設定のプロセスの透明性、専門性・多様性、常設・常勤性、即時性、能動性、国際性などの面から指摘されている。こうして2001年7月26日に設置されたのが企業会計基準委員会である。

企業会計原則は、真実性の原則として「企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない」としています。しかし、真実性とは何かということは記述されていません。退職給与引当金を例にとると、税法基準で従業員が自己都合の要支給額の40%を損金算入額を認めていた時代には、税法の基準で計上していれば妥当とされていたのです。

国際会計基準では、IAS1号に適正表示というパラグラフに「財務諸表は、企業の財政状態、財務業績及びキャッシュフローを適正に表示するものでなければならない。IASを適正に適用し、必要な場合には追加的開示をすれば、ほとんどすべての場合に、適正表示を達成した財務諸表が作成されることになる。(現パラグラフ15)としており、具体的に会計基準を設定して会計処理の基準および注記による開示基準を設定しています。つまり、財務諸表を適正に表示する内容を具体的に基準を設定しているのです。企業の財務諸表が、適正表示しているかどうかを見るには、国際会計基準に準拠して会計処理および注記による開示が適正に表示されていることを確かめることができます。

国際会計基準(IFRS)は、適正開示のために必要な会計基準を設定していることから、現在、3千ページ近くになっています。日本の企業会計原則との違いは、真実性の原則でいう「真実」とは何かを明示していない曖昧な規定が、国際会計基準では「適正表示」という表現は違いますが、適正表示の内容を明示して曖昧さを極力排除しています。これにより、財務諸表作成者である企業、監査を行う会計士、読者である投資家・ジャーナリスト、監督当局の開示検査する者が、共通して理解できる基礎を持っています。

つまり、国際会計基準や歴史の古い米国会計基準では、企業の公表する財務諸表の適正表示を見ることができるのです。企業の公表する財務諸表の開示について、会計基準が開示を要求している内容が、財務諸表に表示されていないケースや開示が不十分なケースを見ることは会計基準を知っている者にとっては可能ですし簡単なことです。東芝のケースでは、退職給付の引当金計上に使った割引率(米国会計基準が注記に開示を求めている)が他社と比較して高い割引率を使っており引当金が過少計上の恐れがあると指摘しています。これは、利益を膨らましている恐れを指摘しているのです。ウエスチングハウスの買収に係る「のれん」の減損に関する注記は不十分であったが誰も指摘していないのは不思議であった。

制度設計(企画・立案)する官僚の現実を記述して、現役官僚が「提言・国家官僚養成」(総務省官僚の岡本全勝氏)で以下のように提言している。
提言・国家官僚養成」によると、「官僚は、各々の持ち場で頑張っているはいるのですが局や省にとらわれず国家全体を見渡す官僚、すなわち「国家官僚」がいない、同時に仕組みもない、ということです。この点に、現在の霞が関が陥っている機能不全、地盤沈下、そして国民の期待に応えきれていない原因があると思います」とし、三つの原因を上げています。「@大学教育におけるフィールドワークの欠落、A入省後における国家的視点要請の欠如、B官僚個人が実名で国の政策を論じ、発言をする場が皆無」として、問題点を指摘していますが、一般の社会では、自力で解決するものばかりです。そして、一般人からすればそんなことは克服しているものと思っているものばかりだ。ちなみにこれを書いているのは現役官僚である。説得力があるのは現役官僚だからだろう。こうしてみると、金融庁設置法の趣旨がいつまでも達成できていないのが頷ける。官僚個人が実名で発言すれば欠陥だらけであることもうなずける。官僚にとっては沈黙は金なのだ。欠陥が露呈されないからだ。


(3)はじめから最重要の「のれん」の減損2600億円を除いた検査方針が、金融庁の的外れの検査方針を生んだ原因だ

2016年4月26日になって、東芝は、東芝は懸案となっていたウエスチングハウスの「のれん」を2600億円の減損処理することを公表し会計上の主要な問題点を解消することができた。この処理により、監査を引き継いだあらた監査法人は監査リスクの懸案は解消した。

2016年5月12日、東芝は、2016年3月決算に関する発表で『代表執行役上席常務の平田政善氏は「減益要因として、構造改革費用として1105億円の影響があったほか、Westinghouseを含む原子力における2600億円の減損をはじめとした資産評価減で3251億円、不採算案件の引き当てなどで2368億円などが減益要因となった」と説明した。』


2015年4月3日に不適切会計が発覚し、7月20日、東芝は、不適切会計問題を調べてきた第三者委員会(委員長:上田広一元東京高検検事長)の報告要旨を公表した。報告は、歴代社長ら「経営トップの関与に基づき、組織的に不適切会計が実行・継続された」と断じるとともに、過年度の利益の過大計上が総額1562億円にのぼったことを明らかにした。報告が示した税引前利益の過大計上額は2009年3月期から2014年4−12月期までの累計。第三者委の調査で1518億円、東芝の自主チェックで44億円が判明した。東芝は過大計上額を548億円と発表していたが、3倍近くに膨らんだ。

第三者委員会は「東芝から嘱託を受けて、東芝のためだけに行われた」として監査法人の監査については言及せづ、巨額ののれんの減損会計の可否について触れていない。
つまり、第三者委員会は、米国会計基準による「のれん」に関する会計処理及び注記による開示に関して調査対象から除いている。第三者委員会の報告書を基礎にした金融庁の東芝に対する処分及び担当監査法人の処分からも”米国会計基準に関する「のれん」の減損は全く除外されることになった。

結果を見れば分かる通り、東芝の不正会計に関する金融庁の方針も第三者委員会の報告書に沿って行われたのである。歪んだ方針は将来に重大な汚点を残したといえる。

2006年2月6日、東芝は、「本日、当社は、英国原子燃料会社(British Nuclear Fuels.plc:以下、BNFL)と、同社のグループ会社であるBNFL USA Group Inc.およびWestinghouse Electric UK Limited(以下、両社を併せてウェスチングハウス社)の全株式の取得に関する契約を締結しました。取得額は54億ドル(約6,210億円、115円/ドルで換算)です」と発表し、「ウェスチングハウス社が当社グループの一員となることにより、当社原子力事業の規模は、相乗効果も合わせると、2015年までに現状の約3倍に拡大するものと予想しています」としていました。

当時は、ウエスチングハウス社と提携関係にある三菱重工業(関西電力から西はウエスチングハウス社製の原子炉で三菱重工が担当)も買収に参加しており、東芝は高値買いしたことは明らかであった

 その後、2011年の東日本大震災以降、国内では“原発ゼロ”の状況が長く続き、原発の定期検査という収益源がなくなったことで、国内部隊は赤字に陥った。一方、海外を主戦場とするウェスチングハウスも最近は苦戦が続いているという。当然、のれんの減損の検討が必要になる重大な事故が発生したのである。

2007年3月期の有価証券報告書を見ると、のれんの注記8には、単に、当期取得額350,785百万円とあり、注意深く最後まで注記を見ていくと注記27に「ウェスチングハウス社の買収」という項目を設けて説明しており、「のれん」350,785百万円、ほかに技術関連無形資産等に251,976百万円計上としている。双方の注記の「のれん」は一致しているが、注記8と関連する注記27に参照していないので判りにくい。貸借対照表の「のれん」には注記8が参照されているのみで注記27には参照していない。投資家には読み取れない判りにくい財務諸表となっている。
注記8には、米国財務会計審議会基準書FASB142号「のれん及びその他の無形資産」に従い「減損テストをした結果減損をしていない」としています。しかし、のれんの評価方法の記載がないし、減損テストがどんな方法で行われたのかさえ記載がない。米国証券取引委員会SECに登録してある企業であれば(東芝はSEC登録会社ではない)、もっと分かり易い開示がされているはずだ。


加えて、シェールガス革命が原発に与えた影響もあろう。天然ガスの下落により予定していた原発建設から火力発電所の建設に切り替えたために、フランスの原発開発会社アレバ社が北米から撤退している。これは、のれんの時価を下落させる要因であった。

東芝の経営者の意向に沿って、のれんの減損に言及しない第三者委員会の報告書を基礎にした、企業及び監査法人に対する金融庁の処分は大きく東芝の不正会計の問題を歪めてしまった。

