投資家の視点に欠ける日本の会計

日本に欠けた投資家の視点に立った会計基準

● 投資家保護は、適時・適切に質の高い情報開示をいう。商品(株等)の品質保証はしない。

金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告
  企業の情報開示に決して会計基準の文字を使わない金融庁の不思議
  上記報告は、官による官のための企業の情報開示の仕組みをよく表しています。
  2019年前半を目途として3年先の話です。いつまで待たせるのでしょう。ほとんどやる気なし。
   日本の会計が置かれている状況が、いかに異常か知る材料となっている。
   縦割り行政には自分の所管からの視野しかなく全く動こうとしない。政治も機能しない。

 金融商品取引法の会計の位置づけは第193条の「雑則」なのだ
   第百九十三条  この法律の規定により提出される貸借対照表、損益計算書その他の財務
     計算に関する書類は、内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従つて
     内閣府令で定める用語、様式及び作成方法
により、これを作成しなければならない。

 連結決算に、連結財務諸表原則連結財務諸表の会計基準
   連結財務諸表規則が重複して原則、基準、規則がある。 何とかして!

● 東芝の不適切会計は金融庁の開示ルールが生んだ日本特有の事件
  金融庁は「開示検査」をしていなかったことを露呈した
  開示検査課を新設したのは2011年7月・・遅すぎる。
  監視委が活性化 開示検査はどうなんですか・・摘発しか考えていない
  金融庁は投資者の保護ができたのか?
  有価証券報告書等の開示検査について・・東芝のケースで学ぶ
   ◎内部告発の奨励→不正発見→摘発→処分は当局の姿勢 、結果は会計士の数米国の10分の1以下
    大手監査法人の寡占(競争は制限)の中、資本市場の守り手の会計士は当局の姿勢に敬遠されている
    当局の開示検査がpublic watchdogとして有効に機能すれば(現在は具体的な検査内容が伏せられており
    不透明のため分からず)、不正・誤謬の未然の防止に効果的で投資家保護になる

● 
有価証券報告書のレビューの実態はアンケート調査・・会計基準のenforcementになっていない
  オリンパスは、米国のように実体のあるレビューで粉飾の端緒を掴めた可能性あり
  ・東芝も、金融庁が認めた米国会計基準を開示検査していれば未然に防げたはずだ!
上場会社の開示資料ツールは、プロネクサスか宝印刷のみ・・寡占状況にあり、財務官僚を迎えている
  前年度の原稿をたたき台に作成するので、経理がリビューする人が限られるのが普通。 
  限られた人がリビューするので硬直化してマンネリ化する恐れがある。目に触れるのが限られた人になる。
  宝印刷かプロネクサスかの確認方法(招集通知編)  EDINETで検証

@
 比較財務諸表の会計基準
   
会社法が直前三事業年度の財産及び損益の状況の開示を求めた2006年5月施行会社法
   
四半期報告書の初年度は単年度で比較財務諸表となっていない(2008年4月より)

@-1 財務諸表の注記は、規制当局が決めた方法で日本独特、国際基準のような読み易さ
     はない。
    
始まった四半期報告書の注記も読み難い。(2008年4月より)
    
オリンパスの注記は投資判断の役に立たない。
    
シャープの日本基準の債務情報や財務制限条項は不透明で具体性がなく投資者(鴻海)の役に立たない
     
財務諸表の注記になく4事業等のリスクに財務制限条項がある旨だけの記載では判断できない

@−2 連結財務諸表だけでなく単独財務諸表も重複開示。
      開示の重複は、投資家をミスリードする。

A 誤謬の訂正・会計方針の変更などで、過年度財務諸表を遡及して修正表示する会計基準
   会社法が過年度財務情報の遡及修正を認める
2006年5月施行会社法
   
企業会計基準委員会が2007年3月から議論開始、2007年中は論点整理・・のんびり議論
    2008年6月20日に検討状況の整理を公表
    ・・・いつ会計基準になるか不明

   2009年4月10日「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)
   
2009年12月4日「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準
   
日本は2011年(平成23年)4月1日以降開始する事業年度から適用
   
2011年9月の第二四半期でオリンパスが初めて適用か(12月14日までに提出しないと上場廃止)
   
中国では2001年1月から適用

B 営業譲渡・会社分割などで廃止(非継続)事業と継続事業とを区分表示する会計基準
   ・NECの米国基準による非継続事業の区分表示の例がある(
2006年6月22日遡及修正版)
   ・
三洋電機が子会社・三洋クレジットを譲渡して2006年および2005年度について区分表示
     している。米国基準のFSの注記4に簡潔に説明している。(2007年年次報告書

   ・
三洋電機が携帯事業を京セラに売却し非継続事業として開示(2008年年次報告書注記4参照)
    ・日本では会計基準の設定の議論さえない。(2010年に議論し基準設定するそうです)


C すべての損益を業績表示する包括利益の会計基準
   
日本の対応・・金融庁、経済産業省、経団連、企業会計審議会、企業会計基準委員会、
   
米国会計基準SFAS157号「公正価値測定」を公表(2006年9月18日)、公正価値を売価と定義
   
SECとFASBが市場性が無いものの公正価値に共同でガイダンスを公表(SEC時価会計のニュース)

D 国際基準および米国は、会計基準設定経緯が広く公開され意見を求めている。
  
日本の場合は公開されず殆ど判らない。 欧州からの要請2006年10月初めて公開

E 国際会計基準へのコンバージェンスで小出しの改正が期間比較を歪めミスリードの恐れ。

F 日航で露呈した巨額簿外負債は、日本の会計基準が企業の実態を表示しえないことを露呈

G 日本の会計基準として纏まったもの(current text)がない。

H EDINET版有価証券報告書の"初期表示"は目次が抜かれページがない、一括印刷できない、リンクが張れないの三重苦

I 外国会社、例えば、IFRS適用のダイムラー社の"初期表示"の財務諸表には注記が表示されない。

投資家保護は、適時・適切な情報開示

投資家保護のミッション(使命)を担当する行政府は、日本は金融庁、米国は証券取引委員会(SEC)であり、米国SECでは、ミッションとして「投資家保護」を掲げ、投資家保護は情報の適時・適切な提供という内容を明示しているが、金融庁は投資家保護の肝心な内容が明示にされていません金融庁及び証券取引等監視委員会投資家保護の具体的内容を明示してこなかったことが、規制当局に肝心のミッション(使命)である投資家保護の視点に欠けていることを証明しているのである。ミッションを明らかにできていなければミッションを達成することはない。日本が情報開示に遅れた原因がそこにある。

つまり、通常の商品は、品質保証をすることで商品に欠陥があれば良品に取り換えるなり返品するなりでき安心して取引ができますが、証券取引の分野では、投資判断の結果を投資家に帰属させる自己責任の原則が妥当し、金融商品取引法(旧・証券取引法)は、商品(株等)の品質(価値)を保証しません品質を判断するための情報のみを投資家に与えて市場取引により価格を決定することが、資源の効率的配分のために必要だからです。(黒沼悦郎教授の「金融商品取引法入門」参照)

つまり、金融商品取引法や証券取引法は、当該株式などの品質保証をするのではなく、適時・適切な情報開示を行うことで投資家の投資判断を容易にすることを目指しているのだ。

しかしながら、金融商品取引法を企画立案した金融庁の担当官の理解は規制という視点から見ているようだ。(金融庁松尾直彦氏の解説 金融庁松尾直彦氏によるCESRへの文書 松尾直彦弁護士 参照)

2004年12月当時、金融庁の担当官は、日本政府等の「日本の会計基準を引き続き認めなければ、日本企業の欧州市場からの撤退の仄めかし」、当初はWarn(警告)として、後にThreat(脅迫・脅し)の表現で英文ニュース(欧米・アジアの)に報道されている。
Naohiko Matsuo, director for international financial markets at Japan's Financial Service Agency, said: 'Companies are saying they would not change to international accounting standards because of the cost ... they would have to start checking through lots of little chits from the past.''Companies really dislike the whole idea ... if Japanese standards are rejected, there is a real possibility that some will pull their stock listings,' an investment banker at a US bank in Tokyo.
The FT pinpointed a direct threat to the London Stock Exchange where companies such as Fujitsu, All Nippon Airways and Kirin Brewery are listed.

国際会計基準の「財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク」に財務諸表の目的には次のように規定している。

パラグラフ12 財務諸表の目的は、広範な利用者が経済的意思決定を行うに当たり、企業の財政状態、業績及び財政状態の変動に関する有用な情報を提供することにある
13 この目的のために作成される財務諸表は、ほとんどの利用者の共通の要求を満たすものである。しかし、財務諸表は主として過去の事象の財務的影響を表示し、必ずしも非財務的情報を提供するとは限らないため、財務諸表は、利用者が経済的意思決定を行うために必要とするすべての情報を提供するものではない。
14 財務諸表はまた、経営者の受託責任(stewardship)又は経営者に委ねられた資源に対する会計責任(accountability)の結果を表示する。経営者の受託責任又は会計責任を評価したいと望む利用者(パラグラフ9から11に示された投資者、従業員、貸付者、仕入先およびその他の取引業者、得意先、政府及び監督官庁、一般大衆)は、経済的意思決定を行うために、利用者それぞれの立場から評価を行う。

パラグラフ9には、下記の利用者ごとの必要な情報を例示として列挙している。
(a)投資者は、購入、保有又は売却すべきか否かの意思決定に役立つ情報を必要とし、また、株主は企業の配当支払い能力を評価できる情報に関心を持ち、
(b)従業員は、雇用の安定性及び収益性に関する情報に関心を有し、報酬、退職給付及び雇用機会を提供する企業能力を評価できる情報に関心を持つ、
(c)貸付者は、貸付金の利息が期日に支払われるかどうかの判断を可能にする情報に関心をもつ、
(d)仕入先及びその他の取引業者は、支払われるべき金額が期日に支払われるかどうかの判断を可能にする情報に関心をもつ、
(e)得意先は、特に当該企業に長期間関わっているか又は依存している場合に、企業の存続に関する情報に関心をもつ、
(f)政府及び監督官庁は、資源の配分、したがって、企業活動に関心を持つ。監督官庁は、企業活動の規制及び課税政策の決定のために、国民所得統計及び類似する統計の基礎として情報を要求する。
(g)一般大衆・・企業は様々な方法で一般大衆に影響を及ぼす。例えば、企業は、雇用する従業員数及び地域の仕入先の活用を含めて、様々な方法で地域経済に多大な貢献をするであろう。財務諸表は、当該企業の繁栄とその事業活動の範囲における動向及び最近の発展に関する情報を提供することによって一般大衆の役に立つであろう。

パラグラフ10では、財務諸表は、これらの利用者の情報要求をすべて満たすことはできない。しかし、すべての利用者に共通する情報要求がある。投資者は、企業のリスク資本の提供者であるので、投資者の要求を満たす財務諸表を提供することによって、財務諸表が満たすことができるその他の利用者の大部分の要求を満足させることになるであろう。

なお、国際会計基準も米国基準も財務諸表の利用者は上記のように投資者以外も含まれ、非上場企業も対象としている。会社を紹介するのに日本は会社案内を作成するが、欧米では財務諸表を含む年次報告書(Annual Report)を上記利用者に提供するため広範な利用が予定されている。

一方、日本は、企業会計基準委員会金融庁が所管するため投資者に対する上場会社の財務諸表(有価証券報告書、四半期報告書)に限定される。日本の有価証券報告書は、役所への提出書類としての機能しかなく、欧米のように事業活動の過程で広範な利用者に利用されることはない。現在では、EDINETで電子開示用にしか作成されず(役所提出用の機能は変わらない)紙ベースで配布できるようになっていない。(「日本の制度」参照)

なお、財務諸表作成者、読者である投資家、財務諸表の監査人など関係者は、簡潔で分かりやすいプリンシプル・ベースの、高品質で単一の包括的グローバルな会計基準(a single set of high-quality, comprehensive global accounting standards)を求めている。

2009年12月17日、「IFRS導入の立役者逝く」と題して「三井物産副社長、日銀審議委員を務めた財務マンが死去した。福間年勝氏は、会計基準の国際化の重要性を早くから認識。日本へのIFRS(国際会計基準)の導入に大きく貢献した 」として、磯山友幸氏(現日経ビジネス副編集長で「国際会計基準戦争」の著者)が氏の追悼文を書いている。”「会計基準のグローバル化とわが国の責務」by福間年勝(2000年5月に国際会計基準委員会の評議委員に選任された時の文章)” 合掌

日本の会計基準設定の背景:

証券取引所に株式等を上場している企業の情報開示は証券取引法に基づき、行政、古くは大蔵省、現在は金融庁が作成してきた。財務諸表の作成基準(会計基準)の設定の主要メンバーは、官僚・会計学者・企業(大企業を代表する経団連)・会計士であるが、設定してきた会計基準は一貫して、投資家不在の行政および財務諸表作成者である企業寄りのものである。日本の会計基準には「企業に負担を掛けない」という配慮が随所に見られる。官財の視点で企業寄りの一方的なもので、企業が受けている証券市場への上場の恩恵ないし便益を考慮していない場合が多い。端的に言えば、国際的に認知された会計基準をいつまでも導入しないことに現れている。【企業会計審議会(大蔵省時代金融庁時代(2000年7月以降))、企業会計基準委員会(2001年7月以降) 参照】(企業会計基準委員会の法的位置づけは不明・不透明である(「2004年11月29日企業会計審議会での西川ASBJ副委員長および池田金融庁企業開示参事官の発言(28ページ〜29ページ参照)」より)。

