合併・買収の会計への影響

包括利益」開示の流れ
Merger and Acquisition , M&A

はじめに

内閣府経済社会総合研究所は、平成15年(2003年)12月11日、「M&A研究会」を開催した。その開催理由は、つぎのとおり。以後、2003年12月の1回目から2004年6月まで9回開催され貴重な資料を提供している。
2004年11月10日、同研究会の「経済政策フォーラム(我が国企業のM&A活動・構造改革を超えて)」と題してまとめられている。

『ここ数年、わが国企業の合併、買収、営業譲渡、資本参加等のいわゆるM&Aは、企業の再生・再編分野を中心に活発になってきている。しかしながら、M&Aの活発化は経営者のみならず従業員にも不透明な不安感を与え、「ハゲタカ・ファンド」に代表されるようなM&A活動一般に対する誤った理解で捉えられることも依然少なくない。また、企業・産業の再編・再生や対外進出においてもM&Aが活用されているとはいえ、変革の時代に新しい企業活動を創出し育てる戦略的な投資活動としてM&Aを積極的に活用しようとする状況には至っていない。さらに、わが国としては、アジアへの展開を中心としたグローバルな視点を保ちながら、時代や環境の変化に果敢に挑戦する企業のM&Aを通じた投資活動の円滑な展開を図り持続的で活力のある経済・産業社会の創造や市場の整備に向けて、経済・法制・税制・企業会計・雇用・企業経営・人事システム等あらゆる分野の既存の枠組みを不断に見直し、諸課題への対応に一層取り組む必要がある。

 このため、(1)わが国のM&A活動の実態とその有効性及び今後の課題等について調査・分析し、(2)現在改革が進められているM&A関連の各種法制度、税制など各分野での進展状況と今後の課題について検討し、(3)発展変化する金融システムやアジアなど国境を越える企業活動の展開等を視野に入れつつ、M&Aを利用した投資活動の推進について検討する。』


同研究会の資料によると急速に合併買収の件数は上昇している。

資料2 対日M&A投資と投資先企業のパフォーマンス−深尾委員提出資料 (PDF)より

資料1 最近のM&A動向について−(株)レコフ提出資料より

なお、2004年11月10日、同研究会の「経済政策フォーラム(我が国企業のM&A活動・構造改革を超えて)」と題してまとめられている。

上記政府の研究会は、技術革新の早いIT産業の企業発展に自社開発を待たず「時間」を買う「合併・買収」によって相手の持っている技術を統合することができるという新興企業の合併買収という視点が欠けていることを、ライブドアの日本放送(フジテレビ)買収は教えている。楽天を初めとするIT産業である新興企業の台頭は、オールドエコノミーを中心とした考えの政府や成熟産業の製鉄・自動車・家電を中心とした経団連などの研究会では得られない新たな合併・買収の視点が浮き彫りにされたといえよう。(企業の合併・買収ニュース 参照)

M&Aと日本経済の再活性化 − 世界有数の経済国の21世紀のツール
R・グレン・ハバード コロンビア大学経営大学院学長、元大統領経済諮問委員会委員長2005年3月25日

2005年5月31日、内閣府 平成17年度 第5回 M&A研究会 検討資料「外国企業による日本企業買収に伴う株券実務上の問題点 〜日本の株式市場のグローバル化にむけて〜」by野村證券

三角合併を可能に(会社法の現代化に関する要綱)

法制審部会、会社法の現代化に関する要綱
 法相の諮問機関、法制審議会会社法部会は2004年12月8日、「会社法制の現代化に関する要綱案」を決めた。最低資本金制度撤廃や国内外の企業を巻き込んだ合併・買収(M&A)を容易にする「対価柔軟化」などが柱。国際化が進む経済の急激な変化への対応が狙いだ。同部会は2005年年2月9日に法制審が「会社法制の現代化に関する要綱」を答申、政府は次期通常国会に会社法案を提出する予定。2006年の施行を目指す。会社法成立、2006年5月1日施行。ただし、三角合併については、1年間適用を延期し2007年5月1日より適用となった。(三角合併については、会社法、株式交換768条1項吸収合併749条1項吸収分割758条

会社合併などの際、消滅会社の株主には、その対価として、存続会社の株式を充てるとした現行制度を改め、金銭などでの対価支払いを可能にする「対価柔軟化」の導入を盛り込んだ。

■優良企業の戦略買収が主流へ

 《服部暢達・一橋大大学院助教授(元ゴールドマン・サックス証券マネージング・ディレクター)の話》 外資が株式交換で日本企業を買収できない状態がようやく解消する。今後の合併・買収(M&A)の流れは日産自動車や西友などを外資が救済したような形から、優良企業による戦略買収へと変わるだろう。

 友好的な買収が増えるが、敵対的買収は今後も難しい。合併承認決議に入る前に、まず株主総会で三分の二の賛成を得て、買収に反対する取締役総入れ替えを決議しなければならないなどハードルが高いからだ。
 逆に日本企業も外国企業に対し株式交換による三角合併Triangular Merger)ができるようになる。 産経新聞2004年12月09日(木) 報道

三角合併 買収側情報を開示義務/株主総会 「3分の2」賛成で成立 反対株主に買い取り請求権2007年5月2日  読売新聞)
特集:M&Aと企業防衛(読売新聞)

なお、会社法であそぼ「委任状勧誘と議決権の代理行使」には、株主の議決権行使に関する会社法の規定と、上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(金融庁の内閣府令)の関係を判り易く解説しています。株主の議決権行使の日米の比較は、企業買収に絡む株主の議決権に関しIRジャパンの「日本の委任状争奪戦(Proxy Contest)の論点整理」が判り易い。

三角合併(2007年5月1日より適用)
@第一ステップ:
外国企業が日本子会社を設立する。

A第二ステップ:
外国会社の株式を日本子会社に、親会社の株式として計上する。

B第三ステップ:
日本子会社が、買収しようとする日本企業の株主と、親会社である
外国会社の株式を交換する。
外国会社A
↓@ 日本企業
日本子会社 B株式交換 ↑↑↑
A外国会社株保有
株主 株主 株主

買収後:

日本企業は日本子会社に吸収合併される。


外国会社A
日本子会社 吸収合併
←----
日本企業
外国会社Aの株主となる
株主 株主 株主

東京証券取引所は、2007年4月24日外国企業が日本国内で預託証券(日本型預託証券=JDR)を上場するための制度整備を進めると発表した。国内で外国企業が預託証券を発行できれば、日本の投資家は日本株と同じように取引できるようになる。
 2007年5月に国内で解禁される「三角合併」では、株式交換方式による企業再編が可能となる。株主が日本国内では流動性が乏しい外国株を受け取る代わりに、円建ての預託証券を受け取ることができるようになれば、合併を受け入れやすくなる。このため、外資系が主導する企業再編の呼び水になるとの見方もある。(読売新聞

注:海外企業が上場で知名度を高めれば、三角合併で株を受け取った日本の株主が、名前も知らない海外企業の株式を嫌い、すぐに売ることで株価が急落する、いわゆるフローバック(Flowback)を回避できるとされている。

なお、日本企業の株主が株式交換により外国企業Aの株式を受領したときに日本で所得税が課税されてしまうと株式交換の実効性がなくなってしまうことから、課税の繰延を求めるため、経済産業省は「産業活力再生特別措置法」に基づく親会社株式を用いた三角組織再編について課税繰延べの特例措置の創設(適用期間平成17年4月1日〜平成19年3月31日)」を平成17 年度税制改正(租税特別措置)で要望(新設)している。

平成19年度の税制改正で、
会社法における合併等対価の柔軟化(三角合併等)に対応する」としています。
現行の組織再編税制の枠組みを基本とした上で、合併等対価として、合併法人等の100%親法人の株式のみを交付する場合も課税繰延べが可能なものとします。なお、その他の適格要件については、現行の組織再編税制と同様に、合併等における当事者間(合併法人等と被合併法人等)で判定されます。
クロスボーダーの組織再編成に対応します。

商法と税法との関係は「産業再生法改正による親会社株式を用いた三角合併についての特例」(第18回対日投資会議専門部会)を参照。


2006年10月16日「日本企業には買収できなかったYou Tube」参照

敵対的買収
 ライブドアとフジテレビジョンによる、ニッポン放送株争奪戦をきっかけに、M&A(企業の合併・買収)をめぐる制度の欠陥や法整備の遅れが次々と明らかになった。政府・与党や東京証券取引所などは、その「補修」を急いでいる。
 経済産業省の企業価値研究会(座長・神田秀樹東大教授)は7日に、敵対的買収に対する企業の防衛策についての法整備や指針づくりを求める報告書を公表した。5月までに法務省と共同で指針を策定する。
 また、自民党法務部会は11日、商法や有限会社法などを一本化して新たに制定する会社法案のうち、外国株式などを対価にする企業合併の解禁を1年延期することを決めた。当初は外資の国内企業買収が容易になる「合併対価の柔軟化」規定を盛り込む方針だったが、ライブドアのケースを機に外資などの敵対的買収の増加を懸念する声が党内に高まり、同規定の先送りを決めた。
毎日新聞 2005年3月11日 20時31分

M&Aの促進と敵対的企業買収防衛策」by国立国会図書館経済産業課高澤美有紀女史(Feb.15.2005)
買収防衛策に「ライツプラン(=ポイズンピル)」
新株予約権を用いた敵対的買収防衛策の課税関係が明らかに(2005年5月21日)
敵対的買収防衛策の税務

米シティグループが日興コーディアルを初の三角合併で完全子会社化

米金融大手のシティグループは2007年10月2日、68%の株式を保有している日興コーディアルグループについて、残りの日興株とシティ株を株式交換する「三角合併」方式で完全子会社化すると発表した。既存の日興株主に対し1株1700円に相当するシティ株を割り当てる。今年5月に解禁された三角合併の初の活用例となる。日興は上場を廃止する。

 シティは4月にTOB(株式公開買い付け)で日興を傘下に収めた。株式交換契約は10月末までに締結。株式交換は2008年1月中に完了する予定だ。米シティグループ・インク(コード番号8710)株は東京株式市場への上場を11月5日に行い、日興株主は東京市場で割り当てられた株を売却することができる。(東証新規上場)

 同日会見したシティグループ・ジャパン・ホールディングスのダグラス・ピーターソンCEOは「日本有数の銀行・証券グループをつくるため、提携を強化する」と説明。日興の桑島正治社長は「経営の柔軟性と効率性が高まる」と語った。 (サンケイ ニュース 参照)

東京
証券取引所
金融庁
EDINET
今日の
為替レート
ニューヨーク
証券取引所
SECへの
登録報告書
シティグループ・インク 株価@¥ 有価証券報告書
リンク不能
都度検索
(注1)
1ドル=@¥ 株価@$ すべての報告書
年次報告書
2006年度年次報告書

(注1)東証に、「上場申請のための有価証券報告書(Tの部)」が掲載されている。実に、886ページに上る大部のもの。2006年12月期の監査済連結財務諸表と2007年6月の半期報告書の非監査連結財務諸表が含まれている。翻訳に加えてSEC登録のものがそのまま綴り込まれいるため大部のものとなっている。ちなみに、EDINETからは証券発行時の証券届出書を見たが第四部に「組込情報」として2006年12月期の監査済連結財務諸表と2007年6月の半期報告書の非監査連結財務諸表が有価証券報告書として関東財務局に提出された旨の記述があるのみで、見たければそれぞれの有価証券報告書を見ろと言うスタンス。EDINETの有価証券報告書は、ページも無く、注記に参照番号も無く、かなり中途半端な翻訳・開示となっており非常に分かり難い。東証の上場申請のための有価証券報告書は原文に近く判り易いがEDINETからは見られなかった。日本は分かりにくく奇怪な開示システムです。アクセスし易いSECの年次報告書や四半期報告書の方が判り易いので是非とも閲覧をお勧めする。

2007年11月5日(月曜)、上場日の株価は、@¥4,550円でした。因みに、ニューヨーク証券取引所の株価は37.73ドル(11月2日金曜日終値)で、為替レートは1ドル@¥114.59円でした。一株あたり225円くらい日本市場が高かった。

日本の有価証券報告書等(EDINET)はドルと円貨が混在し投資家にはかなり読み難い。SEC方式は、読者に見易いように表示に工夫が見られるが、日本は悲しいくらい工夫が見られない。日本は、硬直したお役所仕事で誰も改善しようとしないし改善に向けて利用者・読者の声が届く仕組みになっていない。

因みに、シティーグループのSECへの提出書類の2007年10月31日の臨時報告書(Form8-K)には日興コーディアルとの企業結合が、11月5日の臨時報告書(Form8-K)にはサブプライム関連の証券化商品の評価損計上の報告がされている。日本のEDINETには、上場に関連する11月2日の有価証券届出書のみで三角合併に関する情報や、サブプライムローン等の評価損について適時に開示されていない。

同日、シティグループは、チャールズ・プリンス会長兼最高経営責任者(CEO)(57)が辞任し、後任会長に元財務長官ロバート・ルービン氏(69)が就任すると発表した。サブプライムローンの関連でCEO辞任はメリルリンチに続いて二社目。大物のルービン氏が会長とはサブプライム問題はそれほど深刻ということか。

2007年11月5日、ベールに包まれていた欧米金融機関傘下のサブプライム(高金利型)住宅ローン関連投資会社に、米証券取引委員会(SEC)のメスが入る見通しになった。金融サービス世界最大手の米シティグループ傘下の「投資ビークル(SIV)」7社の検査に近く、乗り出す。5日付英紙タイムズ(電子版)が報じた。(米シティ系にSEC検査…サブプラ投資で/巨額簿外損失表面化も シティグループ巨額損失 参照)

2009年4月28日三井住友フィナンシャルグループが、米金融大手シティグループ傘下の日興コーディアル証券と日興シティグループ証券の事業の大部分を、買収することが分かった。三井住友はシティ側と週内にも基本合意し発表する。

 買収額は五千億円以上とみられる。国内メガバンクが大手証券を傘下に収めるのは初めて。三井住友は従来の親密先である大和証券グループ本社と合わせ、三大証券のうちの二社と関係を深めることになり、金融界の勢力図が大きく変わりそうだ。三井住友は日興買収で、三菱UFJフィナンシャル・グループやみずほフィナンシャルグループに比べ見劣りしていた証券事業を大幅に強化できる一方、大和との関係再構築が課題となる。(東京新聞 ニュース 参照)

日本の対内投資はまるで鎖国のよう

2006年11月7日−8日に、グローバル・パブリック・シンポジュウムが開かれ、「国際的なネットワークの責任者からのビジョン」と題し24ページにのぼる冊子が公表され、4大国際事務所にBDOおよびグラント・ソーントンのCEOがサインした。(スマートプロ 参照)

それによると、国際的な投資が活発になっているとして下記の統計を表示し、会計基準ばかりでなく監査基準の国際的に収斂させる必要があるとしている。特に、英米ユーロ地域は、孤立していては生きられない。日本にしてみれば、下記の通り、国際的な関係は比較的希薄で対内投資はまるで鎖国のようであるが、長期的には国際的に孤立して生きられない。

期間:1999年から2003年
対内投資
Capital Inflows
対外投資
Capital Outflows
Billion $ % of
GDP
Billion $ % of
GDP
米国 4,167 38 1,922 17
ユーロ地域 3,569 44 3,609 44
英国 2,387 133 2,247 125
スイス 343 111 510 165
カナダ 223 26 297 34
オーストラリア 212 42 124 24
スエーデン 190 63 223 74
デンマーク 143 68 167 79
ノルエー 121 55 196 89
日本 106 3 664 15

経済産業省の「対内投資」の資料でも同様の傾向を示している。

日米主要企業の株式時価総額(トヨタを除いて買収の脅威?)