第三者員会の報告では、第2章工事進行基準の会計処理、第3章映像事業における経費計上等に係る会計処理、第4章パソコン事業における部品取引等に係る会計処理、第5章ディスクリート、システムLSIを主とする半導体事業における在庫評価の会計処理に関し訂正している。粉飾ばかりである。米国基準であろうと日本基準であろうと粉飾は虚偽記載の最たるものだ。

第5章にパソコン事業における部品取引に「Buy- Sell取引利益残高」と出てくる。有償支給取引の取引価格を高めに設定して利益を計上したと主張する。有償支給取引は製造業につきものである。

しかし、東芝の場合は、誰が見ても、ウエスチングハウスの「のれん」の減損であろう。減損を計上すれば、財務制限条項から前倒しの社債等の返済を迫られる状況にあった。財務制限条項の開示を見ても具体性がなく投資家の判断できる内容ではなかった。この会社の財務諸表は、のれんの開示と財務制限条項の開示を見れば会社の苦しい状況は分かる。素直に財務諸表を見ればわかる問題だ。特に懐疑心をもてと言わなくてもだ。不明瞭な開示の表現がそれを表していたのだ。だからこそ開示検査が必要なのだ。

加えて、退職給付引当金に適用した割引率が他社より高く設定しており、引当金が少なく計上しているという指摘も重要な要素であった。これも、多くの会計士の手を煩わさずとも分かるものだ。

企業の開示について処分を勧告した証券取引等監視委員会のトップや、監査法人の処分を勧告した公認会計士・監査審査会のトップがそうした重要な会計知識を持って判断できるかは重要なことだ。核心を突いた処分かどうかの判断と将来の再発防止策の策定に重要だからだ。金融庁の書類に東芝が適用していた米国会計基準への準拠性について言及していない。金融庁の書類には、米国会計基準に関わらず会計基準の用語を意識的に避けているように記載がないのだ。

検査当局が、会計基準及び監査基準に知悉して、真正面から財務諸表の虚偽記載または粉飾決算を取り扱わないと、財務諸表の作成者、会計監査人は処分内容も具体性が乏しくピンとこないものになる。真に再発防止を願うなら、開示検査に会計基準や監査基準と真正面から捉えないと、何度でも同じことが繰り返されるだろう。オリンパスのケースものれんの減損の開示を正しく追及していれば明らかになっていたのだ。当時の富士写真とオリンパスののれんの開示を比較してみれば、オリンパスのお粗末な開示が簡単に読み取れるのだ。開示検査をしていなかったという意味では、オリンパスと同じ東芝事件は再発したといえる。オリンパス事件は監査人の交代の手続きの問題にすり替えられたが、根底には開示検査をしてなかったことにある。検査当局を含む金融庁自らが、会計基準や監査基準を甘く見ている限り、粉飾決算は何度でも繰り返される。米国SECのように真摯に、地道に、上場企業が会計基準に準拠して開示しているか3年に1度リビューをしていることは、投資家にとっても、企業にとっても、会計監査人にとっても非常に意味があるのだ。


(4)金融庁の、開示検査に「会計基準(開示基準)への準拠性」が見られない、実施した痕跡が見えないまるで、開示検査というより税務調査の粉飾経理の調査。注記を含めた開示検査になっていない。

日経新聞2015年7月28日】 発端は1月下旬、東芝の経理担当者あてにかかってきた1本の電話だった。電話の向こうの声は「証券取引等監視委員会の開示検査課」と名乗った。「インフラ事業の会計処理でいくつか聞きたいことがあります。資料を用意してください」  調査は東芝からの内部通報がきっかけだ。調査官が東京・浜松町の東芝本社を訪れたのは2週間後。冬晴れの空が広がる2月12日のことだった。応接室での聞き取り調査は数時間に及んだ。監視委は長期プロジェクトの採算を管理する工事進行基準と呼ぶ会計処理に疑問を呈した。進捗に応じて費用を年度ごとに見積もり直し、損失が出たらその年度に計上するルールだ。「おかしな点がある」と指摘され、東芝の担当者は「すぐ社内で調べます」と応じた。・・と日経新聞は伝えている。これでは税務調査のようなものだ。当初から被疑者扱いだ。マスコミの餌食だ。読み物として面白い。

 金融庁の前身が大蔵省で国税局を傘下に持っていたせいか、財務の検査は、税務調査のようなのだ。会計基準委には、会計処理の基準と注記による開示基準があり、かつ、キャッシュフロー計算書のように課税所得計算とは関わりのない、投資家への開示情報が含まれているにも拘らず、会計基準の開示を求めている情報については手を付けない習性があるようだ。

開示検査の文章も「会計基準」の用語を避けるようにして書かれている。企業の情報を規定しているのが「会計基準」なのにである。投資家の判断で一番大事な情報が適切に開示されているかどうかの検査が分かりにくくなっている。東芝のケースは、いきなり「粉飾」を特定して攻めいているという感じだ。東芝の財務諸表の入口である「のれんの減損」、財務条項制限の開示を会計基準にのっとり適切に開示するように指摘することで、その裏側にある、隠し事も見えてくるものだ。一度粉飾するとそれを隠そうとするので早い時期にリビューをすることが重要だ。
 
 平成26年8月26日に証券取引等監視委員会事務局の「金融商品取引法における課徴金事例集〜開示規制違反編〜」を見ていると、粉飾事例ばかりである。税務調査のような仕事をしているように思える。会計基準への準拠性について一切記載はない。日本の資本市場の開示の現状はこれほど酷いものなのだろうか。中には、事務的なエラーまで記載されている。自主的な訂正ができるようになっていないように思える内容だ。社内はおろか(内部統制の問題)、外部が定期的にリビューしていない場合(官による検査の問題)に起こるエラーが見えるのだ。内部統制が不十分であったり、官によるリビューが不十分である環境では粉飾が起きても不思議ではない。オリンパスや東芝のような「のれん」の減損にかかる注記が不十分な場合の指摘がされている気配はない。いわゆる会計基準の準拠性のリビューの形跡がないのだ。このリビューを地道に早い段階で行うことで粉飾を防げることもあるのだ。リビューのタイミングも重要だ。

 オリンパスも東芝も、定期的に監督当局による開示検査を行っていれば、内部統制が機能してない単純なエラーや、経営者の内部統制を無視したマネジメント・オーバーライド(Management Override)による粉飾を未然に回避して、適切な会計による情報開示ができ、経営者の犯罪を未然に防止できた可能性は否定できない。資本市場は、投資家保護が肝心であるし市場に犯罪者が出ないようにすることが活性化に必要なのだ。そのためのコストは健全な資本市場を運営するためには必要だ。市場参加者が相互に信頼を生む仕組みが必要だ。特に企業の情報開示について。会計基準の高度化・国際化は先人の努力の賜物なのだ。

 つまり、事務的なエラー、粉飾決算や会計基準の適用の誤りなどは社内におけるリビューなどの内部統制が機能していれば防げるし、内部統制を無視する経営者によるマネジメント・オーバーライド(Management Override)があったり、内部統制が不十分であれば、官による投資家への開示情報である有価証券報告書等のリビューにより、より正確な情報開示が可能となる。内部統制のチェックが甘いのと、官のリビューが甘いと企業の情報開示は当然甘いものとなるのは必然だ。特に、会計基準が高度化すればするほど、開示内容が高度化しているのだからだ。

 また、粉飾決算は会計監査人にとって「監査の失敗」に直結している。しかし、金融庁は、会計監査人の監督を、公認会計士・審査委員会に委ねており、部署が違ってくるが、担当会計士の監査には言及してない縦割り行政なのだ。会計監査人としては死活問題だ。監査人のなり手がいなくなるだろう。証券取引等監視委員会事例集の開示では垂れ流しで粉飾を摘発している感がある。

 証券取引等監視委員会のホームページに「開示検査について」と題するページがある。文章は非常にいい文章なのである。しかし、この文章にも会計基準の準拠性について記載がない。加えて、開示検査に基づく勧告一覧を見ると「粉飾事例集」なのである。粉飾も確かに虚偽記載であるが、投資家に提供すべき的確な情報開示にも検査して、適切な開示を促すのも投資家保護ではないか。その部分も行っているというが何を指摘し企業はどう対応したのか見えてこない。そこが見えてくれば、企業の対応も前向きになる可能性を秘めていると思う。