戦後日本の産業政策の特徴である「官」と「民」が協調する閉鎖的で不透明なシステムが会計基準設定の背景にあり、業界調整型の会計基準(例:骨抜きのリース会計、選択可能な工事契約(国際基準は工事進行基準)など)があり、今尚投資家に配慮した改革はされていない。)

換言すれば、欧米の会計基準(国際基準)が、投資家が投資判断をし易いように、読み易い、理解し易い財務諸表の開発(Development)のために弛まず国際会計基準を設定してきた。(会計の基本的枠組み「財務諸表のrelevance(目的適合性), reliability(信頼性), comparability(比較可能性), understandability(理解可能性)」「財務会計概念書(SFAC)基礎概念」参照→2006年7月6日公表の米国FASBおよび国際基準のIASBの共同作業による「改正版(草案)」では、reliability(信頼性)に代り、Faithful Representation(忠実な表現)とし、内容は、確実性(Certainty)・正確性(Precision)を意味し、Verifiability(検証可能性)、Neutrality(中立性)、Completeness(完全性・網羅性)の3つの構成要素からなるとして、より具体的内容となっている。例えば、<S10. Neutrality is the absence of bias intended to attain a predetermined result or to induce a particular behavior. Neutrality is an essential aspect of faithful representation because biased financial reporting information cannot faithfully represent economic phenomena.>

国際基準に従って作成された欧米の財務諸表を含む年次報告書(Annual report)は、株主(株主総会用)・債権者、取引先、証券監督機構等に配布され実際に利用されている。

日本は、上場会社の財務情報(有価証券報告書および四半期報告書)は投資家(株主)に直接送付されないことから、投資家が無視される制度的構造となっているのとは対照的である。(「これが日本の会計だ」参照)

日本で有価証券報告書が実務で利用されているケースは見たことがない。おそらく日本の個人株主の多くは制度的な理由で有価証券報告書とは無縁であろう。
有価証券報告書は、金融庁が作成した内閣府令に従って財務局の審査を経て株主ではなく内閣総理大臣へ提出をし金融庁のEDINETで開示する「官による官のための開示制度」となっている。

日本は、旧大蔵省の役人が、戦後間もない頃、様式を決め金融庁が引継ぎ表示様式を決めている。一度決めたら変えない役人の表示様式が、常に改善し意義を高めようとする専門家の設定したIAS1号の表示様式と一致するはずがない。
事例として、下記の財務諸表を見ていただきたい。
有価証券報告書の表示 
国際会計基準による表示

長期信用銀行、山一證券、そごう、カネボウなど有名企業の破綻、メーカーの中国生産へのシフト、ソフトバンク、楽天、ヤフーなどのIT産業の勃興の一方、ライブドアの凋落など企業の浮き沈みはめまぐるしい。冷戦の終結後、中国を初めとする新興国(インド、ロシア、ブラジルなど)の急速な発展、日本企業のそうした国への進出。欧州(EU)では通貨統合され2005年から国際会計基準(IFRS/IAS)を適用。こうした経済のグローバル化を背景に、企業の提供する財務情報は、より判り易いものが求められている。財務情報の作成基準である会計基準は、国際基準では、完成度を高くするため弛まぬ努力が積み重ねられている。

資本市場の企画・立案する金融庁は投資家に自己責任を求める。資本市場が健全に機能するためには、企業の情報が分かり易く、明瞭でなければならない。企業が提供する情報が透明性が高く投資家が判断し易くなっていなければ「自己責任」は問えない。日本は、会計基準などの完成度は低く、透明性が高く理解し易い情報開示となっているとはいえない。

欧米のように、会計基準の完成度を高めるのを健全な資本市場を形成するために必要なコストと考えるのか、日本のように企業のコスト負担を減少しようと透明性を低くすること(市場の健全性を損なうこと)が投資家保護の目的に叶っているといえるのか自明の理であろう。

投資家が、理解し易く、読み易い財務諸表は、次の国際会計基準を導入することでより可能となるが、日本では導入されていない。

@ 比較財務諸表の会計基準
@-1 財務諸表の注記は、規制当局が決めた方法で日本独特、国際基準のような読み易さはない。
@−2 連結だけでなく単独財務諸表も開示。開示の重複は、投資家をミスリードする。
A 誤謬の訂正・会計方針の変更などで、過年度財務諸表を遡及して修正表示する会計基準
B 重要な営業譲渡・会社分割などで廃止(非継続)事業と継続事業とを区分表示する会計基準
C すべての損益を業績表示する包括利益の会計基準
D 国際基準および米国は、会計基準設定経緯が広く公開され意見を求めている。
E
 国際会計基準へのコンバージェンスで小出しの改正が期間比較を歪めミスリードの恐れ。
F 日航で露呈した巨額簿外負債は、日本の会計基準が企業の実態を表示しえないことを露呈
G 日本の会計基準として纏まったものがない。
H EDINET版有価証券報告書の"初期表示"はページがない、一括印刷できない、リンクが張れないの三重苦
I 外国会社、例えば、IFRS適用のダイムラー社の”初期表示”の財務諸表には注記が表示されない。

@ 比較財務諸表の会計基準

例えば、資産、負債、純資産(資本)、売上高、売上総利益、販売費および一般管理費、営業利益、営業外損益、純利益が前年度と比較表示されることで、読者に、業績はよくなっているのか悪くなっているのか・財政状態はよくなっているのか悪くなっているのかが分かり、より有用な情報を提供できる。そのため、国際会計基準1号「財務諸表の表示」には複数年度の比較情報(Comparative information、IAS1号パラグラフ38)の開示を求めている。日本にはこの比較情報に関する会計基準は無く、会社法は単年度表示となっている。証券取引法の省令で有価証券報告書は比較情報となっているが、金融庁が決めた連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則連結財務諸表規則)の付則に記載の様式(連結財務諸表の様式(様式第四号)・・2期比較様式により作成するもので国際基準の表示方法とは異なる。(個別財務諸表も同様に、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則財務諸表規則)・・2期比較様式の付則に記載の個別財務諸表の様式(様式第二号)を使用して作成する)

連結財務諸表規則は単年度のみの規定となっており、比較財務諸表を明文をもって求めていない。(第3条参照)

日本の現状では、監査報告書が単年度で公表されているように、単年度財務諸表を2期並べて、二つの監査報告書が添付される。これは、国際基準の比較財務諸表に一つの監査報告書が添付されるのと異なる。現在、国際基準に合せるために「誤謬の訂正」などの会計基準を導入することが検討されている。この基準が導入されると過年度の財務諸表を修正して再表示するこになる。この場合、前年度の監査報告書の問題が生ずる。国際基準であれば、比較財務諸表に一つの監査報告書が添付されるため問題は生じない。日本には比較財務諸表に対する監査報告基準はない。(EDINETの監査報告書 参照)

四半期報告書の初年度は単年度で比較財務諸表となっていない:
2008年4月より初めての四半期報告書と、EDINETへの初めてのXBRLの義務化がどうなったのか見てみると、かなり閲覧し難い。投資家の利便性は遥か遠い。比較財務諸表の会計基準が日本にはないため、適用初年度のみの開示となっている。そのため、業績・財政状態・キャッシュフロー等の趨勢(トレンド)が判らない。読み手に不親切である。国際基準では適用初年度であっても会計基準が比較財務諸表の開示を求めているため前年度との比較で開示することになっている。

日本でも、国の財務諸表を作成すべく、財務省・財政制度等審議会は、2004年6月17日、「省庁別財務書類の作成基準」を作成し、この基準に基づき、2005年9月26日、財務省は、「平成15年度の国の財務書類」を公表した。この作成基準は、日本で始めて比較財務諸表を求める内容である(残念ながら注記は比較情報になっていない)。財務諸表の比較表示は、有価証券報告書より国際的な表示に近いといえる。比較情報の開示の考え方は、公会計が先行した。

@-1 財務諸表の注記は、規制当局が決めた方法で日本独特、国際基準のような読み易さはない。

日本の財務諸表の注記は、次の点で国際基準と異なっている。

(1)   国際会計基準では、貸借対照表の注記と損益計算書の注記に分けて開示することはない。貸借対照表の注記と損益計算書の注記を分けて開示する方法は、日本特有の開示方法である。もともと会計では損益計算書と貸借対照表は、資産の増加と収益計上、費用の計上と負債の増加または資産の減少というように、有機的に一体であって分けることは出来ない。したがって国際会計基準では区分して開示することはない。

(2)   国際会計基準では、附属明細表supplementary schedule)という財務諸表はない。国際会計基準が勘定または項目の内容を開示することを求めている場合は、注記で開示することになっているので、附属明細表の概念はない。昭和24年(1949年)に設定された企業会計原則に”財務諸表付属明細表”が財務諸表の体系として示されているが、金融庁が考える財務諸表の体系は、昭和24年当時のままとなっている。そろそろ国際基準に収斂してもよさそうなものである。

(3)   有価証券報告書の注記のように、単年度ごとに注記する方法は国際会計基準にはない。国際会計基準IAS1号「財務諸表の表示」では、注記で開示が求められている勘定ごと項目ごとに期間比較して注記することになっている。なお、驚くことに、日本には、国際会計基準IAS1号「財務諸表の表示」のような、期間比較の会計基準がない。有価証券報告書は、金融庁の府令により単年度財務諸表を二期表示しているに過ぎない。これは、国際基準の期間比較表示の会計基準ではない。その証拠は、有価証券報告書の財務諸表の注記によく現れている。加えて、監査人の監査報告書は単年度のみの監査報告書となっている。国際基準では比較財務諸表に監査報告書が提出される。

会社法が、直前三事業年度の財産及び損益の状況の開示を求めた

2006年5月施行の、会社法施行規則120条1項6号で、公開会社の事業報告書では「直前三事業年度の財産及び損益の状況」の開示することが求められた。過年度事項の提供会社計算規則161条3項)ができる、としている。

会社法施行規則で突然「直前三事業年度の財産及び損益の状況」の開示を求めているが、証券取引法が2期開示で会社法の方が1期多い、まして、日本には「比較情報開示の会計基準」および下記の「会計方針の変更、誤謬の訂正などの会計基準」が存在しないし、企業会計基準委員会の検討の対象にもなっていない

事業報告書は、会計監査人の監査の対象とはなっていないが、監査役または監査委員会の監査を受け監査報告書の作成を求められている(会社法施行規則第129条、131条)。監査役または監査役会は会計監査人より高度な会計知識を求められている。なぜなら、我が国には会計基準のない事項についても監査報告書を作成しなければならないのだ。

会社法、証券取引法の整合性が図られておらず、会社法が先行したかたちで、縦割り行政のままばらばらで規定している。

始まった四半期報告書の注記も読み難い。
2008年4月から初めての四半期報告書と、EDINETへの初めてのXBRLの義務化がどうなったのか見てみると、かなり閲覧し難い。投資家の利便性は遥か遠い。比較財務諸表の会計基準が日本にはないため、適用初年度のみの開示となっている。そのため、業績・財政状態・キャッシュフロー等の趨勢(トレンド)が判らない。読み手に不親切である。国際基準では適用初年度であっても会計基準が比較財務諸表の開示を求めているため前年度との比較で開示することになっている。

大まかに重要な欠陥を指摘すると、次のようになる。
1.検索画面からの検索がしずらい。
2.四半期報告書について、PDFファイルを提供することで全頁が印刷できるが、肝心な「目次」がPDFファイルに含まれておらず印刷後に閲覧しずらい。会社のホームページに公開しているPDFファイルは目次も含まれているが、EDINETになると目次が無いのは読者への利便性の配慮が足りない。
3.財務諸表の注記が雑然としており、読み手にとっての利便性がない。国際会計基準のように秩序整然と記述した「注記」にすべきであろう。

新日本製鐵株式會社(新日本製鐵株式会社ではEDINETで検索できない)を例にとると、次のようにならんでいる。
(1)四半期連結貸借対照表
(2)四半期連結損益計算書
(3)四半期キャッシュフロー計算書
四半期連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項等の変更
四半期連結財務諸表の作成にあたり適用した特有の会計処理
追加情報
注記事項
事業の種類別セグメント情報
所在地別セグメント情報
海外売上高
2 その他

米国会計基準適用の日立製作所のケースでは、目次に「注記」は無く、連結キャッシュフロー計算書を開きページ左下に「次へ」を押すと次のような注記が開き、注記のページ下左の「次へ」を押すと次の注記が開く。つまり、注記が財務諸表の重要な一部であると言う取り扱いになっていない。

年度の有価証券報告書を含めて、日本では「注記」が国際会計基準のような取り扱いになっていない。
金融商品取引法の有価証券報告書の財務諸表の体系は、「企業会計原則」のままで、国際会計基準の財務諸表の体系ではない。

EDINETは、検索のし難さ、読み難い体系、各社のページにリンクできないなど、投資家などの利用者の利便性を考えているとは到底思えない。

@−2 連結だけでなく単独財務諸表も開示。開示の重複は、投資家をミスリードする。

子会社がある場合、特段の事情がない限り、連結財務諸表に加えて個別財務諸表の開示は、一つの企業に複数の財務情報を開示することで投資家をミスリードし投資判断を誤らせる恐れがある。実務的にも、完成度の高いIFRSの財務諸表を連結・個別の二つを作成する作業量は膨大なものになり非現実的。国際会計基準(IFRS)や米国会計基準は、日本の基準とは異なり情報開示としての注記等を充実しており連結財務諸表のみの開示を想定して会計基準ができている。現に、米国SECの上場会社の情報開示システム(エドガー・データ―ベース)や英国(ロンドン証券取引所)、ドイツ(フランクフルト証券取引所)の上場会社の財務諸表開示システムでは連結財務諸表のみの開示となっている。