日米主要企業の株式時価総額 2005年7月現在
日本 米国
会社名 株式時価総額 会社名 株式時価総額
2005年7月20日
Market Cap:US$ 2009年3月6日
時価総額(注1)

金融危機時
トヨタ自動車 15兆1258億円 GM(注1)
2009年6月3日上場廃止
2兆2913億円 20.83B 0.8852B
ホンダ 5兆2919億円 ダイムラーAG 4兆7487億円 43.17B -
三菱UFJフィナンシャル 9兆2944億円 シティ・グループ(注2) 25兆4078億円 230.98B 5.64B
ソニー 3兆9788億円 マイクロソフト 31兆904億円 282.64B 135.85B
日立製作所 2兆3240億円 GE 41兆2181億円 374.71B 74.56B
富士通 1兆2440億円 IBM 14兆8533億円 135.03B 115.13B
NEC 1兆1835億円 デル 11兆308億円 100.28B 16.27B
花王 1兆4944億円 P&G 15兆590億円 136.90B
武田薬品 4兆9888億円 ファイザー 22兆3938億円 203.58B
セブン&アイ・ホールディングス 4兆5238億円 ウオルマート 20兆7889億円 188.99B
2005年7月20日、Yahoo! Finance より、参考として1米国ドル=110円で計算してみました。

(注1)GM:
2009年3月5日、金融危機によりGMが2008年度決算の会計監査人が”継続企業に重大な疑義”があるとの意見を表明した。3月6日の時価総額を参考とした。
2009年3月5日、GM2008年3兆円の赤字8兆円(861億ドル)債務超過で監査人は継続性に重大な懸念を表明
2007年末は債務超過3兆円を超え債務超過2年目であるが監査人は2007年度末では事業の継続性に疑義を表明していない。(Form10-K年次報告書 参照)
6月1日のチャプター11申請直前の2009年5月29日(金曜日)の株価終値は一株あたり0.75ドル(株価総額は457百万ドル)で1ドルを切った。5年前は50ドルを超えていた。
6月3日には上場廃止、18ヶ月以内に再上場を目指すとのこと。処理が迅速である。

(注2)シティ・グループ:
2009年2月27日、シティーグループも政府持株が40%を保有を公表し、一段と厳しい状況が続く。

注意:時価総額は、日々の株価により変動します。会社名をクリックするとその日の時価総額が表示されますので興味ある方は確かめてください。ダイムラー社はドイツ企業。
2005年10月1日、三菱とUFJは経営統合し「三菱UFJフィナンシャル・グループ」となり、資産総額200兆円は世界最大。
セブン&アイ・ホールディングスはイトーヨーカ堂、セブン・イレブン・ジャパン、デニーズの持株会社で2005年9月1日に上場した。
日米比較で時価総額が高いのは、企業の収益性(純利益/売上高=売上高純利益率)が高い方が時価総額は高い。
>>時価総額上位50社・日経ランキング 参照


メガ・バンクの比較・・2007年10月
時価総額 連結
従業員数
平均年齢 平均年収 Yahoo!ファイナンス調べ
三菱UFJフィナンシャル 11兆6436億円 78,282人 39.4歳 11,150千円 伝え聞くところによると東大から200名を超える卒業生がみずほフィナンシャルグループに入社したとのこと。旧興銀、第一勧銀、富士銀行などが合併して出来ており東大生にダントツの人気の銀行とのこと。
みずほファイナンシャル 7兆2708億円 47,449人
三井住友フィナンシャルプ 6兆8288億円 41,428人 36.4歳 7,710千円

通信業界の巨人は永遠に巨人であり続けるか? はたまた、新興企業がリーディング企業として取って代わるか?

時価総額 2005年8月現在
日本 海外
会社名 株式時価総額 会社名 株式時価総額 Market Cap:
US$
NTT 7兆8076億円 ベライゾン(Verizon) 10兆円 90.95B 競争相手
NTTドコモ 8兆8147億円 SBC 8兆7406億円 79.46B 競争相手
ソフトバンク 1兆8980億円 AT&T 1兆7281億円 15.71B 競争相手
MCI 9196億円 8.36B 競争相手
ドイツテレコム 8兆8275億円 80.25B 競争相手
フランステレコム 8兆3160億円 75.60B 競争相手
ボーダフォン 19兆3116億円 175.56B 競争相手

NTTの有価証券報告書(EDINET)に含まれる連結決算書は米国会計基準で公表され、「NTTグループは、主に東日本電信電話株式会社(以下「NTT東日本」)及び西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」)による地域通信事業(国内電気通信事業における県内通信サービスの提供及びそれに附帯する事業)、主にエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「NTTコミュニケーションズ」)による長距離・国際通信事業(国内電気通信事業における県間通信サービス、国際通信事業及びそれに附帯する事業)、主に株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下「NTTドコモ」)による移動通信事業(携帯電話事業、PHS事業、クイックキャスト事業等の事業及びそれに附帯する事業)及び主に株式会社エヌ・ティ・ティ・データによるデータ通信事業(システムインテグレーション、ネットワークシステムサービス等の事業)を主な事業内容としております。」としており、NTTドコモが連結子会社として含まれています。したがって、NTTの業績は、NTTの連結純利益−NTTドコモの連結純利益=NTTドコモを除く連結純利益(業績)が見られよう。過去3年間のNTTドコモを除く売上高および連結純利益(業績)は悪化している(下記参照)。急速に進む光ファイバー回線(100メガ)による超高速インターネット接続によるブロードバンド「Bフレッツ」(NTT東日本)の利用者拡大で2005年度以降に業績挽回ができるか?

2010年6月9日、NTTグループが申請した退職者の年金減額を厚生労働省が承認しなかったのは不当だとして、グループ67社が不承認処分の取り消しを求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は9日までに、NTT側の上告を退ける決定をした。NTT側敗訴の一、二審判決が確定した。(日本経済新聞) NTTが年金減額を申請しているのは下記の数値を見ればNTTが赤字体質であることが判るが、裁判所は理解していないようだ。

単位:億円 2013年3月期 2012年3月期 2011年3月期 2010年3月期 2009年3月期 2008年3月期 2007年3月期 2006年3月期 2005年3月期
(A) NTT 連結売上高 107,007 105,073 103,050 101,813 104,163 106,809 107,606 107,411 108,058
連結純利益 5.240 4,677 5,096 4,922 5,387 6,352 4,769 4,987 7,101
売上純利益率 4.8% 4.4% 4.9% 4.8% 5.2% 5.9% 4.4% 4.6% 6.5%
(B) NTTドコモ 連結売上高 44,701 42,400 42,242 42,844  ↓44,480 47,118 47,881 47,658 48,446
連結純利益 4,956 4,639 4,509 5,231 4,714 4,912 4,573 6,104 7,475
売上純利益率 11.0% 10.9% 10.6% 12.2% 10.6% 10.4% 9.5% 12.8% 15.4%
(A)−(B) NTTドコモを除く 連結売上高 62,306 62,673 60,808 58,969 59,683 59,691 59,725 59,753 59,612
損失拡大中2006年
(
2010年また減少?)
連結純(損失)利益 ↑284 38 586 (309) 673 1,440 196 (1,117) (374)

NTT、2期連続減収(2006年3月期)
通信大手3社の2006年3月期連結決算が5月12日出そろった。NTTは固定電話事業の売り上げ減少傾向に歯止めがかからず、2期連続の減収となった。NTTは、固定電話の基本料金値下げや通話量の減少などでNTT東西がそろって減収になったことに加え、稼ぎ頭のNTTドコモも携帯電話端末の販売減や料金値下げ競争の影響で減収となったことが響いた。(NTTのニュース 参照)

 ソフトバンクなどに対抗し1月から基本料などを引き下げた結果、「9月末時点で固定電話契約の純減が想定の半分近くにとどまった」(NTT東日本の高部豊彦社長)。ただ、固定通信部門では通信料が割安なIP(インターネットプロトコル)通信への需要シフトが続き、構造的に売り上げが目減りする傾向にある


無料電話で急速に普及されつつあるSkypeはNTTにどのようなインパクトがあるか上記連結損益計算書を継続して比較してみることでその流れが見えてくるかも知れない。

「米通信大手のAT&Tは、今月末(2007年6月29日)の発売へ向けて期待の高まる米アップルの「iPhone(アイフォン)」を取り扱うことで、他の携帯電話サービス会社から顧客を奪える公算が大きい」と報じている。日本では通信方式が違うため、すぐには販売されないが、ソフトバンクあたりが取り扱うとなるとかなり携帯市場が面白くなる。

2007年3月期:業績牽引役のNTTドコモの利益率が減少。一方、「Bフレッツ」や「FOMA」などのIP系・パケット通信収入が2,947億円の増加や、NTTデータのシステムインテグレーション収入が1,162億円の増加によりNTT連結利益に貢献した形となった。固定・移動音声関連収入は4,007億円の減収となった。

(参考)
2006年3月掲載「AT&Tはベルサウスを株式交換で買収で業界トップへ、買収金額は670億ドル(約7兆8000億円)」2006年3月6日ニュース
2005年5月掲載「米国での巨大通信会社による買収合戦とそのインパクト(一握りのメガ・キャリアによる世界制覇の先触れか)by情報通信総合研究所」 参照
2000年8月掲載「急激に変わるグローバル・プレーヤーの勢力分布図by情報通信総合研究所 参照

2007年10月16日現在
会社名 株式時価総額 会社名 株式時価総額 Market Cap:
US$
ソフトバンク 2兆7786億円 Google(注4) 23兆2272億円 193.56B 競争相手
ヤフー(株)(注1) 3兆0966億円 Yahoo Inc (注2) 4兆4784億円 37.32B 競争相手
任天堂(注3) 9兆9593億円

(注1)ヤフー(株)はソフトバンクの連結子会社。ただし、米Yahoo Incは連結子会社ではない。
(注2)ヤフー(株)は、Yahoo Inc が持分法で会計処理。SEC登録Form10−K 参照
(注3)任天堂は、連結ベースの従業員3,373人。従業員一人当たり51百万円の純利益、平均年齢36歳、給与年収957万円
(注4)グーグルの連結ベースの従業員13,786人。従業員一人当たり32百万円($3.69B)の純利益。任天堂の時価総額が光る。

2004年8月19日、米Googleは、NASDAQ証券取引所で入札形式による新規株式公開(以下IPO)を実現させた。

NHKスペシャルは五月七日の放送で、買収の脅威に対抗する鉄鋼メーカー・新日鉄の取り組みを紹介。新日本製鐵のミタル・スティールからの買収の脅威に対する三角合併の1年間施行猶予(2007年5月1日施行)は、新日本製鐵の戦略構築に貴重な時間を与えたようだ。(新日鉄・買収のニュース  ミタル鉄鋼のニュース ミタル親子のさらなる野望・世界の鉄鋼業を支配、アジア買いも間近?