証券取引等監視委員会が財務局から「開示検査」を引き継いだのは、2005年7月からである。 (「金融庁、虚偽記載問題への対応策公表」by大和総研 参照)  2004年に発生した西武鉄道の有価証券虚偽記載事件潟Rクドの西武鉄道の株式所有割合を少なく記載)を契機に引き継いだもので、この事件は保有株主の虚偽記載事件であって、会計士が監査意見を述べる財務諸表の虚偽記載ではない(しかし、個人会計士が行っていたことが問題になった)。その後、財務諸表の粉飾事件として2005年のカネボウ事件2011年のオリンパス事件が起きている。(金融庁証券取引等監視委員会事務局次長松井英隆氏講演資料平成24年5月23日 参照) 粉飾決算(財務諸表が虚偽記載しており開示情報が投資家の情報として歪められている)の改善策として、カネボウやオリンパス事件後、監督官庁の開示検査には全く言及していない。監督官庁は、意図的にか会計基準を避けるようして一切会計基準への準拠した開示が行われているかの検査について言及していない。これでは、企業も投資家も関心を示すはずがない。

 金融庁の「開示検査に関する基本指針を見ると、会計基準への準拠性の検査の記載はない。会計基準の知識、監査の経験しかも最低監査報告書への署名捺印をする責任者の経験などが求められていない。つまり監査経験を求められていない。行き当たりばったりの「開示検査」を早くプロ集団に育て、投資家から信頼できる健全な資本市場にして欲しいものだ。人材不足として、開示検査課の職員募集を見ていると心もとない。幹部に理解力のある人材が必要なのだが・・ 事務局長の発言内容を見てみると恐ろしい限りだ。

(5)2001年のエンロン事件から学んだ米国は、会計基準の準拠性を3年に1度は、すべての上場企業に開示検査の実施を法制化した

エンロン事件は会計事務所と企業の癒着が問題とされ、会計事務所の独立性が強く強調されることになった。それまでの監査は、投資家に適切な情報を開示するために、会計基準に準拠して適切な開示をするために深くサポートをしていた。このサポートは、会社担当者が「会計基準の適用の誤り」によって不適切な情報を提供した場合の監査リスクを避ける意味でサポートしている場合が多かったと思うが、誤解を与えることになる、エンロン後は、監査人は手を下してはならないことになった。【「大会社等監査における非監査証明業務について」解釈指針参照、:「Enron 監査の失敗事例の再検討」by亀岡恵理子早稲田大学博士課程2015年12月 参照】

会計基準が高度化され複雑化することで、求められる開示情報は多岐にわたることになるが、監査報告書は、企業全体として適正かどうかの監査意見を述べることになっているのだ。ある開示情報が不十分であっても総合して意見を述べるのである。投資家に提供すべき情報に限界が生ずることになる。

エンロン事件を契機としてサーベンス・オクスレー法408条で「定期的な企業の開示のリビューの強化(Sec. 408. Enhanced review of periodic disclosures by issuers.)」を法定した。これにより、証券取引委員会(SEC)は、企業がSECに登録した日本でいうところの有価証券報告書等の開示書類を最低3年に1回の割合でリビューしている。会社との意見交換の結果は、リビューの結果として「コメント・レター」が公開される。公開されたコメントレターは、大手会計事務所は、上場会社の利便に供するために、SECコメントをまとめて顧客企業の参考に供している

このSECのリビューは、投資家保護の基本である財務情報の適正な開示を提供することを目的とした当局によるリビューで監視することによって情報の質を向上させようとするものだ。SECのエドガー・データベース(EDGAR)に登録されて公衆の閲覧に供している年次報告書(日本の有価証券報告書等)を、会計基準に忠実に準拠して開示しているかリビューをし、会計基準に照らして開示に疑問がある場合に、透明性を確保するために書面にて企業に問い合わせることにより、会計基準の適用の誤りや不十分な点を指摘して、場合によっては訂正を促す仕組みだ。例えは的確でないかもしれないが、”交番”や”パトロール”のような役割で、投資家への情報開示の質を高める一方、未然に財務情報の開示の誤謬・不正を防止する効果が期待される。

日本ではすでに金融庁EDINETによってすべての上場企業の有価証券報告書等が公衆の閲覧に供している。金融庁が収集したEDINETの有価証券報告書等をリビュー(開示検査)すれば良く、机上の仕事で、さほどの人数やコストはかからない。会計基準や監査に習熟し経験豊富な人で開示書類を読んで判断できる優秀な人が行えばよい。なお、会計監査人の行う実証監査手続きである実査・立会・確認は、専業とする監査法人が取引及び財政状態の実態をチェックする。当局の開示検査(リビュー)には監査法人と重複した取引の実証検査は求められない。無論、故意による悪質なあ粉飾疑義がある場合は、法に基づく強権を発動し実態検査をするのは言うまでもないことである。内部通報を奨励し、いきなり発見・摘発・処分の日本の現状は、まともな人であれば引いてしまう。現に、会計士のなり手も少なくなっている。持続可能な健全な市場の構築には、当局を含めて未然に不正・誤謬を防止するガバナンスを構築する必要がある

当局におけるリビューは、企業にとって開示の自主的改善ができるのと、適時・的確に、投資家への企業情報がより精度の高い情報の提供が期待され投資家の保護につながり、かつ、リビューの内容を公開することで、他企業が参考にすることができる、また、最低3年に一回行うという縛りがあるため、開示の緊張が持続・継続され、開示の精度が上がり投資家保護が持続・継続することが期待される。日本のように開示検査をしているといっているがその内容が公開されていないので、他の企業および、会計士の参考にならない。つまり、役に立たないのだ。

2016年10月6日、証券取引等監視委員会委員長に元広島高検検事長の長谷川充弘氏(63歳)を起用と報道されている。氏の評判などネットで調べると、下記のとおりである。会計について知見があるとは思えない。金融庁は、検察との意見が合わなくなっていることから強化するために強面の氏を起用したのであろうと疑いたくなる人のようだ。開示検査はの質の向上は遠のくであろう。
 ・美濃加茂市長逮捕・起訴を扱う、村木厚子氏証拠改ざん事件の主任検察官
 ・あれだけ不祥事があっても検察はまったく変わっていなかった郷原信郎元検事・弁護士

また、国際会計基準適用会社が100社を超え、国際会計基準について、金融庁は、企業会計基準委員会に委託して下記の開示例を公開したが、IFRSの開示を勉強するというレベルで、実際に開示をする場合の例示がなく、つまり具体性がなく実務家向けではない。開示例とは言いながら実務家向けではなく、教育用である。金融庁は実務家向けに例示を出すべきである。開示検査には使えるかもしれないが・・・

(6)金融庁の検査で、日本の大手監査法人の上場企業は100年近くになっても、すべての上場企業を検査できていない計算となる。


監査法人検査を通じて見えてくる上場会社の課題】by佐々木清隆氏(現・証券取引等監視委員会事務局長)、公認会計士・監査審査会事務局長兼検査局審議官、2005年〜2010年の間、証券取引等監視委員会特別調査課長と総務課長を合わせて5年間従事。・・@2年に1度、大手監査法人は1000社ほどの上場会社を監査しており、監査事例としてわずか10〜15社をピックアップして審査している(13ページに記載)。A監査人と監査役のコミュニケーションが不十分だ(11ページに記載)。

氏の講演内容は中小監査法人の品質を問題としていることがにじみ出ている。しかし、大手監査法人の検査は東芝のケースで毎年実施して強化するといっているが、毎年検査しても10社から15社程度でああれば100年近くになる計算だ。投資家が待ってくれそうもない。非現実的だし非効率だ。投資家への情報開示を充実させ投資家を保護すべきだ。

監査人を委縮させて優秀な監査人が生まれなければ金融市場での公認会計士は信頼を生まないし、株式等を保有する年金資産ほかの減損を生むことになり国家的損失だ。

東芝の処分が終わった2016年(平成28年)2月2日、日本証券研究所で、佐々木清隆証券取引等監視委員会事務局長が「証券取引等監視委員会の課題-「金融行政方針」との関連で-」と題して講演をしている。東芝については、19ページに出てくるが何を学んだの講演内容からは分からない。お山の大将(官僚)の講演だ。どなたかの発言で立場で見えてる景色が違うといっていたが、氏の発言は経歴からもどっぷりと”官僚”から見た景色だ。それも開示検査に関しては偏見に満ちている。民間からの景色や現在の経済活動状況に関心が薄く疎い。