2010年3月26日の企業会計審議会監査部会において、金融庁の三井企業開示課長は次のように発言している。つまり、単体は別途議論することを示唆している。
三井企業開示課長 一昨年から昨年にかけまして、いわゆる連結先行という、連結の財務諸表に係る会計基準と単体の財務諸表に係る会計基準について、従来は全く同一であるということを大前提としていたことについて、いわゆる連結先行ということで、若干時間的なずれを容認するということをここの場でご議論頂きました。この考え方の資料には少しダイナミック・アプローチという言葉をつけてございます。(資料1西川ASBJ委員長「上場会社の個別財務諸表の取扱い(連結先行の考え方)に関する検討会」 我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」参照)

企業会計基準委員会(ASBJ)6月8日、会計コンバージェンスに基づく会計基準の策定について連結財務諸表だけを対象にし、単体の財務諸表については判断を一時的に留保する考えを示した。ASBJはこれまで基本的に連結と単体の両方を対象に会計基準の策定を行ってきたが、単体基準のコンバージェンスについて疑問の声があり、金融庁の企業会計審議会での結論が出るまで連結基準のみを議論することにした。(IFRSフォーラム)

企業会計審議会の6月8日の議事録を見ると、IFRSに関する欧州調査報告を行った三菱電機の佐藤氏の発言があり次のように上場会社の開示は連結財務諸表のみ開示するようにしてほしい旨の発言をしている。
○佐藤参考人(三菱電機 佐藤行弘):・・・〜1点目は、金商法上の上場企業の開示につきましては、国際的な要請及び基準の相違から、連結のみ開示するという、そういう方向で検討をお願いしたいということでございます。
○山ア参考人(JFEホールディングス監査役):世界の投資家がIFRSに基づく財務諸表を必要としているのであれば、株式を公開して投資対象となっている上場会社は、そのニーズに応えざるを得ません。投資家が対象としているのは連結財務諸表でありますし、IFRSそれ自体当然に連結を対象とした規定であります。従って、上場会社の連結財務諸表は原則としてIFRSに従った開示をするということになるべきだと思います。
○安藤会長:私の理解する限りでは、今日、最初にASBJのご報告がありましたが、あれが出発点になって、この審議会がこの会を開いているということだと思います。要するに、ASBJで今、いろいろコンバージェンスに向けてやっているんだが、はっきり言えばデッドロックに乗り上げてしまった
○西村委員(西村義明東海ゴム工業 代表取締役社長):一般の投資家に対して本当に単体が必要なのかというのは、ぜひこれは議論してもらいたいというふうに思っています。IRなどで国内は勿論いろいろ海外にも行っても、単体のことを聞く人なんかまずいません。単体の業績がどうですかなんて質問されたことは、ここもう10年ぐらいないと思いますね。ですから、やっぱりそういう面からも、本当に単体の公表が必要なのかということは、ぜひよく考えていただきたいというふうに思っております。逆に言えば、必要ないじゃないかと思います
最後の方の発言で、○引頭委員(引頭麻実椛蝌a総研 執行役員)は、「すみません、最後になってしまいました。・・〜最後に一言ですが、単体については、本日ご意見をおっしゃったほとんどの方々が要らないということでした。」としている。

これでも単体を開示し続けるのであれば、金融庁はこの会議の議論を無視していると言わざるを得ない

金融庁・企業会計審議会は、8月3日、会合を開き「会長発言」を公表した。「単体の会計基準は、個々の基準毎に、連と単を一致することに伴う諸々のコスト・ベネフィット、連と単を分離することに伴う諸々のコスト・ベネフィットを考慮した上で、最終的にASBJが判断(個々の基準で、会計処理の選択適用を許容することもあり得る)。連結と単体のズレの期間、幅は、経営や内外の会計を巡る諸状況(税、会社法を含む)により大きく異なる、○ 金商法における単体情報については、その投資情報としての有用性の観点に加え、会社法で単体の計算書類が作成され株主に届けられ、その情報は、投資家にも開示すべき、との観点から、引き続き開示すべき。単体の見直し(簡素化等)は行う。」としている。この会長分っているのかしら。上記のように、議論は「単体は要らない」との意見であったのに、「会長発言」で逆の発言をしている。審議会として機能していない。だから会長発言?
米国会計基準の使用は、国際会計基準の任意適用の開始に伴い、連結財務諸表規則を改正し、米国基準の使用は2016年3月期までに限定した。

ASBJは企業会計審議会に、単体の開示の廃止を提言して欲しかったはず。会長発言で、ASBJに下駄を戻してきた。ASBJは、個別財務諸表の開示の廃止を提言すべきだ。

日本でも、2010年7月29日、経団連は、「財務報告に関わるわが国開示制度の見直しについてを公表した。1.決算短信の簡素化、2.連結財務諸表の開示のみにし、単体は廃止。3.内部統制監査の簡素化を提言した。内容はしごく当たり前のことばかり。

因みに、2010年3月期に、IFRSの連結財務諸表を日本初の適用となった日本電波工業は、会社法(単年度のみ)、決算短信(注記など多少簡略)、金融商品取引法の有価証券報告書(連結付属明細表が加えられている)、英文財務諸表(完全なIFRS財務諸表)と連結財務諸表だけでも4つ作成している。しかも、完全なIFRS財務諸表は英文のみとなっている。加えて。日本基準による個別財務諸表を会社法、金融商品取引法のものを別々に作成しているのだ。投資家にとって個別財務諸表は不要であろう。

6月末の株主総会が終了するころには、6月締めの第一四半期報告書の連結財務諸表の作成がすぐに始まる。IFRSの個別財務諸表を作成している時間はない。

A 誤謬の訂正・会計方針の変更などで、過年度財務諸表を遡及して修正表示する会計基準

当年度に正しい会計処理が発見されるという事態が生ずることは珍しくない。このため、日本では「前期損益修正損益」という科目まである。当年度に過年度の誤りを修正する科目として使用されている。

一方、国際会計基準には、原則として、「前期損益修正損益」はない。なぜなら、重要な誤謬の訂正correction of errors)は、過年度の財務諸表を遡及して正しい科目で修正表示するので、そうした勘定科目は必要ない。会計方針の変更も、表示されている比較財務諸表が同じ会計方針で会計処理して過年度財務諸表を修正表示することを求めている。国際会計基準では、表示された財務諸表が期間比較可能にするために過年度の財務諸表を正しく修正再表示するのだ。投資家、財務諸表の読者に、常に、正しい財務情報を、理解し易く提供しようとするものなのである。日本には、「株主総会で承認を受けた過年度の財務諸表」を修正することは考えられないのであろう。

国際基準の過年度財務諸表の遡及修正は、安易な会計方針の変更を抑止する機能がある。日本は、すでに国際基準にキャッチアップしていると思っている人があるがそれは間違い。この、会計基準を日本に導入しない限り国際基準にキャッチアップしたとは言えない。企業会計基準委員会の「プロジェクト計画表」ではいつ会計基準になるのか日程が明記されていない。(日本公認会計士協会の「追記情報の調査」 参照)

日本には「誤謬の訂正」という会計基準は存在しないが、不正・誤謬で過年度財務諸表を修正した下記の事例がある
2005年5月23日、ニチイ学館が「保有土地の含み益を計算し忘れたミスがあった」とし東証へ訂正した事例発生
2006年2月14日、株式会社 宮 不正経理による改善報告書ジャスダックへ提出
2006年3月22日、米国基準のNECも「子会社の架空取引」で遡及修正 2006年6月22日遡及修正版

誤謬ばかりでなく、実務上、かなりの頻度で必要となるのは「表示の変更」がある。ある事業部門の売上が大きくなって「区分表示」したい場合、比較可能にするため、当年度の売上高を区分表示すると伴に前年度の財務諸表の表示も当年度と同じ基準で表示しなおす。貸借対照表の項目についても、区分表示するために必要なときがあるが同様の取り扱いとなる。重要性が無くなりその他に纏める場合も同じ。国際基準による注記の例示は下記の通り簡潔明瞭になっている。(事例 参照)

「当年度の新たな表示方法で前年度財務諸表を遡及修正(単なる組替表示)した」旨、重要な会計方針に注記する。

注記の例示

重要な会計方針に
ePrior Year Presentation
    Certain amounts shown in the 2006 Statement of Earnings have been reclassified to conform with the 2007 presentation.

減価償却方法の変更(Change in Depreciation Methodは、国際会計基準(IAS)8号「期間損益、基本的な誤謬および会計方針の変更」では”見積りの変更”として取り扱い遡及修正しない(IAS16号「有形固定資産」パラグラフ61により詳細に規定あり)。米国財務会計基準は、従前のAPB意見書20号「会計上の変更」では”会計方針の変更”として取り扱って遡及修正を求めていたが、改正会計基準SFAS154号「会計上の変更および誤謬の訂正」では、国際会計基準と同様に”見積りの変更”とすることになった。SFAS154号の適用開始は2005年12月15日以降開始する事業年度からである。これにより、減価償却方法の変更については、国際会計基準と米国基準は一致した。

有価証券報告書は1年を単位として独立
企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書によれば、「我が国では、有価証券報告書における開示が1年を単位として独立しており過年度の修正再表示の慣行がないこと等を考慮して、期首に企業結合が行われたとみなして損益を合算する処理を求めることとした。」(19ページより)としており、有価証券報告書の考えが国際基準とは異なっていることを明記している。

注意:現代では、会計慣行が会計基準になるのではない。実態(substance over form)を表示するために会計基準を開発(develop)し、会計基準を適用・実施して、投資家等に企業の実態を開示しようとするもの。企業結合の会計では、慣行とされた「持分プーリング法」を廃止したのも、税効果会計の導入も、キャッシュフロー計算書の導入も決して慣行から会計基準ができたものではありません。


会社法では、過年度財務諸表の遡及修正を可能としている

2006年5月施行の、会社法施行規則120条3項では、公開会社の事業報告書では、「会計方針の変更その他の正当な理由により当該事業年度の前の事業年度に係る定時株主総会において承認または報告をしたものと異なっているときは、修正後の過年度事項を反映した事項とすることを妨げない」としており、過年度財務諸表の遡及修正を可能としている。

2006年5月施行の、会社法施行規則120条1項6号で、公開会社の事業報告書で「直前三事業年度の財産及び損益の状況」の開示することが求められた措置。過年度事項の提供会社計算規則161条3項)ができる、としている。

事業報告書は、会計監査人の監査の対象とはなっていないが、監査役または監査委員会の監査を受け監査報告書の作成を求められている(会社法施行規則第129条、131条)。監査役または監査役会は会計監査人より高度な会計知識を求められている。なぜなら、我が国には会計基準のない事項についても監査報告書を作成しなければならないのだ。

企業会計基準委員会が2007年3月から議論開始、2007年中は論点整理・・のんびり議論
「 「過年度遡及修正」については、平成13年11月開催の第1回テーマ協議会において、「他の法制度との調整等が必要なテーマ案」の1つとして提言が行なわれていた。
 その後、平成18年5月施行の会社法の下で、過年度事項の修正の容認が明示されるという環境の変化があり、国際会計基準審議会(IASB)との会計基準のコンバージェンスに向けた共同プロジェクトにおいても、「過年度遡及修正」は「長期プロジェクト」の中でも特に優先的に検討していく項目の1つとして取り上げていることから、2007年3月に過年度遡及修正専門委員会を設置し、このテーマの検討を行うこととした。」だそうです。
かなり、のんびりしたものです。会社法に後塵を配し会計基準設定主体とは到底思えない。(企業会計基準委員会専門委員会 参照)

プロジェクト計画表」によれば、2007年は「論点整理」のみで、いつ基準とするのか明らかにされていない。

2007年7月9日企業会計基準委員会は、突如として「過年度遡及修正に関する論点整理」を公表。かなり混乱している模様。基準のない廃止事業のことや、米国基準(FASB)と国際会計基準(IFRS)の相違のあるものの取り扱いなど委員会が整理すればよいものを不毛の論点整理となっている。廃止事業については会計基準を作ればよいし、IFRSとFASBの相違点はFASB・IASBおよびASBJと合同で調整するなり、またはIFRSに一致させるなりすればよい話。委員に実務経験者が不足しているのでは?論点整理の文章を見ているとそう思えてならない。いつまで堂々巡りの議論をしているのであろうか?また、日本特有の会計基準が出来る恐れがある。

基準が無くとも国際基準があれば会社法の開示は出来ますし、国際基準に収斂することは日本の方針ともなっているのですから急ぐことは無いのかも知れません。


因みに、国際会計基準8号「期間損益、基本的な誤謬および会計方針の変更(Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates and Errors)1979年1月設定」が会計基準の適用の変更や誤謬の訂正では過年度財務諸表を新たに選択した会計基準を適用したものに訂正、誤謬年度の財務諸表を正しく訂正し、表示されている比較財務諸表が同じ会計基準で表示されるようにする。なお、見積りの変更で、その内容が見積りの誤りで重要性がある場合は、誤謬の訂正として過年度の財務諸表を訂正する場合もあるが、単に見積もり誤差で僅少であれば当年度の財務諸表に計上することになっている。

中国の会計基準では「会計上の修正」として「会計方針の変更」「見積りの変更」「誤謬の訂正」および「貸借対照表日以後に生じた事象」を国際基準に準拠して設定し2001年1月から適用している。

2007年12月7日、突如として、企業会計基準委員会改定プロジェクト計画表」を公表し過年度遡及修正に関して2009年度に会計基準とする計画を明らかにした。6月15日の6ヶ月前に公表した「中期運営方針」には”過年度修正”は長期プロジェクトに含まれており検討日程に含まれていないが、3週間後の7月9日には「論点整理」を公表している。苦悩の姿が透けて見える。