会社名 株式時価総額 会社名 株式時価総額 Market Cap:
US$
新日本製鐵 5兆7518億円 アルセロール・ミタル 9兆7860億円 81.55B 競争相手

2006年度のMittal Steel Company N.V.年次報告書は、国際会計基準で作成され(2005年度は米国会計基準であった)、2006年8月1日、アルセロールを買収し国際会計基準に従って買収法で会計処理し詳細な内容を注記3「買収」、注記8「のれん及び無形固定資産」に詳細な注記をしている。
また、ニューヨーク証券取引所に上場しているためSECに登録している有価証券報告書に当たる外国会社のForm 20F2006年度の年次報告書の米国会計基準と国際会計基準との差異調整表が注記28「国際会計基準から米国会計基準への差異調整」に詳細に開示されている。

一方、新日本製鐵(株)(Nippon Steel Corporation )は「鉄は国家なり」といわれるように、国策会社らしく純日本の会計基準を適用しており、有価証券報告書のみの開示EDINET)のため、外国からはその内容を窺えず、買収防衛策には多少は適しているかも知れない。Yahoo! Finance のサイトからもNippon Steelの情報が取れていないのがよくわかる。

合併買収(企業結合)の会計基準

平成15年(2003年)10月31日、企業会計審議会第一部会は、国際会計基準とは一線を画する日本特有の会計基準である「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書(PDF:129KB)」を取りまとめ、公表いたしました。

平成18年(2006年)12月22日、企業会計基準委員会は「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」を公表した。会計基準には、のれんの償却費をどこに計上するかは規定していないが、適用指針第76項(3)には「のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上するものとし、減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することは出来ない(第302項参照)」とある。これにより、営業利益を耐用年数が不透明なのれんの償却費で歪められる結果となる。一時償却がだめなら、耐用年数2年ならよいのか。

日本のこの基準によると、@取得と判定された企業結合にはパーチェス法を適用する。取得した資産・負債は時価で受け入れ、のれん(又は負ののれん)は20年以内に規則的に償却し、A持分の結合と判定された企業結合には持分プーリング法を適用し、結合当事企業の資産、負債及び資本の簿価を引継ぐ。のれんの耐用年数の設定は困難⇒つまり、2年から20年の任意・自由に償却するということになる。会計の信頼性を失う。

(「企業結合に関する日本の意見」by企業会計基準委員会斎藤静樹委員長 会計基準設定時の検討経緯は、企業会計審議会第一部会の議事録 委員の発言(のれん償却の理由 「M&A(企業の合併・買収)の会計処理に適用する企業結合会計などが修正要求の対象で、金融庁はEUの要請に応じる意向2006年7月29日日本経済新聞)」「斎藤委員長は「のれんの非償却は非常に恥ずかしい会計処理」とボロクソの評価です。(2007年1月25日)・・かくして日本は償却することとなった」 東大斎藤学派・・この学派の特徴である「所得」の側面から会計を再構成する。 参照)

平成18年(2006年)4月1日以降開始事業年度から適用を開始する。 企業会計基準委員会に適用指針の検討を要請する。

国際会計基準と米国会計基準では、持分プーリング法の乱用を排除するため、@パーチャス法(買収法)のみを認め、持分プーリング法は廃止、Aのれん(Goodwill)は減価償却をしない。ただし、IAS36号「減損会計」を適用し毎年見直す必要がある。減損したときに一時償却をする。

米国では、合併・買収時に買収者が不明として対等合併として持分プーリング法を適用するケースが後を絶たず悩まされてきた。ところが、持分プーリング法適用会社の多くがその後の調査でいずれかが買収者となっている事実に着目して、持分プーリング法の廃止に至ったものです。なお、新基準では、パーチャス法(Purchase method)をアクイジション法(Acquisition method)と呼称を変更している。意味は「買収法」で変更はない。
財務会計基準審議会FASBStatement No. 141(企業結合)Business CombinationsおよびStatement No. 142(暖簾およびその他の無形固定資産)Goodwill and Other Intangible Assets 2001年7月公表(2001年12月適用) 参照

欧州は、国際会計基準IFRS3号「企業結合(Business combinations)」(2004年3月公表)に先立つ2002年3月欧州会計士連盟(FEE)が欧州21カ国の合併・買収に係る会計・法規定の実態調査結果Survey on Business Combinations」を報告している。

今頃(2007年10月16日)になって、企業会計基準委員会は、「企業結合会計に関する調査報告―EUによる同等性評価に関連する項目について―」を公表した。持分プーリング法適用会社は116件の企業結合中3件に留まった。「のれん」の償却については欧州が日本に対して言及していないので言及しないとし調査は中途半端なものとなっている。5年前の欧州と同じように国際的に議論しているときに調査報告し、日本の意見を述べるべきであった。当時日本は調査もせず単に観念論で持分プーリング法の適用を主張していた。調査のタイミングが最悪。国内向けの説得資料か。

日本では、米国・国際会計基準では、のれんの減損をしない恐れを言う者がいるが、もしそうした事態があれば監査人の意見が虚偽となり監査人の責に帰すべきもので会計基準の問題ではなく監査の問題である。


会計基準見直しの論点整理(2007年12月27日)
2007年12月27日、企業会計基準委員会は、「企業結合会計の見直しに関する論点整理」を公表した。
国際会計基準への収斂を検討。 
国際会計基準へ一挙に導入した方が日本の会計業界にとって一つの会計基準を覚えるだけで済むことである。新たな日本の会計基準(委員のエゴ)を覚え、国際会計基準を覚える日本の会計業界は悲劇。

過去の議事録を見ると、企業結合の会計基準を見直しをしなければならない理由が見えてくる。2002年7月30日の企業会計審議会での議論が各委員の考え方がよくでている。中島委員の米国基準がなぜ持分プーリング法を放棄したか経緯を簡潔かつ的確に説明しているに関わらず他の委員は誰も耳を傾けていない状況が見えてくる。中島委員の発言内容は米国基準を知る者にとって常識的な認識であった。その後、日本も米国同様に対等合併は殆ど見られないことが知られている。


事例: AOLのタイム・ワーナー買収に係る合併会計(2001年/2002年度)
大型合併の事例では、「新興AOLが名門Time Warnerを飲み込む,「stock currency」の威力まざまざ」(2000/01/17)があり、2001年にAOLがタイム・ワーナーを取得者として146,430百万ドル(約16兆円)の株式を発行して買収し巨額の「のれんGoodwill)」を計上。翌2002年度には「のれん」が毀損したとして45,538百万ドル(約5兆円)の一括償却している。2002年度・2001年度比較のAOL Time Warnerの年次報告書には、株式交換による買収の会計処理と「のれん」の一括償却など興味深いものが多い。

「AOL」が消える--米タイムワーナー、社名変更で本業回帰に拍車2003/09/19
元会長のS・ケースが「AOLタイムワーナー」の合併失敗を語る(2005/01/14 )  
米ヤフー、AOLの株式取得を検討・・AOLに突如注目が集まる」(2005/10/15
タイム・ワーナー株価 時価総額(Market Cap) 854億ドル(約9兆4千億円) 競争相手との比較
 参考:「米国企業結合に関する会計基準改正に伴う情報通信事業のM&A(合併・買収)戦略に与える影響」by平島鹿蔵元九州情報大学教授


事例:英ボーダフォン、4兆6400億円超す「のれん」評価損を計上へ

 【ロンドン=欧州総局】携帯電話サービス世界最大手、英ボーダフォン(NYSE:VOD)は2006年2月27日、ドイツ事業などののれん代について、合計で230億―280億ポンド(約4兆6400億―5兆6500億円)前後の評価損を計上する見通しであることを発表した。
07年の予算作成や国際会計基準(IAS)での年次資産評価見直しに伴うもの。ボーダフォンは05年9月末時点で合計810億ポンドののれん代を計上したが、一部市場での事業拡大が従来予想していたほどではなかったことから、これを資産価値に反映すると説明している。
評価損を計上するのは、主に00年に買収した独マンネスマン関連や、イタリア事業ののれん代が中心。日本事業についても、評価損を計上する可能性があるとしている。(日本経済新聞2006年2月28日 Annual Report(2005年3月期までUK GAAPで決算・・2006年3月期より国際会計基準適用 損益計算書 貸借対照表 参照)

ボーダフォン2006年3月31日決算の年次報告書は、国際会計基準の適用初年度となっており、注記29には、2006年4月27日にVodafone K.K.の株式の97.7%をソフトバンクに譲渡したこと、注記38には、米国会計基準との差異調整表が、注記9には「のれん」を含む無形固定資産の明細が、注記10には「資産の毀損(減損会計)」に関する注記がある。

損益計算書には、2006年に23,515百万ポンド(4兆9,381億円=210円X23,515百万ポンド)の「のれんに関する減損(Impairment losses)」を計上して、純損失37,953百万ポンド(7兆9701億円=210円X37,953百万ポンド)となった。なお、前年の2005年には、純利益6,518百万ポンド(1兆3,687億円=210円X6,518百万ポンド)であった。なお、2006年3月末で「のれん」が52,606百万ポンド(11兆472億円=210円X52,606百万ポンド)が貸借対照表に計上されている

定時株主総会は、2006年7月25日を予定してるが5月30日(2ヶ月以内)には監査人が監査報告書に署名しており、年次報告書は速やかに開示されていた。

国際財務報告基準(IFRS)3号「企業結合」では;
パーチャス法(買収法)のみを認め、持分プーリング法は廃止
・のれん(Goodwill)は減価償却をしない。ただし、IAS36号「減損会計」を適用し毎年見直す必要がある。減損したときに一時償却をする。
(国際会計基準審議会(IASB)、企業結合のれん及び無形資産の基準を公表2004年3月31日ASBJ翻訳)

企業結合に関する日本の意見」by企業会計基準委員会(ASBJ)斎藤静樹委員長2001年11月2日
  ・ASBJは、持分プーリング法の廃止とパーチェス法への一元化に反対する。
  ・ASBJは、のれんを非償却とすることに反対であり、一定期間で償却を行った上で、必要に応じて減損処理を行う方法を支持する。


日本公認会計士協会も同様の理由で国際会計基準の「企業結合の会計」には支持し、「のれん」は償却すべきと反対している。(2003年4月2日)

一方、欧州会計士連盟FEE(Federation des Experts Comtables Europeens)は、2002年3月、国際会計基準の議論に先立って欧州の企業結合について実態調査(FEE SURVEY ON BUSINESS COMBINATIONS)を行っている。日本は、まず反対し、今頃になって調査するというのは時間の壮大な無駄で本末転倒ではないか。


ソフトバンク、ボーダフォン日本を1.7〜2兆円で買収、巨額のれん発生か?
2006年3月5日報道各社は、「ソフトバンクは英ボーダフォンから国内携帯電話3位のボーダフォン日本法人の全株式を取得することで大筋合意した。買収額は1兆7千億円から2兆円の見込み。ソフトバンクは買収で総合通信会社としての基盤を固める。3月末までに最終合意を目指す。日本企業の買収としては過去最大となる。」と報じた。
ソフトバンクは、日本の会計基準を適用しており、巨額の「のれん」を計上した場合、最長20年間で償却を余儀なくされ、のれんの償却負担が長期に重くのしかかることになる。加えて、買収資金のうち約1兆円を、買収相手先企業の資産を担保にして資金を借り入れるLBO(レバレッジド・バイアウト)で賄うとなれば金利負担が加わる。かなりの冒険である。

ソフトバンクの株価
(時価総額3兆4千億・・3月3日現在)  ボーダフォンの株価
ソフトバンク財務ハイライトアニュアルリポート) ボーダフォン財務ハイライト 参照

2006年3月期の有価証券報告書110ページにボーダフォン(株)の買収が記述されている。それによると「当社の連結子会社であるBBモバイル梶vを通じて「平成18年4月27日付でボーダフォンの発行済株式総数の97.64%を1兆6,612億円で取得しました。」とのこと、2007年3月期の連結財務諸表に「のれん」計上されることになる。

2006年6月30日の第一四半期報告書を見ると、「のれん」は2006年3月期末の数値に1兆1161億円増加し1兆1616億円となっており、この増加分がボーダーフォンの「のれん」と考えられる。キャッシュフロー計算書を見ると、のれん償却として109億円となっており前年同期の16億円の差額93億円がボーダフォンの第一四半期の償却と推測される。注記を見ると、ボーダフォンの「のれん」は日本基準の最長期間である20年で償却するとしており、これらの情報から償却費を推測すると;
1兆1161億円/20年=558億円/年間償却費/12ヶ月X2ヶ月(5月と6月分)=93億円/2ヶ月の償却
である。
ボーダフォン買収に関する「のれん」の減価償却93億円を控除した後の純利益14億円と、償却費の負担はかなり重い。(2006年8月26日CNET Japan ニュース 参照)

SoftBankSprint Nextel Corporationの買収完了を見込、2014年3月期からIFRS適用へ

2013年7月11日に、国際会計基準を適用しているソフトバンクが、米国のスプリント・ネクステル・コーポレーションを約216億ドル(約1.8兆円)で買収し、2014年3月期の連結財務諸表を有価証券報告書に記載して注記13にのれん及び無形固定資産の開示をしているので参照してみてください。
ソフトバンク株式会社・・有価証券報告書2014年3月期(国際会計基準を2014年3月期より適用「決算短信」参照)

スプリント買収に伴って、無形資産としてFCCライセンス3兆6129億94百万円(スプリントのBSに「FCCライセンス358億ドル」計上されているSprint Form 10-k for the year ended Dec. 31, 2013」参照)を計上した。耐用年数を確定できない(indefinite-lived intangible assets)理由を次のように記載している。(因みに、スプリント買収に伴う「のれん」は6024億99百万円ということだ。)
「FCCライセンスは、米国連邦通信委員会(FCC)が付与する特定の周波数を利用するためのライセンスです。FCCライセンスは規制当局の定める規制に準拠している限り、その更新・延長は最低限のコストで行うことができることから、FCCライセンスの耐用年数を確定できないと判断しています。」

重要な会計方針には、「(9) 無形資産・無形資産の測定には原価モデルを採用し」とあり評価方法を記述し、「(11) 有形固定資産、無形資産およびのれんの減損」の記述がされている。

2015年2月5日(米国東部時間)、当社の米国子会社であるSprint Corporation(以下「スプリント」、米国会計基準)は、2014年12月31日に終了した3カ月間(以下「当第3四半期」)において21.3億米ドル(約2,568億円)の減損損失を計上したことを発表しましたが、当社連結決算(国際会計基準)では、当第3四半期においてスプリントに係る減損損失を認識しませんでしたので、下記のとおりお知らせいたします。
参考資料(減損の認識方法)(PDF形式:628KB/2ぺージ)・・2500億円の減損が意味するもの(東洋経済)、2015年2月17日

ソフトバンクがアーム社(ARM Holdings plc)を240億ポンド(3兆3千億円)で買収(2016年7月)