講演を聞いていると検査の視点は摘発型のタコツボ化(サイロ・エフェクト)を感じさせ今後も大きく変わることは感じさせない。開示検査に関して、本当にRout Causeに迫って欲しい。国際会計基準(IFRS)が2500ページを超え、国際監査基準が800ページを超え、これをマスターして企業の財務情報の監査をしている会計士からの景色が見えているようには思えない。会計士の本領は、内部統制の整備充実を指導し機能させて財務報告の誤謬・不正を未然に発見・防止し適切な財務情報の開示に監査意見を表明することにある。健全な継続企業を育成しなければ会計士としての健全な仕事で継続した収入を得ることができないことを身に染みているのは会計士なのだ。

監督当局も、企業の情報開示については摘発ばかりでなく未然に防止する方法である当局による財務情報の実効性あるリビューを考えるべきだ。米国証券取引委員会(SEC)が行っている3年に1度の企業財務のリビューは理に適っている。米国には健全な資本市場を会計士とともに構築する姿勢がある。だからエンロン以後も会計士が増え37万人にもなっている。金融庁設置法の趣旨からも投資家保護の見地から企業の有価証券報告書が会計基準の準拠して適切に開示しているかのリビューを実効性あるものにすべきだ。東芝事件の再発を無くすために会計士と同等の視点でリビューすべきだ。私は、東芝のケースはSECと同じリビューをしていれば未然に防げた可能性があったと思っている。リビューの能力にもよるが・・・

ではどうすればよいのか。専門性や透明性を高めるしかない。

現状を分析する必要がある。投資家保護の要諦は、投資家に適時適切な投資情報が提供されることにある。東芝のケースやオリンパスのケースは会計基準に準拠して適切な開示をしてこなかったことによるものだ。結論から言えば、東芝のケースは米国会計基準に準拠して「のれん」の開示を適切に行ってこなかったことに起因する。オリンパスも日本会計基準の「企業結合の会計基準」に適切に準拠して開示してこなかったことに起因する。監督官庁の「開示検査」は双方ともに会計基準の準拠性について具体的な記述がない。つまり、どの規定に違反しているので虚偽記載であるという記述がないのである。

2005年3月、叶シ武鉄道の株式を潟Rクドが所有していたのだが、所有割合を少なく記載するなどとして、証券取引等監視委員会が虚偽の有価証券報告書を提出したとして告発した(事件#71参照)。この事件は有価証券報告書に証券取引法が開示を求めている「保有株主の所有割合」が過少で報告していたという虚偽記載事件であって財務諸表の虚偽記載事件ではなかった。証券取引法第197条第1項第1号等の「虚偽の有価証券報告書の提出」で告発されたものである。

金融庁は、再発防止に向けて、「(1)来年(2005年)7月から有価証券報告書等の虚偽記載等に係る検査・報告徴求権限を関東財務局から証券取引等監視委員会に移管する。これに伴う審査体制全体のあり方を金融庁総点検プロジェクトの一環として検討する。」等の対策を講じた。証券取引等監視委員会が財務局から「開示検査」を引き継いだのは、2005年7月からである。 (「金融庁、虚偽記載問題への対応策公表」by大和総研 参照) 

2004年に発生した西武鉄道の有価証券虚偽記載事件潟Rクドの西武鉄道の株式所有割合を少なく記載)を契機に、「開示検査」が証券取引等委員会へ引き継いだもので、「開示検査」の内容にも会計基準への準拠性の検査が脆弱であった。

しかし2005年4月に発生したカネボウ事件は粉飾額が2千億に上る財務諸表虚偽記載事件である。監査の問題であった。中央監査法人が解体され、提携先のPwCがあらた監査法人として分離独立した。2005年10月25日金融庁・公認会計士・監査審査会の「適正なディスクロージャーと厳正な会計監査の確保に向けた対応策」の要望を受けて、日本公認会計士協会会長は、「公認会計士監査の信頼性の回復に向けて」と題する声明を発表し、4大監査法人の上場会社の監査を担当する業務執行社員のうち主任会計士については、継続監査期間5年・インターバル期間5年とし、その他の執行社員は7年・2年とするようローテーションを見直すことを要請し、新たな自主規制ルールを作成するとした。

2011年に発生したオリンパス事件は、会計の問題であった。しかし、金融庁は監査の問題として捉え、2012年12月11日企業会計審議会第32回監査部会が公表した「不正リスク対応基準(原案)」を見ると、当初の草案にあった「取引先企業の監査人との連携」は、被監査企業と取引先企業の通謀が疑われる場合の一つの監査手続であると考えられるものの、解決すべき論点が多いことから、今回の公開草案には含めず、循環取引等への対応について、当審議会において継続して検討を行うこととしている。実質現行の国際監査基準に何の変更もない。草案から半年を超えた、事件発覚から1年半経過した2013年6月24日第35回監査部会でやっと「不正リスク対応基準関連の内閣府令等」が正式に公表される。


振り返ってみると、オリンパスの事件は企業財務の開示の問題であったにもかかわらず「不正リスク対応j監査基準」としてごり押しした結果、東芝のケースが見過ごされてしまったとしか思えない。その証拠に、東芝事件の監査法人への処分について「不正リスク対応監査基準」への抵触に関して触れていない。

再発防止には、金融庁の意思決定に知識・監査経験の豊富な人材がいる様子がないことが、的外れな再発防止策を繰り返しているように思える。思えば、2000年6月29日、当時の大蔵省(現・金融庁)の「企業会計基準設定主体のあり方について(論点整理)」にあるように、会計基準設定には、独立性、会計j基準設定の透明性、人事の透明性、公正性及びバランスの確保、会計基準設定プロセスの透明性、専門性・多様性、常設・常勤性、即時性、能動性、国際性、などが挙げられ、大蔵省・企業会計審議会(現・金融庁)が設定していた会計基準を民間の企業会計基準委員会へ移管することになった。

監督当局の「開示検査」が、会計基準の準拠性に関するものであるなら、開示検査の実施は、専門性、透明性などが求められよう。再発防止策の策定も同様である。現在の対応を見ていると心もとないのが現状だ。検査や処分の不透明さがある限り、改善されないし信頼も得られないだろう。説得性が重要だ。

ちなみに、「財務省財務局60年史第4章証券取引等監視編」を見るとその歴史が分かるが「開示検査」はほんの少し出てきてその内容は不明である。「平成4年7月20日に発足した証券取引等監視委員会(以下、「監視委員会」という。)も、平成21年7月に満17年を迎えた。」とあり、2009年の時点で書いたものらしい。

告発件数を競っているのか。開示検査により、未然に虚偽記載を防止するガバナンス機能については考えられていない。開示検査により、開示がより投資家に有用な情報を提供ができ投資者保護に役立ち、一方、企業の虚偽記載による犯罪者の発生を未然に防止する機能は、資本市場に信頼関係を生み出す有用な効果だ。それでも、意図的に粉飾する者がいるだろうが、その時こそ告発は必要だが、未然に防止する機能は市場の信頼関係を増長するものと信じ決して放棄すべきではない。資本市場に犯罪者の発生の芽を摘む努力をまずすべきなのだ。監督当局による開示検査はそうした潜在性を持っているものだ。企業や会計士を処分して委縮させるばかりでは、信用は築けず、金融市場に活気はなくなり、ますます、有用・有能な人材は寄り付かないことになる。

2016年3月24日、公認会計士・監査審査会は、「公認会計士・監査審査会検査の実効性の向上」〜大規模監査法人を中心に〜」を公表している。それによると、大手監査法人の検査件数は8件となっている。平均検査官数10.1人。投資家にとっての情報開示にどの程度の効果があるというのであろうか?不思議な人たちだ。東芝のケースを想定しても効果があるとは思えない内容だ。


(7)会計基準が高度化・複雑化して開示すべき項目内容ともに充実しているが監査報告書は一つの意見で集約するために限界がある

世界で一番詳細に会計基準を規定しているのは米国会計基準である。企業財務の投資家への開示を如何に開示するかの歴史を重ねて進化・発展してきた結果、会計基準の完成度が高まり、多くの会計処理基準と注記による詳細な開示項目を設定してきた。国際会計基準は、完成度の高い米国会計基準に範をとり設定してきた経緯がある。