2008年6月20日企業会計基準委員会は、「会計上の変更及び過去の誤謬に関する検討状況の整理」を公表した。9月19日までにコメントを求めている。不思議なのは、2011年6月までにIFRSとの相違を無くすと「東京合意」で国際的に約束している(IFRSに一致させる約束)のにその旨の記載がない。

2009年12月4日「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準が公表された。ほぼ国際会計基準に一致して規定されている。本会計基準は、平成23 年4 月1 日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更及び過去の誤謬の訂正から適用する、としている。
四半期報告書の取り扱いは別途公表すということである。

「7. 前項に従って新たな会計方針を遡及適用する場合には、次の処理を行う。
(1) 表示期間(当期の財務諸表及びこれに併せて過去の財務諸表が表示されている場合の、その表示期間をいう。以下同じ。)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、〜」としているが、比較情報(Comparative information)の会計基準が日本にはないことから(または、金融庁の内閣府令で決めているので)比較情報の表現を「表示期間」としている。歯切れの悪い解り難い文章である。因みに、国際会計基準には、IAS1号「財務諸表の表示」パラグラフ38に「前期との比較情報を開示しなければならない」と規定している。


「20. 有形固定資産等の減価償却方法及び無形固定資産の償却方法は、会計方針に該当するが、その変更については前項(見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行わない)により取り扱う」としている。IAS16号「有形固定資産」のパラグラフ61に会計上の見積もりと明記しているが、日本には「有形固定資産」の会計基準がないための記載と思われる。

2101年4月2日、企業会計基準委員会は、かねて公表するとしていた「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」等の公表に伴う四半期報告書に関する会計基準」(案)等を公表した。新旧対比表 参照

同時に、「一株当たり当期純利益に関する会計基準(草案)」も公表した。

B 重要な営業譲渡・会社分割などで廃止(非継続)事業と継続事業とを区分表示する会計基準

重要な営業譲渡・会社分割などがあった場合、営業譲渡や会社分割などで廃止(非継続)事業と、継続している事業とを区分表示して、投資家・財務諸表の読者に、それぞれの事業の規模、収益性、企業に与える影響度などを分かり易く表示することを求めている。(国際財務報告基準(IFRS)5号「譲渡のため保有する固定資産および廃止事業(Non-current Assets Held for Sale and Discontinued Operations」参照)
日本には、投資家に判り易く表示するという配慮の会計基準はない。日本は、むしろ難解にしているように思える。

  2XX1年 2XX2年
Operations
継続事業
xxx xxx
Financing and Investing Activities
金融および投資活動
xxx xxx
Income Taxes
法人所得税
xxx xxx
Discontinuing Operations
廃止事業
xxx xxx
Net Income or Comprehensive Income
純利益または包括利益
xxx xxx

NECの米国基準による非継続事業の区分表示の例がある(2006年6月22日遡及修正版)

C すべての損益を業績表示する包括利益の会計基準

現在、国際会計基準は、日本で純資産の部(旧・資本の部)に計上していた、評価・換算差額等(1 その他有価証券評価差額金、 2 繰延ヘッジ損益、 3 土地再評価差額金、 4 為替換算調整勘定(海外の連結子会社の財務諸表の換算差額)を、包括利益として損益計算書に表示するべく検討している。損益計算書を通さずに、純資産ないし株主持分へ直接計上される損益をなくそうとするものである。我が国は、官民上げて反対している。(「いきつくところ包括利益表示か」参照)

認識した利益および費用の計算書(Statement of Recognised Income and Expense)は、株主持分以外の資産・負債の当期変動(包括利益を含めた)を表示するとしている。要請している表示方法は;

Proposed Format for the Statement of Comprehensive Income (IAS PLUS の「業績報告」より)

  Column 1
Total 合計 (Columns 2 + 3)
Column 2
Income and Expenses Other than Remeasurements
測定し直さない利益および
費用
Column 3
Income and Expenses Resulting from Revisions to Prior Expectations about Future Periods (Remeasurements)

以前の見積りの修正から生じた利益および費用
Operations
継続事業
xxx xxx xxx
Financing and Investing Activities
金融および投資活動
xxx xxx xxx
Income Taxes
法人所得税
xxx xxx xxx
Discontinuing Operations
廃止事業
xxx xxx xxx
Net Income or Comprehensive Income
純利益または包括利益
xxx xxx xxx

2006年3月に公表されたIAS1号「財務諸表の表示」に関する会計基準の草案では、上記の方法とは異なり、包括利益を損益計算書(Statement of recognised income and expense)に一つの計算書にまとめる方法と、損益計算と包括利益を二つの計算書にまとめる方法を提示している。

IASB理事にインタビュー−2004年3月3日
日本の会計風土は素晴らしいものがあるとは思うが,ほとんどの事柄に同意せず,そしてそれは他国が納得する意見ではない。われわれは日本の意見すべてに耳を傾け,理解しているが,同意はできない(例えば,IASBは「包括利益」の導入を目指しているが,日本は当期利益の考え方がなくなり,実態がわかりにくくなるとして,反対意見を表明している。「包括利益」とは貸借対照表を原則時価評価して,有価証券などの評価損益を毎期の利益に反映させる方法)。
                                       ジェトロ・ブリュッセル・センター EUトピックスNo38 2004年3月3日より


会計基準共通化、日本は一段の加速を――トウィーディーIASB議長に聞く。2006/03/04, 日本経済新聞 朝刊

「日本の力も貸してほしい。しかし、我々が既に決めた部分に追いつくことばかりに時間をかけていては、未来に向けた議論に入れない。現在の国際基準との共通化を済ませるのが早ければ早いほど、新たな基準作りに参加し影響力を及ぼせるはずだ」
2006/03/04, 日本経済新聞 朝刊 参照

企業会計基準委員会(ASBJ)委員長の仰天の応酬(2006年3月初旬)

『2006年3月初旬、国際会計基準審議会(IASB)議長D・トゥイディー氏に、企業会計基準委員会(ASBJ)斎藤静樹委員長は「のれん代を償却せずに、なぜ他の資産は償却するのか」と応酬した』(日本経済新聞「会計残された課題4」2006年3月18日より)添えられた二人の写真がその場の雰囲気を的確に捉えていた。(日本の「合併・買収の会計基準」が国際基準と相違することの会計バトル

参考:
企業会計基準委員会委員長のメッセージ日本の会計基準に対する認識 参照。
斎藤静樹委員長著「会計基準の形成と市場間統合参照
  「複数の基準をメニューとして提示し、開示する側に選択の余地を与えるとともに、〜」⇒これでは、オピニオン・ショッピングが可能となり、資本市場の信頼を得ることはできない
斎藤静樹委員長著「グローバル・コンバージェンスと日本の会計基準2006年8月 参照
 
世界の会計基準設定主体はIASBとアメリカの財務会計基準審議会(FASB)、それに日本の企業会計基準委員会(ASBJ)の三極になるとみられている。⇒ほんと? 実務の世界では日本の会計基準の知名度はない。日本語で、まとまった基準書はないし、英語版もない。
委員長は、金融庁・企業会計審議会第一部会会長兼務(
05年1月まで

国際会計基準審議会(IASB)の基準諮問会議(SAC)に金融庁も出席しており「議事録」が公開されています。

2003年5月 金融庁 米国では国際会計基準は認められていない 様子を見ながら対応する。
2003年10月 日本経済団体連合会 会計基準に関する国際的協調を求める IASBの包括利益は反対
2004年6月 企業会計審議会 国際会計基準に関する我が国の制度上の対応について(論点整理)
2004年7月 経済産業省 我が国企業会計の国際化に関する報告」参照 相互承認を求めている
2005年7月 金融庁 CESRによる同等性評価の公表」の解説 参照 欧州、相互承認を認めず。
2005年9月 経済産業省 企業会計研究会中間報告」参照
Equal footingを主張しているが、日本の土俵にIASBがのることはない
再び同じ主張の繰返し。
2006年3月 企業会計基準委員会 国際基準との収斂作業状況」「3回目会合・・3項目追加で合意」参照
2006年6月 日本経済団体連合会 コンバージェンスの加速化と相互承認を求める 日本基準の孤立化への懸念
日本基準が国際基準と同等であれば孤立する懸念はないはず。本音が垣間見える。
⇒本音版、一転して「加速化支持の立場表明
2006年7月 日本政府 骨太の方針2006の12ページで「会計基準の国際的な収斂を
促進
を突如指示
国際的収斂を指示
2006年7月 金融庁・企業会計審議会 会計基準のコンバージェンスに向けて(意見書) 
会計基準を巡る国際的な動向について
前向きな対応を表明
2006年8月 企業会計基準委員会 ・・・・・・ 議題にあがらず
2006年9月 外務省の「世界の中の日本・30 人委員会」の、塩崎恭久衆議院議員がまとめた
リーダーシップをもつオープンな日本への中(31−32ページ)
積極的に会計基準の統合
2006年10月 企業会計基準委員会 コンバージェンスへの取り組み」「プロジェクト計画表 EU対策でコンバージェンス
2007年3月 日本企業、欧州市場で締め出しか EUの最初の同等性評価
2007年8月 企業会計基準委員会 日本が2011年6月末までに国際会計基準に完全収斂を約束 収斂を国際的に約束

米国会計基準SFAS157号「公正価値測定」を公表、公正価値を売価と定義

2006年9月18日米国財務会計基準審議会(FASB)は、SFAS157号公正価値測定(Fair value measurements)」を公表し、公正価値の定義を資産は受け取る売却価値、負債は支払う移転価値とし明確にした。再調達原価ではないとしている。公正価値評価を求められている現行会計基準の公正価値はこの定義に統一されることとなった。また、公正価値評価による影響額は、損益計算書の損益となる。2007年11月15日以降開始する事業年度から適用で、早期適用も認められる。(SmartPro SFAS157号「公正価値測定」の翻訳by岡部孝好同志社大学教授 参照)

2009年5月28日国際会計基準審議会(IASB)は、「公正価値測定(Fair Value Measurement)」のガイダンス草案を公表し、9月までコメントを求めている。これは、IASBと米国FASBが収斂作業として纏め上げたもので、米国のSFAS157号の公正価値測定と一致したものである。(結論となった背景例示 を参照)

D 国際基準および米国は、会計基準設定の経緯が広く公開され意見を求めている。

2002年10月29日財務会計基準審議会(FASB)は、国際会計基準審議会(IASB)とグローバルな会計基準の統一に関して協働することで合意した。SEC速報、 IASB速報、 FASBとIASBの共同声明(以下「ノーウオーク合意(Norwalk Agreement)NorwalkとはFASBの所在地」という) 欧州委員会速報 FASBの「IASBとの収斂」 参照)

2005年12月8日EUの市場担当コミッショナーであるチャーリー・マクリービーは、EUの同等性の評価を下記の通り米国のロードマップ(少なくとも2009年までに米国基準との差異調整表の添付を解消する)に合わせる形で、当初EUが「2007年から」としていたものを2009年まで2年延期する見解を表明している。(プレスリリース ニュース 参照)

Equivalence between third country GAAP and IFRS
 Making IFRS work in the EU puts us in a position to be able to claim an even bigger prize: greater access of EU companies to global capital markets. This should include removal of the reconciliation requirement to US GAAP for companies which list in the US. The US SEC agreed to a Road-map in April 2003 with the aim of working towards this at the earliest in 2007 and at the latest in 2009. In the EU we are, of course, also looking into the use of third country GAAP in order to establish whether these might be considered equivalent with IFRS.
 For the moment, my view is that the best way to proceed is for the EU to defer an equivalence decision and prolong the status quo, rather than taking any decision now. This option would align the EU’s equivalence agenda with the US Roadmap for dropping the reconciliation requirement for foreign issuers in the US. It would mean we could work in parallel towards common agreed objectives.