ソフトバンク「史上最高3.3兆円買収」の賭け
・・IoT時代を先取り、半導体設計会社を電撃取得

ソフトバンクは、7月18日に英ARM(アーム)ホールディングスを100%買収することでアーム社と合意したと発表した。買収金額240億ポンド(3.3兆円)は、日本企業による企業買収として過去最大。アーム社は英国に本社を置く半導体設計会社である。SoC(System on a Chip)と呼ばれる、一つのチップ上にシステムの動作に必要な機能のすべてを実装する設計手法で世界的に有名な企業だ。同日にロンドンで会見した孫正義社長によれば、スマートフォンの中に入っている半導体の97、98%は同社が設計した半導体。当然のことながら、米アップル社や韓国サムスン電子といったスマホ大手の製品の中に入っている半導体も、アーム社が設計した半導体なのだという。

ARM Holdings plc2015年度年次報告書を見ると、2015年12月31日現在の純資産は17億9760万ポンド(1ポンド136円換算で2444億7360万円)、資本金は70万ポンド(95百万円)で極めて内部留保の多い会社である。ナスダックの時価総額では、2016年7月19日現在、$307億ドル(1ドル105円換算で3兆2558億円)である。ソフトバンクは、時価総額に少し色を付けて買ったようだ。

計上される「のれん」を概算してみよう。
買収額 240億ポンド 136円で換算 32,640億円
純資産の額 18億ポンド 136円で換算 2,448億円
差引「のれん」概算額 222億ポンド 136円で換算 30,192億円

のれんだけで3兆円を超える金額が計上される。日本企業では最高額になるのだろう。

ソフトバンク史上最高額でARMを買収した本当の意味とは? 孫正義氏が思いの丈を熱弁・・ はい。のれんの規模が今回非常に膨らむわけですけれども、のれんはその会社の価値が急激に劣化したときには、のれん代を評価減を立てなきゃいけないとかということはありますけれども。この10年間ぐらい見ていただいて、ARMはその純利益を毎年、非常に順調に増やしていってると。増益、増益、増益の連続だと。スプリントと違って、ずっと黒字の会社で、しかも純利益がどんどん増えているという会社なので、のれんを、急にそれを償却しなきゃいけないと、評価減を立てなきゃいけないというようなリスクはほとんどないと私は思っています。つまり、ARMはなにか物理的な資産を持った会社を買おうということではなくて、ARMの設計能力ですね。ARMの設計能力、将来継続して生み出していくことのできるあろう、新しい技術を毎年毎年新たに作り出していける、そのプラットフォームを持ってるというのがARMの本質的価値だと思いますね。

SoftBankが買収したARM社の過去とカラクリを見ると、アップル社のモバイルに採用されて急速に伸びてきた会社であることがよくわかる。インテルがアップルのスティーブジョッブにCPUの制作を依頼されて拒否したときにARM社が手掛け、今や、出荷台数でモバイル・スマホがPCをこえた時代にはARMは次世代のリーダーとなる可能性は高い今のインテルが最も恐れるライバルは、おそらく多くの読者になじみのない無名の存在である。英国に本社をおくアームという企業。社員数は2000人程度で10万人を擁するインテルの50分の1。今年7〜9月期の売上高は2億2700万ドルで、やはりインテルの135億ドルに比べて60分の1だ。「ARM社のビジネスモデルとIntelの将来」参照

ソフトバンクG、アーム全株をエヌビディアに売却−最大4.2兆円2020年9月14日

ソフトバンクグループは、2020年9月14、ビジョン・ファンドとともに保有する半導体設計子会社の英アームの全株式について、コンピューター・グラフィックス(CG)用半導体製造で最大手の米エヌビディアに最大400億ドル(約4兆2000億円)で売却すると発表した。

  英国や中国、欧州連合(EU)、米国を含む規制当局の承認などが必要なことから、取引の完了は2022年3月ごろとなる見込み。

  取引完了後、アームはソフトバンクGの連結対象から外れる予定。ただし、今回の買収は規制当局の承認が条件となっており、取引完了が確実になるまでは引き続きアームを継続事業として扱う。

事例:米メディア大手バイアコムからCBSが会社分割、のれんの減損処理に巨額の損失
ニューヨーク(ウォール・ストリート・ジャーナル)米CBS(NYSE:CBS)は2006年2月23日、米メディア大手バイアコム(NYSE:VIA.B)の会社2分割後、初の決算を発表したが、10−12月期(2005年12月期第4四半期)は91億ドルの大幅損失となった。テレビ・ラジオ資産に関連した営業権(のれん)など無形固定資産の償却費として95億ドルの費用を計上したためだ。

CBSは、バイアコムの会社2分割で、テレビ、ラジオ放送、屋外広告などの事業を引き継いだ。もう一方のバイアコムの名称を引き継いだ新生バイアコムには、MTVなどのCATV(ケーブルテレビ)チャンネルやパラマウント映画などが残された。会社2分割でCBSが設立されたのは、今年の1月1日だが、10−12月期は既に別会社であったかのように決算報告された。

無形固定資産の多額償却は会計基準に従ったためだ。前年同期も、当時はバイアコムだったが、ラジオ放送事業や屋外広告事業の資産関連で180億ドルの償却費用を計上した。両事業とも現在のCBSに引き継がれている。

2006年1月1日にCBSを会社分割したとしている。VIACOM INC.のSEC登録書類 Form10-K 参照

バイアコムは昨年12月31日付で地上波テレビ部門などをCBSコーポレーションとして分離。今回発表した決算には分離した部門は含まれていない。 日本経済新聞(10:03)


企業結合の会計基準で、はじめてIASBとFASBは共同発表した(2007年12月4日)
2005年6月30日FASBとIASBは、企業結合の会計基準について双方の会計基準を一致させた草案をはじめて公表した。

2007年12月4日
FASBはIASBに先行してFASB's statement No141 事業の結合Business Combinations (2007年改正)およびFASB's statement No. 160, 連結財務諸表における非支配株主持分Noncontrolling Interests in Consolidated Financial Statements - a replacement of ARB No. 51を公表し、2008年12月15日以降開始する事業年度から適用するとしている。IASBに先行して会計基準を公表したがIASBと意見が一致しているものとしている。The IASB plans to issue its counterpart standards IFRS 3 (revised), Business Combinations, and IAS 27 (as revised in 2007), Consolidated and Separate Financial Statements, early next year.(FASBニュース

2008年1月10日IASBは、FASBとの検討結果としてIFRS3号「企業結合」IAS27号「連結財務諸表と個別財務諸表」の改正したと発表した。2009年7月1日以降開始する事業年度から適用するとしている。米国より半年遅れて適用する。(IASBニュース 草案等の検討サイト 参照)

すべての企業結合について、どちらか一方が他方を取得する一つの方法(a single method)・買収法のみを採用する。なお、新基準では、パーチャス法(Purchase method)をアクイジション法(Acquisition method)と呼称を変更している。意味は「買収法」で変更はない。取得時の公正価値で「のれん」を認識し、取得者ばかりでなく、従来少数株主持分(minority interests)としていた非支配株主持分(non-controlling interests )にも配分する。非支配株主持分(non-controlling interests )は資本取引として株主持分(Owners' equity)に区分表示する。(FASBニュースFASB 160号FASB141号(2007年改正版))(参考:FASB141号およびARB51号差替草案 Puroject Updates Business Combinations: Applying the Acquisition Method-Joint Project of the IASB and FASB(改正要点を知るにはよい) 参照)

基準番号 Owners' equity: 所有者持分: 31/12/05 31/12/04
IAS 1.68(p) Capital and reservesOwners' equity(注1); 資本および積立金所有者持分(注1);
IAS 1.69 Share capitalIssued equity(注1) 株式資本株式発行持分(注1) xxx xxx
IAS 1.69 Capital reserves 資本積立金 xxx xxx
IAS 1.69 Revaluation reserves 再評価積立金 xxx xxx
IAS 1.69 Hedging and translation reserves ヘッジおよび換算調整 xxx xxx
IAS 1.69 Retained earnings 利益剰余金 xxx xxx
----- -----
IAS 1.68(p) Equity attributable to equity holders of the parent 親会社株主持分 xxx xxx
IAS 1.68(o) Minority interestNon-controlling interests 少数株主持分⇒非支配株主持分(注2) xxx xxx
----- -----
Total owners' equity(注1 所有者持分合計(注1 xxx xxx
===== =====
(注1)FASB160号では、所有者持分(Owners’ equity)区分およびその合計を所有者持分合計(Total owners’ equity)の用語を使用している。資本金部分は、普通株発行数を付記して「発行持分(Issued equity)」の用語にしている。

(注2)少数株主持分(Minority interest)は、国際会計基準1号(IAS1)パラグラフ68の(o)により貸借対照表に表示することが求められている。国際会計基準IASBおよび米国財務会計審議会FASBとの共同プロジェクトが2005年6月30日に公表した企業結合の改正会計基準案により、従来、少数株主持分(minority interests)としていた非支配株主持分non-controlling interests )は資本取引として所有者持分(Owners' equity)に区分表示する。

新基準では、「のれん」を非支配株主持分を含めて100%表示することができる('full goodwill' option)。全部のれん方式(full goodwill method)と言う。具体的には、次のようになる。
P社は、S社の持分の80%を取得するのに800を支払ったとする。そのときのS社の持分(純資産)は公正価値で600とする。この場合、連結決算上の「のれん」非支配株主持分(旧少数株主持分)は次のように計算される。「のれん」を100%計上するのは、下記の損益計算書の表示を首尾一貫させるためのもののようだ。

S社の
公正価値
合計
P社の持分 非支配株主持分 のれん
合計
持分合計 600 80% 480 20% 120
投資原価 800
差引:のれん 80% 320 20% 80 400 @100%
非支配株主持分合計 200
A
これにより、連結決算上の「のれん」は非支配株主持分を含む@の400(従来はP社持分の320)が貸借対照表に表示されることになる。同時に、非支配株主持分はAの200(従来はP社持分の12)が貸借対照表に表示されることになる。

また、子会社の株式の一部譲渡は持分(非支配株主持分含む)の親会社持分から非支配株主持分へ移動であり、支配従属関係が継続している限りは、持分取引(equity transaction 従来の資本取引)として「資本剰余金(additional paid-in capital or paid-in surplus」の増加で会計処理して損益は生じないとしている(SFAS160号33項)

1980年代初頭までは、米国SECは、連結子会社の株式を一部譲渡した場合、子会社株式の一部譲渡による譲渡損益は資本取引(capital transaction)としていたが、1983年3月29日のStaff Accounting Bulletins(SAB) 51で連結損益とする旨の変更があった。今回の国際会計基準・米国会計基準は、持分取引(equity transaction 従来の資本取引)として会計処理して損益は生じないとして、旧来のSECの会計処理に戻り「資本剰余金(additional paid-in capital or paid-in surplus」の増加となる。SAB51を廃止したもの。確かに、損益取引として業績(純利益)に含めるのはおかしい。(”accounting for sales of stock by a subsidiary” ”SAB 51” 参照) 

なお、現行では、子会社株式が、簿価(一株あたり純資産)より高い売出し価格であれば譲渡益がでる。子会社が上場し株の放出の場合は巨額の譲渡益が計上されている。子会社株式を譲渡して親子会社の関係が無くなり連結から除外される場合は、実現利益として譲渡益を親会社持分の利益に計上することに変更はない(SFAS160号36項)。

日本の会計基準では、少数株主持分は、資本と負債の間の中二階に表示する。国際会計基準の場合、上記の通り、非支配株主持分は「資本の部」に親会社株主持分と区分して表示する。

損益計算書では、「純利益」は、国際会計基準では、下記のように、非支配株主持分を含めて総額表示してから、非支配株主持分を控除して、親会社株主持分を表示する。これは、従来どおりの開示方法と変わらない。
「のれん」に減損が生じた場合、減損は非支配株主の分も含めて100%減損処理しておき、非支配者株主持分相当額を差引することで首尾一貫した会計処理が期待できる。
のれんを100%計上する理由は損益計算書の表示の首尾一貫性にあるようだ。
ABC株式会社 ABC Co.
連結損益計算書 Consolidated Statement of Income
12月31日に終了する事業年度 Year ended December 31
20X3 20X2 20X1
収入 Revenues $395,000 $360,000 $320,000
費用 Expenses (330,000) (305,000) (270,000)
  継続事業からの税引前利益    Income from continued operations, before tax 65,000 55,000 50,000
法人所得税 Income tax expenses (26,000) (22,000) (20,000
  継続事業からの純利益    Income from continued operations, net of tax 39,000 33,000 30,000
廃止事業、税引き後 Discontinued operations, net of tax - (7,000) -
  純利利益 Net income 39,000 26,000 30,000
   差引:非支配株主持分に帰属する純利益    Less:Net income attributable to the noncontrolling interest (1,500) (4,000)
  親会社に帰属する純利益 Net income attributable to ABC Co. $37,500 $22,000 $30,000


2005年8月4日に企業会計基準委員会はIASBニュースを翻訳したものをHPに掲載した。

2005年12月9日、企業会計基準委員会は、貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準を公表したが、国際基準同様、少数株主持分を純資産の部に表示する案を提案し上記国際基準と一部整合するような努力が伺えるが、非営利企業および公会計で使用される「純資産の部」の名称は、営利を目的とする株式会社の貸借対照表の表示には相応しくない。純資産の部ではなく株主持分とし、株主の持分であることを明示して、親会社株主持分と少数株主持分(非支配株主持分)を区分表示すべきであろう。用語面・内容とも、国際会計基準からかけ離れている。

中国でさえ用語・内容とも、国際会計基準に一致させ、企業会計基準基本基準第四章「所有者持分(Owners' Equity)」としている。資本主義の日本が何故今「資本の部」から「純資産の部」に変更しなくてはならないのか不思議でならない。中国のように国際基準に一致させ「所有者持分」とするなら理解できるのだが・・)


2013年(平成25年)9月13日企業会計基準委員会は「企業結合の会計基準」等を改正して「非支配株主持分」などを2015年(平成27年)4月1日以降開始する事業年度より適用するよう改正された。なぜに、こんなに遅く適用するのか信じられないほど会計リテラシーがお粗末だ。

企業会計基準委員会の「改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」及び関連する他の改正会計基準等の公表」を見ると、何本もの会計基準やら指針を改正している。誰もがうんざりするのではないか。もっと整理して分かり易い会計基準を作ったらいいではないか。会計リテラシーの欠如を証明しているようだ。

中小企業のIFRSでは10年でのれんを償却(2009年7月)
2009年7月,国際会計基準委員会は簡略した「中小企業の国際会計基準」を公表した。これによると、のれんは無形固定資産だが耐用年数が判らない場合は10年で償却する、としており、加えて、資産の減損を検討することが必要となっている。

19.23 After initial recognition, the acquirer shall measure goodwill acquired in a business combination at cost less accumulated amortisation and accumulated impairment losses:
(a) An entity shall follow the principles in paragraphs 18.19-18.24 for amortisation of goodwill. If an entity is unable to make a reliable estimateof the useful life of goodwill, the life shall be presumed to be ten years.
(b) An entity shall follow Section 27 Impairment of Assets for recognising and measuring the impairment of goodwill.