一方、詳細の設定してきて完成度が高い米国会計基準は、米国の会計士が企業財務諸表の開示に深く関与し、企業の担当者に深く支援(お手伝い)を行って米国会計基準に準拠して会計処理および注記による開示を行ってきた。会計基準の高度化=会計士による支援=会計基準に準拠した財務諸表の作成=投資家保護、という関係が成立していた。会計基準は、監査の現場で、企業取引を見ている会計士が、必要とされる会計基準の設定テーマを適時的確に把握して、改善設定してきた。極めて完成度の高いものができたと思われた。

そうした中、2001年12月、エンロン事件が発生した。エンロンの粉飾決算で株価をつり上げていたことが判明した。エンロンの財務に当時の監査担当会計事務所のアーサーアンダーセンの元会計士がいた。アーサーアンダーセンは監査ばかりでなくマネジメントコンサルティングなどからも巨額な報酬を得ていたことから、監査を担当していた会計事務所の監査の独立性が問題になり、監査担当している事務所は、独立を疑われるようなマネジメント・コンサルティングを同一事務所が行うことを禁止した。

これにより、監査事務所は、企業の財務諸表の監査に専念することとされ、企業の財務諸表作成に関与することができなくなるという事態になった。そうすると、企業によっては、会計基準に習熟していない担当者が財務諸表の作成をすることになり、十分な開示ができなくなる恐れが生じてくる。米国会計に関する監査実務を行っている人は理解できるが、膨大な会計基準の要求する開示事項を網羅するには大変な知識と経験を要するものなのだ。監査と財務諸表の作成支援が切り離されたことにより、会計士の監査報告は非常に難しい局面を迎える。会社の担当者の知識不足で、会計基準の適用の誤りが増え、指摘して修正の時間と手間が増える。内容・金額の程度によっては妥協も生ずる。監査人は所定の時期までに監査意見として会社全体として適正かどうか述べなければならない。開示の完成度の低い財務諸表に対して監査意見を述べるには、以前のように、自信をもって適正であると言える状況ではなくなったのだ。

不正誤謬を未然に防ぐ内部統制制度やコーポレート・ガバナンスも、高度化した会計基準の知見と経験がない者が行っても有効に機能しない。東芝のケースでは、不適切な会計が行われてしまったのは内部統制やコーポレート・ガバナンスが機能しなかったことを証明している。適用していた米国会計基準を分かっていた人がいたかさえも疑問だ。企業にあっては人的資源の不十分さは避けられない。役所とは異なり、企業はコスト・ベネフィットを勘案して最低のコストで実施しているからだ。

また、コーポレート・ガバナンスが機能するためには、内部統制の状況が適時的確に把握できるることや、マネジメントサイドからの会社の現況等の情報が的確に入手できることが必要だ。非常勤(独立)取締役にとって情報が的確に入手できなければガバナンスは有効に機能しないのだから。他社と重複して就任している非常勤取締役は、果たして機能しているのであろうか。知識においても能力的にも、時間的にも機能していることが望まれる。

 なお、金融庁の「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」では【原則4-11。取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】では、監査役には、財務・会計に関する適切な知見を有している者が1名以上選出されるべきである(米国ニュウーヨーク証券取引所は強制規定)として、企業に要請しているだけで強制規定になっていないのだ。

そうしたことが理由かわからないが、監督当局(証券取引員会SEC)による上場会社の開示した財務諸表のリビューが法制化して、SECの側面からのチェックが最低3年に1度行われることになっている。これにより、企業の開示の改善にSECは寄与しているといえる。投資家保護の視点で必要なことである。(SOX法408条) SECはコメントレターという形で公表されて透明性が高い。

大手会計事務所は、SECコメントをまとめて顧客企業の参考に供している企業に会計基準に適正に準拠した適切な開示の支援の形が変わったのである。

(8)エンロン事件以前は、会計士が会計基準に準拠した開示についてサポートしていたが、エンロン事件後、会計士が開示等のサポートができなくなった、一方、SECの開示検査が法制化した。(SOX408条

米国会計士37万人のうち47%(17万人)が会計事務所、34%(12万人)が企業に従事している
。会計士(専門家)のインフラが整っている米国でも、企業側に会計監査実務を経験した公認会計士がいても、米国会計基準を網羅的に正確に開示するものが比較的少ないのだ。 エンロン以後も4万人増加しており会計士の増加は止まらない。

会計士(専門家)のインフラが整っている米国にも拘らず、米国証券取引委員会(SEC)は企業が開示する財務諸表のリビューを法制化することにしているのだ。財務情報の投資家情報を重視している表れだろう。

日本は、28千人の公認会計士(監査をしない監査法人という法人を除く自然人のみ)のうち9千人が税理士登録しており、差引、19千人の会計士が、上場企業の財務諸表の開示に手を出すと「自己監査」ということで、開示に関与することはできないとされてきた。そうした中で、2500ページを超える国際会計基準の会計処理基準及び注記による開示基準が導入されつつある。米国の会計士のインフラが整っていない日本では、会計基準をどう実務に定着させるかは非常に心もとない。実務経験が非常に大事な分野だからだ。医師と同じ専門家として、国家や他人からの干渉・強制を受けないという意味で,“professional freedom”、あるいは積極的自由を意味する“professional autonomy”をもったものでなければならない。現場での実務経験は、これを養う重要な要素である。

企業が会計基準の消化不良で開示が不十分であっても、監査人は、適正意見を出す可能性が高くなっている。公認会計士の少ない日本では、企業の開示が不十分になることは目に見えている。米国会計基準を適用していても、米国での米国証券取引委員会(SEC)への登録をやめておりSECのリビューを受けていなかった東芝のように適切な開示がされない恐れがあるのは明らかだ。

東芝は、藤沼亜起氏(元公認会計士協会会長)の言うところの「ナンチャッテ米国基準」を使っており、米国SECに登録せずSECにチェックされていない会社なのだ。11月7日、東芝は、米国における集団訴訟について、「当社は米国預託証券の発行に関与していません。米国証券関連法令の適用がないこと等を理由に、集団訴訟の棄却を裁判所に申し立てる予定です」としている。金融庁の開示ルールが生んだモンスターと言える。

つまり、金融庁は、内閣府令の下記(イ)で特別扱いをして、野放しにしているのである。特別扱いするのであれば、SECに代わって日本のルール・メーカーである金融庁が管理・監督すべきであった。少なくとも、ルール・メーカーとしての金融庁の責任は逃れない


(9)第三者委員会は、名ばかりで、東芝経営陣の意向を受けて調査されたものであるという批判がありながら金融庁の企業監査法人の処分は、核心から逸れた第三者委員会の報告の上に立って出された処分であった。

監査人を交代を公表した後に、「のれん」の減損2600億円を計上して2016年3月期の決算を終えた。東芝は時価を下回ってはいないのだから「のれん」の減損はしないと言い続けていたものだ。虎の子の東芝メディカルをウルトラCの方法でキャノンに譲渡して譲渡益を計上して「のれん」の減損をとっている。誰が見ても、東芝の核心は「のれん」の減損であったことが明らかになった瞬間であった。次の監査人に懸案を引き延ばすことはできなかったと思う。

2015年7月の第三者委員会の報告書からは除かれた「のれん」の減損問題が解消した瞬間でもある。

(10)金融庁では、英国で行われている「監査法人のガバンス・コード」(コーポレート・ガバナンス)を導入しようと出来レースが始動している。今回も的外れだ。

2016年7月15日、金融庁の「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」の第1回会合で【池田総務企画局長】は次のように語って英国等で導入の「監査法人のガバナンス・コード」を導入することで改善するとしています。

「監査法人を、あるいは会計監査をめぐりましては、昨年の東芝事案などを契機に改めて会計監査の信頼性が問われることとなり、その中で会計監査のあり方に関する懇談会において、今後の会計監査のあり方についてご議論をいただき、この3月に総合的な提言をいただいたところでございます。

この提言の中では、高品質な監査を確保するためには、監査法人のマネジメントの強化が必要であるとの考え方に立ち、監査法人のガバナンス・コードの策定が重要施策の1つとして盛り込まれ、金融庁のリーダーシップのもと、幅広い意見を参考にしながら検討が進められていくべきであるとされました。これを受けて今般この有識者検討会を開催させていただくこととしたものであります。」