2006年2月27日にFASBとIASBとの間で締結された「IASBと米国会計基準の収斂に関する2006年から2008年の計画 A Roadmap for Convergence between IFRSs and US GAAP-2006〜2008」の相互理解メモ(MOU)に従い、FASBは「FASBとIASBとの共同作業の枠組み」を明らかにし、IASBとの共同作業を含む作業状況を公開している。

その中には、「財務諸表の表示」に関する会計基準の見直し作業が含まれている。(財務諸表の区分見直し」日経

フェーズBで、下記のように、貸借対照表(新、財政状態計算書)、損益計算書(新、利益および包括利益計算書)およびキャッシュフロー計算書を事業活動と財務活動を区分表示しようとするものが提案されている。

Statement of Financial
Position

財政状態計算書

Statement of Earnings and Comprehensive Income
利益および包括利益計算書

Statement of Cash Flows
キャッシュフロー計算書

Business ・事業
   Operating Assets and Liabilities
 事業用資産・負債
   Treasury Assets
 財務資産

Business ・事業
   Operating Income
  事業利益
   Treasury Income
  財務利益

Business ・事業
   Operating Cash Flows
  事業キャッシュフロー
   Treasury Cash Flows
  財務キャッシュフロー

Financing・財務
   Equity
  持分
   Financing Liabilities
  財務負債

Financing Expenses
財務費用

Financing Cash Flows
   Equity・持分
   Non-equity・非持分

フェーズAでは、財務諸表の体系の若干の改正と包括利益の表示を含むIAS1号「財務諸表の表示」に関する会計基準の草案が提示されている。包括利益を損益計算書(Statement of recognised income and expense)に一つの計算書にまとめる方法と、損益計算と包括利益を二つの計算書にまとめる方法を提示している。

E 国際会計基準へのコンバージェンスで小出しの改正が期間比較を歪めミスリードの恐れ。

国際会計基準へのコンバージェンスは小出しであればあるほど財務諸表の期間比較は歪み財務諸表の読者をミスリード(誤解)させる恐れが生ずる。一挙に国際会計基準を導入することで各国と同等の水準となり比較可能性はより優れたものとなる。

日本の会計基準等の改正 2009年
(H21年)
3月期
2010年
(H22年)
3月期
2011年
(H23年)
3月期
2012年
(H24年)
2015年〜
2016年
経営者による財務報告に係る内部統制の報告書および監査 ⇒適用
四半期報告書の開示 ⇒適用
改正リース会計・・骨抜きリース会計の廃止、 ⇒適用
EDINETのXBRL化・・四半期、半期報告書、年度報告書に適用 ⇒適用
工事契約の工事進行基準の適用が始まる ⇒適用
棚卸資産にLIFO評価は廃止 ⇒適用
金融商品の時価表示、2010年3月期より適用 ⇒適用
賃貸用不動産の時価開示、2010年3月期より適用 ⇒適用
セグメント情報・・マネジメント・アプローチでの開示 ⇒適用
企業結合で持分プーリング法廃止、早期適用可 ⇒適用
資産除去債務、早期適用可 ⇒適用
会計上の変更、誤謬の訂正、見積りの変更、表示の変更 ⇒適用
国際会計基準(IFRS)の適用(案)
・・(金融庁)
・・米国に追従する予定
任意適用 適用判断 強制適用

なお、国際会計基準1号「財務諸表の表示」パラグラフ15には、”財務諸表には企業の財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローを適正に表示しなければならない。IFRSを適用し、必要な場合は追加的開示をすれば、適正な表示をもたらす財務諸表が作成されると推定される”としている。つまり、国際会計基準及びその指針に準拠して作成した財務諸表は適正表示しているとしている。

パラグラフ16には、”財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)に準拠する企業は、注記にIFRSに準拠している旨を明示的かつ十分に記載しなければならない。財務諸表がIFRSの全ての規定に準拠していない限り、企業は当該財務諸表がIFRSに準拠していると記載してはならない”とされている。換言すれば、コンバージェンスをして国際基準と同等の日本の会計基準だとしても、日本の会計基準であって国際会計基準(IFRS)とは言わないということ。

加えて、パラグラフ18では、”不適切な会計方針は、適用した会計方針の開示又は注記若しくは説明文書のいずれによっても救済されるものではない”として、IFRSに反した処理等は、いかなる方法でも救済されないとしている。日本の会計基準がIFRSにコンバージェンスしてもIFRSに反した処理等があれば注記などで説明しても救済されないということ。以前には注記で救済されていたが現在は救済されない。

新たな会計基準の適用は、国際会計基準(IAS)第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」のパラグラフ28に、新たな会計基準を初めて適用し現在、過去または将来の期間に影響を及ぼすかもしれない場合、適用する会計基準又は指針、会計方針変更の内容、可能な場合影響する科目及び影響額を開示する必要がある。将に財務諸表の読者に必要な情報である。日本は、金融庁が行政に必要な情報として”状況調査”としているが、国際会計基準は投資家に必要な情報と捉えている。適用する会計基準で利益が変わり株価に影響する。米国を含む国際基準は、投資家保護に当然に会計基準の新たな適用または変更については重要な情報開示と考えられている。日本にはそうした規定はない。(連結財務諸表規則  財務諸表規則 参照)

F日航で露呈した巨額簿外負債(日本の会計基準が許容している)

前原誠司国交相は2009年9月25日、の再建問題に関し、同相直属の専門家チーム「JAL再生タスクフォース」を設置した。メンバーは、旧産業再生機構の委員長を務めた高木新二郎野村証券顧問ら外部の専門家5人。日航が自主再建に向けた経営計画を策定するに当たり、積極的に指導・助言を行い、妥当性を評価するとともに、実行面の監督も行う。前原国交相は、自らの人選によるタスクフォース設置で、日航再建も政治主導で行う姿勢を明確化した。
 前原国交相はタスクフォース設置の趣旨について「日航の実態を厳しく客観的に把握し、従来のしがらみから自由で、抜本的な再生計画の迅速な策定と実行を主導することが望ましいと判断した」とのコメントを出した。(2009/09/25-11:09

公表している有価証券報告書から連結財務諸表を見てみると以下の通りで実質的に債務超過状態である。

単位:百万円 2008年
3月31日現在
2009年
3月31日現在
2009年
6月30日現在
負債合計 1,651,713 1,553,907 1,517,949
純資産の部
 資本金 251,000 251,000 251,000
 資本剰余金 155,836 155,836 155,802
 利益剰余金 41,320 △21,874 △127,216
 自己株式 △890 △917 △938
株主資本合計 447,266 384,014 278,647
 その他有価証券評価差額金 2,578 △1,440 644
 繰延ヘッジ損益 8,167 △201,816 △115,551
 為替換算調整勘定 △4,077 △6,101 △5,760
評価・換算差額等合計 6,668 △209,358 △120,667
少数株主持分 17,136 22,115 20,807
純資産合計 471,070 196,771 A 178,787
負債純資産合計 2,122,784 1,750,679 1,696,737

日本の会計基準では計上しなくてもよいが、国際会計基準では計上が求めれている債務は、次の通り。

@計上していないリース・債務 2008年
3月31日現在
2009年
3月31日現在
「平成20年4月1日前に契約を締結した所有権移転
外ファイナンス・リース取引については、引き続き通常
の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用してい
る」としてリース債務を計上していない部分。
△341,009 △288,570
上記ファイナンスリースに対応するリース資産の帳簿価額 332,891 280,602
差引純資産影響額(簿外) △8,118 △7,968 B
A計上していない退職給付債務に関する事項
退職給付債務
年金資産
退職給付引当金⇒BS計上額
前払年金費用
         差引 ⇒未計上の債務
差引内訳
会計基準変更時差異の未処理額
未認識数理計算上の差異
未認識過去勤務債務          
△844,232
479,214
95,485
△54,205
△323,737

△97,534
△225,654
△547
△800,971
408,398
94,911
△33,814
△331,476

△75,600
△256,111
235
         差引未計上の債務 △323,737 △331,476 C
修正後純資産は債務超過=A−B−C 139,215 △142,673 =A-B-C

日本航空は、実質債務超過である。繰延ヘッジ損益の損失は昨年度にも関係してれば、場合によっては昨年度から債務超過であった可能性がある。日本の会計基準では実態を示しえないことが露呈した格好である。投資家にとっては、債務超過であると言われれば詐欺のように思われるであろう。会計基準設定者は、その重みを感じるべきだ。適正とした監査人もその重大さを噛みしめるべきだ。

日航は6月末現在の自己資本比率が9.3%まで下がっており、再建には今後3年間で2500億〜4500億円程度の資本増強が必要とみられる。産業再生法の適用要請はその一環で、日本政策投資銀行から数百億円規模の出資を受けることを想定している模様。メガバンクなどに対し、債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)による資本増強も求める意向だ。

 しかし、産業再生法による公的資金投入は「3年後の確実な再建」が条件。日航がこれまでに示した(1)国内外50路線の廃止(2)グループ人員の6800人削減(3)外資との業務・資本提携−−などの再建案に対し、銀行団には「実現可能性が検証できない」との見方が強い。この日の面談でも政投銀から「現状のままでは支援は厳しい」との意見が出た。(毎日 日航に関するニュース 参照)

旧国鉄のように、親方日の丸が招いた結果といえるだろう。

日航 債務超過1兆円 債権放棄上積み、きょう要請 (2010年7月1日)

会社更生手続き中の日本航空は6月30日、会社更生法を一月に同時申請した子会社二社と合わせた三社の債務超過額が、一兆九億円になったと発表した。従来見通しより約一千億円膨らんだ。日航は、八月末の更生計画提出に向け、七月一日から主力銀行団と債権放棄額の上積みや新規借り入れについて本格的な交渉に入るが、難航しそうだ。

 三十日記者会見した、日航の管財人である企業再生支援機構の瀬戸英雄企業再生支援委員長らによると、債務超過額が膨らんだ要因は、大型機の退役計画を三年間から一年間に短縮したことや撤退路線数が当初予定より拡大したため。負担増は二千五百億円程度だが、一方で売り上げの改善やコスト削減効果などで経常損益が千五百億円改善しており、債務超過は差し引き一千億円増となった。

 この三社に他のグループ会社も加えた連結ベースの債務超過額は、約九千五百億円になり、更生法申請時の八千六百七十六億円より八百億円超膨らんだ。

 また、日航は財務諸表のほか、三年間の事業収益計画を策定。これらをもとに、一日以降、主力銀行団と交渉を進め、八月上旬をめどに大筋で合意したい考え。しかし、債権放棄については、銀行団が難色を示しているうえ、新規借り入れについても政府保証などが求められそうだ。(2010年7月1日東京新聞 日本航空のニュース 参照)

参考:
米国における「進化し続ける企業年金の会計
国際会計基準と米国基準のコンバージェンスのプロジェクト
ASBJの「退職給付会計の見直しに関する論点の整理」の公表・・平成23年を目途として、退職給付に関する会計基準等を見直すこととしております。
退職給付・・日本の退職給付会計に対応する国際会計基準がIAS19号の比較」byデロイト
企業年金の積み立て不足/IFRS 数理計算上の差異の償却 」by吉永康樹氏
成長というゲームの終わり」by池田信夫氏Blog⇒「JAL年金問題は日本経済の縮図」、「”JAL 企業年金の改定について考える会”の要請
・・・JAL年金問題は、日本経済の縮図であると同時に慣習を要約した日本会計の典型といえるのである。

G 日本の会計基準として纏まったものがない。

何が日本の会計基準か一つに纏めたものがない。例えば、昭和24年公表の企業会計原則は、国際会計基準にはない連結付属明細表として「社債明細表」「借入金等明細表」「資産除去債務」等に日本特有なもので現在も生きている。旧大蔵省時代の企業会計審議会が公表した会計基準金融庁の企業会計審議会の公表した会計基準企業会計基準委員会が公表した会計基準や会計指針などがあるが、現在有効となっているものがどれなのかは、企業会計基準委員会など権威あるところで一つに纏めたものはない。これでは、毎年のように改正される会計基準に関して、財務諸表の作成者、監査人、財務諸表利用者に対して曖昧で不明確である。

例えば、米国では米国の会計基準を纏めて、FASBは、FASB Accounting Standards Codification(会計基準法典)を公表して非政府の会計基準の唯一のものとした。既存の会計基準にとって変わるが変更はない、としている。現在数千ある基準を約90に纏めた。2009年9月15日以降終了する事業年度より適用する。(FASB速報 ニュース 参照)

H EDINET版有価証券報告書の"初期表示"は目次が抜かれページがない、一括印刷できない、リンクが張れないの三重苦

2010年5月13日日本電波工業は、IFRS(国際会計基準)に基づいて10年3月期の決算を発表した。金融庁は10年3月期から、会計基準にIFRSを採用することを認めており、日本電波工業がIFRS任意適用企業の第1号となる。今回、日本電波工業は初めてIFRSに基づいた財務諸表を日本語で発表していたが、2002年3月期からIFRSに基づいた財務諸表は作成していたため「初度適用には該当しない」としている。「参考」として09年3月期と10年3月期のIFRSと日本基準の差異の比較を発表した。 (日経BP

2010年6月25日日本電波工業は、株主総会後有価証券報告書を提出した。提出した有価証券報告書には、国際会計基準にはない連結付属明細表として「社債明細表」「借入金等明細表」「資産除去債務」等が追加して開示されている。 注記15に短期借入金及び長期借入金等で開示している内容である。連結財務諸表の注記番号の頭に※印は無意味で目障り。英文のIFRS連結財務諸表とは異なっており、金融庁独特の開示の指示に従ったものと考えられる。これでは、株主総会前に提出は無理であったろう。読み難い有価証券報告書は会社のサイトに開示はしていない。正解である。金融庁の担当官は、審査をしているが財務諸表とは何か判っていない。(EDINET 参照・・)

電子版有価証券報告書等の情報開示であるEDINETで国際会計基準適用の第一号である日本電波工業の有価証券報告書を見ると上記に加えて、従来から改善されておらず、@各企業の有価証券報告書へ直接リンクできない、AEDINET版の"初期表示”の有価証券報告書には目次が抜かれページが付されておらず、ページ総数が判らない(会社のWeb上に開示している有価証券報告者には目次及びページがある)、B一括印刷もできない。したがって、@リンクできないことから、定期的に特定の会社の有価証券報告書を簡単に見ることができない、Aページが付されていれば、ピンポイントでページを参照して○ページの△についてと指摘できるが、これができない、B一括印刷できないので、非常に不便である。EDINETは、通常の読者を想定しているとは到底思えない。

ちなみに、他の国では、企業にリンクを張れるし、直接、特定の有価証券報告書にもリンクを張れる。無論、紙ベースのようにページが付されており1ページたりとも抜けていないことが確認できる(いわゆるpopulation control (母集団の管理・・総数と途中に抜けていないことの確認)されている)。日本電波工業の”投資家の皆様へ”のホームページには、有価証券報告書を掲載していない(会社の気持ちが分る)。閲覧したい場合は金融庁のEDINETに閲覧したい都度アクセスする必要がある。

EDINET版の有価証券報告書と、会社のホームページ”投資家の皆様へ”に掲載の有価証券報告書の違いは、会社のホームページに掲載の有価証券報告書にはページが付され一括印刷可能になっている一方、EDINET版はページが付されておらず一括印刷ができません。例えば、本田技研工業の場合が典型的です。読者への利便性を会社のホームページで保管している様子がわかる。