日本の会計基準では買収できなかった。
1989年11月、ソニーは米国映画会社コロンビア・ピクチャー(現ソニー・ピクチャー・エンターテイメント)を約6千5百億円で買収、うち「のれん」は3千5百億円を計上、1994年には減損会計を適用し2,650億円の未償却のれんを一時償却する。(企業会計審議会で、ソニーの長坂参考人が1994年に行った「のれん」の減損会計適用の証言を参照。)

翌年の1990年11月、松下電器産業はソニー同様、米国映画会社MCAを61億ドル(約7,800億円)で買収し巨額の「のれん」を計上した。松下は1995年4月、MCAをカナダの会社に57億ドルで売却する。
ソニーおよび松下は、米国SEC登録の会社で米国会計基準で会計処理をしており、当時は、無形固定資産である「のれん」の最長耐用年数が40年であったため、償却負担が少なく企業買収が可能であったと言えよう。日本の商法(現・商法施行規則第33条)では「のれん(営業権)」の償却期間は5年であった。つまり、日本企業が、国際的競争の中でハンデを負っているのである。

最近、日本のIT企業が「日本の企業結合の会計」について、国際的な競争力を高めるため国際基準に合わせて買収法のみとし「のれん」に減損会計を適用して欲しいとする要望が出されているが、上記ソニー、松下のケースを思い出して欲しい。


◎合併会計の基準見直し訴え2005年3月10日、 12:45:16)<河北新報社 共同通信
 楽天の三木谷浩史会長兼社長ら新興企業の経営者が10日、自民党の会議で、買収する企業のブランド価値などを表す「のれん代」の会計処理の基準について、「企業再編の道を閉ざし日本経済の発展に著しい悪影響がある」と批判、合併会計基準の見直しを訴えた。  来年4月から新しい合併会計基準の適用が始まるが、本格的な企業買収時代を控え「経済実体と遊離した会計基準」(議員)との批判が出ている。有力な企業経営者から強い見直し要請が出てきたことで、今後の議論に一石を投じそうだ。  ローソンの新浪剛史社長も「企業買収がやりやすい国際会計基準と異なる基準では、平等な競争ができない」と述べた。  来年(2006年)4月からの合併会計基準では、のれん代を20年以内に償却する。

わが国が、のれんの減価償却に固執したり、持分プーリング法に固執するのを見ると、かつての会計界の重鎮、故黒澤清企業会計審議会会長が連結決算制度導入時に持分法を日本に導入することに強烈に反対したことや、故番場嘉一郎企業会計審議会会長が外貨換算に関し海外子会社の財務諸表の換算差損益を資産または負債に計上する方法に固執したのを想起させる。双方とも、後に国際会計基準と一致させる改正があると誰も疑問無く国際基準を受け入れている。

のれんに耐用年数があるのでしょうか?
減価しているのであれば減損会計を適用すればよい。

日本でも非償却資産がある。購入した電話加入権は減価しないとして非償却資産である。時価がわずかとなった電話加入権は、今では減損会計が検討される時代だが・・


減価償却(depreciation)をするには
、減価償却する期間(=耐用年数)が必要である。耐用年数の決定は、@機能的耐用命数、A経済的耐用命数(useful economic life)によって決まる。@機能的耐用年数は、機能的・物理的に使用できる期間である。A経済的耐用命数とは、経済的に使用可能な期間である。例えば、10人で操作する機械が15年の機能的耐用命数を持っていたとしても、技術革新で1人で操作できる安い自動化された機械が開発されると、従来の機械で製造していたのでは採算が合わず経済的に使用できくなることがある。10年以内にそうした状況になると予測される場合は、経済的耐用年数は10年ということになる。減価償却に使用する耐用年数は、@とAの、いずれか短い年数を耐用年数とする。
「のれん」に耐用年数があるのであろうか。企業寿命といわれる30年説には根拠はない。企業再生中で上場を廃止された名門企業カネボウは、創業が1887年で118年間事業を営んできていたのである。企業結合に係る会計基準の償却期間20年に根拠はない。

米国会計基準SFASNo.142「暖簾およびその他の無形固定資産(Goodwill and Other Intangible Assets)2001年7月公表(2001年12月適用)」では、「のれん」は減価すると推定しない。耐用年数が不明な「のれん」および無形固定資産は減価(減耗)償却しないが、少なくとも毎年、資産の減損テストを行う。耐用年数が明確な無形固定資産は、任意の上限の制約なしに、継続して耐用年数の期間で償却しなければならない。
This Statement does not presume that those assets are wasting assets. Instead, goodwill and intangible assets that have indefinite useful lives will not be amortized but rather will be tested at least annually for impairment. Intangible assets that have finite useful lives will continue to be amortized over their useful lives, but without the constraint of an arbitrary ceiling.

SFAS142号が適用される以前は、APB意見書(APB Opinion) No. 17、「無形固定資産( Intangible Assets)」が適用されており、無形固定資産の耐用年数は最長40年で、減価償却を求めていた。APB意見書17号では、「のれん」は減価するものと推定されていた。米国会計基準は時間をかけて実務の変化に照らして適時に高品質なものを開発し(develop)、進化させてきた。先祖帰りのような古い考えに後戻りすることは決してない、少なくとも過去には。

会計基準は進化するもの:

会計基準は進化する。海外子会社の財務諸表を本国通貨に換算する会計方法を例にとると、1973年2〜3月に固定相場制(日本は1ドル360円であった)から変動相場制に切り替えられた直後、米国の会計基準SFAS8号「外貨取引の換算会計」では、「取得原価主義」を基礎とした換算方法で、海外子会社の非貨幣性項目である工場・設備などの固定資産やたな卸資産は、取得日の換算レートで本国通貨に換算し、減価償却や売上原価はその歴史的原価(取得日レート換算)で処理するというものであった。この換算方法の欠陥は、やがて現実となった。

米国子会社のドル表示の財務諸表では、税引前利益に法人税等を計上し純利益となって配当もしているのに、属性法で換算した円表示(本国通貨)の損益計算書が税引前損失となり法人税等を計上し純損失という、業績を正しく表示しないという事態に直面した。財務諸表の有用性を損ねるものであることは明らかであった。

属性法の欠陥による換算方法に関する大論争を経て、1981年12月、米国財務会計基準審議会は、SFAS52号「外貨換算(Foreign Currency Translation)」の会計基準を公表することで最終決着を見、米国に遅れること18年後の1999年に改正された現在の日本の基準と同じものになったのである(日本は実に18年間も矛盾した会計基準が放置された)。つまり、SFAS52号では、損益計算書の売上高、売上原価、減価償却費、販売費・一般管理費などすべての取引は、月ごとの換算レートで換算し、貸借対照表は、固定資産や在庫を含めたすべての項目を(資本等は取引日レート換算を除く)期末日レートで換算して表示し、換算差額を「株主持分」に計上するというものであった。

この換算方法は、期末日の換算レートを使用することである意味で時価会計となってしまい厳密な取得原価法から逸脱するものとして、狂信的な取得原価主義の信奉者である会計学者の強烈な批判の的であった。しかし、SFAS52号が成立した時点で、現実的対応として有用性を尊重し誰も異論をはさむ者はなく未だ変更されていない。

会計基準は過去の理論を根底から覆すことがあり、会計基準は進化するものなのである。過去の論理に固執し引きずられることは危険である。特に、日本の権威あるとされる会計学者の陥りやすいことは過去にいくつかの例が示している。

欧米が、会計監査を通して実務家が実際の取引に直面して会計基準の矛盾をいち早くキャッチし、欠陥のある会計基準を、実務家が中心となり常に実態を適正に示すように改善を加えようとするのに対し、日本は、会計学者が中心となっており、会計基準と実務の矛盾をタイムリーにモニターする制度になっていないことから欧米の実態重視substance over form)の考えを共有できないでいるのである。価値観を共有できないために失われる時間は大きい。
企業会計基準委員会(ASBJ)委員長の仰天の応酬(2006年3月初旬)

『2006年3月初旬、国際会計基準審議会(IASB)議長D・トゥイディー氏に、企業会計基準委員会(ASBJ)斎藤静樹委員長は「のれん代を償却せずに、なぜ他の資産は償却するのか」と応酬した』(日本経済新聞「会計残された課題4」2006年3月18日より)添えられた二人の写真がその場の雰囲気を的確に捉えていた。

この記事を見て、仰天した。なぜそのような質問が出るのかD・トゥイディー議長にとっては不思議であったろう。
なぜなら、国際会計基準の中に、IAS16号「有形固定資産」、IAS38号「無形固定資産」という会計基準があり、耐用年数と減価償却等に関して詳細に規定しており、そこに斎藤委員長の疑問に対する回答があるからである。ちなみに、日本には租税政策を反映した税法規定しかなく減価償却に関する会計基準は存在しない。

また、会計史の中で、減価償却は重要な位置づけにある。産業革命時の鉄道会社の鉄道車両、レールを含む枕木、トンネルなど巨額な設備投資の会計処理の検討から生れたものでその歴史は長くその論理は確立している。(「近代会計の幕開け」「減価償却の会計史」参照)

3月2日行われた「インターナショナル・カンファランス−会計基準のコンバージェンス(収斂)に向けて−」では、企業結合の会計基準に関する国際会計基準審議会理事等とのパネルディスカッションで興味深い話が交わされたようである。「会計バトル」blog はその雰囲気を伝えている。

日本経済新聞の同記事には「10日、関東つくば銀行と茨城銀行の合併撤回の発表をした。理由は巨額なのれんの償却(日本基準)に耐えられない」とのこと。

参考:ジェトロ・ブリュッセル・センター EUトピックスNo38 2004年3月3日より「会計基準の国際的な統合に米国の強い影響力 (米国)  −IASB理事にインタビュー− 参照


三菱東京、UFJ合併で、米国会計基準の4兆6千億円の「のれん」は償却不要
日本の基準で合併できたであろうか
(2005年)平成17 年3 月4 日、株式会社三菱東京フィナンシャル・グループと株式会社U F J ホールディングスが連名で公表した下記の文書によると、米国投資家に対する合併前の情報開示として、合併を仮定したプロフォーマの結合財務諸表等をSECに登録した。
米国基準財務諸表の開示について
株式会社三菱東京フィナンシャル・グループ(2005年10月1日合併により三菱UFJファイナンシャル・グループ)および株式会社UFJ ホールディングスは、各社の株主総会の承認と関係当局の許認可等を前提に、本年10 月のグループ経営統合に向けて鋭意準備を進めておりますが、今般、米国会計原則(US GAAP:U.S. Generally Accepted Accounting Principles)を基準とした、MTFG とUFJ の結合要約財務諸表(プロフォーマ財務諸表)およびUFJ に関する財務諸表を作成しましたので、お知らせします。なお、本財務諸表は、米国証券取引委員会(SEC : U.S. Securities and Exchange Commission)へ本日付で提出する、経営統合に伴う登録届出書Form F-4)に記載しています。当該届出書は、SEC の登録に関する審査を経て、本年6 月下旬に開催されるUFJ の株主総会の招集通知発送までに登録が完了する予定です。以 上

このSECへ登録したForm F-4【39ページの「Goodwill」参照】(和文抜粋【2ページの「営業権」参照】)に記載したプロフォーマ(仮定計算)で作成した合併会計によると、米国会計基準によりパーチャス法(買収法)で会計処理し4,624,502百万円の「のれん(Goodwill)」を貸借対照表の資産に計上し、注記を見るとUFJホールディングに関する「のれん」は4,555,034百万円とあります。
米国会計基準では、「のれん」に減損が生じ一時償却する以外は減価償却はしません
日本の会計基準「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書では、対等合併以外ではパーチャス法で「のれん」を認識し、「のれん(又は負ののれん)は20年以内に規則的に償却する」ことになっていますので、「何年で償却するのが適正なのか決めなければなりません」、仮に最長の20年と決めても、のれん4兆6千億円を単純に20年で割ると、毎年2300億円の償却費を計上しなければならなくなります。償却期間を短くすれば当然償却負担が多くなります。連結利益にかなりの負担になります(「三菱東京フィナンシャル・G連結決算参照)。日本の会計基準では、のれんの大きな大型合併はかなり困難になり、実戦(実践)に使えない竹光のようなもの。