因みに、東芝を監査していた新日本監査法人の提携先のアーンスト&ヤング監査事務所も「Audit Firm Governance Code」を適用していると報告されている。

11月24日の第4回有識者検討会に提出された年末までに纏めようとする「原則に盛り込まれるべき事項(案)」には、英国等で導入の「監査法人のガバナンス・コード」と同じようなものとなっている。日本の役人は自らの職責で考えて施策を行ったことがないが今回も同じだ。役人は日本で最も気楽な稼業のようだ。少なくとも、この原則が東芝のケースと具体的にどう関係性があるのかを明らかにすべきであろう。

議事録を見ていると、【原田開示業務室長】は問題点を羅列しているがどれも重要な問題で十分に議論が果たせるように思えないし、単純に結論を導くことができない問題だ。まして、議論が会計監査の知見と経験があるような人の発言ではないように感ぜられるのは私ばかりでないように思う。会計監査の問題であるにもかかわらず、会計基準や監査基準に触れない議論を見ていると知見があるとは思えないのだ。加えて、金融庁の”企業の財務情報の開示に係る役割”を議論すべき時に来ているが触れていない。かつては財務局に、現在は証券取引等監視委員会へたらい回しにされた「開示検査」について議論すべきなのだ。

そもそも、投資家への情報開示が虚偽であった、という結論で当局の処分を受けている。財務情報の開示に関しては、情報開示の会計に問題が生じているのか、監査に問題が生じているのかである。虚偽記載は改易基準の問題ではなく、故意による不適正会計という結論だ。一方、監査人はその虚偽の財務情報に適正意見を表明して投資家(年金資産を含む)に損害を与えたということだ。監査法人は、粉飾決算に適正意見を述べた責任を当局から処分という形で受けた。

大型粉飾がある都度、金融庁は再発防止に向けて有識者を交えて検討会を設けて改善策を公表してきている。しかしながら、粉飾決算が開示に係る会計基準の問題であっても、監査に関しては監査基準の問題であっても、議事録を見ると、会計基準や監査基準について議論している節はない。つまり、委員が会計基準や監査基準を語れるほど知見があるのか疑問になるほどである。そのためか、改善案は欧米の礼を形として示して終えている。つまり、日本であった事件の検証から具体的にどう改善するのか繋がりを示していないのだ。それこそ”説明責任を果たしていない”のだ。官僚のアリバイつくりのようなのだ。的外れが多いのは監査会計に知見と経験を持たない官僚が施策のアリバイつくりをしているに過ぎないのだ。現状の財務情報の開示を見ている者にとっては、再発はすでに起こっているように見える。無チェックに近いIFRSの適用で、お粗末な開示を見ていると、すでに始まっているかも知れない。

投資家保護の要である企業情報の開示の精度は改善されずのまま時ばかりが経過して、また同じことが繰り返される。監督当局自体がプロ意識に目覚めて市場の活性化の役割を果たすべきだ。摘発だけではフィリピンの麻薬撲滅と同じことだ。マスコミは、ルテルテ大統領のような事務局長を期待するようになっている。日本の市場は健全とは言えない。健全な市場の企画・立案(構築)は金融庁設置法では金融庁にある。

2016年1月4日、金融庁総務課企画局企業開示課課長田原泰雅氏「ディスクロージャー・企業会計等をめぐる動向」・・担当課長の検討報告参照

(11)金融庁は、強権を発動して処分庁と揶揄されている。

 公認会計士監査の現場では、金融庁の影に委縮している状況が伺える。自らの団体を自立規制団体と称して金融庁の顔色を窺っているようで違和感がある。オリンパス以後、監査の引継ぎの手続きが無用な作業や書類が多くなり、現場では”金融庁が求めている”からやっているという。金融庁が厳しいからという理由でやたらと無駄な作業が多い。パソコンにしがみつき監査調書を作るが、肝心の会社の担当者との会話が少ない。会社担当者との会話は、会社の方針や意向、担当者の会計能力を知るうえで重要な監査手続きなのだ。会社の方針や意向を知ることで、どんな決算をしたのか分かる。監査基準にある「監査計画は」、効率的な監査で監査費用を下げ会社の無用な負担を避けることを求めている。この効率的な監査を、金融庁のお墨付きがあるような態度で監査をしているのを見ていると不可解なものを感じる。

 監査手続きに合理性がなくても金融庁の指示であるという理由で作業して監査報酬に上乗せできるのであれば大手監査法人にとっては金融庁の指示は報酬面で有利に作用する。しかし、被監査会社にとっては無用な負担を強いられることになる。監査基準は効率的な監査を求めており無用な負担を被監査会社に負担することを禁じている。合理性(Rational)のない監査手続きは、監査人の能力の成長を阻むし、会計士としての使命感を失わせる。金融庁の指示に従っていれば報酬面で有利となり、寡占状態にある大手監査法人でそうした監査がはびこれば、会計監査自体の衰退を招くことになろう。上場企業以外の、ほかの監査、例えば、公益法人、自治体監査などはそうした高い監査報酬はなじまなくなるからである。適切な監査報酬を請求できる監査は、あくまでも監査基準に適切に準拠することである。会計士の現場が、スタッフ、シニアー、マネージャー、パートナーが監査の合理性を、明文の監査基準に照らして判断しており、逸脱するとその組織は内側から腐敗する。

 特に、官と癒着または妥協すると業界そのものの存立にかかわる。官はいつも”強化”の名目で圧力をかけている。注意すべきだ。信用の失墜は会計士自身なのだから。重要なことは、医師と同じ専門家として、国家や他人からの干渉・強制を受けないという意味で,“professional freedom”、あるいは積極的自由を意味する“professional autonomy”をもったものでなければならない。会計士に魅力を失うと優秀な人間は去り、会計士になろうとする受験者も去ってしまうことになる。会計士は、常に切磋琢磨・活性化して、自立心をもって信用を得る努力をして自ら守ることが必要だ。

一方、企業の開示書類は、紋切り型で一律の開示が見られ、個別企業の実態を的確に表現する必要がある。企業及び公認会計士の現場に委縮をなくし、真摯にそれぞれの役割を発揮することが必要だ。

公認会計士の受験生の数は減少し続けている。最近では、受験生が1万人まで下がっているようだ。(会計士試験の推移 参照) 会計士が自立し信頼を得る必要があるが制度を設計する金融庁の役割は大きい。監督官庁が企業の情報開示に関心を示し、もっと直接的に企業の提出した有価証券報告書等の情報開示に実質的なチェックをする必要がある。上場企業の情報開示が、投資家に実質的に投資判断ができるかを真剣にチェックすべきなのだ。


企業の財務情報の開示は、監督官庁が理解の程度に比例する。企業の情報開示に緊張感が必要。監督官庁がキーを握る

 上場会社の注記を含む財務諸表の開示に対する理解は監督官庁の指摘の程度による。指摘の内容が高度で精度の高いものであれば、企業はその程度に合わせて作成する。その程度が低ければ低いままになる。監督官庁が見ていなければお座なりになる。今まではそのような状況が続いている。カネボウ事件然り、オリンパス事件然り、東芝事件然りは、頂点にして欲しいものだ。

 企業の情報開示が良くなるかどうかは監督官庁の質の高さによる。高ければ企業はより良い開示を志向するようになる。企業、監督官庁、監査人は共に鏡に向かっているようなもので相互作用が働くものだ。監督官庁が範を垂れるようなことをしてもらいたい。監督官庁がお門違いな指摘をすれば、企業側はどんな努力をしても正しく評価されないと思い努力しなくなる。今回の東芝のケースは、企業側にしても、監査人にしても失望の何物でもない。一朝一夕で監督官庁の質が上がるものではない。地道に能力を上げてほしいものだ。少なくとも素人の毛の生えたようなことはしないでほしい。資本市場の活性化のために。今のままでは、みな内向きなのだ。