会社のホームペー掲載の EDINET掲載の 有価証券報告書速報
ホンダ技研工業 有価証券報告書 有価証券報告書等 有価証券報告書等
読者への利便性を会社の
ホームページで補完しているようだ。
ページあり一括印刷可能 会社の登録書類へリンク不可
ページなし一括印刷不可
読者への利便性は他の国に比べかなり低い

PDFファイルは会社が提出したページありの姿で閲覧可能
会社の提出したページを付した
PDFファイルの有価証券報告書等
をリンクできる。

会社が金融庁EDINETへ提出したPDFファイルの有価証券報告書等はページが付してあり全文です。これを閲覧するには、EDINETへアクセスするより、Googleで「●●会社 有価証券報告書 searchina」と検索してSearchinaのサイトのPDFファイルを閲覧したほうが早くて確実・簡単です。

I 外国会社、例えば、IFRS適用のダイムラー社の”初期表示”の財務諸表には注記が表示されない。

東京証券取引所に上場の外国会社の財務諸表を金融庁のEDINET見てみると、投資家保護のための情報開示とは思えないことが起きていることが分る。

例えば、ドイツの車製造会社ダイムラー・ア−ゲ−(Daimler AG)が届け出た2009年度の有価証券報告書は総計363ページあるが、金融庁のEDINETでは、提出書類”初期表示”の第6経理の状況に、1.連結財務書類、2.主な資産・負債及び収支の内容、3.その他、4.国際財務報告基準(IFRS)と日本における会計原則及び会計慣行(会計基準)の相違を見ることができる。ただし、1.の連結財務書類は(1)連結損益計算書3期、(2)連結包括損益計算書、(3)連結貸借対照表、(4)連結株主持分変動計算書の四つの計算書しか掲載していない。それぞれの計算書には、”添付の注記事項は、これらの連結財務諸表の一部を構成している。”と記載してあるに関わらず「注記事項」は掲載されていない。これが金融庁がいう投資家保護の開示であろうか。PDFファイルには提出された書類の全てが表示される。提出書類”初期表示”は無駄。

なお、ダイムラー社はEDINETに363ページの有価証券報告書を提出している痕跡がある。投資家向けサイトの有価証券報告書速報EDINETに提出の有価証券報告書が掲載されているからである。

EDINET掲載の 有価証券報告書速報
ダイムラー・アーゲー社
(未上場)
有価証券報告書等 有価証券報告書(E05854)
EDINETはページがなくなる
PDFファイルはすべて表示されます。
上記は、グーグル検索で表示されたものです。 


東芝の不適切会計は金融庁の開示ルールが生んだ日本特有の事件

ビジネスジャーナル2015年5月8日(金)東芝は過去に不適切な会計処理が行われたとして、2015年3月期連結決算の公表を6月以降に延期すると発表した。【過去の有価証券報告書

5月15日、第三者委員化が設置され調査が開始された。

7月20日、東芝は、不適切会計問題を調べてきた第三者委員会(委員長:上田広一元東京高検検事長)の報告要旨を公表した。報告は、歴代社長ら「経営トップの関与に基づき、組織的に不適切会計が実行・継続された」と断じるとともに、過年度の利益の過大計上が総額1562億円にのぼったことを明らかにした。報告が示した税引前利益の過大計上額は2009年3月期から2014年4−12月期までの累計。第三者委の調査で1518億円、東芝の自主チェックで44億円が判明した。東芝は過大計上額を548億円と発表していたが、3倍近くに膨らんだ。

報告は不適切会計が行われた原因について、田中社長、前社長の佐々木副会長ら経営トップが高い収益目標を達成するため、「社長月例」と呼ばれる定例会議で、目標実現を事業部門に強く迫ったためであると指摘。「歴代社長の利益至上主義のもと、事業部門は目標必達のプレッシャーを強く受けていた」とし、事業部門が不適切な会計処理に追い込まれていた実態を明らかにした。
間接的な原因として、内部統制の不備もあげた。経理部や財務部のほか、取締役会、監査委員会の内部統制が機能せず、会計監査人の外部統制も十分に機能しなかったと指摘した。報告は「経営トップらは適切な会計処理の意識が希薄だった」とする一方、同社には「上司の意向に逆らうことのできない企業風土が存在」すると言明。再発防止策として、社外取締役と監査委員会を増員し、外部の人材を監査委員長に起用するよう提言した。【ロイター

第三者委員会は「東芝から嘱託を受けて、東芝のためだけにおこなわれた」として監査法人の監査については言及せづ、巨額ののれんの減損会計の可否について触れていない。

歴代トップ辞任 第3者委、組織的関与強調・・西田厚聡(あつとし)相談役や、佐々木 則夫副会長、田中久雄社長の歴代3社長らが、21日付で辞任し、室町正志会長が、9月下旬に予定される臨時株主総会まで、社長を兼務するという。【FNN

東芝が適用した米国会計基準で作成された財務諸表とは
金融庁が、ルール・メーカーとして内閣府令の下記(イ)で特別扱いをして作成された財務諸表である。

ア.米国証券取引委員会(以下「SEC」という。)に米国式連結財務諸表を登録している日本企業が、金融商品取引法上の連結財務諸表の作成基準として、米国基準を使用できる規定について、平成28年3月31日までとする使用期限を撤廃することとします。
また、新規にSECに米国式連結財務諸表を登録した日本企業は、改正府令の公布・施行の日以後、金融商品取引法上の連結財務諸表の作成基準として、米国基準を使用できることとします。
上記を踏まえ、連結財務諸表規則に第8章を新設するとともに、連結財務諸表規則等の一部を改正する内閣府令(平成21年内閣府令第73号)附則第2条第3項を削除します。

イ.SECに米国式連結財務諸表を登録していない日本企業のうち、連結財務諸表制度の導入(昭和52年)前から米国基準を使用している日本企業が、金融商品取引法上の連結財務諸表の作成基準として、米国基準を使用できる規定について、平成28年3月31日までとする期限を撤廃し、当分の間、米国基準を使用できることとします。

東芝は、藤沼亜起氏の言うところの「ナンチャッテ米国基準」を使っており、米国SECに登録せずSECにチェックされていない会社なのだ。11月7日、東芝は、米国における集団訴訟について、「当社は米国預託証券の発行に関与していません。米国証券関連法令の適用がないこと等を理由に、集団訴訟の棄却を裁判所に申し立てる予定です」としている。金融庁の開示ルールが生んだモンスターと言える。
東芝は、米国預託証券の発行により1962年2月に米国証券取引委員会に登録しましたが、1978年11月に預託契約が終結したため、現在は登録していません。 1978年3月22日に金融庁の前身である大蔵省の承認を受けて米国会計基準による財務諸表を有価証券報告書に適用している、としている。【役員責任調査委員会の調査報告書25ページ

東芝の株式は、米国SECに登録されていないにもかかわらず、米国証券会社が勝手に東芝株の米国預託証券(ADR)として米国で流通しているのだ。【米国OTC市場におけるわが国企業のスポンサーなしADRとSECによる国際証券規制by岡村 雅仁氏】・・東芝株は勝手ADRでSECに登録していない。

スクープ、東芝 米原発赤字も隠蔽・内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損
2015年11月12日、日経ビジネスウが、かねて問題としていたウエスチングハウス社の高値買収で生じていた「のれん」の減損について、日経ビジネスが独自に入手した内部資料によると、WHの実情は東芝の説明とは大きく乖離している。経営陣の電子メールなどを基に、東芝とWHが抱える“秘密”を明らかにしていくとして、内部資料をスクープした。

これに対して、翌日13日、東芝コメントを初めて公表した。続いて、17日に追加説明をしている。
東芝は11月27日、米原発子会社ウエスチングハウス(WH)の減損処理などに関する説明会を開いた。【日経ビジネス11月28日】「(巨額減損について)私は全く認識していなかった」 東芝の室町正志社長は質問した記者に対して、こう言い切った。

いずれも室町社長に向けられた質問だったが、最高責任者が直接回答することはなかった。電力・社会インフラ事業グループを所管する志賀重範・副社長や、平田政善・CFO(最高財務責任者)【不正会計時のCFO前田恵造氏)が財務顧問に就任】がマイクを奪い、東芝の「公式見解」を代弁したからだ。

参考挙動不審の米ウェスチングハウス?2012年05月29日の記事・・4月1日付で社長就任予定だったジム・ファーランド同社米州地域総責任者が、突如この3月末に退職。2日付で東芝常務の志賀重範氏が暫定的に社長に就任した。4日、退社したファーランド氏は、米重機大手のバブコック&ウィルコックスCEOに就任。WH内における経営路線の対立が一因とも言われている。】
「原発46基受注」東芝バラ色予測の疑問だらけ】by毎日新聞2015年12月2日


米国証券取引委員会(SEC)に登録されていれば、SECのスタッフによる開示チェックが行われる(SECのコメントレター  Filing Review Process
会計監査人が財務諸表に関して米国会計基準に準拠して適正に表示しているかどうかについて意見を表明する。監査人が適正であると”総合的”判断すれば、無限定適正意見を表明し、不適正であるとするなら、不適正の部分を明示して財務諸表全体の及ぼす重要性がある場合に不適正意見を述べることになる。監査意見は総合的に述べられることになるため、不十分な開示が意見に表明されないことがある。監査報告書の適合性及び情報価値を高めるために「国際監査報告書の改定」が検討されている。「国際監査・保証基準審議会による監査報告書の改訂に関する公開草案」「国際監査・保証基準審議会による監査報告書の改訂について

そこで、米国証券取引委員会(SEC)では、SECのスタッフが、米国会計基準に準拠して適切に適用され投資家の投資判断に十分な開示がされているかどうかについてチェックされ疑問点などを登録企業にたいして書面にてコメントレターが発出され回答を要求する。これは、財務諸表の開示に不十分な場合、登録企業は姿勢を正して適切な開示をするモチベーションにもなる。もし東芝がSECに登録していれば、東芝のウエスチングハウスの買収に係る「のれん」の場合、財務諸表の「のれん」の注記が不十分である旨のコメントレターが発出された可能性は高い。財務諸表の作成者は、SECスタッフによるコメントレターが適切な開示へのプレッシャーになり投資家に対する適切な情報となるような作用がある。

SECスタッフ・コメントレターは、財務諸表を監査している米国監査法人にとっても、米国会計基準に準拠して適切な注記を含めた情報開示に資することから年度ごとに整理してまとめた小冊子を作り顧客企業に配布している。【SECコメントレター デロイト翻訳版


東芝の場合、米国会計基準で作成していた財務諸表は、会計監査人の監査報告書のみで、監督当局・金融庁の担当官が開示チェックをして会社の開示が投資家に十分役立つ開示であったのか確認する仕組みはない。開示チェックしていれば、東芝の米国会計基準による「のれん」の注記はお粗末過ぎるものであった。要するに、監査法人の監査さえ通れば、監督当局のチェックのない勝手気ままな仕組みの中でルーズな開示が長年許されてきたのである。東芝の企業風土はそうした気ままな情報開示の仕組みの中で醸し出されたもので、新たな役員も一向に改善されない情報開示のルーズな姿勢は東芝にとって企業風土(tone of an organization)となっており不思議ではない。

金融庁の会計基準に対する認識が変わらない限り、そして監督当局が会計基準に準拠して注記を含む開示のチェックを書面で質問し回答を得、その経過を公表し、監督当局の開示チェックの内容を見える形にしない限り、日本企業の企業風土は、形式だけ整えるばかりで実態を伴わない東芝と似たり寄ったりと言えよう。金融庁がチェックを見える形でして汗をかくということだ。企業の適切な情報開示に監督官庁が汗をかかずに健全な投資家の参加による証券市場の発展はないのだ。

これまでもWHの減損テストについては、「将来の見通しと現実に乖離がある」(同)として、新日本監査法人とは何度も衝突してきた。「新日本は年度末には、減損を指摘してくるのではないか」と、東芝に詳しい業界関係者は話す。【ダイヤモンド】・・・これが本当なら、日本の監査人は監督当局の側面からの開示チェックがないまま、孤軍奮闘していることになる。

また、国際会計基準に移行する企業が増えつつあり現在96社となっている。当初の適用時期は会計士との共同作業で開示されるので忠実な開示がされようが、そのうち、監督当局の会計基準に準拠した開示チェックが甘いことが分かると東芝と同様のことになることは目に見えている。

2015年9月30日、金融庁・証券取引等監視委員会 佐々木清隆事務局長(7月から現職)は、東芝の不適切会計に関する件でブルームバーグに対して【佐々木氏は東芝で問題となった開示検査についても重視していく意向を示した。「適正な開示が行われないということは、市場の公正性にとどまらずコーポレートガバナンス(企業統治)、日本経済発展の上でも極めて重要な問題だ」と述べた】という。開示検査をしてこなかったことを監督当局自ら露呈している。現に、佐々木清隆氏の「監査の役割」には、三様監査(内部監査、監査役監査、会計監査人監査)で当局検査は金融機関の場合としているのだ。 平成17年から「開示検査」をしているというが東芝のケースを検査しないで検査しているといえるのでしょうか。今後、SECのスタッフ・コメント・レターのように透明性の高い形で検査できるかが問題だ。法律の裏付けと、専門性の高い良質のコメントレターを発出と回答の入手が透明性高く行われる必要があるからである。過去に一度も実施されていないこうした開示チェックは投資家保護に重要な要素であるからだ。【証券取引等監視委員会の過去20年について】・・平成24年度末の定員は714人だそうです。【開示検査に関する基本指針】・・本基指針は、平成25年8月30日から施行する。米国SECのコメントレターのような透明性がなく不透明で典型的な裁量行政となっている。