2005年4月26日、みずほフィナンシャルグループが『“ Channel to Discovery”Plan』について公表しニューヨーク証券取引所への早期上場の意向を明らかにしている。「真の目的は海外金融機関の買収にある」とみずほ首脳は明かす(2005年9月7日日本経済新聞)。・・2006年10月20日、SECへ登録届出書提出、11月8日にニューヨーク証券取引所へ上場される予定と報道みずほFGニュース SECデータベース Form20−F ADR株価 ニューヨーク証券取引所 日本の株価 参照

2008年3月26日、三井住友フィナンシャルグループは、2011年までに、ニューヨーク証券取引所への上場を検討すると発表した。これにより、3メガバンクがすべてニューヨーク証券取引所に上場することになる。 ニュース 日本の株価 参照
2010年10月19日、「三井住友FG、11月1日にNY証取上場へ 日本の三大金融グループ出そろう」と報道。 ニュース SEC登録資料 参照

米国会計基準では「のれん」の償却がないぶん利益が多くなります。ただし、減損が生じたときは一括償却が求められます。

私見ですが、米国会計基準のほうが財務諸表作成者・投資家にとって単純で分かり易いのではと思います。ちなみに、国際会計基準も米国基準と同様です。

欧米の会計基準は委員の全会一致で決まるものではなく、透明性をたかめて民主的に議論を尽くして、いかなる団体・組織の圧力から中立性・独立性を守るため、反対派があっても賛成多数の場合に成立します。ちなみに、米国会計基準の成立について、ライス大学教授ゼフ教授の「米国会計基準の発展」では、会計基準ごとに「賛成・反対」の得票数を明らかにしていますので参照してください。日本の会計基準では賛成・反対がどうであったのかさえわからない状態です。(日本の「企業会計基準委員会等運営規則」参照。  国際会計基準では、「国際会計基準委員会財団の憲章」パラグラフ29によれば14人の理事が、理事会でそれぞれ1個の議決権を持ち過半数で決まることになっている。

2006年3月期の連結貸借対照表公表されています。以下の通りです。後に、SEC登録の連結貸借対照表と比較してみたところ、下記の通り、日米会計の相違が、利益剰余金で1兆9千億円も相違する。はすごい差異といえよう。
株式会社 三菱UFJフィナンシャル・グループ 三菱UFJフィナンシャル・グループは9月28日、
米国会計基準に基づく2006年3月期
連結決算を発表した。
旧UFJホールディングスと合算した最終利益は
前期比48・5%減の5833億円(税引前利益か?)。
融資先の業績回復に伴う貸し倒し引当金戻り益
の取り扱いなど特別利益への計上基準が
日米で異なるため、5月に公表した国内基準
(1兆1817億円(税引前利益か?))に比べ半減した。

 一時は、国内トップのトヨタ自動車(1兆3721億円、
米国基準のみ)に肉薄して話題になったが、
今回で大きく引き離された格好だ。
フジサンケイ ビジネスアイ
- 9月29日8時33分更新
連 結 貸 借 対 照 表
平成18年3月31日現在
(単位:百万円)
日本方式 米国方式 日米差異
連結調整勘定(のれん) 145,250 1,843,948 1,698,698
資産の部合計 187,046,793 186,219,447 827,346
資本剰余金 1,915,855 5,566,894 3,651,039
利益剰余金 3,325,980 1,424,634 1,901,346
当期純利益 770,719 363,511 407,208
日本基準の連結調整勘定は、発生年度に全額償却しております。また、持分法適用の関連法人等に係る連結調整勘定相当額については、連結調整勘定に準じて償却しております。なお、UFJ ニコス株式会社及びUnionBanCal Corporation に係る連結調整勘定の償却については、原則として発生年度以降20 年間で均等償却しております。また、アコム株式会社に係る連結調整勘定相当額の
償却については、原則として発生年度以降10 年間で均等償却しております。

のれん代超過収益力であるなら、一つの企業でありながら、日本基準では超過収益力「のれん」は小さく、米国基準が巨額な超過収益力(のれん)であるということか?日本方式では、「のれん」の償却負担を少なくするために工夫されたと見るのが自然であろう。(「買収コスト正確に把握」 「企業結合に関する日本の意見」by企業会計基準委員会 「のれんの本質,評価および構成要素」by白在龍・福岡大学大学院 参照)

日本は、金融商品の会計基準の導入により日米で貸倒引当金の計上は一致したはず。  報道によると、被合併会社の不良債権の評価の違いであるようだが、貸倒引当金の計上基準に日米相違があるとの内容であるが・・・・仮に、そうだとすると、国際基準に一致したとされる金融商品の会計基準に日米相違したままであるということだ。(ニュース 参照)

日本企業に無理な決算をさせないように、日本基準を理論および実務経験豊富な国際基準に一致させることが肝要なのである。

2008年(平成20年)3月期の減損処理:
2008年9月19日、三菱UFJフィナンシャル・グループが発表した米国会計基準による2008年3月期連結決算は、純損益が5,424億円の赤字(前期は5812億円の黒字)に転落した。

5月に発表した日本会計基準による決算では、純利益が前期比27・7%減の6,366億円だったが、米基準では会計処理が必要となる株価下落に伴う減損損失が響いた。

三菱UFJは、旧三菱東京フィナンシャル・グループと旧UFJホールディングスが05年10月に合併した際、米基準では、営業権を示す「のれん代」として約1兆7,300億円を計上していた。 08年3月末の株価が、合併当時の株価に比べて下落したことなどから、米基準に基づき8,937億円を減損処理した。米基準で赤字になるのは、旧三菱東京フィナンシャル・グループが不良債権処理のため赤字となった02年3月期以来となる。

 三菱UFJは「日本会計基準の決算では、のれん代を計上しておらず、減損損失はない」と日本の決算には影響はないとしている。(ニュース

連 結 貸 借 対 照 表 株式会社 三菱UFJフィナンシャル・グループ
平成20年3月31日現在
(単位:百万円)
日本方式 米国方式 日米差異
連結調整勘定(のれん) 336,240 1,074,137 ▲ 737,897
資産の部合計 192,993,179 190,731,786 2,261,393
資本剰余金 1,865,696 5,791,300 ▲ 3,925,604
利益剰余金 4,592,960 1,074,880 3,518,080
当期純利益 636,624 ▲ 557,014 1,193,638
日米の主要な差異は結果として、資本剰余金と利益剰余金の差異として出てくる。
もし、将来、国際会計基準に変更すると、転換社債の株主持分が資本剰余金へ計上されるため
米国基準とも違う数値が算出されることになる。

ついに、のれんの償却(日本基準)が負担で合併断念が表面化

関東つくば銀行
(茨城県土浦市)は10日、7月に予定していた茨城銀行(水戸市)との合併を見送ると発表した。合併比率で合意できなかったことや4月から適用される企業結合会計基準で発生する「のれん代」が、関東つくば銀行の株価急騰で大きく膨らみ、償却が難しくなったのが主因という。
合併は、関東つくば銀行が新株を発行し、茨城銀行を吸収する形を考えていた。しかし、合併を発表した04年11月の株価は700円台。その後株価は上昇し、10日の終値は2100円。「50億円程度と見込んでいた」のれん代は400億〜500億円に膨らんだ合併後の新銀行が償却するのは難しくなった
企業結合会計基準では、企業合併を処理する場合、合併の対価の総額と相手企業の資産額との差を「のれん代」として計上し、償却していく必要がある。関東つくば銀行のニュース より

のれんの償却負担で検討段階で合併を断念し表面化しないケースが普通。表面化するほうが珍しい。

他の会計基準への影響

合併・買収は、企業を評価して幾らで買収または合併するかという・・現在の企業価値(買収価値or譲渡価値=公正価値)を基礎に買収交渉される。したがって、買収する側は被買収企業の財務内容(貸借対照表)に掲載の資産が実在し評価は適正であること、負債はすべて計上されて計上漏れの負債がないことを確認する必要がある。

例えば、一昔前の日本の会計では、従業員退職給与引当金が税法基準で自己都合の40%を計上してある場合は、税法は適法でも、企業買収では計上漏れの負債相当額は買収金額から控除して欲しいものです。
現行の退職給付の会計基準では、「新たな会計基準の採用により生じる影響額は、通常の会計処理とは区分して、15年以内の一定の年数の按分額を当該年数にわたって費用として処理することができるよう経過的な措置を置くことが適当である。」としており、国際会計基準の5年より10年長く未計上の負債が存在することになる。当然、買収者は未計上の債務相当分買収価額から控除することとなる。

減損している固定資産があれば買収価額から控除して欲しいものです。継続企業であればいつ落としてもよいかも知れませんが、企業評価をする者にとっては落とす時期を明確にして貰いたいものです。そこで、資産が毀損(impairment)していれば資産の貸借対照表能力なしとして貸借対照表の資産から減損部分を落とす必要から「資産の減損にかかる会計基準」が設定されます。

1940年のW.A. ペイトン教授とA.C. リトルトン教授の論文「会社会計基準序説(An Introduction to Corporate Accounting Standards」による伝統的な「費用収益対応の原則」を色濃く反映した損益計算書を中心とした会計基準が採用されてきたが、この10年間は、急速に資産・負債法に変更されりつつあり、資産・負債の純額である純資産(持分=Equity)を重視する傾向にある。主なものに下記のものがある。単純に資産・負債法ではない。資産・負債を原価法で表示するのではなく、公正価値(Fair value)による測定・認識による方向にシフトしつつある。(参考;「FASB財務会計概念書第7号における現在価値測定― 公正価値評価の拡大を巡って ―」by高山浩氏新潟大学、Concepts Statement No. 7 Using Cash Flow Information and Present Value in Accounting Measurements (Issue Date 2/00) [Full Text] [Status]

外貨換算法
非貨幣性項目(代表例は、たな卸資産、有形固定資産など)は、歴史的原価主義を徹底して追及し、取得日レートで換算し、決算時に低価法に際し時価をその時のレートに換算した時価と比較する属性法(temporal method)によって換算する方法から、期末日の換算レートで換算する方法に変更。
SFASNo. 52Foreign Currency Translation
(Issue Date 12月/81年)
国際会計基準IAS 21号「外国為替の変動の影響(1985年1月適用)」
企業会計審議会外貨建取引等会計処理基準(1999年10月改訂2001年3月期から実施)」
「外貨換算会計生成史研究」(研究報告論文・資料集)by井戸一元豊橋創造短期大学教授
税効果会計
一時差異に関する税効果会計について、当初は、繰延法(Deferred Approach)といい毎年度適用した税率で計算した税効果額を損益計算書の税金調整額として計上する損益計算書重視の税効果会計を行っていたが、貸借対照表日現在確定した税率で再計算し実現可能繰延税金資産か納付すべき繰延税金負債を計上する資産負債法(Asset and Liability Approach)に変更。SFAS No. 96Accounting for Income Taxes (Issue Date 12月/87年)
国際会計基準IAS 12号「法人所得税 (IAS 12改定に伴い1998年1月適用)」
企業会計審議会「
税効果会計(2000年3月期から実施)」
研究開発費等の会計
従来は、研究開発費は、効果の発現が将来にわたる場合、繰延資産としていたが、原則、発生した期の費用としなければならないとした
米国では、1974年10月公表の、財務会計基準書(SFAS)第10号「研究開発費の会計」によれば、技術専門家に試験研究費の発生と将来の収益との因果関係を科学的に調査し、その因果関係は数パーセントに過ぎないことが判明し、試験研究費は発生した期の費用としなければならないと結論した。
企業会計審議会の「研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書(2000年3月期から実施)は、米国基準と一致している。
国際会計基準第38号無形固定資産」は、試験研究費(research)を費用処理するとして、ほぼ米国基準に類似したものとなったが、開発費(development)については将来の販売可能性または使用可能性が確実で金額の測定に信頼性がある場合は無形固定資産とする規定になっているが、資産計上の条件は厳しい。また、資産計上しても、毎期、IAS36号「減損会計」の検討を要する。
退職給付会計
退職給与引当金を含む退職給付の会計基準の設定により、年金数理計算による退職給付債務の計上を強制。
SFAS No. 87Employers' Accounting for Pensions (Issue Date 12月/85年)
国際会計基準IAS 19号「退職給付:事業主の退職給付の会計含む(1985年1月適用)
企業会計審議会退職給付(企業年金)の会計(2001年3月期から実施)」
金融商品
金融商品(有価証券など)を低価法から時価法へ変更。
SFAS No. 115Accounting for Certain Investments in Debt and Equity Securities (Issue Date 5月/93年)
国際会計基準IAS 39号「金融商品:認識及び測定(2001年1月適用)
企業会計審議会「
金融商品の時価会計(2001年3月期から実施)」
自己株式
従前は、自己株式を資産に計上していたが、国際的には自己株式の実態は資本の払い戻しとして資本から控除している。我が国でも、商法を改正し、2002年(平成14年)4月から「資本から控除」することとなった。
2002年3月6日金融庁は、「平成14年4月1日から自己株式の処分が可能になり、(財)財務会計基準機構・企業会計基準委員会により自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準が整備されたことに伴い、それに対応し、資本の部の表示方法を会計基準に整合させること等を主な内容とする財務諸表等規則、連結財務諸表規則、中間財務諸表等規則及び中間連結財務諸表規則の改正を行うもの。」として規則を改正した。
米国APB opinion No. 6「ARB No. 43の修正(1965年10月)」, FASB Technical Bulletin No. 85-6. FASB, 1995
国際会計基準解釈指針SIC16号「自己株式(1999年7月適用):IAS32号金融商品の表示に関する実務指針」・・2003年にIAS32号に吸収され廃止。
減損会計
固定資産(有形固定資産、無形固定資産など)で資産に毀損が生じている場合、毀損部分を一時償却することを求めた。従来は、減損の時期、減損の測定が不明確であったものを明確に規定した。
SFAS No. 144 Accounting for the Impairment or Disposal of Long-Lived Assets(Issue Date 8月/01年)
国際会計基準IAS 36号「資産の減損 (Impairment of Assets)1999年7月適用」
2002年8月9日、企業会計審議会は、2005年4月以降開始する事業年度について全面適用、早期適用可、とする固定資産の減損会計の基準を公表した。