監査をしていて、担当会計士が企業にある事項を会計基準に準拠して指摘しても企業の会計に対するリテラシーが低く不勉強の場合、従来から所轄官庁等から指摘がない場合などは、有価証券報告書は問題なく受理されているという理由で訂正しないことがある。 また、有価証券報告書の印刷を請け負っている会社の校閲担当者が、監督官庁の有価証券報告書の審査を行ってきた者が担当しており企業はその意見に通れば受理されているので、受理されさえすれば良いので、例え、会計士の指摘が会計基準により的確に準拠しているとしても会社は受け入れない場合が多い。担当者にしてみれば、監督当局が受理しているものを会計士が指摘しても聞く耳を持たない場合も生じてくる。

嘗て、企業会計原則は、大蔵省企業会計審議会(現金融庁に設置)で設定していた。その当時、大蔵省の担当官が、有価証券報告書の印刷会社2社に天下って、有価証券報告書の作成の公正等のサポートをしていた。そうした仕組みは今も受け継がれている。宝印刷かプロネクサスか確認方法「EDINET編」参照)

シンプルな企業会計原則に従って作成されている限りは、それでもある程度は機能しているが、その後、国際会計基準の一部を導入することになっても同じことが続いている。

監督官庁である金融庁が金融の制度設計有価証券報告書等の受理は地方財務局に委託有価証券報告書等の電子開示であるEDINETは金融庁企業の開示検査は証券取引等監視委員会公認会計士監査の監督は公認会計士・監査審査会となり、縦割り行政が行われるようになり、財務局の「証券取引等監視委員会のこの10年」を見ると、開示検査は、有価証券報告書等を受理している財務局、証券取引等監視委員会及び金融庁が行っているように記載されている。しかし、機能しているのか疑問だ。東芝のケースと見れば明らかだ。

何が深刻かは、東芝事件が示している。東芝は今から50年以上前の19622月に米国預託証券(ADR)を発行するため米国証券取引委員会(SEC)へ登録しました。その時に登録した有価証券届出書に含まれる連結財務諸表が米国会計基準に準拠した監査済連結財務諸表であり、継続開示で年度毎に提出するFORM-20F(日本の有価証券報告書)に米国会計基準に準拠した監査済連結財務諸表なのですが、東芝の場合、1978年11月に預託契約が終結したために現在は登録していませんと注記に明示しています。SECへの登録をやめています。役員責任調査委員会の調査報告書25ページ】参照 これによりSECの規制から外れているのです。つまり、SECのチェックを受けていないということです。

一方、日本の監督当局である金融庁は、当初はSEC登録を条件に米国会計基準に準拠することを認めていました(連結財務諸表規則第95条、96条)が、SEC登録を条件としないで米国会計基準にの適用を認めました。(内閣府令参照) 監督官庁として米国会計基準の適用を認め、投資家を保護できるとすれば認めてもおかしくはありません。SECなみの開示検査を行っていれば投資家を保護していると言えるでしょう。米国では、エンロン事件後の法制化で上場会社の財務諸表を会計基準に準拠しているかどうか開示検査を3年に1度行うことが義務付けられているのです。(SOX法408条参照)

今回の東芝事件は、金融庁が東芝の米国会計基準で作成したとされる連結財務諸表について開示検査をしていないことが明確になりました。金融庁の企業や監査法人に対する処分の書類に米国会計基準への準拠性違反についての記載がないのです。

東芝の過去の連結財務諸表をみれば歴然としています。マスコミが取り上げているとおり、ウエスチングハウス社の買収に関する「のれん」の注記による開示が東芝事件の核心です。後日、開示の不十分さの批判に対しのれんに関する開示を行いましたし、20163月期決算で2600億円の減損処理をして批判に対処しました。巨額な損失に関しては、通常、財務制限条項の注記を見て内部留保が十分に確保されているかを見ることになりますが、東芝の場合は、財務制限条項の注記は曖昧な表現で記述され投資家が判断できるだけの内容になっていませんでした。

 平成24年2月3日、ある会社が「証券取引等監視委員会からの注意開示について」という文章をWebに掲載している。これに対して、証券取引等監視委員会はWeb上で「このように、証券監視委では、検査関係情報等について慎重な取扱いを行っており、証券監視委が、金融商品取引業者等に対し、検査関係情報等をウェブサイト上に掲載することを承諾したことは一切ありません。」と一方的に警告している。権力者が一方的に自分の都合によいことばかりを書くのは如何かと思う。会社側が一方的に被疑者扱いされた心情が感じられる。このケースは、証券検査課長とあるので開示検査(「開示検査に関する基本指針」)ではないようだが、証券取引等監視委員会は、摘発ばかりを考えている節が双方の文面から感じられる。裁判でさえ疑わしきは罰せずとあるのにである。

証券取引等監視委員会の調査・検査に関連する情報の取り扱いについて」には、「証券取引等監視員会(以下「証券監視委」といいます。)の調査・検査における、○調査官・検査官からの質問・指摘・要請の内容、その他調査官・検査官と調査・検査対象先とのやりとり○検査対象先に対して交付する検査終了通知書の内容等(以下「調査・検査関係情報」といいます。)には、調査・検査対象先やその顧客、取引先に係る保秘性の高い情報、更には調査・検査の具体的な手法に関わる情報が含まれています。このため、証券監視委においては、調査・検査関係情報の慎重な管理に努めておりますが、調査・検査対象先に対しても、これらの情報を適切に管理し、ウェブサイトへの掲載を含め、公表はしないよう要請しています。」とありますが、顧客情報や取引先情報の守秘義務は分かりますが、「開示検査」あっては、検査内容・指摘事項・要請は、ほかの企業も違反にならないように参考になり公開すべきであろう。違反者を減少させるためにも公開は重要だ。また、権力をもって検査している以上、根拠のある質問や検査であるべきで説明責任や透明性は必要であろう。ご都合主義では困るのだ。

日本の場合、有価証券報告書等の開示に関しては、会計の歴史に遡って考える必要がある。

戦後、証券取引法ができ企業会計原則に準拠して作成された財務諸表を有価証券報告書に入れ投資家に情報開示するという仕組みから始まります。企業会計原則は大蔵省の企業会計審議会が設定していました。有価証券報告書は大蔵省が審査し受理し、閲覧・開示をしていました。

企業は、監査済みの財務諸表を含んだ有価証券報告書を作成する必要があります。一方、ディスクロージャー・ビジネスとして有価証券報告書の印刷を専業として企業から受注し、印刷する前に校正をサービスにしている印刷会社があります。今では2社とも上場会社です。その2社には、大蔵省の会計基準設定に関わっていた財務官僚や有価証券報告書の審査をしていた人が天下って校正等、顧問などをしています。

当初は、有価証券報告書に印刷会社の名称が記載されていましたが、大蔵省の有価証券報告書の受理審査でどちらかの印刷会社であれば審査がスムーズに通るということが言われていました。今は、印刷会社の名称は印刷されないようになりました。EDINETになった現在でも、印刷会社の名称は印刷されませんが、両社で微妙に異なっており区別はつきます。

旧大蔵省の企業会計審議会は、2000年7月に金融庁に移され2001年7月に企業会計基準委員会が設置され会計基準を設定することになっても、有価証券報告書の印刷は2社の寡占で行われています。

日本の会計は、企業会計原則から国際会計基準への収斂への改正が続き、米国会計基準、国際会計基準、修正国際基準と4つの会計基準の適用を認めている。

4つの会計基準の適用を認めている国は知る限り日本だけである。世界の会計が一つに収斂させようと多くの人の努力を無視するような無責任な行動であるばかりでなく、財務諸表の読者である投資家に対してより複雑な情報開示を放置する無責任な行為と思う。

これは、所管する金融庁の会計に対するリテラシーの程度を示すものだ。上場企業の財務諸表が会計基準に準拠して適切に表示することを監督官庁自らが検査していればこんな結果にはならなかったはずだ。そうした検査をしていれば、会計基準の複雑さから開示の難しさを理解できているはずだからだ。

特に、米国会計基準が完成度を高めた結果として複雑化し、一方、国際会計基準が米国会計基準の主要部分を取り入れた結果、会計は高度化して、投資家により精度の高い豊富な情報を提供しようとした結果だ。高度化による複雑さは、避けて通れないものだ。

従って、連結財務諸表が会社全体として適正か否かの意見を述べる公認会計士の監査報告書に、企業の情報開示の全てについて責任を負わせるには無理が生じているのだ。まして、エンロン事件後、担当した会計士が企業の情報開示に直接手を加えてはならないことになっていればなおさらのことだ。