2015年12月7日、金融庁・証券取引等監視委員会は、東芝に73億7350万円の課徴金を課すよう金融庁に勧告した。一連の不適切な会計処理が投資家に与えた影響が大きかったと判断した。課徴金の金額は今までで最大だったIHIの約16億円を超えて、最大規模になる見通し。東芝はすでに引当金として84億円を計上している。 金融庁は監視委からの勧告を受け、東芝の主張を聞く審判手続きに入る。東芝が違反事実を認めれば、通常1カ月前後で課徴金命令が下る。【日本経済新聞

7日同日、監視委の佐々木清隆事務局長らが記者会見し、金融庁と連携して東芝の企業体質の改善を今後も監視するとともに、開示検査の手法を見直す方針を明らかにした。企業の開示書類に重大な虚偽記載があるかどうかを調べる監視委の検査は、これまで内部通報窓口への情報提供などを端緒に実施してきた。東芝への検査も今年2月、監視委に寄せられた内部通報がきっかけだったが、東芝では以前から不適切な会計処理が常態化。当局には「早期に問題を発見し指摘できていれば、ここまで傷口が広がらなかった」との反省がある。【証券取引監視委企業への監視体制を強化東芝問題受け】・・開示検査は、会計基準に準拠して開示しているかどうかの検査をしていればよいのであって、事務局長は勘違いしている。SECの開示検査を知るべきだ。会計監査の経験のない事務局長では理解に限界があるようだ。

内部統制について
監査をしていて、常に、内部統制が機能しているか考えながら監査をしている。監査の基礎である。正しい財務諸表は、日々記録される取引記録から集計、分類、作表されて作られる。それれの取引記録に、実態があり、正確に記録され、集計されていることを機能している内部統制は保証するものだからである。この保証がなければ、すべての取引について、または範囲を広げて実態がある取引なのか検証するために強い監査証拠を入手しなければならないことになり、実質的に膨大な監査時間を必要とし膨大な監査費用となってしまい企業の負担に堪えられなくなる。近代監査は、内部統制の吟味をして内部統制が機能して始めて試査(テスト)による監査が認められている。試査は内部統制が機能していて始めて認められるのだ。内部統制が機能していない場合は、監査範囲の拡大と監査証拠のより強い証拠を入手することが求められる。 

内部統制を、視点を変えてみると、内部統制が機能してなく、誰のチェックも受けす取引録を記録できることで不正を働くケースがある。不正を働く者の多くは、発見されるまで続けて、発見されて、犯罪者とし誹謗中傷を受け人生を狂わせ、会社の上司は、時に、管理責任を問われる。不正を働いた者、その上司は不幸な状況に陥るケースが多い。

内部統制が機能していれば、不幸な人生を歩まなくて済むのにと常に思いつつ監査をしている。内部統制が機能していれば、投資情報は限りなく正確に開示され、また、一方で、犯罪者を生まず不幸な出来事がないと信じている。 

東芝の場合も、規制当局が適切な開示チェックを行って機能していれば、投資家への正しい投資情報が開示され、企業として過去最大の73億円の課徴金を課せられることなく、役員が粉飾決算をせず損害賠償の訴えを受けづ、監査法人は処分を受けることがなかったまも知れない。少なくともその可能性はあった。

資本市場のガバナンスについて
 資本
市場の健全な運営には、市場関係者の地道な努力が欠かせないのだ。経営者の責任や監査人の責任を追求することも重要あるが、資本市場で大事なのは投資者に正しい情報が届く仕組みが保証されていることである。その点、わが国は、米国会計基準を許しており、かつ、米国SECに登録していないでその開示チェックも受けていない東芝のような会社の規制当局の開示チェックが空白となっていることが役員の暴走を生む余地があったと言えよう。正しい情報開示ができること、不幸な企業と不幸な監査人を生まないためにも、資本市場を取り巻く関係者(規制当局を含む)の役割を正しく機能させることが重要なのである。残念ながら、監査の現状は、注記を含む開示チェックの責任を会計士にのみ依拠する無理がある。米国SECスタッフのコメント・レターはそれを補完しているのだ。

監査法人の処分:
公認会計士・監査審査会は、12月8日、会計不祥事を起こした東芝の監査を担当した新日本監査法人に対し、行政処分をするよう金融庁に勧告する方針を固めた。新日本が監査法人として果たすべき監査をしていなかったと判断した。月内にも勧告し、金融庁が行政処分の詳細を決める。【日本経済新聞
15日、「新日本有限責任監査法人に対する検査結果に基づく勧告について」と出して、行政処分その他の措置を講ずることを勧告した。監査審査会天谷知子事務局長は15日、「改善策の徹底が不十分で甘い」と新日本を強く批判した。勧告内容を見ると具体性に欠け曖昧なところが多く分かりにくい。
新日本の理事長ら経営層から個別企業の監査を担う「業務執行社員」まで、幅広い層の責任を明記したものの、勧告に具体的な案件として「東芝」の記載はなかった。監査委員会が東芝の個別案件にとどまらず、新日本の監査全般を問題視している様子が浮き彫りになる。【東芝の粉飾を見逃した「新日本監査法人」が存亡の危機

公認会計士・監査審査会会長の友杉芳正氏の「監査品質の向上を目指して」を見ると、金融庁の開示検査の視点が欠けており、投資家保護の目的で設置された金融庁の役割が全く欠如しているのが分かる。「証券取引等監視委員会」は、アメリカの 「公開会社会計監督審査会」( PCAOB : Public Company Accounting Oversight Board ) に倣って設置され、その役割はPCAOBに似ている。開示検査は米国証券取引委員会(SEC)が行っており、これは、日本の証券取引等監視委員会の役割ということだろう。しかし、金融庁の中で縦割り行政となってしまって、投資家保護の情報開示検査が二の次になってしまっているのだ。少なくとも金融庁設置法の趣旨の投資家保護(投資者その他これらに準ずる者の保護を図るprotect investors)をもっと考えるべきだ。

2015年12月22日クリスマスが迫った日に、金融庁は、東芝の監査法人と担当会計士に対する処分を「監査法人及び公認会計士の懲戒処分等について」として発表した。いかにも金融庁らしい処分である。監査法人への課徴金など事前にリークして10日の朝日新聞が報道していた通りとなった
1.監査法人
(1)処分の対象者   新日本有限責任監査法人(所在地:東京都千代田区)
(2)処分の内容    契約の新規の締結に関する業務の停止 3月(平成28年1月1日から同年3月31日まで)
              業務改善命令(業務管理体制の改善。詳細は下記4参照)
              ※併せて、同日、約21億円の課徴金納付命令に係る審判手続開始を決定
(3)処分理由  
新日本有限責任監査法人(以下「当監査法人」という。)は、株式会社東芝(以下「東芝」という。)の平成22年3月期、平成24年3月期及び平成25年3月期における財務書類の監査において、下記7名の公認会計士が、相当の注意を怠り、重大な虚偽のある財務書類を重大な虚偽のないものとして証明した。
当監査法人の運営が著しく不当と認められた。

2.公認会計士 7名の担当公認会計士が業務停止6か月から1か月
3.事案の概要・・すでに報道されている粉飾事案のみ。 背景にあったとされるウエスチングハウス社の「のれん」の減損に関する情報開示については一言も記述がない。

東芝に課徴金73億円勧告 改革監視、異例の継続【毎日新聞】・・佐々木清隆事務局長のコメントが印象的

新日本有限責任監査法人が7月22日、数百人いる幹部社員(パートナー)むけに開いた「臨時パートナーミーティング」で持永勇一専務理事が、「公認会計士・監査審査会(当時は佐々木清隆事務局長)からは2011年(平成23年)3月期の、それぞれの東芝の決算を抽出して検査を受けたが、いずれも適正と判断された」と説明した、として処分されていないようだ。【WEBRONZAより

東芝の意向を受けた第三者委員会の報告書に纏められた粉飾を処分理由としており、米国会計基準に関する財務情報(のれんの減損を含む)についての言及はない。所謂、証券取引等監視員会のパンフレットにあるように平成17年7月から「開示検査」をしているはずである。
米国SECのように開示検査(コメント レター)を効果的に行っていれば東芝も適切に準拠して適正な開示をして粉飾はなかったかもしれないし、監査法人の監査の失敗もなく処分されることもなかった可能性はあると考えている。金融庁の処分は、行政の怠慢を隠してスケープゴートにされた感がある。【米国SECのコメント・レターの仕組み、 SECコメントレター デロイト翻訳版

規制当局は、投資者保護のために、企業が会計基準に準拠して適切に情報開示しているかどうかについて、自ら作成したパンフレットの通りに開示検査をすべきだ。企業は、規制当局の監視によっても適切な情報開示をする姿勢を示すことになる。現在の監査報告書には限界があり、改善に向けて米国及び国際会計士連盟は監査報告書の報告内容を検討中である。第一次的には、投資家に正確な情報を適時適切に報告させ、規制当局の処分を受けるという不幸は未然に防止し、不祥事の再発防止に努めるべきだ。

来年度の監査契約を辞退・・追加情報
「東芝」は「新日本監査法人」から来年度、監査の契約を辞退する申し出があったことを明らかにしました。辞退の理由について新日本監査法人では「不正な会計処理の問題に関する第三者委員会の報告書で、東芝では長年にわたり、組織的な隠蔽が行われていたと指摘していることを踏まえた」としています。これを受けて東芝では、代わりとなる新しい監査法人を選ぶ作業を進めていて、決まりしだい、公表することにしています。

新日本監査法人は、2015年12月22日付(金融庁の行政処分発表の日)に、「弊法人の責任の明確化について」と題した文書を公表した。理事長は1月末退任、品質管理部長は8月6日付で職を解任、常務理事11月30日付退任、関係者として東芝の監査担当の業務執行社員6名は12月21日付退職、月額報酬減額が1月より、理事長50%1か月(1月退任する)、副理事長2名40%3か月減額、経営専務理事(Q&RM管掌))1名40%3か月減額、経営専務理事2名30%3か月減額、常務理事20%3か月減額。その他として、東芝の監査契約を辞退します、としています。かなりぶっきらぼうな文書です。同日公表の「幣法人の改革(案)」は、公表が遅いし内容は目新しいものはなく今までの内容が酷いことを証明しているように見える。

12月24日、元検事でIHIの監査役の郷原信郎氏が、【新日本監査行政処分から見えてくる「東芝会計不正の深い闇」】と題しての記述があり、興味深いのは品質管理本部長のM氏の行動だ。加えて、監査役として「来期の監査契約を行うかどうかを判断する重要な責務を担うことになる」として、山口利明弁護士も指摘している「課徴金納付命令を受けた新日本の再任の可否について判断を適切に行わなければ、善管注意義務違反に問われることになる」としている点だ。新日本監査法人の存亡の危機が現実味を帯びてきたかも知れない

品質管理トップの持永勇一・専務理事も処分は報酬減額にとどまり、同様に居座ったまま。「彼も出世は確実」(新日本関係者)というから自浄作用があるとは言い難い。【ダイヤモンド・オンライン

ウエスチングハウス社の「のれん」を減損しないまま引き受ける監査法人があるとは思えない。監査を引き受ける条件として、リスクを避けるために、必ず、「のれん」の減損を条件としてくるだろう。東芝の説明に説得力はない。かつ、新日本監査法人の金融庁の処分内容を見ると監査報告書に疑念があるためだ。なお、上場を維持するとなると、たな卸があるので年度末以前に監査人の変更があることになる。

◎金融庁は「開示検査」をしていなかったことを露呈した

金融庁設置法によると、有価証券(株式等)の投資者の保護を図り、その任務を達成するために企画立案するとある。
(任務)
第三条  金融庁は、我が国の金融の機能の安定を確保し、預金者、保険契約者、有価証券の投資者その他これらに準ずる者の保護を図るとともに、金融の円滑を図ることを任務とする。

上場会社の発行する株式の投資家保護とは、継続企業にあっては企業の内容に関して決算ごとに定期的に情報開示する有価証券報告書である。有価証券報告書には、企業の業績、財政状態、キャッシュフローの状況を開示した財務諸表が含まれる。この財務諸表には、監査法人の監査報告書が添付されることが義務つけられている。


企業が財務諸表の虚偽記載をして、適正意見を表明した監査法人は金融庁の行政処分の対象となる。東芝のケースでは、約21億円の課徴金を課され、担当会計士は業務停止6か月から1か月等処分を受けている。企業に対しては、"有価証券報告書等の虚偽記載について"約73億円課徴金を課された。報道は、東芝の虚偽記載に対しての批判と、担当監査法人への非難が渦巻いている。金融庁の企業や監査法人に対する処分にのみが記事となり、行政がどうあるべきであったのか何も記載がない。ここでは、投資者の保護のために、@規制当局が企画立案してきたか、A制度整備ができているのなら実施してきているのかを検証してみたい。

一方、金融庁は、「監査の在り方に関する懇談会」を立ち上げ、監査さえ正しく機能していれば東芝のケースがなかったかのような動きをした。その議事要旨を見ると、東芝とは関係ない監査事務所のローテーションなど東芝の監査の処分が出る前の段階で議論し始めているのである。議論の中身は東芝の監査には関係ないようだ。