企業の合併・買収という企業そのものを取引するため、企業価値を時価で測定したい必要性が高まりつつある。企業再生、業界再編に合併・買収が不可欠で重要な手法であるなら、中長期的には、「包括利益」の議論は解決を得るまで止まらないであろう。それが、今までの欧米の会計基準に関する議論であるから・・・・

二元上場会社(Dual-Listed Company, DLC)

2001年、世界最大の鉱業会社BHPビリトン(BHP Billiton)は、オーストラリアの会社であるブロークンヒル・プロプライエタリー(BHP)と英国の会社で南アフリカで操業する会社のビリトン(Billiton)が二元上場会社(Dual-Listed Company, DLC)となることでできた会社である。

オーストラリアのBHP Billiton Limitedと英国のBHP Billiton Plcはそれぞれオーストラリア証券取引所(ASX)ロンドン証券取引所(LSE)にそれぞれ上場され、それぞれ別の株主集団をもつ。しかしながら、BHPビリトン(BHP Billiton)は同一の取締役会と単一の経営構造により単一の事業体として事業を行う。ニューヨーク証券取引所には、BHPとして米国預託株式(ADS=ADR)を上場している。

特徴は、両社の株主の権利を平等にするために均等化率(Equalisation Ratio)を設定する。これにより双方の株主の株主権行使や、配当金の分配が公平に行われるキー・ポイントとなる。DLCでは、通常、それぞれの財務諸表はそのまま引継がれ、合併による”のれん”は計上されない。株主の権利関係について両者ので複雑な契約が結ばれる。概要は財務諸表の注記に開示されている。

BHPの連結財務諸表を見ると、両社の財務諸表を合算しそれぞれの資本金が株主持分に表示されており”のれん”の計上はない。国際間に跨る合併で限られた場合には、”のれん”の計上負担がない方法として注目される。

それぞれの株式一株をセットで構成する株式の方式を Stapled stock または Twinned share と呼び、欧州の二国間でそれぞれ本部を持つ欧州企業が採用してます。例として、ユーロトンネル(Eurotunnel)があり、英国のEurotunnel PLCとフランスのEurotunnel SAのそれぞれ1株がセットでユーロトンネルの株式1単位となり、ロンドンとユーロネクスト・パリの証券取引所に上場しているケースがある。

DLCの歴史は古く、1907年のRoyal Dutch Petroleum(オランダ)とShell Transport and Trading(英国)、1930年のUnilever NV(オランダ)とUnilever PLC(英国)の創設がある。1988年のABB AB(スイス) とABB AG(スウェーデン)の創設、1989年のEurotunnel(フランス・英国)やSmithkline Beecham(英国・米国)が創設されるまでは、2社のみであった。1990年にはFORTIS(オランダ・ベルギー)と続き1990年代には合計6社が創設され、2001年に2社が創設されている。その内、6社が一つに統合されたとしている。例えば、2005年7月20日に双方を統合した単一事業法人ロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell plc: RDS.ARDS.BA株とB株」)が誕生しDLCではなくなった(SECに登録のForm 20-F・・2005年から国際会計基準(IFRS)適用・・US GAAPへの調整表を添付している)。(「裁定取引の限界・DLCからの証拠・2003年5月調べ」「裁定取引Arbitrage)」参照)

二元上場会社(DLC)として経営統合し、数年してガバナンスを強化することを理由として単一事業法人へ組織替え(unification)をする場合が多い。

行き着くところ「包括利益

1993年、米国財務報告基準審議会(FASB)は、52の投票で、SFAS 115号「特定の持分および負債証券への投資の会計(Accounting for Certain Investments in Debt and Equity Securities)(Issue Date 5月/93年)」を公表した。SECが強く公正価値会計(すべての利益と損失を利益計上する)を議論していたけれども、銀行業界が、毎年の利益が気まぐれに動くとして、騒々しく反対した。
政治的妥協は、審議会で実施された:「売買目的の証券(trading securities)」対「売却可能な証券」。両方とも、貸借対照表では公正価値であるが、「売却可能な証券」の未実現の利益および損失は、損益計算書ではなく、株主持分に置かれることとなった。

1997年、米国財務報告基準審議会(FASB)は、52の投票によって、『包括利益(Reporting Comprehensive Income(Issue Date 6月/97年))』の報告に関するSFAS 130号を公表した。これは、概念書3号が求めている「包括利益(損益計算書にまだ認識していない利益や損失を含んでいる)」をフォローアップするものである。別途の計算書か損益計算書に追加したセクションに「包括利益」を開示するかいずれの方法で開示することを提案している。産業界は、しかし、そのような利益や損失の計上を望んではおらず、第3の代替案(財務諸表の読者があまり注意深く調査しない株主持分変動計算書に情報開示する)をFASBにロビー活動で勝ち取っている。最終的な基準では、選択肢が3つあり、大部分の会社は株主持分変動計算書の「その他の包括利益」に「隠す」ことを選んでいる。

現行基準の「包括利益の開示」例
SFAS 130: Reporting Comprehensive Income
ドイツ銀行・四半期報告書・事例 米国マイクロソフト社・2003年度事例
Consolidated Statement of Comprehensive Income
連結包括利益計算書
  Three months ended
Mar 31, 2005 Mar 31, 2004
Net income 純利益 1,103 941
Other comprehensive income (loss):その他の包括利益(損失)    
Reversal of 1999/2000 credits for tax rate changes 31 23
Unrealized gains (losses) on securities available for sale:    
Unrealized net gains (losses) arising during the period,
net of tax and other
59 (413)
Net reclassification adjustment for realized net (gains) losses,
net of applicable tax and other
(97) (57)
Unrealized net gains (losses) on derivatives hedging variability
of cash flows, net of tax
(4) 16
Foreign currency translation:    
Unrealized net gains arising during the period, net of tax 378 350
Net reclassification adjustment for realized net (gains) losses,
net of tax
(1) 6
Total other comprehensive income (loss) 366 (75)
Comprehensive income 1,469 866

STOCKHOLDERS' EQUITY STATEMENTS
株主持分計算書

 

 

 

 

(In millions)

   

 

   

 

   

Year Ended June 30

2001

 

2002

 

2003

 

 

 

 

Common stock and paid-in capital

     

 

     

 

     

  Balance, beginning of year

$ 23,195 

 

$ 28,390 

 

$ 31,647 

   Common stock issued

  5,154 

 

  1,801 

 

  3,012 

   Common stock repurchased

  (394)

 

  (676)

 

  (691)

   Repurchases of put warrants

 (1,367)

 

 

 

 

   Stock option income tax benefits

  2,066 

 

  1,596 

 

  1,376 

   Other, net

  (264)

 

  536 

 

 

  Balance, end of year

 28,390 

 

 31,647 

 

 35,344 

 

 

 

 

Retained earnings

     

 

     

 

     

  Balance, beginning of year

 18,173 

 

 18,899 

 

 20,533 

   Net income 純利益

  7,346 

 

  7,829 

 

  9,993 

   Other comprehensive income:
   その他の包括利益

     

 

     

 

     

   Cumulative effect of accounting         change

  (75)

 

 

 

 

   Net gains/(losses) on derivative          instruments

  634 

 

  (91)

 

  (102)

   Net unrealized investment             gains/(losses)

  (1,460)

 

 

 

  1,243 

   Translation adjustments and other

  (39)

 

  82 

 

  116 

Comprehensive income

  6,406 

 

  7,825 

 

 11,250 

   Common stock repurchased

 (5,680)

 

  (6,191)

 

  (5,250)

   Common stock dividends

 

 

 

 

  (857)

  Balance, end of year

 18,899 

 

 20,533 

 

 25,676 

    Total stockholders' equity

$ 47,289 

 

$ 52,180 

 

$ 61,020 

 

上記の表示方法と「NTTドコモ」のように損益計算書の純利益の下に「包括利益」を表示する方法もあります。

上記、包括利益に計上される為替換算調整勘定(海外子会社の財務諸表の換算差額)、金融商品(主に証券投資)の未実現差損益等は、為替市場における時価及び証券等の時価の変動から生ずる差損益で、経営者の意思とは関係ないが、時価変動から生じた損失は会社の負担ですし、利益は会社に帰属するものです。そのために、経営者は為替リスクの回避や市場リスクの回避の責任を負っているのです。この損益を損益計算書に表示する株主持分変動計算書に表示するかは、現在、選択可能ですが、中長期的には、やがて一つに収斂されることでしょう。

一方、【イギリスでも、かつては取得原価主義が企業会計原則の中心に位置付けられていた。しかし、70年代以降、企業買収への対抗手段として資産に対する時価評価が採り入れられていった。すなわち、含み資産に着目した企業買収の動きが広がるなか、敵対的買収に対抗し、事業を継続するために、不動産資産を再評価して未実現評価益を株主持分、わが国の資本の部に計上し、自己資本を増加させる会計処理が採用された。その結果、イギリスでは、損益計算書は原価主義であるのに対して、貸借対照表は時価主義に基づいて策定される会計慣行が定着した。こうした会計慣行が体系的に整理され、92年に総認識利得損失計算書(statement of total recognised gains and losses )が主要財務諸表の一つとして位置付けられた。本計算書では、金融商品のみならず、土地・建物の固定資産や海外企業への投資などの未実現評価損益が計上され、それが純利益と合算されて総認識利得が算出される。さらに、本計算書でいったん未実現利益が計上されると、その段階で損益が確定したという判断のもと、後日、売却などによって現実に評価損益が発生しても、損益計算書の純利益に改めて計上する、いわゆるリサイクリングは認められず、今回のIASB の包括利益プロジェクトと同じ取り扱いとなっている。(日本総研「国際会計基準統合の問題点」より)】

国際会計基準審議会(IASB)は、米国、英国を含めて「包括会計」に関するプロジェクトを立ち上げ「業績報告Reporting Financial Performance (1999年)」として検討している。
このプロジェクトでは、包括利益を業績の報告とし、包括利益Comprehensive Income)を持分Equity)の増加・減少増資・減資を除いたすべての増加減少)と捉えている。したがって、現在、資本の部に表示している、海外連結子会社の外貨換算調整勘定、売却可能な有価証券の時価評価による評価損益を含んでいる。

時価会計を主体とする包括利益は、企業の恣意的な利益操作の入り込む余地を少なくし、財務諸表の信頼性を確保する。例えば、原価主義であった日本では含み利益のある有価証券を利益の出したいときに売却し利益を確保するという操作が当たり前となっている。これを、時価主義に統一すればそうした操作はできなくなる、というものである。ただし、時価会計をしても、米国のように売却したときに原価と売却価格との差額を売却損益として計上するために以前に計上した未実現損益を戻入するリサイクルを認めていては原価主義の損益計算と変わらない。そこで、IASBでは、以前に計上した未実現損失のリサイクル(recycle)を認めていない

1980年後半から急速に増え続けている合併・買収が、その企業価値の測定の必要性から時価会計の要請が強くなっているといえよう。個別会計基準が上記のように資産負債法にシフトしているのは、合併買収の現場からの要請(=有用性)が強くなっている証拠

@合併買収による時価会計の要請の高まり、A企業の恣意的な利益操作を排除して財務諸表の信頼性を高めるという命題からすると、英米の会計基準設定主体と共同作業している国際会計基準審議会(IASB)の包括利益プロジェクトの方向性は変わらないであろうが、各国の理解を得て実現するには、判りやすい表示方法、適正価値(Fair value)の適用が実務的に容易ではないなどのハードルを克服する必要がある。

一方、日本は、意識が成熟していないことに加え、証券取引法(金融庁)、商法(法務省)、税法(財務省・主税局)の縦割り行政の中にあるトライアングル体制を背景に「包括利益」ばかりでなく「国際会計基準」さえも受け入れる国家体制にない。下記の資料がそれを示している。

日本では、包括利益を業績報告とする案には、原則として、官民揃って反対している。
●2002年10月27日(月)、28日(火)、企業会計基準委員会「IASBと各国会計基準設定主体との会議
●2002年9月19日、経済産業省企業行動課「新しい業績報告書に関する調査研究(要旨)」  「本文 107ページ
●2003年10月21日、(社)日本経済団体連合会「会計基準に関する国際的協調を求める
●2004年9月:討議資料「財務会計の概念フレームワーク」by基本概念ワーキング・グループ(2004年9月)ASBJ委員会は承認していない。・・本文6項によれば、資産ー負債=純資産:純資産は、株主に帰属する資本と、その他の要素に分けられる(本文6項より)、としているが株主以外の誰に帰属するとでも言うのであろうか?債権者に帰属すのであれば「債務」ですし、少数株主持分であれば「少数株主持分」ですし、それ以外は、株主持分とするのが国際基準ですが・・・・
●2005年(平成17年)8月5日(金)、経済産業政策局企業行動課の「企業会計研究会」(経済産業政策局長の私的研究会、座長:安藤英義一橋大学商学研究科教授)において、中間報告書(案)が取りまとめられました。9月4日までコメントを求めています。経済産業省が、日本企業に不利な日本の企業結合の会計基準(のれんの償却を強制)を支持するのは不思議。経済産業省によれば「我が国企業結合会計基準の妥当性を引き続き官民協力して欧米に主張し、コンバージェンスしていくことが急務であり、ASBJをはじめ、経済界や政府等の関係者が協力して働きかけていくことが必要であることを提言しております」そうです。 企業会計研究会中間報告書(案)に対するパブリックコメント募集結果(2005年9月6日)  パブリックコメント(2005年9月6日) 参照
経済産業省の対応は、日本企業の不利な現状を放置して2005年6月には米国FASB・国際会計基準IASBが統一基準(案)を公表し、国際的にますます巨大化する企業の合併買収に日本基準が受け入れられる可能性は極めて低い現状を見れば無責任な対応といえよう。2005年1月に、企業会計基準委員会(ASBJ)と国際会計基準審議会(IASB)との共同プロジェクトでも、「最近開発した基準(企業結合の会計基準は2007年3月適用)は、当面の検討から除かれる」ことになっており、どこで提言するというのか(ASBJのプレスリリース 参照)。耐用年数20年の根拠を理論的に説得できない限り日本の主張は通らないことは明らか。今や会計はドンブリ勘定的思考を許さない時代になっているのだから・・・