 会計の高度化は、企業の財務情報の適時適正な開示に、証券監督局の「会計基準に準拠したかどうかの開示検査」も求められている。金融庁が処分庁として恐れられていれば、プレイヤーである企業や監査をする公認公認会計士は委縮して、結果として、投資家に適時・適切で正確な情報の提供は期待できないのは明らかだ。

現在、日本公認会計士協会の研修で不正会計に関する単位が設けられ研修しているが、東芝のケースの具体的な事例がありながら、具体的な事例が開示されず生きた材料を基に勉強する機会を設けるべきであろう。私は、嘗て、米系の会計事務所にいたときは、実際の不正事件の監査調書を事例研究として、上司のリビューによる追加作業メモ、フォローアップ、マネージャーの査閲、疑問メモ、パートナーの査閲、フォローアップ、パートナーの査閲、疑問メモ、フォローアップの状況を見て、どの段階で監査の失敗があったのか見極めるトレーニングをしたことを思い出す。日本では、どんなに大きな事件でも具体的な事例を見て研修をした覚えがない。東芝のケースも闇に葬られるのであろう。生きた教材として、会計士だけでなく、企業として、監督官庁としてどうあるべきなのかを真剣に考えて欲しいものである。米国では、エンロン事件後改善策が功を奏しているのか、会計士の数は増えているのである。日本も、災い転じて福となしてほしいものだ。

上場会社の開示資料ツールは、プロネクサスか宝印刷のみ、両社には元財務官僚などを役員として受け入れており、すっかり利権化しています。 宝印刷かプロネクサスかの確認方法(招集通知編) EDINET編 東芝は行間を見ると宝印刷で作成していることが分かる。(EDINETで検証 金融庁が「開示検査」をしないのはこうした開示ビジネスの寡占化と金融庁の天下りに関係しているのではないでしょうか。

証券取引等監視員会佐々木清隆事務局長は東芝の処分をした当事者であり、講演会を広く行っており、市場参加者(上場会社、自主規制機関・・日本公認会計士協会を意味する、投資家、弁護士、監査法人等)の規制強化を主張している。処分庁の施策が的外れであれば強化される側は恐怖を抱いて市場参加者は委縮する。監視委員会が透明性・専門性が高く高潔で的を得た信頼できる存在であることが必要だ。私は専門性を欠くとみている。その証拠は検察との意見不調和だ。これは1999年の日本長期信用銀行の役員の刑事責任を問うて無罪となったものと根幹は同じだ。専門性に欠け、権限だけが強く恐ろしい存在だ。今もって変わっていないということだ。

氏の日本内部監査協会(2015年5月)での東芝事件の最中の講演「コーポレート・ガバナンスと監査役の役割」に、コーポレートガバナンスの主体として、取締役会、監査役会、執行部門(CEO、CFO,COO等)、内部監査(執行部門の下であるが)、会計監査(企業の組織ではないが外部監査)としており、当局が抜けている。当局は発見・摘発・処分しか視野にないように感じる。資本市場のガバナンスも担ってもらいたいものだ。資本市場活性化のために、強力な権限を持った当局も、内部告発の奨励による、発見・摘発・処分で不幸な人を生む”悪魔のサイクル”又は”Cool Heart、but Hot Head"ばかりでなく、Cool Head,but Warm Heartで、不正・誤謬を未然に防止するガバナンス機能も果たすべきだろう。氏の講演は当局の姿勢が分かり評価できる。改善すべきところが見えるからである。金融庁はいつも沈黙して語らず、改善すらしてこなかった。

2016年7月、氏は、「会計監査への期待と監督当局の今後の在り方」を記述しているが、東芝と東芝の監査人の処分側であるが、抽象的なことばかりで、具体的なことは何も言ってない。具体的に述べることで企業も監査法人も処分を受けない体制で挑めるはず。高い勉強代は無駄になるばかりだ。

 東芝事件発覚の前の2010年7月、氏の会計・監査ジャーナル「最近の粉飾の事例:証券監視委としての観点から」を読むと、「上場企業の有価証券報告書の適正性について意見を表明する立場にある会計監査人の責任は極めて重たい」としているが、監査基準書では、会計監査人は財務諸表の適正について監査意見を表明するのであって「有価証券報告書」に対して意見を表明しるのではない。また、証券取引所や日本証券業協会等の金商法上の位置付けを持つ自主規制機関に加え、日本公認会計士協会のように証券市場の公正性に重要な役割を持つ団体をも、広義の自主規制機関として認識し、自主規制機能の強化に繋がるような連携を強化しているところである、として、初めて日本公認会計士協会が「広義の自主規制機関」という言語が出てきている。驚愕の発言だ。今では、日本公認会計士協会のホームページに広義の言語を外して自主規制機関と恥も外聞もなく記載している。広義の自主規制機関として認識しているのは佐々木氏なのである。

金融庁のサイトに、証券取引等監視委員会事務局長佐々木清隆氏の「会計監査への期待と監督当局の今後のあり方」という論文が出ている。事務方の最高責任者だ。委員会とは形ばかりで官僚トップの彼が実質取り仕切っている。東芝事件の処分した実質責任者(責任はとることはないが)といっていい。もし、私が東芝の監査担当者であるならこの人に裁かれたくない。この論文を読んでみて、この人は会計監査を分かっているか疑問だからだ。この人が、東芝の経営者の刑事責任を追及しようとして検察と意見が合わない原因を作っている人だ。こうした人が処分していたら、恐ろしくて会計士のなり手は少なくなるだろう。少なくとも優秀な会計士は生まれないと断言できる。会計士になろうとしている人は人生をかけているのだ。

(12)企業が作成する財務諸表は、会社法と金融商品取引法sに従って二重三重に重複したものを作成させられている。

証券取引所の早期の開示の要請による決算短信、会社法の計算書類、金融商品取引法の有価証券報告書と重複した開示は、作成者、投資者の負担になっている。法務省、財務省(法人税法)、および金融庁の縦割り行政の犠牲になっている。民間からは、長い間、欧米並みに統一したものを一つにして欲しいという要望が出ているが一向に改善されてこなかった。民間は、ほぼ諦めに近い感情を持っている。

欧米諸国の年度の制度開示の実務をみると、米国においては、早い時期に自由な様式で作成したアーニングリリースを公表し、その後、株主総会までに十分な期間を置いて、証券法に基づく詳細
な年次報告書を開示するとともに、年次報告書をもとに作成した株主総会資料を提供している。欧州(イギリス、フランス、ドイツ)においては、同様に、早い時期に自由な様式で作成したアーニングリリースを公表し、その後、会社法に基づく株主総会資料と証券法に基づく年次報告書の内容を事実上1つの書類として作成し、株主総会までに十分な期間を置いて、詳細な情報を開示している。

 平成28年4月18日、金融庁の金融審議会に設置された「ディスクロージャーワーキング・グループ」(座長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授。以下「本WG」という)においてとりまとめられた、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告?建設的な対話の促進に向けて?」(以下「本報告書」という)が公表された

我が国においても、有価証券報告書と株主総会資料が共通の内容で、あるいは一体的な書類として、株主総会までに十分な期間を置いて開示されるような実務が増加し、より早期により充実した企業情報が株主・投資者に提供されていくよう、金融庁、法務省、一般社団法人日本経済団体連合会(以下「経団連」という。)等の関係者において、継続的な取組みを行っていくことが望まれる。

これらの要望は、すでに20年以上前から出ているが、縦割り行政の最たるもので、一向に進展しなかったものである。この「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」の文章を読めばわかるが、やたらと難しく書いて要領を得ないのである。本文に日程も書いていないのはやる気がないのであろう。役人が書いたものには、どう言うわけか2019年の前半をめどにと日程が書いてあるのだが・・

東芝事件の金融庁の処分は、東芝に対する会計基準違反であれば会計基準の○号○項の規定に違反し〜、新日本監査法人に対しては、監査基準違反であれば、監査基準○号○項の規定に反し〜というように、具体的に基準違反であることを明示すべきだ。再発防止に役立つし、基準に不備があれば整備すべきだ。

東芝の不正会計事件を含めて、【わが国では、社会的に影響の大きな会計不正が起こっても、その状況や内実が監督官庁(金融庁)や会計プロフェッション(日本公認会計士協会)から十分に明らかにされることはない。】by鳥羽至英早稲田大学教授著

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