有価証券報告書の受理
監査を受けた有価証券報告書は、金融庁から委託された各地の財務局が受理して、金融庁のEDINETに掲載されて公衆の一覧に供される。

証券取引等監視委員会
受理された有価証券報告書は、「開示書類の提出を有価証券の発行者等に義務付け、これらを公衆縦覧に供することにより、有価証券の発行者の事業内容、財務内容等を正確、公平かつ迅速に開示し、もって投資者保護を図ろうとする制度です」とあり、「開示書類は〜その他の物件の検査(以下「開示検査」という)を行うことができるとされる」としています。
そして、開示検査は、(1)正確な企業情報等が迅速かつ公平に市場に提供されるようにすること、(2)ディスクロージャー規制の違反行為を抑止することにより、証券監視委の使命である市場の公正性・透明性の確保と投資者の保護に資することを目的として行われています。検査に当たっては、上場企業等が虚偽記載等を行った場合に設置される第三者委員会の担う役割も踏まえつつ、当該企業が自律的かつ迅速に正しい財務情報を市場に提供できるよう、企業自身の適切な取組みを促すこととしている。

上記の文面を見ると、証券取引等監視委員会の使命を全うしていれば、次のことが言えるのではないでしょうか。

開示検査
が適切に行われていれば、東芝のディスクロージャー規制の違反行為を抑止でき、正確な企業情報が迅速かつ公平に市場に提供され投資家に損害を与えることはなかったはずである、と。

開示検査について

証券取引等監視委員会が自ら作成した【開示検査に関する基本指針】が公表されています。本基指針は、平成25年8月30日から施行する、としていますが、米国SECのコメントレターのような透明性がなく不透明で典型的な裁量行政となっています。米国SECのコメントレターでは、企業とのやり取りは纏められて公表され透明性が確保される。日本の場合は、何をどのような指摘をしのか分からず、極端にいえば何もしなくても、裁量行政で行き当たりばったりの非効率な検査をしていても分からない状況にある。検査を受ける側も納得できる検査内容であることが必要だ。


開示検査が有効に機能しない状況証拠

財務諸表は重要な投資家保護の企業情報です。例えば、東芝に関しては、@ウエスチングハウス社の買収に関する「のれん」の減損会計が米国会計基準に準拠して会計処理しているのか開示検査していたのか、少なくとも財務諸表の注記には投資家の判断できるほどの詳細な開示がないA財務制限条項(Debt Covenants)が米国会計基準に準拠して社債及び借入金の注記に具体的に開示しているのかの開示検査をしていたのか、少なくとも注記には具体的な制限情報を開示すべきであった、B退職給付引当金の適用した割引率が他社より高く説明が不十分であることなど、開示検査をしていれば、ディスクロージャー規制の違反行為を抑止することができた可能性はある。節穴であれば別だが・・

現在、財務諸表の作成基準は、イ)日本の会計基準、ロ)米国会計基準、ハ)国際会計基準および、ニ)修正国際基準の四つを金融庁は認めている。しかし、東芝のケースで分かったことだが、米国会計基準で作成した財務諸表は監査人だけのチェックで、証券等取引監視員会のチェックを受けていないのではないか、と思われる節がある。金融庁の処分内容を見ると、米国会計基準の違反事例とは書いてないのだ。「のれん」の減損会計は米国会計基準である。日本会計基準は20年償却である。

東芝のケースは、米国SECには登録しておらず米国SECの規制から外れている。したがって、金融庁が認めた内閣府令の下記(イ)で特別扱いをして作成された財務諸表である。
イ.SECに米国式連結財務諸表を登録していない日本企業のうち、連結財務諸表制度の導入(昭和52年)前から米国基準を使用している日本企業が、金融商品取引法上の連結財務諸表の作成基準として、米国基準を使用できる規定について、平成28年3月31日までとする期限を撤廃し、当分の間、米国基準を使用できることとします。

米国会計基準を認めたのなら、その基準に準拠して注記による開示を含めて、米国会計基準に準拠して適正に開示しているかどうかについて開示検査をする必要がある。この必要性は、投資家保護のために必要な規制当局の仕事でもある。

米国会計基準に知悉した人が金融庁にいるとは思えない。報道によれば、開示検査をしている証券取引等監視委員会の佐々木清隆事務局長は、東芝の不適切会計に関する件でブルームバーグに対して【佐々木氏は東芝で問題となった開示検査についても重視していく意向を示した】とし、また、東芝を処分した日に、監視委の佐々木清隆事務局長らが記者会見し、金融庁と連携して東芝の企業体質の改善を今後も監視するとともに、開示検査の手法を見直す方針を明らかにした。企業の開示書類に重大な虚偽記載があるかどうかを調べる監視委の検査は、これまで内部通報窓口への情報提供などを端緒に実施してきた。東芝への検査も今年2月、監視委に寄せられた内部通報がきっかけだったが、東芝では以前から不適切な会計処理が常態化。当局には「早期に問題を発見し指摘できていれば、ここまで傷口が広がらなかった」との反省がある、としている。認識は正しい。しかし、同時に担当当局が開示検査をしてこなかったことを露呈していることでもある。


国際会計基準での開示を認めており、すでに適用している会社もある。国際会計基準だけで2500ページを超える。実務では、会計監査実務を経験して初めて国際会計基準の理解ができるのが普通だ。ペーパーテストだけで企業実務家に対して指摘できるものではない。つまり、会計基準の知識は無論のこと、基準に準拠した実務事例を多く経験することが企業の実務家を説得する力が得られるのだ。
米国会計基準は、国際会計基準よりも歴史が古く詳細な規定があり、ほとんどのケースで回答が得られるほど充実している。こうした知識経験を備えた人が金融庁にいるとは思えない。それほど優秀であれば米国会計事務所で高額報酬のパートナーに従事しているはずだ。
日本の会計基準はどうかといえば、米国会計基準や国際会計基準のように年度ごとの有効となっている会計基準を取りまとめたカレント・テキスト(Current Text)があるが、日本会計基準にはカレント・テキストがない。したがって、基準とは言うものの完全性を備えていないのだ。つまり、投資情報としての完全性を追求してこなかったのだ。
加えて、金融庁は、多くの反対を押し切って、修正国際基準を適用できるようにした。
この、4つの基準を適用可能としているということは、この4つの基準に知悉した者がいて有効・効果的な開示検査をしているとは言い難いのであある。
米国でさえ、認めている基準は、米国会計基準と国際会計基準の二つの基準しかなく、基準への準拠性をチェックすることで開示のチェックを行っているのである。


虚偽記載で投資家に損害を与えたということは、投資家保護を使命とした金融庁の制度の企画立案を含めて行政の失敗でもある。マスコミにとっては、企業の処分、会計士の処分はニュースであり商売のネタでもある。しかし、金融庁がまともな仕事をしていれば、企業の不祥事は未然に防止され、年金資産を含む投資家に損害を与えることがなく、かつ、会計士の処分もなくて済んだことかもしれないのだ。監督官庁が有効に機能して資本市場の損害のない社会を築いて欲しいものである


参考:証券取引等監視委員会金融商品取引法における課徴金事例集〜開示規制違反編〜」・・素人受けする”税務調査のような”粉飾事例集である。会計基準の準拠性よりも程度が低い粉飾事例のみである。東芝のケースのように、会計基準の適用の誤りまでは見ていない。粉飾を防止するには、もっと程度の高い開示検査が必要だ。規制当局の検査を含む資本市場のガバナンスが甘いと企業はタガを外れて暴走するものだ。東芝のケースはそれを教えている。

金融庁が特に問題視するのは、パソコン事業の不正を見逃したことだ。……と金融庁の動向に詳しい八田進二・青山学院大大学院教授が述べている。もっと重要なことは、ウエスチングハウス社の「のれん」について、米国会計基準による減損会計が正しいかどうかであろうことは大方の識者は分かっている。金融庁の検査は税務調査なみで、適切な情報開示に関するか会計基準への準拠性のチェックはないといっていい。

東芝のケースでは、米国会計準の準拠性を開示検査で指摘していれば会計不正は抑止されて、企業は粉飾を止まった可能性はある。検査内容のレベルの低さは、企業会計のレベルの低さに比例して、程度の低い粉飾は繰り返される。証券取引等監視委員会の課徴金事例集を見るとそれを証明している。内容は、企業会計原則以前の内容ばかりで、税務調査と勘違いしている節があるのだ。米国SECのコメント・レター方式であれば会計基準の準拠性のチェックで指摘事項を問い合わせ回答をもらうことで低コストで広範囲を企業を対象にでき、かつ、透明性を確保できる。投資家の投資判断を適切にできるように会計基準は設計されている。この基準に準拠しているかどうかが投資家保護の重要な部分なのだ。粉飾より広い範囲をカバーしている。退職給付引手金の割引率が異常に高い開示をしたり、財務制限条項という重要な内容を適当に開示したり、のれんの減損の開示を適当に開示したりしても、現在の課徴金事例の開示検査では絶対に見つからない。金融庁は、日本基準、米国基準、国際会計基準、修正国際基準と4つも基準を認めているということは「開示検査」の意味するところを理解していないと思う。証券取引等監視員会の事務方トップが官僚であり限り理解を得られることは難しく改善は難しいであろう。

金融庁各財務局の「有価証券報告書のレビューの実施について・・重点審査概要」・・エクセルの「調査票」なるものを見れば、有価証券報告書の退職給付制度の開示チェックリストで開示チェックの担当官の仕事を企業に代行させて記載させているようなものだ。本来、会計基準に準拠して適正に表示しているかどうかについて、開示内容を見てチェックするものであろう。前年度の表示を見ればチェックできるし、変更があればその旨を聞けばできるものだ。開示検査になっていない。手抜きの仕事をしているようなものだ。肝心な質問事項がなく、東芝のケースは、適用した割引率が高いために過少表示の疑いがあった。この調査票ではこのような場合の実質的なチェックがされていない。会計基準に参照されていないので、国際会計基準の適用会社はチェックされていない。つまり、実質的に投資家の保護になっていないということだ。つまり、第二の東芝がでてくることは確実だ。繰り返されるだろう。チェックされる側は、チェックする側の程度以上にはならないことが多い。作成者である企業も、監査をする会計士も・・・ チェックする側の程度が高くなれば、企業も会計士も程度は上がるということだ。それにより、投資家の保護も充実することになるということだ。現在は逆だから、企業はタガを緩めることがある。東芝のように・・・

金融庁、M&Aの会計処理を重点審査 4000社対象に2014/6/17日本経済新聞 電子版・・・・東芝のウエスチングハウス社の「のれん」はどうであったのでしょう?この重点審査は何だったのでしょうか?開示検査を、金融庁、各財務局、証券等取引等監視員会など重複してチェックしていても実質的な検査とはなっていないので、東芝のケースのような事例は今後も続くだろう。完璧はないが、日本より有効なのは、米国証券取引委員会の開示チェックの仕組みを入れて実質的きなチェックを行うべきなのだ。

マスコミは、金融庁が公表する東芝、監査法人の処分情報を報道する。読者は、処分内容の厳しさに留飲を下げる。一方的な報道でバランスを欠いておりおかしい。真実はどこにあるか、批判的な見方も必要であろう。金融庁の役割は「処分」のみでないはず。そう金融庁設置法には「投資家保護」のために企画立案する、とある。投資家保護をすることが使命の官庁なのだ。東芝が有価証券報告書の虚偽記載をして、投資家に損害を与えたのである。無論、虚偽記載した東芝、監査の失敗をした監査法人の処分は必要にしても、制度設計する権限を持ち保護する立場の金融庁の怠慢でもある。金融庁の使命を果たしていないのだ。これを、マスコミは報道しない。

内部統制を強化した。しかし、会計の専門家が入っていない(東芝の場合は米国SECに登録してなく米国会計基準を適用していた)、従って、内部統制は機能しないのは誰の目にも明らかだ。そのような中で、金融庁が適用を認め米国会計基準による連結財務諸表の開示検査を証券取引等監視委員会は行っていなかった

おりしも、ロス疑惑で世間をにぎわした三浦氏の裁判官が、「日本中が有罪と信じているこの事件で、どうして裁判所だけが無罪を言い渡せるのか」。1981年のロス疑惑銃撃事件に関連した殴打事件で、殺人未遂罪に問われた三浦和義元社長(自殺)の控訴審を担当した元裁判官が、当時の裁判長(故人)の評議における発言を公表した。高裁は94年、控訴を棄却し、最高裁も上告を棄却して有罪が確定。一方、銃撃事件では三浦元社長の無罪が確定している。時事ドットコム(2016/01/18-06:13)】 金融庁の担当官に、この裁判官と同じような心情が起きていないか考えさせる。

東芝の事件も、マスコミは、一方的な情報源から金融庁の東芝と監査法人の処分のみを強調して報道し、金融庁の役割を冷静に分析して報道しているところはない。公正な社会を築けないでいるのはマスコミの勉強不足は否めない。

平成27年事務年度 金融行政方針(2015年9月18日公開)」・・に目を通してみると、C 開示及び会計基準の質の向上には、(ウ) 開示の質の向上に向けた取り組み、とし、結局、有a) 価証券報告書について、各財務局と連携し、法令改正事項その他重要度の高い開示事項に着目した「有価証券報告書レビュー」を実施することを通じて、開示企業等に対し、適切な情報開示を促していく、と現状維持なのだ。何ら、改善方法は見当たらないのだ(カ)ディスクロージャー違反に対する機動的な開示検査の実施では、東芝を意識して加えているようだが、「開示検査」に具体性がなく内容が曖昧で透明性を加えない限り、今や、金融庁の裁量行政は頂点に達している。


参考:「なぜ監査法人ばかり叩かれる」by早稲田大学教授 上村達男氏読売新聞2016年01月20日】・・監査法人の責任は当然、問われるべきだが、日本の会計監査の仕組みそのものが大きな問題を抱えていると、上村達男教授(会社法、金融商品取引法)は指摘している。教授としての視点が傾聴に値する。

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