●週刊経営財務2009年8月3日号で、斎藤静樹ASBJ前委員長、西川ASBJ委員長の「“サプライズ!”対談「コンバージェンスのあり方と会計基準(設定主体)の将来」 では、相互持ち合い株が投資目的であると包括利益(OCI)に含めることができるという国際会計基準(草案)について、両者は、「新旧の委員長は、リサイクルをしないという点を特に問題視しています。これは損益計算書のボトムラインである「純利益」を重視しているからでしょう。評価損益をその他包括利益に(一時的に)もっていくこと自体には反対していないようです。」 両者は自己矛盾に気づいてないようだ。すべての包括利益も利益計上にすべきなのだ。国際的な議論は複雑化した基準を簡素化するためにすべて利益に表示することを議論しているのだ。経団連に頼りにされる両先生は応えるべきと奮闘している。中立であるべき立場の人が密着し過ぎだ。

IASB理事にインタビュー−2004年3月3日

日本の会計風土は素晴らしいものがあるとは思うが,ほとんどの事柄に同意せず,そしてそれは他国が納得する意見ではない。われわれは日本の意見すべてに耳を傾け,理解しているが,同意はできない(例えば,IASBは「包括利益」の導入を目指しているが,日本は当期利益の考え方がなくなり,実態がわかりにくくなるとして,反対意見を表明している。「包括利益」とは貸借対照表を原則時価評価して,有価証券などの評価損益を毎期の利益に反映させる方法)。

                                       ジェトロ・ブリュッセル・センター EUトピックスNo38 2004年3月3日より

参考:
日本銀行金融研究所近暁氏包括利益の報告について(1998年12月)・・当期業績主義⇒包括主義⇒包括利益について
F Murakami公認会計士著「包括利益とは」 AICPAの「会社は如何にして利益を報告するか
大和総研「当期純利益は廃止されるのか?・・IASBの包括利益プロジェクト」(2004年12月13日)
辻山栄子早稲田大学教授著「会計基準のあり方」「国際社会における会計基準の二つの潮流
西川 郁生(企業会計基準委員会).2006年12月「わが国の会計基準と国際的コンバージェンス
東大斎藤学派・・この学派の特徴である「所得」の側面から会計を再構成する。


国際会計基準審議会が”業績報告(Performance Reporting)”

2006年3月16日、国際会計基準審議会は、財務諸表の表示に関する会計基準IAS1号の改定草案を公表し、7月17日までにコメントを求めている。草案は、米国の会計基準と一致している、としている。なお、公開草案は企業会計基準委員会翻訳を公表しているので参照してください。

2007年9月6日,IAS1号改正「財務諸表の表示」を公表した。主な、内容は次の通りである。

包括利益計算書(statement of comprehensive income)が導入された。すべての非株主持分の(第三者間取引の)変動を包括利益計算書として一つに表示する。損益計算の次に包括利益の計算を表示することも可。したがって、包括利益は株主持分変動計算書には表示されない。

日本の損益計算は、「所得」=「業績」として狭く考えるが、国際基準は非株主持分(第三者持分)の変動が包括利益と考える。国際基準は、換言すれば、期首の純資産と期末の純資産の増減が包括利益であるとするもの。これにより、第三者持分と株主持分の区分が読者に明確になるとしている。

包括利益に対する税金と、包括利益の組替え(reclassification)修正について注記による開示が求められる。

改正基準は、財務諸表の名称は以下のとおりである。
(a) 財政状態計算書( statement of financial position ) ( 従来の「貸借対照表」(balance sheet))
(b) 包括利益計算書(statement of comprehensive income)(または、損益計算書と包括利益計算書を区分する方式を選択できる)
(c) 持分変動計算書(statement of changes in equity)
(d) キャッシュ・フロー計算書(statement of cash flows)(従来の「キャッシュ・フロー計算書」(cash flow statement))
審議会は、名称の変更を強制していない。

なお、包括利益には、次の項目が含まれる。
・再評価益(IAS16号「有形固定資産」およびIAS38号「無形固定資産」
・確定給付年金の年金数理差異(IAS19号「事業主の退職給付の会計」の93A項)
・海外子会社の財務諸表の換算調整から生ずる差損益(IAS21号「外国為替の変動の影響」)
・売却可能な金融商品の再評価差損益(IAS39号「金融商品:認識および測定」)
・キャッシュフロー・ヘッジにおけるヘッジ商品の損益(IAS39号「金融商品:認識および測定」)

以上がフェーズAの改正点である。


フェーズBでは、認識した利益および費用の計算書(Statement of Recognised Income and Expense)は、株主持分以外の資産・負債の当期変動(包括利益を含めた)を表示するとしている。要請している表示方法は;

Proposed Format for the Statement of Comprehensive Income (IAS PLUS の「業績報告」より)

  Column 1
Total 合計 (Columns 2 + 3)
Column 2
Income and Expenses Other than Remeasurements
測定し直さない利益および
費用
Column 3
Income and Expenses Resulting from Revisions to Prior Expectations about Future Periods (Remeasurements)

以前の見積りの修正から生じた利益および費用
Operations
継続事業
xxx xxx xxx
Financing and Investing Activities
金融および投資活動
xxx xxx xxx
Income Taxes
法人所得税
xxx xxx xxx
Discontinuing Operations
廃止事業
xxx xxx xxx
Net Income or Comprehensive Income
純利益または包括利益
xxx xxx xxx

日本の対応が注目される。(貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(2005年12月9日by企業会計基準委員会)とは、全く異なった考え方である。 資本の部から純資産の部へ・・ますます国際基準に乖離する日本の会計基準 参照

フジテレビがライブドアの株式を購入したため有価証券評価損(有価証券評価差額)が発生したが、上記の国際会計基準の草案によれば損益計算書に計上することが求められる。日本はそれでも包括利益を損益計算書に計上することに反対か・・・・
経済産業省企業行動課「新しい業績報告書に関する調査研究(要旨)」 (社)日本経済団体連合会「会計基準に関する国際的協調を求める」「金融商品の会計基準の概要」参照

フジテレビ、ライブドア株の含み損で賠償請求へ
フジは昨年(2005年)5月、ニッポン放送の経営権を巡る和解の一環でライブドアの第三者割当増資440億円分を1株329円で引き受けた。株価が78円まで下落した3月9日時点での含み損は335億7000万円に達し、2006年3月期決算での多額の株式評価損の計上が避けられなくなっている。

英語のResult of operations またはPerformance reportは”企業業績”と同じ意味か?

国際会計基準は、営利企業ばかりでなく非営利事業体を含む会計基準を設定している。その証拠に、@非営利団体である国際会計基準委員会自身の年次報告書は、国際会計基準に準拠して作成している、A損益計算書の内容は直訳すると「事業活動の結果(result of operations)」や「活動報告(performance report)」と言っており活動の実態報告の意味を持っており、日本語の「経営成績または企業業績=当期純利益」という意味と必ずしも一致していない。日本では「企業会計」といい、営利企業でかつ証券取引法の上場会社に限って企業会計原則を設定しており国際基準とは全く違った視点から会計を見ているのです。

ちなみに、「損益計算書」の表示要件は国際会計基準1号に記述があるが企業業績とは一言も述べてはいない。(国際会計基準1号「損益計算書の表示」参照)

そもそも、日本では損益計算書と画一的に呼称するが、英語の「Profit and Loss Statement (P/L)」は古い言い方で現在では正式な計算書の用語として使用している企業は少なく、利益が出ている場合は「Income Statement」または「Statement of Earnings」 などと言い、損失が出た場合は「Statement of Operations(事業活動計算書)」と呼称を変えることになっている。ちなみに、非営利団体の国際会計基準委員会財団(IASBF)の「年次報告書」では「Statement of Activities 活動計算書」と呼称して、寄付金収入、出版及び関連収入や使用した経費を差引、その結果を純資産の増減((DECREASE)/INCREASE IN NET ASSETS)を表示している。

国際基準は、法的形式より企業の実態(substance over form)を表示するために会計基準を開発(develop)しており、リース会計、年金会計、税効果会計、キャッシュ・フロー計算書、外貨建換算の会計など、現在の姿になるまでは多くの反対の中で、何度も改正して完成度を高めてきている。損益計算書の呼称も例外ではなく、実態を表現する呼称を使用している。新たな会計基準の開発は、画一的で法形式(legal form)を重視する日本の会計に馴染んだ人々には受け容れ難いものと写るはずだ。そのため、国際会計基準委員会(IASB)の理事からは日本に対して下記の声が聞こえてくる。

IASB理事にインタビュー−2004年3月3日
日本の会計風土は素晴らしいものがあるとは思うが,ほとんどの事柄に同意せず,そしてそれは他国が納得する意見ではない。われわれは日本の意見すべてに耳を傾け,理解しているが,同意はできない(例えば,IASBは「包括利益」の導入を目指しているが,日本は当期利益の考え方がなくなり,実態がわかりにくくなるとして,反対意見を表明している。「包括利益」とは貸借対照表を原則時価評価して,有価証券などの評価損益を毎期の利益に反映させる方法)。
                                       ジェトロ・ブリュッセル・センター EUトピックスNo38 2004年3月3日より

EUが統合する前には、日本はドイツ・フランスと伴にIASBの理事会で常に反対していた。EUが統合し、IFRSを採用する方針が明らかになると、ドイツ・フランスは合意する側にまわり、日本だけが反対し続けている。その典型がIFRS3号「企業結合の会計」に対する反対意見で、基準書IFRS3号の最後に審議経過の記載に日本だけが反対した旨記述されている。上記”日本は、ほとんどの事柄に同意せず”は、日本公認会計士協会の機関紙である会計ジャーナル(現「会計・監査ジャーナル」)の国際会計基準委員会理事会報告の「反対した」旨の記述と一致している。

日本側の主張は、国際会計基準委員会との議論と噛み合っておらず同じ土俵で議論しているようには見えない。(「東大斎藤学派」「業績報告」「2001年12月12日、国際会計基準審議会 (IASB) のDavid Tweedie議長とパネルディスカッション」参照)

ちなみに、行政の一部を担う独立行政法人の会計基準(総務省と財務省の合作)では、行政コスト計算書または業務費用計算書が相応しいが、国からの予算を運営費交付金として受領した独立行政法人が収入として計上する「損益計算書」の作成を求めているがこれは究極の失敗。予算の配分がなぜ収入か検討不足。省庁別財務書類では予算の配分は財源となっている。これが正しい。加えて、負債に「資産見返り」という負債としての性格が明らかでないものを計上している。これは会計ではなく簿記の世界。

当期業績主義の残滓「特別損益」が残る日本の会計

かつて、昭和24年の証券取引法にかかる会計基準では「当期業績主義(current operating performance concept (COPC))」による当期純利益を損益計算書に計上し、当期業績に関係しない「前期損益修正損益」や過去の減価償却の過不足として「固定資産売却損益」は直接利益剰余金に計上することとしていた。一方、商法決算は、すべての損益項目を損益計算書へ計上する「包括主義(all-inclusive concept)」を採用していた。

その後、商法と証券取引法の調整が図られ証券取引法も「包括主義」が採用され、商法と証券取引法の純利利益は一致することとなった。前期損益修正損益や固定資産売却損益は、「経常損益」後に「特別損益」として表示することとなり現在に至っている。

包括利益は、海外子会社の本国通貨への換算差損益や、金融商品の時価評価による評価損益を当期損益に含めるかどうかの議論であるが、為替にしても、時価評価の損益は、巨額な損失は企業にリスクが発生し将来実現する可能性が高い。外貨建ての債権・債務(海外子会社を含む)を保有する限り為替リスクは存在し続け、時価の有価証券を保有する限り市場価格の下落リスクは持ち続け(リスクからの解放はない)、こうした企業を取り巻くリスクを回避する責任は経営者にあり、為替差損益や有価証券評価損益ないし売却損益は業績の一部を構成することは間違いない。かつての「当期業績主義」から「包括主義」へ「包括主義(all-inclusive (comprehensive) concept)」から「包括利益(comprehensive income)」へ議論が推移するのは時代の変化に伴い会計もキャッチアップする必要があるのだ。

まず、日本は国際基準に例を見ないし、区分が曖昧で有効に機能していない「経常損益」や「特別損益」を廃止し、国際基準の包括主義の利益計算の会計に切り替えるべきである。「業績」を狭く考える当期業績主義の残滓が残る日本にとっては、包括利益の国際的な議論は時期尚早なのである

参考:
日本銀行金融研究所近暁氏包括利益の報告について(1998年12月)・・当期業績主義⇒包括主義⇒包括利益について
F Murakami公認会計士著「包括利益とは」 AICPAの「会社は如何にして利益を報告するか

2006年12月28日企業会計基準委員会公表:討議資料『財務会計の概念フレームワーク』純利益を「リスクから解放された投資の成果」と定義しているが、外貨建ての債権・債務(海外子会社を含む)を保有する限り為替リスクは存在し続け、時価の有価証券を保有する限り市場価格の下落リスクは持ち続けリスクからの解放はないので純利益の測定は出来ないということになる。国内的にも国際的にも理解し難い。

年の瀬に迫った2009年12月25日、企業会計基準委員会(ASBJ)は「包括利益の表示に関する会計基準(案)」を公表することで、2011年3月期より包括利益を表示し国際会計基準と一致させるコンバージェンス案を提案した。

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